2008年3月号
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荒井伸也 オール日本スーパーマーケット協会 会長 (作家・安土敏)

MARCH 2008  2 らには大量に売れても店頭から商品 がなくならないように、バックヤード の加工作業の効率を上げなければな らない。
これらのシステムをトータル で整えることで、初めて鮮度のいい 肉や魚を大量に売り続けることができ るようになる」 ──物流センターの機能としては?  「サミットでは八〇年代に二つの物 流センターを作りました。
売り場で商 品を陳列しているレイアウトに合わせ て、センターで商品をカートラックに 積み込み、そのまま店舗に納品する。
これによって店舗での仕分けが不要に なり、売り場に持って行けばすぐに品 出しできるようになりました」  「さらに陳列棚は商品の寸法をみ て、フェースと高さと奥行きを計算し、 全ての商品を外箱の一・五倍以上陳 列できるようにしました。
外箱単位 で陳列してしまうと品切れするまで 商品を補充しなくなってしまう。
あ るいは外箱より細かい単位で補充する と手間がかかる上にバックヤードにバ ラの商品がたまり、発注ミスを招く」  「こうした仕組みにしても、お手本 があったわけではありません。
店の 問題を解決するために、自然と出来 上がってきたんです。
考え方はトヨタ 生産方式と同じです。
在庫を最小に して、売れた分だけJIT納品する。
食品スーパーの物流力 ──ウォルマートやカルフールなど、 世界最強と謳われる流通外資が日本 市場では苦戦しています。
国内の大 手GMSも売上規模は拡大したもの の利益が出ない。
 「問題の一つはロジスティクスです。
生鮮品のロジスティクスができていな い。
ウォルマート流の欧米型のロジス ティクスは、家電や衣料品、雑貨品 には適していても生鮮品には全く向い ていない。
生鮮品のサイクルは時間単 位です。
他の商品のように一日単位 でロジスティクスを考えることはでき ない。
センターで集中加工して店舗に 配送していたら間に合わないんです」 ──しかし、この一〇年で日本のチェ ーンストアの多くが自前の物流センタ ーを持つようになりました。
これは 欧米の流通外資の影響です。
それ以 前は物流を問屋任せにしてきた。
 「そんなことはありません。
私が経 営に携わったサミットも含め、日本の 食品スーパーはそれ以前から自前の物 流センターを運営してきました。
チェ ーンオペレーションにしても世間では GMSの方が、レベルが上だと考え られているようですが、私に言わせ れば食品スーパーの方がはるかに上で す。
大きい会社が強い会社で、ノウ ハウも持っていると考えるのは大いな る錯覚です」 ──食品スーパーの物流とは?  「一九八〇年代の中頃に関西スーパ ーという会社が、初めて生鮮食品を 管理するシステムを開発しました。
そ れまでは生鮮品を扱う職人の個人技 に頼っていたために、食品スーパーは 個人商店の域を超えることができな かった。
しかし、生鮮品を管理する システムができたのを機に、全国各地 に強力なチェーンストアが誕生してい ったんです」 ──米国から学んだわけではない。
 「お手本はありませんでした。
日本 はおそらく食品スーパーを企業化して 軌道に乗せることが、世界で一番難 しい国です。
日本の消費者は鮮魚を 好むため、週に三回から六回、つま り毎日買い物をする。
そのため食品 スーパーは鮮度のいい肉や魚を常に店 頭に並べておかなくてはならない。
他 の国ではそこまでは求められない」 ──生鮮品を管理する仕組みとは?  「まずは常に温度を一定に保つ必要 がある。
商品を陳列する冷蔵ケースで の性能を極めて高いレベルに持ってい くと同時に、店舗の空調の風向きな ど運用にも細かな工夫が必要です。
さ 荒井伸也 オール日本スーパーマーケット協会 会長 (作家・安土敏) 「日本の小売市場は食品スーパーが先導する」  流通外資は日本の小売市場を理解していない。
GMSも自らの業 態を読み間違えた。
鮮度の良い食材を求めて毎日買い物に行く日本 人の消費行動が変わらない限り、日本ではこれから食品スーパーが 小売業態の王様になる。
そこでは生鮮品のロジスティクスが絶対的 な差別化要因になっている。
   (聞き手・大矢昌浩、柴山高宏) 3  MARCH 2008 一方で欧米型の物流センターは、まと め買いで規模のメリットを発揮するた めのものであって、チェーンオペレー ションの合理化とは意味合いが違う」 ──それでも規模の力は大きい。
 「製造業とのアナロジーで小売業を とらえると実態を見誤ります。
小売 業の競争というのは基本的に店舗間 の競争であって、経営規模で競争し ているわけではない。
