2002年11月号
リーダーシップ論
リーダーシップ論
マーケティングとSCM
NOVEMBER 2002 50
SCMはマーケティングだ
まず、マーケティングとは何か、と
いうことについて確認しておきたい。
全米マーケティング協会(AMA)の 定義では「マーケティングとは、個人 と組織の目標を達成する交換を創造 するため、アイデア、財・サービスの 形成概念(Conception)、 価格、プロモーション、流通を計画・ 実行する過程である(一九八五年制 定)」とされる。
この定義で語られるように、マーケ ティングとは価値の創造から提供まで の経営的なトータルのプロセスを示し ている。
マーケティングというと一般 には製品開発のための市場調査や、消 費者に向けたコミュニケーション活動 に代表されるが、これらはマーケティ ング活動の一領域に過ぎないのである。
またフィリップ・コトラーの著書で マーケティングのバイブルとも言える 「マーケティング・マネジメント(一 九九六年)」では、もう少しシンプル に次のように定義している。
「マーケ ティングとは、価値を創造し、提供し、 他の人々と交換することを通じて、個 人やグループが必要とするのを獲得す る社会的・経営的過程である」 ただし、社会学の中でも特に経営 学のように実務を扱う分野では、現実に起こっている事象を分析して、共通 する要素を見出し、一般化し、体系 化しようとする。
そのため学問上の定 義としてはいくら正しくても、実際の 経営活動の変化の中ではズレを起こ すことがある。
それまでの定義が間違 っていたのではなく、その概念が進化 することで部分的にしかカバーしなく なるのである。
そのため全米マーケティング協会も、 マーケティングの定義付けについては 過去に改訂を行っている。
上で紹介 した以前の定義では、「マーケティン グは、財サービスの流れを生産者から 最終ユーザーに方向付ける全ビジネス 活動である」とされている。
この定義 も、一面では今日でも有効だろう。
前 号で需要サイドに働きかける活動とし てマーケティングに触れたが、これは この定義に近いものである。
筆者自身はこの定義とは少しだけ 視点を変えて、業務領域の視点から マーケティング活動は概念的に次の3 つの領域から成り立っていると考えて いる。
先のマーケティングの定義も含 め、いずれも「価値」という言葉が含 まれている。
これは具体的には商品や サービスなどであり、顧客が価値を見 出す対象である。
1:顧客が求めている価値を生み出す ための活動 2:顧客に価値を理解させ、その利 用を促進するための活動3:価値を顧客の手に渡るようにする ための活動 これら三つの活動の基盤には、顧客 理解が必須である。
最初の価値を生 み出す活動は、いわゆる商品開発やサ ービスの開発である。
二番目は、いわ ゆるマーケティング・コミュニケーシ ョンで宣伝・PRやプロモーションな どである。
この二番目の領域では最終 的に顧客が使えるようにするための、 マーケティングとSCM 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー マーケティング活動はロジスティクスによって完遂される。
同様にSC Mもマーケティング活動を構成する領域の一つだ。
ロジスティクス、そし てECRやSCMのコンセプトはマーケティング活動の進化の歴史の中に 位置付けることができる。
﹇第2回﹈ 51 NOVEEMBER 2002 教育やサービスも含まれる。
三番目は、 主にSCM(サプライチェーン・マネ ジメント)である。
さらに近年の顧客生涯価値の議論 などを踏まえると、この三つに続く、 四番目の領域として顧客がその価値 を十分に享受し、ロイヤルティを高め るための活動も挙げることが出来るか もしれない。
そこでアフターサービス や、顧客相談窓口などが注目されてい る。
ただし、これらは前の三つの活動 と重複する要素もあり、ここでは敢え て三つとしておく。
コトラーの定義と比較すると「提 供・交換」という概念を、価値を伝 えることと、それを実際に手に渡るよ うにすることに分けた点が異なってい るが、これはあくまで整理の仕方の問 題である。
さて、この三つの領域は、一つのサ イクルだと捉えることができる。
