2007年9月号
特集
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3PL市場2007 3PL 事業で利益率10%目指す──ドイツポスト・ワールドネット
3PL 事業で利益率10%目指す
──ドイツポスト・ワールドネット
ドイツの国営郵便局を前身とするドイツポスト・ワールドネットは、
日本円にして約10 兆円の売上規模を誇る世界最大の物流企業だ。
06 年に英エクセルを買収したことで、3PL 市場においても業界トッ プに立った。
エクセルのCEO からドイツポストのロジスティクス部 門長に転じたジョン・アラン氏が、同社の3PL 戦略を語る。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) TNTやフェデックスとの違い ドイツポスト・ワールドネットのロジスティクス事 業部門は、DHLブランドの下にDHLグローバル・ フォワーディング、DHLエクセル・サプライチェー ン、DHLフレイトの三つの下部組織から構成され る(図3)。
世界二二〇以上の国や地域に拠点を展 開し、総従業員数一六万人(全社合計は五二万人)、 部門売上高(二〇〇六年度)二二七億三九〇〇万 ユーロ(三兆六八三七億円:一ユーロ= 一六二円換 算)を誇る世界最大の3PLだ。
年間の総売上が約一〇兆円に上るドイツポストに おいても、DHLロジスティクスは収入面では最も 大きなシェアを占める事業部門となっている。
ただし 営業利益は七億六二〇〇万ユーロ(一二三四億円) と全体の約一〇%を占めるに過ぎない。
DHLロジ スティクスの利益率は二〇〇五年、二〇〇六年とも に三%台にとどまっており、一五%台を上げる同社 の郵便事業部門や一〇%台の金融サービス部門には 遠くおよばない。
それでもドイツポストのボードメンバーでDHLロ ジスティクスを統括するジョン・アラン氏は「ロジス ティクス部門の利益率としては一桁の後半、つまり 八〜九%から、できれば二桁台を目指している。
た しかに市場には多くの業者がひしめき合っている。
3 P L 業界の最大手である当社でさえ、市場シェア は一〇%にはるかおよばない。
しかし3PL事業は、 やり方次第で十分な将来性がある」と強気だ。
ドイツポストをはじめとしてアメリカのU P Sと フェデックス、そしてオランダ郵政局を前身とするT NTの世界的物流企業四社は、“国際インテグレー ター”と呼ばれている。
いずれも専用貨物飛行機を 所有し、ドア・ツー・ドアの国際間複合一貫輸送を 手がける総合物流事業者だ。
ただし、3PL事業に 対するスタンスは各社で大きく異なっている。
実際、 TNTは二〇〇五年に年間約五〇〇〇億円を売り上 げていたロジスティクス事業部門を投資ファンドに売 却し、同市場から撤退している。
フェデックスのフ レデリック・スミス会長も3PL部門は利益率が低 いために魅力がないと公言している。
それでもドイツポストのアラン氏は「個別の同業 他社についてのコメントは控えるが、そういう業者 とわれわれとではまず事業規模が違っている。
さら に各オペレーションの精度や錬度も大きく違ってい る。
現時点でみれば、ロジスティクス部門の利益率 がエクスプレスなどと比べると見劣りするのは確か だが、われわれが今後一〇%近い利益率を上げるよ うになれば、そうした認識も変わってくる」と意に 介さない。
ドイツポストは3PL部門だけでなく、フォワー ディングやエクスプレスなど、フルラインの物流サー ビスにおいて、それぞれ世界最大規模のインフラを 持っている。
その相乗効果によって、3PL事業の 収益性を向上させることができるという判断だ。
「3PL事業で高い利益率を上げようと思えば、ま ずは3PL部門だけでなく、フォワーディング部門 でも大きなシェアを抑えることだ。
海外へと伸びて いく顧客のサプライチェーン業務を取り込むためには、 世界の主要地域でサービスを提供できる事業基盤が 必要となる。
フォワーディングに加え、エクスプレス などのメニューをそろえ、それを多様に組み合わせる ことで顧客専用のサービスを作り出すのだ。
次に利 益につながりそうな業務に集中的に特化して、そこ からノウハウを吸い上げ全社で共有する。
