2001年3月号
キーマン

「私の仕事、私の情報源」

――低温物流事業の環境変化につ いて教えてください。
四年ぐらい前から、流通革命の 荒波が及んできました。
冷蔵倉庫 の原点は、原材料の保管にありま す。
つまりメーカー主導の物流で す。
ですからタリフの料金体系も、 キロ当たり(またはケース当たり) の保管料が半月でいくらという大 括りなものでした。
原材料だと三 〜四カ月間は、平気で保管するも のですから、それでも良かったん ですね。
しかし最近、イニシアチブが川 下に移ってきた。
それまでも川下 の力は大きかったんですが、物流 についてはそれほどうるさくは言 わなかった。
単に持ってきてくれ ればいいという感じでした。
しか し、この部分のニーズが変わって きました。
いかに安く、安全・正 確に店舗に製品を持っていくか。
このニーズが問屋やメーカーへの 強烈な要求として表れました。
従来の管理手法のままでは、在 庫を圧縮するか、料金を下げるし か対応のしようがありません。
こ れは冷蔵倉庫業者にとっては減収 でしかない。
物流品質の高度化と、 多頻度小口配送への対応も、我々 にとっては大変なコストアップ要 因です。
構造的に従来のような冷 蔵倉庫業は難しくなってしまった んです。
――最近、注力している3PLの ヒントはどこにあったんですか。
九四年ぐらいでしょうか。
ニチ レイの社内で「リフレッシュ低温 物流」と呼ぶキャンペーンを張っ たんです。
単純に言えば、いかに 売上高と品質を高め、コストを下 げるかを狙ったものです。
このと き具体的にどうやって売り上げを 伸ばすかと考えたとき、3PLに 着目したんです。
一方ではマーケ ット・ニーズの変化も感じていま したから、荷主が求めているのは 物流全体を組み立てる知恵だと思 ったんです。
しかし、こうしたニーズに応え ようとすると、短期的には当社の 物流事業の売り上げは減少しかね ない。
顧客にとっての物流コスト が、我々にとっては売り上げです から。
それでも、躊躇していては、 我々自身が巨大な下請け業者にな りかねないという危機感を強く持 っていました。
そこで保管や輸送 といった個別の機能ではなく、サ プライチェーン全体の効率化を図 れなければダメということになっ たんです。
――椎橋さんはノンアセットの3 PL子会社、ロジスティクス・プ ランナーの社長を兼務しています ね。
ニチレイの資産を使わないこ ともあり得るんですか。
ロジスティクス・プランナーと しての収入は、ニチレイを使おう と使うまいと、荷主の物流を改善 してナンボです。
そもそも自社の アセットに拘って逡巡するのはや めよう、というのが我々の3PL 事業の原点。
この姿勢を明確にし たのが今回の分社化です。
少なく てもニチレイの経営層はじめ幹部 は十分に理解してくれています。
ところが、外資系証券会社の参入 などによって競争に晒されたこと で、こうした馴れ合いの関係が解 消されつつあります。
偏った報告書を出すアナリスト は結局、評価されません。
投資 家は中立な立場、視点での分析 データを求めているのです。
当然、 辛口の論調も必要になる。
好き なことを書ける、アナリスト本来 の仕事ができる環境が整ってきた と言えるでしょうね。
ただし、実際の方法論につい てははアナリストによって違いが あります。
私の場合、数字的な ものよりも経営者の資質、戦略 などを重視しています。
――情報収集はどのように。
一般紙や専門紙には必ず目を通 すようにしています。
仕事柄、経 営者に直接話を聞く機会が多いの で、生の情報も仕入れています。
インターネットは主にUPSやフ ェデックスなど海外の物流企業の 情報を入手する際に活用していま す。
しかしインターネットは便利 な反面、怖い部分もあります。
先 日もインターネット上のある掲示 板で「日興ソロモンの運輸アナリ ストがこういっていたぞ」という 根も葉もない書き込みがあって、 驚いたことがありました。
――物流業界でウォッチすべき点 は。
例えば、コンピュータ業界であ れば、パソコンの販売台数見込み からチップや半導体の生産数をあ る程度予測できます。
ところが、 物流は数カ月後とか、数年後の市 場動向を予測しにくい。
マーケッ トの規模そのものが掴めない。
加 えて、市場全体の需給バランスを 見るのも難しい。
調査会社や各種 団体が発表する運賃の市況も調査 対象企業の選定に偏りがあって信 憑性に欠ける。
今後の市場の方向 性については、各アナリストとも 見解が分かれています。
ただ一つ言えるのは、この一、 二年で業界再編が一気に加速する だろうということです。
欧州、米 国ではグローバル規模で物流企業 の買収、提携が相次いでいます。
日本企業もこの流れを避けて通れ ない。
現在、ネットワークや輸送 モードの面でグローバル展開して いるのは日本通運のみ。
追随する ヤマト運輸と佐川急便がどのよう な国際戦略を打ち出すのか。
日本 での再編の中心的な存在となりそ うな二社だけに、その動きに注目 しています。
創刊準備号38 「巨大な下請けになりかねない危機感をバネに」 ニチレイ 椎橋治男 取締役 低温物流企画部長 ――運輸アナリストの仕事とは。
運輸に限らず、かつてアナリス トは担当企業のコメントやニュー スリリースをそのまま投資家に伝 えることが役目でした。
つまり、 企業寄りだったのです。
例えば、 自分が所属する証券会社が担当企 業の主幹事などを務めていると、 思い切った意見が出せなかった。
