2007年12月号
ケース

SCM日本水産

DECEMBER 2007  32 SCM 日本水産 在庫削減を目的に物流管理組織を一新 5年間で25億円のコスト削減めざす  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
水産品の特殊なサプライチェーン  「水産品の在庫管理は難しい。
一年のうち 魚の獲れる時期や養殖できる時期は決まって いるため計画生産はできない。
たとえば養殖 事業の在庫が多いといって原因をたどってい くと、三年前に稚魚を買いすぎたとか、作り すぎたといったところまでいってしまう」。
日 本水産のサプライチェーンマネジメント部(S CM部)を牽引する酒井久視部長は、このよ うに水産品の特殊性を説明する。
 一方、同じ日水の食品事業で扱っている冷 凍食品の在庫管理は、一般的な加工食品と基 本的に同じだ。
需要予測や生産管理の精度向 上によって、在庫をコントロールできる。
こ れら性質の異なる二つのサプライチェーン管理 を高度化するため、同社は最近三年余りの間 に段階的に組織再編を進めてきた。
 かつての日水は遠洋漁業を軸に事業を拡大 した。
だが一九七〇年代に各国が二〇〇カ イリ水域での漁業規制をはじめたことで風向 きが変わった。
同社の事業戦略も、いわゆる “獲る漁業”から、世界の水産資源国と協力 しながら“安定的に資源を利用する漁業”へ と徐々にシフトせざるをえなくなった。
 ほどなく水産業が不況業種とみなされる時 代が到来した。
日水も八〇年代に水産加工品 の製造・販売や医薬品事業、外食産業などに 事業の多角化を進めた。
そうした経営努力に もかかわらず、九〇年代を通じて同社の業績 は低空飛行がつづいた。
 二〇〇〇年以降、日水は中期経営計画「T GL(Toward Global Links)計画」(〇一年 度〜〇五年度)に基づいて、海外での事業展 開を急加速した。
M&Aを駆使してグローバ ルで水産品を扱う体制づくりを推進。
ニュー ジーランド最大の水産会社の株式五〇%を取 得したほか、北米や欧州で水産品の加工・販 売会社の経営権を取得するなど、矢継ぎ早に 事業ネットワークを拡大していった。
 このことが、ただでさえ難しい水産品の在 庫管理をより複雑なものにした。
とりわけ厄 介なのは国際相場への対応だ。
水産品の取引 価格は、同じタイミングでも日米欧でかなり違 う。
たとえば南半球で獲れた魚を、どこで販 売するかで収益性が大きく変わってくる。
つ まり水産品の在庫管理では、量を抑制するだ けでなく、グローバルでいかに的確に在庫を 移動するかという判断が欠かせない。
 難しい舵取りが必要だったにもかかわらず、 日水社内の物流管理に対する意識は低かった。
役割を担うべき「総合物流事業部」は、むし ろ社外向けの物流事業に注力しており、肝心 2004年4月にサプライチェーン管理の専門部署を 発足した。
その後は1年ごとに組織を見直し、3年 目には全社横断的なSCM部門に改組。
在庫管理か ら物流実務の改善指導まで管轄するセクションを作 り上げた。
主な目標として在庫削を掲げると同時 に、物流コストを5年間で計25億円減らす計画だ。
サプライチェーンマネジメン ト部の酒井久視部長 33  DECEMBER 2007 の自らの物流管理は部署ごとに専属部隊を抱 えるような状態。
物流実務の現場は、言われ たことだけを受身でこなしていた。
段階的にSCM部門を組織化  この閉塞状態にメスを入れるため、日水は 〇四年三月に本社内に「水産サプライチェー ンオフィサー」という役職を新設した。
ただ し、当初の担当者はたった一人。
ニュージー ランドの水産会社に出向していた酒井氏(現 SCM部長)が呼び戻されて、水産事業の在 庫コントロールや、業務プロセス改革のための 調査・分析を手掛けることになった。
 このとき同時に「食品サプライチェーンオフ ィサー」も新設した。
こちらも担当者は一人 で、食品事業の全体最適化を模索することに なった。
初年度は主に生産現場を中心とする オペレーションの高度化に取り組み、その後 に続く需要予測の精度向上や、生産計画の適 正化に向けた努力をスタートした。
 酒井氏は水産SCオフィサーとして、三月 一日に就任した最初の一カ月から在庫削減に 大ナタを振るった。
日水の水産品の在庫は毎 年十二月にピークを迎え、一月に最も低水準に なる。
以降、再び在庫を積み増していくのだ が、まずはこの増加を徹底的に抑制した。
原 料を買わないことや、意図的に海外販売に振 っていくことで、約二八〇億円余りあった水 産品の在庫を激減させた。
このときの成果は、 日水全体の棚卸資産(単体ベース)の推移に も如実にあらわれている(図1)。
 そして新体制の発足から約半年すると、早 くも体制を見直した。
「当社のなかで『水産』 と『食品』は事業としてはまったく独立して いる。
だがサプライチェーン管理では、この 二つを融合させなければ日水の独自性を出せ ない。
従来はこの点を無視していた面があっ た」(酒井部長)という反省から、二つの組 織を統合したのである。
改めて〇五年三月に 「サプライチェーンオフィス」が発足し、酒井 氏をトップに一〇人程度で動きはじめた。
 さらに翌〇六年の三月になると、今度は新 しい中期経営計画「新TGL(True Global Links)計画」(〇六年度〜十一年度)に基づ いて再び組織改革を断行した。
従来は事業部 門の傘下にあった需給調整や発注センター業 務などの機能を一気に「サプライチェーンオフ ィス」に集約して、SCM部を発足。
それま での企画部門的な位置づけから、サプライチ ェーン管理を実際に手掛ける総勢一五〇人の 実務部隊へと脱皮させた。
 この際には輸送や保管といった物流実務の 管理体制も再構築した。
「総合物流事業部」 から日水自身の物流を管理する機能を分離し て、SCM部に統合。
生産から販売にいたる 国内外の物流を、SCM部が一元的に管理で きる体制を整えた。
 その一方で社外向けに物流事業を提供する 機能については、今年四月一日付けで実務部 隊を本社から分社化。
冷蔵倉庫業を営む子会 社と合流させて、新たに「日水物流」(資本 金二〇億円、日水が一〇〇%保有)として再 スタートしている。
もはや日水本体には、同 事業を管轄する「ロジスティクス事業部」を 残すだけの状態になった。
 日水は現在、一筋縄ではいかない水産品の 在庫を世界規模でコントロールしようとして いる。
供給から販売にいたる海外ネットワー クの拡充をM&Aによって進め、本社レベル でサプライチェーン管理の体制を作ったのは、 いわばそのためのインフラ整備だ。
これによ うやく目鼻が付いたことから、今後はこのネ ットワークの上を動く水産品の物量を、実際 に最適化していく。
 「結局、行き着くところは在庫管理しかな い。
だからこそ日本の在庫だけでなく、海外 工場の在庫、洋上の在庫、陸送中の在庫など (億円) 図1 棚卸資産(単体)の推移と組織の変遷 2006年 3月1日 02年 3月末 03年 3月末 04年 3月末 05年 3月末 06年 3月末 07年 3月末 450 300 350 300 250 「水産サプライチェーンオフィサー」と「食品サ プライチェーンオフィサー」を新設 上記2 つの機能を統合・拡充して新たに「サプ ライチェーンオフィス」を設置 「サプライチェーンオフィス」の機能拡大に伴 い「サプライチェーンマネジメント部」(SCM 部)に改組。
さらに従来は「総合物流事業部」 の中に置いていたサプライチェーン管理の機能 をSCM 部に移管 2004年 3月1日 2005年 3月1日 DECEMBER 2007  34 をリアルタイムで見えるようにする必要があっ た。
すべての在庫情報を見ながら、東京に送 るべきなのか、あるいはアメリカやヨーロッパ に持っていくべきなのかを判断している」と 酒井部長は現状を説明する。
共同化で見えた自らの管理レベル  もう一つの課題である食品サプライチェーン の高度化では、他社との“物流共同化”が転 機になった。
日水は九九年からニチレイフー ズ、味の素冷凍食品とともに、冷凍食品の共 同配送を行っている。
北海道を皮切りに、南 九州や中京エリアでも実施してきた。
ただ、こ こまでの共同化は輸送に限られ、倉庫は別々 だった。
今年四月からの四国での取り組みで、 はじめて共同保管に踏み込んだ。
 大規模な共同保管を実施するためには、オ ペレーションの仕組みやデータを互いに共有す る必要があった。
このため三社は、共同保管 をスタートする約一年前から、お互いの在庫 水準や物流品質などを開示しあいながら仕組 みを構築していった。
ここで同業他社の実状 を垣間見たことが、日水が自社の物流管理を 客観視する絶好の機会になった。
 SCM部の発足と同じ時期にスタートした この試みは、日水に少なからず影響を与えた。
酒井部長は「(四国での物流共同化に着手す る以前の)二年間はまったく井の中の蛙だっ た。
それが共同保管の準備を進めるなかで、 在庫回転率が他社に比べて低いとか、受注ミ に芽生え、自分なりに工夫するようになれば、 しめたものだ。
過去に停滞していた分、改善 の余地はたくさんあった。
 「最初から結果を出そうとするから失敗す る。
手間をかけて問題を指標化し、これを追 いかけ続けるようにすれば数字は少しずつ上 がってくる」と酒井部長は語る。
 業務の標準化も推進した。
日水は国際物流 で一二〇〇ミリ×一〇〇〇ミリのパレットを スが多いとか課題がいろいろ出てきた。
しか も、なぜ差があるのかまで分かった。
このと きの経験から、どこをどう変えていくのかを 具体的に言えるようになった」と明かす。
 このときの経験は、「今のままでは同業他 社においていかれる」という社内の危機感も 生み出した。
それまで当たり前のようにやっ ていた物流が、いかに旧態依然としたものか に否応なく気づかされたのである。
管理指標を整えて現場を刺激  物流管理の停滞は、現場では明らかだった。
たとえば日水は「積載率八割」という指標を 十年一日のごとく掲げていた。
だが本社で物 流管理をする人間が現場に足を運ぶことは稀 で、現状に安住しているところがあった。
