2007年10月号
ケース

物流拠点ヤマハ発動機

OCTOBER 2007  38 物流拠点 ヤマハ発動機 世界6極体制の補修部品供給網が完成 新設した本社拠点のノウハウを横展開  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
世界六極体制が完成  この九月、ヤマハ発動機は補修部品・用 品を中国国内に供給していくための物流拠点 を上海で稼動した。
中南米・カリブ地域でも、 地域を統括する物流拠点をフロリダ州マイア ミに設置。
来年三月から業務をスタートする。
これによって、ヤマハの部品事業部が二〇年 以上前から進めてきたグローバルな物流ネッ トワークが完成する。
 昨年五月には、総額四四億円を投じた「グ ローバル・パーツ・センター」(以下、GPC) も本社を置く静岡県内で稼動した。
このGP Cを中核拠点として、今後は世界六極体制(日 本・欧州・北米・アジア・中国・中南米) の下で、サービスレベルの向上とトータル在 庫の削減を進めていく方針だ。
 物流センター網の整備に先駆けて、〇二年 一〇月に世界共通の基幹情報システム「G─ FAST」を稼動させている。
需要予測から 在庫計画、そして部品メーカーへの発注数量 の計算などを一手に処理するシステムだ。
 同じ時期に実施した「GCI(グローバル 連結在庫計画)」では、それまで各地で判断 していた拠点ごとの在庫量を、マーケット情 報に基づいて本社が一元的にコントロールす るようにした。
結果として九九年に六カ月分 あった米国の在庫は四カ月分まで減り、欧州 の在庫も七カ月分から四カ月分に圧縮できた。
 今後は補修部品のサプライチェーン・マネ ジメント(SCM)を高度化していくことが テーマになる。
具体的には、同社が“ワンワ ールド”と呼ぶ情報共有によって各地の販売 店などへのサービスレベルを高めていく。
 部品事業部の五十嵐俊行事業企画部長は、 「当社の部品事業には、まだ現状では部品を 供給するだけのプロダクトアウトの面がある。
これを次の三年で、よりお客様に近い領域で 行うサポート事業に変えていきたい。
SCM の観点から管理領域を広げていかなければ『ワ ンワールド』も完成しない」と強調する。
自前主義を基本とする拠点展開  ヤマハ発動機の物流管理は、「製品物流」 と「調達物流」(工場での生産物流)、それ に「補修部品物流」の三つからなる。
このう ち補修部品物流は他からほぼ独立して、調達 から販売に至るサプライチェーンすべてを部 品事業部がコントロールしている。
 補修部品に対するニーズは、ヤマハ発動機 の製品が売られている世界一八〇カ国で発生 する。
一回のオーダーで扱う量は少ない。
突 ヤマハ発動機が20 年かけて構築した補修部品の グローバルな供給網が完成した。
世界を日本・欧州・ 北米・アジア・中国・中南米の6 極に分けて管理する。
昨年5 月に新設した本社パーツセンターモデル拠 点として、庫内オペレーションを開発。
これを横展 開していくことで、各地の管理レベルの底上げを図 っていく方針だ。
部品事業部の五十嵐俊行 事業企画部部長 39  OCTOBER 2007 発的な需要に即応しようとすれば、市場近く に在庫を持たなければならずコスト高を招く。
顧客ニーズを満足させながら、トータル在庫 をいかに抑制するかが常に問われている。
 部品事業部は、物流を自前で管理しようと する意識が強い。
オペレーションの仕組み自 体を差別化のノウハウと捉え、物流資産につ いても「一〇年以上いるのであれば物件を買 ってしまったほうがいい」と考えている。
 実際、これから市場が変化する余地の小さ い日米欧では、基本的に自社で物流の現場 まで管理している。
一方、今後のブラジル市 場の動向などによって大きく変わっていく可 能性が高い中南米のようなエリアでは、資産 を持たず、現場運営にも3PLを活用すると いった選択をしている。
 過去には外部の意見に振り回されて、苦い 経験もした。
九三年にアムステルダムで稼動 した欧州の物流センターでは、当時の時代背 景もあって高度な自動化を進めた。
ところが いざ稼動したら、物量をさばけず大混乱して しまった。
何十人という応援部隊が日本から 送り込まれ、運営が軌道に乗るまで何カ月も 現場に張りつくことを余儀なくされた。
 この欧州での経験が、オペレーションの仕 組みは自分たちで構築するという従来からの 方針を揺るぎないものにした。
そして同社の 物流力は、本社パーツセンターの運営などを 通じて磨かれ、これがGPCにも受け継がれ ていくことになる。
モデル拠点でノウハウ開発  一九七〇年に稼動した本社パーツセンター の再構築は、部品事業部にとって長年の念願 だった。
施設の限界は九〇年頃から明らかに なっていた。
しかし、状況を抜本的に改める ためには大規模な投資が避けられず、なかな か経営陣のゴーサインが出なかった。
 〇四年二月に、それがとうとう認められた。
さまざまな理由がGPCの新設を後押しした。
前述した世界六極体制の完成度を高めるうえ で、各地の物流センターの管理レベルのバラ ツキを解消し、全体を底上げする必要が生じ ていた。
本社物流拠点の見直しは、これを牽 引するモデル拠点として戦略的に使える。
 また、従来は本社パーツセンターのスペー ス上の制約から、国内向け小物品の出荷のた めに複数の地域デポを構えていた。
これを新 センターに集約することで、納品リードタイ ムの短縮とコスト削減を見込める。
 さっそく拠点新設のためのプロジェクトが 動き出した。
基本コンセプトは“最短・最速 のオペレーションの実現”だった。
プロジェ クトメンバーは自動車、電機、文具、通販な ど国内十数カ所の物流センターの視察を重ね た。
先進事例のアイデアを貪欲に取り込みな がら、静岡県袋井市に新設することになった 戦略拠点の計画を練り上げていった。
 こうして構築されたのが上図レイアウトだ。
約三〇万アイテムの部品を扱う庫内には、多 部品メーカー別の容器に課題 天井10 m超の大物格納エリア 全庫内を統括する中央司令室 1 階だけで4万平米弱を確保 国内外に1 日に4 万件を出荷 海外向け大口は高度に自動化 ヤマハ発動機の「グローバル・パーツセンター」 OCTOBER 2007  40 くの工夫が凝らされている。
述べ床面積が六 万平方メートルを越す二層式の建物は、一 階部分だけで約四万平方メートルを確保した。
横二三〇メートル×奥行き一五四メートルの 広大な空間は、自由なレイアウトや用途変更 に対応できるように極力、柱を減らした構造 になっている。
 欧州センターでの失敗を踏まえて、自動化 機器は本社パーツセンターでの実績が明らか なものだけにとどめた。
商品の多くを専用バ ケットで管理しており、庫内には一〇万バ ケットを格納できる自動倉庫がある。
しかし、 これは海外向けのケース出荷と、小物出荷エ リアへの在庫補充にしか使っていない。
他の 作業はハンディ端末を使って人手で行う。
 GPCでは、一日に国内向けに二万五〇 〇〇件、海外向けに一万五〇〇〇件の出荷 を処理する。
海外向けは数量がまとまるが、 国内向けは一オーダー一個といった小口が大 半だ。
施設設計を主導した秦幸市パーツセン ター所長は、「海外向けと国内向けのまった く異質なオペレーションを一つの施設でやっ ている。
いかに効率を落とさずにこれを実現 するかがセンター設計の最大のポイントだっ た」と説明する。
生産性は二倍・在庫は激減  なかでも頭を悩ませたのは、国内向けの小 物出荷だった。
従来、この作業には一件あた り二五、六秒かかっていた。
これをGPCで  ピッキングにつづく包装工程では、モータ ーを外した出庫台車をそのまま棚として使う。
従来はこの段階でセットしていた納品書や送 り状は、事前にピッキング台車の間口に入れ るようにした。
これによって、以前はプリン ターなどの機材に制約されていた包装作業者 の数を、柔軟に増減できるようになった。
 こうした工夫によって、国内小物専用エリ アでの一件あたりの出荷時間は、計画通り十 数秒に収まるようになった。
かつて二〇日分 以上あったこの作業の在庫は、約八日分に 圧縮できた。
受注から二四時間以内に届けら れる比率も、旧センター時代の九〇%から九 九%へと引き上げることに成功した。
は十数秒で処理することをめざした。
 試行錯誤の末に到達したアイデアが、国内 向けだけを扱う専用エリアを設けて、海外向 けとは別に管理するというものだった。
部品 ごとに過去の出荷実績を分析して、八割方が 国内向けだった約三万アイテムを、国内向け 専用エリアで在庫することにした。
 このエリアで扱う部品の約七割は、午前中 に入荷したものを、その日のうちにピッキン グして再び出荷する必要がある。
そこで通路 に面した部品の格納棚を増やし、さらに旧セ ンターの業務改革の際に独自開発したシミュ レーションソフトで作業者の動線ができるだ け短くなるように在庫を配置した。
このよう な工夫を重ねて作業効率を高めていった。
 ピッキング作業にも知恵を絞った。
作業者 は携帯端末の指示に従って前掲した格納棚か ら必要な部品を摘み取っていく。
作業の負担 軽減と生産性の向上を図るため、専用のピッ キング台車を独自開発した。
台車は自社製の 電動イスから流用した脱着式のモーターで移 動でき、間口は十二個〜七二個に簡単に変 更できるようになっている(写真)。
部品事業部SCM部の秦幸市 パーツセンター所長 「段取り八分」を合言葉に準備 新たに独自開発した出庫台車 通路面の間口増やし動線短縮 台車のまま梱包作業エリアへ 生産性の向上に苦労した国内小物エリア 41  OCTOBER 2007 正式稼動の直前に庫内フローを見直し  GPCには、部品事業部が過去に培ってき たノウハウと、新たな工夫が盛り込まれている。
細かいパーツの包装を効率化した「自動包装 機」や、バケット単位で海外に出荷するとき に使う「自動積み付け機」、さらには大型部 品を出庫するときに複数連結しても内輪差を 生じない特殊な牽引台車などは、旧センター からそのまま引き継いだ。
 外部視察から学んだ工夫も積極的に取り込 んでいる。
いわゆる「見える化」の推進では、 現場レベルで作業の進捗状況を共有するため の表示や、サプライヤーが納品に使う容器の 回収を指示する掲示板などを導入した。
 これだけ大規模な物流センターの新設にも かかわらず、〇四年二月の正式決定から、翌 〇六年八月の全面稼動までほぼスケジュール 通りで進んだ。
ただし、誤算もあった。
大物 の出荷は当初、海外と国内を同じエリアで処 理する計画だった。
高層ラックに格納した大 物部品を、リーチフォークの爪で支えるパレ ット上の作業者がそのまま高いところまで行 ってピッキングするという手順だ。
ところが、 いざ作業をスタートすると、フォーク操作な どに時間がかかりすぎることが分かった。
 正式稼動を控えた準備期間のできごとだっ たが、このまま全面稼動すれば混乱すること は明らかだった。
そこで急遽、二階の予備ス ペースに国内大物出荷の専用スペースを設置 した。
ラックは二段だけで、脚立を使えば上 段の部品を簡単にピッキングできる。
 「まったく想定外だったが、およそ一週間 で設計からラック組み、在庫移動までを済ま せた。
何とか正式稼動後の混乱を回避できた」 と秦所長は胸をなでおろす。
実務を自らコン トロールしているからこそ、直前で発覚した トラブルにも冷静に対処できた。
運用が軌道 に乗ると、〇四年に四カ月分あった本社在庫 は三・一カ月分まで減った。
簡単ではないノウハウの横展開  今年三月、部品事業部は「グローバル・ ウエアハウス会議」と呼ぶ会合をGPCで開 催した。
初めての試みだったが、世界六極の 物流センターの責任者に加えてカナダ・豪州・ 台湾などの物流拠点の責任者をすべて招集し た。
モデル拠点としてGPCを披露すると同 時に、今後の活動のベクトルを合わせようと いう狙いがあった。
 「国内の物流改革はすでに最終ステージに 入っている。
これからはムリ・ムダをとる現 場レベルでの改善活動を積み上げていかなけ ればならない。
今後は世界規模でKPIを整 え、成功事例を共有化していくことが全体の レベルアップにつながる。
意思統一はできた と思う」と五十嵐部長は期待を隠さない。
 しかし、これまでは個別に管理してきた各 地の現場を、一つのコンセプトの下で統一す るのは容易ではない。
最大の課題は欧州だ。
欧州センターでは、自動化機器を多用すると いうGPCとは正反対のコンセプトで、一日 四万件の出荷業務をこなしてきた。
稼動時の 失敗を乗り越えて軌道に乗っているところに、 改めてGPCのやり方を押しつければ反発さ れかねない。
 それでも将来的な変化への対応まで考えれ ば、作業者が自律的に判断する人手重視の 現場のほうが有効だと本社の部品事業部は判 断している。
このコンセプトの主唱者の一人 でもある秦所長は、「世界中のセンターの管 理レベルを底上げするが私の役割」と言い切 る。
“ワンワールド”の実現に向けた課題は 尽きない。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 小物包装のための自動包装機 特許出願済みの大物牽引台車 「見える化」も積極的に実施 想定外だった予備スペース活用 従来のノウハウに新たな工夫を加えた

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