2002年10月号
リーダーシップ論
リーダーシップ論
ECRの源流を遡る
OCTOBER 2002 58
はじめに
筆者の仕事は外資系消費財メーカ
ーにおける「ECR(エフィシエン
ト・コンシューマー・レスポンス:効
率的な消費者対応)」のコーディネー
ターである。
ECRとは消費財業界 における製造業と流通業のコラボレー ションをベースにSCMとディマン ド・マネジメント(マーケティング) を融合したビジネスモデルだ。
国際的 流通業において現在、ECRは消費 財業界の基本的なビジネスモデルとな っており、「B2B(ビジネス・トゥ・ ビジネス)」の基礎となっている。
ECRはちょうど一〇年前の一九 九二年に米国で生まれた概念である。
振り返ってみると、輸送・物流からロ ジスティクス、そしてSCMと経営概 念が変化していき、これがディマン ド・マネジメントと融合してECRと いう一つの完成されたモデルとして結 実したことになる。
実はこのECRの原点にあるのは日 本企業の得意とするJIT(ジャス ト・イン・タイム)であり、TQM (トータル・クオリティ・マネジメン ト)である。
そもそもSCMは、工場 内での品質管理から始まったTQM のスコープが拡がり、様々な業務分野 への応用が試みられた結果、商品が流通過程を経て消費者の手元に渡るま での包括的な管理手法へと進化した ものである。
そこからECRも誕生し ている。
つまり、基礎はTQMといえ るわけである。
それが時代や経営のニ ーズと共に進化した結果として、EC RやB2B、e ―ビジネスとなったわ けである。
そこで本連載では、ロジスティクス の役割を筆者の専門であるECRと いうモデルから逆に遡って検証してみ ることで、ロジスティクスが企業経営 の中で果たすべきリーダーシップを紐 解いてみたい。
ポイントは、ロジステ ィクスと関連する仕事の相互関係性 を考えることで、その紐解きを行うこ とである。
企業内における全ての活動 は相互に関わりあっているからである。
なお本稿のロジスティクスの定義と しては、基本的に米ロジスティックス 管理協会(CLM)の「顧客の必要 条件に適合させるべく、原材料、半 製品、完成品ならびにその関連情報 の、産出地点から消費地点までのフ ローと保管を、効率的かつ費用対効 果を最大ならしめるよう計画立案、実 施、統制する過程」という定義を用 いることにする。
ただし、本稿の論点 はロジスティクスとは何かということ ではないので、文脈によっては狭義の 捉え方をしているケースがあるので注 意していただきたい。
経営環境の三つの変化 最初に本連載の序論として「ロジ スティクス」という概念が、なぜ近年 の日本において重要視されるようにな ってきたかについて考えてみたい。
ロ ジスティクスは、ECR(消費財)や QR(アパレル業界のSCM)と違 い、特定の産業に限定されない幅広 い概念である。
そこで経営環境の変化 が企業経営にどういう影響を与えてお ECRの源流を遡る 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー ロジスティクスとは本来、マーケティングを構成する要素である。
マーケティ ングを理解することなしに、ロジスティクスを管理することはできない。
P&G でECRの旗振り役を務めてきた筆者が、実務経験から学んだロジスティクス・ マネジメント論を展開する。
﹇第1回﹈ 新連載 59 OCTOBER 2002 り、それがロジスティクスに対するニ ーズにどう影響しているかという流れ で、全般的な経営環境の変化という 視点からロジスティクスを紐解いてみ たい。
景気低迷が長引く中、経営環境の変 化については様々な議論がなされてい る。
また経済システムの中で企業同士 や企業と消費者が相互に影響し合っ ている関連性を説明するのは容易では ない。
そこで議論をなるべく単純化す るために通常、筆者は次の三点から現 在の経営環境の変化を整理している。
?消費の成熟化 ?情報化 ?グローバル化 これら三つは消費者と企業それぞれ 拡大どのような影響を与え、変化を引 き起こしてきたのだろうか。
?消費の成熟化 「消費の成熟化」の示す意味は、い わゆる大量生産・大量消費時代の画 一化された消費が多様化したというこ とである。
このことは市場構造に大き な変化をもたらした。