まず 市場や消費者調査から見出された顧 客ニーズの理解を元に製品・サービス の開発を行う。
次に、その商品やサー ビスの価値を顧客に伝えるために広告 やPR、展示会など様々なコミュニケ ーションを行う。
またコミュニケーシ ョンと並行として、商品を生産し、店 頭に並べる。
あるいは顧客に直接届け ることによって顧客の手に渡し、マー ケティング活動を完遂するというサイ クルである。
前号で紹介した、米ロジスティクス 管理協会(CLM)の「顧客の必要条 件に適合させるべく、原材料、半製品、 完成品ならびにその関連情報の、産 出地点から消費地点までのフローと保 管を、効率的かつ費用対効果を最大 ならしめるよう計画立案、実施、統制 する過程」という定義に従うなら、こ の実際に商品・サービスを顧客の手 に渡るようにする活動の多くをカバー するのがロジスティクスである。
そこで、筆者は「マーケティングは ロジスティクスで完遂する」と前回を 締めくくったのである。
この表現は中 間流通を介して販売される商品分野 では、ピンと来ないかもしれない。
し かし欧米の消費財流通の世界では店 内ロジスティクス(In-store logistics ) という表現があり、ここでは消費者が 実際に購入するまでの過程も一つの大 事なテーマとなっている。
セールスマンが実際に商品を営業車 に積んで顧客を回り、即販売するよう な方法をとっている場合には、「コミ ュニケーションとロジスティクスが一 体化している」と捉える。
訪問販売も そうである。
一方、通販やネットショ ッピングなどでは、コミュニケーショ ンとロジスティクスが比較的明確に分 かれている。
デル・モデルがその典型 だろう。
コミュニケーションには営業 マンではなく各種の広告メディアを活 用する。
そして、実際に商品を届ける のは物流パートナーの役目となってい る。
「顧客価値」を向上する こうしてマーケティング活動は企業 側から見ると三つに分けることができ る。
それでは、これを顧客の視点から 見るとどうなるのであろう。
そもそも 「価値」とは顧客にとってどのように 実現されるのであろうか。
学習院大学 の田島義博名誉教授によると、顧客 の満足度は顧客が商品やサービスから 得る成果の大小と、そのために払う犠 牲のバランスによって決まるとされて いる。
この「顧客満足度」を顧客価 値の尺度と見ることができる。
その商品 の品質が顧 客の求めて いるものか ど う か は 、 コミュニケ ーション活 動 の 結 果 、 明らかにな る。
しかし、 企業が生み 出した製品 やサービス は、顧客の 手に渡り実 際に使用さ れて、初め て顧客にと っての価値となる。
そして顧客の期待 と実際の商品の内容が一致していた 時にだけ顧客満足が得られるのである。
これを商品やサービスの価値という 意味でとらえて単純化すると、顧客価 値とは「商品/サービスの品質」と 「それを手に入れるために費やす費用 と時間」のバランスで決まることにな る(図2)。
従って顧客価値を高める ためには、品質を上げるか、コストを 下げる。
もしくは、その商品・サービ スを得るためにかかる「時間」を少な くするかである。
この「時間」には、欲しい商品を探 図1 マーケティングの活動領域 コミュニケーション 顧客理解 顧 客 SCM 価値創造 図2 学習院大学 田島義博名誉教授による『顧客価値とは何か』 ?顧客の犠牲と成果の関係 ?成果要素(基本的には) ?犠牲要素(基本的には) ?狭義には ?拡張すれば 消費者満足−CS ≠成果の大小=成果と犠牲 品質=(商品の品質:Qp)+(サービスの質:Qs) 価格と時間が重要 V=Q/P V= Qp+Qs P+T NOVEMBER 2002 52 し出すためのトータルの時間。
顧客が ニーズに合った商品を見出すまでの時 間や、どこにあるかを確認する時間も 含まれる。
さらには商品を実際に使え るようになるまでの時間、使い方をマ スターするまでの時間も含まれるが、 これらはコミュニケーションの要因が 大きい。
また、欲しい時にその商品が 入手できるかという点では、輸送過程 での品質管理が重要な要素になる。
商 品によっては、鮮度こそ品質面で最も 重要な要素となる。
特に人々が時間 に追われる中では、ロジスティクスは コスト削減だけではなく、総合的な顧 客価値向上に貢献する。
マーケティング活動の進化 歴史的に見てもマーケティング活動 は相互補完的に進化している。
R . S . ティドロー(一九九三年)は、アメリ カにおけるマーケティングの進化の歴 史を次の三段階に分けている。
一八 八〇年頃までの「第一段階」では市 場は地域的で、小規模で、分断化さ れている。
この時代に商人は中間流通 のネットワークを介して製造業者に結 び付けられていた。
全国規模のマスマーケットの登場が 第二段階の入り口だ。
時期的には一 八八〇年から一九五〇年までとみら れている。
鉄道と通信網によって、製 造業あるいは商人がアメリカ中の顧客 を開拓するようになり、大量販売と高 い在庫回転で利益を生み出していっ た。
そして第三段階は、人口統計的 分類や心理的分類による市場の細分 化、いわゆるセグメンテーションが特 徴である。
この発展段階の中にロジスティクス やECR、SCMを位置づけること ができる。
日本でも時代差や、二度の 世界大戦の影響などを考慮すれば、同 じような段階を経ていると考えられる。
アメリカでは南北戦争後の時期か ら第二段階への移行が始まる。
それを 支えた要因の一つが社会インフラの整 備である。
南北戦争後、新聞の発行 部数は急速に伸び、一九世紀末頃か ら新聞広告が行われるようになってき た。
このしばらく後には第二次鉄道建 設ブームがあった。
テイラーの科学的管理法が世に発 表されたのは一九一一年。
フォードシ ステムが登場するのもこの時期で、こ の頃から、二〇世紀初めにかけて、グ ロサリー小売業のチェーンストアが台 頭し、さらに販売形態としても大量販 売を効率的に行う手法としてセルフサ ービス形式を採用したスーパーマーケ ットが台頭してくるのである。
A&P の急成長である。
通信販売の先駆者のシアーズ・ロ ーバックが登場したのもこの時代であ り、マス・マーケティングの環境が整 備され具現化し始めた。
三〇年代に 実用化されたアメリカのテレビ放送は、 戦後急速に普及が拡がり、五五年に は世帯普及率が六七%、六〇年に八 七%に至っている。
自動車が大衆化したのも四〇年代から五〇年代にか けてだ。
全米のハイウェー・ネットワ ークが進み、大量生産・大量消費型 のシステムが一つの成熟期を迎えた。
このマス・マーケティング時代には 「プッシュ型」と呼ばれるマーケティ ングのアプローチが有効だった。
市場 や顧客に積極的でアグレッシブな広 告・プロモーション・セールスを仕掛 ける方法である。
ロジスティクスにお いても、プッシュ型に沿った展開が求 められた。
ロジスティクスの登場 SCMという視点から見ると、大 量生産・大量輸送、それによるローコ スト化が第二段階のパラダイムである。
これに対して五〇年代頃から、セグメ ンテーション型のマーケティング、す なわち第三段階への移行が始まる。
こ の流れについて、前号では「画一化さ れていた消費が多様化した」と説明し たが、マーケティングの世界では「同 質需要から異質需要への転換」と表 現する。
消費者が他者と異なるものを 求めるようになるということである。
これに伴いプッシュ型からプル型へ の転換が進められる。
生産技術では情 報技術を活用した「FMS(フレキ シブル・マニュファクチャリング・シ ステム)」が編み出された。
大きな設 備変更をせずに、多頻度少量生産に 対応した仕組みである。
これが六〇年 代後半頃から普及するようになる。
日本人に馴染みの深い「JIT(ジ ャスト・イン・タイム)」も、需要量 に対応するためのシステムとして六〇 年代に生まれた。
最近では、特にハイ テク製品などでみられるように、生産 品目の変更や増減産に対応する「セ ル生産方式」の導入も進んでいる。
第三段階のマーケティング・コミュ ニケーションとしては、多様なメディ アによる広告活動が行われるようにな ったことから、これらを総合的に行う 方法として「IMC(インテグレーテ ッド・マーケティング・コミュニケー ション)」という考え方が八〇年代後 半に登場する。
多様化したメディアを 統合的かつ複合的に活用しようとい うコンセプトである。
53 NOVEEMBER 2002 マーケティング理論にロジスティク スの概念が登場したのもこの時期であ ろう。
米ロジスティクス管理協会(C LM)が米物流管理協会から名称変 更したのがまさに八五年のことだった。
