2001年12月号
特集
特集
リサイクル物流の真実 検証・家電リサイクル物流
DECEMBER 2001 16
滑り出しは順調に見えるが…
今年四月、家電リサイクル法が本格施行された。
エ アコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の四品目を対象に、 使用済み家電製品をリサイクルする仕組みが国家レベ ルで動き出した。
来年五月には使用済み自動車のリサ イクルもスタートする予定だ。
パソコンのリサイクル が始まるのも時間の問題と目されている。
いずれも現 在の家電リサイクル法がその叩き台になる。
メーカーから利用者に至るまで、家電ビジネスの関 係者すべてに役割分担を義務付けた日本の家電リサ イクル法は、多くの意味で画期的な法律といっていい。
基幹産業の一つである家電業界全体に一気にリサイ クルの網をかけるというアプローチは、世界的にみて も先進的な試みだ。
九八年六月に法案が成立したと きには、環進先進国として名高いドイツにすら、これ ほど産業界に直接的な負担を強いる法律はなかった。
家電リサイクル法では、家電メーカーと家電小売業 者、そして消費者の三者それぞれの役割分担を明文 化している。
最終責任を負わされることになる家電メ ーカーは、廃家電の「引き取り」と「再商品化」を義 務付けられた。
小売業者は消費者からの「引き取り」 と、メーカーの設置する?指定取引場所〞での「引き 渡し」を担う。
そして消費者は、廃家電を排出する際 の「適正な引き渡し」と、再商品化のための「費用の 支払い」に協力する必要がある(図1)。
四月の本格施行後の運用状況を見ると、スタート 当初こそ回収量が伸び悩んだが、二カ月目の五月から は着実に台数を集めている。
夏期には猛暑の影響でエ アコンの販売台数が急拡大し、これにともない廃家電 の回収量も急増した。
開始七カ月間の累計回収台数 は五一七万台。
事前の予想をはるかに上回っている。
同時に今年度だけで年間数十億円のまったく新しい 物流市場が生まれたことになる。
懸念された不法投棄も、いまのところ目立った動き はない。
環境省が一〇月に全国二七五の市町村を対 象に実施した調査では、大半の自治体の不法投棄の 増減台数はひと桁台とほぼ前年比で横這いだった。
家 電量販店の業界団体である日本電気大型店協会(N EBA)が会員三一社を対象にしたアンケートでも、 「不法投棄が増えた店もあるが、それ以上に減ってい る店もある。
全体としては変わっていない」(NEB Aの小川作蔵事務局長)という結果が出ている。
矛盾だらけのゴミ行政 これまでの運用状況は表面的には順調のように見え る。
しかし、実際には多くの矛盾点が噴出している。
そもそも同法は、民間企業による自由競争を促してリ サイクルの効率化を進めるために、競争規制となって いる廃棄物処理法の影響を遮断する防壁となるはずだ った。
事実、家電リサイクル法の施行によって、家電 四品目に関しては、一廃の許可を持たない一般の物 流業者でも、小売業者の委託があれば、消費者宅か ら排出される廃家電の収集運搬を行うことが許される ようになった。
ところが、静脈物流に参入した物流業者のほとんど が今のところ消費者宅からの集荷、いわゆる「一次輸 送」には着手していない。
家電リサイクル法では、廃 家電の回収チャネルを「指定引取場所」を中間点と して、二つに区分している。
消費者から使用済み家電 を引き上げて指定引取場所まで運搬するのが「一次 輸送」。
指定引取場所からメーカーのプラントまで運 ぶのを「二次輸送」と呼ぶ。
このうち物流業者が担っ ているのは一部の例外を除いて二次輸送のみ。
二次輸 検証・家電リサイクル物流 日本では家電、パソコンや自動車といった商品分野 ごとに環境規制の強化が進められている。
そのモデル ケースとなるのが、家電リサイクル法だ。
今年4月の 本格施行以降、その運用状況は表面上、順調に見え る。
しかし、実態を詳しく調べていくと様々な矛盾点 が浮かび上がってくる。
第2部 17 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集 送は大型トラックによる拠点間輸送であり、帰り便の 利用に使える程度で、効率化の余地は少ない。
現在の一次輸送で一般の物流業者が扱うことので きるのは四品目だけであり、その他の廃家電について は従来通り一廃許可をもった業者でなければ収集運 搬を許されない。
結果として、一次輸送の受付窓口と なっている小売店は従来通り一廃業者に四品目も含 めて委託してしまう。