戦後のモノ不足 の時代は、市場の主権は生産者サイ ドにあった。
これが近年では消費者に 移りつつある。
大量生産・大量消費時代には少品 種の商品を、市場に広くあまねく供給 できる体制が経営上、重要であった。
ところが、市場が飽和し始めると供給 サイドは市場の主導権を失ってしまう。
筆者の知る限りでは多くの成熟市場 で類似した状況が起きている。
それはこういうことである。
新しい コンセプトをもった商品が登場し、商 品のメリットが理解され(実際にそう であることが認識され)、購入可能な 価格が実現されるようになり、一定の 閾値を超えると、多くの場合にその商 品市場は拡大へと向かう。
市場の立 ち上がりの時期であり、右肩上がりで 商品の普及率が高まっていく。
この段 階では供給者サイドが主導権を持っ ている。
高度経済成長期には、多く の市場でこのような現象がみられた。
しかし、ある段階で市場は飽和状 態を迎える。
その商品を購入する可能 性のある消費者の多くが手にした状態 である。
こうなると市場規模の拡大は 限界を迎える。
一家に一台あれば十 分という商品であれば、核家族化など で世帯数が増えたり、価格が下がって 一家に一台から、一人一台になった りということでしか、さらなる規模の 拡大は実現しない。
従って生産者サ イドでは既に消費者が所有している商 品の買い替えを促進するために、改良 型商品を投入するようになる。
企業間競争の面から見ると、市場 成長期の焦点は新規顧客の獲得であ る。
これに対して飽和段階を超えると、 買い替えなどの機会に他社の顧客を 奪うことに焦点が移る。
そこで差別化 のための改良品投入が促進される。
そ の結果、一つのカテゴリーの商品アイ テム数は増え、同時に各アイテムのラ イフサイクルは短くなっていく。
さら に多くの場合、他分野からの代替品 的な参入が発生し、競争は激化して いく。
参考として例をあげるならカラーテ レビである。
日本のカラーテレビ市場 は、登場から一〇年ほどでまたたく間 に飽和状態に達した。
この状況を打 破するために、メーカーは技術革新を を導入し、いわゆる消費者ニーズに基 づく差別化が行われた。
ブラウン管の 品質、音響効果、リモコン。
最近で は液晶やプラズマ・ディスプレイとい う技術革新の投入などである。
これに 拡張機能としてビデオやサラウンドス ピーカーなどが加わり、これらの周辺 機器との組み合わせのための本体の改 良が行われた。
また、製造技術革新 による低価格化でさらに購入者の増 加も目指される。
一方で単身者世帯数の増加、テレ ビゲームをはじめとする新しい関連商 品などの登場で一家庭に二台などと いったニーズの変化も起こる。
また、 機能拡張競争に翻弄されることに嫌 気の差した人々に対して単純な機能 の商品を提供する逆張りも起こってく る。
また最近ではパソコンがテレビ代 わりになり始めている。
このように、市場が飽和すると生産 者サイドでは、消費者ニーズの細分化 を狙い、差別化を進める。
それが消費 者ニーズの多様化を招き、そのニーズ を満たすため、改めて生産者サイドは 対応に追われるようになる。
その結果、 市場の主権は生産者サイドから消費 者に移っていく。
こうした消費の成熟化は当然、流 通構造にも影響を与える。
日本の流 通構造はもともと毛細血管に喩えら ECRのフレームワーク タイムリー、正確、ペーパレスな情報流 消費に応じたスムースで継続的な商品開発 需要動向管理 統合技術 供給管理 実現可能技術 消 費 者 供 給 者 OCTOBER 2002 60 れるほど小規模店舗が多い。
近年、従 来型の小規模店舗は減ってきている が、代わってコンビニエンスストアな どが台頭しているため、この傾向は余 り変わっていない。
加えてメーカーから小売店までの流 通経路が業種ごとに確立されていたの も日本の流通構造の特徴だ。
これに ついては中間流通段階に今もその影 響が残ってはいるが、六〇年代から始 まった「流通革命」の中で徐々に変 化を遂げており、複雑化し始めている。
また日本の「流通革命」では、小 売業のチェーン・オペレーションによ るバイイング・パワー(チェーン全体 での購入量に基づく価格交渉力)と 並んで、「ワン・ストップ・ショッピ ング」という考え方が強く影響してい る。
一回の買物で必要な買物を全て 済ませられるようにするために、日本 の量販店は総合化へと向かうようにな った。