さらには SEPTEMBER 2007 30 Case Study 31 SEPTEMBER 2007 3PL市場 2007 特集 現場の業務を常に改善を続けることや、IT(情報 技術)を充実させることなども必要だ」とアラン氏 はいう。
M&Aで3PL市場を飲み込む ドイツポストは五〇〇年以上の歴史を持つドイツ 国営郵便局を前身とする。
八〇年代後半からはじま る国営企業民営化の流れを受け、九〇年代には大規 模なリストラを断行した。
二〇〇〇年に株式を公開。
そこで得た資金を元手にエクスプレス業者や3PL 業者を次々と買収し、業界内で急速にその存在感を 増してきた。
ドイツ国内の郵便事業は独占状態が続いている間 は豊富なキャッシュをもたらしてくれる。
しかし欧州 連合(EU)で進められている郵便事業の自由化に よって、将来の競争激化は必至だ。
しかも国内郵便 市場は既に成熟し、その規模は縮小傾向にある。
こ うした環境変化への対応策として、ドイツポストは ロジスティクス事業とエクスプレス事業への多角化を 打ち出したのだ。
一九九八年にアメリカのエクスプレス業者である DHLを買収したことが、その先駆けだった。
(全株 取得は二〇〇二年)。
その後、スイスの大手フォワー ダーであるダンザス(一九九九年)、アメリカのフォ ワーダーであるエア・エクスプレス・インターナショ ナル=AEI(一九九九年)、アメリカのエクスプレ ス業者のエア・ボーン・エクスプレス(二〇〇三年) など、一〇年間で大小あわせて数十社にのぼる物流 企業を買収した。
そして一連のM&Aの総仕上げが、二〇〇五年の エクセル買収だった。
3PL部門とフォワーディン グ部門の両方で業界トップだったイギリスのエクセル の株式を五五億ユーロ(八九一〇億円)で取得。
同 社の十一万人の従業員と数千社の荷主企業を引き継 ぐことで、3PL市場において後続企業との間に大 きく水をあけた。
この買収は、業界に大きな衝撃を与えた。
買収さ れるエクセルもまた、有力3PLのティベット&ブリ テンや大手フォワーダーのMSAS、その親会社だっ たオーシャン・グループ、さらには日本の富士通ロ ジスティクスなど、一〇〇社近くの物流企業を買収 することで事業規模を急拡大させた3PL市場の勝 ち組とされていたからだ。
つまりドイツポストによる エクセルの買収は、積極的な買収戦略によって巨大 化した国際インテグレーターが、いよいよ3PL市 場まで飲み込んだことを意味していた。
株式市場の不安 もっとも、この買収に関しては、二つの懸念材料 があった。
一つは、ロジスティクス業界で史上最大 となるM&A後の業務統合をスムーズに行うことが できるかという問題だ。
ドイツポストのエクスプレス 部門は、二〇〇三年にアメリカで業界三位だったエ ア・ボーン・エクスプレスを買収した後、業務統合で 大きくつまずいている。
それだけにエクセルの買収を 不安視する声は少なくなかった。
もう一つの懸念は、M&Aの過程で、旧エクセル の顧客を失うことがないかという点だ。
この懸念を 解消するためにドイツポストのとった対策の一つが、 エクセルのトップとして数多くのM&Aを成功させて きた実績を持つアラン氏を、ドイツポストの役員と して迎え、ロジスティクス部門のトップに据えること だった。
結果を見る限り、これは賢明な判断だったようだ。
70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 図2 部門別の売上高と利益(2006年) 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 《売上高》《利益》 メールエクスプレスロジスティクス金融サービス 売上高 利益 ロジスティクス その他 図1 ドイツポストの売上高の推移 (単位:百万ユーロ) (単位:百万ユーロ) 「業務統合は非常にうまくいっている。
作業を始める 前、われわれは三カ月かけて九〇〇以上のプロジェ クトを立ち上げて、一つひとつの作業をこなしていっ た。
それまで四万人だったロジスティクス部門の社 員が一五万人になるのだから、大規模な作業となった。
すでにそのほとんどが終わっており、今年中にはすべ ての作業が終了する。
業務統合によるシナジー効果は、 二〇〇八年には二億二〇〇〇万ユーロ(三五六億円) に達するだろう」とアラン氏は説明する。
