ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年2号
特集
物流企業番付平成20年版 宇徳

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

宇 徳 ──不採算事業からの撤退を機に成長軌道へ 老舗物流業の体質を改善 ──二〇〇四年三月期を境にして業績が好転して います。
 「九〇年代後半から二〇〇〇年初頭にかけては赤 字の時代が続きました。
そこで〇三年にかなり思い 切ったリストラを実施したんです。
最初に手をつけ たのは、不採算業務の整理です。
なかでも最もイン パクトが大きかったのは、東京港の『青海青果セン ター』の撤収でした」  「輸入バナナを扱うために九〇年代の中頃に建設 したセンターでした。
ところが荷主の事情で肝心の バナナが入ってこなくなってしまった。
他の葉モノ 野菜などでスペースを埋める努力はしていましたが、 年間五億円もの赤字を出していた。
バナナの燻蒸や 熟成をする前提で設計した施設だったため、ドライ 倉庫に転用することもできなかった。
しかし土地の 賃貸は三〇年契約で、解約すればキャンセル料が発 生します。
建物の解体費用も必要です。
撤退すると なると何十億もの損失が出てしまうので、手を付け られなかった」 ──上場企業ですから債務超過にするわけにもい かない。
 「一方で、会社は横浜の新山下に土地を持ってい ました。
戦後まもなく取得した簿価の低い土地で、 大きな含み資産となっていた。
既に港湾としての機 能は本牧や大黒に移っていましたから、賃貸に回し ていました。
放っておいても毎年一定の賃貸料があ がるのですから、社内では虎の子のように扱われて いました。
しかし、本業とは関係がない。
そこでこ れを売却し、青果センターの損失を補填しました」 ──反対もあったのでは。
 「不採算業務をやめるといっても、担当者はなじ みのあるお客さまの仕事は当然続けたいと思いますし、 仕事に対する情熱もあります。
しかし、私自身はも ともと外部の人間ですから、外から来た強みという ものもありました」 ──中川社長は商船三井の出身でしたね。
 「正確には商船三井のシステム会社から〇二年に専 務として着任しました。
業種は違いますが船社出身 ですから港湾のことは基本的にはわかっていました。
しかし物流事業に関しては白紙に近かった。
その後、 専務を三年務め、リストラを実行しましたが、その 間に宇徳の潜在力は非常に高い、潜在力を活性化さ せれば成長する、と確信するようになりました」 ──具体的にはどのような潜在力でしょうか。
 「顧客から持ち込まれた案件に何でも対応できる。
例えば工場から港までのコンテナの陸送、船積み手配、 通関、保管、港湾での荷役、海外の最終仕向地まで の陸送のアレンジ、納入も含めて、トータルで一貫 輸送する能力がある。
大型機械の据え付けもできる。
要望があれば、すべて実行できる」  「顧客からの信頼も厚い。
港湾運送の事故率も低 く、関東地域では絶対負けないという自負がありま す。
物流、プラント、港湾運送の荷役全体で高い能 力を持っている。
数百トンから数千トンの重量物を ミリ単位で動かし、所定の場所に据え付ける設備と ノウハウも持っている」 ──そんな会社の業績がなぜ悪化したのでしょう。
 「顧客のために契約外のところまで要望があれば 対応していたり、倉庫が空いていれば採算を度外視 して、スペースを埋めることだけが目的になってい たところがありました。
青果センターをはじめとす る不採算事業という重しをいくつも抱えてしまって  商船三井グループの物流会社。
1990年代後半から2000年 初頭にかけては業績の低迷が続いた。
03年に不採算事業か らの撤退などリストラを断行。
採算重視に大きく舵を切った。
これによって事業規模はいったん縮小したが、社内の意識 が大きく変化した。
その後は一定の利益率を維持しながら 業績を拡大している。
        (聞き手・梶原幸絵) 宇徳 中川浩之 社長 注目企業トップが語る強さの秘訣総合15位 FEBRUARY 2008  22 いた。
そこでリストラによって会社にのしかかって いた重しをとった。
売り上げ偏重をやめて採算管理 の意識を浸透させるようにしました」  「不採算事業からの撤退で〇二年三月期から〇四 年三月期までは売上高が減少しました。
しかし、そ の後の浮上はそれほど難しくなかった。
どうすれば 利益が出せれば、皆わかってきます。
そして実際に 利益を出せばいいことがあるということもわかって くる。
自然と社内のやる気も出てきます」  「〇五年には一〇年三月期に売上高五〇〇億円、 経常利益三〇億円、当期利益一五億円を目標とす る五カ年計画を策定しました。
