2005年1月号
判断学

西武鉄道は例外か?

奥村宏 経済評論家 西武鉄道は例外か? 第32回 JANUARY 2005 44株式の“名義借り”発覚をきっかけに、西武鉄道グループが糾弾を受けている。
しかし日本では、近代株式会社の原理に反して株式の売買が事実上制限されているケースが圧倒的に多い。
西武鉄道だけが特別なことをしていたわけではない。
株式の 名義借り 西武鉄道の株式が上場廃止され 堤義明率いる西武鉄道グル プが危機に追い込まれている 異母兄の堤清二が率いた西武セゾングル プは既に解体して 他人の手に渡 ており これで堤康次郎が一代で築きあげた西武王国は崩壊してしまうのではないか という観測もある 西武鉄道の大株主であるコクドとプリンスホテルが所有している株式の一部を従業員名義にしていたことが発覚した そこでその 名義借り 株式を小田急電鉄をはじめ約七〇社に持 てもら た その総額は六五〇億円という ところが 名義借り がばれて西武鉄道の株価が暴落 管理ポストに移された果てに上場廃止になり 西武鉄道株を肩代わりした七〇社は大損したのでコクドなどに買い戻しを求めている 西武鉄道が大株主の株式所有状況について有価証券報告書に虚偽の記載をし さらにそれが発覚したあと 事件が公表される前に株式を肩代わりしたのはインサイダ 取引にあたる これが上場廃止にな た理由だが しかし西武鉄道の大株主の 名義借り は四〇年以上も前から続いていた それがたまたま発覚したのは その前に西武鉄道が起こした総会屋事件を警察が調べているうちにわか たというのである そこであわてた西武鉄道が 名義借り の実態を公表したところから事件が起こ たというわけだ 株主の名義を他人名義にするということはそれほど珍しいことではない 現に西武鉄道の事件が起こ たあと 日本テレビをはじめ放送会社の大株主である読売新聞社などで会長や社長の個人名義にしていたということが発覚して問題にな ている このほかにも 名義借り が行われているケ スはかなりあるのではないか なにしろ西武鉄道は四〇年も前からや ていて それがばれなか たというのだから 戦前の財閥もや ていた西武鉄道がなぜ大株主の名義を肩代わりしていたのか 証券取引所に株式を上場する場合 大株主の持株比率を八〇パ セント以下におさえるという基準があるため それをごま化していたというのだが なによりもコクドという非上場会社が上場企業である西武鉄道を閉鎖的に支配しようとしていたところに問題の根本がある 堤義明がコクドの大株主で そのコクドが西武鉄道をはじめ西武鉄道グル プ各社の大株主にな て 西武鉄道グル プ全体を堤義明が支配する そのために株式の 名義借り をしていたというわけだが しかしこのような形で創業者 あるいはその家族が会社を支配するというのはなにも西武鉄道に限られた話ではない 戦前の日本の財閥はみなこんなやり方をしていた 三井合名 あるいは三菱合資が財閥本社として傘下の多くの会社の株式を所有し そして三井合名の出資者は三井家 三菱合資の出資者も岩崎家一族に限られていた さらにトヨタ自動車にしても松下電器にしても 豊田一族 あるいは松下一族が支配する同族会社だ たが それが大きくな たあとも同族会社的な色彩を持 たままである も とも同族会社が大きくなろうとすると同族支配がむずかしくなる なにより事業を株式会社にし そして株式を公開すると 個人やその家族がいつまでも大株主として会社を支配することがむずかしくなる トヨタ自動社にしても松下電器にしても 今では豊田家や松下家の持株はせいぜいのところ数パ セントでしかない そこで西武ではコクドというわずか資本金一億円の非上場会社が中核にな てグル プ全体を支配しようとした そのために 名義借り をしたというわけだが もし西武鉄道も株式を上場していなか たら 何も問題は起こらなか たはずである 45 JANUARY 2005同族による会社支配コクドが同族会社であることにはなんら問題はない 日本にはたくさんの同族会社があるし アメリカやイギリス フランスなどにも同族会社は多い もともと人間がなにか事業をはじめる時に個人 あるいは家族で企業を作る それはごく自然の人間のあり方で そのことを非難する理由はどこにもない ただ 問題はその企業を株式会社にし その株式を公開しておきながら それを個人あるいは家族が支配しようとするところにある そのために戦前の三井や三菱などの財閥は持株会社を作 て支配しようとした アメリカでは財団がそのために利用されているし 韓国でもそれが行われている 同族が支配している株式を財団に寄付し その財団を同族がコントロ ルするというやり方である 日本でもダイエ の中内社長が中内財団を作 たのがそれだし ほかにも学校法人などを使 ているケ スもある もし堤康次郎が堤財団を作 て そこに自分の持株を寄付し そしてその財団の理事長に息子の義明を任命していたら こんなことにはならなか ただろう ところが税金逃れのためにコクドという非上場会社を利用したところから問題が生じた あるいはもし西武グル プ各社で株式を相互に持ち合 ていたらどうなるか それは現在の三菱グル プや三井グル プと同じである 残念ながら西武グル プは三菱や三井ほど大きくはなか た そこから悲劇が起こ たのだが これはなにも西武グル プに限られた話ではない 株式は売買自由である というのが近代株式会社の原理である ところが日本の株式会社は株式を公開して 証券取引所に上場しているにもかかわらず 売買しない そして売買できない株式が圧倒的に多くな ている そこに問題があるのだ 西武鉄道は例外ではない おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷大学教授、中央大学教授を歴任。
日本は世界にも希な「法人資本主義」であるという視点から独自の企業論、証券市場論を展開。
日本の大企業の株式の持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判してきた。
近著に『会社はなぜ事件を繰り返すのか』(NTT出版)。
流通しない株式ということは 西武鉄道の株式を公開していながら それを堤義明個人が閉鎖的に支配しようとしたところに 問題があるということである 株式を公開して 証券取引所に上場するということは 誰でも自由にその株式を売買してよいということである 譲渡制限のついた株式は証券取引所に上場できないのである ところが西武鉄道の株式は東京証券取引所などに上場しているにもかかわらず コクドやプリンスホテルなどが圧倒的に多数の株式を所有しており 浮動株はほんの少ししかなか た 流通している株式がごくわずかしかないのだから 市場で少し買えばすぐに株価は上がる そこで西武鉄道の株価はバブル時代には八〇〇〇円もしていた 株価が上が て 一株当り配当 あるいは一株当り利益を基準にした価格より高くなれば売り物が出て株価は下がる これが市場メカニズムだが 市場で流通している株数が少なければ 株価は人為的に操作できる だからこそ証券取引所は浮動株基準を作 ているのだが しかしそれは機能していない 浮動株が少ないというのはなにも西武鉄道に限られた話ではない それどころか 日本の上場企業はほとんどすべて安定株主工作を行 て 市場から浮動株を吸い上げている それは株式の買占めによる会社乗 取りを防止するために行われているのだが この安定株主工作 それによる株式相互持合いによ て日本の上場会社の株式の圧倒的部分は流通しない株式 事実上の譲渡制限がついた株式にな ている このことを忘れて 西武鉄道だけをなにか特別の会社であるかのようにマスコミは報道しているが 当の新聞社やテレビ会社も同じようなことをしているではないか

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから