2008年1月号
keyperson
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徐向東 中国市場戦略研究所 代表
JANUARY 2008 2
の、いわゆる“失われた一〇年”に
当たってしまい、海外に積極的に打
って出るという意志決定ができなか
った」
「その間に他の外資系が中国市場を
抑えてしまった。
自動車産業では、フ ォルクスワーゲンが現地で圧倒的なシ ェアを握った。
現在は日系メーカーも 盛り返してきたけれど、一時期フォル クスワーゲンの中国市場におけるシェ アは六割にも上っていました」 「エレクトロニクス業界でも、白物 家電は中国の現地企業の成長を許し てしまった。
また技術力の点から中 国系メーカーには手出しできなかった デジタル家電は、韓国企業が入ってき た。
サムスンとLGです。
これも本来 であれば日本が強い競争力を持ってい たはずの市場でした」 「携帯電話も同じです。
中国の携帯 電話の普及台数は今や五億数千万台 にも達しています。
日本市場の七倍 もの規模がある。
しかし、そこでシ ェアをとっているのはサムスンとフィ ンランドのノキア、つまり韓国系と欧 米系のメーカーです。
日系メーカーの 姿はどこにもない。
全て撤退してし まいました」 ──日本が強いはずの産業で、なぜ 負けたのでしょうか。
「例えば携帯電話やデジタル家電で 欧米韓に負けた理由 ──中国の国内市場で日系企業が苦 戦しています。
「日系企業には中国で商売するため のビジネスモデルがありません。
二〇 〇四年以降、中国の国内市場は外資 に大きく開放されました。
それに対 して、どのようなサプライチェーンを 作るのか。
その戦略がない。
日系企 業の現地の総経理(社長に相当)は 営業部長としての仕事をしているだ けで、ビジネスモデルについては考え がありません」 「そもそも日系企業は最近まで、市 場としての中国の魅力をきちっと評価 してきませんでした。
そこが欧米系 や韓国系との大きな違いです。
欧米 企業は中国から離れているため、単 に労働力が安いという理由だけでは中 国に投資してこなかった。
将来、中 国が市場として成長することを予測 して現地に進出しています。
中国で 開発して、中国で生産し、中国で売 るというモデルです」 「それに対して日系企業は中国と距 離的に近いこともあって、安い労働 力だけを求めて進出した。
日本の設 備をそのまま現地に持ち込んで、日 本と同じように生産するというモデル です。
あくまでも生産拠点としての 進出であって、中国を市場としては とらえてこなかった」 ──一般には、欧米企業に比べて日 本企業は長期的な視点で投資する傾 向が強いと言われていますが。
「少なくとも中国ビジネスに関して は逆ですね。
実際、欧米企業は進出 当初は赤字でも、五年後、一〇年後 に大きな黒字を出すというシミュレー ションに基づいて巨額の投資を行って きました。
その結果が現在の中国市 場における欧米企業のプレゼンスにつ ながっています。
化粧品市場であれ ばP&Gとロレアルの二社で今や六割 以上のシェアを握っている。
商圏も大 都市だけでなく二級、三級都市、農 村地域にまで拡げている。
商品自体 を比べれば欧米系より、同じ肌を持 つ日本の化粧品の方が中国人には合 っているかも知れない。
しかし市場 は欧米系が圧倒的に抑えてしまった」 ──中国が巨大市場になることは日 本企業も予想していたのでは。
「日本企業が中国に進出し始めたの は一九八〇年代ですから、欧米や韓 国の企業よりずっと早かった。
しかし、 中国が市場として台頭してきたのは 九二年の小平の“南巡講話”以降 です。
その時期の日本はバブル崩壊後 徐向東 中国市場戦略研究所 代表 中国の一般消費市場で成功している外資系と言えば欧米系か韓国 系。
日系企業は見る影もない。
生産拠点の中国進出では他の外資系 を先行したものの、国内販売では大きく出遅れてしまった。
キャッチアッ プするためには、中国市場のサプライチェーンをゼロから見直す必要 がある。
(聞き手・大矢昌浩) 「日系は中国市場の現場を知らない」 3 JANUARY 2008 いえば、中国市場ではそれほど高度 な機能は必要ないけれども、使いや すさが求められる。
携帯も専用のメ ールアドレスを作るようなことはしな い。
電話番号だけでショートメッセー ジをバンバン送る。
そうした使い方を 日系企業はうまく把握できなかった。
そのため製品の機能やデザインなど、 品質自体はライバルよりはるかに上で あるのに競争に負けてしまった」 ──なぜ日系企業のマーケティングは 機能しなかったのでしょう。
「人材ですね。
もの作りの人材に関 しては中国でも、きちんと育てたの だと思います。
しかし売るための人材 を日系企業は全く育てていない。
効 率的な生産はできても、マーケティン グや販売、ロジスティクスの現地化が 全くできていない。
有能な人材は皆、 欧米系や韓国系に流れています」 「中国で成功している外資系企業の アプローチは日本企業とは全く逆で す。
日系メーカーが生産から入ったの に対して、欧米系はマーケティングか ら入った。
P&Gはまずシャンプーの 使い方など現地の消費者を啓蒙し、先 に自社ブランドを浸透させて、生産機 能は後から現地の工場を買収して確 保した」 「また内モンゴルのローカル企業で すが、『蒙牛』ブランドで知られる乳 ー』、ピアノの『スタインウェイ』な ど、本当の高級品だけです。
日本製 品は高級品といっても中間層にも手の 届く商品です。
富裕層にとっては憧 れの対象ではない。
中国のインターネ ットのユーザー数は既に一億六〇〇〇 万人に達しています。
それだけパソコ ンを持っている人がいる。
彼らは日本 製の薄型テレビだって買える。
そのボ リュームゾーンに売るという発想に転 換する必要があるはずです」 ──キャッチアップは可能でしょうか。
「これまでの中国市場では“イケイ ケ・ドンドン”が好まれてきました。
それにピッタリあったのが派手なサム ソンなどの韓国ブランドでした。
しか し、中国の市場も最近では洗練され てきました。
シックで、こだわりを持 った品質の良い製品が好まれるよう になっています。
これは日本製品に 対する追い風だと思います」 製品メーカーの蒙牛集団のマーケティ ングも、日系企業には参考になるは ずです。
蒙牛は事業の開始からわず か五年で中国の乳製品市場でシェア トップの地位につきました。
彼らもま たP&Gと同様に生産ではなく、マー ケティングを先行させて市場に斬り込 んでいきました」 「テレビCMや広告を上手に使って 認知度を高めると同時に、流通チャネ ルのパートナーに手厚いマージンを約 束して販売規模の拡大を徹底して進め た。
ライバル企業の優秀な人材の引き 抜きも積極的に行いました。
商品で はなく、マーケティングで差別化する べきだと彼らは分かっていたのです」 ──手厚いマーケティング活動にはコ ストがかかります。
「中国の家電大手のハイアールが人 海戦術でアフターサービスを徹底した 時にも同じ議論がありました。
しかし 結果はみての通りです。
家電製品を 自宅まで届けて設置する。
故障すれば 電話一本ですぐにかけつける。
購入 後三年間のメンテナンス代は無料。
そ れ以降も部品代だけで修理する。
そ こまでやれば消費者はついてきます。
しかも、中国ではそうした職業に就 く人たちの人件費はまだまだ安い」 「品質を比べれば確かに日系メーカ ーの製品はいい。
故障も少ない。
し かし、いったん故障してしまうと日 系メーカーはなかなか修理してくれな い。
対応が遅く、料金もかさむ。
最 近はかなり改善されてきたけれども、 顧客サービスの点で日系企業は現地 企業とはまだまだ開きがある。
日本 製品はもともと高い。
それだけ販売 やアフターサービスにもコストをかけ られるはずなのに、そうしていない」 ボリュームゾーンを狙え ──なぜでしょう。
「日系メーカーのスタッフは現場に いかないんです。
日本から派遣された 現地法人の総経理や幹部はもちろん、 中国人の中堅社員さえ現場を知らな い。
彼らは大学を卒業し日本に留学 経験もある中国のエリートです。
彼ら に小売りの店頭でセールスしろといっ ても無理。
プライドが許しません。
一 方で店頭の販売員はほとんどが地方 から出稼ぎに来た労働者です。
安い 給料で、ノルマ制が敷かれている。
そ れだけ売ることには一所懸命になる。
そうした現場力が日系企業は弱い」 ──日系メーカーの多くは、現地の富 裕層を狙った高級品をメーンに置いて います。
そこでは、もっと洗練され た売り方も成り立つのでは。
「そうしたニッチ戦略が成り立つの は、『ルイ・ヴィトン』や『ベントレ じょ・こうとう:XU XIANGDONG 1992 年、北京外国語大学日本学 研究センター卒。
94 年、北京外国語 大学講師。
99 年、日本労働研究機 構(現・独立法人労働政策研究・研 修機構)研究員。
2001 年、立教大 学(社会学)博士号取得。
日経リサー チ首席研究員、同社上海事務所総監、 キャストコンサルティング社長等を経 て、07年6月に中国市場戦略研究所 を設立、代表に就任。
