2007年12月号
特集
特集
日本郵便の行方 宙に浮いた国際物流進出計画
DECEMBER 2007 18
宙に浮いた国際物流進出計画
外資インテグレーターが反発
「EMS(国際スピード郵便)は民間企業のエクス
プレスと真っ向から競合するサービス。
対等な競争条 件の保障を求める」。
DHL、フェデックス、TNT、 UPSの四大インテグレーターで構成するアジア太平 洋地域のエクスプレス企業の業界団体、CAPEC ( Conference of Asia Pacific Express Carriers)首 脳は一〇月二五日、都内で記者会見し、日本郵便が 提供するEMSの優遇措置の撤廃と公平な競争環境 の整備を求める声明を発表した。
会見には四社のアジア太平洋地域のトップらが出 席。
日本郵便の通関、セキュリティ、財務・会計手 続きや集配車両に対する駐車規制などを民間企業と 同等とするよう要望し、「EMSはユニバーサルサー ビスから除外され、競争分野とされたゆうパックと同 様に扱われるべきだ」(フェデラルエクスプレス・ア ジア太平洋地域社長のディビッド・L・カニングハム Jr.氏)と訴えた。
エクスプレス・サービスは周知の通り、書類や一定 の規格内の小口貨物を速く確実に世界各地へ輸送す る国際宅配便。
EMSは日本郵便が提供する国際郵 便の速達サービスだ。
重量三〇キログラムまでの書類 や小包を日本から世界一二〇カ国・地域に送る。
地 域によって貨物追跡ができ、中国などについては配 達時刻の指定も可能だ。
リードタイムも例えば東京か ら中国・北京に小包を送る場合は最速で翌日中に配 達され、民間企業のエクスプレス商品と遜色ないサー ビスになっている。
関税や通関手数料などを含まない配達価格を比べる と、EMSで一〇キログラムの小包を東京から北京へ 送る場合は約一万円なのに対し、民間の国際宅配便 は一万六〇〇〇円〜二万円前後かかる。
ただし、こ れは正規運賃を比べた場合。
EMSは大口割引制度 を利用すると一〇〜二三%の割引を受けられる。
一 方のエクスプレスでは大口荷主との運賃は個別交渉。
関係者によると、実勢運賃はEMSの料金が基準に なっており、大口荷主に対しては五〇%程度のディ スカウントも珍しくないという。
サービス品質の改善で競争力をつけてきたEMSに 対し、インテグレーターを始めとした民間事業者は危 機感をあらわにしている。
EMSを含めた日本発のエ クスプレス市場は一〇〇〇億円規模とみられ、今後も 拡大が見込まれている。
公正取引委員会の資料による と、EMSと民間各社のシェアは図の通り。
郵政はD HL、フェデックスに次いで第三位につけている。
中国向けEMSの競争力 インテグレーター四社が特に問題視しているのは、 EMSに対する通関面の優遇措置だ。
現在、EMS を含む国際郵便物には税関が関税額を計算する賦課 課税方式が適用され、日本郵便にコストはかからな い。
これに対して民間のエクスプレス貨物は輸入者な どが関税額をみずから計算する申告納税方式。
「日本 に入ってくるEMSの通関コストは税関当局、つま り利用者ではなく納税者が負担している」(TNT中 国・台湾・香港担当最高責任者のマイケル・J・ド レイク氏)わけだ。
イコールフッティングを確保する ため、諸外国の例を参考に課税価格の合計が二〇万 円を超える国際郵便物については、二〇〇九年三月 までに申告納税方式が適用されることが決まってい る。
しかし、二〇万円以下の貨物についての優遇措 置は残ることになる。
日本郵政の事業区分では、EMSは通常郵便物や 日本郵政は国際物流市場に本格参入することを大きな目標 に掲げている。
公社時代には日の丸インテグレーターを目指し、 矢継ぎ早に施策も打ち出した。
しかし、めぼしい成果はこれ まで上がっていない。
西川新体制に移行して以降は、事業の スキームさえみえなくなってしまった。
( 梶原幸絵) 第3部日の丸インテグレーターの現実 19 DECEMBER 2007 特集 三〇キログラム以下の小包郵便物とともに、国際郵 便物の一つに位置付けられている。
