2007年12月号
特集
特集
日本郵便の行方 コスト削減1000億円の現場
DECEMBER 2007 28
コスト削減1000億円の現場
JPSには失望した
「JPS(ジャパン・ポスト・システム)にはがっ
かりしました。
そもそも自動車の生産ラインの仕組 みを、そのまま郵便の現場に取り入れること自体に 無理がある。
“改善ごっこ”はもう終わりにしてほし い」。
埼玉県の越谷郵便局に勤めるAさん(仮名)は JPSに対する失望の色を隠そうとしない。
二〇〇三年、郵政公社(現・日本郵政)は中期経 営計画「アクションプラン・フェーズ1」の一環とし て、JPSを導入した。
トヨタ生産方式を郵便事業 へ応用展開することで、郵便物の引き受け、仕分け、 配達といった一連の作業工程を見直し、「ムダ・ム ラ・ムリ」を徹底的に排除。
生産性を向上すること で、コスト削減につなげる狙いだ。
郵便物通数は〇一年の二六七億通をピークに年々減 少しており、〇六年には二四七億通と、五年間で二 〇億通も減少した。
一九九九年には二兆二四三八億 円をマークした売上高も年々減少を続け、〇四年には 一兆九七二二億円に。
ついに二兆円を割り込んでし まい、収益性の悪化に歯止めがかからない。
労働集 約型産業なので人件費比率は約七〇%(図1)と極 めて高い。
人件費削減は必須課題だった。
〇三年一月、JPSの発足式が行われた。
JPS 導入のモデル局には越谷郵便局が選ばれた。
その理 由は、?東京から二〇キロ圏内で、郵政公社本社の 所在する霞ヶ関から近いこと、?ハブ機能を有してい る地域区分局であること、?適度な規模(職員約三 五〇人、ゆうメイト約三五〇人)であることだった。
JPS発足後、越谷郵便局にはトヨタから七人の 改善マン、通称「七人の侍」が視察に訪れた。
改善 の理念である「現地現物主義」の下、スタッフ個々 のスキル、郵便物の区分機の処理能力といった、作 業スピードをストップウォッチで計測。
また、ビデオ カメラで集配トラック到着後から、配達までの一連の オペレーションを撮影するなど、徹底した現場研究を 進めた。
こうして改善マンが指摘した問題点の数は、 実に約三七〇にもおよんだ。
同年六月、幹線輸送の積み降ろしなど、内務作業 を行う郵便課で本格的にJPSの導入を開始した。
ト ラックによって郵便物の積載時間がバラバラで、その ロケーションも決まっていない。
トラックの発着時間 が計画と実行で大きなズレがあり、しかもそのズレが 一日あたりどのくらいあるかを把握していないなど、 荒れていた荷受け業務を是正していった。
同年八月には、郵便物の配達を行う集配課でもJ PSが本格的に導入された。
同課には配達前に「道 順組み立て」という、郵便物を配達順に並べ替える 作業がある。
専用のイスに腰掛け、郵便物を区分棚 に並べていく。
この作業からイスを廃止、常に立っ た状態で行う「スタンディングワーク」に移行した。
作業の進捗状況は、ホワイトボードで「見える化」 した。
一人ひとりにマグネットを割り当て、作業が一 セット終わるごとにマグネットを進める。
遅れている 作業をボードで確認して、即座に応援態勢を整える。
また、配達時の個々のノルマを「原単位」という一 五分ごとの作業量で定めた。
郵便物の間に「原単位 カード」を挟み込むことで、配送の進捗を確認。
作 業を「原単位化」することによって、全体の作業量、 所要時間を明確に把握できるようになり、作業処理 の標準化が可能になる。
JPSの導入当初、集配課の職員は皆、改善活動 を歓迎していたという。
実際、現場には問題が山積 していた。
例えば、業務の繁閑に応じた、柔軟な要 郵便事業の人件費比率は70%以上に達している。
民 間の物流企業と比較して20ポイント近く高い。
それだ け改善の余地が大きいともいえる。
生産性の向上によ って1000億円の利益を捻出することを狙っている。
し かし、その道のりは険しい。
(大矢昌浩、柴山高宏) 第5部 29 DECEMBER 2007 特集 員配置ができていなかった。
郵便物はよほどのこと がない限り、物量の集中する曜日が決まっている。
月 曜日は一番多い。
土・日二日分の荷物が集まるから だ。
火・水は比較的物量が少なく、木・金と週末に 近づくにつれ、企業発の郵便物が増えていく。
トヨタの改善マンは早速このムダに注目した。
「業 務の繁閑に応じた要員配置を行う必要性は、以前か ら感じていました。
しかもトヨタの改善マンはただ批 判するだけでなく、要員配置の適正化を約束してく れた。
現場では拍手が起こるほどでした」とAさん。
