2007年12月号
特集
特集
日本郵便の行方 ドイツポストの国際物流戦略
DECEMBER 2007 24
ドイツポストの国際物流戦略
買収費用は総額一兆八〇〇〇億円
独DHLエクスプレスのジョン・ミューレンCEO
(最高経営責任者)は、同社の戦略の大筋を次のよう
に語る。
「DHLエクスプレスを含むドイツポストが、 企業買収によって業容拡大を目指した時期は二〇〇 五年までで一段落した。
現在はオーガニック・グロー ス(自力成長)と買収した企業群の業務統合による シナジー効果を生み出すことに注力している」。
ドイツポストは一九九五年の民営化以来、買収に 次ぐ買収を重ね、それまでの郵便事業体から、エク スプレス部門のDHLエクスプレスと3PL部門のD HLロジスティクスを軸とした世界最大の総合物流企 業へと変身することを目指してきた。
同社が企業買収に投じた資金は二〇〇〇年の株 式公開以降だけを数えても、総額で一一〇億ユーロ (一兆八一五〇億円、一ユーロ=一六五円換算、以 下同)を超える。
しかしそれも〇五年末に、当時世 界最大の3PL企業であった英エクセルを買収した ことで一区切りがついた。
総合物流企業としてのメ ニューが揃ったというわけだ。
(図1・2)。
DHLエクスプレスの〇六年の業績は、売上高一七 一億九五〇〇万ユーロ(二兆八三七一億七五〇〇万 円)で、EBIT(利払い前の税引前当期利益)は 三億二五〇〇万ユーロ(五三六億二五〇〇万円)。
従 業員数は一二万四〇〇〇人を超え、貨物機四二〇機 と車両七万二〇〇〇台を有している(いずれも〇六 年末の数字)。
市場ごとにDHLエクスプレスの立ち位置を見る と、欧州市場とアジア市場では業界第一位を占めて いるが、フェデックスとUPSが本拠とする米国市場 の売上規模は、第三位にとどまっている(図3)。
ミューレンCEOは「われわれがヨーロッパとアジ アの市場でトップを取れたのは、優れたインフラとサ ービスレベル、マネジメント力の三つの要素があった からだと信じている。
米国ではフェデックスとUPS の後塵を拝する形で三位に甘んじており、今後もし ばらくはこの状態が続くだろうが、米国内でもイン フラとサービスレベルの向上を図っている」という。
ドイツポストの一連の買収戦略は郵便事業民営化 の成功例として知られる。
事実、DHLエクスプレス はドイツポストの傘下に入って以降、飛躍的に事業規 模を拡大し、圧倒的なマーケットシェアを握るに至っ た。
しかし利益という面では、今のところ十分な成 績を挙げられずにいる。
DHLエクスプレスの過去八年の営業利益率を見 ると、赤字が二回あり、利益率は最高でも二・〇% どまりだ。
ライバルのフェデックスやUPS、TNT に比べると、明らかに低い数字だ。
欧州の業界内で は、DHLエクスプレスの低い利益率が、親会社であ るドイツポストの株価の足を引っ張っているという見 方が根強い。
その収益性をTNTのエクスプレス部門と比べてみ ると、〇六年のTNTのエクスプレス部門の営業利 益率は九・六%で、売上高六〇億一一〇〇万ユーロ (九九一八億一五〇〇万円)に対して、五億八〇〇 〇万ユーロ(九五七億円)の営業利益を上げている。
一方、DHLエクスプレスはTNTの約三倍の売上高 を上げながらも、営業利益ではその半分強しかない。
これについてミューレンCEOは「〇六年で業務 改善の取り組みにもメドがついた。
これに伴い今後 は利益率も改善していく。
今年は、ドイツ東部のラ イプチヒのハブの移転に伴う費用として約一億ユーロ (一六五億円)がかかるが、それを除けば全体では五 ドイツポスト傘下のDHLエクスプレスは、相次ぐ企業買収によ って、欧州とアジアのエクスプレス市場でナンバーワンのポジショ ンを手に入れた。
しかし米国市場では2003年に買収したエアボー ン・エクスプレスの業務統合で大きく躓く。
その軌道修正は今よ うやく完了し、米国市場の黒字化にもメドが立った。
UPS、フェ デックスを追撃する体制を整えている。
DHLエクスプレス ジョン・ミューレン CEO 第4部 25 DECEMBER 2007 特集 億ユーロ(八二五億円)ほどの営業利益を見込んで いる。
