2001年3月号
キーマン

「私の仕事、私の情報源」

――商社の物流部の仕事とは。
企業間の商取引を仲介するのが 商社の仕事です。
その取引の際に 発生する輸出入業務を物流部が支 援しています。
ブッキングと呼ば れる船舶の手配から貨物保険、通 関などの取引上発生する物流業務 を一括して引き受けます。
三井物 産の場合、こうした物流業務を運 輸・物流本部で集中管理していま すが、商社によっては各商品営業 部ごとに専門の物流セクションを 用意しているケースもあります。
取引先との契約をまとめる営業部 隊が前線だとすれば、商社の物流 部門は後方支援部隊です。
商社は仲介業でモノを左から右 へ流すわけですから、商社=物流 会社といっても過言ではないです ね。
海外、国内を問わず、モノを 動かすという行為がないと、商社 は商売が成り立たない。
そして、 モノ=お金なわけですから、モノ がきちんと顧客に届かなければ、 契約違反ということになる。
です から、バックエンドとはいえ、商 社における物流の重要性は極めて 高いのです。
――それでも社内での発言力は低 かったのではないでしょうか。
確かに発言力はありませんでし た。
いくら物流が重要な機能だと はいっても、まずは契約ありきで すから。
モノを動かすという行為 は契約があって初めて発生するも のです。
しかし、最近ではeビジ ネスの浸透によって社内での見方 も少しずつ変わってきている。
「I Tでビジネスの進め方が変わって もモノを運ぶという行為は欠かせ ないね。
そうすると、まだまだ物 流にはビジネスチャンスがあるね」 という認識が社内でも広まってい ます。
――社内の後方支援にとどまらず、 物流を商品として売り出すように なりました。
これまでは商取引のサブ機能と して物流サービスを提供してきま した。
収入基盤はあくまでもモノ を左から右へ流す際の数%の手数 料(口銭)です。
それが五年程前 から物流やロジスティクスのサー ビスをパッケージ商品として売り 出すようになった。
つまり、マー ジンではなく、物流サービスその もので、収入を上げようというわ けです。
3PLやサプライチェーンとい った言葉が出始めたのもちょうど その頃です。
企業はそれまでも在 庫の削減、リードタイムの圧縮、 物流費の削減に取り組んできましたが、こうした「横文字」の登場 で、経営者がより物流を意識する ようになった。
マーケティングと ロジスティクスこそが経営の二つ の柱であると言明する経営者も増 えてきましたよ。
それだけニーズ が高まってきたということです。
――どの分野を物流事業のターゲ ットにしているのですか。
川下が中心です。
しかも、はじ めに商流ありきで物流の仕組みを 考える従来の商社の発想を一八〇 度転換して、物流ありきでどうや って商流を機能させていくかとい うアプローチで考えています。
宅 配便やコンビニエンスストア(C VS)などの完成度の高い物流イ ンフラ、ネットワークをうまく利 用できるビジネスを新たに創造す るのです。
ネット書籍販売では商品の代金 決済や受け渡しにCVS店舗が利 用されていますが、これは物流あ りきで商流を作り出した典型例で あると言えるでしょう。
こうした 川下のビジネスに商社が目を向け 始めたのはごく最近のことです。
商社が今から自前で物流の足の 部分を整備することはできません。
従って、消費者との接点であるラ ストワンマイルの物流機能、つま り「毛細血管の部分」は、宅配便 事業者、軽トラック事業者、バイ ク便事業者など既存の物流事業者 と戦略的アライアンスを結ぶとい う手段を取らざるを得ないでしょ う。
――ネットショッピングなどeコ マース関連の物流では宅配便事業 者が先行していています。
確かに現在、eコマース関係の 荷物は宅配便事業者に集中して います。
しかし、商社は宅配便事 業者とは違うアプローチでこの分 野に進出することが可能です。
商 社が強いのはB to B、特に調達の 部分。
生産拠点が多い東南アジア、 中国に物流のインフラ、ネットワ ークを整備しています。
また、商 社は代金決済など金融機能も持 っています。
B to Cの部分だけで はなく、調達物流、金融なども含 めたパッケージ商品として物流サ ービスを顧客に提供できるはずで す。
――ロジスティクスのプロ用の教 科書はありません。
私自身、物流に携わるようにな ってまだ一年です。
それまでは人 事畑を歩んできました。
物流の動 向などはある程度把握していたつ もりですが、まだまだ勉強が足り ないと自覚しています。
現在の部署には週に何件か新規案件が入ってきます。
逃げずにそ れを一つ一つ処理していくうちに、 物流のノウハウを蓄積できると考 えています。
もちろん実際に物流 の現場に出て体感することも大切 でしょう。
また、社内の他部門と の意見交換も活発に行っているで すが、そこから仕事のヒントを掴 むことが結構あります。