同じ年に、全米マーケティング協会の 定義も改訂されている。
また流通では チャネル構造の変化が起こった結果と してその後に消費財業界における「E CR(エフィシエント・コンシューマ ー・レスポンス)」が生まれた。
ECRの背景 その背景として七〇年代から八〇 年代にかけて、アメリカのチェーン・ ストア業界では大手一〇社の大きな 入れ替えが発生している。
七〇年代 にはセグメンテーションの結果として 増えた大量のアイテムを管理するため にバーコードが生まれ、小売店でPO Sレジの導入が始まった。
続いてウォ ルマートに代表されるディスカウント ストアが急成長を遂げ、カテゴリー・ キラーが登場し始める。
そして九〇年代に入ると、デル・コ ンピュータやアマゾン・ドット・コム など、インターネットの活用で成功を 収める小売業モデルが登場する。
これ は、小売業というサービスそのものに 対するニーズが異質化したことの結果 として考えられる。
ロジスティクスの定義に「顧客の必 要条件に合わせるべく」という表現が 使われるようになったのも、顧客のニ ーズが異なってきたため重要視する必 要性が出てきたからであろう。
とりわ け消費財分野では、供給サイドと消費 サイドを結び付けるロジスティクス活 動には、その扱う製品カテゴリーや、 介在する流通業のタイプに応じて様々 な機能が求められるようになってきて おり、その背景に一連のマーケティン グ活動の変化がある。
さらにチャネルが複雑化した結果、 従来のスケールメリットによるローコ スト化という図式が崩れてしまったこ とが、SCMに注目を集める原因に なっている。
つまりチャネルが複雑化 したことにより、需給管理により高い 能力が求められるようになってくると 同時にローコストなロジスティクスが 必須になっているのである(図3)。
今日のマーケティング活動において は、セグメント・マーケティング、チ ャネル/顧客・マネジメント、SCM の三つの連動が鍵となる。
この三つの 能力の優劣が企業活動の成否に大き く影響するのである。
既に欧米ではECRの中でカテゴ リー・マネジメントと呼ばれる流通業 向けのセグメント・マーケティングの 手法が導入されている。
そして、EC R全体のフレームワークの中で、小売 業のカテゴリー・マネジメントがメー カーのセグメント・マーケティングと 結び付けられている。
つまりメーカー と流通業のSCM活動が連携するよ うに設計されているのである(図4)。
これに対して日本市場はまだ、「異 質需要への転換」に伴う構造転換の ための調整局面にあると筆者はみてい る。
生産サイドにおいては、異質需要 への準備が着々と進んできたが、残念 ながら日本の流通業界では異質需要 に適した経営手法への転換が非常に ゆっくりとしか進んでいない。
そのた めに供給サイドと需要サイドを結び付 けるためのロジスティクスに過度な負 担がかかっているのが現状だ。
次号では、このセグメント・マーケ ティングのモデルとしてのカテゴリ ー・マネジメントについて紹介したい。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワ ーキング・マネージャー として活動するかたわら、 学習院マネジメントスク ールでDSCM(ディマ ンド&サプライチェーン・ マネジメント)コースの オーガナイザーを務めて いる。
89年神戸大学経済 学部卒業。
同年、P&G ファー・イースト・インク 入社。
95年、広報マネー ジャー。
98年から現職。
日本ダイレクトマーケテ ィング学会理事。
PROFILE メーカー工場 どのSKUを、ど の時期に、どの ぐらい生産すれ ばよいのか? メーカーDC どの卸業のために、 どのSKUを、どの DCにぐらい在庫 すればよいのか? 卸売業 どのSKUを、どの ぐらい調達して、 どの小売業に提供 すればよいのか? 小売店 どのSKUをどの卸が幾らで、 どのぐらい仕入れて、ど のように陳列し、幾らで 販売すればよいのか? 顧 客 図3 図4 マーケティングとロジスティクスの統合 マーケティング & 販 売 M D & 購 買 生 産 & 配 送 ロジスティクス & 在庫管理 メーカー 販売店 取引企業間の壁 社内組織の壁 ECRは業務を効率化するために、従来からの組織・部 門の垣根を越えて、マーケティングとロジスティクスの 連携を促進する戦略的イニシアティブ
全米マーケティング協会(AMA)の 定義では「マーケティングとは、個人 と組織の目標を達成する交換を創造 するため、アイデア、財・サービスの 形成概念(Conception)、 価格、プロモーション、流通を計画・ 実行する過程である(一九八五年制 定)」とされる。
この定義で語られるように、マーケ ティングとは価値の創造から提供まで の経営的なトータルのプロセスを示し ている。
マーケティングというと一般 には製品開発のための市場調査や、消 費者に向けたコミュニケーション活動 に代表されるが、これらはマーケティ ング活動の一領域に過ぎないのである。
またフィリップ・コトラーの著書で マーケティングのバイブルとも言える 「マーケティング・マネジメント(一 九九六年)」では、もう少しシンプル に次のように定義している。
「マーケ ティングとは、価値を創造し、提供し、 他の人々と交換することを通じて、個 人やグループが必要とするのを獲得す る社会的・経営的過程である」 ただし、社会学の中でも特に経営 学のように実務を扱う分野では、現実に起こっている事象を分析して、共通 する要素を見出し、一般化し、体系 化しようとする。
そのため学問上の定 義としてはいくら正しくても、実際の 経営活動の変化の中ではズレを起こ すことがある。
それまでの定義が間違 っていたのではなく、その概念が進化 することで部分的にしかカバーしなく なるのである。
そのため全米マーケティング協会も、 マーケティングの定義付けについては 過去に改訂を行っている。
上で紹介 した以前の定義では、「マーケティン グは、財サービスの流れを生産者から 最終ユーザーに方向付ける全ビジネス 活動である」とされている。
この定義 も、一面では今日でも有効だろう。
前 号で需要サイドに働きかける活動とし てマーケティングに触れたが、これは この定義に近いものである。
筆者自身はこの定義とは少しだけ 視点を変えて、業務領域の視点から マーケティング活動は概念的に次の3 つの領域から成り立っていると考えて いる。
先のマーケティングの定義も含 め、いずれも「価値」という言葉が含 まれている。
これは具体的には商品や サービスなどであり、顧客が価値を見 出す対象である。
1:顧客が求めている価値を生み出す ための活動 2:顧客に価値を理解させ、その利 用を促進するための活動3:価値を顧客の手に渡るようにする ための活動 これら三つの活動の基盤には、顧客 理解が必須である。
最初の価値を生 み出す活動は、いわゆる商品開発やサ ービスの開発である。
二番目は、いわ ゆるマーケティング・コミュニケーシ ョンで宣伝・PRやプロモーションな どである。
この二番目の領域では最終 的に顧客が使えるようにするための、 マーケティングとSCM 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー マーケティング活動はロジスティクスによって完遂される。
同様にSC Mもマーケティング活動を構成する領域の一つだ。
ロジスティクス、そし てECRやSCMのコンセプトはマーケティング活動の進化の歴史の中に 位置付けることができる。
﹇第2回﹈ 51 NOVEEMBER 2002 教育やサービスも含まれる。
三番目は、 主にSCM(サプライチェーン・マネ ジメント)である。
さらに近年の顧客生涯価値の議論 などを踏まえると、この三つに続く、 四番目の領域として顧客がその価値 を十分に享受し、ロイヤルティを高め るための活動も挙げることが出来るか もしれない。
そこでアフターサービス や、顧客相談窓口などが注目されてい る。
ただし、これらは前の三つの活動 と重複する要素もあり、ここでは敢え て三つとしておく。
コトラーの定義と比較すると「提 供・交換」という概念を、価値を伝 えることと、それを実際に手に渡るよ うにすることに分けた点が異なってい るが、これはあくまで整理の仕方の問 題である。
さて、この三つの領域は、一つのサ イクルだと捉えることができる。
まず 市場や消費者調査から見出された顧 客ニーズの理解を元に製品・サービス の開発を行う。
次に、その商品やサー ビスの価値を顧客に伝えるために広告 やPR、展示会など様々なコミュニケ ーションを行う。
またコミュニケーシ ョンと並行として、商品を生産し、店 頭に並べる。
あるいは顧客に直接届け ることによって顧客の手に渡し、マー ケティング活動を完遂するというサイ クルである。
前号で紹介した、米ロジスティクス 管理協会(CLM)の「顧客の必要条 件に適合させるべく、原材料、半製品、 完成品ならびにその関連情報の、産 出地点から消費地点までのフローと保 管を、効率的かつ費用対効果を最大 ならしめるよう計画立案、実施、統制 する過程」という定義に従うなら、こ の実際に商品・サービスを顧客の手 に渡るようにする活動の多くをカバー するのがロジスティクスである。
そこで、筆者は「マーケティングは ロジスティクスで完遂する」と前回を 締めくくったのである。
この表現は中 間流通を介して販売される商品分野 では、ピンと来ないかもしれない。
し かし欧米の消費財流通の世界では店 内ロジスティクス(In-store logistics ) という表現があり、ここでは消費者が 実際に購入するまでの過程も一つの大 事なテーマとなっている。
セールスマンが実際に商品を営業車 に積んで顧客を回り、即販売するよう な方法をとっている場合には、「コミ ュニケーションとロジスティクスが一 体化している」と捉える。
訪問販売も そうである。
一方、通販やネットショ ッピングなどでは、コミュニケーショ ンとロジスティクスが比較的明確に分 かれている。
デル・モデルがその典型 だろう。
コミュニケーションには営業 マンではなく各種の広告メディアを活 用する。
そして、実際に商品を届ける のは物流パートナーの役目となってい る。
「顧客価値」を向上する こうしてマーケティング活動は企業 側から見ると三つに分けることができ る。
それでは、これを顧客の視点から 見るとどうなるのであろう。
そもそも 「価値」とは顧客にとってどのように 実現されるのであろうか。
学習院大学 の田島義博名誉教授によると、顧客 の満足度は顧客が商品やサービスから 得る成果の大小と、そのために払う犠 牲のバランスによって決まるとされて いる。
この「顧客満足度」を顧客価 値の尺度と見ることができる。
その商品 の品質が顧 客の求めて いるものか ど う か は 、 コミュニケ ーション活 動 の 結 果 、 明らかにな る。
しかし、 企業が生み 出した製品 やサービス は、顧客の 手に渡り実 際に使用さ れて、初め て顧客にと っての価値となる。
そして顧客の期待 と実際の商品の内容が一致していた 時にだけ顧客満足が得られるのである。
これを商品やサービスの価値という 意味でとらえて単純化すると、顧客価 値とは「商品/サービスの品質」と 「それを手に入れるために費やす費用 と時間」のバランスで決まることにな る(図2)。
従って顧客価値を高める ためには、品質を上げるか、コストを 下げる。
もしくは、その商品・サービ スを得るためにかかる「時間」を少な くするかである。
この「時間」には、欲しい商品を探 図1 マーケティングの活動領域 コミュニケーション 顧客理解 顧 客 SCM 価値創造 図2 学習院大学 田島義博名誉教授による『顧客価値とは何か』 ?顧客の犠牲と成果の関係 ?成果要素(基本的には) ?犠牲要素(基本的には) ?狭義には ?拡張すれば 消費者満足−CS ≠成果の大小=成果と犠牲 品質=(商品の品質:Qp)+(サービスの質:Qs) 価格と時間が重要 V=Q/P V= Qp+Qs P+T NOVEMBER 2002 52 し出すためのトータルの時間。
顧客が ニーズに合った商品を見出すまでの時 間や、どこにあるかを確認する時間も 含まれる。
さらには商品を実際に使え るようになるまでの時間、使い方をマ スターするまでの時間も含まれるが、 これらはコミュニケーションの要因が 大きい。
また、欲しい時にその商品が 入手できるかという点では、輸送過程 での品質管理が重要な要素になる。
商 品によっては、鮮度こそ品質面で最も 重要な要素となる。
特に人々が時間 に追われる中では、ロジスティクスは コスト削減だけではなく、総合的な顧 客価値向上に貢献する。
マーケティング活動の進化 歴史的に見てもマーケティング活動 は相互補完的に進化している。
