2007年12月号
特集
特集
日本郵便の行方 SG ホールディングス──物流市場の枠から飛び出す
DECEMBER 2007 16
小口B
to
Bへの特化で差別化
佐川急便の宅配便の平均単価が下げ止まっている。
今期は五三二円。
ヤマトや日通の単価が下落基調を 強めているのをよそに、前期比横ばいで推移してい る。
「このところ単価の低迷が顕著だったクール便の 実勢運賃も今期は反転している。
適正な運賃を収受 して投資を行い、品質を向上していく必要があるこ とを顧客にご理解いただいた結果だ」と、SGホー ルディングスの戦略担当取締役を兼務する佐川急便 の近藤宣晃常務取締役は説明する(図1)。
SGホールディングスは今年三月、今後一〇年のグ ループ経営ビジョンと二〇〇七年度から〇九年度の中 期経営計画をまとめている(図2)。
これによると同 社の〇九年度の売上高は〇六年度比一五%増の一兆 円、営業利益は同十三・六%増の四五〇億円を目標 に置いている。
年率五%以上の事業規模拡大が続い ている現状を考えれば控え目な数字だ。
しかし近藤常務は「宅配便市場が成熟に向かいつ つあることは明らか。
市場はパイの奪い合いになって いる。
そこでシェアを取りに行こうとすれば単価を 下げる必要が出てくる。
いたずらに価格競争に巻き 込まれることは避け、当社は小口のB to B貨物とい うドメインに特化することで他社と差別化していく」 という。
同社の宅配便に占めるB to C貨物は現在、約三割 に達している。
過去一〇年の取扱貨物増加分のほと んどはB to Cの拡大によるもので、創業以来同社が メーンとするB to Bは既に頭打ちの状態だ。
通販市 場の拡大を受けてこれまで増加傾向にあったB to C にしても、いずれ伸びは止まる。
視線を中ロット以 上のB to Bに移しても、そこには熾烈な運賃競争が 待っている。
あえて参入する妙味はない。
一方、足下の小口B to B市場では同社は既に盤石 の地位を築いている。
国際インテグレーターの日本市 場参入もターゲットは国際エクスプレス便に限られて いる。
その集配網を自社化することはあっても、巨 額のインフラ投資が避けられない国内間の宅配便市 場に本格的に進出する可能性はほとんどない。
さらには最大のライバルとされるヤマトや郵政・日 通連合にしても、佐川にとっては「基本的にC to C の世界の出来事であって、当社と直接バッティングす る話ではない。
郵政と日通の宅配事業統合も当社は 静観するつもりだ。
向こうがどう考えているのかは 分からないが、我々と彼らでは事業領域が全く違う と認識している」と近藤常務はいう。
実際、同じ宅配便市場のプレーヤー同士であって も、佐川の配送ネットワークはヤマトや郵政、日通と は全く違う。
佐川の宅配便の拠点数は現在三五二カ 所。
ライバルたちと比べて一桁少ない。
事業規模に 見合った集配ドライバーの数は必要でも、拠点数は B to Bに特化する限り、現在の数で全国をカバーで きる。
それだけ経営効率は高くなる。
同社の集荷力の源泉となっているセールスドライバ ーは今後も継続的に増やしていく計画だ。
また集荷 営業を必要としない to Cの配送ネットワークについ ては、セールスドライバーとは別に軽自動車を使った 「宅配ドライバー」と呼ぶ直接雇用の時間給制ドライ バーを設定している。
この二つでB to BとB to Cの 宅配便は処理できる。
課題はメール便だ。
メール便の配送ネットワークを 自社で構築しているヤマトとは異なり、佐川は日通と 同様に、一冊当たり五五円という郵政の冊子小包の 大口割引を利用してメール便配送の大部分を郵政に委 宅配市場では規模やシェアを追わず、小口のB toBに特化 することで、ヤマトや郵政&日通連合との棲み分けを狙う。
その一方で国際物流とロジスティクス事業には本腰を入れる。
グループ会社で金融事業や自動車販売事業など、物流以外 の市場に進出することで事業ポートフォリオの転換を図る。
(大矢昌浩) 第2部 SG ホールディングス ──物流市場の枠から飛び出す ヤマト・佐川の次の一手 17 DECEMBER 2007 託している。
二〇〇〇年に「飛脚メール便」を発売 し、メール便市場に参入した佐川は当初、新聞配達 店などを利用して独自の配送ネットワーク構築に動い た。
しかしその後、〇四年に郵政が冊子小包の料金 体系を見直し、大口向けに大幅なディスカウント料金 を設定したことから方針を転換。