〇五年三月期の売上 高は三五三億円でしたから、ほとんどの社員は不可 能だと思っていたようです。
しかし、それも現実に 視野に入ってきました」 ──今期(〇八年三月期)の見通しは。
 「期初予想の売上高四三〇億円、経常利益二七億 円、当期利益一六億円に限りなく近い数字にできそ うです。
今年上半期は新潟県中越沖地震の影響でプ ラントの仕事がストップしてしまいました。
その影 響から上半期は減益でしたが、現在は復旧作業が始 まり、当社の業績面でもかなりリカバリーできてい ます。
そのほかに、新しい業務の開拓も進んでいます」 売上高一〇〇〇億円を目標に ──そうなると利益面では五カ年計画の目標を今 期でほぼ達成してしまうことになる。
 「利益だけでなく、売り上げも達成したい。
個人 的には一〇〇〇億円を目指しています。
ただし売上 至上主義に陥るのを避けるためにも、五〇〇億円を 中間地点の目標として設定しました」 ──目標を実現するためには何が必要ですか。
 「これまで部署ごとに縦割りで行っていた個々の サービスを横につなげ、広げる努力を進めています。
例えば輸入通関と納入だけだった仕事に据え付けや、 海外現地法人からの一貫輸送の提案を行いつなげて いく、ということです。
輸送、通関、据え付けなど、 それぞれの業務はどこをとっても他社に負けていま せん。
これまでの業務をもう一度別の角度から見直し、 個々の案件での作業領域を拡大し、相乗効果により 伸ばしていきたい。
港湾運送、物流、プラントを一 連の流れで、リンケージさせる。
いわゆるワンストップ・ ショッピングです」 ──景気の先行きには不透明感が出ています。
円 高も進んでいます。
株式市場で宇徳は輸出関連銘 柄の一つとして扱われていますが、業績への影響 をどのようにみていますか。
 「当社の事業は輸出物流だけではありません。
輸 出入ともに取り扱っているので、円高で輸出が減少 しても、輸入が増えれば当社の仕事は減らない。
実 際、当社が横浜港とともにベースにしている東京港 の外貿コンテナ取扱量は、景気と関係なく伸び続け ています」 ──日本の港湾は地盤沈下が指摘されていますが。
 「確かにアジアの主要港と比較すると一港当たり の規模と増え方がまったく違うため、世界における シェアは低下しています。
ただし、日本港湾全体の コンテナ取扱量自体は少しずつ増えている。
このため、 港湾運送業は皆堅調が続いています」  「港湾運送事業、物流事業と並ぶ当社の三本柱の ひとつであるプラント事業も今後数年間は堅調に推 移すると見ています。
海外で行っている石油関連の 業務は、原油が暴落しない限り堅調が続く。
環境的 な懸念は少ないとみています」 三井物産の持ち株売却で商船三井の連結子会社に  1890年、宇都宮徳蔵回漕店として創業。
1949年からの社名「宇 徳運輸」を昨年、「宇徳」に変更し、総合物流を全面に打ち出した。
 国内では関東地方を中心としてネットワークを持ち、海外では米国、 タイ、シンガポール、マレーシア、中国、ベトナムに拠点を展開。
海外ネッ トワークも生かした一貫輸送を行う。
港湾運送事業では東京港、横浜港、 千葉港を中心にコンテナ船、自動車専用船、在来船などの荷役とター ミナルオペレーションを行い、東京港と横浜港では、商船三井のグルー プ会社とともに商船三井の専用コンテナターミナルを運営している。
 商船三井と三井物産がそれぞれ2割の株式を所有していたが、 2005年、三井物産が商船三井に持ち株の一部を売却。
06年に商船 三井がTOBを行い、連結子会社化した。
 大型機械などの輸送、保繕、構内作業などを行うプラント事業では、 発電所、化学工業のプラント建設や橋梁工事の実績が高く、特に重量 物輸送は大きな強み。
同分野のノウハウを持つのは、国内では宇徳と 日本通運、山九、上組に限られている。
04年3月期のプラント事業 の売上高比率は15.3%だったが、07年3月期には21.2%に高まっ ている。
本誌解説 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 01 年3月期 02 年3月期 03 年3月期 04 年3月期 05 年3月期 06 年3月期 07 年3月期 30 25 20 15 10 5 0 -5 (単位:億円) 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 図1 宇徳の業績推移 23  FEBRUARY 2008 特 集《平成20 年版》

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