荷主が離反するのではないかという危惧も杞憂に 終わった。
一般にヨーロッパでは、荷主との契約条 項の中に、3PL業者の所有者が変更になった場 合には、契約を破棄できるという項目が入っている。
しかし、エクセルの買収で、その権利を行使した荷 主は数社にとどまったようだ。
今も同社の顧客リストには、自動車産業ではフォー ド・モーターやゼネラル・モーターズ、製薬産業では ファイザー、エレクトロニクス産業ではデルやヒュー レット・パッカード、日用雑貨ではユニリーバやP& G、小売業ではマークス&スペンサーやウォルマート といったフォーチュン五〇〇傑の多国籍企業がずら りと名を連ねている。
アラン氏は「われわれの中にも顧客を失うかもし れないという心配はあった。
そのため多くの時間をか けて顧客の説得にあたった。
エクセルがドイツポスト 傘下に入って大きな資本をバックに持つことは、必 ず顧客のプラスになると説いてまわった。
その結果、 数千社ある顧客の中で、買収を機にわれわれから離 れていったのは一〇社未満にとどまった。
このことは、 われわれを安心させるものだった」という。
しかし株式市場の不安は、まだ一掃されたとはい えない。
市場は当初からエクセルの買収を疑問視し ていた。
二〇〇五年九月中旬にエクセルの買収を発 表したことを受け、ドイツポストの株価はそれまで二 〇ユーロ前後で推移していたものが、その後一カ月 間で一八ユーロにまで落ち込んだ。
その後は持ち直 してはいるが、3PL部門に見切りをつけたフェデッ クスやTNTが大幅に株価を上昇させているのと比 べると見劣りがする感は否めない(図4)。
株価についてアラン氏は「あくまでも個人的な意 見だが、市場はまだドイツポストの持つ潜在的な価 値を十分に評価していない、と思っている。
もし ロジスティクス部門を含む各部門が、これからの二、 三年でよい成績を残せば、株価はおのずと上がって くるだろう。
そのためにも、社内で最大の売り上げ を占めるロジスティクス部門の責任は大きい」と説 明する。
荷主との裁判とストの真相 アラン氏がDHLロジスティクスのトップに就任し て以来、二つの大きな出来事が同社を襲っている。
報 道された内容をみる限り、それらの出来事は市場が 抱いていた不安を裏付けているかのようにも思われた。
出来事の一つは、大手荷主であるドイツテレコム との訴訟問題である。
欧州のマスコミは、二〇〇六 年八月、ドイツポストが荷主であるドイツテレコムを 相手に、同社から買い取った物流センターのダメー ジに関して一億ユーロ(一六二億円)を超す賠償を 請求していると報じた。
起訴の原因は、ドイツポストが二〇〇〇年にドイ ツテレコムから買い取った物流センターに構造的な欠 陥があり、建設許可も受けていなかったことにあった。
しかしドイツポストにとってドイツテレコムは最大手 の荷主の一つ。
訴訟が今後のアウトソーシング契約 SEPTEMBER 2007 32 11.6% DHL グローバル・ フォワーディング 5.8% DHL エクセル・ サプライチェーン 2.0% CEVA (旧TNT ロジスティクス) 1.2% キューネ+ナーゲル (ACR ロジスティク買収を含む) 1.3% UPS サプライチェーン 88.4% その他 6.8% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.3% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.0% パナルピナ 1.3% ウィンカントン5.2% 日本通運 3.5% キューネ+ナーゲル 8.3% キューネ+ナーゲル 3.1% エクスペディターズ 2.9% 近鉄エクスプレス 66.9% その他74.8% その他 1790 億ユーロ (28 兆9980 億円) 198 億ユーロ (3 兆2076 億円) 2090 万TEU 換算 航空フォワーディング市場のシェア(2005 年) 海上フォワーディング市場のシェア(2005 年) 8.6% DHL グローバル・ フォワーディング 出典:ドイツポスト2006 年年次報告書 注1)各DHL の数字には旧エクセルを含む 注2)各DHL の数字はプロフォーマ(pro forma)ベース 注3)フォワーディング市場のシェアはIATA からとっており必ずしも各社の売上高とは一致しない ドイツポスト・ワールドネット メール事業 エクスプレス事業 ロジスティクス事業 金融サービス事業 DHL グローバル・フォワーディング DHL エクセル・サプライチェーン DHL フレイト 3PL 市場のシェア(2005 年) 図3 ドイツポストにおけるロジスティクス部門の位置付け 3PL市場 2007 特集 にどのような影響を与えるのかが注目される、と報 道は伝えた。
これについてアラン氏は「報道の内容は、必ずし も正確ではない。
もともとドイツポストとドイツテレ コムは、ドイツ政府内の同じ事業体だった。
それが 八〇年代から九〇年代にかけて別の事業体となると きに起きた不動産に関する意見の食い違いが今回の 起訴の原因であって、物流センターともロジスティク ス業務ともまったく関係のない話。
実際、報道が出 る以前の二〇〇六年三月に、ドイツテレコムがドイ ツポストに八九〇〇万ユーロ(一四四億二〇〇〇万 円)を支払うことで調停が成立している」と説明する。
DHLロジスティクスを襲ったもう一つの出来事は、 イギリス政府のNHS(National Health Service: 英国国民健康保険)が、同組織のロジスティクス部 門をDHLに売却したことに関して起きたストライキ だった。
DHLロジスティクス部門は二〇〇六年一〇月に イギリス政府からNHSのロジスティクス業務に関 する一〇年契約を受注した。
専用の物流センターを 運営して、英国内の六〇〇カ所の病院に、五〇万種 類の医療品を配達するという内容だ。
一〇年間の受 注額は二三億ユーロ(三七二六億円)で、それまで の方法と比べて大幅なコスト削減を目標に掲げた。
この業務の発注に際してイギリス政府は、国営企 業であったNHSロジスティクスを民営化して、同 社の一七〇〇人の従業員をDHLの従業員に移し替 えることを決めた。
その正式な業務移行を前にして ストライキが起こった。
これについてもアラン氏は「ストライキが起こった のはわれわれが業務を引き継ぐ以前の九月までのこと。
一〇月以降は、業務がストによって滞ったことは一 日もないし、一人の従業員もストに参加していない。
ストライキは、イギリス政府の決定に対して起こっ たもので、いったんわれわれが業務を引き継ぐとスト は収まった。
旧NHSロジスティクスの従業員のほ とんどすべてが現在、DHLの社員として働いている」 という。
日本市場でも事業拡大 DHLロジスティクス部門の事業領域は日本市 場にも拡大している。
エクセル時代の二〇〇四年に、 富士通から富士通ロジスティクスを買収し、日本市 場における3PL事業の基盤を固めた。
これによっ て旧エクセル(現DHLエクセル・サプライチェーン) の従業員は、四〇〇人弱から一気に九〇〇人に増えた。
「富士通ロジスティクスの買収から三年がたつが、 日本での業務展開はうまくいっている。
3PLの顧 客数も年々増えている。
現在抱えている大手顧客には、 富士通はもちろん、デルコンピュータ、西友、ハン ドバックのコーチ、ドイツの印刷機器メーカーである ハイデルベルグ・ジャパンなどがある。
原則として国 別の利益率は公開していないが、日本での業績はわ れわれの基準と照らし合わせて合格点に達している」 (アラン氏) DHLロジスティクス部門は、今後も日本で同じ ような買収を計画しているのだろうか。
「現時点では、買収して事業を広げるよりも、オー ガニックグロース(既存の資産を使っての自力成長) に重点を置いている。
しかし富士通ロジスティクス のような買収物件が浮上すれば、つまり適度なアセッ トと高度なノウハウを持った物流企業が日本で売り に出されたなら、慎重に検討してから買収するかど うかを決めたい」とアラン氏は語っている。
33 SEPTEMBER 2007 PROFILE ジョン・M・アラン 1970 年、英エジン バラ大学卒。
73 年、リーバ・ブラザーズ入 社。
ブリストル・マイヤーズ、ファインフェ ア、BET を経て、94 年にエクセル最高経営 責任者に就任。
2006 年、ドイツポストワー ルドネット理事に就任。
現在に至る。