これは単に総合スーパーという業態 に限った話ではなく、小売業全般にお いて取扱商品カテゴリーが増加に向か っている。
薬店が日用雑貨を扱い、ま た化粧品を扱い、最近では菓子・加 工食品まで扱うという具合である。
そ の一方で総合化の反省から逆に専門 特化し、大型化する形態も登場して いる。
こうして日本では従来からの小規模 店が残ったまま、新しいタイプの店が 増え、延べでは店舗数も増えている。
それだけ流通構造が複雑化しているの である。
消費の成熟化の結果として、商品 数は増加し、商品ライフサイクルは短 縮化し、市場構造・流通チャネルも 複雑化してしまった。
また、消費者の 商品選択に関する価値観自身も多様 な選択肢によって幅広くなってしまっ たのである。
このことはロジスティク ス活動の高度化のニーズの要因である。
?情報化 IT化ではなくあえて「情報化」と した。
米ワシントンDCのスミソニア ン博物館では情報化時代(Informa -tion Age )の始まりをモールス信号 や、電話が発明された時期としている。
同様に筆者の解釈する情報化とは、情 報を電気信号に変換することで、従 来の制約であった距離や情報処理能 力に対する革新を意味している。
これは特にロジスティクスにとって 大きな意味を持っている。
それまでの 情報伝達は紙などに記録したものを、 人あるいは輸送機関などの輸送技術 に依存して運んでいた。
つまり情報伝 達と輸送は対になっていた。
それ以外 の方法では確実性・信頼性が低く、多 くの情報を伝えられなかった。
このこ とについては別の機会に議論するが、 ここでは情報化がまず消費にどういう 影響を与えているか振り返ってみたい。
大きな出来事は、テレビの普及であ る。
いささか違和感があるかもしれな いが、先ほどの情報化の定義を考えると、テレビはまさしくその産物である。
実際、テレビは消費の成熟化に大き な影響を与えている。
同様にマス・メ ディアの普及と大量生産・大量消費 はセットになっている。
テレビというメディアを通じて単に 商品広告だけでなく、ドラマなどで先 端的と思える生活スタイルが全国に放 映され、ニュースとして流行が取り上 げられたりすることで、商品普及にか かる時間的なギャップは劇的に短くな った。
これが大量生産・大量消費の 構造をより強化したのである。
しかし、今やメディアそのものも多 様化している。
メディア自身も一つの 商品である。
雑誌は読者層を設定し て細分化していく。
テレビも地上波か らケーブル(日本ではあまり普及しな かったが)、衛星放送となり、その中 で細分化されたニーズ、スポーツ専門、 映画専門などに応えられるようになっ ている。
ここにインターネットも加え られる。
これらのメディアが消費の成 熟化を促進する要因となっている。
また情報化はビジネスのスピードと 範囲に変化をもたらした。
その結果と して生産性そして技術革新のスピード に大きな影響を与えている。
それまで 「距離」はビジネス上の一つのボトル ネックであった。
確実なコミュニケー ションが密にとれるかどうかが、ビジ ネス上の事実上の「距離」と考えるこ とが出来る。
電話、FAX、電子メ ールといった通信機器が、その距離を 劇的に近づけた。
ビジネスのスピードが速くなれば、 生産性の水準が高くなる。
さらにアイ ディアが、より頻繁に交換されるよう になることで技術革新の速度も加速 する。
これが高度化してナレッジ・マ ネジメントが可能になった。
新しいアイディアが生み出されるペースはどん どん速くなり、それが広い範囲で展開 されるようになっていく。
マス・メディアの普及によって消費 者の新しい商品への反応は速くなり、 通信機器の発達によって市場の範囲 は拡がっていった。
そして、新しい環 境への対応のため企業活動を支える 仕組みが生まれた。
それがさらに今日 ではコンピューターの活用によって、 61 OCTOBER 2002 細分化されたニーズに迅速に対応でき るような仕組みへと発展しようとして いる。
?グローバル化 グローバル化についても二つの視点 から話を進めたい。
消費者のグローバ ル化と、企業経営のグローバル化であ る。
ただし、その前にグローバル化の 解釈について、誤解のないように少し 説明を加えておく必要があるだろう。
