2007年12月号
現場改善

印刷物取扱T社の物流センター新設

DECEMBER 2007  70 初めての物流研修  T社は各種紙媒体を発行するマスコミ企業 のグループ会社で印刷物のハンドリングを事 業としている。
年商は約九〇億円。
印刷会社 から入荷した広告や求人チラシを、媒体別・ 方面別に仕分けて配送している。
市内は自社 配送、圏外への配送は同じマスコミ業界の印 刷物ハンドリング会社に委託している。
商流 上は荷主企業ではあるものの、実際の業務内 容は物流専業者の通過型センター(TC)と ほぼ同じであった。
 口コミで弊社日本ロジファクトリー(NL F)を知ったというT社のS取締役からお呼 びがかかった。
本社を訪問するとS取締役の 他に、もう一人の取締役が同席した。
その彼 が話の口火を切った。
「二〇〇六年十一月に 新しい物流センターが稼働する。
それに向けて、 力を貸してもらいたい」という。
 T社の取り扱いの約七〇%は親会社向けの 仕事だが、ほかに親会社のライバルとなる媒 体紙のチラシ類も扱っている。
まさに「物流 は共同で、競争は営業で」という構図なのだが、 T社自身は自らを物流会社としては認識して いなかった。
そのため物流業務に関する管理 職の意識レベルや管理内容は、かなりお粗末 な状態であった。
 この依頼を受けるに当たり、我々NLFは 部長クラス二名、次長クラス四名、課長クラ ス四名から現状をヒアリングし、現場視察を 行った。
案の定、現場は親会社におんぶに抱っ この状態であった。
約三〇%の外部荷主を持っ ているとはいっても、実際には親会社からい われることをしているだけ、到着した商品を ただ捌くだけの受動的な現場であった。
 このままでは、新しくセンターを作ってハー ドを整えても、“ソフト”は目も当てられない ものになってしまう。
新センターへの移行を 検討する以前に、そこで働く人たちのノウハ ウやスキルの向上が必須であった。
「管理者と は何か」「物流会社として現場をどのように管 理し、改善していくのか」といった基礎を一 から伝えていく必要があったのである。
 そこで月に二回、就業時間終了後の時間を 見計らって実務研修を行うことにした(図1)。
第一回目の研修には管理職クラスと現場リー ダーの総勢一七人が参加した。
担当役員であ るS氏もオブザーバーとして顔を見せた。
 しかし皆、メモを取っていない。
今まで研 修というものを受けたことがないらしく、どの ように研修を受ければよいのかという戸惑い 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第59 回  マスコミ企業を親会社とするT社は、媒体紙に挟み込む チラシ等の仕分け・配送を事業としながらも、自らを物流 企業としては認識していなかった。
当初の要請は新センタ ーへの移行をサポートすることであったが、それ以前の問題 として社員の意識改革が必要であった。
印刷物取扱T社の物流センター新設 71  DECEMBER 2007 の表情が見られる。
参加者の平均年齢は四〇 歳を越えている。
講師にとって、かなりやっ かいな研修になりそうだった。
 そこで私はカリキュラムに予定していたテー マをあえて逸脱し、極めて基本的な事柄から 話をすることにした。
話し方も一方通行を避け、 各参加者に質問するかたちにした。
「今なぜ研 修が必要なのか」「研修を受けることで、どの ように自分たちの仕事が変わるのか」を、切々 と語りかけるように説き、質問していったの である。
 最初に研修の目的をはっきりさせたことで、 二回目以降の研修では、参加者の姿勢も変わっ てきたように思えた。
オブザーバーも増えた。
S取締役に加えて他の取締役二人と社長まで 参加した。
もっとも、良い研修の場合、参加 者は研修を「受ける」のではなく「活かす」 という姿勢で臨むものだ。
T社の場合は到底 そのレベルには達していなかった。
現場運営の原則  まずは働く人たちの考え方を改善していか なくてはならない。
そのためT社の新センター 建設に向けた取り組みは、「物流業」という 視点から、これまでのT社の仕事を捉え直し ていくところからスタートしたのであった。
そ して研修終了後に、そこで習得した内容を既 存のセンターで実践していくというステップで ある。
 現場の基本的な管理や運営は既存センター でも新センターでも変わらない。
具体的には 次の五点に絞り込んで現場改善および運営を 実施した。
?5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の 徹底 ?商品事故、車両事故の撲滅 ?入荷情報の事前収集 ?センター内の動線の見直し ?パート・アルバイトとのコミュニケーション の取り方  「?5Sの徹底」では、「整理」とは具体 的に何を指すのか、「整頓」とは何か、「清 掃」とは、「清潔」とは、そして「躾」とは と、一つひとつ言葉の意味を噛み砕いて説明し、 それを各現場に伝えていくという指導方法を とった(図2)。
 「?商品事故、車両事故の撲滅」では、現 場調査によってフォークリフトの爪でパレット の上にある印刷物に穴をあけてしまうという 事故が週に一件は発生していることが分かっ たため、フォークリフト講習を行うと同時に、 商品事故の発生がどのような問題に発展する のかについて、部長および営業担当者が具体 T社 特別研修カリキュラム 日 程第1部 16:00〜17:30 第2 部 17:45〜19:15 物流改革・改善の着眼点と進め方 コストダウン7つの方法 業務品質の向上方法 現場チェックリストの活用 業務マニュアルの作成方法 業務の数値化とその管理方法 社員・パート管理方法と育成 クレーム対応の方法 ロケーションの作り方 物流改善の事例紹介 ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) ●月●日(●) 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 ※先日の視察から今回の研修対象は先ずは管理職からと考えております 車両事故の撲滅方法/ 誤配・納の改善方法 ピッキングミス・ 商品事故の撲滅方法 ロールプレイング・演習? ロールプレイング・演習? ●月 ●月 ●月 ●月 〈対象:管理職〉 ■5 S とは 要るものと要らないものを明確に分けて、要らないも のを捨てることです。
並べ直したり、積み直したりする ことではありません。
これは整列と呼びます。
「能率向上は整理から」 要るものを、使い易いようにきちんと置いて、誰にで もわかるように明示することです。
見た目にきれいに、 物を並べることではありません。
これは陳列と呼びます。
「探すムダの一掃は、整頓で」 常に掃除をして、きれいにすることです。
まずホウキ、 そしてモップで掃除、次に雑巾がけが基本です。
「品質向上の土台は清掃」 整理・整頓・清掃の3Sを維持することです。
ゴミなし、 汚れなしの職場をいつも保つことが決め手となります。
「安全の第一歩は清潔から」 決められたことを、いつも正しく守る習慣づけの事です。
自分の身を美しく保つ(職場も同じ) 整理とは 整頓とは 清掃とは 清潔とは 躾とは DECEMBER 2007  72 的な事例を紹介するかたちで説明会を行った。
 「?入荷情報の事前収集」も大事なテーマ であった。
それまでT社の現場は当日になら なければ物量がわからない状態で日々の仕事 を行っていた。
適正人員の設定などできるは ずがない。
しかも繁忙期であっても社員はしっ かりと有給休暇を消化していた。
 なぜ入荷情報が事前に分からないのか。
調 べてみると、T社へ荷物を納品するベンダー には、印刷会社や広告代理店、その下請けな ど多くの会社が入り込んでいて整理がつかな いためであった。
そこで、ベンダーに直接働 きかけるのではなく、入荷を担当するベンダー の協力物流会社を通して入荷予定情報をもら うようにした。
しかし、それだけでは全入庫 量の四〇%にしか満たない。
その後、大手印 刷会社から納品予定情報を取れるようになっ て、ようやく物量の目安がつくようになった。
 「?センター内の動線の見直し」では、通 過型センターとしてのムダのないヒトの動きと はどうあるべきなのか、また印刷物の結束・ 仕分け機の周囲にどのような人員配置を行え ば良いかという点を重視して指導した。
 「?パート・アルバイトとのコミュニケーショ ンの取り方」は、T社の管理職が最も興味を 示した事項だった。
何より管理職はパート・ アルバイトの名前を覚えること、頑張ったと きには誉めてあげることが大事であることを強 調した。
そして仕掛けとしては年二回の個人 面談を必ず行うこと。
さらにはパートリーダー を設定すること。
つまり能力があり、責任感 のあるパートには、それだけの権限を与える。
初期レベルの管理を担ってもらうという権限 委譲を進めていった。
 こうして研修終了からの三カ月を既存セン ターの改善に費やした。
かなりスケジュール としてはタイトではあったが現場は少しずつ変 わっていった。
最も改善された点は「整理」 と「整頓」の「2S」が合格ラインに達した こと、そして現場で声を掛け合う機会が増え てきたことであった。
このように既存センター における基本的な改善と運営の見直しは、一 定の手応えを残し、最後の繁忙期を迎えたの であった。
センター建設の手順  一方、並行して進めていた新センター建設 の準備も次第に大詰めに入っていった。
新セ ンターの規模は延べ床面積約二〇〇〇坪の平 屋建てだ。
親会社の財務体質が健全で投資余 力が大きいため、土地・建物は自前という前 提であった。
S取締役をはじめT社の役員た ちは土地の取得と近隣地主への説明、調整に 追われていた。
 センターの設計についての打ち合わせは、 やはりS取締役と部長クラス、そして設計会 社の代表、私というメンバーである。
設計コ ンセプトは「ショールーム」であった。
我々 NLFが持論とする「現場はショールームで ある」という考え方を研修で紹介したところ、 T社の社長が気に入ってくれたらしい。