TNT フェデックス ドイツポスト 160 140 120 100 ‘05 年8 月‘06 年2 月‘06 年8 月‘07 年2 月‘07 年8 月 ※2005 年8 月1 日を基準にした2007 年8 月10 日時点の株価の上昇率 (%) 15 6 図4 ドイツポスト株価の動き
06 年に英エクセルを買収したことで、3PL 市場においても業界トッ プに立った。
エクセルのCEO からドイツポストのロジスティクス部 門長に転じたジョン・アラン氏が、同社の3PL 戦略を語る。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) TNTやフェデックスとの違い ドイツポスト・ワールドネットのロジスティクス事 業部門は、DHLブランドの下にDHLグローバル・ フォワーディング、DHLエクセル・サプライチェー ン、DHLフレイトの三つの下部組織から構成され る(図3)。
世界二二〇以上の国や地域に拠点を展 開し、総従業員数一六万人(全社合計は五二万人)、 部門売上高(二〇〇六年度)二二七億三九〇〇万 ユーロ(三兆六八三七億円:一ユーロ= 一六二円換 算)を誇る世界最大の3PLだ。
年間の総売上が約一〇兆円に上るドイツポストに おいても、DHLロジスティクスは収入面では最も 大きなシェアを占める事業部門となっている。
ただし 営業利益は七億六二〇〇万ユーロ(一二三四億円) と全体の約一〇%を占めるに過ぎない。
DHLロジ スティクスの利益率は二〇〇五年、二〇〇六年とも に三%台にとどまっており、一五%台を上げる同社 の郵便事業部門や一〇%台の金融サービス部門には 遠くおよばない。
それでもドイツポストのボードメンバーでDHLロ ジスティクスを統括するジョン・アラン氏は「ロジス ティクス部門の利益率としては一桁の後半、つまり 八〜九%から、できれば二桁台を目指している。
た しかに市場には多くの業者がひしめき合っている。
3 P L 業界の最大手である当社でさえ、市場シェア は一〇%にはるかおよばない。
しかし3PL事業は、 やり方次第で十分な将来性がある」と強気だ。
ドイツポストをはじめとしてアメリカのU P Sと フェデックス、そしてオランダ郵政局を前身とするT NTの世界的物流企業四社は、“国際インテグレー ター”と呼ばれている。
いずれも専用貨物飛行機を 所有し、ドア・ツー・ドアの国際間複合一貫輸送を 手がける総合物流事業者だ。
ただし、3PL事業に 対するスタンスは各社で大きく異なっている。
実際、 TNTは二〇〇五年に年間約五〇〇〇億円を売り上 げていたロジスティクス事業部門を投資ファンドに売 却し、同市場から撤退している。
フェデックスのフ レデリック・スミス会長も3PL部門は利益率が低 いために魅力がないと公言している。
それでもドイツポストのアラン氏は「個別の同業 他社についてのコメントは控えるが、そういう業者 とわれわれとではまず事業規模が違っている。
さら に各オペレーションの精度や錬度も大きく違ってい る。
現時点でみれば、ロジスティクス部門の利益率 がエクスプレスなどと比べると見劣りするのは確か だが、われわれが今後一〇%近い利益率を上げるよ うになれば、そうした認識も変わってくる」と意に 介さない。
ドイツポストは3PL部門だけでなく、フォワー ディングやエクスプレスなど、フルラインの物流サー ビスにおいて、それぞれ世界最大規模のインフラを 持っている。
その相乗効果によって、3PL事業の 収益性を向上させることができるという判断だ。
「3PL事業で高い利益率を上げようと思えば、ま ずは3PL部門だけでなく、フォワーディング部門 でも大きなシェアを抑えることだ。
海外へと伸びて いく顧客のサプライチェーン業務を取り込むためには、 世界の主要地域でサービスを提供できる事業基盤が 必要となる。
フォワーディングに加え、エクスプレス などのメニューをそろえ、それを多様に組み合わせる ことで顧客専用のサービスを作り出すのだ。
次に利 益につながりそうな業務に集中的に特化して、そこ からノウハウを吸い上げ全社で共有する。
さらには SEPTEMBER 2007 30 Case Study 31 SEPTEMBER 2007 3PL市場 2007 特集 現場の業務を常に改善を続けることや、IT(情報 技術)を充実させることなども必要だ」とアラン氏 はいう。
M&Aで3PL市場を飲み込む ドイツポストは五〇〇年以上の歴史を持つドイツ 国営郵便局を前身とする。
八〇年代後半からはじま る国営企業民営化の流れを受け、九〇年代には大規 模なリストラを断行した。
二〇〇〇年に株式を公開。
そこで得た資金を元手にエクスプレス業者や3PL 業者を次々と買収し、業界内で急速にその存在感を 増してきた。
ドイツ国内の郵便事業は独占状態が続いている間 は豊富なキャッシュをもたらしてくれる。
しかし欧州 連合(EU)で進められている郵便事業の自由化に よって、将来の競争激化は必至だ。
しかも国内郵便 市場は既に成熟し、その規模は縮小傾向にある。
こ うした環境変化への対応策として、ドイツポストは ロジスティクス事業とエクスプレス事業への多角化を 打ち出したのだ。
一九九八年にアメリカのエクスプレス業者である DHLを買収したことが、その先駆けだった。
(全株 取得は二〇〇二年)。
その後、スイスの大手フォワー ダーであるダンザス(一九九九年)、アメリカのフォ ワーダーであるエア・エクスプレス・インターナショ ナル=AEI(一九九九年)、アメリカのエクスプレ ス業者のエア・ボーン・エクスプレス(二〇〇三年) など、一〇年間で大小あわせて数十社にのぼる物流 企業を買収した。
そして一連のM&Aの総仕上げが、二〇〇五年の エクセル買収だった。
3PL部門とフォワーディン グ部門の両方で業界トップだったイギリスのエクセル の株式を五五億ユーロ(八九一〇億円)で取得。
同 社の十一万人の従業員と数千社の荷主企業を引き継 ぐことで、3PL市場において後続企業との間に大 きく水をあけた。
この買収は、業界に大きな衝撃を与えた。
買収さ れるエクセルもまた、有力3PLのティベット&ブリ テンや大手フォワーダーのMSAS、その親会社だっ たオーシャン・グループ、さらには日本の富士通ロ ジスティクスなど、一〇〇社近くの物流企業を買収 することで事業規模を急拡大させた3PL市場の勝 ち組とされていたからだ。
つまりドイツポストによる エクセルの買収は、積極的な買収戦略によって巨大 化した国際インテグレーターが、いよいよ3PL市 場まで飲み込んだことを意味していた。
株式市場の不安 もっとも、この買収に関しては、二つの懸念材料 があった。
一つは、ロジスティクス業界で史上最大 となるM&A後の業務統合をスムーズに行うことが できるかという問題だ。
ドイツポストのエクスプレス 部門は、二〇〇三年にアメリカで業界三位だったエ ア・ボーン・エクスプレスを買収した後、業務統合で 大きくつまずいている。
それだけにエクセルの買収を 不安視する声は少なくなかった。
もう一つの懸念は、M&Aの過程で、旧エクセル の顧客を失うことがないかという点だ。
この懸念を 解消するためにドイツポストのとった対策の一つが、 エクセルのトップとして数多くのM&Aを成功させて きた実績を持つアラン氏を、ドイツポストの役員と して迎え、ロジスティクス部門のトップに据えること だった。
結果を見る限り、これは賢明な判断だったようだ。
70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 図2 部門別の売上高と利益(2006年) 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 《売上高》《利益》 メールエクスプレスロジスティクス金融サービス 売上高 利益 ロジスティクス その他 図1 ドイツポストの売上高の推移 (単位:百万ユーロ) (単位:百万ユーロ) 「業務統合は非常にうまくいっている。
作業を始める 前、われわれは三カ月かけて九〇〇以上のプロジェ クトを立ち上げて、一つひとつの作業をこなしていっ た。
それまで四万人だったロジスティクス部門の社 員が一五万人になるのだから、大規模な作業となった。
すでにそのほとんどが終わっており、今年中にはすべ ての作業が終了する。
業務統合によるシナジー効果は、 二〇〇八年には二億二〇〇〇万ユーロ(三五六億円) に達するだろう」とアラン氏は説明する。
荷主が離反するのではないかという危惧も杞憂に 終わった。
一般にヨーロッパでは、荷主との契約条 項の中に、3PL業者の所有者が変更になった場 合には、契約を破棄できるという項目が入っている。
しかし、エクセルの買収で、その権利を行使した荷 主は数社にとどまったようだ。
今も同社の顧客リストには、自動車産業ではフォー ド・モーターやゼネラル・モーターズ、製薬産業では ファイザー、エレクトロニクス産業ではデルやヒュー レット・パッカード、日用雑貨ではユニリーバやP& G、小売業ではマークス&スペンサーやウォルマート といったフォーチュン五〇〇傑の多国籍企業がずら りと名を連ねている。
アラン氏は「われわれの中にも顧客を失うかもし れないという心配はあった。
そのため多くの時間をか けて顧客の説得にあたった。
エクセルがドイツポスト 傘下に入って大きな資本をバックに持つことは、必 ず顧客のプラスになると説いてまわった。
その結果、 数千社ある顧客の中で、買収を機にわれわれから離 れていったのは一〇社未満にとどまった。
このことは、 われわれを安心させるものだった」という。
しかし株式市場の不安は、まだ一掃されたとはい えない。
市場は当初からエクセルの買収を疑問視し ていた。
二〇〇五年九月中旬にエクセルの買収を発 表したことを受け、ドイツポストの株価はそれまで二 〇ユーロ前後で推移していたものが、その後一カ月 間で一八ユーロにまで落ち込んだ。
その後は持ち直 してはいるが、3PL部門に見切りをつけたフェデッ クスやTNTが大幅に株価を上昇させているのと比 べると見劣りがする感は否めない(図4)。
株価についてアラン氏は「あくまでも個人的な意 見だが、市場はまだドイツポストの持つ潜在的な価 値を十分に評価していない、と思っている。
もし ロジスティクス部門を含む各部門が、これからの二、 三年でよい成績を残せば、株価はおのずと上がって くるだろう。
そのためにも、社内で最大の売り上げ を占めるロジスティクス部門の責任は大きい」と説 明する。
荷主との裁判とストの真相 アラン氏がDHLロジスティクスのトップに就任し て以来、二つの大きな出来事が同社を襲っている。
報 道された内容をみる限り、それらの出来事は市場が 抱いていた不安を裏付けているかのようにも思われた。
出来事の一つは、大手荷主であるドイツテレコム との訴訟問題である。
欧州のマスコミは、二〇〇六 年八月、ドイツポストが荷主であるドイツテレコムを 相手に、同社から買い取った物流センターのダメー ジに関して一億ユーロ(一六二億円)を超す賠償を 請求していると報じた。
起訴の原因は、ドイツポストが二〇〇〇年にドイ ツテレコムから買い取った物流センターに構造的な欠 陥があり、建設許可も受けていなかったことにあった。
しかしドイツポストにとってドイツテレコムは最大手 の荷主の一つ。
訴訟が今後のアウトソーシング契約 SEPTEMBER 2007 32 11.6% DHL グローバル・ フォワーディング 5.8% DHL エクセル・ サプライチェーン 2.0% CEVA (旧TNT ロジスティクス) 1.2% キューネ+ナーゲル (ACR ロジスティク買収を含む) 1.3% UPS サプライチェーン 88.4% その他 6.8% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.3% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.0% パナルピナ 1.3% ウィンカントン5.2% 日本通運 3.5% キューネ+ナーゲル 8.3% キューネ+ナーゲル 3.1% エクスペディターズ 2.9% 近鉄エクスプレス 66.9% その他74.8% その他 1790 億ユーロ (28 兆9980 億円) 198 億ユーロ (3 兆2076 億円) 2090 万TEU 換算 航空フォワーディング市場のシェア(2005 年) 海上フォワーディング市場のシェア(2005 年) 8.6% DHL グローバル・ フォワーディング 出典:ドイツポスト2006 年年次報告書 注1)各DHL の数字には旧エクセルを含む 注2)各DHL の数字はプロフォーマ(pro forma)ベース 注3)フォワーディング市場のシェアはIATA からとっており必ずしも各社の売上高とは一致しない ドイツポスト・ワールドネット メール事業 エクスプレス事業 ロジスティクス事業 金融サービス事業 DHL グローバル・フォワーディング DHL エクセル・サプライチェーン DHL フレイト 3PL 市場のシェア(2005 年) 図3 ドイツポストにおけるロジスティクス部門の位置付け 3PL市場 2007 特集 にどのような影響を与えるのかが注目される、と報 道は伝えた。
