2007年12月号
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全日本空輸

DECEMBER 2007  40 〇四年度にV字回復を達成  全日本空輸の過去の営業損益の推移をみる と、一九八〇年代の成長期、九〇年代の収益 低迷期を経て、二〇〇二年度の営業赤字をボ トムに、〇四年度でV字回復となっている。
〇 五年度以降は過去最高水準の原油価格にもか かわらず、八〇〇〜九〇〇億円程度の安定し た営業利益を確保している。
また、株式市場 では、羽田空港の再拡張(一〇年一〇月)、成 田空港の滑走路延伸(同三月)が実現する一 〇年以降にさらなる利益成長が期待できるの ではと、中長期の観点から注目が集まってい る。
ただし、足元の原油価格高騰でシンガポ ールケロシン市況価格が一一〇ドル/バレルを 突破しており、短期的には利益成長の鈍化は 避けられないであろう。
 全日本空輸は、株式市場からは高い経営力 を有する会社として評価されている。
背景に は〇二年度以降の実績がある。
〇二年度以降 の経営戦略は?大橋洋治・前社長(現会長) 時代の「守りの戦略」と?山元峯生・現社長 の「攻めの戦略」に分けられる。
大橋氏が社 長に就任したのは〇二年四月。
米国同時多発 テロ(〇一年九月)やイラク戦争の勃発(〇 三年三月)、SARSの流行(〇三年)によ る国際線需要の低迷に加え、JAL・JAS の統合(〇二年一〇月)を控え、安定収益源 であった国内市場での競争激化に対する危機 意識を高めていた。
 そこで、大橋氏は二〇〇億円の人件費削減 や機材更新、不採算路線の整理などを中心と する構造改革=「守りの戦略」に着手した。
具 体的には、国内線では機材の小型化による需 給適合、国際線では不採算路線からの撤退や 潜在成長力の高い中国路線への重点投資など を実施した。
その結果、営業損益は〇二年度 の二六億円の赤字から、〇三年度は三四四億 円と黒字化、〇四年度には一気に七七八億円 の黒字となった。
当時経営目標だった「〇三 年度の七年振りの復配」、「〇四年度の国際線 の黒字化」をそれぞれ実現し、株式市場でも 「経営陣の迅速な経営判断と実行力」に対する 評価が高まった。
期間損益の収益力の回復と ともに、バランスシートの改善も進んだ。
有 利子負債残高は、増加傾向に歯止めがかかり、 一〇〇〇億円前後の水準を維持しつつも、株 主資本は〇二年度の一二一九億円から〇四年 度には二一四三億円に拡大。
グロスD/Eレ シオ(負債資本比率)は〇二年度の七・八倍 から〇四年度には四・四倍に低下した。
リストラから規模の拡大へ  〇五年四月、社長に就任した山元氏は経営 目標をリストラ中心から規模の拡大へ展開し、 攻めに転じた。
〇六年度を初年度とする四カ 年の中期経営戦略では、国内旅客事業の安定 全日本空輸 貨物事業の拡大路路線鮮明に 那覇空港のハブ化構想も注目  構造改革を経て、「攻めの経営」に転じた全日本空輸。
成長戦略の一つが貨物事業の強化だ。
フレーターの増強、 輸送ネットワークの拡大、提携の拡充を打ち出し、拡大 路線を鮮明にしている。
今年七月には、那覇空港のハブ 化構想を発表。
羽田の再拡張、成田の延伸という追い風 もあり、中長期的にも利益成長が期待されている。
尾坂拓也 モルガン・スタンレー証券 株式調査部 第35 回 41  DECEMBER 2007 収益源を強固にしつつ、利益成長のドライバ ーを国際旅客と国際貨物事業と位置づけ、機 材調達、人材確保などに注力している。
 国際旅客事業については、需要拡大が期待 される中国を中心とするアジアに加え、北米、 欧州でも既存路線の増便を実施・計画してい る。
〇六年一〇月にはシカゴ路線を再開した。
高単価戦略の奏功で旅客イールド(旅客キロ 当たりの旅客収入)も上昇トレンドを維持し ている。
貨物事業では、〇五年七月に日本貨 物航空の株式持分を日本郵船に売却し、単独 運航による貨物専用機(フレーター)の増強 で積極的な規模の拡大を目指している。
また、 那覇空港のハブ化構想を掲げるなど、事業規 模拡大に向けた積極姿勢が顕著に現れている。
 全日本空輸が掲げる高単価戦略とは、ビジ ネスクラスへの注力、つまり高単価旅客需要の 獲得を強化するものである。
具体的には、欧 米路線でのB747ー400からB777─3 00ERへの機材変更により、総座席数は三 三三席から二四七席に減少するものの、高単 価顧客(ファーストクラスとビジネスクラス) の構成比を高める戦略である。
座席利用率や 旅客イールドの上昇を通じて座席キロ当たりの 旅客収入の拡大は顕在化しており、〇五年度 の欧米路線の旅客イールドは前年度比で一五 〜二〇%上昇し、〇七年度上期決算でもその 上昇トレンドが確認できた。
モルガン・スタン レー証券では、燃油サーチャージを含めた運賃 値上げの効果を超える旅客イールドの改善が実 現していると判断している。
主要空港と那覇をダブルハル化  航空貨物キャリアとしては後発の全日本空 輸が掲げる貨物事業の基本戦略は、以下の三 点に集約される。
第一に、フレーターの増強。
年間一〜二機のペースで増強する計画である。
〇六年度末ベースではB767ー300型フレ 全日本空輸の過去10年間の株価推移 (円) 《出来高》 DECEMBER 2007  42 ーターを四機保有。
〇七年度には、米ABX エアーからのウエットリース(乗務員などを含 めた機材のリース)によるB767ー200型 フレーター二機をあわせ、合計六機体制を構 築している。
第二に、ベリーを含めた貨物輸 送ネットワークの拡大である。
特に、航空貨物 市場はグローバルの成長産業であり、日本を 除くアジア発の成長ポテンシャルが最も高いと 予想されるため、中国・アジア〜日本〜北米 のネットワーク強化が急務であろう。
後述する が、那覇空港ハブ化構想はこの一貫だといえ よう。
第三に、物流事業における提携の拡充 である。
具体的に実現したのは、日本郵政と の提携である。
これにより、国際エクスプレス ブランドの確立と貨物機の低コストのオペレー ション体制を目指す。
さらに〇七年六月には、 OCSと国際物流分野における共同ブランド 商品「BEAM」を開発することで合意した。
 全日本空輸は〇七年七月五日、沖縄県との 間で那覇空港における国際物流拠点の形成に 向けて双方が協力していくことで基本合意し た。
プレスリリースでは「日本を含むアジア主 要都市を結ぶ航空貨物輸送のハブ基地を那覇 空港に設置し、アジア諸国と日本との間を面 で結ぶ国際競争力を備えた国際航空物流網の 構築を図っていく。
貨物基地の立ち上げ時期 は、〇九年以降を予定している」とコメント している。
一見すると、すべての貨物事業を 那覇空港に集約すると思ってしまうが、モル ガン・スタンレー証券では、主要空港(羽田 空港または関西空港か成田空港)と那覇空港 のダブルハブ化の構想が背景にあると考えてい る。
主要空港は日本発着あるいはアジア発日 本経由北米向けの貨物を取り込むためのハブ、 那覇空港は中国やアジアのエクスプレス貨物の ハブとして機能させる戦略だろう。
 那覇空港のハブ化実現には様々なハードルが 待ち構えていると思われるが、全日本空輸は 社内で「トリプルセブン構想」を長期的な経営 構想として掲げている。
国内旅客、国際旅客、 貨物事業の売上規模としてそれぞれ七〇〇〇 億円を目指すものである。
ちなみに、〇六年 度ベースの国際貨物事業の売上高はベリーと フレーター合計で六二二億円、国内貨物事業 の売上高は同三〇六億円と合計で九二八億円 であり、貨物事業に関しては特に意欲的な目 標だといえる。
ホテル売却で本業に集中  財務体質の観点から見た最大の注目点は、〇 七年四月に実施した全日空ホテルの売却であ る。
譲渡金額は二八一三億円。
航空運送事業 を名実ともに本業と位置づけ経営資源の集中 が加速する、売却に伴うキャッシュインフロー は当初見込みを相当程度上回る水準であり、財 務体質の改善、資金繰りなどの面で「経営戦 略上の余裕」が得られたとモルガン・スタンレ ー証券では判断している。
実際、格付けは〇 七年九〜一〇月にかけて、四年ぶりにシング ルA格に復帰。
オフバランスシート債務を含め た有利子負債残高は、〇七年度上期末で一兆 円を下回った。
 羽田空港の国際化、成田空港の滑走路延伸 など日本の基幹空港の能力が拡充されるまで の段階で、今後の注目点を挙げるならば、? 燃油価格がさらに上昇した時に、三年連続し て国内旅客運賃の値上げを実施するのか否か (最大の競合相手である新幹線は値上げの可能 性は低く、国内幹線に参入したスカイマークと の価格差は大きい)、?国際旅客のさらなる増 収をどのように実現するのか(中国線以外の 座席利用率は八〇%前後で増収余地が限定的 と思われ、燃油サーチャージのさらなる引き上 げは旅行需要低迷を招くリスクもある)、?貨 物事業では、那覇空港ハブ化の詳細、さらな る提携の実現──などであろう。
その問いに 答えるという観点では、全日本空輸は現中期 経営計画を〇八年度を初年度とする中期経営 計画として見直す予定であり、〇七年度後半 の発表に注目したい。
最終年度を十一年度と しているのは羽田空港の再拡張後の業績動向 を示す意図があり、株式市場からの注目度は 高まるであろう。

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