2008年2月号
現場改善
現場改善
物流事業を副業にするA社の改善
71 FEBRUARY 2008
素人運営のまま事業規模が拡大
昨今、3PL企業の台頭を、本誌を始め業
界各紙が報じている。
その影響からか多くの 人が、大手荷主の元請け仕事はほとんどを物 流子会社か3PLが受託していると思い込ん でいるようだ。
しかし、物流市場の裾野は意 外と広い。
「そんな会社が?」という、物流業 界では名の知られていない会社が優良荷主の物 流をつかんでいるケースは決して珍しくない。
私の知る限りでも、麺の卸を主業とする会社 が小売りの一括物流センターの運営を手広く受 託しているケースや、業務用の消耗副資材を販 売している会社が物流事業を手がけているケー ス、あるいは本業で大きな市場シェアを持つ大 手日用雑貨卸や食品卸なども物流事業に参入 し、コア事業の一つとして育成している。
今回はそのように物流を主業としておらず、 事業の一環として展開しながら、優良荷主の 物流センター業務などを担っている中堅企業を ご紹介したい。
印刷業を主業とするA社である。
現在、通販会社や印刷会社など荷主計七〇社 から物流業務を受託している。
同社の創業者でもある現社長が印刷物の卸 業を営む中で、顧客から印刷物をしばらく預かっ て欲しいという依頼を受けることがままあり、 既存の倉庫に不満を持っている顧客が多いとい う点に目をつけて、物流をサービスの一つに加 えたという経緯である。
同社の物流事業の売り上げはこのところ好 調で、今期に入ってからは前年同月比で一三五% という実績で推移している。
今では年商約三 〇億のうち物流事業の売り上げが約三分の一 を占めるまでに至っている。
そんなA社の二代目、現社長の息子で次期 社長として事実上事業を承継しているM取締 役から、我々日本ロジファクトリーに連絡が入っ た。
「物流事業で顧客からのクレームが絶えな い」、「素人集団では限界が来ているため専門 家から意見、提案をもらい、早急に改善を行 いたい」とのことであった。
早速、A社の本社を訪れた。
対応してくれ たのはM取締役と営業部長のT氏だ。
この二 人が、同社の物流事業の限界を最も強く感じ ている今回のプロジェクトのキーマンであった。
A社では物流センターを流通加工の“加工場” という意味で“工場”と呼んでいる。
“工場” は本社から車で一時間半の距離の同じエリア内 に現在、五カ所を展開しているという。
そこ で現場視察に向かう車中で二人から具体的なク レーム内容や現在の管理レベルなど、種々のヒ 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第61 回 主業から派生するかたちで物流事業を手がけるA社。
売 上規模は拡大しているものの利益が出ない。
クレームも多 発していた。
キャパを無視して無理な受託に走る営業、物 流管理のプロを欠いた現場運営。
副業として物流事業を続 けるのは限界に来ていた。
物流事業を副業にするA社の改善 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、8 9年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp FEBRUARY 2008 72 アリングを行うことにした。
管理者不在で荒れた現場 A社は輸配送を全て外注し、業務をセンター 運営にほぼ特化している。
一部、専門業者顔 負けのコールセンターまで運営しているという。
部隊編成は社員が二四人、パートが約一〇〇人。
派遣スタッフはゼロ。
社員とパートによる自前 運営である。
この体制で売り上げこそ伸びて いるものの、利益が出ていなかった。
ヒアリングによれば、次のような状況にある という。
?本社とセンターとの情報共有化、連 携が不十分である。
?営業部隊は現場である センターとの打合せ、事前確認などをほとんど 行わず受託を行っている。
?センター運営にお ける管理について現場リーダーをはじめ社内に 誰一人、物流のプロと呼べる人材がいない。
マネジメントの欠如は明らかだだった。
現場は案の定、我々が過去に視察したなか でもワースト5に入るほどの荒れかたであった。
空きダンボールやパレットが散在し、いたると ころで埃を被った商品が荷崩れを起こしている。
他社の物流マンが見れば、誰もが自分の仕事ぶ りに自信を持ってしまうところだろう。
我々は、この日のほかに、二回の視察を行 うことにした。
一回目は五つの物流センターの 視察と現場リーダーのインタビュー。
そして二 回目を課題、問題点の検証作業にあてるとい う段取りである。
この二回の現場視察および 調査の後、改めてA社の本社を訪れ、創業者 のS社長に対して報告を行った。
この報告で我々 が「短期・中期改善実施項目」として提案し た主な内容は以下の通りである。
❶現場管理者(&営業担当者)研修の実施 ❷担当取締役の交替 ❸「5S」の徹底 ❹物流現場管理指標の設定 ❺保管ロケーションの明確化 ❻他社センター見学の実施 ❼現場に時計を設置 ❽「協議→決定→実施→修正」サイクルのスピー ドアップ ❾パート評価制度の作成 「❶研修の実施」は、現場管理者よりもむしろ、 営業担当者にこそ必要な施策であった。
A社 のセンター作業が混乱する最大の原因は、営業 の“無責任受注”にあったからだ。
M取締役 が説明したように、A社の営業は受注の際に、 センターとの打合せをほとんど行っていなかっ た。
業務内容やインフラのキャパシティ、開始 時期などについて現場と充分な確認を取らな いまま受託を進めていた。
その結果として、キャパオーバーを招き、現 場からは悲鳴に近い声が常に上がっていた。
ス ペースの足りない状況で業務を処理しなければ ならないことが、誤出荷や出荷遅れ、破損といっ たトラブルを発生させていた。
これを改善する には、何より営業が、物流センターを運営する ために、どのようなことを確認する必要があ るのかを分かっていなければならない。
「❷担当役員の交替」も必須だった。
物流事 業の担当役員のD取締役は、S社長の側近と して創業時代から苦楽を共にしてきた功労者 だ。
またD取締役はセンターを増設するたびに その責任者となって本社とセンターを行き来し てきた。
しかし、これまで物流を本格的に学 んだことはなく、自己流の手探りで管理を行っ てきた感は否めない。
そのため改善といっても どこから手をつけてよいかわからない。
部下 からの提案や営業からの要望を的確に判断し、 スピーディに行動に移すこともできずにいた。
率直に言って、D取締役の能力と資質は、 A社のセンター業務の品質を落とす原因の一つ となっていた。
利益が出ていないため、経費 を削減する。
それも業務の改善によってコスト ダウンするのではなく、業務に必要なラックや 手袋、消耗品といったものまでも購入させな いといった悪循環を招いていた。
❸の「5S」の必要性は言うまでもないだろう。
「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」のうち、 まずは「整理、整頓、清掃」の「3S」運動、 美化運動から開始することにした。
その効果が最も早く現れたのは、物静かで 気の弱そうな責任者が管理する「第五センター」 であった。
失礼ながら、強いリーダーシップを 発揮できるタイプにはとても見えなかった。
そ こで、いち早く効果を上げることのできた理 由を、その責任者に尋ねてみた。
すると「美化運動は、まずは自分でほうき を持って動き出したところ、振り返るとパート さんたちもほうきを持っていました。
反対に、 作業の工夫に関しては自ら動かず、みんなの意 見を聞くことにしました」という。
模範解答 である。
実際、この率先垂範と権限委譲をは 73 FEBRUARY 2008 き違えている管理者は多い。
不動在庫は物流会社も儲からない 「整理」の一環として、要らないものを捨てる、 いわゆる“不動在庫”にもメスを入れた。
スペー ス不足は返品や不良在庫などが現場にあふれ ていることも理由の一つだった。
そこで、営 業部隊を三つのチームに分け、順番にセンター に出向かせて、担当する顧客の在庫を自分の 目で確認させた。