一つはグローバル化がインターナシ ョナルとは異なる概念であることを指 摘しておきたい。
グローバル化が地球 全体をシームレスに捉える概念である のに対して、インターナショナルは国 という単位が基本になる。
グローバル 化は地球を一つの市場と考え、そこか ら文化圏や生活水準という視点でマ ーケットを括る。
これに対してインタ ーナショナルは国という単位でマーケ ットを括るという違いがある。
またグローバル化というと「単一の ものが普遍的になること」のような解 釈もあるが、筆者自身は支持していな い。
筆者が支持するのは「多様性のグ ローバル化」である。
単一のものが普 遍的になるのではなく、様々な文化が 国境を越えて広がるというグローバル 化だ。
個人の多様化が進むことで、多 様な国や地域の商品が多様な場所で 消費されるようになることである。
実際、現在の日本、とくに東京で は、世界のあらゆる地域の「食」を楽 しむことができるようになっている。
海外駐在や海外旅行が日本人一般に 拡がり、個人が様々な生活文化を経 験するようになったこと。
逆に様々な 地域の人々が日本で暮らすようになっ たことで、多様なニーズが発生したこ とが背景となっている。
ちなみに日本からの海外渡航者数が 大きく伸び始めたのは、八〇年代のこ とである。
国際電話の利用も八〇年代 後半から急増している。
九〇年には海 外渡航者が延べ総数で一〇〇〇万人 を超えた。
そして外国からの不法就労 者も九〇年代前半に増加している。
こ れらは様々な形で人々の生活に影響し、 消費の多様化を促している。
もう一方の企業のグローバル化につ いて、多くの企業は国内市場が飽和 すると、売上拡大のために海外進出 を始めるようになる。
国際化である。
ここから経営のグローバル化を進める 企業が出てくる。
その起点となったのは東西冷戦の終 結である。
これによって政変や戦争な どのリスクが低減したことで生産拠点 の海外シフトが進んだ。
EUやNAF TAのような域内の経済活動をシー ムレス化する動きも拡がった。
同時に 情報化によって範囲の拡大が可能に なったことで、国際調達やグローバル ソーシングという概念が登場してきた。
こうした経営概念の変化に対応し て、原材料の調達に関して今日では 既存取引の集約が主流な施策となっ ている。
商品政策に関しては、一つの ブランドを世界中で展開しようとする 動きがある一方、逆に地域色を生か した商品展開などの希少性を付加価 値とする試みが行われている。
ロジスティクス活動の役割 振り返ると、経営環境の変化に企 業が対応することで、市場・消費環 境に影響を与え、それが再び企業活 動に反映されるという相互作用がこれ まで繰り返されている。
多様性と変化 のスピードは増し続け、連続的にビジ ネスの規模・範囲の拡大が起こり続 けている。
しかも今日、それぞれがま すます深みを増している。
その結果、 ロジスティクス能力が企業経営上の生 命線と言える状況が生み出されている。
ロジスティクス活動は生産サイドと 消費サイドを結ぶ掛け橋である。
当然、 両サイドが変化すれば、ロジスティク スにはそれに伴った変化が求められる。
今日の消費サイドは、多様化を増し たが故に需給マッチングを難しくして いる。
さらに変化の速さは素早い対応 力と身軽さを企業に求めている。
同時 に、在庫を限りなく減らすことが経営 の必須課題となっている。
そのような環境の下でのロジスティ クス活動は、需要・供給両サイドの 間に立って、両サイドの変化によって 生じる「歪み」の調整役としての負荷 を強いられることになる。
従ってロジ スティクスが期待された役割を果たす ためには、企業が需要サイドに対して 働きかけるマーケティング活動を理解 することが前提になる。
つまりマーケ ティング活動に即したロジスティクス 活動を考える必要がある。
次号でそれ を解説したい。
このことは敢えて言う ならマーケティング活動のサイクルは ロジスティクスによって完遂されると いうことである。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワーキ ング・マネージャーとして活 動するかたわら、学習院マネ ジメントスクールでDSCM (ディマンド&サプライ・チェ ーン・マネジメント)コース のオーガナイザーを務めてい る。
89年神戸大学経済学部 卒業。
同年、P&Gファー・ イースト・インク入社。
95年、 広報マネージャー。
98年か ら現職。
日本ダイレクトマー ケティング学会理事。
PROFILE
ECRとは消費財業界 における製造業と流通業のコラボレー ションをベースにSCMとディマン ド・マネジメント(マーケティング) を融合したビジネスモデルだ。
国際的 流通業において現在、ECRは消費 財業界の基本的なビジネスモデルとな っており、「B2B(ビジネス・トゥ・ ビジネス)」の基礎となっている。
ECRはちょうど一〇年前の一九 九二年に米国で生まれた概念である。
振り返ってみると、輸送・物流からロ ジスティクス、そしてSCMと経営概 念が変化していき、これがディマン ド・マネジメントと融合してECRと いう一つの完成されたモデルとして結 実したことになる。
実はこのECRの原点にあるのは日 本企業の得意とするJIT(ジャス ト・イン・タイム)であり、TQM (トータル・クオリティ・マネジメン ト)である。
そもそもSCMは、工場 内での品質管理から始まったTQM のスコープが拡がり、様々な業務分野 への応用が試みられた結果、商品が流通過程を経て消費者の手元に渡るま での包括的な管理手法へと進化した ものである。
そこからECRも誕生し ている。
つまり、基礎はTQMといえ るわけである。
それが時代や経営のニ ーズと共に進化した結果として、EC RやB2B、e ―ビジネスとなったわ けである。
そこで本連載では、ロジスティクス の役割を筆者の専門であるECRと いうモデルから逆に遡って検証してみ ることで、ロジスティクスが企業経営 の中で果たすべきリーダーシップを紐 解いてみたい。
ポイントは、ロジステ ィクスと関連する仕事の相互関係性 を考えることで、その紐解きを行うこ とである。
企業内における全ての活動 は相互に関わりあっているからである。
なお本稿のロジスティクスの定義と しては、基本的に米ロジスティックス 管理協会(CLM)の「顧客の必要 条件に適合させるべく、原材料、半 製品、完成品ならびにその関連情報 の、産出地点から消費地点までのフ ローと保管を、効率的かつ費用対効 果を最大ならしめるよう計画立案、実 施、統制する過程」という定義を用 いることにする。
ただし、本稿の論点 はロジスティクスとは何かということ ではないので、文脈によっては狭義の 捉え方をしているケースがあるので注 意していただきたい。
経営環境の三つの変化 最初に本連載の序論として「ロジ スティクス」という概念が、なぜ近年 の日本において重要視されるようにな ってきたかについて考えてみたい。
ロ ジスティクスは、ECR(消費財)や QR(アパレル業界のSCM)と違 い、特定の産業に限定されない幅広 い概念である。
そこで経営環境の変化 が企業経営にどういう影響を与えてお ECRの源流を遡る 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー ロジスティクスとは本来、マーケティングを構成する要素である。
マーケティ ングを理解することなしに、ロジスティクスを管理することはできない。
P&G でECRの旗振り役を務めてきた筆者が、実務経験から学んだロジスティクス・ マネジメント論を展開する。
﹇第1回﹈ 新連載 59 OCTOBER 2002 り、それがロジスティクスに対するニ ーズにどう影響しているかという流れ で、全般的な経営環境の変化という 視点からロジスティクスを紐解いてみ たい。
景気低迷が長引く中、経営環境の変 化については様々な議論がなされてい る。
また経済システムの中で企業同士 や企業と消費者が相互に影響し合っ ている関連性を説明するのは容易では ない。
そこで議論をなるべく単純化す るために通常、筆者は次の三点から現 在の経営環境の変化を整理している。
?消費の成熟化 ?情報化 ?グローバル化 これら三つは消費者と企業それぞれ 拡大どのような影響を与え、変化を引 き起こしてきたのだろうか。
?消費の成熟化 「消費の成熟化」の示す意味は、い わゆる大量生産・大量消費時代の画 一化された消費が多様化したというこ とである。
このことは市場構造に大き な変化をもたらした。
戦後のモノ不足 の時代は、市場の主権は生産者サイ ドにあった。
これが近年では消費者に 移りつつある。
大量生産・大量消費時代には少品 種の商品を、市場に広くあまねく供給 できる体制が経営上、重要であった。
ところが、市場が飽和し始めると供給 サイドは市場の主導権を失ってしまう。
筆者の知る限りでは多くの成熟市場 で類似した状況が起きている。
それはこういうことである。
新しい コンセプトをもった商品が登場し、商 品のメリットが理解され(実際にそう であることが認識され)、購入可能な 価格が実現されるようになり、一定の 閾値を超えると、多くの場合にその商 品市場は拡大へと向かう。
市場の立 ち上がりの時期であり、右肩上がりで 商品の普及率が高まっていく。
この段 階では供給者サイドが主導権を持っ ている。
高度経済成長期には、多く の市場でこのような現象がみられた。
しかし、ある段階で市場は飽和状 態を迎える。
その商品を購入する可能 性のある消費者の多くが手にした状態 である。
こうなると市場規模の拡大は 限界を迎える。
一家に一台あれば十 分という商品であれば、核家族化など で世帯数が増えたり、価格が下がって 一家に一台から、一人一台になった りということでしか、さらなる規模の 拡大は実現しない。
従って生産者サ イドでは既に消費者が所有している商 品の買い替えを促進するために、改良 型商品を投入するようになる。
企業間競争の面から見ると、市場 成長期の焦点は新規顧客の獲得であ る。
これに対して飽和段階を超えると、 買い替えなどの機会に他社の顧客を 奪うことに焦点が移る。
そこで差別化 のための改良品投入が促進される。
そ の結果、一つのカテゴリーの商品アイ テム数は増え、同時に各アイテムのラ イフサイクルは短くなっていく。
さら に多くの場合、他分野からの代替品 的な参入が発生し、競争は激化して いく。
参考として例をあげるならカラーテ レビである。
日本のカラーテレビ市場 は、登場から一〇年ほどでまたたく間 に飽和状態に達した。
この状況を打 破するために、メーカーは技術革新を を導入し、いわゆる消費者ニーズに基 づく差別化が行われた。
ブラウン管の 品質、音響効果、リモコン。
最近で は液晶やプラズマ・ディスプレイとい う技術革新の投入などである。
これに 拡張機能としてビデオやサラウンドス ピーカーなどが加わり、これらの周辺 機器との組み合わせのための本体の改 良が行われた。
また、製造技術革新 による低価格化でさらに購入者の増 加も目指される。
一方で単身者世帯数の増加、テレ ビゲームをはじめとする新しい関連商 品などの登場で一家庭に二台などと いったニーズの変化も起こる。
また、 機能拡張競争に翻弄されることに嫌 気の差した人々に対して単純な機能 の商品を提供する逆張りも起こってく る。
また最近ではパソコンがテレビ代 わりになり始めている。
このように、市場が飽和すると生産 者サイドでは、消費者ニーズの細分化 を狙い、差別化を進める。
それが消費 者ニーズの多様化を招き、そのニーズ を満たすため、改めて生産者サイドは 対応に追われるようになる。
その結果、 市場の主権は生産者サイドから消費 者に移っていく。
こうした消費の成熟化は当然、流 通構造にも影響を与える。
日本の流 通構造はもともと毛細血管に喩えら ECRのフレームワーク タイムリー、正確、ペーパレスな情報流 消費に応じたスムースで継続的な商品開発 需要動向管理 統合技術 供給管理 実現可能技術 消 費 者 供 給 者 OCTOBER 2002 60 れるほど小規模店舗が多い。
近年、従 来型の小規模店舗は減ってきている が、代わってコンビニエンスストアな どが台頭しているため、この傾向は余 り変わっていない。
加えてメーカーから小売店までの流 通経路が業種ごとに確立されていたの も日本の流通構造の特徴だ。
これに ついては中間流通段階に今もその影 響が残ってはいるが、六〇年代から始 まった「流通革命」の中で徐々に変 化を遂げており、複雑化し始めている。
また日本の「流通革命」では、小 売業のチェーン・オペレーションによ るバイイング・パワー(チェーン全体 での購入量に基づく価格交渉力)と 並んで、「ワン・ストップ・ショッピ ング」という考え方が強く影響してい る。
一回の買物で必要な買物を全て 済ませられるようにするために、日本 の量販店は総合化へと向かうようにな った。
これは単に総合スーパーという業態 に限った話ではなく、小売業全般にお いて取扱商品カテゴリーが増加に向か っている。