国際郵便は厳密 には物流市場の商品ではない。
万国郵便連合(UP U)条約に基づき、UPU加盟国の郵便事業体間で 交換され、配達される“郵便物”だ。
大きさや重量 も同条約の枠組みの中で決められている。
EMSの運用はUPU条約で義務付けられている わけではない。
各国の郵便事業体が任意で自国での 取り扱いを判断できる。
それでも日本郵便のEMS 取り扱いのうち四割強は、例えば海外で生活している 家族のために荷物を送る、などの個人利用が占める。
企業による利用が中心の民間の国際宅配便は、書類 の準備や出荷手配、価格面で個人利用者にはハード ルが高く、EMSへの需要は根強い。
そのため日本 郵便では「EMSはユニバーサルサービスの範疇にあ り、今後も維持しなくてはならない分野と位置付け ている」と国際事業本部国際郵便事業部の布寺泰博 部長は説明する。
日本郵便にとってEMSは取り扱い規模の拡大が 見込める貴重な成長事業でもある。
国際郵便物の引 受数推移をみると、通常郵便物と小包はほぼ軒並み 減少しているのに対し、EMSはエクスプレスに押さ れながらも横ばいもしくは増加傾向にある。
昨年度 の外国あて国際郵便の引受数は前年度比二・四%減 の七五六六万通、外国来は四・一%減の二億二二七 万通。
このうちEMSは外国あてが四・一%増の一 〇〇七万通、外国来が〇・一%増の五六九万通とな っている。
このため、郵政はEMSを国際物流の柱の一つとし て、郵便という枠内でサービスを高度化してきた。
価 格については、EMSは郵便物のため民営化しても 総務省への届け出義務があり、荷主との個別交渉は できないが、品質面で企業利用にも堪えるよう「速 く正確に」を基本に取り組んでいる。
需要が高い路 線を中心にターゲットを絞り、相手国との協力により、 品質向上を目指す。
昨年一〇月には、上海向けEMSの配達日数を一 日短縮。
東京都区内ビジネスエリアの主要郵便局と大 阪市内の郵便局で引き受けた上海向けEMSを、最 短で翌日配達とした。
また今年八月、翌日配達の引 受地域に京都と横浜を加えている。
さらに九月から は北京向け、香港向けを翌日配達エリアの対象にし、 主に中国向けでインテグレーターを追撃している。
現在、日中間では日本発、中国発でそれぞれ年間二 五〇〜二六〇万通のEMSが動いている。
日本、中 国双方の郵政にとって最大の路線だ。
そのため今年 七月に中国の郵政事業体、中国郵政集団公司と協力 強化について改めて合意した。
インテグレーターが中 国・アジアで存在感を増しているのに対して危機感 を共有し、相互協力を進めていく体制を整えている。
国際物流の突破口を模索 中国以外でも、アジア太平洋の主要郵便事業体が、 主にEMSの品質向上を目的に設立したカハラ・ポ スト・グループ(KPG)などの活動を通じてサー ビス強化を進めている。
KPGには日本のほか豪州、 中国、香港、韓国、米国、英国、スペイン、フランス の九カ国・地域の郵便事業体が参画しており、世界 で動くEMSの約半分を取り扱っているという。
日 本発では六割をカバーするとみられ、KPG加盟国 間での品質改善の影響は大きい。
布寺部長によると 「標準送達日数基準の遵守率は〇四年には六〇%を超 える程度だったが、現在は九六〜九七%に向上した」 という。
●国際エ図ク1ス プ宅レ配ス便市市場場にのおシけェるア売上シェア四大インテグレーターはEMSの優遇措置撤廃を要望 注:日本発、法人差出 出典:公正取引委員会資料 EMS (日本郵政公社) 18% DHL FedEx 29% 26% その他(OCS、 UPS、TNT など) 27% DECEMBER 2007 20 しかしEMSを郵便の枠内でいくら高度化して も、法人顧客のニーズは拾いきれない。
EMSは、前 述のとおりUPU加盟国の郵便事業体の間で交換さ れ、配達される。
日本郵便が引き受けたEMSでも 日本を離れ、相手国に到着した後は、相手国の郵政 事業体が配達する。