「経営者の資質、戦略性を重視する」 日興ソロモン・スミス・バーニー証券 松本直子 株式調査部ディレクター ――ロジスティクス部門を担当す るようになったのはいつ頃ですか。
一九六九年に日本IBMに入社 し、約一五年間はIT関係、具体 的にはOSを使ったオンラインシ ステムの開発・運用を手掛けてき ました。
九〇年代に入ってからで すかね、ロジスティクスを意識す るようになったのは。
パソコン(P C)事業を担当するようになって からですよ。
IBMが本格的にPC事業に参 入したのは九三年。
当時、PCは 作れば作るほど儲かるドル箱事業 だったんです。
ところが、他社と の価格競争で徐々に収益が悪化し てきた。
PCを構成する部品など のコストダウンによる製造原価の 圧縮には限界がある。
そこで、流 通コスト、つまりロジスティクス の部分にメスを入れようという話 になったわけです。
――その頃は教科書などなかった のでは。
もちろん教科書なんてありませ ん。
ある時、トヨタ自動車の工場 への部品納入を、いったん物流セ ンターに集約しているという話を 聞いたんです。
PC事業のビジネ スモデルを見直すうえで、何かヒ ントが隠されているんじゃないか と思いました。
それからはトヨタ の「かんばん方式」や、それに関 連する書籍を必死になって読み漁 りました。
これは、すごく役に立ちました ね。
実際、九八年に稼働したCRセ ンター(Continuous Replenishment Service Center: サプライ ヤーによる部品在庫管理を導入し た一括納品センター)の発想の原 点には、トヨタ生産方式の物流セ ンターがあります。
――CRセンターは恐らく日本で 最初の本格的なVMIですね。
抵 抗もあったでしょう。
「メーカーのエゴ」だとか「ガリ バー企業のわがまま」だと散々、 非難されました。
社内の反対意見 も少なくなかった。
彼らを納得さ せるために私が訴えたのは「パラ ダイムシフトの発想でサプライチ ェーンを考えろ」ということです。
例えば、従来、物流の分野では 「倉庫は常に満庫である」ことが ベストであるとされてきた。
稼働 率を考えれば、当然そのほうがい い。
しかし、果たしてその発想は 本当に正しいのか。
在庫削減の観 点からすると、「倉庫は常に空で ある」ほうが良いし、究極は「倉 庫を持たなくても済む」ようにす ることです。
また、トラックにつ いても「積載率をいかに高めるか」 を考えるより、トラックをできる 限り使わずに「駐車場に止めてお ――ロジスティクス・マネジャー の教育には課題があります。
日本にはロジスティクスを専門 的に教えている大学がほとんどあ りません。
物流やロジスティクス を研究している学者は結構増えて きましたが、ロジスティクス専門 の講座を開くまでには至っていま せん。
こうした環境ではロジステ ィクスの専門家、つまりロジステ ィクス・マネジャーは育ちません。
ロジスティクス分野の教育に関し て、日本は欧米よりも一〇年以上遅れていると言わざるを得ないで しょう。
――ロジスティクス教育の需要は 高まっているはずです。
確かに需要はあります。
ところ が、教える人もいなければ、その 受け皿もないというのが実情です。
最近になって、ようやくインター ネットを活用した遠隔教育のプロ グラムが用意されるなど教育の環 境が整ってきました。
パソコンを 用意して年間一〇万円ぐらいの 授業料を払えば、米国の大学の ロジスティクスの講座が誰でも受 講できるシステムです。
アジアで も中国には受講者がいるようです。
ところが、日本人の受講者は現 在のところゼロ。
ロジスティクス の国際的な会議にも日本の出席者 はほとんどいない。
韓国やシンガ ポール、台湾などのアジア諸国と 比べても少ない。
ロジスティクス の教育については、欧米どころか アジアで一番、日本が遅れている かもしれません。
――何でそうなってしまったので しょう。
言葉の壁もありますが、会社側 の問題や、アカデミズムの責任が 大きい。
私が日本支部の立ち上げ を手がけた米国のSOLE(The International Society of Logistics ) では、CPL(サーティファイ ド・プロフェッショナル・ロジス ティシャン)という資格制度を儲 けて、ロジスティクスの社会的な 地位を高めるために継続的な運動 をしています。
この団体では主に 大学教授など学識経験者や軍人が 活躍しています。
CLM(Council of Logistics Management )もそうですね。
こ ちらは民間のビジネスマンが中心 ですが、そこでも学者が重要な役 割を果たしています。
39 創刊準備号 「物流のパラダイムをシフトする」 日本アイ・ビー・エム 松野康雄 理事 物流キーマン 「私の仕事、私の情報源」 「ロジスティシャン教育に深刻な遅れ」 日本能率協会コンサルティング 伝田晴久 シニア・コンサルタント く」にはどうしたら良いのかを考 えるわけです。
物流に限らず、購買、製造、販 売などの各部門の論理が、いかに 非論理的であるかを証明するのが 私の仕事でした。
パラダイムをシ フトすべき項目を一〇〇ぐらい抽 出して、それを一つずつ処理して いきました。
こうして常識を覆す ことで得たアウトプット、それが CRセンターだったのです。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから