2007年11月号
ケース
ケース
M&Aシェンカー
NOVEMBER 2007 46
M&A
シェンカー
BAXに続き有力3PLの買収も計画
総合物流へ業務領域の拡大進める
五年間で売上高は二倍に
有力フォワーダーとして知られるシェンカ
ーの親会社はドイツの国有企業であるドイツ
鉄道だ。
シェンカーはドイツ鉄道の貨物輸送 部門、DBロジスティクスの中核企業として、 陸上貨物輸送と航空・海上フォワーディング、 それに3PL業務を行っている。
シェンカーの二〇〇六年の売上高は、一三 二億三二〇〇万ユーロ(二兆一九六五億一 二〇〇万円)で、税引前当期利益(EBI T)は三億六七〇〇万ユーロ(六〇九億二 二〇〇万円)。
従業員数は約五万五〇〇〇人 で、一五〇カ国に一五〇〇カ所の拠点を構え る。
本社はドイツ北西部の都市エッセンに置く。
ドイツ鉄道全体の売上高に占めるシェンカ ーの比率は約四五%に上っているが、EB ITベースでは約一五%に下がる。
売上高 に比べて利益が小さいのは、取り扱い輸送 のフォワーディング部門を抱えているからで、 利益を従業員数で割ると、ドイツ鉄道の主力 である旅客部門と遜色ない数字を上げている。
シェンカーは過去五年間で売上高を二倍に 伸ばした。
利益も順調に伸びている。
シェン カーのナンバー2であり、航空・海上フォワ ーディング担当のトーマス・リーブCEO(最 高経営責任者)は、「自力成長とM&Aを両 輪として業績を伸ばしてきた」と話す。
シェンカーは一八七二年に隣国オーストリ アの首都ウィーンで、鉄道貨物を取り扱う 通運業者として創業した。
社名は創業者の ゴティフレッド・シェンカーからとっている。
ドイツ鉄道が一九三〇年代にシェンカーを買 収して以降は、海上フォワーディングにも手 を広げた。
その後、一九九〇年の東西ドイ ツ統一まで、同社は国有鉄道傘下のフォワー ディング部門として、それほど目立った動き もなく存続してきた。
東西ドイツの統一でそれが一変した。
旧西 ドイツのドイツ連邦鉄道は、財務体質の悪か った旧東ドイツのドイツ国営鉄道との業務統 合を前にして、数々のリストラに取り組むこ とを余儀なくされた。
その一環として、フ ォワーディング部門であるシェンカーは九一 年にドイツの同業他社である民間企業のステ ィネスに売却された。
東西の鉄道会社を統合した一九九四年時 点で、ドイツ鉄道の年間の営業赤字は三〇 億ユーロ近くに上っていた。
同じドイツの国 営企業ながら経営基盤が磐石だったドイツポ ストが九〇年代に早々と民営化を果たして攻 勢に転じたのとは対照的に、ドイツ鉄道は統 合後の約一〇年間を後ろ向きなリストラに費 やさざるを得なかった。
ドイツ鉄道の赤字額が漸減し、ようやく 黒字に転じたのは二〇〇三年のことだった。
それ以降は着実に業績を伸ばしている。
黒 字化のめどがたった二〇〇二年、ドイツ鉄 道がさらなる成長の原動力として選んだの は、主業である旅客輸送部門ではなく、貨 2002年のドイツ鉄道傘下入りきっかけにシェ ンカーが大きく変貌を遂げている。
まずはM&Aで ヨーロッパの陸上輸送網を整え、航空フォワーディ ング部門では2006年アメリカのBAXグローバル を買収した。
日本では西濃運輸との合弁企業を土 台として業績を伸ばしている。
残る課題は3PL部 門の強化。
今後、手ごろな物件があれば積極的に 買収したいという。
47 NOVEMBER 2007 物輸送部門、つまりロジスティクス業務だっ た。
タイミングよく、九〇年代にシェンカー を買い取ったスティネスの親会社であるレー ノス(Rhenus)が、シェンカーとスティネス を売却する動きに出た。
複数の企業が公開 入札に参加して、一番高額を付けたドイツ鉄 道がシェンカーを落札した。
同社を十一年ぶ りに買い戻した格好だ。
これを契機に、シ ェンカーの急成長が始まる。
BAX買収で業界二位に浮上 フォワーディング企業から総合ロジスティ クス企業へと変身するため、シェンカーが 選んだ戦略は、陸上輸送、フォワーディング、 3PL業務の各部門で、マーケットシェアに おいてトップ三に入るプレイヤーになること だった。
そのために積極的なM&Aに打っ て出た。
最初に手掛けたのは、汎ヨーロッパ の陸上輸送網の整備だった。
二〇〇三年に フランスの陸上輸送業者を買収したのを皮切 りに、ポーランドやノルウェーなどで相次い で企業買収を実施した。
その結果、ヨーロ ッパの陸上輸送に占めるマーケットシェアは 二%を超え、ドイツポスト傘下のDHLを抜 いてトップに立った。
この間、従来からの本業であったフォワ ーディングでは自力成長を続けてきた。
「二 〇〇一年を起点にすると、海上貨物では 毎年、前年比で約二〇% 増を続け、航空 貨物でも一〇% 以上の増加を果たしてき た。
自力成長としては満足いく数字だった」 とリーブCEOは評価する。
しかし二〇〇四年の時点でのマーケットシ ェアは、海上フォワーディング市場で三%弱 で、一位のDHL、二位のキューネ+ナーゲ ルに次ぐ第三位。
航空フォワーディング市場 も、シェアとしては同じく三%弱ながら、D HLやUPSなどに大きく引き離される形の 五位にとどまっていた。
これをテコ入れするためシェンカーは二〇 〇六年に、アメリカの有力航空フォワーダー であるBAXグローバルの買収に踏み切った。
BAXグローバルの買収前の売上高は二四億 米ドルで、従業員は一万二〇〇〇人。
買収 金額は十一億米ドルに上った。
シェンカーに とって過去最大の買収だった。
この買収によって、航空フォワーディング 業界におけるシェンカーの順位は五位から二 位へと一気にランクアップした。
買収以前 の二〇〇四年の段階で航空フォワーディング 市場におけるシェンカーのシェアは二・八%、 BAXグローバルは同六位で二・五%。
合計 シェンカーのトーマス・リーブ CEO 1872 年 オーストリアで創業、翌年に通運業を開始 1922 年 ドイツで航空フォワーディングを開始 1931 年 ドイツ連邦鉄道がシェンカーを買収、海上コンテナ輸送を開始 1964 年 シェンカーが日本に支店設立 1978 年 BAXがバーリントン・ノーザン・エアフレイトとして営業開始 1990 年 東西ドイツが統一 1991 年 スティネスがシェンカーを買収 1994 年 1999 年 西濃運輸と業務提携 2002 年 西濃運輸との合弁企業・西濃シェンカーを設立 ドイツ鉄道がシェンカーを買い戻す 2003 年 ドイツ鉄道がEBITベースで初めて利益を計上 フランスの陸上輸送業者ジュアユを買収 2004 年 ポーランドの陸上輸送業者スピードポールを買収 2005 年 ノルウェーの陸上輸送業者リンジェクッドを買収 2006 年 アメリカの航空フォワーダーBAXの買収が完了 香港の合弁会社スタートランスを子会社化 2007 年 スペインの3PL企業スペインTIRを買収 2008 年 ドイツ鉄道の一部民営化か? ドイツ連邦鉄道(旧西ドイツ)とドイツ国営鉄道(旧東ドイツ) が統合してドイツ鉄道できる ドイツ鉄道内のロジスティクス3部門をDBロジスティクスにま とめる シェンカー略年表 ■ドイツ鉄道におけるシェンカーの位置付け ドイツ鉄道 旅客輸送部門DB ロジスティクス鉄道ネットワーク維持部門 シェンカー ●陸上輸送 ●航空・海上フォワーディング ●3PL業務 レイロンスティネス ●鉄道貨物輸送 (通運業は含まず) ●化学製品に特化した バルク輸送 NOVEMBER 2007 48 で五・三%となり、UPSとパナルピナ、キ ューネ+ナーゲルを抜いて、トップのDHL に次ぐ地位に浮上した。
リーブCEOは「もちろんフォワーディン グ部門のマーケットシェアを高めることも狙 いではあったが、それだけではない。
買収 の一番の理由は、BAXの業務内容が従来 のシェンカーの業務と、地理的にも荷主企業 にも重なる部分が少なく、大きなシナジー効 果が期待できたからだ」と説明する。
地理的にみると、シェンカーはドイツを 中心としたヨーロッパ発アメリカ行き貨物や、 ヨーロッパ発アジア行き貨物の取り扱いに強 い。
一方のBAXは、アメリカ国内の貨物や、 アメリカ発アジア行き貨物、アメリカ発ヨー 業部門や現場部門が、マーケットのトップに 立つべく業務に取り組んでいる。
「業務統合を進める間、われわれは、将来 のキーとなるべきBAXの人材をほとんど失 うことがなかった。
失った人材は一%以下 にとどまる。
話し合いの効果に加えて、二 社の業務がほとんど重なっていなかったこと も功を奏した」とリーブCEOは振り返る。
シェンカーの二〇〇五年末の従業員数は 三万八〇〇〇人強で、BAXは一万二〇〇 〇人。
合計すると五万人強となる。
しかし、 シェンカーの二〇〇六年末の従業員数はそれ よりさらに五〇〇〇人多い。
この事実がリ ーブCEOの言葉を裏付けている。
シェンカーが現在抱える課題は、マーケッ トシェアで六位に甘んじている3PL部門 をどのように伸ばしていくかということだ。
リーブCEOは「業界には3PL事業を否 定的にとらえる企業もあるが、シェンカーは 3PL事業を利益の上がるビジネスモデルと とらえており、これからわれわれの戦略に 合致した企業を買収することでマーケットシ ェアを上げていきたい」という。
3PL企業といえば、業界第二位のCE VA(元TNTロジスティクス)が現在プ ライベートエクイティファンドの所有となり、 売却先を探している状態にある。
しかし「C EVAについてはすでに検討したが、買収 価格が高いのに加え、CEVAのヨーロッパ 中心の3PL業務というのは、当社の業務 ロッパ行き貨物の取り扱いを得意とする。
二 つの企業を一緒にすることで、ヨーロッパ⇔ アメリカ⇔アジア⇔ヨーロッパへと流れる貨 物に対応できるようになった。
荷主企業についても同じことがいえた。
シ ェンカーの大手荷主は、ダイムラーやアウディ、 フォルクスワーゲンやBMWといったドイツ の自動車メーカーが中心だ。
これに対してB AXはアップルコンピュータやヒューレット・ パッカード、デルやインテルといったアメリカ 国内のハイテク企業を大手荷主に抱えている。
合併を機に自動車とハイテクという、それぞ れの得意分野を相互に乗り入れることで事業 の拡大を期待できる。
有力3PLの買収を計画 BAX買収後の業務統合を迅速かつスムー ズに進めるために、シェンカーの社員と元B AX社員とのコミュニケーションには十分に 配慮した。
具体的には各地域に両者の社員 からなる運営委員会を作り、三つの段階に 分けて話し合いを進めてきた。
最初の段階では、お互いの業務内容を熟 知することに努めた。
その間に、シェンカー 本社は、将来の管理職候補を国・地域ごと に選び出した。
二段階目では、その管理職 候補者たちが中心となって実際の業務統合 を進めた。
二〇〇六年末までに、それらの 候補者たちが正式に管理職に就いた。
そし て最後の第三段階となる現在は、各国の営 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 400 350 300 250 200 150 100 50 0 3550 3522 3867 4178 5109 6938 3620 1089 3129 1046 626 2675 EBIT 売上高 EBIT 売上高 ■ドイツ鉄道の業績推移(単位:100 万ユーロ) 2708 1204 2002年2003年2004年2005年2006年 注1 2002 年は陸上輸送とフォワーディングの中に3PLの売上高を計上 注2 2002 年と2003 年のEBITの数字は、税引き後の営業利益 注3 2002 年のEBITは、買収にともない第4四半期の数字 3PL 航空・海上フォワーディング 陸上輸送 49 NOVEMBER 2007 と重なる部分が多くて魅力がないと判断した」 (リーブCEO)。
今年九月に、複数の企業がイギリスの3P L企業クリスチャン・サルベッセンを買収し ようとしているという情報が流れたときに もシェンカーの名前は取りざたされた。
しか し、これについても「サルベッセンもわれわ れの興味の対象とはならなかった。
理由は CEVAと同じで、サルベッセンが強いネッ トワークを持っているイギリスやヨーロッパ 北部は、われわれのネットワークと重なるか らだ」とリーブCEOはいう。
結局、クリスチャン・サルベッセンはフラ ンスの上場企業ノルベール・ダントルサング ルが一〇月に同社を二億五〇〇〇万ポンド強 (約五九五億円)で買収すると発表した。
他 に買収候補として噂される有力3PLは今 のところ見あたらないが、リーブCEOの説 明からシェンカーの狙いは米国あるいはアジ アを地盤とする3PLにありそうだ。
民営化後はシェンカー売却の声も 日本市場では西濃運輸(セイノーホールデ ィングス)を提携先に選んでいる。
シェンカ ーが日本に支店を構えたのは一九六〇年代 に遡る。
後で買収するBAXはバーリントン・ ノーザン・エアフレイトとして七八年に日本 で営業を開始している。
その後、九九年に シェンカーは西濃運輸と業務提携を結び、そ れが二〇〇二年の合弁会社・西濃シェンカー 設立へとつながる。
同社の持ち株比率はシェ ンカー六〇%、西濃運輸四〇%だ。
西濃との提携についてリーブCEOは「シ ェンカーの荷主の中で、日本での業務展開を 望む声はあったが、単独で日本国内のネット ワークを整えるのは、投資効率から考えても 割に合わないと判断して、業務提携先を探 していた。
西濃運輸は国内では密度の高い ネットワークを持っている一方、七〇年代か ら始めた国際輸送の分野は国内ほど充実し ていなかった。
そのため国際貨物はシェンカ ーが引き受け、日本国内の物流は西濃運輸 に任せるという明確な役割分担が可能だった。
業務提携を通して培った信頼関係から合弁 会社の設立に発展した」と説明する 二〇〇六年九月には、買収したBAXの 日本での業務を西濃シェンカーに移管するの に伴い、西濃運輸が増資に応じた。
西濃シ ェンカーは現在、日本国内二四カ所に拠点を 持ち、従業員は四六〇人を超える。
今年八 月には千葉県の市川に一万五〇〇〇平方メ ートルの物流センターを立ち上げたばかりだ。
西濃シェンカーは未上場企業であるため、 詳しい財務内容は公表されてはいないが、 民間調査機関によると、同社の二〇〇五年 十二月期の売上高は八八億円で、当期利益 は四四〇万円。
二〇〇六年十二月期は売上 高一〇三億八三〇〇万円で、当期利益は空 欄となっている。
「その民間調査企業の利益がなぜ空欄にな っているのかはわからないが、二〇〇六年 十二月の利益は、前期を上回っているのは 確かだ。
われわれは合弁会社の利益率と西 濃運輸との関係に非常に満足しており、日 本ではこれまで通り西濃運輸と二人三脚で 業務を拡大して行きたい」とリーブCEO。
ドイツ鉄道は二〇〇八年をめどに、念願 の一部民営化に踏み切るとみられている。
政治家の間には、ドイツ鉄道が抱える累積赤 字や労働者の年金などの負担を軽減するた めに、稼ぎ頭であるシェンカーを売却するべ きだという声もある。
この点に関してシェン カーは当事者ながらも、「政府と親会社の問 題」としてコメントを控えている。
ドイツ鉄 道の民営化後のシェンカーがどのように変貌 を果たしていくのかは、ドイツ国内の政治情 勢とあいまって予断を許さない。
(本誌欧州特派員・横田増生) ■シェンカーの各部門のマーケットシェア(2006 年) No.1 ヨーロッパ陸上輸送 1 シェンカー 2 DHL 3 DSV 4 ダクサ 5 ジオディス No.2 航空フォワーディング 1 DHL 2 シェンカー 3 UPS 4 パナルピア 5 キューネ+ナーゲル No.3 海上フォワーディング 1 キューネ+ナーゲル 2 DHL 3 シェンカー 4 パナルピア 5 UPS No.6 3PL 1 DHL 2 CEVE (旧TNT ロジスティクス) 3 キューネ+ナーゲル 4 ライダー 5 ウィンカントン 6 シェンカー 出典:the DB Group 2007
シェンカーはドイツ鉄道の貨物輸送 部門、DBロジスティクスの中核企業として、 陸上貨物輸送と航空・海上フォワーディング、 それに3PL業務を行っている。
シェンカーの二〇〇六年の売上高は、一三 二億三二〇〇万ユーロ(二兆一九六五億一 二〇〇万円)で、税引前当期利益(EBI T)は三億六七〇〇万ユーロ(六〇九億二 二〇〇万円)。
従業員数は約五万五〇〇〇人 で、一五〇カ国に一五〇〇カ所の拠点を構え る。
本社はドイツ北西部の都市エッセンに置く。
ドイツ鉄道全体の売上高に占めるシェンカ ーの比率は約四五%に上っているが、EB ITベースでは約一五%に下がる。
売上高 に比べて利益が小さいのは、取り扱い輸送 のフォワーディング部門を抱えているからで、 利益を従業員数で割ると、ドイツ鉄道の主力 である旅客部門と遜色ない数字を上げている。
シェンカーは過去五年間で売上高を二倍に 伸ばした。
利益も順調に伸びている。
シェン カーのナンバー2であり、航空・海上フォワ ーディング担当のトーマス・リーブCEO(最 高経営責任者)は、「自力成長とM&Aを両 輪として業績を伸ばしてきた」と話す。
シェンカーは一八七二年に隣国オーストリ アの首都ウィーンで、鉄道貨物を取り扱う 通運業者として創業した。
社名は創業者の ゴティフレッド・シェンカーからとっている。
ドイツ鉄道が一九三〇年代にシェンカーを買 収して以降は、海上フォワーディングにも手 を広げた。
その後、一九九〇年の東西ドイ ツ統一まで、同社は国有鉄道傘下のフォワー ディング部門として、それほど目立った動き もなく存続してきた。
東西ドイツの統一でそれが一変した。
旧西 ドイツのドイツ連邦鉄道は、財務体質の悪か った旧東ドイツのドイツ国営鉄道との業務統 合を前にして、数々のリストラに取り組むこ とを余儀なくされた。
その一環として、フ ォワーディング部門であるシェンカーは九一 年にドイツの同業他社である民間企業のステ ィネスに売却された。
東西の鉄道会社を統合した一九九四年時 点で、ドイツ鉄道の年間の営業赤字は三〇 億ユーロ近くに上っていた。
同じドイツの国 営企業ながら経営基盤が磐石だったドイツポ ストが九〇年代に早々と民営化を果たして攻 勢に転じたのとは対照的に、ドイツ鉄道は統 合後の約一〇年間を後ろ向きなリストラに費 やさざるを得なかった。
ドイツ鉄道の赤字額が漸減し、ようやく 黒字に転じたのは二〇〇三年のことだった。
それ以降は着実に業績を伸ばしている。
黒 字化のめどがたった二〇〇二年、ドイツ鉄 道がさらなる成長の原動力として選んだの は、主業である旅客輸送部門ではなく、貨 2002年のドイツ鉄道傘下入りきっかけにシェ ンカーが大きく変貌を遂げている。
まずはM&Aで ヨーロッパの陸上輸送網を整え、航空フォワーディ ング部門では2006年アメリカのBAXグローバル を買収した。
日本では西濃運輸との合弁企業を土 台として業績を伸ばしている。
残る課題は3PL部 門の強化。
今後、手ごろな物件があれば積極的に 買収したいという。
47 NOVEMBER 2007 物輸送部門、つまりロジスティクス業務だっ た。
タイミングよく、九〇年代にシェンカー を買い取ったスティネスの親会社であるレー ノス(Rhenus)が、シェンカーとスティネス を売却する動きに出た。
複数の企業が公開 入札に参加して、一番高額を付けたドイツ鉄 道がシェンカーを落札した。
同社を十一年ぶ りに買い戻した格好だ。
これを契機に、シ ェンカーの急成長が始まる。
BAX買収で業界二位に浮上 フォワーディング企業から総合ロジスティ クス企業へと変身するため、シェンカーが 選んだ戦略は、陸上輸送、フォワーディング、 3PL業務の各部門で、マーケットシェアに おいてトップ三に入るプレイヤーになること だった。
そのために積極的なM&Aに打っ て出た。
最初に手掛けたのは、汎ヨーロッパ の陸上輸送網の整備だった。
二〇〇三年に フランスの陸上輸送業者を買収したのを皮切 りに、ポーランドやノルウェーなどで相次い で企業買収を実施した。
その結果、ヨーロ ッパの陸上輸送に占めるマーケットシェアは 二%を超え、ドイツポスト傘下のDHLを抜 いてトップに立った。
この間、従来からの本業であったフォワ ーディングでは自力成長を続けてきた。
「二 〇〇一年を起点にすると、海上貨物では 毎年、前年比で約二〇% 増を続け、航空 貨物でも一〇% 以上の増加を果たしてき た。
自力成長としては満足いく数字だった」 とリーブCEOは評価する。
しかし二〇〇四年の時点でのマーケットシ ェアは、海上フォワーディング市場で三%弱 で、一位のDHL、二位のキューネ+ナーゲ ルに次ぐ第三位。
航空フォワーディング市場 も、シェアとしては同じく三%弱ながら、D HLやUPSなどに大きく引き離される形の 五位にとどまっていた。
これをテコ入れするためシェンカーは二〇 〇六年に、アメリカの有力航空フォワーダー であるBAXグローバルの買収に踏み切った。
BAXグローバルの買収前の売上高は二四億 米ドルで、従業員は一万二〇〇〇人。
買収 金額は十一億米ドルに上った。
シェンカーに とって過去最大の買収だった。
この買収によって、航空フォワーディング 業界におけるシェンカーの順位は五位から二 位へと一気にランクアップした。
買収以前 の二〇〇四年の段階で航空フォワーディング 市場におけるシェンカーのシェアは二・八%、 BAXグローバルは同六位で二・五%。
合計 シェンカーのトーマス・リーブ CEO 1872 年 オーストリアで創業、翌年に通運業を開始 1922 年 ドイツで航空フォワーディングを開始 1931 年 ドイツ連邦鉄道がシェンカーを買収、海上コンテナ輸送を開始 1964 年 シェンカーが日本に支店設立 1978 年 BAXがバーリントン・ノーザン・エアフレイトとして営業開始 1990 年 東西ドイツが統一 1991 年 スティネスがシェンカーを買収 1994 年 1999 年 西濃運輸と業務提携 2002 年 西濃運輸との合弁企業・西濃シェンカーを設立 ドイツ鉄道がシェンカーを買い戻す 2003 年 ドイツ鉄道がEBITベースで初めて利益を計上 フランスの陸上輸送業者ジュアユを買収 2004 年 ポーランドの陸上輸送業者スピードポールを買収 2005 年 ノルウェーの陸上輸送業者リンジェクッドを買収 2006 年 アメリカの航空フォワーダーBAXの買収が完了 香港の合弁会社スタートランスを子会社化 2007 年 スペインの3PL企業スペインTIRを買収 2008 年 ドイツ鉄道の一部民営化か? ドイツ連邦鉄道(旧西ドイツ)とドイツ国営鉄道(旧東ドイツ) が統合してドイツ鉄道できる ドイツ鉄道内のロジスティクス3部門をDBロジスティクスにま とめる シェンカー略年表 ■ドイツ鉄道におけるシェンカーの位置付け ドイツ鉄道 旅客輸送部門DB ロジスティクス鉄道ネットワーク維持部門 シェンカー ●陸上輸送 ●航空・海上フォワーディング ●3PL業務 レイロンスティネス ●鉄道貨物輸送 (通運業は含まず) ●化学製品に特化した バルク輸送 NOVEMBER 2007 48 で五・三%となり、UPSとパナルピナ、キ ューネ+ナーゲルを抜いて、トップのDHL に次ぐ地位に浮上した。
リーブCEOは「もちろんフォワーディン グ部門のマーケットシェアを高めることも狙 いではあったが、それだけではない。
買収 の一番の理由は、BAXの業務内容が従来 のシェンカーの業務と、地理的にも荷主企業 にも重なる部分が少なく、大きなシナジー効 果が期待できたからだ」と説明する。
地理的にみると、シェンカーはドイツを 中心としたヨーロッパ発アメリカ行き貨物や、 ヨーロッパ発アジア行き貨物の取り扱いに強 い。
一方のBAXは、アメリカ国内の貨物や、 アメリカ発アジア行き貨物、アメリカ発ヨー 業部門や現場部門が、マーケットのトップに 立つべく業務に取り組んでいる。
「業務統合を進める間、われわれは、将来 のキーとなるべきBAXの人材をほとんど失 うことがなかった。
失った人材は一%以下 にとどまる。
話し合いの効果に加えて、二 社の業務がほとんど重なっていなかったこと も功を奏した」とリーブCEOは振り返る。
シェンカーの二〇〇五年末の従業員数は 三万八〇〇〇人強で、BAXは一万二〇〇 〇人。
合計すると五万人強となる。
しかし、 シェンカーの二〇〇六年末の従業員数はそれ よりさらに五〇〇〇人多い。
この事実がリ ーブCEOの言葉を裏付けている。
シェンカーが現在抱える課題は、マーケッ トシェアで六位に甘んじている3PL部門 をどのように伸ばしていくかということだ。
リーブCEOは「業界には3PL事業を否 定的にとらえる企業もあるが、シェンカーは 3PL事業を利益の上がるビジネスモデルと とらえており、これからわれわれの戦略に 合致した企業を買収することでマーケットシ ェアを上げていきたい」という。
3PL企業といえば、業界第二位のCE VA(元TNTロジスティクス)が現在プ ライベートエクイティファンドの所有となり、 売却先を探している状態にある。
しかし「C EVAについてはすでに検討したが、買収 価格が高いのに加え、CEVAのヨーロッパ 中心の3PL業務というのは、当社の業務 ロッパ行き貨物の取り扱いを得意とする。
二 つの企業を一緒にすることで、ヨーロッパ⇔ アメリカ⇔アジア⇔ヨーロッパへと流れる貨 物に対応できるようになった。
荷主企業についても同じことがいえた。
シ ェンカーの大手荷主は、ダイムラーやアウディ、 フォルクスワーゲンやBMWといったドイツ の自動車メーカーが中心だ。
これに対してB AXはアップルコンピュータやヒューレット・ パッカード、デルやインテルといったアメリカ 国内のハイテク企業を大手荷主に抱えている。
合併を機に自動車とハイテクという、それぞ れの得意分野を相互に乗り入れることで事業 の拡大を期待できる。
有力3PLの買収を計画 BAX買収後の業務統合を迅速かつスムー ズに進めるために、シェンカーの社員と元B AX社員とのコミュニケーションには十分に 配慮した。
具体的には各地域に両者の社員 からなる運営委員会を作り、三つの段階に 分けて話し合いを進めてきた。
最初の段階では、お互いの業務内容を熟 知することに努めた。
その間に、シェンカー 本社は、将来の管理職候補を国・地域ごと に選び出した。
二段階目では、その管理職 候補者たちが中心となって実際の業務統合 を進めた。
二〇〇六年末までに、それらの 候補者たちが正式に管理職に就いた。
そし て最後の第三段階となる現在は、各国の営 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 400 350 300 250 200 150 100 50 0 3550 3522 3867 4178 5109 6938 3620 1089 3129 1046 626 2675 EBIT 売上高 EBIT 売上高 ■ドイツ鉄道の業績推移(単位:100 万ユーロ) 2708 1204 2002年2003年2004年2005年2006年 注1 2002 年は陸上輸送とフォワーディングの中に3PLの売上高を計上 注2 2002 年と2003 年のEBITの数字は、税引き後の営業利益 注3 2002 年のEBITは、買収にともない第4四半期の数字 3PL 航空・海上フォワーディング 陸上輸送 49 NOVEMBER 2007 と重なる部分が多くて魅力がないと判断した」 (リーブCEO)。
今年九月に、複数の企業がイギリスの3P L企業クリスチャン・サルベッセンを買収し ようとしているという情報が流れたときに もシェンカーの名前は取りざたされた。