この コンセプトを基に打ち合わせを重ね、三種類 の設計図を起こし、それについてさらに協議 を進めていった。
 私は次の四つの点を中心に意見を述べた。
?マテハン機器、保管ラック、仕分け、入荷、 出荷スペースの位置関係 ?庫内事故(特にフォークリフト作業におけ る事故)防止 ?人手不足時代に向けたパート・アルバイト の作業負担の軽減 ?車両、ヒトの動線など  このうち?の作業スペースの位置関係につ いて、当初の図面で設定されていた仕分けス ペースを拡張し、仮置きスペースを新設した。
また?事故防止では、フォークリフトの専用 通路として黄色で明示したスペースを設ける ことにした。
 ?パートの作業負担軽減ではとくに空調対 策に配慮した。
結束・仕分け機の作業スペー スに、エアーダクトをそれぞれ設置、さらに 通常の一・五倍の厚さの断熱材を使用するこ とにした。
?車両動線は、入り口と出口を別々 に設けることで一方通行にした。
そして作業 動線は人と人がすれ違う時にも肩があたらな いように最低限必要な通路幅を確保した。
 こうした各打ち合わせメンバーの意見や提 案を設計会社が取りまとめて、いよいよ建設 に取りかかった。
基礎工事以降も私は月に二 回のペースで建設現場を訪れた。
S取締役と 部長・次長クラスのメンバーらと共に、防護 ヘルメットをかぶりながら現場監督と意見を 交換し、細かな要望を出していった。
帰りに はいつもスーツと靴にクリーニング屋が喜ぶほ 73  DECEMBER 2007 どの土が付いていた。
 完成まで残り三カ月となった頃、我々は新 センターで使用する什器、備品、看板、サイ ンなど、設置品の準備に取りかかった。
しか しながら、この作業は大きく難航した。
管理職、 特に部長・次長クラスがのんびり構えてしま い、予定していた時期までに案が出てこなかっ たのである。
最初にはっきりと役割分担と期 日を決めてありながら放置されていた。
 普段は温厚なS取締役も、これにはさすが に堪忍袋の緒が切れたようだ。
私のいる前で 担当者を厳しく叱責する場面もあった。
「今ま で言われたことをやっていれば給料をもらえる という状態だったので自主的とか、能動的に 動くということを知らないんですよ」と、S 取締役は私にこぼすのであった。
 結局、一部の看板等が納品されないまま落 成式を迎えるハメになってしまった。
外部参 列者はともかく、社内幹部からは当然、厳し い非難の声があがった。
現場や組織は変わっ てきているのだが、それと比べて古参組の管 理職の意識改革は遅々として進まない。
これ は他社の改善でもよく見られる現象である。
 それでもT社の新センターは何とか予定通 り稼働にこぎ着けた。
グループに媒体紙を抱 えている強みを活かし、パート募集に大きく 紙面を使って広告した結果、三〇人の定員に 対し九七人の応募を得た。
新センター稼動か ら六カ月を過ぎようとしている現在、これら の新しいパートが戦力として育ち、課長以下 の若手管理職がそれを牽引することで現場は 順調に機能している。
 前述の「5S」は、センター内の四カ所に 大きな看板を設置した。
センター内のどこから でも看板が常に目に入る。
日々、この看板の 下で現場の若手リーダーがパートを前に朝礼を 行っている。
こうしてハードとソフトが融合し、 はじめて「ショールーム」は機能するものなの である。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、8 9年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp  物流現場改善を専門とするコンサルティング会社、 日本ロジファクトリーが具体的な事例を披露。
手法の説 明だけでなく、クライアントとのやりとりやコンサルタント の心の動きまで、改善プロジェクトの経過をリアルに描 写。
 本誌2003年1月号から連載の「事例で学ぶ現場改 善」を加筆修正。
「経営のテコ入れは物流改善から」 青木正一 著 (明日香出版社) \1,890(税込) 2005年3月発行  白トラの一人親方からスタートして、一代で会社を 一部上場企業にまで成長させたオーナー創業者の 一代記。
笑えます!泣けます!   本誌2003年4月号〜2004年11月号に掲載した 「やらまいか̶̶ハマキョウレックスの運送屋繁盛 記」を加筆修正。
「やらまいか!」 大須賀正孝 著(ダイヤモンド社) \1,575(税込) 2005年5月発行 「物流コストを半減せよ!̶Mission」  湯浅和夫 著 (かんき出版) \1,575(税込)  2005年2月発行  物流コンサルティング業界のカリスマが小説形式 のノウハウ本に挑戦。
「大先生」と「美人弟子」「体力 弟子」の3人組が、常識破りの物流理論で、クライア ントの課題を次々に解決。
 本誌2002年4月号から連載の「物流コンサル道 場」を単行本化。

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