インテグレーターが基本的に一つ の組織によりドア・ツー・ドアの一貫輸送を行ってい るのとは異なる。
相手国の体制に頼らざるを得えず、 品質を保証できない。
「郵政事業体と組むということ は、全世界のネットワークを持っているともいえるが、 自分でコントロールできるネットワークはないという こと」と、同本部国際物流事業部の長谷川実部長は 語る。
しかもUPU条約と実施規則により、一定の 大きさ・重量以上の貨物を取り扱うことができない。
結局、郵便事業の制約を受けないサービスを開始し ない限り、国際物流への本格進出は実現しない。
そ のため公社時代には生田正治初代総裁と本保芳明理 事(当時)が中心になり、郵政を和製インテグレータ ーに脱皮させることを目指した数々の施策に打って 出た。
まずは国内のゆうパックの配送ネットワークを活か せる小口の国際宅配便に狙いを定めた。
地域的には 日本を中心として需要の高いアジアをターゲットとし、 自社でコントロール可能な国際一貫輸送のネットワー クを手に入れようとした。
自前でゼロから体制を整え ていくには、資金的・時間的に難しいことから、民 間事業者との提携による商品開発を目指した。
その一つが、TNTとの提携だった。
生田氏は「国 際物流の突破口を開く試みだった」(二二ページ参照) と振り返る。
欧州を地盤とするTNTにとって、ア ジア地域での事業強化は大きな課題であり、郵政と 利害が合致していた。
しかし、その後両者の考え方 にはズレが出てくる。
結局、交渉は実を結ばす、郵 政の新商品開発、つまり国際物流への本格進出は頓 挫した。
TNTとの交渉と並行して、国際インテグレーター として必要な貨物機の手当てにも動いた。
アジアを 中心に貨物輸送ネットワークを拡充している全日本空 輸と思惑が一致し昨年二月、同社などと貨物機運航 会社、ANA&JPエクスプレスを設立した。
しかし、 これもTNTとの交渉決裂によって肝心の商品開発 が頓挫。
せっかく確保した輸送手段をフルに活用で ゆうパックが国際一貫輸送に発展 山九と日本郵政が提携し、開発した企業向 けの小口物流商品が「SANKYUビジネス ゆうパック(SBY)」だ。
山九の通関を含め たフォワーディングとゆうパックの集荷・配達 機能を組み合わせ、ドア・ツー・ドアの国際一 貫輸送を行う。
両社の関係は、一九九九年大手メーカーのキ ャンペーンの業務を共同で行ったことに始まる。
その後、郵政がゆうパックとして貨物を集荷・ 配送し、山九が倉庫保管・管理・流通加工を 行う付加価値商品「THANK YOUパック ゆうパック」を国内で拡販してきた。
今年度の 取扱量は昨年度から二割弱増加し、一四〇万 個となる見通しだ。
これを国際一貫輸送に応用したのがSBY。
〇四年に開始した。
荷主は必要に応じて海上 輸送と航空輸送を選択できる。
対象地域は中 国、東南アジアなど。
十一月、航空便では日 本発欧州向けを加えた。
中国などでは山九の 現地法人が現地のオペレーションを行うが、そ れ以外のマレーシア、シンガポール、フランス では山九と現地の郵政事業グループとの提携に より、一貫輸送を実現している。
SBYの特徴は、通常の輸出入に必要な商業 通関を前提にして作られたスキームということ だ。
通常の国際郵便は郵便のため、通関手続 きに業者は入れない。
また、エクスプレス・サ ービスでも商業通関は可能だが、エクスプレス は簡易通関を前提にした商品体系のため、トラ ブルが発生することもあるという。
さらに、カ ートン単位で出荷でき、運賃は燃油サーチャー ジなどもすべて含むパック料金。
既存の海上・ 航空輸送とも異なる。
取扱量は通関件数でみると、昨年度は二三 山九ロジスティクス・ソ リューション事業本部郵 政物流提携タスクフォー ス班の小田和美班長山 九 21 DECEMBER 2007 特集 きない状態だ。
市場は待ってくれない 「さまざまな形で企画をしている」(長谷川部長) というが、今年三月から六月にかけ生田─本保ライ ンが消えてから、これまで郵政は国際物流に関して 新たなメッセージは出していない。
