2008年3月号
ケース
ケース
現場改善 富士物流
MARCH 2008 48
現場改善
富士物流
トヨタ生産方式の導入で生産性が2倍に
改善続け業界トップの現場力を目指す
TPSを物流に落とし込む
富士物流の収益性が向上している。
二〇〇 七年三月期の業績は売上高が四一四億八八〇 〇万円で前期比四・九%増だったのに対して、 経常利益は五七・一%増の九億三八〇〇万円 と大幅に増加した。
直近の〇八年三月期第3 四半期も、売上高は三〇六億七四〇〇万円 で前年同期比〇・六%減だったが、経常利益 は七億九〇〇〇万円と三四・五%増えている (図1)。
従来は売上高が増加しても新規業務の立ち 上げ費用や営業活動の人件費がかさみ、減益 になることもあった。
それが〇七年三月期に 一変した。
〇四年から導入したトヨタ生産方 式(TPS)が効いている。
実際、同社では 〇八年三月期第3四半期のTPSによる合理 化効果を四億二七〇〇万円と弾いている。
富士物流は一九七五年、富士電機グループ の物流部門を分離・集約して創業した物流子 会社だ。
九二年、東証二部に上場。
近年は 「3PLのリーディングカンパニー」を目指し て外販の強化に取り組んでいる。
〇七年三月 期には外販比率が五〇%を超えた。
TPSの導入は、〇四年の豊田自動織機 との資本・業務提携を契機としている。
富士 電機ホールディングスの所有していた富士物 流の株式二六%を豊田自動織機が取得し、富 士電機HDに次ぐ第二位の株主に浮上。
ここ から富士物流のTPSに基づく現場力の強化、 業務の効率化が始まった。
TPSはムダを徹底的になくし、作り方の 工夫でコストを下げるというアプローチを基本 とする。
そして最も大きなムダは、売れる以 上にものを作ってしまうことだとされる。
そ のため一つの工場内でも、後工程で必要とし ないものは作らないという方針をとる。
そこ で前工程と後工程を同期化するツールとして 使用するのが「かんばん」だ。
考え方として はSCMとほぼ同様だが、ほかの会社とは徹 底する度合いが違う。
豊田自動織機出身で富士物流に赴任した稲 場泰雄常務は「例えば新しい自動倉庫や情報 システムにより、コストを下げることはでき る。
しかし、その後放っておくとコストは横 富士物流は豊田自動織機との資本・業務提携を 機に2004年、トヨタ生産方式( TPS)を導入した。
改善活動を現場に根付かせこの2年間で生産性は それまでの2倍に向上した。
目指すは業界トップの 現場力。
富士物流オリジナルのTPSモデルを作り出 上げようとしている。
1,200 1,000 800 600 400 200 0 (単位:百万円) 《売上高》 《営業利益・経常利益・純利益》 04年 3月期 05年 3月期 06年 3月期 07年 3月期 08年 3月期 (予想) 図1 富士物流の業績推移。
07年3月期から収益性が向上 売上高 純利益 営業利益 経常利益 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 49 MARCH 2008 ばい、または上がってしまうこともある。
こ れを放っておかずに、毎日現場を見てあらゆ るムダを探し、原因を追究して改善する、と いう日々の地道な改善を積み上げていくのが TPS」と説明する。
富士物流はTPSを進めていくため、〇四 年、本社にTPS推進室を設置した。
豊田自 動織機から富士物流の副社長として赴任した 水野義勝氏(現豊田自動織機副社長、富士物 流非常勤取締役)が陣頭指揮をとる一方、富 士物流から約三〇人を豊田自動織機の「TP S道場」に派遣。
実地でTPSを徹底的に学 んだ人員を現場に配置し、全社でTPSの推 進体制を整えた。
「パックンカレッジ」にTPS学部 〇六年に開始した中期経営計画にも、TP Sによる業務の効率化を盛り込んでいる。
そ のためにTPSを指導する二つの教育機関を 社内に設置した。
