2007年9月号
特集

3PL市場2007 物流子会社のM&Aで老舗を再建──小杉産業とフットワークの選択

物流子会社のM&Aで老舗を再建 ──小杉産業とフットワークの選択  経営再建中の小杉産業はリストラの一環として、物流子会社 のコスギファッションネットをフットワークエクスプレスに売却した。
経営資源を本業に集中したい小杉とM&Aで3PLの切符を手に 入れたいフットワーク。
両者の思惑が一致した。
一方、渦中のコ スギファッションネットの現場は、捨てられた身でありながら、む しろこの買収劇を歓迎していた。
         (柴山高宏) リストラで物流子会社を売却  「資本が入るといっても、買収されたという感覚 は全くない。
むしろ我々は親会社からの独立を歓迎 している」と、フットワークエクスプレスの熊倉正 晴スポーツ&アパレル事業部部長はいう。
同氏は前 職で中堅アパレルメーカーの小杉産業の物流子会社・ コスギファッションネット(KFN)の社長を務め ていた。
 同社は〇六年九月、老舗の路線会社(特別積み合 わせ貨物運送事業者)フットワークエクスプレスに 買収された。
これに伴いKFNはエフ・ネットに社 名を変え、アパレルに特化した3PLとして再出発 を期している。
熊倉部長は買収後も現場の責任者と してとどまり、現在はフットワークの部長職とエフ・ ネットの取締役を兼務する立場にある。
 小杉産業は創立が明治一六年(一八八三年)とい う老舗だ。
七〇年代には主力ブランドの「ゴールデ ンベア」で一世を風靡したが、その後は二の矢を継 ぐブランドを生み出せず、経営の悪化に苦しんでいた。
ブランド力の低下に加え、主な卸先である百貨店の 販売力の減少もあり、売上高は九七年をピークに毎 年減少を続けていた。
 〇五年四月には、企業再生ファンドのジェイ・ブ リッジが資本参画。
同社の指揮の下、数々のリスト ラが敢行された。
一時は一〇〇を超えていたブラン ドは、八割以上を削減した。
本社ビルおよび大阪と 埼玉の二カ所の物流センターも不動産投資ファンド 等に売却。
さらに翌年九月には、KFNをフットワー クエクスプレスに売却した。
 当時のKFNの従業員数は約四〇人で年商は約一 七億円。
買収金額は非公開だが、わずかなキャッシュ と引き換えに親会社から切り捨てられた格好だ。
し かしKFNの社長として、買収劇の渦中にあった熊 倉部長には落胆した様子は微塵もなかった。
 熊倉部長は小杉産業一筋三二年のベテランだ。
入 社後一〇年間は営業を担当した。
その後、労働組合 専任を一〇年間務め、改めて現場に復帰するにあたり、 物流をキャリアに選んだ。
「九〇年代中頃から、物流 を制覇しないとアパレルは儲からないという機運が高 まっていた。
アパレル物流には無駄が多く改革し放 題だ。
これからは面白くなると考えた」  物流部門に異動すると組合時代に得た人脈を早 速活用し、量販店向けの物流センターを作るよう社 長に進言した。
これまで主力チャネルとしてきた百 貨店から量販店に販売シェアは年々シフトしていた。
量販店の求める物流ニーズに対応するためには、新 たな物流インフラが必要という判断だった。
 こうして九七年、埼玉県松伏に約三〇億円を投 じて延べ床面積二万平米の物流センターを新設した。
同時に、小杉産業の物流部門を分社化するかたちで コスギファッションネットを設立した。
設立当初の 熊倉部長の肩書きは出荷課長。
その後、二〇〇〇年 にセンター長に就任し、現場の指揮を任された。
 同センターの主な出荷先は百貨店や量販店で、そ の数は八〇〇〜九〇〇カ所におよぶ。
納品する商品 には各店の専用値札と指定の納品伝票を貼らなけれ ばならない。
ハンガーに吊るしたままの納品など、商 品や店によって方法も違う。
アイテム数も膨大だ。
品番だけで二万五〇〇〇あり、さらにサイズと色の展 開がある。
センターで管理するアイテム数は一五万 〜一六万SKUにも上る。
 煩雑なセンター作業を効率化するため、熊倉部長 は次々に手を打った。