手本とするドイツ ポストは国内郵便市場の自由化に備え、トップの強 力なリーダーシップにより、スイスのダンザスや米国 のDHL、3PLの世界最大手だった英エクセルな ど次々と企業買収を実行してきた。
特にエクセルの買 収には五六億ユーロと巨額の資金を投じ、エクスプレ スやフォワーディングに比べ市場シェアが低かったロ ジスティクス事業を強化し、世界最大の物流企業にの しあがった。
しかし、現在の郵政、とりわけ郵便事業には大規 模な買収に打って出るだけの資金力がない。
本業の 収益は低迷している。
持ち株会社に資金力はあって も、ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険で得た利益を郵 便に投じれば民業圧迫の批判が待っている。
八方ふ さがりの状態だ。
望みは早ければ二〇一〇年度に計画されているゆ うちょ銀行とかんぽ生命保険の株式公開益だ。
国庫 への充当分と、ユニバーサルサービス維持を目的とし た社会・地域貢献基金に積み立てる資金を除いても、 巨額のキャッシュが残ると推測される。
これを物流企 業の買収に使うことができれば道は拓ける。
しかし、 それを実現するには経営者の明確な意志、さらには 政治判断が必要だ。
その機会を逃せば次は郵便事業 民営化後、株式交換が可能になるまでおそらくチャ ンスはない。
物流市場はそれまで待ってくれるだろ うか。
ANA&JPエクスプレス(AJV)は昨年 二月に発足した、貨物機運航会社。
資本金は 八〇〇〇万円。
全日本空輸が五一・七%、日 本郵政公社が三三・三%、日本通運が一〇%、 商船三井が五・〇%を出資し、共同で設立し た。
現在、公社の持ち株は郵便事業会社に引 き継がれている。
設立の目的は二つあった。
一つは全日空の 貨物便を運航することだ。
全日空には貨物事 業拡大に向け、インテグレーターなどと比較し ても競争力ある貨物機の運航会社が必要だっ た。
もう一つは日本郵政が開発する国際物流 の新商品の輸送。
郵政の国際物流参入への基 盤、かつ全日空の貨物事業の戦略子会社とい う位置付けで誕生した。
営業開始は昨年八月。
現在、全日空が運用 するフレーター(貨物専用機)六機のうち二機 を運航し、国内三空港と中国の主要都市、韓 国、シカゴなどを結んでいる。
今後、毎年一 機の割合で運航能力を拡大し、那覇空港のハブ 化構想でも、運航の主体になっていくという。
国際物流への進出が遅れていることから、郵 政の利用量はごく一部だ。
昨年一〇月から今 年三月までの取扱量は二万三一六六トンだっ たが、このうち公社利用量は一八二トンに過 ぎない。
大部分はANAカーゴ(貨物事業の サービスブランド)として集荷した一般航空貨 物だ。
AJVの収入自体は基本的に全日空に 対するスペース販売によるもののため、業績 面での影響は小さい。
昨年度第三四半期業績 は、売上高が二七億五八九九万円、営業損失 が八三七万円、経常損失が一九五八万円、純 損失が一九七〇万円。
事業が本格化する課程 のため赤字だったが、計画で見込まれている 範囲内だ。
全日空と郵政が協力し、インテグレーターに 対抗するという当初のもくろみからはずれた 側面はあるが、低コストで効率的な運航体制 を強化するという計画自体に変更はない。
全 日空としては「競争力のある貨物ネットワー クを着々と拡大していく。
一方で、日本郵便 の国際物流事業にも期待している。
Win─ Winの関係を築いていきたい」(貨物本部 副本部長の殿元清司執行役員)考えだ。
低コスト・高効率な貨物機運航会社に 〇〇件だったが、今年度は四〜一〇月で二六 〇〇件に達した。
「両社の提携による独自のサ ービス。
小口貨物の一貫輸送需要を開拓し、顧 客の満足、信頼を得ている」と山九ロジスティ クス・ソリューション事業本部郵政物流提携タ スクフォース班の小田和美班長は語る。
