2006年5月号
値段

日本郵船

MAY 2006 60 海運会社からインテグレーターへ 日本郵船の株価は二〇〇六年二月までは堅 調だったが、いったん調整局面に入り、その 後は七〇〇円台半ばで推移している。
このコ ーナーで取り上げた前回(二〇〇四年十一月 号)からおよそ一年半の間に同社を取り巻く 環境が大きく変化したこと、具体的には海運 市況そのものの変動や燃料価格高騰とそれに 伴う業績動向が株価に影響を及ぼしている。
二〇〇四年末にかけての市況高騰の恩恵も あり、同社は二〇〇五年三月期決算で過去最 高益を更新した。
ところが、燃料コストの問 題や市況変動の影響から状況は一転し、 二〇 〇六年三月期は経常利益ベースでの減益が見 込まれるなどモメンタム(株価の勢い、方向 性)は悪化しつつある。
特に主力分野の一つであるコンテナ事業で は今後予定されている大型船竣工などを背景 とした需給悪化への懸念から、足元の運賃水 準が低下したことが収益面でのマイナスイン パクトとなっている。
二〇〇六年二月の株価 調整は第3四半期決算においてコンテナ運賃 の下落幅が想定以上と認識されたことが要因 であったと捉えている。
また、グランドアライアンスのメンバーで あるP&Oネドロイドがマースクに買収され たことで、ザ・ニューワールド・アライアン スとの提携を含むサービスメニューの見直し が実行されたことも大きな変化だった。
その意味では二〇〇五年三月に発表された 中期経営計画「New Horizon 2 007」で掲げた通り、「海運事業の拡充に よる収益安定化を図るとともに、ロジスティ クス・インテグレーターへと飛躍する」こと が同社にとって当面 の大きなテーマとなるの ではないだろうか。
これは以前からの方向性 であり、?総合物流事業の拡大、?バルク・ エネルギー輸送の世界展開、?コンテナ輸送 部門の収益安定化――の三点に重点を置いた 従来の経営計画「Forward 120」 を発展させた内容である。
同社は「ロジスティクス・インテグレータ ーとして陸海空のあらゆる機能・インフラを 組み合わせて一体化し、顧客の多様化・高度 化するニーズに応える」ことを掲げている。
海運市況に左右されにくい収益基盤を確立す るためにはロジスティクス分野の拡充が必要 になってこよう。
NCAのコスト競争力改善を 海上輸送分野のほかに、陸送やロジスティ クスを担うNYKロジスティクス、航空貨物 のフォワーディングを担当する郵船航空サー ビスといった従来のグループ会社に加えて、 昨夏には航空キャリアの日本貨物航空(NC A)を連結子会社化したことは記憶に新しい。
陸海空すべての輸送モードを取り揃え、多様 なサービスを提供できる体制を構築している 企業は物流市場において稀有な存在と言える。
第21回 日本郵船 二〇〇四年度は過去最高益を更新したが、 市況の悪化や燃料費の高騰が影響して二〇〇 五年度は減益決算を見込んでいる。
航空キャ リアの連結子会社化やロジスティクス事業の 強化などを通じて陸海空を網羅した総合物流 企業としての基盤確立を急いでいる。
一柳創 大和総研 企業調査第一部 アナリスト コンテナ市況悪化で減益決算に 総合力の発揮が業績回復のカギ 61 MAY 2006 ただし、現段階ではグループ各社がそれぞれ にサービスを展開するにとどまっており、輸 送モードの網羅によるシナジー効果を確認で きるまでには至っていない。
NCAの業績は低迷している。
二〇〇四年 度が売上高九六五億円、経常利益一億円で あったのに対して、二〇〇五年度は売上高一 〇三七億円、経常損失一〇四億円を見込む。
荷動きは堅調で増収基調を維持しているが、 燃料費高騰の影響で採算面では極めて厳しい 状況にある。
これを受けて、現在策定中の中 長期経営計画「NCA Phoenix P roject」では、自立事業基盤の早期確 立や、その上でのスケールメリットの発現と いった今後の方向性が示され ている。
NCAの課題の一つは、燃費効率の悪い現 有機材の更新、さらに固定費・運航費の削減 や機材稼働の向上によってコスト競争力を改 善することにある。
また 現在はANAに協力を仰 いでいる運航・整備体制 での人材面を含めた自立 も急務と言えよう。
まも なく公表される計画自体 はさらにその先の、機材 増強とネットワーク拡充 による収益性の改善も視 野に入れた内容になるの ではないだろうか。
こうした道筋を経て、 NCAでは二〇一〇年度 に売上高一二〇〇億円、 経常利益一〇〇億円、新鋭機材十二機体制 を、さらに二〇一五年度には売上高二六〇〇 億 円、経常利益二八〇億円、新鋭機材二二 機体制をターゲットにしている。
燃料価格の 高止まりが懸念されること、発着枠の問題が 柔軟な路線設計の制約条件になりうること│ │などから目標数値の達成にはもう一段の工 夫が必要となるとの印象もあるが、日本郵船 グループ全体の集荷力を発揮することで採算 性改善に結びつけていくと判断している。
いずれにせよ、日本郵船グループは注力分 野である自動車関連、エレクトロニクス、リ テールを中心に貨物の集積を図ると同時に、 顧客窓口の一元化によるワンストップサービ スの提供を推進して利便性を向上させること が肝要だろう。
ロジスティクス事業での 課題 とされてきた労務コストの現地化や人的資源 の確保などは徐々に改善されつつある。
これ らの課題を解決していくことは中期経営計画 の目標達成に向けた重要なファクターである と考えている。
客船事業の黒字転換にメド 市況の追い風を受けてきた過去数年と比べ ると、調整段階に入ったと見られる現在は海 運企業としての真の実力が試される局面でも あると言える。
市況に左右されない収益力を 身につけることができるかどうかが総合物流 企業としての地歩を固めるうえでの大きなポ イントとなるだろう。
主力の海運事業では積極的な船隊整備が収 益基盤を下支えする展開を想定している。
同 社は二〇〇五〜二〇一〇年度までの六年間 で二七八隻、計一兆三八〇〇億円に及ぶ船 隊整備を計画しており、二〇〇四年度末には 六六〇隻だった運航規模は八 八〇隻まで拡張 される見通しである。
荷主との中長期契約を 積み上げていくことと並行して、コスト削減 (二〇〇五〜二〇〇七年度累計で三〇〇億円 強)を進めることが、市況軟化によるダメー ジの極小化につながるであろう。
その他の非海運事業では、前回このコーナ ーで指摘した客船事業の建て直しが、運航規 模見直しや合理化努力、さらに需要回復と相 俟って収支改善を果たしつつあることを報告 しておきたい。
客船事業は一時、七〇億円弱 の経常赤字を余儀なくされていたが、今期見 込み(二〇〇五年度)で損益トントン、そし て来期には黒字転換を果たせそうである。
全社的な業 績はコンテナ市況が厳しいこと や燃料費問題などを勘案すれば、二〇〇六年 度も減益となる公算が大きい。
財務健全性と 関連事業の収益力といった強みの発揮や、市 況抵抗力という観点からも、総合物流企業と しての基盤確立が待たれるところである。
こ れらを着実にこなすことが株式市場における 同社の評価を高めていくことになろう。
日本郵船の過去10年間の株価推移 (円) ひとつやなぎ・はじめ 九七年三月早稲田大学理 工学部土木工学科卒。
同 年四月大和総研入社、企 業調査部インフラチーム に配属。
九九年から物流 担当に。
著者プロフィール (出来高)

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