 自ら物流現場に足を運び、いたるところ にムダがあると感じた酒井部長は、その根本 的な原因は問題意識のなさにあると分析した。
それまでの物流管理は、顧客に対する商品の 安定供給を重視するあまり、生産性を軽んじ る傾向にあった。
社内における物流管理の位 置づけも低く、物流関係者の間には “やらさ れ感”ともいうべき感情が蔓延していた。
 そこで酒井部長は、まずは解決や改善をま ったく考えさせずに、担当者に現状をあらわ す数値の把握だけを三カ月ほど続けさせた。
す ると、数値をとり続ける意味を担当者自身が 考えるようになってきた。
次に何を言われる かも察しはじめた。
こうして問題意識が自然 図2 物流品質を改善するためのコンセプト 《障害の現状》 ?日本語商品の正確な在  庫管理 ?コンテナ積数・日付・  アイテムの正確な把握 受け入れ時の 仕分作業の大変さ ?正確な数量把握 ?ニッスイSEQと  の照合作業 《ニッスイ》国際物流 海外工場 日本国際物流 お客様への出荷時 の該当ロットのト レース ※SEQ:安全(Safety)、環境(Environment)、品質(Quality) 35  DECEMBER 2007 使っている。
このパレット輸送の効率を高め るため、海上コンテナの内寸や、大型トラッ クの内寸、さらには自動倉庫の格納サイズな どを一気通貫で見て、最適な高さを一一五〇 ミリと計算。
この貨物サイズを“日水ウエイ” の基準値に定めた。
 その上で、パレット上にムダなく積めるよ うに製品のパッケージを見直し、パレットの厚 さがネックになる工程ではシートパレットも導 入した。
こうすることで縦・横・高さのすべ てでムダな隙間を排除していった。
その結果、 たとえば「焼きおにぎり」の輸送では、一枚 のパレットに積めるケース数を四八から五四に 増やすことに成功した(図3)。
需給調整を仕切るSCM部門  地道な現場改善を進める一方で、社内にお ける物流の位置づけも高めていった。
象徴的 な変化として、「需給調整会議」でのSCM 部の役割が挙げられる。
 ほぼ毎月行っているこの会議は従来、営業 と工場が主導して生産数量などを決める場だ った。
物流部門は決められたことを黙々とこ なすだけの立場にすぎなかった。
これが昨年 夏から一変した。
あらかじめSCM部が数値 を作り、これに対して営業と工場に意見を出 してもらうスタイルに変わった。
会議の主導 権は完全にSCM部に移った。
 物流部門による需給調整の先導は、欧米 では当たり前のように行われている。
だが日 本で実践している企業はさほど多くない。
そ んな先進的な体制に日水が移行できた理由は、 サプライチェーン改革に対する経営陣の理解 と、従来のやり方では上手くいかないという 社内の疲弊感が変化を後押ししたためだ。
 実は日水は、何年も前から需要予測のため の専用システムを使っている。
ところが需給調 整の責任の所在が不明確だったうえ、真剣に 需要を予測しようとする姿勢が不足していた ことから、社内には「どうせ予測は当たらな い」という諦めに近い空気が漂っていた。
こ れもSCM部が再構築した。
 過去に予測が当たらなかった理由の一つに、 一年を単純に五二週間で管理していたことが あった。
この考え方だと、一月一日が火曜日 なのか金曜日なのかで、たとえば「第二週」 の指す日程に実質的な差が出てくる。
条件の 異なる実績データから割り出す予測が正確で あるはずがなかった。
そこでSCM部は一年 を四八週で管理するように改め、各月を四週 プラス残りの日数で捉えるようにした。
 こうした工夫に加えて、責任部門がSCM 部に明確化されたことから、需給調整の精度 は徐々に向上してきた。
といってもシステム が計算する予測値には依然として満足してい ない。
まだ模索している段階にある。
 大きな権限を委ねられたSCM部は、当然、 実績を残すことが求められている。
現状では 単体ベースで一・一カ月分以上ある在庫水準 を、二年後には一カ月を切るレベルに持ってい く方針だ。
また物流コストについても、「(S CM部が発足した時点で)把握できる物流コ ストが年間一七〇億円あった。
これを五年の あいだ毎年五億円ずつ、計二五億円減らして いく必要がある」(酒井部長)。
 もっとも現場レベルでは、冷蔵倉庫で働く 人材不足が深刻化している。
コスト削減より、 むしろ労働環境の見直しなどによって作業者 の確保を優先せざるを得ない状況にある。
こ うした中でコスト効率を高めていくには、担 当者一人ひとりのモチベーションの向上がよ り一層、ポイントになっていくはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 面の隙間を改善し、パレット積数をUPする (48ケース⇒第1ステップ:54ケース⇒113%の積載UP) 図3 パレットへの積載ケース数の改善 322 415 従来(内寸):415×322×80mm 改良(内寸):389×322×80mm 322 389 1200mm 1000mm 1200mm 1000mm

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