対象地 域の拡大や高付加価値化など、サービスの強化 を進めていく方針だ。
全日本空輸の殿元清司 執行役員貨物本部副 本部長 ANA&JP エクスプレス
対等な競争条 件の保障を求める」。
DHL、フェデックス、TNT、 UPSの四大インテグレーターで構成するアジア太平 洋地域のエクスプレス企業の業界団体、CAPEC ( Conference of Asia Pacific Express Carriers)首 脳は一〇月二五日、都内で記者会見し、日本郵便が 提供するEMSの優遇措置の撤廃と公平な競争環境 の整備を求める声明を発表した。
会見には四社のアジア太平洋地域のトップらが出 席。
日本郵便の通関、セキュリティ、財務・会計手 続きや集配車両に対する駐車規制などを民間企業と 同等とするよう要望し、「EMSはユニバーサルサー ビスから除外され、競争分野とされたゆうパックと同 様に扱われるべきだ」(フェデラルエクスプレス・ア ジア太平洋地域社長のディビッド・L・カニングハム Jr.氏)と訴えた。
エクスプレス・サービスは周知の通り、書類や一定 の規格内の小口貨物を速く確実に世界各地へ輸送す る国際宅配便。
EMSは日本郵便が提供する国際郵 便の速達サービスだ。
重量三〇キログラムまでの書類 や小包を日本から世界一二〇カ国・地域に送る。
地 域によって貨物追跡ができ、中国などについては配 達時刻の指定も可能だ。
リードタイムも例えば東京か ら中国・北京に小包を送る場合は最速で翌日中に配 達され、民間企業のエクスプレス商品と遜色ないサー ビスになっている。
関税や通関手数料などを含まない配達価格を比べる と、EMSで一〇キログラムの小包を東京から北京へ 送る場合は約一万円なのに対し、民間の国際宅配便 は一万六〇〇〇円〜二万円前後かかる。
ただし、こ れは正規運賃を比べた場合。
EMSは大口割引制度 を利用すると一〇〜二三%の割引を受けられる。
一 方のエクスプレスでは大口荷主との運賃は個別交渉。
関係者によると、実勢運賃はEMSの料金が基準に なっており、大口荷主に対しては五〇%程度のディ スカウントも珍しくないという。
サービス品質の改善で競争力をつけてきたEMSに 対し、インテグレーターを始めとした民間事業者は危 機感をあらわにしている。
EMSを含めた日本発のエ クスプレス市場は一〇〇〇億円規模とみられ、今後も 拡大が見込まれている。
公正取引委員会の資料による と、EMSと民間各社のシェアは図の通り。
郵政はD HL、フェデックスに次いで第三位につけている。
中国向けEMSの競争力 インテグレーター四社が特に問題視しているのは、 EMSに対する通関面の優遇措置だ。
現在、EMS を含む国際郵便物には税関が関税額を計算する賦課 課税方式が適用され、日本郵便にコストはかからな い。
これに対して民間のエクスプレス貨物は輸入者な どが関税額をみずから計算する申告納税方式。
「日本 に入ってくるEMSの通関コストは税関当局、つま り利用者ではなく納税者が負担している」(TNT中 国・台湾・香港担当最高責任者のマイケル・J・ド レイク氏)わけだ。
イコールフッティングを確保する ため、諸外国の例を参考に課税価格の合計が二〇万 円を超える国際郵便物については、二〇〇九年三月 までに申告納税方式が適用されることが決まってい る。
しかし、二〇万円以下の貨物についての優遇措 置は残ることになる。
日本郵政の事業区分では、EMSは通常郵便物や 日本郵政は国際物流市場に本格参入することを大きな目標 に掲げている。
公社時代には日の丸インテグレーターを目指し、 矢継ぎ早に施策も打ち出した。
しかし、めぼしい成果はこれ まで上がっていない。
西川新体制に移行して以降は、事業の スキームさえみえなくなってしまった。
( 梶原幸絵) 第3部日の丸インテグレーターの現実 19 DECEMBER 2007 特集 三〇キログラム以下の小包郵便物とともに、国際郵 便物の一つに位置付けられている。
国際郵便は厳密 には物流市場の商品ではない。
