ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 攻めに徹して上場を果たす

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 20 ――角谷社長のキャリアから教えてください。
「私の一番の基本は物流です。
コクヨに入社した当 初から自動倉庫を立ち上げたり、これをバックアップ するため業務の標準化に取り組んだりしてきました。
八〇年代の半ばには名古屋地区で第二製品(家具)の 共同配送を立ち上げ、その後も自動倉庫の大規模化 や、工場に併設する倉庫の運営に携わってきました」 ――今年四月に社長に就任する直前には、どのような 業務を手掛けていたのですか。
「実はね、コクヨ物流五社をまとめてコクヨロジテ ムを作るという話が出たと き、そこに私の名前は入っ ていなかったんですよ。
営業統括部に行ってくれと言 われたんです。
当時は疑心暗鬼だったのですが、いま 思えばトップは『顧客に近い物流を勉強して立ち上げ なさい』という狙いだったんだと理解しています」 「設立当初のコクヨロジテム(九九年一〇月)には、 それまでのメーカー的な発想の物流を維持管理すると いう面がありました。
これに対して、私がやれと言わ れたのは、顧客志向の紙文機共配システムであり、O SL(オフィス・サプライ・ロジスティクス)であり、 ネット通販の『カウネット』です。
社長になる直前の 一年半くらいは、そんな仕事をやっていました」 「それが当社の社長になれという辞令が出たとき、営 業部門でや ってきたユーザー向けの仕事、いわば営業 戦略を作る仕事をすべて持って行けと言われた。
そこ で私は、コクヨロジテムのなかにロジスティクス支援 部という顧客対応型のセクションを新設したんです。
いまは当社を、顧客とメーカーの両方を見られる会社 にしようと動いています」 ――全国に五社あったコクヨ物流を一本化した狙いを、 あらためて教えてください。
「一つは経営判断と意志決定の迅速化です。
五つに 会社が分かれていれば当然、経営にも温度差がある。
市場に対して打つ手も、さほど大胆なものではなかっ た。
やはり指示命令系統を一元 化して、トップダウン で動く組織にする必要がありました」 「もう一つは重複業務の解消です。
連結決算の時代 になると、月次処理をより一層スピードアップしなけ ればなりません。
そのためには総務とか経理といった 重複業務を簡素化し、集約する必要がある。
こうした 重複業務を減らすことによって、人員を削減し、ここ で生まれる人員を新しい分野に投入していくというこ とです。
そのお膳立てを前任の社長がしてくれました から、私の役割は『攻める』ことです」 末端ユーザーにまで介入 ――コクヨロジテムの現在の業績は。
「二〇〇〇年九月の初年度決算の売上高は二四四億 円。
今年度は売り上げ二五六億円を見込んでいます。
我々の事業計画では、五年後に売上高三〇〇億円以 上の企業にしようと思っています。
従来型の売り上げ がさほど伸びなくても、外販比率を三割まで拡大する ことで業績を伸ばしていく計画です」 ――親会社からは何を求められているのでしょうか。
「メーカー物流というのは、ユーザー物流に比べど うしても粗い。
これから我々がやらなければいけない のは、顧客志向のきめ細やかな物流のスキルを磨く こ とです。
もちろん情報システムなどの仕組みは、従 来よりユーザーに届くようにと考えてきました。
しか し、物流についてはメーカーの枠内に留まっていた。
今後は一番末端の顧客、つまりユーザーだとかディ ーラーに近いところまで、コクヨロジテムが介入しな ければダメです。
その具体的な手段がOSLです。
つ まり?物流〞を?流通〞にしていかなければならない 「攻めに徹して上場を果たす」 全国に5社あったコクヨ物流を統合し、99年10月にコクヨロジテム として再スタートを切った。
卸から物流機能を分離するために設置し た全国10カ所のOSLの稼働により、ユーザー向けの物流インフラが 整う。
これを活用することにより5年後に外販3割の達成を狙う。
(本 誌4月号インタビュー参照) コクヨロジテム角谷清社長 第2部有力物流子会社トップインタビュー 21 JUNE 2001 のです」 「そうすることによって、コクヨロジテムとしては親 会社に対して恩返しをできます。
これまで整理しきれ ていなかった輸送ネットワークを簡素化し、物量をま とめることができる。
百カ所以上に配送していたのを、 十数カ所に減らせば完全な定期便を組めます。
そうす れば納期も短縮できるし、運賃のコストダウンも可能 です。
ある面では親会社に対して、大きな貢献のでき る仕事をしていくつもりです」 ――今後、生き残る物流子会社の条件として、経営ト ップのリーダーシップが問われています。
「私はコクヨの執行役員でもありますから、コクヨ ロジテムの経営についてはかなりの責任を負っていま す。
従来でしたら子会社の社長というのは、親会社を 定年退職されたような方がつくケースが少なくなかっ た。
こういう社長は親会社の人事考課からははずれて います。
その点、私は親会社の社員ですから人事考課 の対象です。