実際、ダイエー があれだけ巨大化した時代でも、私 のいた食品スーパーには全く影響がな かった。
他のGMSの店舗とも同じエ リアで競合したけれど、本格的な競 争にはならなかった。
我々とは業態が 違うからです」 ──そうなると、GMSとはどんな 業態だと考えればよいのでしょうか。
 「その点で日本の学者やマスコミは ひどい考え違いをしています。
日本 のGMSというのは本質的には地方 都市の実質的な百貨店だったんです。
そもそも百貨店というのは都市化の 落とし子です。
昭和四〇年代に日本 全土が凄まじい勢いで都市化していっ た。
しかし五六年に施行された百貨 店法の規制があったため、地方には 百貨店を作れなかった。
その間隙を縫 って成長したのが日本特有のGMS です。
ところが日本の学者の多くは 百貨店法で百貨店と認められた店だ  「確かに六〇年代には、小売りはメ ーカーの流通支配を打ち破ることで大 きな成長を遂げました。
しかし今は 状況が違います。
国内の食品市場は GMSと食品スーパーで既に市場の過 半を占めています。
小売りの立場に いる私が言うのも変ですが、その強 大なバイイングパワーで圧力をかけら れたら、メーカーはたまらない」  「このまま小売業が巨大化していく ことで日本の製造業が破壊されてしま うことを私は危惧しています。
ヨーロ ッパのスーパーマーケットを見ればそ れが分かります。
鮮度は悪い、品揃 えも限られている。
しかも欠品だら け。
一握りの小売りが市場を独占し たことでそうなってしまった。
それで は新しい商品、新しいメーカーが育っ ていきません。
NBが消えることが 流通の進歩であるはずがない。
結局、 消費者のためになりません」 けが百貨店だと考えている」 ──その百貨店は、GMSより一足 早く低迷期を迎えました。
 「結局は百貨店法が百貨店から自主 MD(マーチャンダイジング)機能を 奪ってしまいました。
一方、GMS も、これまで成長を支えてきた衣料 品はユニクロやしまむらなどのカテゴ リーキラーに、日雑はドラッグストア に、家電は専門量販店にとられてし まった。
その結果、誰に何を売るの かが見えなくなってしまった。
日本の 都市化が進む過程での過渡的な業態 だったと思います」 ──GMSや百貨店はMDの回復を かけてPB(プライベートブランド) の開発に積極的に取り組んでいます。
 「小売業のPBには、やって意味の ある領域とない領域があります。
例 えばメーカーはなるべく容量を大きく したい。
納豆のメーカーであれば二、 三パックをセットにして売りたい。
売 る方にすれば、そのほうが効率はい い。
しかし消費者は一パックずつ買い たい。
そのように消費者の利便性と メーカー側の思惑が相反することが容 量の問題以外にも色々ある。
それを 小売りが解消するかたちのPBであ れば成立します」  「問題なのはメーカーの既存商品の ラベルを取り替えただけというPBで す。
実際にはこっちのほうが圧倒的 に多い。
メーカーにしてもNB(ナシ ョナルブランド)商品の価格は落とし たくない。
それでも、小売りのPB として売るのであれば目をつぶると いう動きにある。
他社の商品が店頭 に並ぶよりはマシという発想です。
そ れに乗じて小売りがNBそっくりのP Bを、三、四位くらいの劣位のメーカ ーに作らせる。
その結果、PBがN Bのシェアを獲っていく。
これでは一 種のゴマカシになります」 欧米化は進歩ではない ──それでもPBには消費者の立場 でNBの値上げと闘っているというイ メージがあります。
 「NBの値上げに歯止めを掛ける必 要があるのは分かります。
しかしN Bは国民にとって宝でもある。
小売 りが仕様書発注してメーカーよりも優 れた商品を作れると考えるのは誤りで す。
小売りができるのは、せいぜい 量の変更くらいです。
仮にPBがこ のまま増えていって、売り場の三割 〜五割を占めるようなことがあれば、 メーカーは新たな商品開発などできな くなってしまう」 ──今まで日本の流通はメーカーが支 配してきました。
その揺り戻しはあ っていいのでは。
あらい・しんや 一九三七年生まれ。
六〇年東京大学法学部卒。
同年、住友商事入社。
七〇年、サミットストア (現サミット)に転出。
六二年の創業以来赤字 経営だった同社を再建。
九四年、同社社長。
後、 会長、最高顧問。
二〇〇四年同社退社。
現在 はオール日本スーパーマーケット協会会長、日本 チェーンストア協会特別顧問を兼務。
また、安 土敏(あづち・さとし)のペンネームで、八一 年『小説流通産業』(講談社文庫)を上梓、小 説家としてデビュー。
後に『小説スーパーマーケ ット』と改題された同書は、伊丹十三映画『ス ーパーの女』の題材となった。

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