しか し、これについても「サルベッセンもわれわ れの興味の対象とはならなかった。
理由は CEVAと同じで、サルベッセンが強いネッ トワークを持っているイギリスやヨーロッパ 北部は、われわれのネットワークと重なるか らだ」とリーブCEOはいう。
結局、クリスチャン・サルベッセンはフラ ンスの上場企業ノルベール・ダントルサング ルが一〇月に同社を二億五〇〇〇万ポンド強 (約五九五億円)で買収すると発表した。
他 に買収候補として噂される有力3PLは今 のところ見あたらないが、リーブCEOの説 明からシェンカーの狙いは米国あるいはアジ アを地盤とする3PLにありそうだ。
民営化後はシェンカー売却の声も 日本市場では西濃運輸(セイノーホールデ ィングス)を提携先に選んでいる。
シェンカ ーが日本に支店を構えたのは一九六〇年代 に遡る。
後で買収するBAXはバーリントン・ ノーザン・エアフレイトとして七八年に日本 で営業を開始している。
その後、九九年に シェンカーは西濃運輸と業務提携を結び、そ れが二〇〇二年の合弁会社・西濃シェンカー 設立へとつながる。
同社の持ち株比率はシェ ンカー六〇%、西濃運輸四〇%だ。
西濃との提携についてリーブCEOは「シ ェンカーの荷主の中で、日本での業務展開を 望む声はあったが、単独で日本国内のネット ワークを整えるのは、投資効率から考えても 割に合わないと判断して、業務提携先を探 していた。
西濃運輸は国内では密度の高い ネットワークを持っている一方、七〇年代か ら始めた国際輸送の分野は国内ほど充実し ていなかった。
そのため国際貨物はシェンカ ーが引き受け、日本国内の物流は西濃運輸 に任せるという明確な役割分担が可能だった。
業務提携を通して培った信頼関係から合弁 会社の設立に発展した」と説明する 二〇〇六年九月には、買収したBAXの 日本での業務を西濃シェンカーに移管するの に伴い、西濃運輸が増資に応じた。
西濃シ ェンカーは現在、日本国内二四カ所に拠点を 持ち、従業員は四六〇人を超える。
今年八 月には千葉県の市川に一万五〇〇〇平方メ ートルの物流センターを立ち上げたばかりだ。
西濃シェンカーは未上場企業であるため、 詳しい財務内容は公表されてはいないが、 民間調査機関によると、同社の二〇〇五年 十二月期の売上高は八八億円で、当期利益 は四四〇万円。
二〇〇六年十二月期は売上 高一〇三億八三〇〇万円で、当期利益は空 欄となっている。
「その民間調査企業の利益がなぜ空欄にな っているのかはわからないが、二〇〇六年 十二月の利益は、前期を上回っているのは 確かだ。
われわれは合弁会社の利益率と西 濃運輸との関係に非常に満足しており、日 本ではこれまで通り西濃運輸と二人三脚で 業務を拡大して行きたい」とリーブCEO。
ドイツ鉄道は二〇〇八年をめどに、念願 の一部民営化に踏み切るとみられている。
政治家の間には、ドイツ鉄道が抱える累積赤 字や労働者の年金などの負担を軽減するた めに、稼ぎ頭であるシェンカーを売却するべ きだという声もある。
この点に関してシェン カーは当事者ながらも、「政府と親会社の問 題」としてコメントを控えている。
ドイツ鉄 道の民営化後のシェンカーがどのように変貌 を果たしていくのかは、ドイツ国内の政治情 勢とあいまって予断を許さない。
(本誌欧州特派員・横田増生) ■シェンカーの各部門のマーケットシェア(2006 年) No.1 ヨーロッパ陸上輸送 1 シェンカー 2 DHL 3 DSV 4 ダクサ 5 ジオディス No.2 航空フォワーディング 1 DHL 2 シェンカー 3 UPS 4 パナルピア 5 キューネ+ナーゲル No.3 海上フォワーディング 1 キューネ+ナーゲル 2 DHL 3 シェンカー 4 パナルピア 5 UPS No.6 3PL 1 DHL 2 CEVE (旧TNT ロジスティクス) 3 キューネ+ナーゲル 4 ライダー 5 ウィンカントン 6 シェンカー 出典:the DB Group 2007
