2008年1月号
特集

日系企業の国際物流 日系企業の中国市場物流戦略

JANUARY 2008  30 日系企業の中国市場物流戦略  単純な輸出入物流からトータルSCMへ、日系企業の中国 物流戦略が変革を余儀なくされている。
現地の生産子会社 ごとに分散していた物流を、グローバルロジスティクスのネッ トワークに統合する必要がある。
そこでは取引ルールと業務 プロセスの見直しが必須になる。
これまでの中国物流戦略  日系企業の中国市場における物流戦略は現在、転換 期を迎えている。
これは日系企業の中国事業そのもの の変化によるものだ。
これまで日系企業の中国事業は、 生産活動のローコスト化に集中する傾向にあった。
現 地の生産子会社の多くは、海外から注文を受けた通り の仕様・数量で受注生産を行うだけで、海外の消費地 におけるプロモーションや売れ筋の動向などには関わ ってこなかった。
販売部門との情報のやりとりは事実 上、途切れている状況にあった。
 ものの流れも比較的単純で、水際を中心にした輸出 入物流が主体であった。
製品は、工場の生産ラインか ら出た後の船積み待機のための一時保管以外、ほとん ど即時に工場バンニングが実施されて輸出された。
生 産した製品をすぐに輸出することで、生産子会社は生 産活動のために発生した「増値税」の還付を早期に受 けることができる。
つまり資金繰りの面で有利となる からだ。
 こうした事業戦略では、物流もシンプルになる。
す なわち「工場バンニング⇒輸出ドレージ⇒通関、船積 み、輸出」というパターンである。
そこでは通関の円 滑化や税関との良好な関係の構築、増値税の還付時期、 還付率等に神経が使われてきた。
そして物流戦略面で は以下のようなポイントが重視された。
?輸出ルートの確保  例えば広東省に進出している日系荷主企業の場合で あれば、輸出の確実性を重視してこれまでは航路・便 数の多い香港港からの輸出ルートが主に利用されてき た。
ただし近年、急激な寄航増便を契機として、コス トパフォーマンスの利点から深圳や広州港へのシフトが 進んでいる。
?国際輸送コストの削減  四〇フィートコンテナをフルに積めるように発注調整 を含めて工夫することで積載効率を高める。
大手荷主 企業の場合は、船会社との間で集中購買契約交渉を行 い、国際輸送コストの低減を図る等。
?流通作業の実施  アパレル製品の検針作業や納品先の入荷検品ラベル の貼り付けなどを中国で実施して、日本など人件費の 割高な消費地での物流作業を避ける。
?保税区VMIの活用  中国生産子会社側の在庫は、部品が大半を占める。
とりわけコア部品は日本からの調達がメインで、高価 なものが多い。
部品の在庫量をできるだけ抑えるため に「必要なものだけ、その場に持ってくる」というJ ITコンセプトが求められる。
 そのスキームとしては自動車、電機メーカーが先行 して導入した「保税区VMI倉庫」が挙げられる。
中 国に生産体制を持っていないサプライヤーに、生産計 画情報を提供し、中国保税区に「非居住者名義」で部 品を保管させることによって、部品在庫コストの削減 を実現する仕組みである。
単純輸出入型からトータルSCMへ  これまでの「加工生産→輸出」といったビジネスモ デルでは、生産拠点に対するマネジメント力があれば 十分であった。
しかし経済産業省のデータによると二 〇〇五年現在の日系企業の中国における現地調達率は 平均五割強にまで達している。
そして現地法人の売上 高は〇二年以降、年率二〇%以上の伸びを示している (図1)。
第4部 陳麗梅 日通総合研究所 経営コンサルティング部 主任コンサルタント 31  JANUARY 2008 特集  中国国内での事業活動の拡大に伴い、物流を含めた 現地拠点に対するガバナンス全体のあり方が問われる ようになっている。
例えば中国生産子会社に対して物 流コストの透明化、ベンチマーク、妥当性といった側 面からトータルの支援を行っていく必要性が高まって いる。
 一般に中国における現地調達は、サプライヤーと届 け価格で取引しているため、多くの企業はそこに物流 コストがどれだけ掛かっているのかを把握し切れてい ない。
「うちの調達物流コストはタダである」との誤っ た認識を持っている現地スタッフも珍しくない。
