2007年10月号
SOLE

設備保全のトレンドを学ぶ日本でのRCM普及に期待

設備保全のトレンドを学ぶ 日本でのRCM普及に期待  七月度のフォーラムでは、「RCM ことはじめ─RCMに至る保全方式の 変遷─」と題し、永年にわたって原子 力発電所の情報システムの構想企画 やシステム開発に携わってきた日本ユ ニシスOBの斎藤一弥氏から、設備 の保全方式の変遷とRCM(Reliability Centered Maintenance:信頼性重視 保全)規格の変遷についてご講演いた だいた。
保全方式の進化  設備の保全業務は、設備産業にお けるロジスティクスの中核となる業務 分野の一つであり、設備の安全性お よび性能の維持は設備の所有者だけ でなくそのステークホルダーにとって も重要なものである。
 一九五〇年代までの設備保全では、 機器の故障は磨耗によるものだと考 えられていた。
その後、新しい考え 方として、いわゆる「バスタブ曲線(故 障率曲線)」が現れた。
機器の使用 期間(横軸)と故障発生率(縦軸) の関係を示した図で描かれる曲線が バスタブのようであることから名付 けられた。
具体的には、使用初期に 高かった故障発生率は次第に低くな り、しばらくは故障の少ない安定状 態が継続するが、年を経るにつれて 再び故障発生率が高くなるというも のである。
つまり、機器には製造工 程における不具合による初期故障が 存在し、その後しばらくは安定するが、 使用期間が長くなれば次第に磨耗に よる故障が発生すると考えるように なったのである。
 一九六〇年には、米国連邦航 空局(FAA:Federal Aviation Ad ministration)を中心に? Industry Steering Reliability Program”が発 足した。
航空機の機器・部品の故障 パターンが詳細に分析され、その結果、 故障パターンは六種類に分類できる ことが分かった。
この分類は、その 後のRCM解析の基礎となっている。
 分析結果からはさらに、経年とと もに劣化が大きくなるような故障パ ターンは機器・部品全体の八〜二三% に過ぎず、残りの七七〜九二%は経 年とともに劣化が進行していくような 故障パターンではないことが明確にな った。
これを受けて、時期を定めて 機器・部品の点検取り換えを行うよ うな従来の「時間計画保全方式」に は無駄が多いのではないかという結論 が導かれ、機器・部品の設備全体に 対する影響度合いの大きい機器・部 品を選びそれらに注目した保全方式 が採用されるようになった。
これがR CMの始まりである。
 さて、図1に示したように、設備 保全は三つの世代に大別できる。
第 一世代は一九五〇年代までであり、 考える故障パターンは一つで、設 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics 図1 保全方式の進化 第1世代 ●壊れたら修理する 第1世代 ●壊れたら修理する 第2世代 ●アベイラビリティの向上 ●設備寿命の延長 ●より低コストで 第3世代 ●安全性の向上 ●アベイラビリティ、信頼性の向上 ●製品品質の向上 ●環境への考慮 ●設備寿命の延長 ●コスト効果の向上 第2世代 ●計画点検 ●作業管理計画実績管理 ●大型計算機の利用 第3世代 第1世代 第2世代 第3世代 ●状態監視 ●信頼性、保守性を設計時に考慮 ●リスク管理分析 ●小型高速計算機 ●故障モードとその影響解析 ●エキスパート システム ●多種能力のチームワーク 保全方針 技 術 故障パターンの考え方 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 Copyright:Kazuya Saito 75  OCTOBER 2007 fications and Standards)の見直し を図るべきだという「ペリーメモ」 が出された一九九四年以降、米国防 総省内部での規格は最小限にとどめ るようになった。
これに伴い、R C Mに関する規格も米国防総省全体に 渡るものではなく、各部でのガイドラ インやマニュアルとして作成されるよ うになった。
 各部でのRCMに関する最新のマ ニュアルには、次のようなものがある。
■陸軍:DA TM 5-698-2(2003) ■沿岸警備隊:CGTO PG-85-00-30 (1992) ■空軍:AFI 21-104(2005) ■海軍:NAVAIR 00-25-403(2005)、 NAVSEA S9081 AB-GIB-010 (2007) ──このうちNAVAIR 00-25-403 は、 教育訓練を含めた詳細な内容がホー ムページで公開されており、RCM の勉強に役立てられる。
 一方で、RCMの研究者であるモ ーブレー(J. Moubray)は一九九〇 年に「RCM Reliability-centered Maintenance(第一版)」を発表し、 一九九七年には第二版が発行された。
この本は、航空機業界と軍を除く分 野において多大な影響を与えている。
 産業界のRCM規格としては、米 自動車技術者協会(SAE : Society 備保全の基本方式は壊れたら直す という考え方であった (事後保全: Corrective Maintenance) 。
 第二世代は一九七〇年代半ばまで の期間で、設備に対する要求事項に アベイラビリティ(可用性)や低コ ストが加わり、よりきめの細かい保 全方式が要求されるようになってきた。
このため、事後保全ではなく、壊れ る前に整備しておくという予防保全 方式(Preventive Maintenance)が 取られるようになり、これを支える技 術として時間計画保全方式が主流と なっていった。
そして、計算機を利 用して点検業務の詳細な実施プロセ スを計画し、工程管理に基づいて作 業が実施されるようになった。
 第三世代の一九七〇年代半ば以 降は、設備に対するアベイラビリテ ィ・信頼性のほかにリスク・安全 性がクローズアップされ、これらを 加味した保全方式が採用されるよう になった。
従来の保全方式は、機 器・部品の故障そのものを修理する こと(Reactive Maintenance)に主 眼をおいていたが、第三世代の保全 方式では、故障の根本原因を追究 して根本的な故障修理を実施するこ と(Proactive Maintenance)に主眼 が移っている。
欧米のこの考え方は、 日本におけるTQM(Total Quality Management)と似通ったものである。
 第三世代の保全方式を支える技術 としては、故障の前兆を捉えるため の状態監視保全、信頼性・保全性 を考慮した設計、リスク分析、故 障モードとその影響分析等が挙げら れ、これらの解析には小型の高速 計算機が利用されている。
最近では、 計算機を積極的に利用したE A M (Enterprise Asset Management : 設備資産管理)を実施している企業 もある。
とはいえ、RCMを実施す るために最も重要なのは、それぞれ の分野の専門家のチームワークであ るといわれている。
 RCM方式の最初の導入事例と して報告されているのは、一九六〇 年代の民間航空機B─747である。
RCM導入の本来の目的は安全性の 確保であったが、結果として保全費 用を従来よりもはるかに安く賄うこと ができた。
その後、軍を中心に、R CMを適用した保全業務の多くの実 施事例が報告されている。
多岐にわたる関連規格  RCMに関する規格は、欧米の各 種団体から多数発表されている。
こ こではこれらの規格の流れを概観す ることにする。
 前述のように、米国連邦航空局 が?Industry Steering Reliability Program”を一九六〇年に立ち上げ た。
これには、主として米国連邦航 空局のほか航空機メーカーが参加し、 米国防総省(DoD: Department of Defense)もスポンサーとなってい た。
このグループの成果物は「MS G─1」として一九六八年に発刊さ れ、その後「MSG─2」(1970)、「M SG─3第一版」(1980)が続き、現 在は二〇〇三年に刊行された「MS G─3第三版」が最新版となってい る。
この規格は、現在の航空機整備 マニュアルの一部として活用されてい る。
また最近は、RCMの手法を米 国の空港設備保全業務に適用するこ とが決定している。
 MSG─2の作成に関係した、米ユ ナイテッド航空のノーラン(Nowlan) とヒープ(Heap)は、米国防総省か らの委託を受けてRCMに関する五一 五ページに及ぶ報告書「AD-A066579」 を一九七八年に提出した。
これは以 降の規格に大きな影響を与えており、 現在でもRCMに関する技術報告書 として高く評価されている。
 米国防総省では、軍用設備の保 全業務に関して古くから研究を進め ていた。
R C M 関連の研究書とし ては、「MIL-P-24534」(1976) があ る。
その後、幾つかの変遷を経て、 「MIL-STD-2173」(1986)、「MILHDBK- 2173」(1998)が発行されている。
 米軍規格(MIL:Military Speci OCTOBER 2007  76 of Automotive Engineers) から発 行されている、「SAE JA 1011」(1999) と「SAE JA 1012」(2002)がある。
前者はRCMに関する要求事項がコ ンパクトにまとめられたもので、後者 は具体的なガイドラインである。
こ れらは、産業界における事実上のR CM標準規格となっている。
 米国の電力業界で原子力発電設備 の保全業務にRCMを取り入れる動き が出たのは一九八〇年で、電力研究 所(EPRI : Electric Power Resear ch Institute)ではMSG─1の検討要 員をコンサルタントに招いて本格的な RCMの検討を開始した。
その結果 は一九八七年に「EPRI-RCM」とし てまとめられた。
電力研究所では最近、 原子力発電所だけではなく送電設備 の保全業務にもRCMを取り入れて いる。
また、米航空宇宙局(NASA: National Aeronautics and Space Administration)では、二〇〇〇年 に「NASA-RCM Guide」を発刊し ている。
 英国防省では、米国防総省の 「NAVAIR 00-25-403」(1986) の影 響を受けてRCMの規格化を検討し、 「DEF STAN-02-45(NES 45)」を二 〇〇〇年に発刊した。
〇六年にはこ れを基にRCMの規格シリーズ「DEF STAN-00-45 Part1-Part6」を発刊し、 集大成とした。
 このほか、国際電気標準会議(I E C : International Electrotechnical Commission)では信頼性に関連する 規格を「Dependability 規格」と呼 んで関連規格を多数発刊しており、 RCMに関する規格では「CEI IEC 60300.3」(2003) が有名である。
I ECの規格はISO化されることが 多く、RCM解析のためのデータ規 格に関しては既にISO規格として 発行されている。
 わが国におけるRCMの活動に目 を向けると、一部の企業では実施し ているようであるが、全体的な普及 にはまだ道が遠いように感じられる。
わが国の設備保全の力をつけるために は、積極的な情報公開を基本に、業 界団体、学会等官民一体となった取 り組みが必要であると考えられる。
次回フォーラムのお知らせ  次回は10 月10 日( 水) のSOLE 日 本支部総会を予定。
次年度テーマ「ロジス ティクス補給と整備の原点に戻って」に基 づき、11月以降のフォーラム計画「SCM/ RFID 先進事例、物流品質の改革、最新の WMS、保全業務革新、物流現場見学会等」 の紹介・決定を予定している。
総会参加、 入会ご希望の方は事務局(sole-j-offi ce@ cpost.plala.or.jp)までお問い合わせくだ さい。
77  OCTOBER 2007

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから