2005年1月号
道場

3PLに挑戦する物流事業者―3

JANUARY 2005 38プロジ クトの初会合が招集された大先生を待つ会議室に緊張感が漂う将来の事業戦略に悩む物流事業者が 大先生を招いて幹部会議を催してから約半月た た あのときと同じ会議室には 大先生の招聘を社長に進言した部長と 六人の中堅・若手社員が勢揃いしている 先日の会議を受けて立ち上げた 3PL事業プロジ クト の候補者の面々である このプロジ クトの終了後 会社は彼らを中心に 3PL事業部 を発足することにな ている 集ま た候補者たちは営業部門 管理部門 物流センタ などから選りすぐられた社員ばかりだが 会議室は重苦しい緊張感に包まれている プロジ クトの発足に先立 て社長は 大先生にプロジ クト顧問への就任を要請した これを メンバ 選定を自分に任せる ことを条件に引き受けた大先生は メンバ の適否を判断するために早急に候補者を集めてくれるよう依頼した それから一〇日間ほどかけて 物流事業者の社内でメンバ 候補の選定が行われた プロジ クトリ ダ の候補としてすぐに決ま た前出の部長と 社長と 専務の三人が何度も会合を重ね 候補者との面接を繰り返した そうや て選ばれた社員たちが今日 会議室に集められている 参加者には この会合が 大先生との面接を通じてプロジ クトメンバ としての適否を判断するためにセ トされたものだということも伝わ ている 約束の時間ち うどに大先生が登場した 名刺交換をしようと立ち上が たメンバ たちにかまわず 大先生は会議テ ブルの中央席に着いた みんなにも座るように促す まず最初に部長が 顧問就任の謝辞を述べた 大先生は黙 て頷き 参加者の顔を見回すと おもむろに口を開いた プロジ クトのメンバ として適任かどうか 私が面接して判断したいと社長に伝えてあ たので みなさんは結構緊張してるでし う? 全員が小さく頷く 大先生がいたずら ぽい顔で頷き 本音を明らかにする もちろん 私はそんなことはしません それだけのプレ シ をかけられて それでもここにい《前回のあらすじ》主人公の“大先生”はロジスティクスに関するコンサルタントだ。
コンサル見習いの“美人弟子”と“体力弟子”とともに多くの企業を指導してきた。
今回、大先生は、将来の事業ビジョンを描こうとしているある中堅物流事業者の幹部会議に、アドバイザーとして出席した。
会議の席上、大先生はサードパーティ・ロジスティクス(3PL)事業について説明し、この会社が3PLプロジェクトに取り組む道筋をつけた。
その後、社長に請われてプロジェクトの顧問に就任した大先生は、改めてこの物流事業者の本社を訪れることになった。
湯浅コンサルテ ング代表取締役社長湯浅和夫湯浅和夫の  第33回 サロン編 3PLに挑戦する物流事業者 3 39 JANUARY 2005るという その心意気だけで みなさんはメンバ として適任です 大先生の言葉に会議室にち とした安堵感が広が た でも まだ何かあるのではないかという緊張感はぬぐいきれない 大先生はそれきり何も言わず たばこに火をつけた それに合わせたかのように会議室にコ ヒ が運ばれてきた 荷主の信頼を得る方法は何? 大先生が参加者に質問したち うどその頃 同じ建物のなかにある社長室では 社長と専務がソフ に座 て お茶を飲んでいた 腕時計を見ながら社長が独り言のように呟いた さきほど先生が来られたと報告があ たけど 今頃は面接の真 最中ですかね? は 専務が気のない返事をする その顔を見ながら 社長が確認するように問い掛ける 先生は 本当に彼らの適否を判断されるおつもりなのかな? 首をかしげながら専務がゆ くりと答えた いや あれは われわれにメンバ はち んとしたやつを選べよというプレ シ だと思いますが 社長は同意を示すように頷くと 自分の見解を述べた 面接をするというプレ シ を彼らにもかけて それでも参加するかどうか ここで適否を判断したのかもしれないな 社長と専務がいい読みをしていた頃 会議室では 大先生がコ ヒ を飲みながらメンバ に一つの質問をしていた みんなにち と聞きたいんだけど まあ 簡単な質問だから 気楽に答えてくれればいい Illustration ELPH‐Kanda Kadan JANUARY 2005 40全員が緊張した空気に包まれた 会合の主旨を知 ているだけに 気楽にと言われてもそうはいかない 大先生が続ける みんなが新規のお客さんのところに営業に行 たとして そのお客さんの信頼をかち得るも とも手 取り早い方法は何だと思う? 思いもよらない質問に 部長を除く全員が戸惑いの表情を浮かべた 部長だけは大先生の意図がすぐにわか たらしく ひとり頷いている だが他のメンバ たちは何も答えない それぞれに答えは持 ているのだろうが それを口にしていいのかどうか迷 ているようだ ゆ くりと参加者の顔を見回す大先生と 横の方に座 ていた一番若いと思われる参加者の視線がふと合 た この社員は 思い切 て しかし心細げに答えた 料金の妥当性とか たしかな物流品質とかを提示する とかでし うか? 大先生がわざとらしくのけぞり 大きな声を出す 料金の妥当性とか物流品質だ て? 答えた当人が首をすくめる それを見た大先生が穏やかに聞く まあ それも間違いではないな ただし それを客観的に数字で示すことができればだけど できる? その若手の社員は 首を傾げたまま答えない 大先生が別の質問をする ここに物流センタ の関係者はいる? 正面に座 ている一人が恐る恐る手を上げた あなたの物流センタ では 作業は効率的に行われていた? は まあ 良いほうだ たかと思いますが どの程度効率的なのか数字で証明できる? 誰もが納得できるように このセンタ 関係者も答えられず黙り込んでしま た 大先生の厳しい声が飛ぶ 証明できるか聞いているんだよ ど ちでもいいから返事をしなさい は はい 証明はできません 慌てて即答する 頷きながら 大先生はたばこに手を伸ばした 座がす かり萎縮してしま た 大先生の穏やかだが 厳しい指導が始ま た 客観的な証明ができない限り 顧客は信頼しない そんなの当たり前さ 数字で示せなければ 誰も何の判断もできないのだから いま 物流センタ の効率性を数字で示せない て言 たけど い たい何なんだ それは 物流センタ を売り物にしている物流業者がそんな情けないことでどうするの? こう言うと大先生は全員を見回した みんな うつむき加減で聞いている 大先生が続ける 物流センタ の作業効率の程度を客観的に証明するのは簡単なことさ そんなこともできずに どうや て荷主に売り込むんだ? まあ これについては またの話にして 最初の質問に戻るけど 要するに 荷主の物流担当者の立場に立 てごらんよ どんな提案だ たら身を乗り出す? ここで いままで黙 ていた部長が手を上げた 41 JANUARY 2005大先生が頷く まず 荷主さんにと て明らかに自分たちのメリ トになるという提案 これを数字で示すことが必要だと思います しかも そのメリ トがどう生まれるかを納得できる形で示すことも必要です さらに 同時に提案者側のメリ トも示すことも必要なのではないでし うか こういう三つの条件が揃 た提案を出せれば 荷主さんに信頼されるのではないかと思いますが 部長が賢い答え方をした 大先生が こいつ わか てるな 頭のいいやつだ という顔で頷いた 大先生が頷くのを見て部長はほ とした表情をする 他のメンバ たちは 感心したような顔で頷いている その様子を見ながら 大先生が繰り返して念を押す わかる? いま部長があげた三つの条件を備えていることが提案と言われるものの原点 どれ一つ欠けてもダメ 荷主のメリ トが提示されていないのはもともと提案じ ないし いくら良いことを言 ても そのメリ トがどう生まれるのかを論理的に説明できなければ荷主は納得しない そして論理的に納得したとしても その提案をした事業者にと てどんなメリ トがあるのかまで分からなければ 荷主はいぶかしさを払拭できない どこかに落とし穴があるのではないかと疑心暗鬼にな てしまう そうだろ? 