デジタルピッキングシステムを SEPTEMBER 2007  22 Case Study 23  SEPTEMBER 2007 3PL市場 2007 特集 導入。
ハンディ型リーダーで商品のJANコードを 読むことで、自動的に現場で値札を出力する仕組み も作った。
お手本があるわけではなかった。
「ITで 極力人を圧縮し、できないところは人でやる」とい うコンセプトで試行錯誤を重ねた。
 ロケーション管理にも独自の工夫を施した。
現場 に八三台のパソコンを設置。
商品の保管場所を、パー トがその場で判断して、柔軟にロケーションを修正 できる仕組みを作った。
以前は事務所に伝票を持っ て報告する必要があった。
これを改めパートの現場 力を活かすことで効率化を図った。
 パート管理にはシフト制を導入した。
通常の物流 センターでは最低人数を常勤パートとして抱えてお いて、物量の波動に合わせ不足分を派遣で補うの が一般的だ。
しかし同センターでは現場運営を全て パートでまかなっている。
繁閑差には勤務シフトを調 整することで対応している。
派遣を使わないことで、 作業品質を維持すると同時にコストを抑える狙いだ。
 「うちは全て現場主導型だ」と熊倉部長。
システ ムを現場に合わせるのではなく、現場の問題点をシ ステムに活かすかたちで、アパレル物流のモデルを確 立した。
その効果は絶大だった。
それまで大阪、松 伏の二つのセンターで計五二〇人いた作業員を、三 二〇人に減らすことに成功した。
繁忙期に頻発して いた残業もなくなった。
「俺たちはもっとできる」  効率的な流通加工を武器に外販にもトライし、軌 道に乗り始めたKFNとは対照的に、小杉産業本体 の雲行きは次第に怪しくなっていった。
売上高はピー ク時の半分近くまで落ち込んでいる。
それでも熊倉 部長は「本体がダメになったら、どこかに資本をい れてもらい、自立しよう。
俺たちはもっとできる」 と皆を鼓舞し続けた。
 〇五年四月に企業再生ファンドのジェイ・ブリッ ジが資本参画したことで、チャンスが訪れた。
物流 コスト削減はリストラの常套手段だ。
なかでも物流 子会社には真っ先に矛先が向けられる。
すぐに経営 再建の担当者がKFNの視察にやって来た。
 「物流費が割高だと端から決めてかかっていたよう だ。
全部アウトソーシングしてしまえばこんなに費用 はかからないという。
しかし、このセンターのオペレー ションがこれほど細分化されている理由なんて、アパ レル物流を知らない彼らにはわからないことだ。
冗談 じゃない」と熊倉部長は体よく追い返した。
 仕事には絶対の自信があった。
ジェイ・ブリッジ から小杉産業に派遣され、リストラの陣頭指揮をと る稲村聡専務執行役員経営管理本部本部長も「K FNはグループ会社のなかでも最も輝いていた。
大 手物流企業の幹部が勉強に来るほどだった」と、そ の実力を認めていた。
 しかし、親会社の業績がふるわない状況では、物 流子会社がいかに優れた仕事をしても従業員の待遇 は改善されない。
「どんなによくやっても評価をして もらえない。
このまま親会社と共に沈没してしまう のか。
どこか俺達の自立を支援してくれるところは ないのか」──熊倉部長は悩んでいた。
 〇六年二月、熊倉部長はKFNの社長に就任した。
これを機に決意した。
小杉産業からの出向扱いだっ た社員を全員転籍させることにした。
物流会社とし てがんばれば、親会社に頼らずともここまで伸びると いう試算を行い、全員と面接して一人ひとりに生涯 賃金を提示した。
ある年齢以上に達した人は賃金を 下げた。
それでも誰一人辞めることなく、会社に残 エフ・ネットの松伏ロジスティクスセンター フットワークエクスプレ スの熊倉正晴スポーツ& アパレル事業部部長 フットワークエクスプレ スの川鰭泰洋執行役員S CMソリューション事業 部長 小杉産業の稲村聡専務 執行役員経営管理本部 本部長 ると言ってくれた。
3PLで企業再建  フットワークがKFNの買収に乗り出したのは、 それからわずか数カ月後のことだ。
フットワークもま た〇一年に経営破綻に陥り、オリックスの資本投下 を受けて経営再建の最中にある。