前年比で五〇%以上の増加となる予定だ」と 説明する。
米国では買収後の統合で苦闘 DHLエクスプレスにとって、その命運を左右する 大きな出来事となったのは、〇三年に完了した米国 第三位のエクスプレス企業エアボーン・エクスプレス の買収だった。
同社は当時、二万七〇〇〇人の従業 員を擁し、買収直前の〇二年には三三億ドルを売り 上げていた。
その買収金額は一〇億五〇〇〇万ドル に上った。
DHLエクスプレスはエアボーンを買収す ることで、エクスプレスの最大市場である米国でフェ デックスとUPSに真っ向から勝負を挑む道を選んだ。
しかし、もともとエアボーンが低収益構造にあった ことに加え、業務統合がうまくいかなかったことが 重なり、米国市場では赤字が続いた。
米国での営業 損失(EBITAベース)は、〇三年が約三億ユー ロ、〇四年が約五億ユーロ、〇五年も三億ユーロに 上った。
ミューレンCEOは〇五年六月、証券アナリスト向 けの説明会で、米国での赤字についてこう説明して いる。
「DHLと旧エアボーンの間で、スキャンニン グや配送のルート設定、請求書の発行手順、ハブ拠点 などの不統一が起こったため、業務が非効率となり、 サービスレベルが一定とならず、ミスにつながってい る。
また付加価値の高い商品の商品力が弱く、需要 が低価格の商品に流れていく。
その結果、顧客満足 度が下がり、売上げ、利益ともに苦戦を強いられて いる」 一九四〇年代に航空フォワーダーとして出発したエ アボーンのエクスプレス市場への参入は七〇年代後半 図1 ドイツポストの買収金額 2000─2004 平均 2005 2006 2007 予想 (年) 1,100 5,675 443 約500 エクセル買収の54 億 ユーロを含む 単位:100 万ユーロ 世界一のロジ企業を 目指して 2005 年末から自力成 長と業務統合に集中 1999 年 ダンザス スイス 1999 年 ファン・ヘント&ロース オランダ 2000 年 デュクロス・サービシーズ・ラピッド フランス 2000 年 AEI アメリカ 2002 年 DHL アメリカ 2003 年 セキュリオラ・オメガ イギリス 2003 年 エアボーン・エクスプレス アメリカ 2004 年 ナロンド・デサロラ スペイン 2005 年 ブルー・ダート・エクスプレス インド 2006 年 PPL チェコ 1969 年 サンフランシスコで創業 1972 年 日本を含むアジアでサービス開始 1977 年 フランクフルトに事務所開設 1985 年 ブリュッセルにハブ拠点稼働 1998 年 ドイツポストが株式取得 1999 年 大型投資でネットワークと貨物機増強 2002 年 ドイツポストが株式100%を取得して傘下に収める 図2 DHLエクスプレスの主な企業買収 (注)フォワーダーであるダンザスとAEIは2005 年のエクセルの買収とともに、 同社のロジスティクス部門に移行。
■DHLの略史 図3 DHL エクスプレス 地域別のマーケットシェア、米国では第3位にとどまる DHL 30.0% TNT 15.1% TNT 7% UPS 10% UPS 19.4% FedEx 7.9% FedEx 22% フランス郵便局 4.5% ロイヤル・メール 2.2% その他 20.9% 市場規模 76 億ユーロ 欧州市場(2005 年) 市場規模 40 億ユーロ アジア市場(2005 年) 市場規模 44 億ユーロ 米国市場(2005年) DHL 13% UPS 18% その他 33% アメリカ郵便局公社 4% DHL 33% その他 28% FedEx 32% 出典:ドイツポスト 年次報告書2006 年 DECEMBER 2007 26 のことで、先行組であるフェデックスやUPSからシ ェアを奪うには、運賃を値下げすることを強いられ てきた。
そのため、DHLが買収したときには、先 行する二社に比べて運賃単価が一五〜二〇%低かっ た。
加えて米国内のネットワークも不十分だった。
DHLエクスプレスは、「ローコストながら不十分 なネットワーク」というそれまでのエアボーンのビジ ネスモデルから、「高品質で密度の高いネットワーク」 へ変化していくことを余儀なくされた。
そして、エ アボーンの買収金額を上回る十二億ドルを投資してネ ットワークを整備し、さらにスキャナーや車両などを DHL仕様に変え、テレビや新聞、雑誌に数多くの イメージ広告を打った。
同時に、社内では一年半をかけて業務を立て直す 計画を進めていた。
「オンタイム配送率九八・五%以 上を目指す」というサービスレベルの向上を第一項目 として、全部で一〇項目の目標を立てた。
その中に は、「カスタマーサービスの充実」、「拠点の統廃合に よる効率化」、「陸上輸送網の充実による収益力のア ップ」などが含まれる。
その成果が昨年に入ってようやく現れた。
米国で の業務統合と業務改善に目鼻がつき、収支が黒字に 転じたのだ。
買収から四年を経て、やっと米国市場 でフェデックスとUPSを追撃できる姿勢が整った。
ミューレンCEOは次のように語る。
「米国では〇三年から〇五年まで厳しい経営を迫ら れた。
〇五年に苦戦を強いられたのは、主に新しい ハブ拠点であるオハイオ州ウルミントンへの移転が理 由だった。
それが昨年に入ってから、ようやくネッ トワークが充実してきて、サービスレベルも安定して きた。
例えば午前一〇時半までに配達する“プレミ アム・エクスプレス”と呼ばれる分野では、外部の調 査会社にベンチマーキングを依頼したところ、サービ スレベルでUPSとほぼ並び、フェデックスをわずか だが上回るという結果が出た。
今年も米国における 業務改善は続いており、〇九年には累積赤字を一掃 できる見込みだ」。
「エアボーンの轍を踏むな」 この“エアボーンの失敗”はDHLだけでなく、業 界全体に大きな衝撃を与えた。
それ以降、欧州の ロジスティクス企業が大型買収に踏み切るときには、 「エアボーンの二の舞になる可能性はないか」と一度 は躊躇するようになったといわれる。
エアボーンの 買収は、ドイツポストの買収のうち、最大の失敗だ ったという声もある。
実際、買収後に一〇億ドル以 上の追加投資を迫られたことや、累積赤字を勘案す ると、高い買い物になったという点は否定できない。
しかし、ドイツポストが米国内市場に本格参入する には、エアボーンの買収以外に選択肢がなかったこと もまた事実だ。
買収直前の〇二年の米国内のエクス プレス市場は、フェデックス、UPS、エアボーンの 上位三社で九〇%を占める寡占市場だった(図5)。
フ ェ デ ッ ク ス 41.4% UPS 33.7% エアボーン・エクスプレス 18.6% アメリカ郵便公社 Express Mail 3.6% DHL 0.9% その他 0.8% 合計 100% 企業名 シェア 図5 注:2002 年第4四半期の取扱個数からシェアを算出。
原典:Air Cargo Management Group 出典:LOGISTICS TODAY 2003 年12月号 エアボーン買収前、米国のエクスプレス 市場は上位3社による寡占市場だった 図4 エクスプレス部門の利益の推移 -50 0 50 100 150 200 -10000 -5000 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 99年 0.6% 0.5% 2.0% 1.0% 0.7% 1.9% ─% ─% 00年01年02年03年04年05年06年 (億ユーロ) (万ユーロ) 売上高 EBIT オハイオ州ウィルミントンのハブ拠点 27 DECEMBER 2007 特集 資金力のあるドイツポストにとっても、米国でゼロ からネットアークを築き上げるのは実質不可能だ。
既 存の上位三社のどれかを買収するしか参入の方法は なかった。
しかし、フェデックスかUPSを買収しよ うとすれば、相当の高値を覚悟する必要がある。
交 渉がまとまる可能性自体低い。
現実的な買い物はエ アボーンしかなかった。
目先の利益率だけを考えるのなら、オランダのT NTのように、米国市場には手を出さないという選 択肢もあった。
TNTのピーター・バン・ローベン戦 略担当部長は、本誌のインタビューに対してこう答え ている。
「北米ではフェデックスとUPSの二社がす でに密度の濃いネットワークを張り巡らしている。
そ こに我々が資金や人材を投じるのは得策ではないと 考えている」(本誌〇七年八月号) エアボーンを買収して米国市場に参入すれば苦戦を 強いられることは、DHLエクスプレスもわかってい たはずだった。
それでも欧州の小国であるオランダの 郵便局を母体とするTNTと違い、大国ドイツの郵 便局を基盤とするドイツポストは、多少無理をしてで も世界最大のエクスプレス市場である米国でシェアを とりにいくことで、長期的な視点から大きなリターン を得ることを期待した。
逆にいえば、DHLエクス プレスにとって、TNTのように短期的な利益率の 悪化を恐れて、米国市場に手を出さないという道は あり得なかった。
アジアでは二八〇〇億円を投資 DHLエクスプレスは、日本を含めたアジア市場に おいても積極的に投資を続けてきた。
〇〇年から〇 六年までの投資総額は一七億ユーロ(二八〇五億円) に上る。
「これまで多額の投資を行うことで、アジア市場で トップの地位を確立してきた。
高いサービスレベルが 要求されるアジアのマーケットでトップを維持するに は、次々に新しい技術革新が求められる。
その成果 は、欧州や米国にも還元されている。
アジアは営業 利益で年率二〇%の増加を続ける有望市場だ。
中で も、日本を始め、急成長を続ける中国やインド、そ れに韓国のマーケットを重要視している」とミューレ ンCEOはいう。
日本では〇六年四月、ヤマトホールディングスと の間に、ダイレクトマーケティング事業をおこなう合 弁会社、ヤマトダイアログ&メディアを設立している。
「ヤマト運輸とは、(UPSがヤマトとの合弁企業を買 い取った)〇四年から国際便の分野で業務を補完し 合っており、それが合弁企業につながった。
立ち上 げたばかりなので、まだ成長の割合は大きくないが、 既に日本国内の大企業数社を顧客につけており、将 来には非常に期待している」(ミューレンCEO)と いう。
親会社のドイツポストのクラウス・ツムヴィンケル CEOは今年二月に日本を訪問し、今後数年をかけ て日本に一一〇億円を投資し、日本でのポジションを 磐石にすると発表している。
「日本では九九年以来、エクスプレス事業に二〇億 円の投資を行ってきた。
今回新たに一〇〇億円を超 える投資を行うことによって、日本でのエクスプレス 業務の能力を高め、インフラを整備し、成長にさら なる拍車をかけたいと考えている。
投資金額は、大 阪のハブ拠点の拡充や名古屋のハブ拠点での新しい物 流機器の導入などに充てるつもりだ」とミューレンC EOは語った。
(本誌欧州特派員・横田増生) 11.6% DHL グローバル・ フォワーディング 5.8% DHL エクセル・ サプライチェーン 2.0% CEVA (旧TNT ロジスティクス) 1.2% キューネ+ナーゲル (ACR ロジスティク買収を含む) 1.3% UPS サプライチェーン 88.4% その他 6.8% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.3% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.0% パナルピナ 1.3% ウィンカントン5.2% 日本通運 3.5% キューネ+ナーゲル 8.3% キューネ+ナーゲル 3.1% エクスペディターズ 2.9% 近鉄エクスプレス 66.9% その他74.8% その他 1790 億ユーロ (28 兆9980 億円) 198 億ユーロ (3 兆2076 億円) 2090 万TEU 換算 航空フォワーディング市場のシェア(2005 年) 海上フォワーディング市場のシェア(2005 年) 8.6% DHL グローバル・ フォワーディング 出典:ドイツポスト2006 年年次報告書 注1)各DHL の数字には旧エクセルを含む 注2)各DHL の数字はプロフォーマ(pro forma)ベース 注3)フォワーディング市場のシェアはIATA からとっており必ずしも各社の売上高とは一致しない ドイツポスト・ワールドネット メール事業 エクスプレス事業 ロジスティクス事業 金融サービス事業 DHL グローバル・フォワーディング DHL エクセル・サプライチェーン DHL フレイト 3PL 市場のシェア(2005 年) 図6 ドイツポストにおける各事業部門の位置付け
「DHLエクスプレスを含むドイツポストが、 企業買収によって業容拡大を目指した時期は二〇〇 五年までで一段落した。
現在はオーガニック・グロー ス(自力成長)と買収した企業群の業務統合による シナジー効果を生み出すことに注力している」。
ドイツポストは一九九五年の民営化以来、買収に 次ぐ買収を重ね、それまでの郵便事業体から、エク スプレス部門のDHLエクスプレスと3PL部門のD HLロジスティクスを軸とした世界最大の総合物流企 業へと変身することを目指してきた。
同社が企業買収に投じた資金は二〇〇〇年の株 式公開以降だけを数えても、総額で一一〇億ユーロ (一兆八一五〇億円、一ユーロ=一六五円換算、以 下同)を超える。
しかしそれも〇五年末に、当時世 界最大の3PL企業であった英エクセルを買収した ことで一区切りがついた。
総合物流企業としてのメ ニューが揃ったというわけだ。
(図1・2)。
DHLエクスプレスの〇六年の業績は、売上高一七 一億九五〇〇万ユーロ(二兆八三七一億七五〇〇万 円)で、EBIT(利払い前の税引前当期利益)は 三億二五〇〇万ユーロ(五三六億二五〇〇万円)。
従 業員数は一二万四〇〇〇人を超え、貨物機四二〇機 と車両七万二〇〇〇台を有している(いずれも〇六 年末の数字)。
市場ごとにDHLエクスプレスの立ち位置を見る と、欧州市場とアジア市場では業界第一位を占めて いるが、フェデックスとUPSが本拠とする米国市場 の売上規模は、第三位にとどまっている(図3)。
ミューレンCEOは「われわれがヨーロッパとアジ アの市場でトップを取れたのは、優れたインフラとサ ービスレベル、マネジメント力の三つの要素があった からだと信じている。
米国ではフェデックスとUPS の後塵を拝する形で三位に甘んじており、今後もし ばらくはこの状態が続くだろうが、米国内でもイン フラとサービスレベルの向上を図っている」という。
ドイツポストの一連の買収戦略は郵便事業民営化 の成功例として知られる。
事実、DHLエクスプレス はドイツポストの傘下に入って以降、飛躍的に事業規 模を拡大し、圧倒的なマーケットシェアを握るに至っ た。
しかし利益という面では、今のところ十分な成 績を挙げられずにいる。
DHLエクスプレスの過去八年の営業利益率を見 ると、赤字が二回あり、利益率は最高でも二・〇% どまりだ。
ライバルのフェデックスやUPS、TNT に比べると、明らかに低い数字だ。
欧州の業界内で は、DHLエクスプレスの低い利益率が、親会社であ るドイツポストの株価の足を引っ張っているという見 方が根強い。
その収益性をTNTのエクスプレス部門と比べてみ ると、〇六年のTNTのエクスプレス部門の営業利 益率は九・六%で、売上高六〇億一一〇〇万ユーロ (九九一八億一五〇〇万円)に対して、五億八〇〇 〇万ユーロ(九五七億円)の営業利益を上げている。
一方、DHLエクスプレスはTNTの約三倍の売上高 を上げながらも、営業利益ではその半分強しかない。
これについてミューレンCEOは「〇六年で業務 改善の取り組みにもメドがついた。
これに伴い今後 は利益率も改善していく。
今年は、ドイツ東部のラ イプチヒのハブの移転に伴う費用として約一億ユーロ (一六五億円)がかかるが、それを除けば全体では五 ドイツポスト傘下のDHLエクスプレスは、相次ぐ企業買収によ って、欧州とアジアのエクスプレス市場でナンバーワンのポジショ ンを手に入れた。
しかし米国市場では2003年に買収したエアボー ン・エクスプレスの業務統合で大きく躓く。
その軌道修正は今よ うやく完了し、米国市場の黒字化にもメドが立った。
UPS、フェ デックスを追撃する体制を整えている。
DHLエクスプレス ジョン・ミューレン CEO 第4部 25 DECEMBER 2007 特集 億ユーロ(八二五億円)ほどの営業利益を見込んで いる。
前年比で五〇%以上の増加となる予定だ」と 説明する。
米国では買収後の統合で苦闘 DHLエクスプレスにとって、その命運を左右する 大きな出来事となったのは、〇三年に完了した米国 第三位のエクスプレス企業エアボーン・エクスプレス の買収だった。
同社は当時、二万七〇〇〇人の従業 員を擁し、買収直前の〇二年には三三億ドルを売り 上げていた。
その買収金額は一〇億五〇〇〇万ドル に上った。
DHLエクスプレスはエアボーンを買収す ることで、エクスプレスの最大市場である米国でフェ デックスとUPSに真っ向から勝負を挑む道を選んだ。
しかし、もともとエアボーンが低収益構造にあった ことに加え、業務統合がうまくいかなかったことが 重なり、米国市場では赤字が続いた。
米国での営業 損失(EBITAベース)は、〇三年が約三億ユー ロ、〇四年が約五億ユーロ、〇五年も三億ユーロに 上った。
ミューレンCEOは〇五年六月、証券アナリスト向 けの説明会で、米国での赤字についてこう説明して いる。
「DHLと旧エアボーンの間で、スキャンニン グや配送のルート設定、請求書の発行手順、ハブ拠点 などの不統一が起こったため、業務が非効率となり、 サービスレベルが一定とならず、ミスにつながってい る。
また付加価値の高い商品の商品力が弱く、需要 が低価格の商品に流れていく。
その結果、顧客満足 度が下がり、売上げ、利益ともに苦戦を強いられて いる」 一九四〇年代に航空フォワーダーとして出発したエ アボーンのエクスプレス市場への参入は七〇年代後半 図1 ドイツポストの買収金額 2000─2004 平均 2005 2006 2007 予想 (年) 1,100 5,675 443 約500 エクセル買収の54 億 ユーロを含む 単位:100 万ユーロ 世界一のロジ企業を 目指して 2005 年末から自力成 長と業務統合に集中 1999 年 ダンザス スイス 1999 年 ファン・ヘント&ロース オランダ 2000 年 デュクロス・サービシーズ・ラピッド フランス 2000 年 AEI アメリカ 2002 年 DHL アメリカ 2003 年 セキュリオラ・オメガ イギリス 2003 年 エアボーン・エクスプレス アメリカ 2004 年 ナロンド・デサロラ スペイン 2005 年 ブルー・ダート・エクスプレス インド 2006 年 PPL チェコ 1969 年 サンフランシスコで創業 1972 年 日本を含むアジアでサービス開始 1977 年 フランクフルトに事務所開設 1985 年 ブリュッセルにハブ拠点稼働 1998 年 ドイツポストが株式取得 1999 年 大型投資でネットワークと貨物機増強 2002 年 ドイツポストが株式100%を取得して傘下に収める 図2 DHLエクスプレスの主な企業買収 (注)フォワーダーであるダンザスとAEIは2005 年のエクセルの買収とともに、 同社のロジスティクス部門に移行。
■DHLの略史 図3 DHL エクスプレス 地域別のマーケットシェア、米国では第3位にとどまる DHL 30.0% TNT 15.1% TNT 7% UPS 10% UPS 19.4% FedEx 7.9% FedEx 22% フランス郵便局 4.5% ロイヤル・メール 2.2% その他 20.9% 市場規模 76 億ユーロ 欧州市場(2005 年) 市場規模 40 億ユーロ アジア市場(2005 年) 市場規模 44 億ユーロ 米国市場(2005年) DHL 13% UPS 18% その他 33% アメリカ郵便局公社 4% DHL 33% その他 28% FedEx 32% 出典:ドイツポスト 年次報告書2006 年 DECEMBER 2007 26 のことで、先行組であるフェデックスやUPSからシ ェアを奪うには、運賃を値下げすることを強いられ てきた。
そのため、DHLが買収したときには、先 行する二社に比べて運賃単価が一五〜二〇%低かっ た。
加えて米国内のネットワークも不十分だった。
DHLエクスプレスは、「ローコストながら不十分 なネットワーク」というそれまでのエアボーンのビジ ネスモデルから、「高品質で密度の高いネットワーク」 へ変化していくことを余儀なくされた。
そして、エ アボーンの買収金額を上回る十二億ドルを投資してネ ットワークを整備し、さらにスキャナーや車両などを DHL仕様に変え、テレビや新聞、雑誌に数多くの イメージ広告を打った。
同時に、社内では一年半をかけて業務を立て直す 計画を進めていた。
「オンタイム配送率九八・五%以 上を目指す」というサービスレベルの向上を第一項目 として、全部で一〇項目の目標を立てた。
その中に は、「カスタマーサービスの充実」、「拠点の統廃合に よる効率化」、「陸上輸送網の充実による収益力のア ップ」などが含まれる。
その成果が昨年に入ってようやく現れた。
米国で の業務統合と業務改善に目鼻がつき、収支が黒字に 転じたのだ。
買収から四年を経て、やっと米国市場 でフェデックスとUPSを追撃できる姿勢が整った。
ミューレンCEOは次のように語る。
「米国では〇三年から〇五年まで厳しい経営を迫ら れた。
〇五年に苦戦を強いられたのは、主に新しい ハブ拠点であるオハイオ州ウルミントンへの移転が理 由だった。
それが昨年に入ってから、ようやくネッ トワークが充実してきて、サービスレベルも安定して きた。
例えば午前一〇時半までに配達する“プレミ アム・エクスプレス”と呼ばれる分野では、外部の調 査会社にベンチマーキングを依頼したところ、サービ スレベルでUPSとほぼ並び、フェデックスをわずか だが上回るという結果が出た。
今年も米国における 業務改善は続いており、〇九年には累積赤字を一掃 できる見込みだ」。
「エアボーンの轍を踏むな」 この“エアボーンの失敗”はDHLだけでなく、業 界全体に大きな衝撃を与えた。
それ以降、欧州の ロジスティクス企業が大型買収に踏み切るときには、 「エアボーンの二の舞になる可能性はないか」と一度 は躊躇するようになったといわれる。
エアボーンの 買収は、ドイツポストの買収のうち、最大の失敗だ ったという声もある。
実際、買収後に一〇億ドル以 上の追加投資を迫られたことや、累積赤字を勘案す ると、高い買い物になったという点は否定できない。
しかし、ドイツポストが米国内市場に本格参入する には、エアボーンの買収以外に選択肢がなかったこと もまた事実だ。
買収直前の〇二年の米国内のエクス プレス市場は、フェデックス、UPS、エアボーンの 上位三社で九〇%を占める寡占市場だった(図5)。
フ ェ デ ッ ク ス 41.4% UPS 33.7% エアボーン・エクスプレス 18.6% アメリカ郵便公社 Express Mail 3.6% DHL 0.9% その他 0.8% 合計 100% 企業名 シェア 図5 注:2002 年第4四半期の取扱個数からシェアを算出。
原典:Air Cargo Management Group 出典:LOGISTICS TODAY 2003 年12月号 エアボーン買収前、米国のエクスプレス 市場は上位3社による寡占市場だった 図4 エクスプレス部門の利益の推移 -50 0 50 100 150 200 -10000 -5000 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 99年 0.6% 0.5% 2.0% 1.0% 0.7% 1.9% ─% ─% 00年01年02年03年04年05年06年 (億ユーロ) (万ユーロ) 売上高 EBIT オハイオ州ウィルミントンのハブ拠点 27 DECEMBER 2007 特集 資金力のあるドイツポストにとっても、米国でゼロ からネットアークを築き上げるのは実質不可能だ。
既 存の上位三社のどれかを買収するしか参入の方法は なかった。
しかし、フェデックスかUPSを買収しよ うとすれば、相当の高値を覚悟する必要がある。
交 渉がまとまる可能性自体低い。
現実的な買い物はエ アボーンしかなかった。
目先の利益率だけを考えるのなら、オランダのT NTのように、米国市場には手を出さないという選 択肢もあった。
TNTのピーター・バン・ローベン戦 略担当部長は、本誌のインタビューに対してこう答え ている。
「北米ではフェデックスとUPSの二社がす でに密度の濃いネットワークを張り巡らしている。