全員が素直に頷く これまで荷主と物流業者との関係は 互いに利害が反すると言われていた だから なぜ物流業者がこんな提案をするんだという怪訝な気持ちを持つことは まあ仕方ないな その怪訝な気持ちを なるほどと納得させるためには 物流業者側のメリ トを同時に示すことが必要になる つまり この三つの条件が揃 てはじめて 荷主はその業者を信頼することになる 再び全員が同意する さらに大先生が続ける 今日はなかなか饒舌だ 3PLというのは 簡単に言えば 荷主の物流を可能な限り代行するということだから 当然 信頼を得られる提案をしていくことが必要だ その信頼は 要するに納得できるかどうかがポイント そこで重要なのが論理とそれを裏付ける数字 この二つを欠いてしまうと3PLなど成立しない わかる? それこそ この意見に納得できるかどうかがこのプロジ クトのメンバ として適任かどうかの判断基準になる どう 納得できる? 即座に全員が大きく頷いた 全員合格 それでは 休憩にしよう 大先生は手応えを感じたようだ 記念にサインしてやろう 休憩を宣した大先生を 部長が社長室に案内した 社長室には まだ専務もいた 部屋に入 てきた大先生を見て 専務が慌てて立ち上が た 専務は大先生が苦手なようだ 社長は嬉しそうな顔で大先生を迎え入れると さ そく丁寧に謝辞を述べた 大先生は会釈をしてソフ に座ると 専務に話しかけた JANUARY 2005 42 3PL事業部なるものができたら あなたが担当役員になるそうですね? 専務は たしか このプロジ クトを立ち上げるときに社長にそんなことを言われたな と思い出しながら素直に頷く 大先生も頷きながら 遠回しに質問をした あなたが担当されるのは私も賛成です あなたなら かれらが いま受託している仕事を減らすような提案を荷主にすると言 てきても 平然と対応なさるでし うから は 少なくとも私は反対はしません き と それがうちにと てもメリ トがあることに違いないと思 てますから 私に限らず 誰も反対しないと思います かれらはみんなが納得できるように説明してくれるはずですから 専務の最後の言葉を聞き 部長が大先生の方をちら と見た 大先生が頷きながら 社長に話しかけた 今日は 第一回目ということで ち とした意見交換をしました 全員 メンバ として適任だと思います 今日はこれから今後のスケジ ルなどを確認して 終わりにしたいと思います このプロジ クトの進捗や内容についてはリ ダ である部長から聞いてください 社長と部長が頷くのを確認すると 大先生は早々に立ち上が た 社長室を出ようとする大先生に専務が声を掛けた 先生 この部長をはじめメンバ 全員 どこかで先生のご講義を受けたり ご本を読んだりして ご迷惑でし うけど 先生の弟子を自認しているものばかりです ご指導をよろしくお願いします 社長と専務が深々と頭を下げた 大先生も無言で礼を返し 社長室を後にした こうして この会社の3PLプロジ クトは無難にスタ トすることにな た 会議室に向かいながら大先生は あとは技術的な課題だから弟子たちに任せて大丈夫だな とひとり納得していた 大先生と部長が会議室に入ると 全員が立ち上がり一礼をした 大先生が座りながら みんなに声を掛けた オレの本を持 てるなら ここに持 ておいで 記念にサインをしてやる 大先生のおどけた物言いに 会議室の雰囲気が一気に和んだ 部長が顔をくし くし にして大先生を見た 本連載はフ クシ ンです ゆあさ・かずお一九七一年早稲田大学大学院修士課程修了 同年 日通総合研究所入社 同社常務を経て 二〇〇四年四月に独立 湯浅コンサルテ ングを設立し社長に就任 著書に 手にとるようにIT物流がわかる本 かんき出版 Eビジネス時代のロジステ クス戦略 日刊工業新聞社 物流マネジメント革命 ビジネス社 ほか多数 湯浅コンサルテ ングhttp://yuasa‐c。
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