2008年3月号
特集

流通業の物流 「PBと圧倒的購買力がメーカーを襲う」直

MARCH 2008  22 「PBと圧倒的購買力がメーカーを襲う」 直接取引は拡大する ──流通業界の集約が進んでいます。
 「やはり最大の震源地はイオンです。
イオンが設立 した三つの機能会社(イオントップバリュ、イオン 商品調達、イオングローバルSCM)、これはイトー ヨーカドーグループの『グループマーチャンダイジン グ』と同様の取り組みをイオンが具現化するための グループ内の製造卸です。
イオンの場合、その規模 は食品だけでも合わせて二兆円以上に達する」  「その巨大な販売力を背景にして今後はPBを開 発し、またNBメーカーに対しても商談を一本化し ていくことになる。
これに対してメーカーや同業他 社はどのような態度をとるのか。
一年後、二年後に イオングループがどのような姿になっているのかを 今の時点で評価して、それにどう取り組むのかを判 断しておく必要がある。
それ次第でメーカーや同業 他社の今後の運命が決まると言っていい」 ──しかし、これまでのところ、イオンとメーカー との直接取引は当初予想されていたほど広がってい ません。
従来の卸チャネルを守ろうという意識がメ ーカー側にはいまだに根強く残っています。
 「これからは変わってきます。
そこでもPBが大 きなカギになってくる。
というのもPBの生産や エクスクルーシブ(限定商品)の依頼をメーカーが 蹴ってしまえばイオンは当然、次のメーカーに話を 持って行く。
そのメーカーが受けてしまえば、それ がそのまま棚割のフェイスに反映されることになる。
つまり依頼を断ったメーカーは店頭のスペースを失う。
とてもシンプルな理屈です」 ──それでもPBの生産に応じるのは下位メーカー でしょう。
トップメーカーは抵抗するはずです。
 「今後、イオンは恐らくトップメーカーから順に声 をかけていくはずです。
既に下着ではワコールがイ オン向けのエクスクルーシブブランドを展開している し、資生堂もエステ事業でイオンと協業を始めている」 ──しかし、メーカーはイオンと近づきすぎれば、 他のチェーンストア、例えばセブン&アイから距離を 置かれてしまう。
 「当然、そうなるでしょう。
その結果、大手チェ ーンストアによって川上のメーカー側が系列化され ていくことになる。
かつてメーカーが卸や小売りを 系列化したのとは全く逆の動きです」 ──現状ではメーカー側は、そこまで深刻な問題だ とは考えていないようです。
 「メーカーだけでなく、イオンの同業他社もそこま で深刻には事態を受け止めていないでしょう。
しか し既に他のスーパーとイオンでは原価率に大きな差 が付いている。
一〇ポイント近い差があります。
P Bの開発力も格段に違う。
その差は決定的です。
チ ェーンストアの自主独立など、もはや現実的ではあ りません」 ──イオンの業績を見る限り、GMSは苦戦してい ます。
二〇〇一年から進めてきた膨大な物流投資の 効果も決算数字には現れていません。
 「販管比率の改善効果というのは常に遅れて出て きます。
既に粗利はじわじわ改善しつつあります。
販管費にもいずれ効果は現れてくる」 ──GMSという業態自体の陳腐化という問題も抱 えています。
 「今回のイオンの取り組みで、ある程度は日本型 のGMSが復活することになるでしょう。
これまで GMSはアパレルやドラッグストアといったカテゴリ ーキラーに顧客を奪われてきました。
カテゴリーシ  イオンの“需要集約”は一般に考えられている以上のイ ンパクトを持っている。
その販売力は閾値を超えた。
もは やトップメーカーでさえイオンの前にひれ伏すしかない。
巨 大化した流通グループが市場を寡占化し、メーカーを系列 化する欧米型のサプライチェーンに、日本市場もシフトし ていく。
            (聞き手・大矢昌浩) 鈴木孝之 プリモリサーチジャパン 代表 Interview 23  MARCH 2008 特集 ェアで勝てなかったからですが、イオンは単純に販 売量を足し算すれば既に大手カテゴリーキラーとも 十分に戦える規模になっている。
ただし、これまで はそれが一元化されていなかった。
それを今回統合 して本格的な攻勢に出たわけです」 ──これでイオンが突出することになるのか、それ とも他の小売りも同じようにグループ化されていく のでしょうか。
 「このままいけばイオンだけが突出しますね。
し かし同業他社もそのままではやっていけない。
遅か れ早かれグループ化されていく」 ──その結果、日本も欧米市場のように数社で市場 を独占することになる。
 「時間の問題です。
その進み具合が遅いだけです」 ──しかし、それならばなぜウォルマート傘下の西 友があれだけ苦戦しているのでしょう。
 「ウォルマートの問題はまた違ったところにある。
ウォルマートの傘下に入る直前まで、西友は利益が 出ていました。
ところが提携した翌年から赤字転 落です。
リストラ費用があったにせよ、その後も赤 字が続いている。
ウォルマート化を優先するあまり、 それまでの西友の収益構造が完全に破壊されてしま った。
もともとウォルマートがメーンとする商材は 非食品です。
それに対して西友は売り上げの過半が 食品です。
そこに米国の非食材のロジスティクスや ITを持ち込めば当然、混乱を招く。
放っておいた ら西友は恐らく今でも利益が出ていたはずです」 ──しかし米国でもウォルマートはスーパーセンター の業態で生鮮品を扱っている。
それを日本で展開す るつもりなのでは。
 「スーパーセンターも日本のGMSの大型店も、ど ちらも買い物客はかなりの距離を歩かされる。
それ でも日本のGMSは消費者が飽きさせないような工 夫をしている。
アメリカのスーパーセンターはもっと 無機質です。
買い物に楽しみがない。
いくら価格が 安くても日本で受け入れられるのかは疑問です」 小売業界は一兆円企業同士の競争へ ──日本では生鮮品は中堅以下の食品スーパーが健 闘しています。
 「生鮮品が弱いと、中堅スーパーは生き残れませ んからね。
しかし、そうした食品スーパーには企業 としての発展性がない。
せいぜい数百億円レベルの 規模にしかならない。
成長の限界があるんです。
日 本の小売業界は既に一兆円レベルの産業になってい ます。
コンビニを見てください。
店舗は小さくても セブン─イレブン・ジャパンの店頭売上高は今や二兆 五〇〇〇億円にも達しています。
百貨店も単独で一 兆円時代に入っている。
家電量販店もヤマダ電機は 一兆円をはるかに超えてきています」  「つまり、ようやく日本の小売業が産業になって きた。
そのことと個店レベルの競争は全く別の話で す。
もともとスーパーマーケットというのは地場に 根付かないと競争に勝っていけない業態です。
それ はイオンやイトーヨーカ堂などの大手チェーンでも同 じで、店レベルでは中小のスーパーと同じように“ど ローカル”な運営をしていますよ」 ──そこは日本市場の特殊性でしょうか。
欧米の大 手チェーンストアは中央集権がきつく、とてもそこ まで“どローカル”な展開をしているとは思えません。
 「そうかも知れません。
同じ国の中でも地域性の 違いが大きい。
我々日本人でも、地元の人間でない とその土地の嗜好はなかなか理解できない。
外資と ってはとりわけ大きな壁になるはずです」 イオンの連結業績推移(単位・百万円) 01 年2月期 02 年2月期 03 年2月期 04 年2月期 05 年2月期 06 年2月期 07 年2月期 売上高 2,738,638 2,934,592 3,086,504 3,546,215 4,195,843 4,430,285 4,824,775 営業利益 92,060 119,222 132,172 132,212 146,677 166,105 189,728 経常利益 87,415 114,759 127,431 131,354 156,009 175,989 188,303 当期利益 22,515 ▲16,139 51,257 55,361 62,066 28,936 57,656 西友の連結業績推移(単位・百万円) 02 年2月期 03 年2月期 03 年12月期 04 年12月期 05 年12月期 06 年12月期 07 年12月期 売上高 1,108,797 1,139,718 937,549 1,031,527 997,103 960,861 952,301 営業利益 20,087 16,563 10,077 9,550 1,233 3,222 434 経常利益 13,531 8,071 2,925 501 ▲6,160 ▲2,614 ▲6,479 当期利益 5,200 ▲90,844 ▲7,087 ▲12,318 ▲17,774 ▲55,792 ▲20,931 すずき・たかゆき 東京外国語大学卒業。
一九六八年西友入社。
店長、シカゴ駐在事 務所長などを経て、八九年バークレーズ証 券に入社しアナリストに転身。
九〇年メリ ルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリス トとして常に人気ランキングの上位にラン クインしていた。
二〇〇三年に独立。
現在 はプリモ・リサーチ・ジャパン代表。
著書 に『イオングループの大変革』(日本実業出 版社)ほか。
PROFILE

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