そ こに我々が資金や人材を投じるのは得策ではないと 考えている」(本誌〇七年八月号) エアボーンを買収して米国市場に参入すれば苦戦を 強いられることは、DHLエクスプレスもわかってい たはずだった。
それでも欧州の小国であるオランダの 郵便局を母体とするTNTと違い、大国ドイツの郵 便局を基盤とするドイツポストは、多少無理をしてで も世界最大のエクスプレス市場である米国でシェアを とりにいくことで、長期的な視点から大きなリターン を得ることを期待した。
逆にいえば、DHLエクス プレスにとって、TNTのように短期的な利益率の 悪化を恐れて、米国市場に手を出さないという道は あり得なかった。
アジアでは二八〇〇億円を投資 DHLエクスプレスは、日本を含めたアジア市場に おいても積極的に投資を続けてきた。
〇〇年から〇 六年までの投資総額は一七億ユーロ(二八〇五億円) に上る。
「これまで多額の投資を行うことで、アジア市場で トップの地位を確立してきた。
高いサービスレベルが 要求されるアジアのマーケットでトップを維持するに は、次々に新しい技術革新が求められる。
その成果 は、欧州や米国にも還元されている。
アジアは営業 利益で年率二〇%の増加を続ける有望市場だ。
中で も、日本を始め、急成長を続ける中国やインド、そ れに韓国のマーケットを重要視している」とミューレ ンCEOはいう。
日本では〇六年四月、ヤマトホールディングスと の間に、ダイレクトマーケティング事業をおこなう合 弁会社、ヤマトダイアログ&メディアを設立している。
「ヤマト運輸とは、(UPSがヤマトとの合弁企業を買 い取った)〇四年から国際便の分野で業務を補完し 合っており、それが合弁企業につながった。
立ち上 げたばかりなので、まだ成長の割合は大きくないが、 既に日本国内の大企業数社を顧客につけており、将 来には非常に期待している」(ミューレンCEO)と いう。
親会社のドイツポストのクラウス・ツムヴィンケル CEOは今年二月に日本を訪問し、今後数年をかけ て日本に一一〇億円を投資し、日本でのポジションを 磐石にすると発表している。
「日本では九九年以来、エクスプレス事業に二〇億 円の投資を行ってきた。
今回新たに一〇〇億円を超 える投資を行うことによって、日本でのエクスプレス 業務の能力を高め、インフラを整備し、成長にさら なる拍車をかけたいと考えている。
投資金額は、大 阪のハブ拠点の拡充や名古屋のハブ拠点での新しい物 流機器の導入などに充てるつもりだ」とミューレンC EOは語った。
(本誌欧州特派員・横田増生) 11.6% DHL グローバル・ フォワーディング 5.8% DHL エクセル・ サプライチェーン 2.0% CEVA (旧TNT ロジスティクス) 1.2% キューネ+ナーゲル (ACR ロジスティク買収を含む) 1.3% UPS サプライチェーン 88.4% その他 6.8% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.3% シェンカー (BAX グローバルを含む) 4.0% パナルピナ 1.3% ウィンカントン5.2% 日本通運 3.5% キューネ+ナーゲル 8.3% キューネ+ナーゲル 3.1% エクスペディターズ 2.9% 近鉄エクスプレス 66.9% その他74.8% その他 1790 億ユーロ (28 兆9980 億円) 198 億ユーロ (3 兆2076 億円) 2090 万TEU 換算 航空フォワーディング市場のシェア(2005 年) 海上フォワーディング市場のシェア(2005 年) 8.6% DHL グローバル・ フォワーディング 出典:ドイツポスト2006 年年次報告書 注1)各DHL の数字には旧エクセルを含む 注2)各DHL の数字はプロフォーマ(pro forma)ベース 注3)フォワーディング市場のシェアはIATA からとっており必ずしも各社の売上高とは一致しない ドイツポスト・ワールドネット メール事業 エクスプレス事業 ロジスティクス事業 金融サービス事業 DHL グローバル・フォワーディング DHL エクセル・サプライチェーン DHL フレイト 3PL 市場のシェア(2005 年) 図6 ドイツポストにおける各事業部門の位置付け