旧態依然としたお役所仕事に嫌気がさしていた職員 からは、JPSの現場に即した合理化に期待する声 が沸き上がっていたという。
同年一〇月、新仙台、神戸中央、松山西などの一 四局にJPSを導入。
地域モデル局に設定し、本格 的な横展開を開始した。
〇四年には、導入局を一〇 九三局に大幅拡大した。
そして同年末、「JPS年 賀」が導入された。
規模の大小を問わず、年賀状の 繁忙期は全局でJPSを採用することとなった。
〇五年、中期経営計画「アクションプラン・フェー ズ2」が始動した。
「フェーズ1」で行ってきたJP Sをさらに高度化し、導入した全局で生産性を一五% 以上向上させることが目標だった。
また、導入局一 〇九三局からコア局として一一二局を選定し、四カ 月程度の集中改善を行った。
〇六年には、JPSから派生するかたちで、新し い集配システム「2ネット方式」が採用された。
書留 や小包など対面業務が必要な配達を職員が、通常郵 便や冊子小包などポスト投函だけで済む配達を、パー トタイマーである「ゆうメイト」が担う。
これによっ て配達に従事する職員の数を従来の四割程度に削減 し、「ゆうメイト」に転力化する(図2)。
さらなる 人件費の削減を狙った。
JPSの導入効果は初年度からいきなり現れた。
越 谷郵便局では二一%、その後導入された一四社にお いても十二%の生産性向上を達成した。
職員数は〇 三年の約十二万人から、今年の約九万九〇〇〇人へ、 四年間で約二万人もの削減に成功した。
生産性が向上したことで発生した余剰人員は、J PS推進を専門に担う「改善専担者」として育成し た。
その数は、〇四年の九一八人から〇六年には一 八五一人と、二年間で倍増している。
彼らが各支店 のリーダーとして、JPSの普及に努めている。
その 効果もあってか、職員のJPSへの理解度は日増し に高まっていった。
活動を開始した〇三年にJPS の理念や活動を理解していた人はわずか三〇・七% だったが、今年一月時点ではそれが九六・二%まで 拡大した。
ゆうメイトが集まらない このように、鳴り物入りで導入されたJPSは、郵 便の現場に着実に浸透していった。
しかし、その一 方で発表されたJPSの改善効果とはかけ離れた現 場の実態が存在することも事実だ。
職員数を大幅に減らしたことで、一人当たりの配 達受け持ちエリアは大幅に拡大した。
さらに「原単 位」の作業ノルマが、集配課の職員にプレッシャーを かける。
「越谷では配達の遅れを取り戻すためのムリ な回復運転による交通事故が増え、事故件数が関東 圏内で三年連続ワーストワンという不名誉な記録を作 ってしまいました」とAさんは語る。
年賀状の誤配・遅配問題も深刻だ。
昨年新聞やテレ ビ報道でクローズアップされたこの問題について、J PSに対して批判的な立場をとる、郵政産業労働組 71.6% 49.9% 21.7% 44.3% 5.2% 1.5% 2.6% 5.8% 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 日本郵便ヤマトHD (%) 営業利益 販売費および 一般管理費 人件費以外の 営業経費 営業原価中の 人件費 (万人) 12 10 8 6 4 2 0 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 図2 職制別職員数の推移 短時間アルバイト 非常勤職員(ゆうメイト) 内務 外務 図1 日本郵便とヤマトHDのコスト構造の比較 ?清掃活動 毎日一定の時間、身の回りの清掃活動を行 う「クリーンタイム」、毎週曜日を決めて徹底的な清掃活 動を行う「ピカピカの日」を設けている。
作業の安全性 の向上や事故防止、品質の向上に努めている。
?床面表示でロケーション確保 紙テープによる床面表 示で、空きパレットの保管スペースを確保。
また、吊り カンバンで、作業場所を明確にしている。
誤積載を防止 するためだ。
これらは随時見直されるという。
「4S(整理・整頓・清掃・清潔)」を徹底した 越谷郵便局の現場 DECEMBER 2007 30 合(以下、郵産労)の砂山洋一中央執行副委員長は、 「最大の原因は絶対的な人不足です。
昨年はゆうメイ トの数が目標の六割程度しか集まらなかった。
郵便 物の区分機の増配備なども行っているが、急激に物 量の増える年賀時期は、どうしても人海戦術に頼ら ざるを得ない」と指摘する。
JPSに対して中立的な立場をとる日本郵政グルー プ労働組合(以下、JP労組)も、ほぼ同じ意見だ。
JP労組の窪田義明中央執行委員は「『2ネット方式』 によって、配達業務におけるゆうメイトを高めた結果、 品質の低下を招いてしまったことは否めない。
このこ とも年賀状問題に影響を与えている」と分析する。
さらに郵産労の砂山副委員長は、「今年の年賀状も 誤配・遅配が危惧されます。
去年以上にゆうメイト の集まりが悪い。
年賀時期は例年多数の高校生アル バイトを採用している。
アルバイトを原則禁止する高 校は多いが、公共性のある仕事ということで、年賀 状の配達だけは特別に許可してくれていた。
それが 国営企業から民間企業に変わったことで、いち企業 への便宜供与になってしまうからと、多くの高校で 禁止になってしまった。
今年は四年振りに年賀状の 発行枚数を、約四〇億枚に増やします。
今年の年賀 も前途は多難です」という。
現場主導の自律した改善へ 相次ぐ現場からのJPSに対する反発の声を耳に して、JP労組の窪田中央執行役員は、「JPSの 理念は素晴らしいし、賛同しているが、横展開の方 法で誤ってしまった」と考えている。
本来のトヨタ生 産方式を支える現地現物主義は、現場の意見を吸い 上げ、システムを構築していく。
しかしJPSでは 現場の声は完全に遮断され、押しつけにも近いかた ──「郵政事業の関連法人の整理・見直しに関す る委員会」、いわゆる“松原委員会”を設立した背 景を説明してください。
「今年四月に日本郵政公社の総裁に就任した西川 善文(現・日本郵政社長)さんから依頼を受けま した。
一〇月の民営化までの半年の間に、郵政を筋 肉質の会社にしてほしいという依頼です。
そのため には、郵政と緊密な関係にある関連企業との取引を 整理する必要があった。
しかし、公社自身にそれを やらせるのは難しい、というのが西川さんの本音だ ったと思います。
いわゆる“ファミリー企業”には 郵政からの天下りがたくさんいっている。
郵政の人 間にとっては、かつて机を並べた先輩たちです。
場 合によっては自分たちもこれからお世話になるかも 知れないとなれば、とても改革などできない。
そこ は外部の有識者に頼みたい、という趣旨でした」 ──本誌はファミリー企業のなかでも協力運送会社 との取引に注目しています。
これに関して委員会の 活動を通してみえてきたことは。
「我々が最初に取り組んだのが、いわゆる“ゼロ 連結”の問題でした。
郵便の幹線輸送や域内輸送 を担い、本来であれば子会社でなければならないの に、公社が出資を認められていなかったために、公 社の出資がゼロの状態に置かれていた企業です。
つ まり事実上は子会社であるのに子会社ではない。
そ うした運送会社をどう整理するかという問題が委員 会にとっての最初の仕事でした」 ──整理というのはゼロ連結を、子会社化するのか どうかを決めるということですね。
「そうです。
出資もしてないのに、非常に緊密な 関係にある。
なかには公社に一〇〇%売り上げを依 存している関連会社もありました。
上場する時には 当然、連結の対象になる。
そのためには出資して子 会社化しなければならない。
しかし関連会社の全て を子会社化する必要はない。
それを見極めるという 仕事です」 ──具体的には日本郵便逓送(日逓)をはじめと した各地の郵便逓送ですね。
「会計監査で“ゼロ連結”に指定された運送会社 が全国に三二社ありました。
しかも、それぞれ経営 はバラバラでした。
公社が運送を自分でやらず委託 すること自体はおかしくはないにしても、子会社で もない各地の関連会社にバラバラにやらせている状 態で、果たして全体の指揮命令系統や企業戦略が 立つのかという疑問を率直に感じました。
それはや はり一社にすべきだろうと委員会で議論しました」 ──各地の郵便逓送の株式は具体的には誰が持って いるのですか。
「そこも不透明でした。
蓋を開けてみれば、多く 「日逓グループの半分を切り離す」 松原聡 東洋大学教授 日本郵便社外取締役 「郵政事業の関連法人の整理・見直しに関する委員会」委員長 Interview 31 DECEMBER 2007 特集 ちで普及が進められてしまった。
一方、同氏は「現場管理者にも問題があったと思 う。
優れた管理者は現有戦力の中で、コスト削減と、 生産性、品質の両立という二律背反する目的と日々 闘っている。
しかし、当社の現場管理者は残念なが らそのレベルに達していなかった」と、管理者自身 のスキル不足もあったと認めている。
〇六年度、JPSは約八七億円の人件費削減を実 現したという。
この年の日本郵便の人件費一兆三七 三〇億円と比べると、その効果はあまりに小さい。
こ れまでのJPSは華々しく発表される生産性向上の 成果とは裏腹に、実際の業績指標にはコスト削減効 果が明確には現れていなかった。
JPSによって浮いたマンパワーで人員を削減する のではなく、別の業務に配置転換してしまうため人 件費が減らない。
一方で新たな配属先となった業務 が、人を増やしたことでどれだけ業績に貢献してい るのかも分からない。
その結果、郵便事業トータル の生産性の改善が、思い通りに進まないという悪循 環に陥っている。
〇三年に結んだトヨタとのコンサル契約は今年で最 終年を迎える。
コンサル部隊としては今期こそ何とし ても業績指標に現れる結果を残したいところだ。
し かし、今期からJPSは現場ごとに改善の数値目標 を設定するやり方は止めにしている。
日本郵便JPS推進本部JPS推進部の菊池三 雄部長は、「JPS導入当初は、数値目標が先行し てしまい、現場にどうしてもやらされ感が生じてし まった。
反省点です。
これからJPSは第二ステー ジに移ります。
今後はトップダウンによる押しつけで はなく、現場主導の自律した改善を行っていきます」 という。
まったなしの現場改革が続いている。
はゼロ連結同士の持ち合いでした。
その持ち合いの 中心にいるのが日逓です。
日逓が各地の郵便逓送の 株式を持っていて、その日逓の株を他の関連会社が 持っている。
なかには地元の資本や個人の資本が入 っているケースもありました」 ──それぞれの関連会社を子会社化するかどうかは どう判断したのですか。
「二重のスクリーニングをかけました。
一つはその 会社の担っている輸送業務が郵便事業にとってコア か、コアではないか。
もう一つは経営状況です。
い くらコアだといっても、経営状況に問題があるとこ ろは子会社化すべきではない。
その二つの切り口か ら三二社を子会社化する会社としない会社に分けま した」 「このうち子会社しないと判断された関連会社は、 取引が完全入札になり、シビアな市場競争を迫られ ることになります。
郵政との人的関係を整理して、 また日本郵便向けの取引比率を五割以下に下げなく てはならない。
一方で子会社化される関連会社の株 は日本郵便が買い集めなくてはならない。
その結果、 子会社化された側では経営権を親会社に握られるこ とになる。
転勤だって出てくるかも知れない。
どっ ちも大変です」 ──幹線輸送とは別に集配を委託している関連会社 も七一社があがっています。
「取集・配達の七一社については子会社化しない ことを決めました。
ただし、七一社との取引を完全 入札にするかについては、郵政が日本通運との合弁 で発足させる宅配便新会社の在り方とともに判断を 委ねるという結論になりました」 郵政の“ファミリー物流企業”にメスを入れる ジャンル種別法人等名 小 計 平成17 年度公社取引額(単位:千円) 地域内・地域間輸送計 32 社地域内・地域間輸送計 11 社 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 北海道高速郵便輸送 日本高速物流 東京高速郵便輸送 東海高速郵便輸送 北陸高速道郵便輸送 東京郵便輸送 中国高速郵便輸送 四国高速道郵便輸送 九州高速郵便輸送 大阪郵便輸送 千葉郵便輸送 日本郵便逓送 神奈川郵便輸送 関東郵便輸送 東北高速道郵便輸送 旭川郵便輸送 近畿高速郵便輸送 日本エアメール 長野郵便輸送 中越郵便輸送 大阪エアメール 岡山郵便輸送 小田運輸 因島郵便輸送 山梨郵便輸送 東京ポスタル 常磐郵便輸送 名古屋郵便輸送 日大運送 北海道エアメール 宮城ポスタルサービス 北海道郵便逓送 只見郵便運送 秋田逓送 越南郵便輸送 山口郵便逓送 関汽運輸 八鹿逓送 秋山逓送 井笠郵便輸送 三次郵便逓送 江能郵便逓送 成邦 1,002,741 2,472,651 1,450,164 1,697,705 955,732 486,640 1,353,134 493,820 1,528,270 795,435 716,625 47,616,305 732,885 4,195,956 2,889,634 508,215 1,852,014 0 305,576 215,296 576,580 95,278 0 26,491 209,934 374,940 286,867 524,713 481,706 23,950 259,677 3,688,437 159,850 87,667 43,056 182,266 509,886 70,793 101,464 48,746 49,761 42,432 1,108,767 80,222,059 約半数を子会社化して一社に集約、それ以外は一般取引化すべて子会社化せず一般取引化
そもそも自動車の生産ラインの仕組 みを、そのまま郵便の現場に取り入れること自体に 無理がある。
“改善ごっこ”はもう終わりにしてほし い」。
埼玉県の越谷郵便局に勤めるAさん(仮名)は JPSに対する失望の色を隠そうとしない。
二〇〇三年、郵政公社(現・日本郵政)は中期経 営計画「アクションプラン・フェーズ1」の一環とし て、JPSを導入した。
トヨタ生産方式を郵便事業 へ応用展開することで、郵便物の引き受け、仕分け、 配達といった一連の作業工程を見直し、「ムダ・ム ラ・ムリ」を徹底的に排除。
生産性を向上すること で、コスト削減につなげる狙いだ。
郵便物通数は〇一年の二六七億通をピークに年々減 少しており、〇六年には二四七億通と、五年間で二 〇億通も減少した。
一九九九年には二兆二四三八億 円をマークした売上高も年々減少を続け、〇四年には 一兆九七二二億円に。
ついに二兆円を割り込んでし まい、収益性の悪化に歯止めがかからない。
労働集 約型産業なので人件費比率は約七〇%(図1)と極 めて高い。
人件費削減は必須課題だった。
〇三年一月、JPSの発足式が行われた。
JPS 導入のモデル局には越谷郵便局が選ばれた。
その理 由は、?東京から二〇キロ圏内で、郵政公社本社の 所在する霞ヶ関から近いこと、?ハブ機能を有してい る地域区分局であること、?適度な規模(職員約三 五〇人、ゆうメイト約三五〇人)であることだった。
JPS発足後、越谷郵便局にはトヨタから七人の 改善マン、通称「七人の侍」が視察に訪れた。
改善 の理念である「現地現物主義」の下、スタッフ個々 のスキル、郵便物の区分機の処理能力といった、作 業スピードをストップウォッチで計測。
また、ビデオ カメラで集配トラック到着後から、配達までの一連の オペレーションを撮影するなど、徹底した現場研究を 進めた。
こうして改善マンが指摘した問題点の数は、 実に約三七〇にもおよんだ。
同年六月、幹線輸送の積み降ろしなど、内務作業 を行う郵便課で本格的にJPSの導入を開始した。
ト ラックによって郵便物の積載時間がバラバラで、その ロケーションも決まっていない。
トラックの発着時間 が計画と実行で大きなズレがあり、しかもそのズレが 一日あたりどのくらいあるかを把握していないなど、 荒れていた荷受け業務を是正していった。
同年八月には、郵便物の配達を行う集配課でもJ PSが本格的に導入された。
同課には配達前に「道 順組み立て」という、郵便物を配達順に並べ替える 作業がある。
専用のイスに腰掛け、郵便物を区分棚 に並べていく。
この作業からイスを廃止、常に立っ た状態で行う「スタンディングワーク」に移行した。
作業の進捗状況は、ホワイトボードで「見える化」 した。
一人ひとりにマグネットを割り当て、作業が一 セット終わるごとにマグネットを進める。
遅れている 作業をボードで確認して、即座に応援態勢を整える。
また、配達時の個々のノルマを「原単位」という一 五分ごとの作業量で定めた。
郵便物の間に「原単位 カード」を挟み込むことで、配送の進捗を確認。
作 業を「原単位化」することによって、全体の作業量、 所要時間を明確に把握できるようになり、作業処理 の標準化が可能になる。
JPSの導入当初、集配課の職員は皆、改善活動 を歓迎していたという。
実際、現場には問題が山積 していた。
例えば、業務の繁閑に応じた、柔軟な要 郵便事業の人件費比率は70%以上に達している。
民 間の物流企業と比較して20ポイント近く高い。
それだ け改善の余地が大きいともいえる。
生産性の向上によ って1000億円の利益を捻出することを狙っている。
し かし、その道のりは険しい。
(大矢昌浩、柴山高宏) 第5部 29 DECEMBER 2007 特集 員配置ができていなかった。
郵便物はよほどのこと がない限り、物量の集中する曜日が決まっている。
月 曜日は一番多い。
土・日二日分の荷物が集まるから だ。
火・水は比較的物量が少なく、木・金と週末に 近づくにつれ、企業発の郵便物が増えていく。
トヨタの改善マンは早速このムダに注目した。
「業 務の繁閑に応じた要員配置を行う必要性は、以前か ら感じていました。
しかもトヨタの改善マンはただ批 判するだけでなく、要員配置の適正化を約束してく れた。
現場では拍手が起こるほどでした」とAさん。
旧態依然としたお役所仕事に嫌気がさしていた職員 からは、JPSの現場に即した合理化に期待する声 が沸き上がっていたという。
同年一〇月、新仙台、神戸中央、松山西などの一 四局にJPSを導入。
地域モデル局に設定し、本格 的な横展開を開始した。
〇四年には、導入局を一〇 九三局に大幅拡大した。
そして同年末、「JPS年 賀」が導入された。
規模の大小を問わず、年賀状の 繁忙期は全局でJPSを採用することとなった。
〇五年、中期経営計画「アクションプラン・フェー ズ2」が始動した。
「フェーズ1」で行ってきたJP Sをさらに高度化し、導入した全局で生産性を一五% 以上向上させることが目標だった。
また、導入局一 〇九三局からコア局として一一二局を選定し、四カ 月程度の集中改善を行った。
〇六年には、JPSから派生するかたちで、新し い集配システム「2ネット方式」が採用された。
書留 や小包など対面業務が必要な配達を職員が、通常郵 便や冊子小包などポスト投函だけで済む配達を、パー トタイマーである「ゆうメイト」が担う。
これによっ て配達に従事する職員の数を従来の四割程度に削減 し、「ゆうメイト」に転力化する(図2)。
さらなる 人件費の削減を狙った。
JPSの導入効果は初年度からいきなり現れた。
越 谷郵便局では二一%、その後導入された一四社にお いても十二%の生産性向上を達成した。
職員数は〇 三年の約十二万人から、今年の約九万九〇〇〇人へ、 四年間で約二万人もの削減に成功した。
生産性が向上したことで発生した余剰人員は、J PS推進を専門に担う「改善専担者」として育成し た。
その数は、〇四年の九一八人から〇六年には一 八五一人と、二年間で倍増している。
彼らが各支店 のリーダーとして、JPSの普及に努めている。
その 効果もあってか、職員のJPSへの理解度は日増し に高まっていった。
活動を開始した〇三年にJPS の理念や活動を理解していた人はわずか三〇・七% だったが、今年一月時点ではそれが九六・二%まで 拡大した。
ゆうメイトが集まらない このように、鳴り物入りで導入されたJPSは、郵 便の現場に着実に浸透していった。
しかし、その一 方で発表されたJPSの改善効果とはかけ離れた現 場の実態が存在することも事実だ。
職員数を大幅に減らしたことで、一人当たりの配 達受け持ちエリアは大幅に拡大した。
さらに「原単 位」の作業ノルマが、集配課の職員にプレッシャーを かける。
「越谷では配達の遅れを取り戻すためのムリ な回復運転による交通事故が増え、事故件数が関東 圏内で三年連続ワーストワンという不名誉な記録を作 ってしまいました」とAさんは語る。
年賀状の誤配・遅配問題も深刻だ。
昨年新聞やテレ ビ報道でクローズアップされたこの問題について、J PSに対して批判的な立場をとる、郵政産業労働組 71.6% 49.9% 21.7% 44.3% 5.2% 1.5% 2.6% 5.8% 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 日本郵便ヤマトHD (%) 営業利益 販売費および 一般管理費 人件費以外の 営業経費 営業原価中の 人件費 (万人) 12 10 8 6 4 2 0 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 図2 職制別職員数の推移 短時間アルバイト 非常勤職員(ゆうメイト) 内務 外務 図1 日本郵便とヤマトHDのコスト構造の比較 ?清掃活動 毎日一定の時間、身の回りの清掃活動を行 う「クリーンタイム」、毎週曜日を決めて徹底的な清掃活 動を行う「ピカピカの日」を設けている。
作業の安全性 の向上や事故防止、品質の向上に努めている。
?床面表示でロケーション確保 紙テープによる床面表 示で、空きパレットの保管スペースを確保。
また、吊り カンバンで、作業場所を明確にしている。
誤積載を防止 するためだ。
これらは随時見直されるという。
「4S(整理・整頓・清掃・清潔)」を徹底した 越谷郵便局の現場 DECEMBER 2007 30 合(以下、郵産労)の砂山洋一中央執行副委員長は、 「最大の原因は絶対的な人不足です。
昨年はゆうメイ トの数が目標の六割程度しか集まらなかった。
郵便 物の区分機の増配備なども行っているが、急激に物 量の増える年賀時期は、どうしても人海戦術に頼ら ざるを得ない」と指摘する。
JPSに対して中立的な立場をとる日本郵政グルー プ労働組合(以下、JP労組)も、ほぼ同じ意見だ。
JP労組の窪田義明中央執行委員は「『2ネット方式』 によって、配達業務におけるゆうメイトを高めた結果、 品質の低下を招いてしまったことは否めない。
このこ とも年賀状問題に影響を与えている」と分析する。
