ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
特集
小売り物流のカラクリ 畑から胃袋までの垂直統合を目指す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 26 製造後一五日以内に食べて欲しい ――ジャスコとの取引形態見直しの反響は大きかった のではないでしょうか。
「それはものすごいですよ(笑)。
各方面から『事情を 説明してくれ』と問い合わせが相次いで、全国を飛び 回る毎日です。
卸さんにとって、メーカーと小売りの 直接取引は商権の損失を意味しますからね。
反発があ って当然です」 ――それでも敢えてイバラの道を選んだ理由は。
「理由は簡単です。
畑から胃袋までを垂直統合して 消費者に新鮮な商品を提供したい。
それだけです。
数 年前に日本とカナダでポテトチップスの店頭での鮮度 を比較したのですが、カナダの店頭に並んでいる商品 の八〇%が製造日から二〇日以内のものだった。
これ に対して、日本は五〇%しかない。
つまり、日本の消 費者よりもカナダの消費者のほうが新鮮なポテトチッ プスを食べているわけです」 「それは何故か。
メーカーと小売りの間に卸が介在 していたり、さらに物流センターが何カ所もあるなど 日本の流通構造が複雑で、店頭に並ぶまでに時間が 掛かるからです。
当社としては、すべての消費者に製 造日から一五日以内、せいぜい譲っても二〇日以内 に商品を食べてもらいたい。
そのためには一日でも早 く店頭に商品を並べることが必要なのです」 ――現在、流通経路は何パターンあるのですか。
「まず工場に隣接しているDCから卸さんのセンタ ーを経由して店頭にいくのが一つ。
これはパパママス トアのような小さな小売店舗向けです。
もう一つは卸 さんの帳合いだけれども、直接工場隣接のDCから小 売業さんの物流センターに入って店頭にいくパターン。
次に、卸さんのセンターに入って、さらに小売業さん のセンターに入ってから店頭にいくパターン。
最後に レアケースですが、工場から直接店頭に並ぶ場合もあ る。
これは欠品が発生した場合などです」 ――ジャスコとの直取引では一気にリードタイムが短 縮されるわけですね。
「各工場に隣接する物流センターから出荷される商 品は、だいたい製造から三日以内のものです。
ジャス コさんの物流センターに直接納品するようになると、 早ければ製造から四日しか経っていない商品を店頭に 並べることができる計算になります」 「当社にとって、ジャスコさんの販売力で商品の回 転率が高まれば、製造日から二〇日以内どころか、一 五日以内で消費してもらうことも夢ではなくなる。
回 転率が上がれば在庫は減り、無駄なコストが掛からな くなるという効果も期待できる。
ジャスコさんにとっ ても、常に新鮮な商品を提供できるようになれば、ス トアロイヤリティーが高まって売り上げが伸びるとい うメリットがあるはずです」 ――つまり、カルビーの理想とするサプライチェーン では卸の存在が邪魔だということですか? 「決してそんなことはありません。
卸さんの機能とい うのは商品の特性によって、必要な場合とそうでない 場合があると思います。
例えば、ケースピッキングやピ ースピッキングといった物流作業で商品カテゴリーを 分類すると、ポテトチップスはどちらかというとケース ピッキングに属する商品です。
容積はあるけれど、単 価の低いポテトチップスのような商品は物流センター を何カ所も経由するよりも、ケース単位で大量一括に 小売りまで直接動かしたほうがコストが掛からない」 「新鮮な商品を店頭に並べることができないのは、卸 さんが在庫を抱えているからです。
もちろん、卸さん は好んで在庫を何日分も持っているわけではない。
そ Interview 「畑から胃袋までの垂直統合を目指す」 加工食品メーカーとして、ジャスコの今回の物流改革 に最も前向きな姿勢を見せたのがカルビーだ。
同社は経 営目標に、鮮度の高い商品を消費者に供給することを掲 げている。
今回のジャスコとの直接取引もその一環だと いう。
流通経路の簡素化で店頭に新鮮な商品を並べ、顧 客満足度を高めると同時に、無駄な流通在庫の圧縮を狙 っている。
カルビー新谷俊平 専務取締役 27 JULY 2001 れは小売業さんの『いきなり特売』に対応するためな んです。
小売業さんは急なオーダーを出しておいて、 欠品が生じると卸さんをいじめる。
そうならないよう に卸さんは余計に在庫を確保していく。
その結果、店 頭には倉庫で何日も寝ていた商品が並ぶ。
それを消費 者が口にするという構図になっているわけです」 工場渡し価格を提示 ――卸は小売業からのセンターフィー要求にも苦しめ られていますよね。
「正規の商売の部分で儲けが出ないからといって、ブ ラックボックスの部分で儲けようとしているのであれ ば非常に問題です。
商品特性や量、さらにケースピッ キングやピースピッキングといった物流の処理の仕方 でコストは違ってくるはずですよね。
それなのに、一 律何%というかたちでセンターフィーを要求されるケ ースもあるわけですから、不信感は拭えません」 「実際、卸さんは大変苦労なさっているわけですが、 そのしわ寄せが当然われわれメーカー、さらには商品 の品質低下というかたちで消費者にまで及んでいます。
消費者は品質の悪い商品は購入しないわけですから、 結局小売りさんも儲からなくなる。
こうやってセンタ ーフィーによる負のサイクルが続いていく」 ――ジャスコは今回の物流改革で、工場渡し価格と物 流費を明確化するようにメーカーに求めています。
こ れによって、センターフィー問題も少しは改善される のでしょうか。
「当社はジャスコさんの要求に応えるわけですが、仮 に契約段階でセンター運営費を五%と決めたら、後で どんなことがあってもそれ以上のフィーは支払わない つもりです。
工場渡し価格で取引するわけですから、 蓋を開けてみたところでコスト高だったとしても『そ れはジャスコさんで何とかしてください』というしか ない。
もちろん、ジャスコさんも覚悟を決めて改革を 進めていくわけでしょうから、そのような事態には陥 らないとは思いますが」 ――ジャスコがカルビーの物流センターまで商品を取 りに行くかたちになるのですか。
「第一次物流、つまり工場からジャスコさんの物流 センターまでの物流は当社が担当することになります。
取引も工場渡し価格と物流費を含めたネット価格で 行います。
もちろん、ジャスコさんには工場渡し価格 と物流費を分けた数字を提示します」 ――物流をベンダー側に任せるのであれば、従来の取 引とあまり変わらないでは。
「ジャスコさんにとっては物流センターまでの物流 コストが明確になったことに意義があるのでしょう。
当社に物流を任せた場合と自社で取りに行く場合の コストを比較した結果、『これはカルビーに任せたほ うがいい』と判断したのでしょう」――カルビー任せのほうが安いということですか。
「その通りです。
先にも述べましたが、ポテトチップ スは運賃負担力のない商品なのです。
例えば、一〇ト ン車に一〇〇〇ケース積むとしましょう。
一ケース当 たりの商品価格が一五〇〇円だとすると、全部で一 五〇万円分の商品しか積めない計算になります。
この うち何%を物流費として計上できるかを考えた時に、 ジャスコさんは『自社で取りに行くと採算が合わな い』という結論に達したのでしょう」 ――カルビーがその分をかぶることになるのですか。
「決してそんなことはありません。
詳しいことはいえ ませんが、運賃負担力のない菓子という商品を扱うメ ーカーにはそれなりの物流のノウハウがあるのです。
物流業者を泣かせるようなこともしていません」 特集 小売り物流のカラクリ

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