R . S . ティドロー(一九九三年)は、アメリ カにおけるマーケティングの進化の歴 史を次の三段階に分けている。
一八 八〇年頃までの「第一段階」では市 場は地域的で、小規模で、分断化さ れている。
この時代に商人は中間流通 のネットワークを介して製造業者に結 び付けられていた。
全国規模のマスマーケットの登場が 第二段階の入り口だ。
時期的には一 八八〇年から一九五〇年までとみら れている。
鉄道と通信網によって、製 造業あるいは商人がアメリカ中の顧客 を開拓するようになり、大量販売と高 い在庫回転で利益を生み出していっ た。
そして第三段階は、人口統計的 分類や心理的分類による市場の細分 化、いわゆるセグメンテーションが特 徴である。
この発展段階の中にロジスティクス やECR、SCMを位置づけること ができる。
日本でも時代差や、二度の 世界大戦の影響などを考慮すれば、同 じような段階を経ていると考えられる。
アメリカでは南北戦争後の時期か ら第二段階への移行が始まる。
それを 支えた要因の一つが社会インフラの整 備である。
南北戦争後、新聞の発行 部数は急速に伸び、一九世紀末頃か ら新聞広告が行われるようになってき た。
このしばらく後には第二次鉄道建 設ブームがあった。
テイラーの科学的管理法が世に発 表されたのは一九一一年。
フォードシ ステムが登場するのもこの時期で、こ の頃から、二〇世紀初めにかけて、グ ロサリー小売業のチェーンストアが台 頭し、さらに販売形態としても大量販 売を効率的に行う手法としてセルフサ ービス形式を採用したスーパーマーケ ットが台頭してくるのである。
A&P の急成長である。
通信販売の先駆者のシアーズ・ロ ーバックが登場したのもこの時代であ り、マス・マーケティングの環境が整 備され具現化し始めた。
三〇年代に 実用化されたアメリカのテレビ放送は、 戦後急速に普及が拡がり、五五年に は世帯普及率が六七%、六〇年に八 七%に至っている。
自動車が大衆化したのも四〇年代から五〇年代にか けてだ。
全米のハイウェー・ネットワ ークが進み、大量生産・大量消費型 のシステムが一つの成熟期を迎えた。
このマス・マーケティング時代には 「プッシュ型」と呼ばれるマーケティ ングのアプローチが有効だった。
市場 や顧客に積極的でアグレッシブな広 告・プロモーション・セールスを仕掛 ける方法である。
ロジスティクスにお いても、プッシュ型に沿った展開が求 められた。
ロジスティクスの登場 SCMという視点から見ると、大 量生産・大量輸送、それによるローコ スト化が第二段階のパラダイムである。
これに対して五〇年代頃から、セグメ ンテーション型のマーケティング、す なわち第三段階への移行が始まる。
こ の流れについて、前号では「画一化さ れていた消費が多様化した」と説明し たが、マーケティングの世界では「同 質需要から異質需要への転換」と表 現する。
消費者が他者と異なるものを 求めるようになるということである。
これに伴いプッシュ型からプル型へ の転換が進められる。
生産技術では情 報技術を活用した「FMS(フレキ シブル・マニュファクチャリング・シ ステム)」が編み出された。
大きな設 備変更をせずに、多頻度少量生産に 対応した仕組みである。
これが六〇年 代後半頃から普及するようになる。
日本人に馴染みの深い「JIT(ジ ャスト・イン・タイム)」も、需要量 に対応するためのシステムとして六〇 年代に生まれた。
最近では、特にハイ テク製品などでみられるように、生産 品目の変更や増減産に対応する「セ ル生産方式」の導入も進んでいる。
第三段階のマーケティング・コミュ ニケーションとしては、多様なメディ アによる広告活動が行われるようにな ったことから、これらを総合的に行う 方法として「IMC(インテグレーテ ッド・マーケティング・コミュニケー ション)」という考え方が八〇年代後 半に登場する。
多様化したメディアを 統合的かつ複合的に活用しようとい うコンセプトである。
53 NOVEEMBER 2002 マーケティング理論にロジスティク スの概念が登場したのもこの時期であ ろう。
米ロジスティクス管理協会(C LM)が米物流管理協会から名称変 更したのがまさに八五年のことだった。
同じ年に、全米マーケティング協会の 定義も改訂されている。