これについてアラン氏は「報道の内容は、必ずし も正確ではない。
もともとドイツポストとドイツテレ コムは、ドイツ政府内の同じ事業体だった。
それが 八〇年代から九〇年代にかけて別の事業体となると きに起きた不動産に関する意見の食い違いが今回の 起訴の原因であって、物流センターともロジスティク ス業務ともまったく関係のない話。
実際、報道が出 る以前の二〇〇六年三月に、ドイツテレコムがドイ ツポストに八九〇〇万ユーロ(一四四億二〇〇〇万 円)を支払うことで調停が成立している」と説明する。
DHLロジスティクスを襲ったもう一つの出来事は、 イギリス政府のNHS(National Health Service: 英国国民健康保険)が、同組織のロジスティクス部 門をDHLに売却したことに関して起きたストライキ だった。
DHLロジスティクス部門は二〇〇六年一〇月に イギリス政府からNHSのロジスティクス業務に関 する一〇年契約を受注した。
専用の物流センターを 運営して、英国内の六〇〇カ所の病院に、五〇万種 類の医療品を配達するという内容だ。
一〇年間の受 注額は二三億ユーロ(三七二六億円)で、それまで の方法と比べて大幅なコスト削減を目標に掲げた。
この業務の発注に際してイギリス政府は、国営企 業であったNHSロジスティクスを民営化して、同 社の一七〇〇人の従業員をDHLの従業員に移し替 えることを決めた。
その正式な業務移行を前にして ストライキが起こった。
これについてもアラン氏は「ストライキが起こった のはわれわれが業務を引き継ぐ以前の九月までのこと。
一〇月以降は、業務がストによって滞ったことは一 日もないし、一人の従業員もストに参加していない。
ストライキは、イギリス政府の決定に対して起こっ たもので、いったんわれわれが業務を引き継ぐとスト は収まった。
旧NHSロジスティクスの従業員のほ とんどすべてが現在、DHLの社員として働いている」 という。
日本市場でも事業拡大 DHLロジスティクス部門の事業領域は日本市 場にも拡大している。
エクセル時代の二〇〇四年に、 富士通から富士通ロジスティクスを買収し、日本市 場における3PL事業の基盤を固めた。
これによっ て旧エクセル(現DHLエクセル・サプライチェーン) の従業員は、四〇〇人弱から一気に九〇〇人に増えた。
「富士通ロジスティクスの買収から三年がたつが、 日本での業務展開はうまくいっている。
3PLの顧 客数も年々増えている。
現在抱えている大手顧客には、 富士通はもちろん、デルコンピュータ、西友、ハン ドバックのコーチ、ドイツの印刷機器メーカーである ハイデルベルグ・ジャパンなどがある。
原則として国 別の利益率は公開していないが、日本での業績はわ れわれの基準と照らし合わせて合格点に達している」 (アラン氏) DHLロジスティクス部門は、今後も日本で同じ ような買収を計画しているのだろうか。
「現時点では、買収して事業を広げるよりも、オー ガニックグロース(既存の資産を使っての自力成長) に重点を置いている。
しかし富士通ロジスティクス のような買収物件が浮上すれば、つまり適度なアセッ トと高度なノウハウを持った物流企業が日本で売り に出されたなら、慎重に検討してから買収するかど うかを決めたい」とアラン氏は語っている。
33 SEPTEMBER 2007 PROFILE ジョン・M・アラン 1970 年、英エジン バラ大学卒。
73 年、リーバ・ブラザーズ入 社。
ブリストル・マイヤーズ、ファインフェ ア、BET を経て、94 年にエクセル最高経営 責任者に就任。
2006 年、ドイツポストワー ルドネット理事に就任。
現在に至る。
TNT フェデックス ドイツポスト 160 140 120 100 ‘05 年8 月‘06 年2 月‘06 年8 月‘07 年2 月‘07 年8 月 ※2005 年8 月1 日を基準にした2007 年8 月10 日時点の株価の上昇率 (%) 15 6 図4 ドイツポスト株価の動き