日系企業の中 国事業をサポートしている。
(同社HP http://www.cm-rc.com/)著書 に『中国で売れる会社は世界で売れ る』(徳間書店)がある。
自動車産業では、フ ォルクスワーゲンが現地で圧倒的なシ ェアを握った。
現在は日系メーカーも 盛り返してきたけれど、一時期フォル クスワーゲンの中国市場におけるシェ アは六割にも上っていました」 「エレクトロニクス業界でも、白物 家電は中国の現地企業の成長を許し てしまった。
また技術力の点から中 国系メーカーには手出しできなかった デジタル家電は、韓国企業が入ってき た。
サムスンとLGです。
これも本来 であれば日本が強い競争力を持ってい たはずの市場でした」 「携帯電話も同じです。
中国の携帯 電話の普及台数は今や五億数千万台 にも達しています。
日本市場の七倍 もの規模がある。
しかし、そこでシ ェアをとっているのはサムスンとフィ ンランドのノキア、つまり韓国系と欧 米系のメーカーです。
日系メーカーの 姿はどこにもない。
全て撤退してし まいました」 ──日本が強いはずの産業で、なぜ 負けたのでしょうか。
「例えば携帯電話やデジタル家電で 欧米韓に負けた理由 ──中国の国内市場で日系企業が苦 戦しています。
「日系企業には中国で商売するため のビジネスモデルがありません。
二〇 〇四年以降、中国の国内市場は外資 に大きく開放されました。
それに対 して、どのようなサプライチェーンを 作るのか。
その戦略がない。
日系企 業の現地の総経理(社長に相当)は 営業部長としての仕事をしているだ けで、ビジネスモデルについては考え がありません」 「そもそも日系企業は最近まで、市 場としての中国の魅力をきちっと評価 してきませんでした。
そこが欧米系 や韓国系との大きな違いです。
欧米 企業は中国から離れているため、単 に労働力が安いという理由だけでは中 国に投資してこなかった。
将来、中 国が市場として成長することを予測 して現地に進出しています。
中国で 開発して、中国で生産し、中国で売 るというモデルです」 「それに対して日系企業は中国と距 離的に近いこともあって、安い労働 力だけを求めて進出した。
日本の設 備をそのまま現地に持ち込んで、日 本と同じように生産するというモデル です。
あくまでも生産拠点としての 進出であって、中国を市場としては とらえてこなかった」 ──一般には、欧米企業に比べて日 本企業は長期的な視点で投資する傾 向が強いと言われていますが。
「少なくとも中国ビジネスに関して は逆ですね。
実際、欧米企業は進出 当初は赤字でも、五年後、一〇年後 に大きな黒字を出すというシミュレー ションに基づいて巨額の投資を行って きました。
その結果が現在の中国市 場における欧米企業のプレゼンスにつ ながっています。
化粧品市場であれ ばP&Gとロレアルの二社で今や六割 以上のシェアを握っている。
商圏も大 都市だけでなく二級、三級都市、農 村地域にまで拡げている。
商品自体 を比べれば欧米系より、同じ肌を持 つ日本の化粧品の方が中国人には合 っているかも知れない。
しかし市場 は欧米系が圧倒的に抑えてしまった」 ──中国が巨大市場になることは日 本企業も予想していたのでは。
「日本企業が中国に進出し始めたの は一九八〇年代ですから、欧米や韓 国の企業よりずっと早かった。
しかし、 中国が市場として台頭してきたのは 九二年の小平の“南巡講話”以降 です。
その時期の日本はバブル崩壊後 徐向東 中国市場戦略研究所 代表 中国の一般消費市場で成功している外資系と言えば欧米系か韓国 系。
日系企業は見る影もない。
生産拠点の中国進出では他の外資系 を先行したものの、国内販売では大きく出遅れてしまった。
キャッチアッ プするためには、中国市場のサプライチェーンをゼロから見直す必要 がある。
(聞き手・大矢昌浩) 「日系は中国市場の現場を知らない」 3 JANUARY 2008 いえば、中国市場ではそれほど高度 な機能は必要ないけれども、使いや すさが求められる。
携帯も専用のメ ールアドレスを作るようなことはしな い。
電話番号だけでショートメッセー ジをバンバン送る。
そうした使い方を 日系企業はうまく把握できなかった。
そのため製品の機能やデザインなど、 品質自体はライバルよりはるかに上で あるのに競争に負けてしまった」 ──なぜ日系企業のマーケティングは 機能しなかったのでしょう。
「人材ですね。
もの作りの人材に関 しては中国でも、きちんと育てたの だと思います。
しかし売るための人材 を日系企業は全く育てていない。