さらに郵産労の砂山副委員長は、「今年の年賀状も 誤配・遅配が危惧されます。
去年以上にゆうメイト の集まりが悪い。
年賀時期は例年多数の高校生アル バイトを採用している。
アルバイトを原則禁止する高 校は多いが、公共性のある仕事ということで、年賀 状の配達だけは特別に許可してくれていた。
それが 国営企業から民間企業に変わったことで、いち企業 への便宜供与になってしまうからと、多くの高校で 禁止になってしまった。
今年は四年振りに年賀状の 発行枚数を、約四〇億枚に増やします。
今年の年賀 も前途は多難です」という。
現場主導の自律した改善へ 相次ぐ現場からのJPSに対する反発の声を耳に して、JP労組の窪田中央執行役員は、「JPSの 理念は素晴らしいし、賛同しているが、横展開の方 法で誤ってしまった」と考えている。
本来のトヨタ生 産方式を支える現地現物主義は、現場の意見を吸い 上げ、システムを構築していく。
しかしJPSでは 現場の声は完全に遮断され、押しつけにも近いかた ──「郵政事業の関連法人の整理・見直しに関す る委員会」、いわゆる“松原委員会”を設立した背 景を説明してください。
「今年四月に日本郵政公社の総裁に就任した西川 善文(現・日本郵政社長)さんから依頼を受けま した。
一〇月の民営化までの半年の間に、郵政を筋 肉質の会社にしてほしいという依頼です。
そのため には、郵政と緊密な関係にある関連企業との取引を 整理する必要があった。
しかし、公社自身にそれを やらせるのは難しい、というのが西川さんの本音だ ったと思います。
いわゆる“ファミリー企業”には 郵政からの天下りがたくさんいっている。
郵政の人 間にとっては、かつて机を並べた先輩たちです。
場 合によっては自分たちもこれからお世話になるかも 知れないとなれば、とても改革などできない。
そこ は外部の有識者に頼みたい、という趣旨でした」 ──本誌はファミリー企業のなかでも協力運送会社 との取引に注目しています。
これに関して委員会の 活動を通してみえてきたことは。
「我々が最初に取り組んだのが、いわゆる“ゼロ 連結”の問題でした。
郵便の幹線輸送や域内輸送 を担い、本来であれば子会社でなければならないの に、公社が出資を認められていなかったために、公 社の出資がゼロの状態に置かれていた企業です。
つ まり事実上は子会社であるのに子会社ではない。
そ うした運送会社をどう整理するかという問題が委員 会にとっての最初の仕事でした」 ──整理というのはゼロ連結を、子会社化するのか どうかを決めるということですね。
「そうです。
出資もしてないのに、非常に緊密な 関係にある。
なかには公社に一〇〇%売り上げを依 存している関連会社もありました。
上場する時には 当然、連結の対象になる。
そのためには出資して子 会社化しなければならない。
しかし関連会社の全て を子会社化する必要はない。
それを見極めるという 仕事です」 ──具体的には日本郵便逓送(日逓)をはじめと した各地の郵便逓送ですね。
「会計監査で“ゼロ連結”に指定された運送会社 が全国に三二社ありました。
しかも、それぞれ経営 はバラバラでした。
公社が運送を自分でやらず委託 すること自体はおかしくはないにしても、子会社で もない各地の関連会社にバラバラにやらせている状 態で、果たして全体の指揮命令系統や企業戦略が 立つのかという疑問を率直に感じました。
それはや はり一社にすべきだろうと委員会で議論しました」 ──各地の郵便逓送の株式は具体的には誰が持って いるのですか。
「そこも不透明でした。
蓋を開けてみれば、多く 「日逓グループの半分を切り離す」 松原聡 東洋大学教授 日本郵便社外取締役 「郵政事業の関連法人の整理・見直しに関する委員会」委員長 Interview 31 DECEMBER 2007 特集 ちで普及が進められてしまった。
一方、同氏は「現場管理者にも問題があったと思 う。
優れた管理者は現有戦力の中で、コスト削減と、 生産性、品質の両立という二律背反する目的と日々 闘っている。
しかし、当社の現場管理者は残念なが らそのレベルに達していなかった」と、管理者自身 のスキル不足もあったと認めている。
〇六年度、JPSは約八七億円の人件費削減を実 現したという。
この年の日本郵便の人件費一兆三七 三〇億円と比べると、その効果はあまりに小さい。
こ れまでのJPSは華々しく発表される生産性向上の 成果とは裏腹に、実際の業績指標にはコスト削減効 果が明確には現れていなかった。
JPSによって浮いたマンパワーで人員を削減する のではなく、別の業務に配置転換してしまうため人 件費が減らない。