万国郵便連合(UP U)条約に基づき、UPU加盟国の郵便事業体間で 交換され、配達される“郵便物”だ。
大きさや重量 も同条約の枠組みの中で決められている。
EMSの運用はUPU条約で義務付けられている わけではない。
各国の郵便事業体が任意で自国での 取り扱いを判断できる。
それでも日本郵便のEMS 取り扱いのうち四割強は、例えば海外で生活している 家族のために荷物を送る、などの個人利用が占める。
企業による利用が中心の民間の国際宅配便は、書類 の準備や出荷手配、価格面で個人利用者にはハード ルが高く、EMSへの需要は根強い。
そのため日本 郵便では「EMSはユニバーサルサービスの範疇にあ り、今後も維持しなくてはならない分野と位置付け ている」と国際事業本部国際郵便事業部の布寺泰博 部長は説明する。
日本郵便にとってEMSは取り扱い規模の拡大が 見込める貴重な成長事業でもある。
国際郵便物の引 受数推移をみると、通常郵便物と小包はほぼ軒並み 減少しているのに対し、EMSはエクスプレスに押さ れながらも横ばいもしくは増加傾向にある。
昨年度 の外国あて国際郵便の引受数は前年度比二・四%減 の七五六六万通、外国来は四・一%減の二億二二七 万通。
このうちEMSは外国あてが四・一%増の一 〇〇七万通、外国来が〇・一%増の五六九万通とな っている。
このため、郵政はEMSを国際物流の柱の一つとし て、郵便という枠内でサービスを高度化してきた。
価 格については、EMSは郵便物のため民営化しても 総務省への届け出義務があり、荷主との個別交渉は できないが、品質面で企業利用にも堪えるよう「速 く正確に」を基本に取り組んでいる。
需要が高い路 線を中心にターゲットを絞り、相手国との協力により、 品質向上を目指す。
昨年一〇月には、上海向けEMSの配達日数を一 日短縮。
東京都区内ビジネスエリアの主要郵便局と大 阪市内の郵便局で引き受けた上海向けEMSを、最 短で翌日配達とした。
また今年八月、翌日配達の引 受地域に京都と横浜を加えている。
さらに九月から は北京向け、香港向けを翌日配達エリアの対象にし、 主に中国向けでインテグレーターを追撃している。
現在、日中間では日本発、中国発でそれぞれ年間二 五〇〜二六〇万通のEMSが動いている。
日本、中 国双方の郵政にとって最大の路線だ。
そのため今年 七月に中国の郵政事業体、中国郵政集団公司と協力 強化について改めて合意した。
インテグレーターが中 国・アジアで存在感を増しているのに対して危機感 を共有し、相互協力を進めていく体制を整えている。
国際物流の突破口を模索 中国以外でも、アジア太平洋の主要郵便事業体が、 主にEMSの品質向上を目的に設立したカハラ・ポ スト・グループ(KPG)などの活動を通じてサー ビス強化を進めている。
KPGには日本のほか豪州、 中国、香港、韓国、米国、英国、スペイン、フランス の九カ国・地域の郵便事業体が参画しており、世界 で動くEMSの約半分を取り扱っているという。
日 本発では六割をカバーするとみられ、KPG加盟国 間での品質改善の影響は大きい。
布寺部長によると 「標準送達日数基準の遵守率は〇四年には六〇%を超 える程度だったが、現在は九六〜九七%に向上した」 という。
●国際エ図ク1ス プ宅レ配ス便市市場場にのおシけェるア売上シェア四大インテグレーターはEMSの優遇措置撤廃を要望 注:日本発、法人差出 出典:公正取引委員会資料 EMS (日本郵政公社) 18% DHL FedEx 29% 26% その他(OCS、 UPS、TNT など) 27% DECEMBER 2007 20 しかしEMSを郵便の枠内でいくら高度化して も、法人顧客のニーズは拾いきれない。
EMSは、前 述のとおりUPU加盟国の郵便事業体の間で交換さ れ、配達される。
日本郵便が引き受けたEMSでも 日本を離れ、相手国に到着した後は、相手国の郵政 事業体が配達する。
インテグレーターが基本的に一つ の組織によりドア・ツー・ドアの一貫輸送を行ってい るのとは異なる。