一つは豊田自動織機と同様 の「TPS道場」(写真1)。
現場レベルで教 育・改善活動を進めるための場だ。
京浜支社 に設置した後、全国の事業所に横展開してい った。
全社レベルでは、同年開設した社内教育機 関「パックンカレッジ」にTPS学部を設置 した。
パックンカレッジは現場力向上と人材 育成を目的に、グループの全従業員を対象と して教育を行う組織。
物流技術や営業実務、 管理実務などを学ぶ実務者育成コースの六学 部、実務者育成コースの修了者を対象とした プロ人材育成コースのセンター運営学部の計 七学部が開講しており、受講者は自分が携わ る業務と興味、予定に合わせて受講可能。
こ れまで延べ六〇〇人が受講した。
TPS学部 は実務者育成コースのうちの一学部。
そこで は、TPSの思想と基礎について体系的に学 ぶことができる。
TPSでまず取り組むのは、整理整頓。
必 要なものと不要なものを整理し、不要なもの は捨てる。
次に、必要なものはすぐに取り出 せるところに置く。
つまり、ものを使いやす くする。
例えば倉庫では出荷頻度の高いもの はすぐにピッキングできるように整頓する。
倉庫内には白線を引いている(写真2)。
手 順通りに作業を進めてものを置けば、そこか らはみ出すことはない。
はみ出せば異常とい うことになる。
つまり、異常が見える。
その 原因を追究する。
作業の手順に問題があれば それを修正し、白線の位置に問題があればベ ストな場所を検討して白線を引き直す。
作業手順書も、誰でもすぐに作業ができる よう全社で統一した。
注意事項や業務量など の各種指標もボードに貼り、情報を共有して いる(写真3)。
稲場常務は「パソコンのデー タを見なくても、今日の仕事が順調に進んで いるかが現場で作業をする人にもすぐわかる よう『目で見る管理』を進めた」と語る。
作業時間を二割短縮 TPSを最初に導入した京浜支社の京浜物 流センター(写真4)をみてみよう。
同セン ターは、TPSに中心となって取り組んでき たモデル的なセンターだ。
庫内では色と数字 を駆使し、誰でも何でも“一目でわかる”よ う、ものの配置にも人の動作のムダをなくす 工夫が凝らされている。
センターは二棟からなり、倉庫面積は計三 稲場泰雄常務取締役 写真1 京浜支社に設置したTPS道場写真2 倉庫内では白線を引き、もの 置き場所を決めている 写真4 京浜物流センター。
全国に先 駆け、TPSを導入した 写真3 貼り紙により、情報を共有 MARCH 2008 50 万四三〇〇平方メートル。
人員はパートなど も含めて二六七人。
情報機器の補給部品や電 機・電子機器、自動車関連通信販売品、自動 車部品、通販商品などを取り扱う。
このほか、 使用済みトナーの回収などの静脈物流も行っ ている。
一号棟の倉庫面積は一万九七〇四平方メー トル。
同棟三階と五階で行っている情報機器 の保守用部品の補給センター業務は、同セン ターで最も取扱高の大きな仕事だ。
二四時間 三六五日稼働し、部品点数は六万五〇〇〇 点。
全国のパーツセンターへの保守部品の供 給と首都圏向け緊急配送を行っている。
ここでは、出荷頻度の高いものは五階、そ れ以外は三階に置く配置換えを実施した。
保 管には電動ラックと保管棚を使い分け、一点 当たりの在庫量が多いものは電動ラックから 棚に適時補充し、ピッキングを行うかたちに している。
出荷伝票は時間ごとに細かく仕切った専用 の棚に差し込み、作業量がすぐにわかるよう に改めた(写真5)。
また人員管理表では、個 人のプレートに職能別に色分けしたシールを貼 った。
「どういう作業ができる人が、どこで 何をしているのかが、すぐにわかる」(京浜 支社京浜物流センターの稲塚哲也副所長)仕 組みだ。
このほかにもさまざまな改善を行っ た結果、作業効率が上がっただけでなくミス も減り、作業品質は大幅に向上した。
二号棟の倉庫面積は一万四六一八平方メー ッキングのミスを減らすため、保管棚を工夫し た。
保管棚の表示はエリア別に色分けされ、棚 の位置はわかりやすい。
しかし、棚そのもの は上下四段に分かれているだけで、それぞれ の段の左右を区別する仕切りはなかった。
こ のために、本来取るべき商品の隣からものを 取ってしまう、といったミスが出ていた。
そこで取り入れたのが、手作りの仕切りだ。
左右だけでなく、上下もすぐにわかるよう、上 下の仕切りには矢印を貼った(写真6)。
これ でミスは激減。
その上「初めての人も作業し やすいようにした結果、人の定着率も高くな った」(京浜支社京浜物流センターの河野恭一 所長)という。
今では定着率は九〇%以上だ。
ここまでみた活動はほんの一例に過ぎない。
ほかにもさまざまな改善を重ねた結果、富士 物流の倉庫の生産性は〇六年に比べ二倍と大 幅に向上し、業務量に応じた柔軟な人員投入 も可能になった。
TPS導入による効果は目 にみえて現れている。
もっともTPSは、一つの動作にかかる時 間を何秒縮めるか、歩く距離を何歩縮めるか、 トル。
この中にある電機・電子機器の商品セ ンターでは、一日当たり平均六〇〇〇件を集 荷している。
ただし、少ないときで四〇〇〇 件、多いときは一万件と処理量の変動が大き く、適正な人員投入がネックになっていた。
そこで一日三回、各セクションのリーダー がミーティングを行うことにした。
各作業の 遅れを調整し、早く作業を終えたセクション から遅れているセクションへ人員を投入する。
こうすることで、一年前は一日の延べ作業時 間は平均七七九時間だったが、五九九時間に 短縮し、生産性は格段に向上した。
品質も向上している。
人員配置表とともに 作業中のミスをボードに貼り出して記録。
各 工程内の不良データをとり、分析・改善する ことで、クレーム件数が減った。
パートからの提案を採用した例もある。
ピ 京浜支社京浜物流センタ ーの河野恭一所長 京浜支社京浜物流センター の稲塚哲也副所長 写真5 出荷伝票の保管棚。
時間ごと に細かく仕切られている 写真6 手作りの仕切りと矢印でピッキ ングミスは激減 といった地道な活動の積み重ねだ。
驚くよう な秘策があるわけではない。
導入すること自 体よりも、むしろ日々無駄を見つけることを 当たり前とする文化を根付かせることに難し さがあり、導入に失敗する企業も多い。
これについて稲場常務は「TPSを成功さ せるには、形だけで満足しないことが必要」 と指摘する。
製造業でも生産ラインにかんば んを入れるだけでは効果は続かず、常にかん ばんの枚数の調整が必要になる。
かんばんは ツールに過ぎず、多すぎれば中間在庫が増え るだけになる。
実のあるものにするためには、 常にムダ取りを続けなければならない。
次に必要なのは、トップの意識だ。
富士物 流の場合、中期経営計画の柱の一つにTPS を位置付けたように、小林道男社長自身が現 場力の強化に強い思い入れを持っている。
「物 流はサービス業であり、サービス業の要は現 場にある。
現場の一人ひとりが顧客を理解し、 最適なサービスを行う現場力を持たなければ ならない、との意識で取り組んでいる」(稲 場常務)。
さらに、「現地現場と全員参加」(同)。
現 場で皆で考え、実行する。
TPSを皆で共有 し、自ら実行するようにならなければ改善は 続かない。
現場の人間自らが動き出す 富士物流でも、導入当初は現場で理解を得 られないことがあった。
これまでのやり方を 変えることには抵抗もあるのが普通だ。
最初 にTPS導入の指揮をとった水野氏は全国の 現場を飛び回り、一年かけて活動を浸透させ た。
白線を引く意味、整理整頓の意味から説 き、一緒に改善を行う。
「全員がともに、“す ぐやる、必ずやる、達成できるまでやる”と いう合言葉で取り組んだ」(落合一夫取締役 京浜支社長、ロジスティクス技術室長、PM S品質・環境管理責任者)。
それまでとは違った方法でも実際やってみ て効果を実感すれば、現場の意識は変わる。
「TPSの目標は利益を出すことだが、同時 に現場の負担を軽減するものでもある」と稲 場常務は話す。
一方、TPS推進室のメンバーも、各現場 を回って問題を指摘し、現場の人間と一緒に 問題を解決した。
同じ現場は二つとなく、そ れぞれの事情は異なる。
人も違う。
教育を受 けた上でさまざまな現場に合わせた改善を行 った結果、メンバーには応用力がついた。
こうして現場の人間が、自ら動き出すよう になった。
〇六年頃からTPSは勢いが出始 め、「どんどん提案が出てくるようになった」 (稲塚副所長)。
日々の地道な改善により、大 きな効果が上がるようになった。
今後もたゆまぬ改善を続けるため、パック ンカレッジやTPS道場に加え、昨秋、小林 社長が全拠点の巡回を開始した。
一年に一度 は全拠点の巡回をしていく計画だ。
これで現 場からトップに直接、改善効果をアピールで きるようにもなる。
また、改善事例発表会や 社内表彰も定期的に行っている。
TPSは製造業の思想であり、製造業で培 われてきた生産方式だ。
これを物流業に導入 するには、物流用にアレンジする必要がある。
また、同じ物流業でも会社によって、現場に よって事情は異なる。
こうしてTPSは、そ れぞれの組織に根付けばそれぞれの組織の事 情に合わせて進化していく。
富士物流もオリ ジナルのTPSを作り出し、自社のノウハウ として、物流業界トップの現場力を目指し改 善を続けていく考えだ。
効率化への取り組みはTPSだけではない。
RFID(無線ICタグ)もその一つ。
「R FIDが普及してから取り組んでいたのでは 遅い。
将来を見据えてノウハウを蓄積してい る」(落合取締役)という。
昨年十一月には、 文書保管業務で実用化実験を開始した。
文書 箱の入庫、位置情報、出庫を管理し、顧客は ウェブ上での文書箱の検索と出庫オーダーが 可能になる仕組みだ。
富士物流と顧客の双方 で合理化と省力化を実現するため、効率と品 質の追求を続けている。
(梶原幸絵) 51 MARCH 2008 落合一夫取締役京浜支社長、 ロジスティクス技術室長、P MS品質・環境管理責任者
二〇〇 七年三月期の業績は売上高が四一四億八八〇 〇万円で前期比四・九%増だったのに対して、 経常利益は五七・一%増の九億三八〇〇万円 と大幅に増加した。
直近の〇八年三月期第3 四半期も、売上高は三〇六億七四〇〇万円 で前年同期比〇・六%減だったが、経常利益 は七億九〇〇〇万円と三四・五%増えている (図1)。
従来は売上高が増加しても新規業務の立ち 上げ費用や営業活動の人件費がかさみ、減益 になることもあった。
それが〇七年三月期に 一変した。
〇四年から導入したトヨタ生産方 式(TPS)が効いている。
実際、同社では 〇八年三月期第3四半期のTPSによる合理 化効果を四億二七〇〇万円と弾いている。
富士物流は一九七五年、富士電機グループ の物流部門を分離・集約して創業した物流子 会社だ。
九二年、東証二部に上場。
近年は 「3PLのリーディングカンパニー」を目指し て外販の強化に取り組んでいる。
〇七年三月 期には外販比率が五〇%を超えた。
TPSの導入は、〇四年の豊田自動織機 との資本・業務提携を契機としている。
富士 電機ホールディングスの所有していた富士物 流の株式二六%を豊田自動織機が取得し、富 士電機HDに次ぐ第二位の株主に浮上。
ここ から富士物流のTPSに基づく現場力の強化、 業務の効率化が始まった。
TPSはムダを徹底的になくし、作り方の 工夫でコストを下げるというアプローチを基本 とする。
そして最も大きなムダは、売れる以 上にものを作ってしまうことだとされる。
そ のため一つの工場内でも、後工程で必要とし ないものは作らないという方針をとる。
そこ で前工程と後工程を同期化するツールとして 使用するのが「かんばん」だ。
考え方として はSCMとほぼ同様だが、ほかの会社とは徹 底する度合いが違う。
豊田自動織機出身で富士物流に赴任した稲 場泰雄常務は「例えば新しい自動倉庫や情報 システムにより、コストを下げることはでき る。
しかし、その後放っておくとコストは横 富士物流は豊田自動織機との資本・業務提携を 機に2004年、トヨタ生産方式( TPS)を導入した。
改善活動を現場に根付かせこの2年間で生産性は それまでの2倍に向上した。
目指すは業界トップの 現場力。
富士物流オリジナルのTPSモデルを作り出 上げようとしている。
1,200 1,000 800 600 400 200 0 (単位:百万円) 《売上高》 《営業利益・経常利益・純利益》 04年 3月期 05年 3月期 06年 3月期 07年 3月期 08年 3月期 (予想) 図1 富士物流の業績推移。
07年3月期から収益性が向上 売上高 純利益 営業利益 経常利益 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 49 MARCH 2008 ばい、または上がってしまうこともある。
こ れを放っておかずに、毎日現場を見てあらゆ るムダを探し、原因を追究して改善する、と いう日々の地道な改善を積み上げていくのが TPS」と説明する。
富士物流はTPSを進めていくため、〇四 年、本社にTPS推進室を設置した。
豊田自 動織機から富士物流の副社長として赴任した 水野義勝氏(現豊田自動織機副社長、富士物 流非常勤取締役)が陣頭指揮をとる一方、富 士物流から約三〇人を豊田自動織機の「TP S道場」に派遣。
実地でTPSを徹底的に学 んだ人員を現場に配置し、全社でTPSの推 進体制を整えた。
「パックンカレッジ」にTPS学部 〇六年に開始した中期経営計画にも、TP Sによる業務の効率化を盛り込んでいる。
そ のためにTPSを指導する二つの教育機関を 社内に設置した。
一つは豊田自動織機と同様 の「TPS道場」(写真1)。
現場レベルで教 育・改善活動を進めるための場だ。
京浜支社 に設置した後、全国の事業所に横展開してい った。
全社レベルでは、同年開設した社内教育機 関「パックンカレッジ」にTPS学部を設置 した。
パックンカレッジは現場力向上と人材 育成を目的に、グループの全従業員を対象と して教育を行う組織。
物流技術や営業実務、 管理実務などを学ぶ実務者育成コースの六学 部、実務者育成コースの修了者を対象とした プロ人材育成コースのセンター運営学部の計 七学部が開講しており、受講者は自分が携わ る業務と興味、予定に合わせて受講可能。
こ れまで延べ六〇〇人が受講した。
TPS学部 は実務者育成コースのうちの一学部。
そこで は、TPSの思想と基礎について体系的に学 ぶことができる。
TPSでまず取り組むのは、整理整頓。
必 要なものと不要なものを整理し、不要なもの は捨てる。
次に、必要なものはすぐに取り出 せるところに置く。
つまり、ものを使いやす くする。
例えば倉庫では出荷頻度の高いもの はすぐにピッキングできるように整頓する。
倉庫内には白線を引いている(写真2)。
手 順通りに作業を進めてものを置けば、そこか らはみ出すことはない。
はみ出せば異常とい うことになる。
つまり、異常が見える。
その 原因を追究する。
作業の手順に問題があれば それを修正し、白線の位置に問題があればベ ストな場所を検討して白線を引き直す。
作業手順書も、誰でもすぐに作業ができる よう全社で統一した。
注意事項や業務量など の各種指標もボードに貼り、情報を共有して いる(写真3)。
稲場常務は「パソコンのデー タを見なくても、今日の仕事が順調に進んで いるかが現場で作業をする人にもすぐわかる よう『目で見る管理』を進めた」と語る。
作業時間を二割短縮 TPSを最初に導入した京浜支社の京浜物 流センター(写真4)をみてみよう。
同セン ターは、TPSに中心となって取り組んでき たモデル的なセンターだ。
庫内では色と数字 を駆使し、誰でも何でも“一目でわかる”よ う、ものの配置にも人の動作のムダをなくす 工夫が凝らされている。