一方で新たな配属先となった業務 が、人を増やしたことでどれだけ業績に貢献してい るのかも分からない。
その結果、郵便事業トータル の生産性の改善が、思い通りに進まないという悪循 環に陥っている。
〇三年に結んだトヨタとのコンサル契約は今年で最 終年を迎える。
コンサル部隊としては今期こそ何とし ても業績指標に現れる結果を残したいところだ。
し かし、今期からJPSは現場ごとに改善の数値目標 を設定するやり方は止めにしている。
日本郵便JPS推進本部JPS推進部の菊池三 雄部長は、「JPS導入当初は、数値目標が先行し てしまい、現場にどうしてもやらされ感が生じてし まった。
反省点です。
これからJPSは第二ステー ジに移ります。
今後はトップダウンによる押しつけで はなく、現場主導の自律した改善を行っていきます」 という。
まったなしの現場改革が続いている。
はゼロ連結同士の持ち合いでした。
その持ち合いの 中心にいるのが日逓です。
日逓が各地の郵便逓送の 株式を持っていて、その日逓の株を他の関連会社が 持っている。
なかには地元の資本や個人の資本が入 っているケースもありました」 ──それぞれの関連会社を子会社化するかどうかは どう判断したのですか。
「二重のスクリーニングをかけました。
一つはその 会社の担っている輸送業務が郵便事業にとってコア か、コアではないか。
もう一つは経営状況です。
い くらコアだといっても、経営状況に問題があるとこ ろは子会社化すべきではない。
その二つの切り口か ら三二社を子会社化する会社としない会社に分けま した」 「このうち子会社しないと判断された関連会社は、 取引が完全入札になり、シビアな市場競争を迫られ ることになります。
郵政との人的関係を整理して、 また日本郵便向けの取引比率を五割以下に下げなく てはならない。
一方で子会社化される関連会社の株 は日本郵便が買い集めなくてはならない。
その結果、 子会社化された側では経営権を親会社に握られるこ とになる。
転勤だって出てくるかも知れない。
どっ ちも大変です」 ──幹線輸送とは別に集配を委託している関連会社 も七一社があがっています。
「取集・配達の七一社については子会社化しない ことを決めました。
ただし、七一社との取引を完全 入札にするかについては、郵政が日本通運との合弁 で発足させる宅配便新会社の在り方とともに判断を 委ねるという結論になりました」 郵政の“ファミリー物流企業”にメスを入れる ジャンル種別法人等名 小 計 平成17 年度公社取引額(単位:千円) 地域内・地域間輸送計 32 社地域内・地域間輸送計 11 社 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 ゼロ連結 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 緊密な者 北海道高速郵便輸送 日本高速物流 東京高速郵便輸送 東海高速郵便輸送 北陸高速道郵便輸送 東京郵便輸送 中国高速郵便輸送 四国高速道郵便輸送 九州高速郵便輸送 大阪郵便輸送 千葉郵便輸送 日本郵便逓送 神奈川郵便輸送 関東郵便輸送 東北高速道郵便輸送 旭川郵便輸送 近畿高速郵便輸送 日本エアメール 長野郵便輸送 中越郵便輸送 大阪エアメール 岡山郵便輸送 小田運輸 因島郵便輸送 山梨郵便輸送 東京ポスタル 常磐郵便輸送 名古屋郵便輸送 日大運送 北海道エアメール 宮城ポスタルサービス 北海道郵便逓送 只見郵便運送 秋田逓送 越南郵便輸送 山口郵便逓送 関汽運輸 八鹿逓送 秋山逓送 井笠郵便輸送 三次郵便逓送 江能郵便逓送 成邦 1,002,741 2,472,651 1,450,164 1,697,705 955,732 486,640 1,353,134 493,820 1,528,270 795,435 716,625 47,616,305 732,885 4,195,956 2,889,634 508,215 1,852,014 0 305,576 215,296 576,580 95,278 0 26,491 209,934 374,940 286,867 524,713 481,706 23,950 259,677 3,688,437 159,850 87,667 43,056 182,266 509,886 70,793 101,464 48,746 49,761 42,432 1,108,767 80,222,059 約半数を子会社化して一社に集約、それ以外は一般取引化すべて子会社化せず一般取引化