物流業者には参入の余地がない。
さらに東京都の場合、一般消費者が廃家電の指定 引取場所に集荷依頼の電話をすると「家電リサイクル 受付センター」という事務代行会社を紹介されて、そ こで一廃業者が手配される仕組みになっている。
この 場合、利用者は週二回程度の指定日に、家の前に廃 家電を出しておく必要がある。
収集運搬料金(税込 み)はテレビと洗濯機が一五〇〇円、エアコンと冷蔵 庫が二〇〇〇円だ。
この値段とサービスなら一般の物 流業者にとって「十分おいしい仕事だが、手を出せず にいる。
確かに法律上は一廃分野の進出も可能になっ たが、現実には一廃許可を持っている業者しか事実上 できないようにしている自治体が少なくない」と、静 脈物流を手がける物流業者は打ち明ける。
結果として一次輸送の分野では本来期待された競 争による効率化が進んでいない。
従来の廃棄物処理で は、自治体単位で細分化されていたことが効率化の妨 げになっていた。
家電リサイクル法は、そこに大規模 な広域処理の概念を持ち込んだ。
さらに廃棄物処理 業の許可制度と一線を画することで、規制でがんじが らめの廃棄物処理の世界に「競争原理」の導入を促 した。
こうした法律の狙いは高く評価できる。
しかし、 現実には廃家電の処理コストを負担する当事者が、従 来の自治体から、メーカーや小売り、消費者などの排 出者側に移っただけに止まっている。
小売業の立場で、新たな負担を強いられているNE BAの小川事務局長は「我々も家電業界で仕事をし ている以上、相応の負担はする。
しかし自治体にでき ないからといって、それを民間にしわ寄せするのは間 違っている。
そもそも廃棄物行政のグランドデザイン がないまま、個別の分野ごとに法律を作るというやり 方が間違っている。
そんな場当たり的な法律では廃棄 物問題には対処できない」と訴えている。
今回、家電リサイクル法の対象が四品目に絞られた 理由を、国は次のように説明している。
?自治体によ る処理が困難、?リサイクルの必要性が高い、?メー カーによる設計や部品などの選択がリサイクルに重要 な影響を与える、?小売業者による収集が合理的に 行える――。
従来から家電四品目は、新品を購入する 際に、旧い機種を廃棄するケースが大半を占めていた。
その際に家電小売店が廃家電を引き取ってくることが 確実な回収につながるという判断だった。
つまり、国はやりやすい所から手を着け、強い抵抗の予想される廃棄物処理法の改正など、抜本的な対 策は棚上げにした。
こうした行政の矛盾が、リサイク ル物流の現場にしわ寄せされている。
それだけでなく、 家電メーカー同士の競争が、合理性を欠いた形で展 開されるという結果まで招いている。
官主導で競争原理を導入 家電リサイクル法の条文にはインフラ整備の大枠が 次のように提示されている。
まず家電メーカーは全国 で家電をリサイクルするための「再商品化工場(プラ ント)」を設置する。
さらに、ここに廃家電を回収す るためのネットワークを作るのだが、消費者や小売業 者の利便性を高めるためプラントまでの中間デポとし ての「指定引取場所」を設置する。
どこに、どれだけ アールステーションの 村松弘一社長 図1 家電リサイクル法で変わった使用済み家電の処理ルート 家電販売業者 自治体 最終埋め立て リサイクル 中間処理業者 (金属回収など) 消費者 処理業者 (適正な引き渡し) (費用の支払い) 消費者 「1次輸送」(販売業者の業務範囲) 家電販売業者 及び指定法人 (引き取り義務) (引き渡し義務) 自治体など (引き取り可能) (引き渡し可能) 最終埋め立て リサイクル (素材業者など) 全国三八〇カ所 (A・Bとも一九〇カ所) 指定引取場所 (引き取り義務) Aグループ 33 カ所 Bグループ 15 カ所 再商品化工場 (再商品化等の義務) 「2次輸送」 (家電メーカーの業務範囲) 現在(2001年4月以後) 従 来 DECEMBER 2001 18 の施設を設置すべきかは全くの白紙の状態だったが、 いわば全国を網羅するハブ&スポークの廃家電回収ネ ットワークを新たに作れという指示だった。
競争原理の導入を目指す経済産業省は当初、家電 メーカー各社が個別に対応することを想定していた。
しかし、各メーカーにしてみれば、すべてのインフラ 整備を個別に手掛けるのではムダが多すぎる。
幸い家 電メーカー各社の担当者は、法案成立にさきがけて業 界団体が行った廃家電処理の実証実験などを通じて、 頻繁に情報を交換する間柄だった。
