ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年10号
特集
郵政 VS 宅配業者 公社化後のシナリオ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2002 14 公社化後のシナリオ 先に成立した郵政公社法には、公社による民間企業の買収を 認める一文が盛り込まれている。
民営化で先行した欧州では、 郵便局による民間物流企業の買収が既に常套手段となっている。
しかし、民営化しないまま公社が買収に動けば世論の猛反発を 避けられない。
結局、郵政族の勝利は郵政事業にとっても最悪 の結果を招く。
ジャパンポスト・ワールドネット 郵政公社が民間の大手宅配業者を買収する――そ んなシナリオがにわかに現実味を帯びてきた。
七月に 成立した公社法には、公社による出資に関して「当該 業務に密接に関連する政令で定める事業を行う者に 出資することができる」という新たな条項が定められ ている。
これによって公社は総務大臣の認可さえ受け れば、自らは民営化しなくても民間の物流業者を買収 できることになった。
目を海外に転じると、ドイツの郵便局・ドイツポス ト・ワールドネットは九五年の株式会社化によって手 にした資金を背景に、DHLやスイスのダンザス、オ ランダのネドロイド、スウェーデンのASG、米国の エア・エクスプレス・インターナショナルといった大 手物流企業を次々に買収している。
同様にオランダ郵便局はTNTの買収を契機に、フ ランスのジェット・サービス、イタリアのテクノロジ スティカなどを傘下に収め、ドイツポストに対抗して グローバルネットワークの拡充に動いている。
少なく とも欧州では民営化した郵便局による物流企業の買 収が常套手段の一つとなっているのだ。
このドイツポストとTNTポストグループの二社に 米国のUPS、フェデックスを加えた四社は現在、国 際的な物流業界再編の軸となるキープレーヤーとして 位置付けられている。
業界再編の波は当然、日本にも 及んでいる。
従来から日本市場に参入している米系二 社に加え、この秋にはドイツポストが傘下のDHLジ ャパンを通じて、郵政の国際郵便よりも割安な企業向 け国際メール便を発売する計画だという。
ドイツポストをお手本とする日本の郵政公社が、出 資条項を活かして民間の宅配業者や物流業者を買収 しても何の不思議もない。
しかし、その最有力候補の 一つと目される日本通運では「確かに条項を文字通り とればそうなるが、実際には難しい。
日本郵便逓送な ど、もともと郵政と関係の深い会社を正式に子会社 化する程度にとどまるのではないか」(勝島滋ペリカ ン・アロー部小口事業戦略室室長)と見ている。
この出資条項は総務省が隠し球として修正案に滑 り込ませたもので、当初の原案には盛り込まれていな かった。
しかし、それを提出した当の総務省自身、同 条項に強い思い入れがあったというわけではなさそう だ。
自民党郵政族の代表として先頭に立って民営化 反対の論陣を張ってきた荒井広幸総務部会長でさえ、 出資条項の必要性については否定的だ。
「私はそんなもの必要ないと言っていた。
それが意 外にもスンナリと通ってしまった。
小泉総理は出資条 項の意味の大きさを全く分かっていない。
今、民間の 運送会社は七割が赤字と聞いている。
老舗の大手で も郵政の助けを欲しがっている。
そうした民間企業を 郵政が買収して本気で民業を圧迫すれば、いくらヤマ トでもひとたまりもない。
郵政と民間企業では勝負に ならない。
民業を圧迫するのは、いとも簡単だ。
しか し、そんなことを郵政にやらせようとは考えていない」 と荒井部会長は説明する。
民営化先送りの代償 いくら法律で認められているといっても、来年四月 に誕生する郵政公社が民営化しないまま買収によって 肥大化し、露骨な民業圧迫に出ることは今の情勢で は許されそうにない。
それを公社が断行すれば、自ら 民営化論議を再燃させるキッカケを作ることにもなり かねない。
