ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年2号
軽トラ入門
青森までピザを届けて10万円

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2006 98 青森までピザを届けて10万円 春日部から雪深い青森まで軽トラックでピザを運んだ。
料 金はなんと10万円。
おまけに大量のピザをお土産にもたせ てくれた。
文字通りのおいしい仕事だ。
こうした緊急輸送の ほとんどは、荷主担当者の失態やトラブルが原因だ。
オイラ のような軽トラ屋にはありがたい話だが‥‥ 第6 回 雪の東北道をひたすら下る日本各地で豪雪が続いている。
我々物流 業界に属する者にとっては、やっかいな冬に なった。
それでも今のところ東京周辺には雪 は降っていない。
そんな雪のない関東から、 雪の吹きすさぶ青森へ、荷物を配達したこと がある。
東北自動車道を直行で下る、いわゆ る?一カ所積みの一カ所おろし〞――それを 軽トラックでやったわけだ。
その思い出をこ れから紐解いてみる。
それは、埼玉県春日部発・青森行きのピ ザの配達の仕事だった。
その会社は春日部 市に工場があった。
春日部といえば、テレビ でおなじみの、あのクレヨンしんちゃんのお 膝元だ。
しんちゃんが春日 部市内のピザ屋へ 電話して、自宅にピザを配達してもらう光景 ならばありそうなものだが、オイラの場合は バイクではなく軽トラックに、大量のピザの 原料を積まされた。
それはピザの丸い生地と、ピザの上にパラ パラかけるチーズだった。
熱を通す前の真っ 白のピザ生地が千枚近くあった。
チーズは透 明のドテカイごみ袋にパンパンに詰められて いた。
車に荷を積み終わりましたと、その会 社の担当さんに声をかけたら、届け先の番地 が書かれた紙が差し出された。
「青森県×× 市‥‥有限会社△△」と書いてあった。
ひ っくり返った。
マジですかと確認 したが、担 当さんは頼むという。
この春日部の工場に荷物を引き取りにく る途中、街中で渋滞にハマった。
赤信号に 何度もひっかかった。
渋滞の車列には、ピザ ーラやらなにやらのピザ宅配のバイクも並ん でいた。
彼らを見て「奴らはあと五分も走れ ば、届け先へ着くんだなぁ」なんて、ぼんや りと思ったばかりのことだった。
ピザを配達するのは、奴らもオイラも同じ だ。
しかし奴らの届け先は、積んだ店からせ いぜい一〇分から二〇分といったところだろ う。
ところが同じ春日部でピザを積んだオイ ラは、これから一〇時間走るのだ。
まさか軽トラでピザを青森へ配達に行く奴がいるなん て、世間の奴らは知らねぇだろうなぁ。
悪い気分ではなかった。
こんな仕事をやっ ているからオイラのポッポには、荷主サンか ら振込で約一〇万円が支払われるのだ。
寒 空を時給八〇〇円で疾走するピザバイクのフ リーター兄ちゃんたちにも、一〇万円の配達 仕事のうまみを教えてやりてぇ。
ハハハ、オ イラは一〇万円ゲットだぜ!なんて、心の中 では笑っていたのだった。
カーステレオのボリュームをガンガンに大 きくして、気持ちもデッカクなって、高速の 岩槻インターへ向かった。
高速代も客持ちだ った。
真冬の真っただ中、東北道をドンドン 『実録・軽トラ1台で 年収1200万円稼ぐ』 (かんき出版、税別価格一四〇〇円) あかい・けい 1989年に軽運送業を開 業。
2004年に『実録・軽トラ1台で年 収1200万円稼ぐ』(かんき出版)を上梓。
これをきっかけにフランチャイズに頼ら ない手作り開業希望者や開業者を対象に 日本軽運送学校で講義も開始した。
他に、 ハイウェイカード、テレカ、切手、株主 優待券、商品券等を来店不要で通信買取 する渡辺サービスを運営している。
電話番号:0120-295-121 http://www.ticketshop.jp/ ブログで賞金が当たるキャンペーンを予 定。
乞うご期待! 99 FEBRUARY 2006 と下った。
途中から辺りは雪景色になり、青 森県内に入ると吹雪だった。
指示された届け 先の最寄りのインターで高速を降りて、一路 届け出先へと向かう。
吹雪のなか、オイラはビビって時速四〇キ ロで走っていた。
ところが地元の乗用車は、 吹雪などおかまいなしに飛ばす飛ばす。
初老 の紳士が時速七〇キロ〜八〇キロでウィンカ ーも出さずに平気で追い越しをかけてくる。
指定された住所に近づけば近づくほど、建 物がなくなっていった。
そしてついには農協 のでっかいサイロがポツンと見えるだけにな ってしまった。
あたり一面、人家もなく雪の 平原 だ。
きっとこのあたりは夏になればぜん ぶ田んぼなんだろう。
ずいぶん先に赤灯が回る建物を発見した。
消防署だった。
ココで道を教わっちゃえと、 オイラは署にかけ込んだ。
すると居眠りして ていた受付台の職員がさした。
「あの遠くに ポツンと見えるプレハブ倉庫みたいな建物あ るよねぇ。
あそこだよ」という。
田んぼのど真ん中みたいな場所に、その届 け先はポツンと建っていた。
到着してみると、 事務室とおぼしき部屋は、鍵が開いているう え無人だった。
東北らしい牧歌的なセキュリ ティーの甘さだなぁなんて感心しながらも、 誰か人を見つけ て声をかけねばと思った。
私は建物の奥に進み、物置の入口風の戸 をあけた。
ピザ工場だった。
天井に大量の蛍 光灯がついていた。
その下に長机が並べられ ていた。
その机で横一列に並んで二〇人ほど のオバチャンが作業していた。
オイラが運ん できたのと同じ、あの真っ白なピザ生地の上 にチーズやらサラミを手で散りばめる。
そし て手で袋に詰める。
バケツリレーのごとく、 手から手へ。
オール手作業で次の工程へとつ なぐ。
微塵も機械化されていない。
そんな中国にも負けない人海戦術的な生 産ラ インを、厳しくも優しい目線で見つめる マダムがいた。
他のオバチャンたちは、田植 えの似合う、いわゆる田舎のオバチャンなの だが、このマダムだけは、工場よりも銀座三 越でのお買い物姿が似合いそうなキャラだっ た。
どうやらオーナーの夫人のようである。
そのマダムがオイラの姿を発見し、「あ あ××サンの配達でしょ! 待っていたわよ ! ! 」と声をかけきた。
マダムによると、原料 を発注したにもかかわらず、荷主企業の担当 者が発送処理を忘れていたため急送させたと いうことだった。
社風がルーズな会社の失態 がなせる業である。
しかし、そのおかげで私 は一〇万円をゲットできた。
だからオイラに とっては、文句はない。
むしろありがたい。
リクエストしたいくらいの失態である。
こ のマダムは帰り際に「遠くから大変だっ たでしょ。
これ家族で食べてね」とピザを五 〇枚もくれた。
家へ帰って、毎日ピザばかり 食べていたオイラは、少々お腹が出てくる始 末だった。
家族から?ピザっ腹〞とバカにさ れながらも、我が家ではしばらく一〇万円ピ ザ配達の話で花が咲いた。
「しりぬぐい急送」は儲かる この荷主サンからは、こんな?万札仕事〞 をずいぶんいただいた。
失態の多い会社は、 軽運送屋にとってはオイシイ客だ。
失態をフ ォローするための「しりぬぐい急送」は儲か る。
しかし、こうした会社は結局ダメになる。
実際、この仕事を依頼してきた荷主は、その 後、大きなトラブルを起こして結局、倒産し てしまった。
それでも社名は明かせないが、こんな我々 にとってオイシイ会社はまだまだある。
この 会社サンのようにド派手に失態を起こすケー スは少なくても、しょせん生身の人間のやる こと。
失態やウッカリミス、あるいは見落と しは避けられない。
そこには必ず軽トラ向き の「しりぬぐい急送」のニーズがある。
まして今、 企業は正社員雇用を減らして、 代わりにパートやフリーターを使うようにな っている。
その結果として、現場の士気は明 らかに低下している。
そのぶん現場での失態 も増えている。
オイラとしては笑いが止まら ない。
願ったりかなったりだ。

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