そこで大手七社(松下電器産業、東芝、日立製作 所、三菱電機、三洋電機、シャープ、ソニー)は「家 電リサイクル研究会」を組織し、互いに情報交換をし ながらインフラ整備を進めることにした。
当時は、法 律の枠組みのあやふやな部分が少なくなかったため、 互いに解釈を確認し合うという狙いもあった。
同研究会には、主にプラント、ロジスティクス、情 報システムの三分野の専門家が各メーカーから派遣さ れた。
分野ごとにワーキンググループ(WG)を作り 課題に取り組む。
最初にクリアすべき課題はプラント の設置条件だった。
十数億円の投資を要するプラント は装置産業で、一定の量の廃家電を確保できなければ 採算が合わない。
かといって各社のプラントが特定の 地域に集中してしまっては、適正配置という法律の主 旨に反してしまう。
当時、三菱電機からロジスティクス担当として参加 し、現在は家電リサイクルの業務代行会社アールステ ーションに出向している松田勲業務部長は、こう振り 返る。
「まずは各メーカーが最低一カ所ずつプラント を作る。
それで足りなければ全国のエコタウン事業を 利用する。
まだ足りなければ、既存業者を使う。
その 三段構えで考えていた」。
処理ノウハウを獲得するた めに各社がそれぞれプラントを構え、これを各メーカ ーが相互利用する。
プラントの立地はメーカーごとに 意向を出し合い、不都合が生じれば調整するというも のだった。
プラントの設置条件を詰める一方で、ロジスティク スの担当者達は全国に設置する「指定引取場所」の 検討を重ねていた。
「各社が出荷統計を持ち寄り、こ こに各市町村の世帯数、人工分布などのデータを加え た。
さらにプラントとの距離や道路の混み具合といっ た情報も加味して、指定引取場所をどこに、いくつ配 置すべきかのシミュレーションを繰り返した」と、ソ ニー出身で現在はアールステーションの社長を務める 村松弘一氏は説明する。
マクロ的な見地から全体のネ ットワークを構築するという、従来の廃棄物処理には ないアプローチだった(図2)。
家電業界が二つに分裂 こうして大手家電七社が一丸になって進むかにみえ たが、九九年のはじめに転機が訪れた。
業界最大手の 松下と二番手グループの筆頭ともいうべき東芝が、「既 存の廃棄物処理業者を使って投資を抑え、ローコスト の仕組みを作ろう」(松下電器産業リサイクル事業推 進室の福田功室長)と打ち出したのである。
しかし、 新しいネットワークを作ることをメーンに考えていた 他の家電メーカーは、松下・東芝の提案には首を振っ た。
ほどなく家電業界は「松下―東芝」による二社連 合(Aグループ)と、「日立―三菱―三洋―シャープ ―ソニー」の五社連合(Bグループ)に分かれ、七社 による研究会も解消されることになった。
家電メーカー間のグループ化が思わぬ展開をみせる 一方で、「指定引取場所」を設置する作業は着々と進 められていた。
「物流コストを減らそうとすれば、拠 北海道苫小牧市 北海道エコリサイクルシステムズ (日立) 栃木県大平町 関東エコリサイクル 事業主体(日立) 東京都江東区 東京エコリサイクル (日立) 静岡県富士宮市 富士エコリサイクル (富士通ゼネラル) 千葉県市川市 ハイパーサイクルシステムズ (三菱) 愛知県名古屋市 グリーンサイクル (ソニー) 兵庫県社町 松下エコテクノロジーセンター (松下) 兵庫県姫路市 アール・ビー・エヌ (三洋) 福岡県北九州市 西日本家電リサイクル (ABグループ共用) (東芝) 図2 主な家電リサイクルプラントの整備状況 Aグループ(23施設) Bグループ(15施設) 大阪府枚方市 関西リサイクルシステムズ (シャープ) リサイクル物流の真実 特集 19 DECEMBER 2001 点数を減らすのが一番てっとり早い。
さんざんシミュ レーションを繰り返した結果、全国一〇〇カ所弱がコ スト的にはもっとも安くなることが分かった」(アー ルステーションの松田部長)と、家電メーカーの意見 は集約されつつあった。
ところがプラントと同様、こちらも机上の計算通り には進まなかった。
九九年二月から、家電メーカー各 社とNEBAの間では、廃家電回収のインフラ整備 に関する話し合いがスタートしていた。
NEBA加盟 店の販売総額は二兆八五〇〇億円(二〇〇〇年度)。
全家電販売量の約三五%のシェアを握っている。
この 協議には、すでに方針の違いでAとBの二陣営に分か れていた大手七メーカーの担当者が顔を揃えた。
「指定引取場所」の設置数をめぐる両者の主張は、 真っ向から対立した。
