2008年1月号
物流IT解剖

三井倉庫

第10 回 通常のランニングコストで 新規開発まで全てカバー   保守的に見られがちな倉庫業界に あって、三井倉庫は先進的なIT活 用で知られている。
九〇年初頭に作 った経営計画で「最適物流創造企業」 をめざすという基本方針を策定。
そ のための具体的な手段として、「戦 略」と「情報システム」を両輪とす る“物流情報産業”への脱皮を打ち 出した。
以降はこの路線を追求し続 けている。
 単に情報システムの活用を積極化 するだけでなく、最新技術も貪欲に 取り込んできた。
九二年の段階で早 くもオープン化を構想し、それまでの 汎用機中心のネットワークから、UN IXによるクライアントサーバ型への 移行をスタートした。
九〇年代半ば にはインターネットの業務分野での活 用を本格化し、九九年に稼働した統 合在庫管理システム「ASPIRE」 では船舶輸送中も含むグローバルの在 庫情報を“見える化”している。
 このように先進性の高い試みを重 ねてきたにもかからず、同社が情報 システムに投じている年間ランニング コストは、人件費まで含めても単体売 上高の一・二〜一・三%(約一〇億 円)にすぎない。
倉庫業界トップの 三菱倉庫が二%弱(約二五億円)の 水準なのと比べると、かなりローコ ストだ(本誌〇七年八月号参照)。
し かも新規でシステム開発をする際の投 資は、原則としてランニングコストの 枠内から捻出しているのだという。
 三井倉庫は二〇〇〇年に「LIT 推進室」(現LIT推進部)を新設し、 組織面でもIT重視の姿勢を明確に した。
LIT(ロジスティクス・イ ンフォメーション・テクノロジー)と は同社の造語で、それまでの情報シ ステム部門を吸収するかたちで新た なセクションを作った。
 「当社は九二年に、業績向上に寄与 できる『情報システム』を構築する 狙いで、現場や営業からシステムとは 関係のない人材を情報部門に集めて きた。
このためLITになる流れは ずっと以前からあった。
ただ従来の 物流と区別するためのキーワードは何 かを考えていくなかで、LITとい う言葉が出てきた」とLIT推進部 の藤岡圭部長は説明する。
 現在、約二〇人が所属しているL IT推進部は、「LIT推進室」と 「情報システム室」の二つのチームか らなる。
対外的な営業活動やオペレー ションの情報武装を担当する「LI T推進室」には約一〇人が所属して、 ITを使った新商品などを生み出し ている。
同じく約一〇人が所属する 「情報システム室」は、主に三井倉庫 グループの情報システムの運用や技術 的なサポートをしている。
活動領域を“物流情報産業”に定めて 最新の開発手法SOAでシステム刷新 三井倉庫  「LIT(Logistics Information Technology)」という造語を掲げて、「戦略」と 「情報システム」を両輪とする競争力の強化に取り組んできた。
2008年4月に全 面稼働させる基幹システムの開発では、SOA(サービス指向アーキテクチャー) という最新の手法を採用。
今後のシステム構築の劇的な効率化を狙っている。
LIT 推進部の藤岡圭部長 ローコスト運用 JANUARY 2008  70 ◆本社組織  本社・LIT推進部に約20人。
営業よりの活 動を担う「LIT推進室」と、三井倉庫自身のIT活用を担 う「情報システム室」の人員がほぼ半分ずつ所属。
◆情報会社  LSS(Logistics Systems & Solutions)、本 社:東京都港区、社長:藤岡圭(三井倉庫LIT推進部長)、 資本金:8000万円、株主構成:三井倉庫80%、アイエッ クス・ナレッジ20%、従業員:約40人 《沿革》90年代前半からシステムのオープン化やダウンサイジングに取り組み、インターネッ トの活用も早い時期に本格化した。
99年に稼働した統合在庫管理システム「ASPIRE」では、 海上輸送中も含めて在庫をグローバルで管理できる。
このシステムではビジネスモデル特許 を取得している。
 2000年に、それまでの情報システム部門に代えて「LIT推進部」を設置した。
同部は、三井 倉庫自身のIT活用の高度化と、ITを駆使した新規事業のインキュベーション(孵化)という2 つの役割を担っている。
近年はBPO事業や3PL事業の急成長を支えてきた。
 90年代にシステムをオープン化して以降の主力ITパートナーはIBM。
ただし、システム開 発や運用の実務面ではIT子会社、LSSを通じてアイエックス・ナレッジなどを活用している。
最近では、SOA(サービス指向アーキテクチャー)をいち早く導入した企業として、IT専門誌 で取り上げられる機会も多い。
71  JANUARY 2008 開発手法 てきた。