相手国の体制に頼らざるを得えず、 品質を保証できない。
「郵政事業体と組むということ は、全世界のネットワークを持っているともいえるが、 自分でコントロールできるネットワークはないという こと」と、同本部国際物流事業部の長谷川実部長は 語る。
しかもUPU条約と実施規則により、一定の 大きさ・重量以上の貨物を取り扱うことができない。
結局、郵便事業の制約を受けないサービスを開始し ない限り、国際物流への本格進出は実現しない。
そ のため公社時代には生田正治初代総裁と本保芳明理 事(当時)が中心になり、郵政を和製インテグレータ ーに脱皮させることを目指した数々の施策に打って 出た。
まずは国内のゆうパックの配送ネットワークを活か せる小口の国際宅配便に狙いを定めた。
地域的には 日本を中心として需要の高いアジアをターゲットとし、 自社でコントロール可能な国際一貫輸送のネットワー クを手に入れようとした。
自前でゼロから体制を整え ていくには、資金的・時間的に難しいことから、民 間事業者との提携による商品開発を目指した。
その一つが、TNTとの提携だった。
生田氏は「国 際物流の突破口を開く試みだった」(二二ページ参照) と振り返る。
欧州を地盤とするTNTにとって、ア ジア地域での事業強化は大きな課題であり、郵政と 利害が合致していた。
しかし、その後両者の考え方 にはズレが出てくる。
結局、交渉は実を結ばす、郵 政の新商品開発、つまり国際物流への本格進出は頓 挫した。
TNTとの交渉と並行して、国際インテグレーター として必要な貨物機の手当てにも動いた。
アジアを 中心に貨物輸送ネットワークを拡充している全日本空 輸と思惑が一致し昨年二月、同社などと貨物機運航 会社、ANA&JPエクスプレスを設立した。
しかし、 これもTNTとの交渉決裂によって肝心の商品開発 が頓挫。
せっかく確保した輸送手段をフルに活用で ゆうパックが国際一貫輸送に発展 山九と日本郵政が提携し、開発した企業向 けの小口物流商品が「SANKYUビジネス ゆうパック(SBY)」だ。
山九の通関を含め たフォワーディングとゆうパックの集荷・配達 機能を組み合わせ、ドア・ツー・ドアの国際一 貫輸送を行う。
両社の関係は、一九九九年大手メーカーのキ ャンペーンの業務を共同で行ったことに始まる。
その後、郵政がゆうパックとして貨物を集荷・ 配送し、山九が倉庫保管・管理・流通加工を 行う付加価値商品「THANK YOUパック ゆうパック」を国内で拡販してきた。
今年度の 取扱量は昨年度から二割弱増加し、一四〇万 個となる見通しだ。
これを国際一貫輸送に応用したのがSBY。
〇四年に開始した。
荷主は必要に応じて海上 輸送と航空輸送を選択できる。
対象地域は中 国、東南アジアなど。
十一月、航空便では日 本発欧州向けを加えた。
中国などでは山九の 現地法人が現地のオペレーションを行うが、そ れ以外のマレーシア、シンガポール、フランス では山九と現地の郵政事業グループとの提携に より、一貫輸送を実現している。
SBYの特徴は、通常の輸出入に必要な商業 通関を前提にして作られたスキームということ だ。
通常の国際郵便は郵便のため、通関手続 きに業者は入れない。
また、エクスプレス・サ ービスでも商業通関は可能だが、エクスプレス は簡易通関を前提にした商品体系のため、トラ ブルが発生することもあるという。
さらに、カ ートン単位で出荷でき、運賃は燃油サーチャー ジなどもすべて含むパック料金。
既存の海上・ 航空輸送とも異なる。
取扱量は通関件数でみると、昨年度は二三 山九ロジスティクス・ソ リューション事業本部郵 政物流提携タスクフォー ス班の小田和美班長山 九 21 DECEMBER 2007 特集 きない状態だ。
市場は待ってくれない 「さまざまな形で企画をしている」(長谷川部長) というが、今年三月から六月にかけ生田─本保ライ ンが消えてから、これまで郵政は国際物流に関して 新たなメッセージは出していない。