物流コスト抑制のために一〇〇 カ所程度に抑えたいメーカー側に対して、NEBAは 利便性のためには全国四〇〇〜五〇〇カ所は必要と 主張した。
その後、自治体や一般廃棄物業者の代表 との協議を繰り返し、メーカー側は徐々に数を引き上 げていった。
結局、二〇〇〇年の夏過ぎにはAとB両 グループとも、それぞれ一九〇カ所で最終合意した。
立地については、両陣営がそれぞれ似たようなデータ に基づいて設置したため、結果としてだいたい同じよ うな場所におくことになった。
つまり、似たようなネ ットワークが二つできることになった。
コストは依然、闇の中 収集運搬料とは別にメーカー側が排出者から徴収 する「リサイクル料金」の設定も難航した。
NEB Aは、リサイクル料金を二〇〇〇〜三〇〇〇円に抑 えるように要請した。
これに対して家電メーカー側は 概ね五〇〇〇〜六〇〇〇円を想定しており双方の希 望価格にはかなりの隔たりがあった。
さらにメーカー 間でも、著しいコスト差があるのは明らかだった。
二〇〇一年四月の本格施行を前に、もうこれ以上 は先送りできないという時期の二〇〇〇年九月四日、 松下が洗濯機二四〇〇円、冷蔵庫四六〇〇円、テレ ビ二七〇〇円、エアコン三五〇〇円という「リサイク ル料金」を公表した。
続く数日間の間に大手家電各 社が相次いで料金を公表した。
仕組みの違いによって コストが違うにもかかわらず、各社の処理料金はすべ て松下と同じだった。
これとは対照的に、一時輸送のための収集運搬料 金は受付窓口によって大きなバラツキがある。
競争原 理が働く家電量販店での「買い換え」の場合は各社 とも低料金に抑えられている。
しかし、「引き取りの み」の料金には、同じ商圏に店舗を構える小売店でも 二倍から三倍もの開きがあり、中にはテレビの一時輸 送に六七〇〇円を徴収するケースもある(図3)。
問題の物流コストの内訳だが、現状ではほとんど開示されていない。
九九年から「エコマテリアル海上輸 送研究会」の委員長を務めている神戸商船大学の久 保雅義教授は、「海上輸送を活用した廃家電処理ネッ トワークの研究を続けてきたが、家電メーカーが輸送 費と処理費を教えてくれないため、現状では採算性の 比較のしようがない」と嘆く。
家電リサイクル法の第十三条には「(料金は)収集 および運搬を適正に行った場合における適正な原価を 勘案して定められなければならない」とある。
果たし てこうした料金設定が、「適正な原価」であり、経済産 業省のいう?競争原理の導入〞を正当に反映したもの なのかどうか。
同省の情報通信機器課環境リサイクル 室に問い合わせてみたが「ノーコメント」と素っ気な い答えが返ってきただけだった。
図3 大手家電小売店の店頭で表示されている家電リサイクルのための収集運搬料金一覧(税別) 一次輸送費 コジマ ヤマダ電機 ヨドバシカメラ さくらや ビックカメラ 石丸電気(大型) (中小型) ラオックス オノデン メーカーの処理費用 二次輸送費+再商品化費用 消費者の総負担額 (一次+二次+再商品化) 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 2,400 洗濯機 2500〜 4400 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 4,600 冷蔵庫 4700〜 6600 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 2,700 テレビ 2800〜 4700 500 500 100 100 100 1,000 1,000 1,000 1,000 3,500 エアコン 3600〜 4500 1,800 3,000 4,000 4,000 6,400 6,000 3,000 3,500 2,200 2,400 洗濯機 4200〜 8800 2,200 3,000 4,000 4,000 8,600 6,000 3,000 3,500 2,900 4,600 冷蔵庫 6800〜 13200 1,700 3,000 4,000 4,000 6,700 6,000 3,000 3,500 1,900 2,700 テレビ 4400〜 9400 1,900 3,000 4,000 4,000 7,500 3,000 3,000 3,500 2,500 3,500 エアコン 5400〜 11000 買い換え(新品購入が条件) 引き取りのみ(廃棄のための回収依頼) 洗濯機 冷蔵庫 テレビ ※対象エリアは基本的に店舗展開をしている地域のみ エアコン 洗濯機 冷蔵庫 テレビ エアコン LOGI-BIZ調べ