「われわれは『カセット』と 呼んでいるのだが、あらかじめ部品 化したシステム(=カセット)を用意 しておく。
それで何かをやるときに はこれをカチャン、カチャンとはめ込 んでいけば、すぐに必要なシステムが できる。
そういう構想をずっと抱い ていた」(藤岡部長)  同社いわく、モジュール化やオブジ ェクト指向などの開発手法は、あら かじめ持っている部品によってシステ ムを“作る”という概念だ。
このた めある程度まで開発効率を高めるこ とができるが、顧客ごとに異なるシ ステムを個別に開発する点では従来と 変わりはない。
一方、「カセット」と いう概念は、開発したシステムをすぐ に“使う”ことを想定している。
標 準化された「カセット」を再利用し ていくことでシステム開発を劇的に効 率化できる手法なのだという。
 実際、この構想を付き合いのあっ たSIベンダーに相談してみたこと もある。
しかし「何十億、何百億円 かければできますよ」と一笑に付さ れてしまった。
三井倉庫の事業規模 では、いわば夢物語でしかなかった。
これが約一五年後に、思わぬ経緯で 実現に向かうことになる。
 同社はIBMとの付き合いが深い。
八九年に「三井倉庫箱崎ビル」を竣 工して、これを日本IBMに一棟丸 ごと貸していることもあって、九〇 年代のオープン化などでも同社の支援 を受けてきた。
システム開発の実務は 主にIT子会社などを活用している が、先進テクノロジーや知恵の仕入先 はもっぱらIBMだ。
 IBMからは一時期、ずっと同じコ ンサルタントに来てもらっていた。
ソ リューションごとに担当者が代わるの が当たり前の世界では幸運だった。
い ちいち三井倉庫の経営方針や考え方 を説明しなくても、実情を知り尽く したコンサルタントが第三者の観点か らアドバイスしてくれた。
「われわれ はIBMというよりは、IBMのコ ンサルタントと付き合っていた」(藤 岡部長)  もっとも、このコンサルタントも、 かつての「カセット」構想には興味を 示しただけだった。
ところが〇五年 初頭に三井倉庫が基幹システム「GN S」(グローバル・ネットワーク・シ ステム)を刷新するために、改めて 「カセット」構想を持ち出したところ、 今ならSOA(サービス指向アーキテ クチャー)という最新の手法を使えば 実現できるかもしれないと応じた。
 SOAというのは近年、IT業界 で注目を集めているシステム開発の手 法だ。
「カセット」に相当する部分が、 SOAでは「サービス」と呼ばれ、こ の「サービス」を数多く組み合わせ ることでシステムを構築する。
接続の ための規格は「バス」としてほぼ標 準化されているため、三井倉庫にな い機能を外部のITベンダーから購入 して組み込むことも可能だ。
システ ム開発を効率化しようとする狙いも 共通している。
 説明を聞いた三井倉庫は、十年来 の念願を具体化できる可能性がある のならやってみようと決断。
〇五年 四月にSOAを活用する「GNSプ ロジェクト」を発足して、基幹システ ムの刷新に乗り出した。
プロジェクト を支援するIBMビジネスコンサルテ ィングサービス(=IBCS、前掲し たIBMの担当者の異動先)にとっ ては、アジア・パシフィック地域で初 めて手掛けるSOAのコンサルティン グ事例となった。
業務プロセスを分解して 八〇〇のサービスを定義   GNSプロジェクトには三井倉庫 から三人(LIT二人、IT子会社 一人)、IBCSから五人の計八人が 参加した。
最初の三カ月間は現状確 認や“あるべき姿”の策定、SOA による開発領域の検討などを行った。
この際にはIBMの「SOMA」(サ  LIT推進部全体は、事業開発部 門としての機能も備えている。
三井倉 庫にとって新しいIT活用の事業モデ ルを企画し、実際に立ち上げ、独り 立ちさせてから社内の既存部門に埋 め込んでいくという役割である。
後 述するBPO(ビジネス・プロセス・ アウトソーシング)事業もその成果の 一つだ。
サービス指向のSOAで 次期基幹システムを開発   九〇年代から、同社は独特の考え 方でシステム開発を効率化しようとし 基幹システム 図1 SOA手法を活用した次期基幹システム「GNS」 顧客向け ポータル メールグループ ウェア画面・帳票機能・ロジックデータベース ACL(アクセス・コントロール・リスト):個人認証・暗号化 三井倉庫(MSC) 関係会社お客様 INTRANET INTERNET MSC各社 ポータル プロセス制御(BPM+サービスリポジトリ):業務毎利用権限・利用機能制御 アプリ ケーション Data Base Data サービスBase アプリ ケーション 最新のテクノロジーSOA手法によるシステム開発と運用 JANUARY 2008  72 ービス・オリエンテッド・モデリング・ アンド・アーキテクチャー)という方 法論を活用した。
 続く三カ月間で全体の開発計画を 策定した。
まず「GNS」でカバー すべき六つの業務エリア(在庫管理・ 配送管理・輸入荷捌き・輸出荷捌き・ 海上運送・航空貨物)を設定。
さら にS O Aの有効性 を実際に確認するた め、「入庫業務」の システムを試作して みた。
その結果、従 来であれば数日かか っていた仕様変更の 作業を、SOAを使 ったシステムではわ ずか一時間で終えら れることが確認でき た。
 プロジェクトをス タートしてから半年 後の〇五年一〇月、 まずは「在庫管理」 と「配送管理」とい う二つの業務エリア を対象に、実際のシ ステム開発がはじま った。
いよいよ「サ ービス」を定義する 段階に入った。
これ はいわば自分たちの 営業メニューの基本 単位を規定する作業 であり、汎用性が高 く最適な「サービス」を設定できる かどうかでプロジェクトの成否が左右 される重要な工程だった。
 ここで適切な「サービス」を定義 できなければ、社内外の関係者から 評価を得られないばかりか、実務を 行う現場レベルでも使いにくい仕組み になってしまう。
結果として、後か ら似たような「サービス」を追加して いくことにでもなれば、「新規でシス テムを開発するときには九五%を既 存資産でまかない、新規投資を全体 の五%に抑える」という将来の目標 そのものが絵に描いた餅となってし まう。
 この肝心かなめの作業を一任され たのが、LIT部LIT推進室の小 田中修室長だった。
営業とシステムの 双方に携わった経験を持ち、まさに 三井倉庫が九〇年代から育成してき たスキルを持つ人材の一人だ。
 小田中室長は、「業務プロセスをど んどんブレークダウンしていき、一つ ずつ『サービス』を定義していった。
うちの誰かがやらなければいけない 作業だし、誰がやってもいきなり満 点を取れるものではない。
失敗を恐 れず、自分なりに決めつけて進むし かなかった」と述懐する。
 たとえば「在庫管理」における入 出庫オペレーションであれば、まず 「入庫」と「出庫」に分ける。
さらに 入庫を「現場作業」や「帳票発行」 といった作業にブレークダウンしてい く。
こうして原単位レベルのプロセス を抽出した上で、これを三つの観点 (他の「サービス」に依存しない、他 の「サービス」と重複しない、実現 可能)からチェックしていった。
 約一年半を費やして、「在庫管理」 と「配送管理」という二つの業務の 「サービス」を定義した。
小田中室長 が“決めつけた”結果を現場に提示し たところ、案の定、異論が出た。
こ の声に基づいて一割ぐらい数を増や し約四〇〇の「サービス」をシステム 化していった。
そして〇七年四月ま でに開発サイドの最終試験を済ませ、 五月から国内の全事業所と海外の主 要拠点への導入をスタート。
今年度 中に導入作業を終えて、〇八年四月 から全面稼働に入る計画だ。
 残された業務エリアの「サービス」 の定義も進めており、一〇年三月末 までに全てのシステム開発を完了する 計画だ。
途中、ユーザーから不満が 出るであろうことも、それなりに覚 悟している。
「八〇点のシステムをタ イムリーに出していくのが、われわ れの基本的な考え方だ。
それをある 程度の期間でバージョンアップしてい けばいい」と藤岡部長。
このような 図2 三井倉庫の物流情報システム群 銀行の決済サービス物流決済支援サービス ユーザー ■与信管理 ■受渡情報 ■請求代行 ■売掛・買掛管理 ■電子請求書 ■振込物流決済 物流決済システム システム 顧客 会計系 システム 基幹系 システム 基幹系 システム 基幹系 システム 物流情報サービス ■貨物輸送 ■貨物保管 ■通関 ■流通加工 ■国際複合一貫  輸送 ◆P / O管理モジュール ◆進捗管理モジュール ◆統合在庫管理モジュール ◆標準在庫管理モジュール ◆FWD管理モジュール ◆配送管理モジュール 複数拠点◆受発注管理モジュール 在庫管理 請求 関連情報 決算関連情報 入金 商品納入 支払依頼 電子請求書 国内ネット ワーク 販売/調達 業務 国際間 輸送 海外ネット ワーク 国際国内 輸送管理 在庫管理 システム 業務処理 情報 計上情報 実体物流サービス アウトソーシングサービス ■E-Bizサイト構築 ■コールセンター 受発注情報CRM情報 EC 支援 システム 輸送管理 システム 進捗管理 システム 受注 関連情報 物流 関連情報 物流 サービス アウトソーシングサービス LTサービス ITサービス《ASPIRE》 73  JANUARY 2008 て「外部に打って出ようとした。