配送を郵政に委託 する「佐川ゆうメール(現・飛脚ゆうメール)」を新 たに発売し、爆発的に取扱数を増やしている(図3)。
佐川の〇七年三月期のメール便取扱冊数は約六億 四四六〇万冊。
うち約八五%の五億四八五〇万冊を 飛脚ゆうメールが占めている。
同社はメール便の実勢 単価を公表していないが、仮にヤマトと同レベルとす れば、メール便事業で四〇〇億円程度の売り上げが あることになる。
これに対してメール便の集荷作業 は既存の宅配ネットワークで処理できるため、追加コ ストがほとんどかからない。
単価と郵政への下払い 五五円との差額が、ほぼそのまま儲けになる格好だ。
年間五〇億円〜六〇億円の利益を上げていると推測 される。
グループの営業利益三六九億円に占める比 率は決して小さくない。
しかし、この“おいしい商売”も、郵政が冊子小 包の大口割引料金の見直しに動けば一気に崩れてし まう。
既に郵政と佐川は一〇月の民営化を機に料金 区分の変更について交渉に入った模様だ。
来年一〇 月に誕生する郵政と日通の宅配新会社に、冊子小包 が移管されることになれば、さらに苦しい立場に置 かれることになる。
もっとも、郵政も強くは出られない。
冊子小包は、 この三年間の急拡大でクロネコメール便と取扱冊数を 逆転させている。
佐川はその立役者だ。
現在の年間 二〇億四九〇〇万冊の冊子小包のうち四分の一以上 を飛脚ゆうメールが占めている。
佐川を敵に回せば、 冊子小包の取扱個数は急落する。
飛脚ゆうメールが、そのままヤマトに流れる可能性 さえ否定できない。
B to Bをドメインとする佐川が 「 to C」、しかも顧客との対面のない投函だけの配送 ネットワークに本格的に投資することは考えにくい。
冊子小包の大口割引料金の問題で郵政と破談になれ ば、ヤマトへの配送委託も選択肢に上ってくる。
ヤ マトも「現場レベルではこれまでも佐川さんからメー ルの配送を委託されることがなかったわけではない。
まったく抵抗はない」という。
もともとヤマトはメー ル便の配送密度の向上を大きな課題としている。
飛 脚ゆうメールを獲得できれば、クロネコメールの配送 効率自体が大幅にアップする。
敵の敵は味方──郵政と日通が連合して宅配市場 の第三の柱として旗幟を鮮明にすることで、ヤマト・ 佐川という宅配市場の「二強」が手を組むという事 態をも招きかねない。
郵政にとっては最悪のシナリオ だ。
民営化後も当分の間は冊子小包の大口割引料金 を大幅に変更することは難しそうだ。
その間にSGホールディングスは事業ポートフォリ オの転換を急ぐ。
同社の宅配便以外の事業はこれま で、宅配便を補完する位置付けしか与えられてこな かった。
中国や東南アジアへの拠点進出も現地で生 産した荷物を日本に出荷して、国内の宅配ネットワー クに乗せることが狙いだった。
しかし、今後は宅配 便事業とは完全に切り離したかたちで国際物流やロ ジスティクス事業を本格化する。
さらには「グループ 企業を通じて金融事業やIT事業、自動車販売事業 など、物流業の枠に囚われずに、新たな事業の柱を 作っていく。
当社がホールディングス制を敷いて、社 名から『佐川』の名を外したのは、まさにそうした 狙いからだ」と近藤常務は説明する。
飛脚メール便 VS 飛脚ゆうメール 図3 佐川急便のメール便の取扱冊数の推移 1,842 4,064 11,242 15,255 13,558 9,362 9,607 54,853 13,598 40,960 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 飛脚ゆうメール 飛脚メール便 (円) (万冊) 674円 605円 532円 504円 00年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 00年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 図1 宅配便のコモディティ化が進んでいる 大手各社の宅配便平均単価の推移 750 700 650 600 550 500 450 400 図2 SGホールディングスの 中期経営計画 営業利益 7539億円 705億円 449億円 8692億円 396億円 8280億円 1020億円 700億円 1兆円 450億円 2006 年度実績 2009 年度計画 デリバリー 事業売上高 ロジスティクス 事業売上高 その他事業 売上高 売上高計 佐川急便 ペリカン便 ゆうパック 宅配便 特集
今期は五三二円。
ヤマトや日通の単価が下落基調を 強めているのをよそに、前期比横ばいで推移してい る。
「このところ単価の低迷が顕著だったクール便の 実勢運賃も今期は反転している。
適正な運賃を収受 して投資を行い、品質を向上していく必要があるこ とを顧客にご理解いただいた結果だ」と、SGホー ルディングスの戦略担当取締役を兼務する佐川急便 の近藤宣晃常務取締役は説明する(図1)。
SGホールディングスは今年三月、今後一〇年のグ ループ経営ビジョンと二〇〇七年度から〇九年度の中 期経営計画をまとめている(図2)。
これによると同 社の〇九年度の売上高は〇六年度比一五%増の一兆 円、営業利益は同十三・六%増の四五〇億円を目標 に置いている。
年率五%以上の事業規模拡大が続い ている現状を考えれば控え目な数字だ。
しかし近藤常務は「宅配便市場が成熟に向かいつ つあることは明らか。
市場はパイの奪い合いになって いる。
そこでシェアを取りに行こうとすれば単価を 下げる必要が出てくる。
いたずらに価格競争に巻き 込まれることは避け、当社は小口のB to B貨物とい うドメインに特化することで他社と差別化していく」 という。
同社の宅配便に占めるB to C貨物は現在、約三割 に達している。
過去一〇年の取扱貨物増加分のほと んどはB to Cの拡大によるもので、創業以来同社が メーンとするB to Bは既に頭打ちの状態だ。
通販市 場の拡大を受けてこれまで増加傾向にあったB to C にしても、いずれ伸びは止まる。
視線を中ロット以 上のB to Bに移しても、そこには熾烈な運賃競争が 待っている。
あえて参入する妙味はない。
一方、足下の小口B to B市場では同社は既に盤石 の地位を築いている。
国際インテグレーターの日本市 場参入もターゲットは国際エクスプレス便に限られて いる。
その集配網を自社化することはあっても、巨 額のインフラ投資が避けられない国内間の宅配便市 場に本格的に進出する可能性はほとんどない。
さらには最大のライバルとされるヤマトや郵政・日 通連合にしても、佐川にとっては「基本的にC to C の世界の出来事であって、当社と直接バッティングす る話ではない。
郵政と日通の宅配事業統合も当社は 静観するつもりだ。
向こうがどう考えているのかは 分からないが、我々と彼らでは事業領域が全く違う と認識している」と近藤常務はいう。
実際、同じ宅配便市場のプレーヤー同士であって も、佐川の配送ネットワークはヤマトや郵政、日通と は全く違う。
佐川の宅配便の拠点数は現在三五二カ 所。
ライバルたちと比べて一桁少ない。
事業規模に 見合った集配ドライバーの数は必要でも、拠点数は B to Bに特化する限り、現在の数で全国をカバーで きる。
それだけ経営効率は高くなる。
同社の集荷力の源泉となっているセールスドライバ ーは今後も継続的に増やしていく計画だ。
また集荷 営業を必要としない to Cの配送ネットワークについ ては、セールスドライバーとは別に軽自動車を使った 「宅配ドライバー」と呼ぶ直接雇用の時間給制ドライ バーを設定している。
この二つでB to BとB to Cの 宅配便は処理できる。
課題はメール便だ。
メール便の配送ネットワークを 自社で構築しているヤマトとは異なり、佐川は日通と 同様に、一冊当たり五五円という郵政の冊子小包の 大口割引を利用してメール便配送の大部分を郵政に委 宅配市場では規模やシェアを追わず、小口のB toBに特化 することで、ヤマトや郵政&日通連合との棲み分けを狙う。
その一方で国際物流とロジスティクス事業には本腰を入れる。
グループ会社で金融事業や自動車販売事業など、物流以外 の市場に進出することで事業ポートフォリオの転換を図る。
(大矢昌浩) 第2部 SG ホールディングス ──物流市場の枠から飛び出す ヤマト・佐川の次の一手 17 DECEMBER 2007 託している。
二〇〇〇年に「飛脚メール便」を発売 し、メール便市場に参入した佐川は当初、新聞配達 店などを利用して独自の配送ネットワーク構築に動い た。
しかしその後、〇四年に郵政が冊子小包の料金 体系を見直し、大口向けに大幅なディスカウント料金 を設定したことから方針を転換。
配送を郵政に委託 する「佐川ゆうメール(現・飛脚ゆうメール)」を新 たに発売し、爆発的に取扱数を増やしている(図3)。