エ アコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の四品目を対象に、 使用済み家電製品をリサイクルする仕組みが国家レベ ルで動き出した。
来年五月には使用済み自動車のリサ イクルもスタートする予定だ。
パソコンのリサイクル が始まるのも時間の問題と目されている。
いずれも現 在の家電リサイクル法がその叩き台になる。
メーカーから利用者に至るまで、家電ビジネスの関 係者すべてに役割分担を義務付けた日本の家電リサ イクル法は、多くの意味で画期的な法律といっていい。
基幹産業の一つである家電業界全体に一気にリサイ クルの網をかけるというアプローチは、世界的にみて も先進的な試みだ。
九八年六月に法案が成立したと きには、環進先進国として名高いドイツにすら、これ ほど産業界に直接的な負担を強いる法律はなかった。
家電リサイクル法では、家電メーカーと家電小売業 者、そして消費者の三者それぞれの役割分担を明文 化している。
最終責任を負わされることになる家電メ ーカーは、廃家電の「引き取り」と「再商品化」を義 務付けられた。
小売業者は消費者からの「引き取り」 と、メーカーの設置する?指定取引場所〞での「引き 渡し」を担う。
そして消費者は、廃家電を排出する際 の「適正な引き渡し」と、再商品化のための「費用の 支払い」に協力する必要がある(図1)。
四月の本格施行後の運用状況を見ると、スタート 当初こそ回収量が伸び悩んだが、二カ月目の五月から は着実に台数を集めている。
夏期には猛暑の影響でエ アコンの販売台数が急拡大し、これにともない廃家電 の回収量も急増した。
開始七カ月間の累計回収台数 は五一七万台。
事前の予想をはるかに上回っている。
同時に今年度だけで年間数十億円のまったく新しい 物流市場が生まれたことになる。
懸念された不法投棄も、いまのところ目立った動き はない。
環境省が一〇月に全国二七五の市町村を対 象に実施した調査では、大半の自治体の不法投棄の 増減台数はひと桁台とほぼ前年比で横這いだった。
家 電量販店の業界団体である日本電気大型店協会(N EBA)が会員三一社を対象にしたアンケートでも、 「不法投棄が増えた店もあるが、それ以上に減ってい る店もある。
全体としては変わっていない」(NEB Aの小川作蔵事務局長)という結果が出ている。
矛盾だらけのゴミ行政 これまでの運用状況は表面的には順調のように見え る。
しかし、実際には多くの矛盾点が噴出している。
そもそも同法は、民間企業による自由競争を促してリ サイクルの効率化を進めるために、競争規制となって いる廃棄物処理法の影響を遮断する防壁となるはずだ った。
事実、家電リサイクル法の施行によって、家電 四品目に関しては、一廃の許可を持たない一般の物 流業者でも、小売業者の委託があれば、消費者宅か ら排出される廃家電の収集運搬を行うことが許される ようになった。
ところが、静脈物流に参入した物流業者のほとんど が今のところ消費者宅からの集荷、いわゆる「一次輸 送」には着手していない。
家電リサイクル法では、廃 家電の回収チャネルを「指定引取場所」を中間点と して、二つに区分している。
消費者から使用済み家電 を引き上げて指定引取場所まで運搬するのが「一次 輸送」。
指定引取場所からメーカーのプラントまで運 ぶのを「二次輸送」と呼ぶ。
このうち物流業者が担っ ているのは一部の例外を除いて二次輸送のみ。
二次輸 検証・家電リサイクル物流 日本では家電、パソコンや自動車といった商品分野 ごとに環境規制の強化が進められている。
そのモデル ケースとなるのが、家電リサイクル法だ。
今年4月の 本格施行以降、その運用状況は表面上、順調に見え る。
しかし、実態を詳しく調べていくと様々な矛盾点 が浮かび上がってくる。
第2部 17 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集 送は大型トラックによる拠点間輸送であり、帰り便の 利用に使える程度で、効率化の余地は少ない。
現在の一次輸送で一般の物流業者が扱うことので きるのは四品目だけであり、その他の廃家電について は従来通り一廃許可をもった業者でなければ収集運 搬を許されない。
結果として、一次輸送の受付窓口と なっている小売店は従来通り一廃業者に四品目も含 めて委託してしまう。
物流業者には参入の余地がない。
さらに東京都の場合、一般消費者が廃家電の指定 引取場所に集荷依頼の電話をすると「家電リサイクル 受付センター」という事務代行会社を紹介されて、そ こで一廃業者が手配される仕組みになっている。
この 場合、利用者は週二回程度の指定日に、家の前に廃 家電を出しておく必要がある。
収集運搬料金(税込 み)はテレビと洗濯機が一五〇〇円、エアコンと冷蔵 庫が二〇〇〇円だ。
この値段とサービスなら一般の物 流業者にとって「十分おいしい仕事だが、手を出せず にいる。
確かに法律上は一廃分野の進出も可能になっ たが、現実には一廃許可を持っている業者しか事実上 できないようにしている自治体が少なくない」と、静 脈物流を手がける物流業者は打ち明ける。
結果として一次輸送の分野では本来期待された競 争による効率化が進んでいない。
従来の廃棄物処理で は、自治体単位で細分化されていたことが効率化の妨 げになっていた。
家電リサイクル法は、そこに大規模 な広域処理の概念を持ち込んだ。
さらに廃棄物処理 業の許可制度と一線を画することで、規制でがんじが らめの廃棄物処理の世界に「競争原理」の導入を促 した。
こうした法律の狙いは高く評価できる。
しかし、 現実には廃家電の処理コストを負担する当事者が、従 来の自治体から、メーカーや小売り、消費者などの排 出者側に移っただけに止まっている。
小売業の立場で、新たな負担を強いられているNE BAの小川事務局長は「我々も家電業界で仕事をし ている以上、相応の負担はする。
しかし自治体にでき ないからといって、それを民間にしわ寄せするのは間 違っている。
そもそも廃棄物行政のグランドデザイン がないまま、個別の分野ごとに法律を作るというやり 方が間違っている。
そんな場当たり的な法律では廃棄 物問題には対処できない」と訴えている。
今回、家電リサイクル法の対象が四品目に絞られた 理由を、国は次のように説明している。
?自治体によ る処理が困難、?リサイクルの必要性が高い、?メー カーによる設計や部品などの選択がリサイクルに重要 な影響を与える、?小売業者による収集が合理的に 行える――。
従来から家電四品目は、新品を購入する 際に、旧い機種を廃棄するケースが大半を占めていた。
その際に家電小売店が廃家電を引き取ってくることが 確実な回収につながるという判断だった。
つまり、国はやりやすい所から手を着け、強い抵抗の予想される廃棄物処理法の改正など、抜本的な対 策は棚上げにした。
こうした行政の矛盾が、リサイク ル物流の現場にしわ寄せされている。
それだけでなく、 家電メーカー同士の競争が、合理性を欠いた形で展 開されるという結果まで招いている。
官主導で競争原理を導入 家電リサイクル法の条文にはインフラ整備の大枠が 次のように提示されている。
まず家電メーカーは全国 で家電をリサイクルするための「再商品化工場(プラ ント)」を設置する。
さらに、ここに廃家電を回収す るためのネットワークを作るのだが、消費者や小売業 者の利便性を高めるためプラントまでの中間デポとし ての「指定引取場所」を設置する。
どこに、どれだけ アールステーションの 村松弘一社長 図1 家電リサイクル法で変わった使用済み家電の処理ルート 家電販売業者 自治体 最終埋め立て リサイクル 中間処理業者 (金属回収など) 消費者 処理業者 (適正な引き渡し) (費用の支払い) 消費者 「1次輸送」(販売業者の業務範囲) 家電販売業者 及び指定法人 (引き取り義務) (引き渡し義務) 自治体など (引き取り可能) (引き渡し可能) 最終埋め立て リサイクル (素材業者など) 全国三八〇カ所 (A・Bとも一九〇カ所) 指定引取場所 (引き取り義務) Aグループ 33 カ所 Bグループ 15 カ所 再商品化工場 (再商品化等の義務) 「2次輸送」 (家電メーカーの業務範囲) 現在(2001年4月以後) 従 来 DECEMBER 2001 18 の施設を設置すべきかは全くの白紙の状態だったが、 いわば全国を網羅するハブ&スポークの廃家電回収ネ ットワークを新たに作れという指示だった。
競争原理の導入を目指す経済産業省は当初、家電 メーカー各社が個別に対応することを想定していた。
しかし、各メーカーにしてみれば、すべてのインフラ 整備を個別に手掛けるのではムダが多すぎる。
幸い家 電メーカー各社の担当者は、法案成立にさきがけて業 界団体が行った廃家電処理の実証実験などを通じて、 頻繁に情報を交換する間柄だった。