薬店が日用雑貨を扱い、ま た化粧品を扱い、最近では菓子・加 工食品まで扱うという具合である。
そ の一方で総合化の反省から逆に専門 特化し、大型化する形態も登場して いる。
こうして日本では従来からの小規模 店が残ったまま、新しいタイプの店が 増え、延べでは店舗数も増えている。
それだけ流通構造が複雑化しているの である。
消費の成熟化の結果として、商品 数は増加し、商品ライフサイクルは短 縮化し、市場構造・流通チャネルも 複雑化してしまった。
また、消費者の 商品選択に関する価値観自身も多様 な選択肢によって幅広くなってしまっ たのである。
このことはロジスティク ス活動の高度化のニーズの要因である。
?情報化 IT化ではなくあえて「情報化」と した。
米ワシントンDCのスミソニア ン博物館では情報化時代(Informa -tion Age )の始まりをモールス信号 や、電話が発明された時期としている。
同様に筆者の解釈する情報化とは、情 報を電気信号に変換することで、従 来の制約であった距離や情報処理能 力に対する革新を意味している。
これは特にロジスティクスにとって 大きな意味を持っている。
それまでの 情報伝達は紙などに記録したものを、 人あるいは輸送機関などの輸送技術 に依存して運んでいた。
つまり情報伝 達と輸送は対になっていた。
それ以外 の方法では確実性・信頼性が低く、多 くの情報を伝えられなかった。
このこ とについては別の機会に議論するが、 ここでは情報化がまず消費にどういう 影響を与えているか振り返ってみたい。
大きな出来事は、テレビの普及であ る。
いささか違和感があるかもしれな いが、先ほどの情報化の定義を考えると、テレビはまさしくその産物である。
実際、テレビは消費の成熟化に大き な影響を与えている。
同様にマス・メ ディアの普及と大量生産・大量消費 はセットになっている。
テレビというメディアを通じて単に 商品広告だけでなく、ドラマなどで先 端的と思える生活スタイルが全国に放 映され、ニュースとして流行が取り上 げられたりすることで、商品普及にか かる時間的なギャップは劇的に短くな った。
これが大量生産・大量消費の 構造をより強化したのである。
しかし、今やメディアそのものも多 様化している。
メディア自身も一つの 商品である。
雑誌は読者層を設定し て細分化していく。
テレビも地上波か らケーブル(日本ではあまり普及しな かったが)、衛星放送となり、その中 で細分化されたニーズ、スポーツ専門、 映画専門などに応えられるようになっ ている。
ここにインターネットも加え られる。
これらのメディアが消費の成 熟化を促進する要因となっている。
また情報化はビジネスのスピードと 範囲に変化をもたらした。
その結果と して生産性そして技術革新のスピード に大きな影響を与えている。
それまで 「距離」はビジネス上の一つのボトル ネックであった。
確実なコミュニケー ションが密にとれるかどうかが、ビジ ネス上の事実上の「距離」と考えるこ とが出来る。
電話、FAX、電子メ ールといった通信機器が、その距離を 劇的に近づけた。
ビジネスのスピードが速くなれば、 生産性の水準が高くなる。
さらにアイ ディアが、より頻繁に交換されるよう になることで技術革新の速度も加速 する。
これが高度化してナレッジ・マ ネジメントが可能になった。
新しいアイディアが生み出されるペースはどん どん速くなり、それが広い範囲で展開 されるようになっていく。
マス・メディアの普及によって消費 者の新しい商品への反応は速くなり、 通信機器の発達によって市場の範囲 は拡がっていった。
そして、新しい環 境への対応のため企業活動を支える 仕組みが生まれた。
それがさらに今日 ではコンピューターの活用によって、 61 OCTOBER 2002 細分化されたニーズに迅速に対応でき るような仕組みへと発展しようとして いる。
?グローバル化 グローバル化についても二つの視点 から話を進めたい。
消費者のグローバ ル化と、企業経営のグローバル化であ る。
ただし、その前にグローバル化の 解釈について、誤解のないように少し 説明を加えておく必要があるだろう。
一つはグローバル化がインターナシ ョナルとは異なる概念であることを指 摘しておきたい。
グローバル化が地球 全体をシームレスに捉える概念である のに対して、インターナショナルは国 という単位が基本になる。