もともと郵政族が民営化反対を強く主張するのは、 第2部 15 OCTOBER 2002 る。
来年四月スタートする郵便公社も同じ制約を、その まま引きずることになる。
国家公務員が従事する公社 としての縛り受けたままでは結局、郵便事業を立て直 すことは難しい。
今回の郵政族の勝利は、民間の宅配 業者だけでなく、郵便事業そのものにとっても最悪の シナリオとなる可能性は否定できない。
郵政にとっても最悪の選択 本誌連載陣の北見聡野村証券金融研究所アナリス トは「純粋に郵便事業のメリットだけを考えれば、信 書の開放を先送りしたまま民営化を早期に実現するの が一番だ。
逆に職員が公務員に留まる中で、利益の 出る信書が民間に開放されることになれば、郵便事業 の業績悪化は避けられない」と分析している。
郵政公社は年商二兆二〇〇〇億円、国内集配拠点 約五〇〇〇カ所という世界最大規模の物流サービス プロバイダーだ。
それがこのまま沈んでいけば、国民にとっても大きな損失になる。
逆に民営化した郵政公 社がコスト削減と民間企業の買収によってビジネスモ デルを改善し、国内事業の基盤を確固としたものにす れば、国際的な物流業界再編のもう一つの軸として、 ドイツポストやUPSと五分に競争することも夢では ない。
ヤマト運輸や佐川急便など、宅配便市場の勝ち組 とされる日本の物流業者は、もともと企業向けのロジ スティクスサービスでは分が悪い。
日本通運をはじめ とする路線中心の特積業者は本業の建て直しに手間 取り、精彩を欠いている。
そして最大手の郵政公社は 政治に振り回され、身動きがとれずにいる。
近い将来、 日本のロジスティクス市場は欧米の列強に席巻される ことになるのかも知れない。
特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 ?郵政四事業〞とも揶揄される集票マシンを維持し たいからであって、郵便事業の強化が念頭にあるわけ ではない。
しかし、競争分野に本格的に駒を進めない 限り、郵便事業は足元を民間企業に浸食され、業績 がじり貧になることも目に見えている。
郵政事業庁の手嶋純一郵政事業庁郵務部管理課管 理係長は「そもそも今の郵便事業に民間企業を買収 する資金などない。
今回の郵政公社化を巡る議論では、 郵便事業が駆け引きの道具にされてしまっている。
内 部の人間にとっても分からないことだらけだ。
従来か ら課題としているロジスティクスサービスや民間企業 との提携についても、省令が固まっていないので未だ に何ができるのか全く見えない状態だ」と不安を隠さ ない。
もともと日本の郵便は国民生活に必要な通信手段 として一八七一年(明治四年)に誕生した。
しかしそ の後、電話やファクス、インターネットといった新し い通信機器が国民生活に広く普及したことで、当初 の役割の重要性は低下してきている。
今では通常郵便 の八割、小包の六割を企業ユーザーが占めるに至って いる。
同時に民間物流業者が宅配便、メール便と郵便市 場への参入を進め、競争に直面したことで、それまで のように郵便事業の業績が悪化しても値上げはできな い状況に追い込まれている。
事業立て直しのためには、 企業向けサービスの改善が必須だ。
実際、赤字解消 を目的に昨年、郵政事業庁が策定した「郵政事業新 生ビジョン」にも、民間宅配業者同様のセールスドラ イバー制の導入や法人営業の強化が謳われている。
し かし、大口の企業荷主に対して相対料金や、踏み込 んだロジスティクスサービスを提示することは、ユニ バーサルサービスを前提とする郵便法で禁じられてい 郵政民営化へのステップ 2001年 12月 郵政公社化研究会中間報告 2002年 4月 日本郵政公社法案国会提出 2002年 7月 郵政関連法案国会可決 2002年 9月 首相の郵政事業民営化懇談会報告 2003年 4月 郵政公社誕生 株式会社化(政府保有) 株式公開(一部政府保有) 100 %政府保有分放出

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