*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 82 ドイツポストワールドネット（旧ド イツ郵便）は昨年十一月の株式公開に よってＵＰＳ（United Parcel Service ） に次ぐ世界第二位の時価総額を有する 物流企業となった。
オランダのＴＰＧ （ＴＮＴポストグループ）、デンマーク のＡＰモラーグループ、英国のＰ＆Ｏ グループなどの大手公開物流企業、さ らには英国のエクセルグループ、ドイ ツのシェンカーなど伝統的なフォワー ダーを凌ぐ欧州最大の公開物流企業が 誕生したのである。
ドイツポストの企業戦略を分析する ことは、?企業買収を通じたビジネス 拡大の施策が、同じくグローバル展開 する物流企業に与える影響、?日本の 郵便事業民営化への示唆――などの点 からも非常に興味深いはずだ。
ドイツ ポストの企業買収戦略は既にＵＰＳや フェデックスの世界戦略に明らかに影 響を与えているし、将来的には日本の 物流企業の世界戦略にも多大な影響を 与えることになるだろう。
現在、ドイツポストの日本での活動 は、子会社であるＤＨＬを通じて国内 企業と提携しているという程度にとど まっている。
しかし、日本でもいずれ 本格的な物流ビジネスを展開すること が十分予想される。
ドイツポストへの 関心は、物流企業ばかりでなく、荷主 企業や消費者の段階まで拡がることに なるだろう。
そこで今回はドイツポストの基礎的 情報や現況を整理した上で、日本に与 える影響について論じてみたい。
欧州最大の宅配会社 ドイツポストの事業分野は、郵便、 宅配、物流、金融サービスの四部門か ら成る。
二〇〇〇年度の収入は三二七 億ユーロ（一ユーロ=一〇〇円換算で 三兆二七〇八億円）で前年比四六・ 三％増、ＥＢＩＴＤＡ（金利・税金・ 償却前利益）は二〇億ユーロ（同二〇 三三億円）で同一五八％増だった。
郵便事業では主にドイツ国内で手紙 （ダイレクトメールや出版物も含む）や 小包配送など輸送関連事業を手掛けて いる。
二〇〇〇年度の収入は一一七億 ユーロ（同一兆一七三三億円）で同 〇・五％増、ＥＢＩＴＤＡは二三億ユ ーロ（同二三七九億円）、同九八・六％ 増。
このうち、ダイレクトメールは郵 便事業収入の一八％程度を占めている。
ドイツ市場をほぼ独占している欧州 最大の郵便会社であり、欧州ナンバー ワンのサービスレベルであるという定 評があるが、日本の郵便や宅配便のそ れと比べるとやや劣っているという感 がある（これは筆者の経験でもあり、 ドイツ駐在日本人や日本滞在経験ドイ ツ人などのコンセンサスでもある）。
宅配事業は小包・速達サービスがメ インで、ドイツ国内ばかりでなく、欧 州全体に事業を拡大している。
欧州で はおよそ一〇％強のシェアを保有して いるトップ企業である。
以下、ＴＰＧ （蘭）、ロイヤルメイル（英）、ラ・ポス ト（仏）、ＵＰＳ（米）と続く。
宅配事業の二〇〇〇年度の収入は六 〇億ユーロ（同六〇二二億円）で同二 六・一％増、ＥＢＩＴＤＡは〇・七六 億ユーロ（同七六億円）で同二六・ 六％増。
相次ぐ企業買収の結果が反映された実績であるが、今後は内部の統 廃合が課題となってくるだろう。
物流事業は国際的な航空フォワーダ ー事業が中心で、積極的な買収施策 （ Danzas を核にしたＡＳＧ、ＡＥの買 収）が奏功している。
ただし、ＵＰＳ やフェデックスなどと真正面から競合 する事業であり、事業の寡占化・大型 化が予想される分野である。
二〇〇〇 年度の収入は八二億ユーロ（同八二八 第4回 ドイツポストワールドネット ドイツポストワールドネットはＵＰＳに次ぐ世界 第二位の時価総額を有する物流企業である。
郵便、 宅配、物流、金融の四本柱でビジネスを展開して おり、年間収入は三兆円を超える。
日本での知名 度はまだ低いが、関係者が頻繁に訪日しており、本 格的な日本進出の日もそう遠くはなさそうだ。
北見聡 野村証券金融研究所 運輸担当アナリスト ※ する予定であった。
しかし、欧州議会 におけるＥＵ郵便法案の審議会では、 二〇〇五年の自由化議論は後退し（三 五〇グラムから一五〇グラムへと緩和 が後退）、二〇〇七年に計画されてい る完全自由化の時期も是認されていな いようである。
民営化したドイツポストにとっては、 規制に守られたキャッシュフローが自 由化まで蓄積され、企業体力は高まっ ていくだろう。
一方、日本では郵便事 業の民営化の前に自由化が行われる見 通しであり、国家公務員の身分保証の もとで特定民間事業者との排他的な提 携などの裁量権が認められず、規制に 守られた超過利潤は失われてしまう。
今回、ドイツポストの業績披露に誌 面を多く割いてしまったが、事業拡大 における企業買収施策の重要性を感じ るとともに、こうした企業が日本市場 に参入したときの影響を真剣に考えて おくことが必要なのではないだろうか。
83 JULY 2001 九億円）、同八六・二％増、ＥＢＩＴ ＤＡは一・一三億ユーロ（同一一三億 円、前年は二七億円の赤字）だった。
金融事業ではドイツ国内に個人顧客 を中心に約一〇〇〇万口座を保有して いる。
まさに日本の郵便貯金に値する ビジネスである。
従来のポストバンクと いわれる金融部門が商業銀行であるＤ ＳＬ銀行と合併してビジネスを展開し ている。
二〇〇〇年度の収入は七九億 ユーロ（同七九九〇億円）で同一七八％ 増、ＥＢＩＴＤＡは五億ユーロ（同五 〇五億円）で、同七七〇％増だった。
総じて見ると、二〇〇〇年度に売上 高や利益を大幅に伸ばしている部門が 目に付く。
これらは国際事業拡大、郵 便・宅配・物流の分野での多様化した サービスの提供、という二つの事業戦 略を突き進めた結果である。
すなわち、 「時間を金で買う」海外企業では一般 的である企業買収施策がドイツポスト でも実行されたということである。
関係者の訪日が続く さて、こうしたドイツポストの戦略 や業績が日本に与える影響だが、それ は以下の点に示されよう。
第一に日本の物流事業者に与える影 響を整理してみたい。
この数年間を振り返れば、日本の物流企業と海外企業 とのアライアンスが加速してきている ように思われる。
日本企業が国内での 貨物輸送量の停滞を背景に、海外発着 の貨物を確保すべく道を探ったからだ。
同時に、海外企業から見ても、世界 第二位の消費大国の物量と中国を含め たアジア関連の荷物への影響を考える と、アジアでトップクラスの日本企業 と提携することは、有意なことといえ よう。
最近、ドイツポスト関係者を含 む海外物流事業者の訪日の話を耳にす ることも多い。
日本企業はこうした海 外企業の日本進出に如何に対応すべき か、検討すべき事項は多いだろう。
第二に、日本の郵政事業の民営化に 与えるインパクトである。
ドイツの郵 便自由化は二〇〇三年から徐々に自由 化が進められ（郵便物の重量制限を現 行の三五〇グラムから五〇グラムへ緩 和）、二〇〇七年に完全自由化が実現 ● EBITDA Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization （金 利・税金・償却前利益）の略。
税前利益 に支払利息、固定資産の減価償却費を加 えて求める。
損益計算書の利益と並んで 最近、企業の評価に多く用いられるよう になっている。
《用語解説》 ＊出典：野村証券ホームページ Revenue and profit（収益） Revenue（収入） MAIL（郵便事業） MAIL share（構成比率） EXPRESS（宅配事業） EXPRESS share（構成比率） LOGISTICS（物流事業） LOGISTICS share（構成比率） FINANCIAL SERVICES（金融事業） FINANCIAL SERVICES share（構成比率） Corporate divisions total（4事業合計） Other/consolidation（連結消去） Total（合計） EBITDA（金利・税金・償却前利益） Profit from operative activities, before amortization of goodwill (EBITA) MAIL（郵便事業） MAIL share（構成比率） EXPRESS（宅配事業） EXPRESS share（構成比率） LOGISTICS（物流事業） LOGISTICS share（構成比率） FINANCIAL SERVICES（金融事業） FINANCIAL SERVICES share（構成比率） Corporate divisions total（4事業合計） Other/consolidation（連結消去） Total（合計） EBIT Return on sales(営業利益率） Net profit for the period before ｠minority ｠interest（当期利益） 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ 百万ユーロ 百万ユーロ 百万ユーロ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ 百万ユーロ 百万ユーロ 百万ユーロ ％ 百万ユーロ 1997 10,788 75.3 3,533 24.7 0 0 0 0.0 14,321 −189 14,132 1,299 599 110.1 −55 n/a 0 0.0 0 0.0 544 15 559 556 4.0 751 1998 11,272 74.3 3,818 25.2 0 0.0 81.0 0.5 15171.0 −502 14,669 1,554 944 101.1 −7 n/a 0 0.0 −4 n/a 933 −100 833 827 5.7 925 1999 11,671 49.1 4,775 20.1 4,450 18.7 2,871 12.1 23,767 −1.404 22,363 1,830 1,009 91.7 60 5.5 −27 n/a 58 5.3 1,100 −179 921 851 4.1 1,029 2000 11,733 34.5 6,022 17.7 8,289 24.3 7,990 23.5 34,034 −1.326 32,708 3,426 2,004 74.3 76 2.8 113 4.2 505 18.7 2,698 −319 2,379 2,235 7.3 1,527 ドイツポストの業績推移 単　位