場合によっては、『君いらんよ』と言わ れることもありえる。
コクヨからみた子会社のあるべ き姿というのは、ノルマを課し、合理化を進め、自前 でやるべきことをやる企業になることです」 「私は以前から言ってたんですが、親会社の現役で なければ子会社のトップは務まりません。
天下り人事 をやっている限り上手くいくわけがない」 ――過去には多くの物流子会社が親会社の余剰 人員 の受け皿という役割を担ってきました。
「OBの移動というのは大きな問題です。
当社にも、 かつてそういう人事があったことは確かです。
しかし、 現在のコクヨロジテムは違う。
私はコクヨのミーティ ングで、『もうコクヨの社員はいりません』と言い切 っています。
そんな天下り人事はいりません」 ――親会社の言うことを聞いておくことで、荷物がつ いてくるという面もあるのでは。
「そういう意識はまったくありません。
たまたまコク ヨには物流機能があった。
物流子会社を作るからとい って崩すわけにはいかない。
だからこれを引き継いで いる、というだけの話です。
親会社から荷物をもらお うという気は、私には一切ありませんよ」 ?コクヨ〞を外したい ――全国一〇カ所にOSLを設置した狙いを教えてく ださい。
「私は監査で各地の総括店(卸)を回ったことがあ ります。
物流費に関するヒヤリングを一年半かけてや ったんです。
すると、物流費が人件費を上回っている ケースが少なくない。
そもそも物流費とは何かという 検討自体がなされていない。
支払運賃だけを物流費と みなしている総括店もあれば、物流業務を営業マンが 担っているのに物流費には計上していないケースもあ る。
そうやって見ていくと、物流費が非常に高くついている。
販売店にかかる負荷が大きすぎたんです」 「それで感じたのが、やはり物流費をきちんと分離 し なければダメだということです。
人件費であっても、 物流に携わっている従業員の分については荷役費とす べきです。
ビルと倉庫を兼用で使っていても保管料は 計上すべきです。
だったら物流費をバシッと分離でき る仕組みにしようと、OSLを作りました。
OSLに は保管料と荷役料と運賃が発生しますので、きちんと 物流費として支払う必要がある。
そうすることで物流 以外の仕事に携わっている人達の業務内容ついてもハ ッキリと分けることができる」 ――コクヨロジテムを設立したり、商物分離を断行し た背景には、親会社が連結決算に移行することの影響 もあったのでしょうか。
特集 【企業概要】 コクヨロジテム:本社・大阪市、1999年10月1日設立(全国 に5社あったコクヨ物流を統合)、資本金2億2500万円、出資 比率:コクヨ100%、売上高244億円(2000年9月期実績)、 従業員数634人(2000年4月1日現在) 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 96年度 97年度 98年度 99年度 00年度 コクヨ(億) コクヨL(千万) 外販比率 (コクヨ3月決算、コクヨロジテム9月決算) (売上高) (外販比率:%) JUNE 2001 22 「それはないでしょう。
連結決算というのは結果論 だと思いますよ。
もちろん子会社として連結決算は重 要ですが、これはコクヨロジテムを設立した狙いとは 関係ありません。
あくまでもコクヨロジテムの目標は、 顧客の要求に最高のレベルで対応できるスキルを身に 付け、なおかつ同業他社よりもコストと品質面で競争 力のある仕組みを作ることにあります。
そのためには 外販の拡大が必要です」 「私は、極端にいえばコクヨロジテムの?コクヨ〞 を外したいと思っているんです。
そうすることで売上 高五〇〇億、一〇〇〇億といった大きな目標が出て くる。
それから先にあるのが上場ですよ」 物流プロパーを幹部に登用 ――コクヨロジテムが親会社から独立するために具体 的に何をやりますか。
「主に二つあります。
一つはさきほども言った通り、 外販の強化。
もう一つは、コクヨの出向社員を減らし ます。
プロパー社員にどんどん役職を与えて、機能を リフレッシュします。
今は六百数十人いる社員のうち、 二百人弱がコクヨの出向社員なんですが、かなりドラ スチックな人事異動を進めていくつもりです」 ――外販拡大を追求する理由はなんですか。
「これは前社長が掲げた方針でもあります。
理由は ね、ここは我々の基本的な弱点でもあるんですが、一 〇月、十一月頃からコクヨの在庫は積み上がっ てくる んですよ。
需要期である三月、四月を迎えるための準 備なんですが、このピーク時を過ぎると、どうしても 倉庫に空きスペースが出てしまう。
閑散期になると三 割ぐらいの空きが出ます。
この時期への対応として、 外販を伸ばす必要があるんです」 ――その際、最大の武器になるのは何なのでしょうか。
「一つ言えることは、全国を網羅しているITのネ ットワークです。
当社にはコクヨの家具類で使ってい る『コーラス』という情報システムがあります。
これ はコクヨが扱う全国の家具製品の在庫を一元管理で き、輸配送ともリンクしている。
この情報システムの 機能を使 ってもらい、実際の輸送ではコクヨ製品との 共同化を進めれば双方のコストダウンが見込めます」 「あとは組み立て搬入という分野があります。