手本とするドイツ ポストは国内郵便市場の自由化に備え、トップの強 力なリーダーシップにより、スイスのダンザスや米国 のDHL、3PLの世界最大手だった英エクセルな ど次々と企業買収を実行してきた。
特にエクセルの買 収には五六億ユーロと巨額の資金を投じ、エクスプレ スやフォワーディングに比べ市場シェアが低かったロ ジスティクス事業を強化し、世界最大の物流企業にの しあがった。
しかし、現在の郵政、とりわけ郵便事業には大規 模な買収に打って出るだけの資金力がない。
本業の 収益は低迷している。
持ち株会社に資金力はあって も、ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険で得た利益を郵 便に投じれば民業圧迫の批判が待っている。
八方ふ さがりの状態だ。
望みは早ければ二〇一〇年度に計画されているゆ うちょ銀行とかんぽ生命保険の株式公開益だ。
国庫 への充当分と、ユニバーサルサービス維持を目的とし た社会・地域貢献基金に積み立てる資金を除いても、 巨額のキャッシュが残ると推測される。
これを物流企 業の買収に使うことができれば道は拓ける。
しかし、 それを実現するには経営者の明確な意志、さらには 政治判断が必要だ。
その機会を逃せば次は郵便事業 民営化後、株式交換が可能になるまでおそらくチャ ンスはない。
物流市場はそれまで待ってくれるだろ うか。
ANA&JPエクスプレス(AJV)は昨年 二月に発足した、貨物機運航会社。
資本金は 八〇〇〇万円。
全日本空輸が五一・七%、日 本郵政公社が三三・三%、日本通運が一〇%、 商船三井が五・〇%を出資し、共同で設立し た。
現在、公社の持ち株は郵便事業会社に引 き継がれている。
設立の目的は二つあった。
一つは全日空の 貨物便を運航することだ。
全日空には貨物事 業拡大に向け、インテグレーターなどと比較し ても競争力ある貨物機の運航会社が必要だっ た。
もう一つは日本郵政が開発する国際物流 の新商品の輸送。
郵政の国際物流参入への基 盤、かつ全日空の貨物事業の戦略子会社とい う位置付けで誕生した。
営業開始は昨年八月。
現在、全日空が運用 するフレーター(貨物専用機)六機のうち二機 を運航し、国内三空港と中国の主要都市、韓 国、シカゴなどを結んでいる。
今後、毎年一 機の割合で運航能力を拡大し、那覇空港のハブ 化構想でも、運航の主体になっていくという。
国際物流への進出が遅れていることから、郵 政の利用量はごく一部だ。
昨年一〇月から今 年三月までの取扱量は二万三一六六トンだっ たが、このうち公社利用量は一八二トンに過 ぎない。
大部分はANAカーゴ(貨物事業の サービスブランド)として集荷した一般航空貨 物だ。
AJVの収入自体は基本的に全日空に 対するスペース販売によるもののため、業績 面での影響は小さい。
昨年度第三四半期業績 は、売上高が二七億五八九九万円、営業損失 が八三七万円、経常損失が一九五八万円、純 損失が一九七〇万円。
事業が本格化する課程 のため赤字だったが、計画で見込まれている 範囲内だ。
全日空と郵政が協力し、インテグレーターに 対抗するという当初のもくろみからはずれた 側面はあるが、低コストで効率的な運航体制 を強化するという計画自体に変更はない。
全 日空としては「競争力のある貨物ネットワー クを着々と拡大していく。
一方で、日本郵便 の国際物流事業にも期待している。
Win─ Winの関係を築いていきたい」(貨物本部 副本部長の殿元清司執行役員)考えだ。
低コスト・高効率な貨物機運航会社に 〇〇件だったが、今年度は四〜一〇月で二六 〇〇件に達した。
「両社の提携による独自のサ ービス。
小口貨物の一貫輸送需要を開拓し、顧 客の満足、信頼を得ている」と山九ロジスティ クス・ソリューション事業本部郵政物流提携タ スクフォース班の小田和美班長は語る。
対象地 域の拡大や高付加価値化など、サービスの強化 を進めていく方針だ。
全日本空輸の殿元清司 執行役員貨物本部副 本部長 ANA&JP エクスプレス