そこで大手七社(松下電器産業、東芝、日立製作 所、三菱電機、三洋電機、シャープ、ソニー)は「家 電リサイクル研究会」を組織し、互いに情報交換をし ながらインフラ整備を進めることにした。
当時は、法 律の枠組みのあやふやな部分が少なくなかったため、 互いに解釈を確認し合うという狙いもあった。
同研究会には、主にプラント、ロジスティクス、情 報システムの三分野の専門家が各メーカーから派遣さ れた。
分野ごとにワーキンググループ(WG)を作り 課題に取り組む。
最初にクリアすべき課題はプラント の設置条件だった。
十数億円の投資を要するプラント は装置産業で、一定の量の廃家電を確保できなければ 採算が合わない。
かといって各社のプラントが特定の 地域に集中してしまっては、適正配置という法律の主 旨に反してしまう。
当時、三菱電機からロジスティクス担当として参加 し、現在は家電リサイクルの業務代行会社アールステ ーションに出向している松田勲業務部長は、こう振り 返る。
「まずは各メーカーが最低一カ所ずつプラント を作る。
それで足りなければ全国のエコタウン事業を 利用する。
まだ足りなければ、既存業者を使う。
その 三段構えで考えていた」。
処理ノウハウを獲得するた めに各社がそれぞれプラントを構え、これを各メーカ ーが相互利用する。
プラントの立地はメーカーごとに 意向を出し合い、不都合が生じれば調整するというも のだった。
プラントの設置条件を詰める一方で、ロジスティク スの担当者達は全国に設置する「指定引取場所」の 検討を重ねていた。
「各社が出荷統計を持ち寄り、こ こに各市町村の世帯数、人工分布などのデータを加え た。
さらにプラントとの距離や道路の混み具合といっ た情報も加味して、指定引取場所をどこに、いくつ配 置すべきかのシミュレーションを繰り返した」と、ソ ニー出身で現在はアールステーションの社長を務める 村松弘一氏は説明する。
マクロ的な見地から全体のネ ットワークを構築するという、従来の廃棄物処理には ないアプローチだった(図2)。
家電業界が二つに分裂 こうして大手家電七社が一丸になって進むかにみえ たが、九九年のはじめに転機が訪れた。
業界最大手の 松下と二番手グループの筆頭ともいうべき東芝が、「既 存の廃棄物処理業者を使って投資を抑え、ローコスト の仕組みを作ろう」(松下電器産業リサイクル事業推 進室の福田功室長)と打ち出したのである。
しかし、 新しいネットワークを作ることをメーンに考えていた 他の家電メーカーは、松下・東芝の提案には首を振っ た。
ほどなく家電業界は「松下―東芝」による二社連 合(Aグループ)と、「日立―三菱―三洋―シャープ ―ソニー」の五社連合(Bグループ)に分かれ、七社 による研究会も解消されることになった。
家電メーカー間のグループ化が思わぬ展開をみせる 一方で、「指定引取場所」を設置する作業は着々と進 められていた。
「物流コストを減らそうとすれば、拠 北海道苫小牧市 北海道エコリサイクルシステムズ (日立) 栃木県大平町 関東エコリサイクル 事業主体(日立) 東京都江東区 東京エコリサイクル (日立) 静岡県富士宮市 富士エコリサイクル (富士通ゼネラル) 千葉県市川市 ハイパーサイクルシステムズ (三菱) 愛知県名古屋市 グリーンサイクル (ソニー) 兵庫県社町 松下エコテクノロジーセンター (松下) 兵庫県姫路市 アール・ビー・エヌ (三洋) 福岡県北九州市 西日本家電リサイクル (ABグループ共用) (東芝) 図2 主な家電リサイクルプラントの整備状況 Aグループ(23施設) Bグループ(15施設) 大阪府枚方市 関西リサイクルシステムズ (シャープ) リサイクル物流の真実 特集 19 DECEMBER 2001 点数を減らすのが一番てっとり早い。
さんざんシミュ レーションを繰り返した結果、全国一〇〇カ所弱がコ スト的にはもっとも安くなることが分かった」(アー ルステーションの松田部長)と、家電メーカーの意見 は集約されつつあった。
ところがプラントと同様、こちらも机上の計算通り には進まなかった。
九九年二月から、家電メーカー各 社とNEBAの間では、廃家電回収のインフラ整備 に関する話し合いがスタートしていた。
NEBA加盟 店の販売総額は二兆八五〇〇億円(二〇〇〇年度)。
全家電販売量の約三五%のシェアを握っている。
この 協議には、すでに方針の違いでAとBの二陣営に分か れていた大手七メーカーの担当者が顔を揃えた。
「指定引取場所」の設置数をめぐる両者の主張は、 真っ向から対立した。
物流コスト抑制のために一〇〇 カ所程度に抑えたいメーカー側に対して、NEBAは 利便性のためには全国四〇〇〜五〇〇カ所は必要と 主張した。