効 率的な生産はできても、マーケティン グや販売、ロジスティクスの現地化が 全くできていない。
有能な人材は皆、 欧米系や韓国系に流れています」 「中国で成功している外資系企業の アプローチは日本企業とは全く逆で す。
日系メーカーが生産から入ったの に対して、欧米系はマーケティングか ら入った。
P&Gはまずシャンプーの 使い方など現地の消費者を啓蒙し、先 に自社ブランドを浸透させて、生産機 能は後から現地の工場を買収して確 保した」 「また内モンゴルのローカル企業で すが、『蒙牛』ブランドで知られる乳 ー』、ピアノの『スタインウェイ』な ど、本当の高級品だけです。
日本製 品は高級品といっても中間層にも手の 届く商品です。
富裕層にとっては憧 れの対象ではない。
中国のインターネ ットのユーザー数は既に一億六〇〇〇 万人に達しています。
それだけパソコ ンを持っている人がいる。
彼らは日本 製の薄型テレビだって買える。
そのボ リュームゾーンに売るという発想に転 換する必要があるはずです」 ──キャッチアップは可能でしょうか。
「これまでの中国市場では“イケイ ケ・ドンドン”が好まれてきました。
それにピッタリあったのが派手なサム ソンなどの韓国ブランドでした。
しか し、中国の市場も最近では洗練され てきました。
シックで、こだわりを持 った品質の良い製品が好まれるよう になっています。
これは日本製品に 対する追い風だと思います」 製品メーカーの蒙牛集団のマーケティ ングも、日系企業には参考になるは ずです。
蒙牛は事業の開始からわず か五年で中国の乳製品市場でシェア トップの地位につきました。
彼らもま たP&Gと同様に生産ではなく、マー ケティングを先行させて市場に斬り込 んでいきました」 「テレビCMや広告を上手に使って 認知度を高めると同時に、流通チャネ ルのパートナーに手厚いマージンを約 束して販売規模の拡大を徹底して進め た。
ライバル企業の優秀な人材の引き 抜きも積極的に行いました。
商品で はなく、マーケティングで差別化する べきだと彼らは分かっていたのです」 ──手厚いマーケティング活動にはコ ストがかかります。
「中国の家電大手のハイアールが人 海戦術でアフターサービスを徹底した 時にも同じ議論がありました。
しかし 結果はみての通りです。
家電製品を 自宅まで届けて設置する。
故障すれば 電話一本ですぐにかけつける。
購入 後三年間のメンテナンス代は無料。
そ れ以降も部品代だけで修理する。
そ こまでやれば消費者はついてきます。
しかも、中国ではそうした職業に就 く人たちの人件費はまだまだ安い」 「品質を比べれば確かに日系メーカ ーの製品はいい。
故障も少ない。
し かし、いったん故障してしまうと日 系メーカーはなかなか修理してくれな い。
対応が遅く、料金もかさむ。
最 近はかなり改善されてきたけれども、 顧客サービスの点で日系企業は現地 企業とはまだまだ開きがある。
日本 製品はもともと高い。
それだけ販売 やアフターサービスにもコストをかけ られるはずなのに、そうしていない」 ボリュームゾーンを狙え ──なぜでしょう。
「日系メーカーのスタッフは現場に いかないんです。
日本から派遣された 現地法人の総経理や幹部はもちろん、 中国人の中堅社員さえ現場を知らな い。
彼らは大学を卒業し日本に留学 経験もある中国のエリートです。
彼ら に小売りの店頭でセールスしろといっ ても無理。
プライドが許しません。
一 方で店頭の販売員はほとんどが地方 から出稼ぎに来た労働者です。
安い 給料で、ノルマ制が敷かれている。
そ れだけ売ることには一所懸命になる。
そうした現場力が日系企業は弱い」 ──日系メーカーの多くは、現地の富 裕層を狙った高級品をメーンに置いて います。
そこでは、もっと洗練され た売り方も成り立つのでは。
「そうしたニッチ戦略が成り立つの は、『ルイ・ヴィトン』や『ベントレ じょ・こうとう:XU XIANGDONG 1992 年、北京外国語大学日本学 研究センター卒。
94 年、北京外国語 大学講師。
99 年、日本労働研究機 構(現・独立法人労働政策研究・研 修機構)研究員。
2001 年、立教大 学(社会学)博士号取得。
日経リサー チ首席研究員、同社上海事務所総監、 キャストコンサルティング社長等を経 て、07年6月に中国市場戦略研究所 を設立、代表に就任。
日系企業の中 国事業をサポートしている。
(同社HP http://www.cm-rc.com/)著書 に『中国で売れる会社は世界で売れ る』(徳間書店)がある。