また流通では チャネル構造の変化が起こった結果と してその後に消費財業界における「E CR(エフィシエント・コンシューマ ー・レスポンス)」が生まれた。
ECRの背景 その背景として七〇年代から八〇 年代にかけて、アメリカのチェーン・ ストア業界では大手一〇社の大きな 入れ替えが発生している。
七〇年代 にはセグメンテーションの結果として 増えた大量のアイテムを管理するため にバーコードが生まれ、小売店でPO Sレジの導入が始まった。
続いてウォ ルマートに代表されるディスカウント ストアが急成長を遂げ、カテゴリー・ キラーが登場し始める。
そして九〇年代に入ると、デル・コ ンピュータやアマゾン・ドット・コム など、インターネットの活用で成功を 収める小売業モデルが登場する。
これ は、小売業というサービスそのものに 対するニーズが異質化したことの結果 として考えられる。
ロジスティクスの定義に「顧客の必 要条件に合わせるべく」という表現が 使われるようになったのも、顧客のニ ーズが異なってきたため重要視する必 要性が出てきたからであろう。
とりわ け消費財分野では、供給サイドと消費 サイドを結び付けるロジスティクス活 動には、その扱う製品カテゴリーや、 介在する流通業のタイプに応じて様々 な機能が求められるようになってきて おり、その背景に一連のマーケティン グ活動の変化がある。
さらにチャネルが複雑化した結果、 従来のスケールメリットによるローコ スト化という図式が崩れてしまったこ とが、SCMに注目を集める原因に なっている。
つまりチャネルが複雑化 したことにより、需給管理により高い 能力が求められるようになってくると 同時にローコストなロジスティクスが 必須になっているのである(図3)。
今日のマーケティング活動において は、セグメント・マーケティング、チ ャネル/顧客・マネジメント、SCM の三つの連動が鍵となる。
この三つの 能力の優劣が企業活動の成否に大き く影響するのである。
既に欧米ではECRの中でカテゴ リー・マネジメントと呼ばれる流通業 向けのセグメント・マーケティングの 手法が導入されている。
そして、EC R全体のフレームワークの中で、小売 業のカテゴリー・マネジメントがメー カーのセグメント・マーケティングと 結び付けられている。
つまりメーカー と流通業のSCM活動が連携するよ うに設計されているのである(図4)。
これに対して日本市場はまだ、「異 質需要への転換」に伴う構造転換の ための調整局面にあると筆者はみてい る。
生産サイドにおいては、異質需要 への準備が着々と進んできたが、残念 ながら日本の流通業界では異質需要 に適した経営手法への転換が非常に ゆっくりとしか進んでいない。
そのた めに供給サイドと需要サイドを結び付 けるためのロジスティクスに過度な負 担がかかっているのが現状だ。
次号では、このセグメント・マーケ ティングのモデルとしてのカテゴリ ー・マネジメントについて紹介したい。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワ ーキング・マネージャー として活動するかたわら、 学習院マネジメントスク ールでDSCM(ディマ ンド&サプライチェーン・ マネジメント)コースの オーガナイザーを務めて いる。
89年神戸大学経済 学部卒業。
同年、P&G ファー・イースト・インク 入社。
95年、広報マネー ジャー。
98年から現職。
日本ダイレクトマーケテ ィング学会理事。
PROFILE メーカー工場 どのSKUを、ど の時期に、どの ぐらい生産すれ ばよいのか? メーカーDC どの卸業のために、 どのSKUを、どの DCにぐらい在庫 すればよいのか? 卸売業 どのSKUを、どの ぐらい調達して、 どの小売業に提供 すればよいのか? 小売店 どのSKUをどの卸が幾らで、 どのぐらい仕入れて、ど のように陳列し、幾らで 販売すればよいのか? 顧 客 図3 図4 マーケティングとロジスティクスの統合 マーケティング & 販 売 M D & 購 買 生 産 & 配 送 ロジスティクス & 在庫管理 メーカー 販売店 取引企業間の壁 社内組織の壁 ECRは業務を効率化するために、従来からの組織・部 門の垣根を越えて、マーケティングとロジスティクスの 連携を促進する戦略的イニシアティブ