その後、自治体や一般廃棄物業者の代表 との協議を繰り返し、メーカー側は徐々に数を引き上 げていった。
結局、二〇〇〇年の夏過ぎにはAとB両 グループとも、それぞれ一九〇カ所で最終合意した。
立地については、両陣営がそれぞれ似たようなデータ に基づいて設置したため、結果としてだいたい同じよ うな場所におくことになった。
つまり、似たようなネ ットワークが二つできることになった。
コストは依然、闇の中 収集運搬料とは別にメーカー側が排出者から徴収 する「リサイクル料金」の設定も難航した。
NEB Aは、リサイクル料金を二〇〇〇〜三〇〇〇円に抑 えるように要請した。
これに対して家電メーカー側は 概ね五〇〇〇〜六〇〇〇円を想定しており双方の希 望価格にはかなりの隔たりがあった。
さらにメーカー 間でも、著しいコスト差があるのは明らかだった。
二〇〇一年四月の本格施行を前に、もうこれ以上 は先送りできないという時期の二〇〇〇年九月四日、 松下が洗濯機二四〇〇円、冷蔵庫四六〇〇円、テレ ビ二七〇〇円、エアコン三五〇〇円という「リサイク ル料金」を公表した。
続く数日間の間に大手家電各 社が相次いで料金を公表した。
仕組みの違いによって コストが違うにもかかわらず、各社の処理料金はすべ て松下と同じだった。
これとは対照的に、一時輸送のための収集運搬料 金は受付窓口によって大きなバラツキがある。
競争原 理が働く家電量販店での「買い換え」の場合は各社 とも低料金に抑えられている。
しかし、「引き取りの み」の料金には、同じ商圏に店舗を構える小売店でも 二倍から三倍もの開きがあり、中にはテレビの一時輸 送に六七〇〇円を徴収するケースもある(図3)。
問題の物流コストの内訳だが、現状ではほとんど開示されていない。
九九年から「エコマテリアル海上輸 送研究会」の委員長を務めている神戸商船大学の久 保雅義教授は、「海上輸送を活用した廃家電処理ネッ トワークの研究を続けてきたが、家電メーカーが輸送 費と処理費を教えてくれないため、現状では採算性の 比較のしようがない」と嘆く。
家電リサイクル法の第十三条には「(料金は)収集 および運搬を適正に行った場合における適正な原価を 勘案して定められなければならない」とある。
果たし てこうした料金設定が、「適正な原価」であり、経済産 業省のいう?競争原理の導入〞を正当に反映したもの なのかどうか。
同省の情報通信機器課環境リサイクル 室に問い合わせてみたが「ノーコメント」と素っ気な い答えが返ってきただけだった。
図3 大手家電小売店の店頭で表示されている家電リサイクルのための収集運搬料金一覧(税別) 一次輸送費 コジマ ヤマダ電機 ヨドバシカメラ さくらや ビックカメラ 石丸電気(大型) (中小型) ラオックス オノデン メーカーの処理費用 二次輸送費+再商品化費用 消費者の総負担額 (一次+二次+再商品化) 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 2,400 洗濯機 2500〜 4400 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 4,600 冷蔵庫 4700〜 6600 500 500 100 100 100 2,000 1,000 1,000 1,000 2,700 テレビ 2800〜 4700 500 500 100 100 100 1,000 1,000 1,000 1,000 3,500 エアコン 3600〜 4500 1,800 3,000 4,000 4,000 6,400 6,000 3,000 3,500 2,200 2,400 洗濯機 4200〜 8800 2,200 3,000 4,000 4,000 8,600 6,000 3,000 3,500 2,900 4,600 冷蔵庫 6800〜 13200 1,700 3,000 4,000 4,000 6,700 6,000 3,000 3,500 1,900 2,700 テレビ 4400〜 9400 1,900 3,000 4,000 4,000 7,500 3,000 3,000 3,500 2,500 3,500 エアコン 5400〜 11000 買い換え(新品購入が条件) 引き取りのみ(廃棄のための回収依頼) 洗濯機 冷蔵庫 テレビ ※対象エリアは基本的に店舗展開をしている地域のみ エアコン 洗濯機 冷蔵庫 テレビ エアコン LOGI-BIZ調べ