入り 口が狭いビルに家具などを納品する場合、建物の中で 組み立てるケースが少なくありません。
こうしたニー ズに応じられるのは、コクヨのように全国に販売ネッ トワークを築いてきた企業だけです。
たいていの企業 は一部のエリアでは可能でも、全国規模でこうした業 務を請け負うことは難しいはずです。
そもそも全国ネ ットワークを作ろうにも、それだけの体制を維持でき るだけの仕事量を確保するのは容易ではありません。
結果として、苦手 な地域については物流コストが極端 に高くなるといったケースが出てきてしまうんです」 ――どういう荷主をターゲットに据えているんですか。
「同業種、異業種を問わず、あらゆる業界をターゲ ットにしていくつもりです。
例えば、コクヨの協力工 場のなかに額縁を作っている会社があります。
コクヨ ブランドの額縁についてはコクヨに納品すれば済むの ですが、それ以外の独自ブランドの製品についてはか なり高い物流費を払っている。
こうしたケースは少な くありませんし、ほかにも当社のインフラを使って提 案型の営業をしかけていく先はいくらでもあります」 狙いはプラットフォーム事業 ――そうした営業を進めていくなかで、物流子会社同 士の提携というのはあり得るんでしょうか。
「あるでしょうね。
わざわざ摩擦を起こすつもりはあ 23 JUNE 2001 りませんが、ユーザーに近い流通ほど中間流通業者が 多い。
ここでの統廃合は避けられないでしょうね」 ――コクヨロジテムが物流子会社を吸収合併すること によって業績を拡大するといった考えはありますか。
「そういう企業はあちらから寄ってこないと思いま すよ。
そうした話がないわけではありませんが、ちょ っと毛色が違いますね。
まだまだ親会社からのOBが いて、プライドを持っているような企業です。
こうい うところと手を結ぶことはできません」 ――追い込まれた企業同士の共同化もありますが、強 い企業がリーダーシップをとって物流プラットフォー ムを作るというケースもあり得ますね。
「それは私達の隠れた想いです。
当然、そうしたケ ースも視野に入っています。
全国 一〇カ所のOSLが 完成すれば、有力なプラットフォームになるはずです」 ――いま御社の拠点数は全国に五五カ所あります。
す べてのOSLが稼働しときには、この拠点数はどう変 わりますか。
「大きく変わります。
当社が持っている倉庫は、メ ーカー機能に近いものです。
自動倉庫であればパレッ ト単位で大量に保管するようなものです。
これを使っ てOSLや『カウネット』の物流をまかなおうとする と、かえって弊害が大きい。
利用価値のない倉庫を売 却したり、新たに用途にあった拠点を借りるといった ケースがどんどん出てくるはずです。
結果として、五 年後の拠点数は二 割は減っているでしょうね」 ――倉庫機能が変われば、協力物流業者の見直しも必 要になるのでは。
「その都度、対応します。
倉庫の機能が変われば当 然、協力物流業者の見直しも必要になります。
新たに 求められる能力や条件を提示して、相見積もりを取る というコンペを実施していきます」 ――協力物流業者を一本化することによって、コスト メリットを追求するという選択はないのですか。
「そんな運送業者は存在しませんよ。
できるとした ら日本通運なんでしょうが、彼らとてオールマイティ ではない。
本当に安価で、品質も良い、すべてを任せ られる物流業者がいたら、私はコクヨロジテムをなく しても良い ぐらいに思っています」 ――コクヨロジテムが現在、直面している最大の課題 は何ですか。
「コクヨ物流の統合によって生まれた人材格差の是 正、つまりスキルの標準化です。
すでに各事業部間で の人事交流などを積極的に進めています。
これまでは、 まったく行き来のなかった間柄ですから。
そのために FA(フリーエージェント)の制度も作りました。
こ のFA制度では、まず会社の側から社員にテーマを与 えます。
社内情報ネットワークの掲示板を使うんです が、ここに業務内容を提示して人材を募るわけです。
締め切り日が決まっていて、テーマに沿ったレポートを提出して もらいます。
そのレポートを審査し、面接 をして、本当にやる気のある社員を活用しようという 制度です」 ――将来的には上場を目指すというお話でしたが、そ れはコクヨグループにとっての子会社の一つのゴール が、株式公開ということなのでしょうか。
「これから当社は自立性を持って外販を増やしてい きます。
そして企業規模が五〇〇億とか七〇〇億にな り、そこそこに経常利益を出せるようになれば、一つ のステップとして上場は必然的なものです。
実は、私 自身は上場というのはあまり好きじゃないんだけどね。
しかし、コクヨロジテムが自立した企業としてやって いくためには、市場から自前で資本調達することは避 けられないでしょうね」 特集 【プロフィール】 角谷清(かくたに・きよし)、92年ステーショ ナリーマーケティング本部・ロジスティクス管 理部長、97年総合支援部・副部長、2000年 営業統括部付部長、2001年4月コクヨロジテ ム出向・社長就任

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