センターは二棟からなり、倉庫面積は計三 稲場泰雄常務取締役 写真1 京浜支社に設置したTPS道場写真2 倉庫内では白線を引き、もの 置き場所を決めている 写真4 京浜物流センター。
全国に先 駆け、TPSを導入した 写真3 貼り紙により、情報を共有 MARCH 2008 50 万四三〇〇平方メートル。
人員はパートなど も含めて二六七人。
情報機器の補給部品や電 機・電子機器、自動車関連通信販売品、自動 車部品、通販商品などを取り扱う。
このほか、 使用済みトナーの回収などの静脈物流も行っ ている。
一号棟の倉庫面積は一万九七〇四平方メー トル。
同棟三階と五階で行っている情報機器 の保守用部品の補給センター業務は、同セン ターで最も取扱高の大きな仕事だ。
二四時間 三六五日稼働し、部品点数は六万五〇〇〇 点。
全国のパーツセンターへの保守部品の供 給と首都圏向け緊急配送を行っている。
ここでは、出荷頻度の高いものは五階、そ れ以外は三階に置く配置換えを実施した。
保 管には電動ラックと保管棚を使い分け、一点 当たりの在庫量が多いものは電動ラックから 棚に適時補充し、ピッキングを行うかたちに している。
出荷伝票は時間ごとに細かく仕切った専用 の棚に差し込み、作業量がすぐにわかるよう に改めた(写真5)。
また人員管理表では、個 人のプレートに職能別に色分けしたシールを貼 った。
「どういう作業ができる人が、どこで 何をしているのかが、すぐにわかる」(京浜 支社京浜物流センターの稲塚哲也副所長)仕 組みだ。
このほかにもさまざまな改善を行っ た結果、作業効率が上がっただけでなくミス も減り、作業品質は大幅に向上した。
二号棟の倉庫面積は一万四六一八平方メー ッキングのミスを減らすため、保管棚を工夫し た。
保管棚の表示はエリア別に色分けされ、棚 の位置はわかりやすい。
しかし、棚そのもの は上下四段に分かれているだけで、それぞれ の段の左右を区別する仕切りはなかった。
こ のために、本来取るべき商品の隣からものを 取ってしまう、といったミスが出ていた。
そこで取り入れたのが、手作りの仕切りだ。
左右だけでなく、上下もすぐにわかるよう、上 下の仕切りには矢印を貼った(写真6)。
これ でミスは激減。
その上「初めての人も作業し やすいようにした結果、人の定着率も高くな った」(京浜支社京浜物流センターの河野恭一 所長)という。
今では定着率は九〇%以上だ。
ここまでみた活動はほんの一例に過ぎない。
ほかにもさまざまな改善を重ねた結果、富士 物流の倉庫の生産性は〇六年に比べ二倍と大 幅に向上し、業務量に応じた柔軟な人員投入 も可能になった。
TPS導入による効果は目 にみえて現れている。
もっともTPSは、一つの動作にかかる時 間を何秒縮めるか、歩く距離を何歩縮めるか、 トル。
この中にある電機・電子機器の商品セ ンターでは、一日当たり平均六〇〇〇件を集 荷している。
ただし、少ないときで四〇〇〇 件、多いときは一万件と処理量の変動が大き く、適正な人員投入がネックになっていた。
そこで一日三回、各セクションのリーダー がミーティングを行うことにした。
各作業の 遅れを調整し、早く作業を終えたセクション から遅れているセクションへ人員を投入する。
こうすることで、一年前は一日の延べ作業時 間は平均七七九時間だったが、五九九時間に 短縮し、生産性は格段に向上した。
品質も向上している。
人員配置表とともに 作業中のミスをボードに貼り出して記録。
各 工程内の不良データをとり、分析・改善する ことで、クレーム件数が減った。
パートからの提案を採用した例もある。
ピ 京浜支社京浜物流センタ ーの河野恭一所長 京浜支社京浜物流センター の稲塚哲也副所長 写真5 出荷伝票の保管棚。
時間ごと に細かく仕切られている 写真6 手作りの仕切りと矢印でピッキ ングミスは激減 といった地道な活動の積み重ねだ。
驚くよう な秘策があるわけではない。
導入すること自 体よりも、むしろ日々無駄を見つけることを 当たり前とする文化を根付かせることに難し さがあり、導入に失敗する企業も多い。
これについて稲場常務は「TPSを成功さ せるには、形だけで満足しないことが必要」 と指摘する。
製造業でも生産ラインにかんば んを入れるだけでは効果は続かず、常にかん ばんの枚数の調整が必要になる。
かんばんは ツールに過ぎず、多すぎれば中間在庫が増え るだけになる。
実のあるものにするためには、 常にムダ取りを続けなければならない。
次に必要なのは、トップの意識だ。
富士物 流の場合、中期経営計画の柱の一つにTPS を位置付けたように、小林道男社長自身が現 場力の強化に強い思い入れを持っている。
「物 流はサービス業であり、サービス業の要は現 場にある。
現場の一人ひとりが顧客を理解し、 最適なサービスを行う現場力を持たなければ ならない、との意識で取り組んでいる」(稲 場常務)。
さらに、「現地現場と全員参加」(同)。
現 場で皆で考え、実行する。
TPSを皆で共有 し、自ら実行するようにならなければ改善は 続かない。
現場の人間自らが動き出す 富士物流でも、導入当初は現場で理解を得 られないことがあった。
これまでのやり方を 変えることには抵抗もあるのが普通だ。
最初 にTPS導入の指揮をとった水野氏は全国の 現場を飛び回り、一年かけて活動を浸透させ た。
白線を引く意味、整理整頓の意味から説 き、一緒に改善を行う。
「全員がともに、“す ぐやる、必ずやる、達成できるまでやる”と いう合言葉で取り組んだ」(落合一夫取締役 京浜支社長、ロジスティクス技術室長、PM S品質・環境管理責任者)。
それまでとは違った方法でも実際やってみ て効果を実感すれば、現場の意識は変わる。
「TPSの目標は利益を出すことだが、同時 に現場の負担を軽減するものでもある」と稲 場常務は話す。
一方、TPS推進室のメンバーも、各現場 を回って問題を指摘し、現場の人間と一緒に 問題を解決した。
同じ現場は二つとなく、そ れぞれの事情は異なる。
人も違う。
教育を受 けた上でさまざまな現場に合わせた改善を行 った結果、メンバーには応用力がついた。
こうして現場の人間が、自ら動き出すよう になった。
〇六年頃からTPSは勢いが出始 め、「どんどん提案が出てくるようになった」 (稲塚副所長)。
日々の地道な改善により、大 きな効果が上がるようになった。
今後もたゆまぬ改善を続けるため、パック ンカレッジやTPS道場に加え、昨秋、小林 社長が全拠点の巡回を開始した。
一年に一度 は全拠点の巡回をしていく計画だ。
これで現 場からトップに直接、改善効果をアピールで きるようにもなる。
また、改善事例発表会や 社内表彰も定期的に行っている。
TPSは製造業の思想であり、製造業で培 われてきた生産方式だ。
これを物流業に導入 するには、物流用にアレンジする必要がある。
また、同じ物流業でも会社によって、現場に よって事情は異なる。
こうしてTPSは、そ れぞれの組織に根付けばそれぞれの組織の事 情に合わせて進化していく。
富士物流もオリ ジナルのTPSを作り出し、自社のノウハウ として、物流業界トップの現場力を目指し改 善を続けていく考えだ。
効率化への取り組みはTPSだけではない。
RFID(無線ICタグ)もその一つ。
「R FIDが普及してから取り組んでいたのでは 遅い。
将来を見据えてノウハウを蓄積してい る」(落合取締役)という。
昨年十一月には、 文書保管業務で実用化実験を開始した。
文書 箱の入庫、位置情報、出庫を管理し、顧客は ウェブ上での文書箱の検索と出庫オーダーが 可能になる仕組みだ。
富士物流と顧客の双方 で合理化と省力化を実現するため、効率と品 質の追求を続けている。
(梶原幸絵) 51 MARCH 2008 落合一夫取締役京浜支社長、 ロジスティクス技術室長、P MS品質・環境管理責任者