しか し〇五年現在、中国の全業種平均の対売上高物流コス ト比率は八・一%といわれ、正確な比較はできないも のの、日本の四・八三%をはるかに上回っている。
 日系企業の中国国内における物量の増加は、今後ま すます拍車がかかる。
これまでの調達先との取引ルー ルやプロセスを見直す必要がある。
そうしない限りコ ストは下げられないという認識が、既に日系企業のな かにも広がってきている。
 その典型的な取り組みの一つが「ミルクラン方式」 だ。
従来の「届け物流」から「ミルクラン方式」に切 り替えるには多大な努力が必要であるが、採用を検討 している日系荷主企業は確実に増えている。
 また、中国国内消費者向けの販売が強化されている 中、生産子会社の物流統合、きめ細かい販売物流ネッ トワークの構築、効率的な納品体制の確立と消費者へ のアフターサービスの内容充実(補修パーツセンター等) が新たな課題となっている。
 例えば中国国内の電機・家電市場において、日系メ ーカーは家電量販店をメインに販売チャネルを構築して いる(図2)。
家電量販店経由の販売は日系メーカーが 約七割であるのに対し、ローカル企業は約四割といわ れている。
 中小の家電専門店に比べて家電量販店は一店舗当た りの取扱量が大きく、納入価格の条件が厳しい。
それ だけに効率的な納品の仕組みを作ってコストを削減す る必要がある。
しかし現状では地域別・製品別に設置 した生産子会社ごとにバラバラに対応しているのが実 情である。
補修部品についても、現状をみると生産子 会社ごとに、それぞれの部品在庫で対応している例が ほとんどであり、その統合が課題となっている。
 これにメスを入れるため、同業界の日系メーカーの 一部には生産子会社の物流統合などの改革に乗り出し ているケースもある。
こうした動きはこれから本格化 すると考えられる。
 一方、現地に進出している日系流通企業において は、中国に調達物流センターを設置し、「バイヤーズコ ンソリデーション」の方式で製品を、日本をはじめと した消費地に輸出する活動がこれからさらに拡大され ていくだろう。
日系の製造業でも、同じ仕向け地であ れば、従来の生産子会社別の輸出方式を改め、輸入業 者または本社の名義で混載するといった手法への関心 が高まってきている。
 日系企業の中国拠点から世界中に配送される物流は、 今後も増加の一途をたどることが必至だ。
ただし、国 際輸送リードタイムの長期化はサプライチェーンのリス クを増大させる。
突発的な需要増に備えるために、市 場側は常に製品在庫を多めに抱えていなくてはならな い。
中国を起点とするSCMにおいて、市場側におけ る適正在庫維持のためのロジックをいかに確立するか が、重要な課題となっている。
日系電機メーカーA社の取り組み  日系電機メーカーA社において検討された中国物流 改革の取り組みを例に中国物流戦略の見直しのポイン トを考察してみる。
この取り組みは、?中国消費者販 売向けの製品販売物流ネットワークの構築、?中国発 欧米向け製品の輸出、?中国国内の部品調達物流(ミ 98 年99 年00 年01 年02 年03 年04 年05 年 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 56.0 54.0 52.0 50.0 48.0 46.0 44.0 42.0 40.0 50.3 45.0 28,626 31,041 36,157 41,385 51,421 68,840 89,720 123,811 53.7 50.8 52.9 50.0 49.0 52.0 (億円) (%) 現地調達率 現地法人 売上高 図1 日系企業の中国現地調達率および売上高の推移 経済産業省資料より 顧 客 代理店(倉庫) 量販店(倉庫) 地域配送センター 図2 日系企業の中国における販売物流チャンネル 工場(倉庫) JANUARY 2008  32 ルクラン調達)の検討、の三つをテーマとしている。
 A社は中国沿海地域を中心に地方向けの配送センタ ーを数十カ所配置している。
これらを調査したところ、 全く同じ地域に、グループ内の生産子会社ごとの配送 センターが複数、あるいは同じ生産子会社の配送セン ターが複数立地しており、グループ内生産子会社別の 配送センターから同一届け先に対して納品しているな どの実態が明らかになった。
 一方、配送センターごとに在庫は多く抱えているに も関わらず、欠品が出ていた。
また沿海地域への販売 が中国販売全体の約八割を占めており、とりわけ北京、 上海、広州エリアが中国全体の五割強となっているこ ともわかった。
 これらの状況と個別納品先の住所と実績リードタイ ムなどに基づき、在庫拠点を集約しても納期には支障 が出ないとの判断ができた。
まずは改革効果が大きく 出る北京、上海、広州の配送センターの集約に手をつ けることで、二割程度の物流コスト削減を期待できる というシミュレーション結果を得た。
さらに欧州向けの 製品は、従来の月次生産、月次出荷から、販売動向を 反映しやすい週次生産、週次出荷に切り替えることで、 欧州側の在庫を大幅に削減できることが判明した。
 このような状況は、A社だけでなく、中国に進出し た日系企業にある程度共通している。
そこで挙げられ た問題点とトータルSCMの解決の方向性は他の産業 でも参考になるはずだ。
物流企業サイドの対応  こうした荷主企業の動きを反映して現地の日系物流 企業の対応も進んでいる。
その中で最も注目されてい るのはトラックによる定期混載サービスである。
中国で は小口貨物の定期混載サービスが遅れているため、日 系物流企業がこの面での輸送商品開発に努力を重ね、 荷主企業の輸送コスト削減ニーズに応えている。
 物流園区におけるサービス強化も注目される。
中国 生産子会社で生産した製品を物流園区に在庫すること で、貨物の搬入時点で増値税還付が可能となるため、 これまで生産子会社の負担を考えると事実上不可能で あった輸出製品の中国国内での保管が可能になってい る(図3)。
 国際輸送と国内物流に分離されていた従来の物流シ ステムは、荷主企業のグローバルロジスティクスへの要 求の高度化などにより、その枠組み自体が意味を失っ ている。
物流企業は一貫サービスとしての機能を持た なければ、その競争優位を獲得できない。
業務の多様 化に対応して、日系物流企業においては従来の航空畑、 海運畑出身の中国駐在日本人スタッフに加えて、日本 国内で倉庫、輸送業務に従事してきたスタッフを派遣 する例もでてきている。
 荷主企業からは「日本と同様のサービスを中国の価 格で提供して欲しい」という要請が強くなっており、 日系物流企業側で、中国価格を意識してローコスト構 造を作る経営努力もみられる。
たとえば現地物流パー トナーとの提携について、大手企業ではなく、地域ご との優良中堅企業を対象とする例も出てきている。
地 場の中堅物流企業は国営系などの大手に比べて日系物 流企業の企業文化を受け入れやすく、またコスト的に も大手より優位にある(図4)。
 ただし、そうした中堅物流企業は資金、ノウハウな どのネックがあり、輸送、保管などの単一サービスし か提供できない業者がほとんどである。
荷主企業の物 流を一社で完結させるのは難しい。
このため中国荷主 企業の支払い物流費を除いた純粋な物流管理コストは、 物流コストの中の一四%と極めて高くなっている(参 考:日本国内は四%)。
 それでも、最近急成長している遠成グループのよう に、中国に進出した外資系企業からの学習を通じてノ ウハウの蓄積を図り、業容の拡大、サービスの一貫化、 さらに日本に営業拠点を置き、日系企業の本社への直 接アプローチに取り組む現地物流企業も現れている。
 一方、欧米系物流企業においては、中国国内の集配 網を自らのグローバルネットワークに取り込もうとする 施策が目立っている。
UPSはシノトランスと合弁し た国内エクスプレス事業を一億ドルで買収した。
これ によりGDPの八〇%を占める地域を結ぶネットワー クを一気に獲得し、収益性の高いエクスプレス事業を 強化するとともに中国においても世界各国で提供して いると同等レベルの質の高いサービスを実現できるとし 図3 荷主企業の保税物流園区を活用した製品輸出の仕組み 現地子会社 現地子会社 現地子会社 マーケット側 日本、欧米 海上輸送 ?一時保管(輸入業者また は本社の名義による非居 住者在庫) ?ピッキング ?店別、配達別仕分け ?ラベル貼り付け ?混載輸出(輸入業者また は本社の名義による) 保税物流園区 顧客A 顧客B 顧客C クロスドック 仕分け 配送 コンテナ 直送 保税物流園区に搬入した 時点で輸出と見なす ★輸出増値税の還付 ★貨物所有権の移転 33  JANUARY 2008 特集 ている。
 中国の物流市場(物流業者による取扱貨物の総金額 ベース)は二〇一〇年までに約一三五〇兆円(〇六年 は約八九六兆円)の規模に成長すると見込まれている。
またボーイング社では中国国内の航空市場は今後二〇 年間にわたって毎年一〇%強の伸び率で推移するとみ ており、物流企業間の国際的な競争もますます激しく なるものと思われる。
戦略見直しのポイント  日系荷主企業が中国物流戦略の見直しを検討するに あたっては、以下のいくつかのポイントに留意する必 要がある。
1 . トータルSCM管理部署を明確化する  中国生産子会社の物流をまとめて、グループとして のシナジー効果を出すには、日本、中国を含めた物流 の全体を見渡せる仕組みをつくらなければならない。
こうした機能をもつ部署を設置し、責任を明確化する ことが極めて重要である。
 この物流管理部署は、自社グループ全体の物流に関 して、コスト分析、物流業者評価、最適な調達、販売 物流仕組みの立案、サービスパーツ配送センターの立 案、物流インフラ調査、人材育成などの多様な側面で 機能を果たしていくことが求められる。
2 . トータルリードタイムを短縮する  中国生産工場から市場までの輸送は、日本国内の物 流とは異なる。
日本国内の輸送は一、二日以内に届け られるため、在庫の要因は生産、販売の仕組みの中に 存在する。
それに対して国際物流では、在庫は輸送期 間によって大きく変わる。
輸送時間を短縮するには、 航空輸送にシフトさせることも考えられるが、すべて の商品が航空運賃の負担を吸収できるわけではない。
物流全体のプロセスの改善によるトータルリードタイム の短縮というアプローチが不可欠である。
たとえば、一 つの良質な物流業者による一貫物流サービスを利用す ることで時間のロスを減少するという方策も検討され てよい。
3 . 共同プラットフォームの情報システムを構築する  日系荷主企業の中国生産子会社の多くはこれまでロ ーカル系の小さな情報システムや一般的な表計算ソフト などを組み合わせて、主に人間系処理によって作成し た情報をもとに管理を行ってきた。
情報伝達も生産子 会社からの定期報告に頼っていることが多い。
本社と 生産子会社とのやりとりにはメールあるいは電話やフ ァクスが依然として多く利用されている。
その結果と して生産子会社の状況把握のスピードが遅れてしまう。
中国の拠点を、自社のグローバル情報ネットワークに取 り込むことが不可欠である。
4 . 中国の商慣行を理解し対策を立てる  従来、中国では現金取引が一般的であったため、ロ ーカルサプライヤーは実際に注文を受けるまで一切製造 を行おうとしない傾向があった。
その影響で、中国の ローカルサプライヤーは現在も需要予測能力に欠けてい るともいわれている。
 最近は、ローカルサプライヤーを自社のサプライチェ ーンに取り組む際に、長いスパン(例えば半年先)の 需要予測を提示し、取引額の二、三%程度を見返りに サプライヤー側で部品の在庫を管理させる例も見られる ようになっている。
しかし中国ローカル市場では、契 約通りにことが進まないといった事態が往々にして起 こりうる。
そういったリスクについても十分に顧慮し て全体のサプライチェーンを設計する必要がある。
結び  中国も含めたグローバルロジスティクスの改革のため には、SCMを所管する責任部署を明確化するととも に、部門間の壁を越える強力なリーダシップが必須と なる。
“総論賛成・各論反対”はグローバルロジスティ クスの常である。
担当者任せでは改革は不可能だと肝 に銘じなければならない。
図4 日系物流企業のローコストへの構造取り組み 日系物流企業 中国系大手物流企業 ローカル中堅物流企業 日系物流企業 零細個人事業者 零細個人事業者 零細個人事業者 零細個人事業者 零細個人事業者 零細個人事業者 ローカル中堅物流企業 陳麗梅(チン・リメイ) 中国厦門市生まれ、二〇〇一年流通 科学大学流通研究科修士課程修了、 日通総合研究所入社。
著書『中国物 流基礎知識』(共著)、論文「中国に おけるメーカーの物流展開について」 ほか多数。
企業物流システム、中国、 国際物流システム構築のコンサルテー ションに携わっている。

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