創刊準備号44 「物流ビジネスの巨大なチャンス」 三井物産 高田誠一 運輸第二部 部長 「物流を起点に新ビジネスを創造する」 三菱商事 西田純隆 物流企画開発室長 ――メーカーの流通政策から、 卸・小売りの物流までと研究テー マが幅広いですね。
もともと独立するまで帝国デー タバンクの研究員として、主に卸 や商社の信用調査を担当していた んです。
卸にとって物流は生命線 とも言える機能。
米国では小売業 が専用センターを構えるなど物流 機能を持っていますが、日本では 卸がその役割を担っています。
物 流を知ることが卸を知るための第 一歩だと思い、勉強を始めたわけ です。
物流は卸を研究するための 必須科目といったところでしょう か。
出会いという意味では学生時 代になるんですかねえ。
アルバイ トで四トントラックの運転手を経 験したこともあるんですよ。
――物流を学ぶうえでの教材はあ ったのですか。
特にこれといった本を読んだと いう記憶はありません。
雑学が中 心です。
物流を研究していくうえ で重視しているのは、物流センタ ーなど現場を見ること、システム 設計など基本的な部分を押さえる こと、サービスやコストなど対象 企業が打ち出している流通政策を 分析すること、の三点。
物流の知 識を深めるためには、本を読むこ とよりも自分の目で確かめる眼学、 担当者の生の声を聞く耳学が大事 だと確信しています。
――流通業界の物流トレンドを聞 かせてください。
非効率的であるという指摘もあ りますが、小売業が自前で物流セ ンターを持つという流れは今後も 続くでしょう。
流通業界で物流の 主導権を握るのは小売業。
メーカ ー、卸には物流の機能を求めない。
その代わりに、センターフィーを 要求するわけです。
小売業の力が 強くなると、いずれメーカーはN B(ナショナルブランド)商品を 捨て、小売業のPB(プライベー トブランド)商品の製造を担当す る「下請け企業」にまで地位が低 下する可能性もあります。
既に、 米国のウォルマートのPB担当者 は取引メーカーの生産管理にまで 口を挟んでいるようです。
日本の小売業はこれまでメーカ ーのNB商品に支えられてきた。
NB商品こそが利益の源泉だった からです。
ところが、海外ではま ったく逆。
PB商品が収益の柱な ――そもそも物流を研究するよう になったきっかけは。
もう大昔の話になりますが、 元々私は生産管理や品質管理を専 攻していたんです。
その一貫で、 物流のシステム化というテーマを 担当したことがありました。
調べ てみて驚いたことに当時、国内に は物流に関する理論も何もなかっ た。
仕方なしに、自分なりに研究 を続けるうち、物流に関する研究 要請が次々に舞い込んでくるよう になりました。
他にやる人がいな かったんでしょうな。
物流は未開 拓だからこそチャンスがある。
そ う考えて、物流にのめり込んでい きました。
――国内がダメだとなると情報源 は海外ですか。
そうです。
それは今も変わりま せん。
日本の物流学者は、国内し か見ていない一種の「国粋主義」 と「舶来主義」の二種類に大別で きます。
日本の物流は決して海外 に劣っていない。
運賃だって高く ない。
そう主張するのが国粋主義 の学者たちです。
もう一方の舶来 主義は、いわゆる?アメリカかぶ れ〞。
私は完全に後者ですね。
国粋主義の学者は外国の文献を ほとんど読んでいません。
今なら 情報は簡単に手に入るのに見よう としない。
とても不思議なことで す。
彼らは井の中の蛙であって、 閉鎖社会のなかに閉じこもってい るようしか思えません。
今日の日本の物流に欠けている のは、何よりナレッジでありイン テリジェンスです。
そこでは本来、 大学や学会がその供給源となるべ きなのに、全く役割を果たしてい ない。
猛省すべきです。
実は物流 の専門誌にも全く同じことを感じ ています。
――最近、注目されていることは。
eコマースとロジスティクスの関 係に注目しています。
この分野で は、これまでロジスティクスに強 いと言われていた大学とは違う大 学から、注目すべき論文が出てて きています。
従来、ロジスティク スといえばミシガンやオハイオ、ス タンフォード、UCLAなどの大 学が有名で、二番手グループとし てテネシーやペンシルバニアが続 いているという構図だったのです が、最近ではイリノイ大学などから興味深い論文が出るようになり ました。
IT分野の学者がロジスティク スを扱うようになったことが、そ の背景になっているようです。
ひ ょっとすると米国でもロジスティ クス学者がeコマースの波に付い ていけなくなっているのではない かと少し心配しています。
45 創刊準備号 「物流の知識は眼学、耳学で」 流通マーケティング研究所 臼井秀彰 社長 「“アメリカかぶれ”のススメ」 ロジスティクス・マネジメント研究所 阿保栄司所長 物流キーマン 「私の仕事、私の情報源」 のです。
日本の小売業のビジネス モデルが海外型にシフトつつある。
そうなると、必然的に物流システ ムも再構築せざるを得ないでしょ う。

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