佐川の〇七年三月期のメール便取扱冊数は約六億 四四六〇万冊。
うち約八五%の五億四八五〇万冊を 飛脚ゆうメールが占めている。
同社はメール便の実勢 単価を公表していないが、仮にヤマトと同レベルとす れば、メール便事業で四〇〇億円程度の売り上げが あることになる。
これに対してメール便の集荷作業 は既存の宅配ネットワークで処理できるため、追加コ ストがほとんどかからない。
単価と郵政への下払い 五五円との差額が、ほぼそのまま儲けになる格好だ。
年間五〇億円〜六〇億円の利益を上げていると推測 される。
グループの営業利益三六九億円に占める比 率は決して小さくない。
しかし、この“おいしい商売”も、郵政が冊子小 包の大口割引料金の見直しに動けば一気に崩れてし まう。
既に郵政と佐川は一〇月の民営化を機に料金 区分の変更について交渉に入った模様だ。
来年一〇 月に誕生する郵政と日通の宅配新会社に、冊子小包 が移管されることになれば、さらに苦しい立場に置 かれることになる。
もっとも、郵政も強くは出られない。
冊子小包は、 この三年間の急拡大でクロネコメール便と取扱冊数を 逆転させている。
佐川はその立役者だ。
現在の年間 二〇億四九〇〇万冊の冊子小包のうち四分の一以上 を飛脚ゆうメールが占めている。
佐川を敵に回せば、 冊子小包の取扱個数は急落する。
飛脚ゆうメールが、そのままヤマトに流れる可能性 さえ否定できない。
B to Bをドメインとする佐川が 「 to C」、しかも顧客との対面のない投函だけの配送 ネットワークに本格的に投資することは考えにくい。
冊子小包の大口割引料金の問題で郵政と破談になれ ば、ヤマトへの配送委託も選択肢に上ってくる。
ヤ マトも「現場レベルではこれまでも佐川さんからメー ルの配送を委託されることがなかったわけではない。
まったく抵抗はない」という。
もともとヤマトはメー ル便の配送密度の向上を大きな課題としている。
飛 脚ゆうメールを獲得できれば、クロネコメールの配送 効率自体が大幅にアップする。
敵の敵は味方──郵政と日通が連合して宅配市場 の第三の柱として旗幟を鮮明にすることで、ヤマト・ 佐川という宅配市場の「二強」が手を組むという事 態をも招きかねない。
郵政にとっては最悪のシナリオ だ。
民営化後も当分の間は冊子小包の大口割引料金 を大幅に変更することは難しそうだ。
その間にSGホールディングスは事業ポートフォリ オの転換を急ぐ。
同社の宅配便以外の事業はこれま で、宅配便を補完する位置付けしか与えられてこな かった。
中国や東南アジアへの拠点進出も現地で生 産した荷物を日本に出荷して、国内の宅配ネットワー クに乗せることが狙いだった。
しかし、今後は宅配 便事業とは完全に切り離したかたちで国際物流やロ ジスティクス事業を本格化する。
さらには「グループ 企業を通じて金融事業やIT事業、自動車販売事業 など、物流業の枠に囚われずに、新たな事業の柱を 作っていく。
当社がホールディングス制を敷いて、社 名から『佐川』の名を外したのは、まさにそうした 狙いからだ」と近藤常務は説明する。
飛脚メール便 VS 飛脚ゆうメール 図3 佐川急便のメール便の取扱冊数の推移 1,842 4,064 11,242 15,255 13,558 9,362 9,607 54,853 13,598 40,960 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 飛脚ゆうメール 飛脚メール便 (円) (万冊) 674円 605円 532円 504円 00年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 00年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 図1 宅配便のコモディティ化が進んでいる 大手各社の宅配便平均単価の推移 750 700 650 600 550 500 450 400 図2 SGホールディングスの 中期経営計画 営業利益 7539億円 705億円 449億円 8692億円 396億円 8280億円 1020億円 700億円 1兆円 450億円 2006 年度実績 2009 年度計画 デリバリー 事業売上高 ロジスティクス 事業売上高 その他事業 売上高 売上高計 佐川急便 ペリカン便 ゆうパック 宅配便 特集
