2008年1月号
メディア批評

マスコミが批判できない最大のスポンサー『トヨタの正体』など報道姿勢に変化の兆し

佐高 信 経済評論家 57  JANUARY 2008  「吉兆」や「赤福」のことは徹底的に叩けても、 「トヨタ」のことはなかなか批判的には書けない。
何しろ、マスコミの最大のスポンサーだからで ある。
そのトヨタに真っ向から挑んだのが『ト ヨタの正体』(金曜日)だった。
 著者の一人であり、この本の発行人でもあ る私が礼賛するのもどうかと思うが、類書が なかっただけに、この本はとくにトヨタのお 膝元の名古屋でよく売れた。
八万部ほど出た これに続けて、今度出たのが『続トヨタの正体』 (金曜日)。
 「車好きの人はトヨタ車が嫌い」が常識だ と始まった前書きには「前書と同様、今回も、 トヨタにカネで牛耳られる大手メディアが、書 評に取り上げることはないでしょう」と刺激 的なことが書いてある。
 巻末の「トヨタが嫌う男たち対談」で私は 奥村宏と対談した。
法人資本主義というユニ ークな角度から日本の会社を研究する奥村は、 「トヨタがGMになる日」がまもなく来ると予 測する。
つまり、いつまでも隆盛を誇れるは ずがないというのである。
 「よく考えてごらんなさい。
自動車が将来の 成長産業であると考えている人は実は誰もい ませんよ。
もし将来も自動車産業が成長する となると、排気ガスと交通事故で人類は滅び ていきますよ。
現に日本の自動車産業自体が 日本の中では売り上げが減っていたわけですよ。
特に車が売れていないのは北海道と東京都です。
北海道では人が少なくなって売れなくなって きているが、東京では、ガソリン代が高いし 交通渋滞だし、車が走りづらい。
そのために 車を買わなくなってきている」  それなのにマスコミは、トヨタがGMを抜い たとか、ノンキなことを書いている。
それで 学生もトヨタを志望するのである。
『エコノミ スト』の四月二四日号に大学の就職企業ラン キングが載っており、トヨタは東大では三位 だが、京大、東工大、名古屋大、北大、阪大、 九大ではいずれも一位。
 奥村が大学の教授をしていた一九八〇年 代半ばに、学生にトヨタの工場見学を提案し、 実際それをやったことがあった。
 そして、終わった後、どうだと聞いたら、  「いろんな工場を見に行ったけど、トヨタに は行きたくない」  と答えた学生が多かった。
極めて単調な仕 事をしているからである。
 GMの絶頂期の一九八九年にマリアン・ケ ラーというジャーナリストが『GM帝国の崩壊』 (邦訳、草思社)を書いた。
しかし、日本では、 なかなか、『トヨタ帝国の崩壊』は書かれない。
 それを憂いながら、奥村は語る。
 「トヨタをどうみるかということについて、 日本では一番大きな害毒を流しているのがマ スコミであり、本なんです。
米国ではGMに ついての批判が本になるわけです。
GMの副 社長が自分の口でしゃべるわけです。
しかし、 トヨタ自動車の今の副社長がそんなことしゃ べるかというと絶対にしゃべらない。
さらに 日本にはマリアン・ケラーのようなジャーナリ ストは一人もいない。
そしてみんなトヨタ自 動車を持ち上げ、それに学生も乗せられてい るわけです」  『トヨタの正体』は例外的な本だが、奥村 によれば、最近は少し違ってきた。
たとえば 二〇〇六年七月二九日号で『週刊東洋経済』 が「トヨタの異変──崩れた品質神話」と題 してリコール問題を特集し、「一九九〇年代に 入り、奥田碩がトヨタ自動車の社長になって から、生産拡大を進めて技術的に無理をした 結果、リコールが出てきた」と分析している。
また、同誌は二〇〇七年二月二四日号でも「営 業利益二兆円を支える格差」と題して、豊田 市の保見団地を取り上げ、圧倒的に多い日系 ブラジル人がどんなにひどい状態にあるかが ルポされている。
 トヨタには、こうした批判を大事にすると いう視点は皆無なのだろうか。
マスコミが批判できない最大のスポンサー 『トヨタの正体』など報道姿勢に変化の兆し

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