そ のために新しいテクノロジーが欲しく てアイエックス・ナレッジの資本を二 〇%入れた」(藤岡部長)。
 当時のLSSは、IT分野だけで なく施設管理やBPO事業なども手 掛けていた。
だがBPO事業の主力 拠点である「レコードセンター」(〇 四年十二月に町田市で稼働した拠点) の運営が軌道に乗り、情報管理ビジ ネスが本格化してきた〇六年四月に なると、これらの事業を分離。
IT 子会社とは別に「三井倉庫ビジネス パートナーズ」を設立して、町田の拠 点を管理していた「三井倉庫レコー ドセンター」もここに吸収した。
 そのBPOの主力事業である機密 情報の管理は、本格的なスタートから 二年で年間二〇億円を売り上げるま でになっている。
LITから生まれ たことでも明らかなように、IT活 用を大前提とするビジネスだ。
トラン クルームや機密文書管理ビジネスが 従来型の物流事業者による事業だと すれば、BPO分野の中心プレイヤ ーはSIベンダーなのだという。
 BPOでは顧客の業務プロセスを 丸ごと請け負う。
たとえばカード会社 から受託する業務は次のような流れ になる。
小売りの店頭などで利用者 が割賦販売カードの申込用紙に記入 すると、これが三井倉庫の事務処理 センターに到着する。
ここで三井倉 庫のパートナー企業が書類の記入漏れ などをチェックし、問題がなければ入 力に回す。
これを機密情報としてデ ータ化しておき、カード会社はその情 報をオンラインで見ながらローンの審 査などを行う。
 データ化を終えた原紙は三井倉庫 がファイリングして厳重に保管し、必 要に応じて抜き取れるようにしてお く。
そして法律などで定められた保 存期間が経過すると、最期は粉砕し て、溶解処理を行うところまで責任 を持つ。
一般的な物流事業者は、こ の保管と事後処理だけを請け負って いる。
もしくはSIベンダーが構築し たBPO事業のなかで、物流関連業 務をパートナーとして請け負っている だけのケースが多い。
 三井倉庫として年間約一〇〇億円 を売り上げている3PL事業につい ても、IT活用が前提になっている。
そもそも同社が「カセット」構想を経 てSOAに着目したのは、3PL事 業などで顧客ごとに実施していたシス テム構築を効率化したかったからだ。
今後はさらに踏み込んでいき、SO Aで定義した「サービス」をメニュー 化して営業活動に生かして、3PL 事業などの拡大を後押ししていこう としている。
 もっとも、従来は顧客ごとのオー ダーメードだったシステム構築を、メ ニュー化された「サービス」という既 製品に置き換えるとなれば、営業サ イドから不満が噴出する可能性もあ る。
その際に従来のように、一〇〇 社の業務を手掛けるために一〇〇通 りのシステムを開発してしまったら元 も子もなくなってしまう。
 「ここは誰かがきちんとコントロー ルしていく必要がある。
営業マンにと っては、自分たちが売る『サービス』 のメニューさえ理解していればシステ ムが問題なく動くという状況にして いきたい」(小田中室長)。
 このような役割分担が社内で上手 く回りはじめたとき、はじめてSO Aを使ったシステム刷新は成功だった と評価されることになる。
そうなれ ば、自前で大規模なシステム部隊を抱 えている3PL大手を追いかけてい く有力な武器にもなっていくはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) トップダウンの手法も同社のシステム 開発の特徴の一つといえる。
BPOと3PLの拡大で LIT戦略を具現化   システム開発や運用の実務を担って いるのは、グループのIT子会社「L SS」だ。
この会社は三井倉庫の一 〇〇%子会社ではない。
株主構成は 三井倉庫八〇%、ジャスダックに上場 している中堅システム会社、アイエッ クス・ナレッジ(IKI)が二〇% となっている。
前述したようにIB Mから先進テクノロジーや知恵を調達 する一方で、実務面ではIKIを多 用している。
 LSSには現在、約四〇人の従業 員が所属している。
これは日常的な システムの保守・運用をこなすうえ で最低限の人員で、プロジェクト次第 では常駐者が八〇人を超えることも ある。
このように人件費を変動費化 していることも、三井倉庫のITの ローコスト運営の秘訣の一つだ。
 一般にIT子会社は親会社の情報 部門がスピンアウトして誕生するこ とが多いが、LSSは違う。
もとも と一九七〇年に発足したときは一〇 〇%子会社ではなかったのを、後で 完全子会社にした。
しかし、LIT に本腰を入れた〇一年に、あらため 営業戦略 LIT 推進部LIT 推進室の小田 中修室長

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