そして、在庫の処分につい て顧客と話し合わせたのである。
営業マンのなかには不動在庫であっても、預 かっていれば保管料が請求できるからでは良い ではないかと考えているものもいた。
間違い である。
A社のように常にキャパオーバーとなっ ているセンターでは不動在庫は不利益になる。
荷主だけでなく物流企業にとっても、利益に つながるのは、入・出庫料の見込める荷動き のある商品なのだ。
不動在庫は荷主、物流会 社双方にとって可能な限り早く処分するのが得 策である。
これらの「整理」に加え、多段積みのできる「ネ ステナー」などのラックを、費用の一部を荷主 に負担してもらい導入した。
二六〇基を購入し、 一〇〇基をレンタルして計三六 〇基を確保した。
高さを活かせ るようになったことで収納能力 は約三六%アップした。
「スペー スがない」という声は次第に小 さくなっていった。
❻の「他社センター見学の実 施」は今のところ後回しになっ ている。
しかしA社に限らず、 ほとんどの物流会社、特にセン ター運営を行っている会社は“井 の中の蛙”となっている。
他社 のセンターを見て視野を広げる こと、ひき出しの数(解決方法 の種類)を増やすことは、有効 な教育方法の一つである。
❾の「パート評価制度の作成」 はA社の大きな財産になった。
事前調査のヒアリングで各セン ターの現場リーダーに「どうす れば現場が良くなると思うか」という質問を投 げかけたところ、「パートの時給が安いから優 秀な人が入ってこない。
時給を上げるべきである」 という意見が多く出ていた。
A社の経営陣も それを一部認めていた。
しかし、それだけでは根本的な改善にはな らない。
時給を上げれば確かにパートは集まり やすくなるが、それは十分条件ではない。
む しろパートが自分の仕事ぶりを会社側に適正に 認めてもらっていると実感できる“シクミ”の ほうが重要なのである。
そのことを我々は主 張し、パートの評価制度を別表のように作成し、 運用に移したのである(図1)。
我々が改善に着手した段階で、荷主からの クレームはピークに達していた。
そのまま放置 していれば業者切り替えの憂き目にあっていた ことは十分に想像できる。
既にA社にとって 物流事業は事実上、主業の一つになっている。
経営に与えるダメージは計り知れないものになっ ていたはずだ。
物流事業は素人が片手間で運 営できるほど甘くはない。
その一方でA社がいまだ中小企業に不況感 が残る中で毎年二桁増のセンター売り上げを作っ ていることも、また事実である。
物流専業者 にとって、これは驚異だろう。
物流専業者の 多くは現在、現場運営の品質を落とさないよ うに受注活動を控える傾向にある。
それに逆 行するかたちでA社は事業を拡大した。
それ が単なるビギナーズラックなのか、それとも物 流業の営業戦略として有効であるのか、現時 点では判断できない。
三年後、五年後にその 答えは出ているであろう。
図1 パートタイマー 職能要件書(研修者) 所 属 評価基準 氏 名 S A B C D 考課者名 きわめて 優れていた優れていた普通だったやや 劣っていた劣っていた ?遅刻、欠勤は多くなかったか ?無断欠勤は無かったか ?勤務時間中は真面目に仕事に取り組んだか ?同僚との人間関係に気を配り、仲良く仕事をしたか ?一人よがりや身勝手な行動は無かったか ?職場の和を大切にしたか ?指示された仕事を最後まで責任を持って処理したか ?日頃から仕事に対する責任感があったか ?自分の言いたい事を簡潔に表現できるか ?自分の意志を的確に相手に伝える事ができるか ?日々の通常業務に必要な知識を身につけていたか ?社員の指示や、リーダーの指示を正しく理解できるか 考課項目着眼点自己評価 態度考課能力考課成績考課 勤務態度 業務知識 協調性 責任性 理解力 仕事の 正確さ 仕事の 速さ 表現力 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 考課者 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 合 計( 満点) 点点
その影響からか多くの 人が、大手荷主の元請け仕事はほとんどを物 流子会社か3PLが受託していると思い込ん でいるようだ。
しかし、物流市場の裾野は意 外と広い。
「そんな会社が?」という、物流業 界では名の知られていない会社が優良荷主の物 流をつかんでいるケースは決して珍しくない。
私の知る限りでも、麺の卸を主業とする会社 が小売りの一括物流センターの運営を手広く受 託しているケースや、業務用の消耗副資材を販 売している会社が物流事業を手がけているケー ス、あるいは本業で大きな市場シェアを持つ大 手日用雑貨卸や食品卸なども物流事業に参入 し、コア事業の一つとして育成している。
今回はそのように物流を主業としておらず、 事業の一環として展開しながら、優良荷主の 物流センター業務などを担っている中堅企業を ご紹介したい。
印刷業を主業とするA社である。
現在、通販会社や印刷会社など荷主計七〇社 から物流業務を受託している。
同社の創業者でもある現社長が印刷物の卸 業を営む中で、顧客から印刷物をしばらく預かっ て欲しいという依頼を受けることがままあり、 既存の倉庫に不満を持っている顧客が多いとい う点に目をつけて、物流をサービスの一つに加 えたという経緯である。
同社の物流事業の売り上げはこのところ好 調で、今期に入ってからは前年同月比で一三五% という実績で推移している。
今では年商約三 〇億のうち物流事業の売り上げが約三分の一 を占めるまでに至っている。
そんなA社の二代目、現社長の息子で次期 社長として事実上事業を承継しているM取締 役から、我々日本ロジファクトリーに連絡が入っ た。
「物流事業で顧客からのクレームが絶えな い」、「素人集団では限界が来ているため専門 家から意見、提案をもらい、早急に改善を行 いたい」とのことであった。
早速、A社の本社を訪れた。
対応してくれ たのはM取締役と営業部長のT氏だ。
この二 人が、同社の物流事業の限界を最も強く感じ ている今回のプロジェクトのキーマンであった。
A社では物流センターを流通加工の“加工場” という意味で“工場”と呼んでいる。
“工場” は本社から車で一時間半の距離の同じエリア内 に現在、五カ所を展開しているという。
そこ で現場視察に向かう車中で二人から具体的なク レーム内容や現在の管理レベルなど、種々のヒ 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第61 回 主業から派生するかたちで物流事業を手がけるA社。
売 上規模は拡大しているものの利益が出ない。
クレームも多 発していた。
キャパを無視して無理な受託に走る営業、物 流管理のプロを欠いた現場運営。
副業として物流事業を続 けるのは限界に来ていた。
物流事業を副業にするA社の改善 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、8 9年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp FEBRUARY 2008 72 アリングを行うことにした。
管理者不在で荒れた現場 A社は輸配送を全て外注し、業務をセンター 運営にほぼ特化している。
一部、専門業者顔 負けのコールセンターまで運営しているという。
部隊編成は社員が二四人、パートが約一〇〇人。
派遣スタッフはゼロ。
社員とパートによる自前 運営である。
この体制で売り上げこそ伸びて いるものの、利益が出ていなかった。
ヒアリングによれば、次のような状況にある という。
?本社とセンターとの情報共有化、連 携が不十分である。
?営業部隊は現場である センターとの打合せ、事前確認などをほとんど 行わず受託を行っている。
?センター運営にお ける管理について現場リーダーをはじめ社内に 誰一人、物流のプロと呼べる人材がいない。
マネジメントの欠如は明らかだだった。
現場は案の定、我々が過去に視察したなか でもワースト5に入るほどの荒れかたであった。
空きダンボールやパレットが散在し、いたると ころで埃を被った商品が荷崩れを起こしている。
他社の物流マンが見れば、誰もが自分の仕事ぶ りに自信を持ってしまうところだろう。
我々は、この日のほかに、二回の視察を行 うことにした。
一回目は五つの物流センターの 視察と現場リーダーのインタビュー。
そして二 回目を課題、問題点の検証作業にあてるとい う段取りである。
この二回の現場視察および 調査の後、改めてA社の本社を訪れ、創業者 のS社長に対して報告を行った。
この報告で我々 が「短期・中期改善実施項目」として提案し た主な内容は以下の通りである。
❶現場管理者(&営業担当者)研修の実施 ❷担当取締役の交替 ❸「5S」の徹底 ❹物流現場管理指標の設定 ❺保管ロケーションの明確化 ❻他社センター見学の実施 ❼現場に時計を設置 ❽「協議→決定→実施→修正」サイクルのスピー ドアップ ❾パート評価制度の作成 「❶研修の実施」は、現場管理者よりもむしろ、 営業担当者にこそ必要な施策であった。
A社 のセンター作業が混乱する最大の原因は、営業 の“無責任受注”にあったからだ。
M取締役 が説明したように、A社の営業は受注の際に、 センターとの打合せをほとんど行っていなかっ た。
業務内容やインフラのキャパシティ、開始 時期などについて現場と充分な確認を取らな いまま受託を進めていた。
その結果として、キャパオーバーを招き、現 場からは悲鳴に近い声が常に上がっていた。
ス ペースの足りない状況で業務を処理しなければ ならないことが、誤出荷や出荷遅れ、破損といっ たトラブルを発生させていた。
これを改善する には、何より営業が、物流センターを運営する ために、どのようなことを確認する必要があ るのかを分かっていなければならない。
「❷担当役員の交替」も必須だった。
物流事 業の担当役員のD取締役は、S社長の側近と して創業時代から苦楽を共にしてきた功労者 だ。
またD取締役はセンターを増設するたびに その責任者となって本社とセンターを行き来し てきた。
しかし、これまで物流を本格的に学 んだことはなく、自己流の手探りで管理を行っ てきた感は否めない。
そのため改善といっても どこから手をつけてよいかわからない。
部下 からの提案や営業からの要望を的確に判断し、 スピーディに行動に移すこともできずにいた。
率直に言って、D取締役の能力と資質は、 A社のセンター業務の品質を落とす原因の一つ となっていた。
利益が出ていないため、経費 を削減する。
それも業務の改善によってコスト ダウンするのではなく、業務に必要なラックや 手袋、消耗品といったものまでも購入させな いといった悪循環を招いていた。
❸の「5S」の必要性は言うまでもないだろう。
「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」のうち、 まずは「整理、整頓、清掃」の「3S」運動、 美化運動から開始することにした。
その効果が最も早く現れたのは、物静かで 気の弱そうな責任者が管理する「第五センター」 であった。
失礼ながら、強いリーダーシップを 発揮できるタイプにはとても見えなかった。
そ こで、いち早く効果を上げることのできた理 由を、その責任者に尋ねてみた。
すると「美化運動は、まずは自分でほうき を持って動き出したところ、振り返るとパート さんたちもほうきを持っていました。
反対に、 作業の工夫に関しては自ら動かず、みんなの意 見を聞くことにしました」という。
模範解答 である。
実際、この率先垂範と権限委譲をは 73 FEBRUARY 2008 き違えている管理者は多い。
不動在庫は物流会社も儲からない 「整理」の一環として、要らないものを捨てる、 いわゆる“不動在庫”にもメスを入れた。
スペー ス不足は返品や不良在庫などが現場にあふれ ていることも理由の一つだった。
そこで、営 業部隊を三つのチームに分け、順番にセンター に出向かせて、担当する顧客の在庫を自分の 目で確認させた。
そして、在庫の処分につい て顧客と話し合わせたのである。
営業マンのなかには不動在庫であっても、預 かっていれば保管料が請求できるからでは良い ではないかと考えているものもいた。
間違い である。
A社のように常にキャパオーバーとなっ ているセンターでは不動在庫は不利益になる。
荷主だけでなく物流企業にとっても、利益に つながるのは、入・出庫料の見込める荷動き のある商品なのだ。
不動在庫は荷主、物流会 社双方にとって可能な限り早く処分するのが得 策である。
これらの「整理」に加え、多段積みのできる「ネ ステナー」などのラックを、費用の一部を荷主 に負担してもらい導入した。
二六〇基を購入し、 一〇〇基をレンタルして計三六 〇基を確保した。
高さを活かせ るようになったことで収納能力 は約三六%アップした。
「スペー スがない」という声は次第に小 さくなっていった。
❻の「他社センター見学の実 施」は今のところ後回しになっ ている。
しかしA社に限らず、 ほとんどの物流会社、特にセン ター運営を行っている会社は“井 の中の蛙”となっている。
他社 のセンターを見て視野を広げる こと、ひき出しの数(解決方法 の種類)を増やすことは、有効 な教育方法の一つである。
❾の「パート評価制度の作成」 はA社の大きな財産になった。
事前調査のヒアリングで各セン ターの現場リーダーに「どうす れば現場が良くなると思うか」という質問を投 げかけたところ、「パートの時給が安いから優 秀な人が入ってこない。
時給を上げるべきである」 という意見が多く出ていた。
A社の経営陣も それを一部認めていた。
しかし、それだけでは根本的な改善にはな らない。
時給を上げれば確かにパートは集まり やすくなるが、それは十分条件ではない。
む しろパートが自分の仕事ぶりを会社側に適正に 認めてもらっていると実感できる“シクミ”の ほうが重要なのである。
そのことを我々は主 張し、パートの評価制度を別表のように作成し、 運用に移したのである(図1)。
我々が改善に着手した段階で、荷主からの クレームはピークに達していた。
そのまま放置 していれば業者切り替えの憂き目にあっていた ことは十分に想像できる。
既にA社にとって 物流事業は事実上、主業の一つになっている。
経営に与えるダメージは計り知れないものになっ ていたはずだ。
物流事業は素人が片手間で運 営できるほど甘くはない。
その一方でA社がいまだ中小企業に不況感 が残る中で毎年二桁増のセンター売り上げを作っ ていることも、また事実である。
物流専業者 にとって、これは驚異だろう。
物流専業者の 多くは現在、現場運営の品質を落とさないよ うに受注活動を控える傾向にある。
それに逆 行するかたちでA社は事業を拡大した。
それ が単なるビギナーズラックなのか、それとも物 流業の営業戦略として有効であるのか、現時 点では判断できない。
三年後、五年後にその 答えは出ているであろう。
図1 パートタイマー 職能要件書(研修者) 所 属 評価基準 氏 名 S A B C D 考課者名 きわめて 優れていた優れていた普通だったやや 劣っていた劣っていた ?遅刻、欠勤は多くなかったか ?無断欠勤は無かったか ?勤務時間中は真面目に仕事に取り組んだか ?同僚との人間関係に気を配り、仲良く仕事をしたか ?一人よがりや身勝手な行動は無かったか ?職場の和を大切にしたか ?指示された仕事を最後まで責任を持って処理したか ?日頃から仕事に対する責任感があったか ?自分の言いたい事を簡潔に表現できるか ?自分の意志を的確に相手に伝える事ができるか ?日々の通常業務に必要な知識を身につけていたか ?社員の指示や、リーダーの指示を正しく理解できるか 考課項目着眼点自己評価 態度考課能力考課成績考課 勤務態度 業務知識 協調性 責任性 理解力 仕事の 正確さ 仕事の 速さ 表現力 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 考課者 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 S 10 A8 B8 C4 D2 合 計( 満点) 点点