グローバル 化は地球を一つの市場と考え、そこか ら文化圏や生活水準という視点でマ ーケットを括る。
これに対してインタ ーナショナルは国という単位でマーケ ットを括るという違いがある。
またグローバル化というと「単一の ものが普遍的になること」のような解 釈もあるが、筆者自身は支持していな い。
筆者が支持するのは「多様性のグ ローバル化」である。
単一のものが普 遍的になるのではなく、様々な文化が 国境を越えて広がるというグローバル 化だ。
個人の多様化が進むことで、多 様な国や地域の商品が多様な場所で 消費されるようになることである。
実際、現在の日本、とくに東京で は、世界のあらゆる地域の「食」を楽 しむことができるようになっている。
海外駐在や海外旅行が日本人一般に 拡がり、個人が様々な生活文化を経 験するようになったこと。
逆に様々な 地域の人々が日本で暮らすようになっ たことで、多様なニーズが発生したこ とが背景となっている。
ちなみに日本からの海外渡航者数が 大きく伸び始めたのは、八〇年代のこ とである。
国際電話の利用も八〇年代 後半から急増している。
九〇年には海 外渡航者が延べ総数で一〇〇〇万人 を超えた。
そして外国からの不法就労 者も九〇年代前半に増加している。
こ れらは様々な形で人々の生活に影響し、 消費の多様化を促している。
もう一方の企業のグローバル化につ いて、多くの企業は国内市場が飽和 すると、売上拡大のために海外進出 を始めるようになる。
国際化である。
ここから経営のグローバル化を進める 企業が出てくる。
その起点となったのは東西冷戦の終 結である。
これによって政変や戦争な どのリスクが低減したことで生産拠点 の海外シフトが進んだ。
EUやNAF TAのような域内の経済活動をシー ムレス化する動きも拡がった。
同時に 情報化によって範囲の拡大が可能に なったことで、国際調達やグローバル ソーシングという概念が登場してきた。
こうした経営概念の変化に対応し て、原材料の調達に関して今日では 既存取引の集約が主流な施策となっ ている。
商品政策に関しては、一つの ブランドを世界中で展開しようとする 動きがある一方、逆に地域色を生か した商品展開などの希少性を付加価 値とする試みが行われている。
ロジスティクス活動の役割 振り返ると、経営環境の変化に企 業が対応することで、市場・消費環 境に影響を与え、それが再び企業活 動に反映されるという相互作用がこれ まで繰り返されている。
多様性と変化 のスピードは増し続け、連続的にビジ ネスの規模・範囲の拡大が起こり続 けている。
しかも今日、それぞれがま すます深みを増している。
その結果、 ロジスティクス能力が企業経営上の生 命線と言える状況が生み出されている。
ロジスティクス活動は生産サイドと 消費サイドを結ぶ掛け橋である。
当然、 両サイドが変化すれば、ロジスティク スにはそれに伴った変化が求められる。
今日の消費サイドは、多様化を増し たが故に需給マッチングを難しくして いる。
さらに変化の速さは素早い対応 力と身軽さを企業に求めている。
同時 に、在庫を限りなく減らすことが経営 の必須課題となっている。
そのような環境の下でのロジスティ クス活動は、需要・供給両サイドの 間に立って、両サイドの変化によって 生じる「歪み」の調整役としての負荷 を強いられることになる。
従ってロジ スティクスが期待された役割を果たす ためには、企業が需要サイドに対して 働きかけるマーケティング活動を理解 することが前提になる。
つまりマーケ ティング活動に即したロジスティクス 活動を考える必要がある。
次号でそれ を解説したい。
このことは敢えて言う ならマーケティング活動のサイクルは ロジスティクスによって完遂されると いうことである。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワーキ ング・マネージャーとして活 動するかたわら、学習院マネ ジメントスクールでDSCM (ディマンド&サプライ・チェ ーン・マネジメント)コース のオーガナイザーを務めてい る。
89年神戸大学経済学部 卒業。
同年、P&Gファー・ イースト・インク入社。
95年、 広報マネージャー。
98年か ら現職。
日本ダイレクトマー ケティング学会理事。
PROFILE