同社の川鰭泰洋執 行役員SCMソリューション事業部長は「路線事業 は当社の貴重な財産だが、国内の輸送市場は既に成 熟しており、今後大幅に事業を拡大していくのは難 しい。
そこで3PLとWMSのソリューション販売 を再建の柱とし、路線事業と並ぶ中核事業として発 展させる計画だ」と説明する。
 その実行部隊として〇五年三月にSCM事業本部 (現SCMソリューション事業部)を設立。
責任者 にアクセンチュアで十数年にわたりSCM分野のコ ンサルタントを務めてきた川鰭執行役員をスカウトし た。
同事業部は顧客の配送業務にかかっている業務 工数を調べ上げ、無駄な物流業務を指摘し、本来注 力するべき事業分野の提案をするというアプローチで、 設立初年度にいきなり二つの案件を獲得した。
 小杉産業の案件も、ファンドから当初相談された テーマは物流子会社の売却ではなく、サプライチェー ン改革の提案だった。
これを受けて川鰭執行役員ら フットワークの面々はKFNの現場へ視察に訪れた。
「非常に統制の効いたセンターで、仕事も丁寧だった。
熊倉社長自身、アパレル物流に精通していた。
いわ ゆる親会社からの天下りで座っているだけの社長と は一線を画す、その道のプロだと分かった」と川鰭 執行役員は振り返る。
 決して物流子会社にありがちな“お荷物”ではな かった。
しかし親会社の傘下にいれば、常に本体の 影響を受けてしまう。
現場のモチベーションも上がら ない。
フットワークと組めばシナジーが生まれると考 えた。
ファンド側もはっきりと口には出さなかったが、 M&Aを期待しているようなフシがあった。
思い切っ て買収を提案することにした。
フットワークにとって 有力な物流子会社の買収は3PLビジネスの商権を 手に入れるというだけでなく、3PL人材とノウハ ウを獲得する意味でも有効な選択肢だった。
 川鰭執行役員は「KFNのオペレーションは3P L事業の強力な武器になる。
このノウハウを小杉産 業の服だけに使っていてはもったいない。
当社と一緒 になることで横展開できると考えた。
熊倉社長以下、 現場のスタッフから自立を望む熱意が伝わってきたこ とも決断を後押ししてくれた」という。
 一方の熊倉部長は「フットワークはITシステム やアセット目当てではなく、当社の事業権と人材を 評価してくれた。
こんなに嬉しいことはなかった」と 胸を躍らせた。
長年勤めた会社を離れるさみしさよ りも、将来への期待感の方が大きかった。
 フットワークにとって物流子会社の買収は、3P L事業を開始した当初からの既定路線ともいえた。
自前でオペレーションを立ち上げていては、何年かか るかわからない。
M&Aは当然のオプションだった。
 フットワークグループの3PL会社のエフ・ネッ トがKFNの株式九〇%を小杉産業から買収する かたちでスキームを固めた。
一〇%は小杉側に残し た。
フットワークにとってこの案件は大きなリスクを はらんでいる。
現状では小杉産業本体の業績は好転 していない。
将来は契約が打ち切られる可能性もある。
荷主に持ち株を残しておくことで、そのリスクを回 避すると共に、3PLの懐を荷主側にオープンにし てしまうことで信頼関係を築こうという狙いだ。
SEPTEMBER 2007  24 「現場主導型」システム&オペレーション概要 棚を廃止して、柔軟なロケーション 変更を可能にした ピッキング・流通加工など一連の作 業を1フロアにして集約化 試行錯誤を繰り返して現場改善 検品ラインでは、寸法、外観チェッ ク、たたみ、袋入れを行う X線検針器に通した商品をモニター でチェック 「日本検針センター構想」を支える高精度な検品作業 3PL市場 2007 特集 契約の工夫でWin─Winを担保  こうしてKFNは物流子会社からアパレル向け3 PLに生まれ変わった。
最初の仕事は小杉産業との 3PL契約の締結だ。
従来の料金体系を変更し、新 たに売上連動型を採用した。
小杉産業の売上高に対 するパーセンテージで料金が決まる仕組みだ。
 ただし当初の計画より在庫が増えたら追徴金を徴 収し、逆に減ったら返金するというユニークな条項 を契約に盛り込んだ。
またイレギュラーな作業はオ プション扱いとし、別途料金を設定する。
そうする ことで無駄な物流コストを減らしていく。
荷主と3 PLがWin─Winになれる契約を工夫した。
 契約書の作成は時に駆け引きを要する。
細部を詰 めていくのは骨が折れる作業だ。
それでも弁護士事 務所をフル活用するなどして、基本合意を結んでか ら契約書を作り終えるまで、一カ月程度で済ませた。
その後の展開は非常にスピーディーだった。
買収を 提案してから二カ月後の〇六年九月に譲渡契約を締 結。
同年十二月、KFNは正式にエフ・ネットへ 吸収合併され、一連の買収劇は半年足らずで完了 した。
 「このスピード展開は双方のニーズだった。
当社と してはこの案件を他社にかぎつけられる前に一気に進 めなくてはならない。
一方、KFNとしては時間を かければ社内に不安が出てくる。
情報が表に出る頃 には、全て決まっている状態に固めておく必要があっ た」と川鰭執行役員は説明する。
 こうしてKFNを吸収したエフ・ネットは現在、 スポーツアパレル業界を対象とした3PL事業の拡 大に着手している。
そのための一つの切り口が「日 本検針センター構想」だ。
 現在、日本には中国から年間でおよそ六〇億枚も の繊維製品が輸入されているといわれる。
そのうち 多くが検品に問題を抱えている。
もちろん工場の出 荷時点でも検品は行われているが、その精度は低い。
また日系物流企業などが運営する検品専門センター で処理されている商品は全体の三割程度と目されて いる。
それ以外は結局、十分なチェックを受けない まま日本市場に供給されているのが現状だ。
 これに対して、エフ・ネットは検品を日本国内で 手掛けることを提案する。
検品の「逆輸入」だ。
そ のための先行投資として既に松伏と大阪のセンター にX線検針器を導入した。
検針器の価格は一台一五 〇〇万円と安くはない。
中国と比べ割高な人件費に よる物流コスト増も避けられない。
 「アパレル物流を知らない人は、何をバカなことを と思うかも知れない。
しかし、この世界の人間であれば、 日本で検品した方が結局は安くつくことを皆、知っ ている。
確かに検品コスト自体は高くなる。
それで も品質問題による返品がなくなり、納期面の不安も 解消される。
検品作業が日本に戻ってくるタイミン グは必ずある」と熊倉部長はみている。
 これに並行して、フットワーク本体では3PL事 業を補完するIT機能の整備も進めている。
今年八 月には従来のWMS事業本部を独立させ、新会社I LT(インテリジェンス・ロジスティクス・テクノロ ジー)社を設立した。
ライセンス契約を結んでいる シンガポールのブーン社のWMSを、従来の一〇分 の一程度に抑えた価格で販売する。
 今後はアパレルだけでなく、「食品や建材など、衣 食住に関わる3PLソリューションを一通りライン ナップに加えていく方針だ」と川鰭執行役員。
老舗 企業同士のビジネスモデル改革が進んでいる。
25  SEPTEMBER 2007 54,119 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 98年 (1月期) 99年00年01年02年03年04年05年06年07年 1,000 0 -1,000 -2,000 -3,000 -7,000 -8,000 (百万円) 小杉産業の業績推移(連結) (百万円) -1819 -801 -1349 148 377 -373 -2,353 -783 -7838 -528 37,373 65,025 51,795 49,325 45,582 37,899 32,533 24,837 25,565 松伏センターの システム確立 ジェイ・ブリッジと 資本提携 KFNをフット ワークに売却 経常利益 売上高 KFN、エフ・ネット に吸収合併 《売上高》 《経常利益》

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから