2008年3月号
特集
特集
流通業の物流 「日本の中間流通は世界で通用する」
MARCH 2008 28
「日本の中間流通は世界で通用する」
メガ・ホールセラーの行方
──GMSの苦戦をよそに中堅の食品スーパーがし
ぶとく健闘しています。
「生鮮品ですよ。
生鮮品は品質のよいものをたく さん調達しようとすると、それだけ高く買わなけれ ばならない。
工業製品がたくさん買ったら安くなる のとは全く逆です。
そのために生鮮品の商売に関し ては、規模が優位性につながらない」 ──しかし、欧米市場では生鮮品も「スーパーセン ター」のような大規模店が優勢です。
日本の市場は 特殊なのでしょうか。
「いくつか原因があると思います。
一つはやはり 日本の伝統的な食文化です。
日本人は食品の鮮度に 関してきわめて繊細かつ贅沢です。
これを満足させ るにはきめ細かな対応が必要になる。
しかも、高齢 化社会を迎えて、これまでのセルフサービスとは対 極にあるフレンドリーなサービス、店頭におけるサー ビス機能が、非常に大事なポイントになる時代に改 めて入ってきた。
マニュアル本位のチェーンオペレー ションだけではなかなかカバーしきれない領域です」 「そしてもうひとつ、日本には卸売業が存在する。
そのためロジスティクスにせよITにせよ、大手チ ェーンストアが自社開発による優位性を築こうとし ても、その格差を卸売業がカバーするので、中堅以 下の小売店のディスアドバンテージがそれほど大きく ならない。
実際、日本では大規模店と小規模店の値 段にそれほど大きな違いがない。
これが欧米ではと うてい太刀打ちできない格差になって、中小は結局、 成り立たなくなってしまった」 ──欧米と違って日本では中小のスーパーが生き残 るということに、菱食はいつ気付いたのでしょうか。
一般には、日本市場もいずれ欧米市場のように大手 チェーンストアによって寡占化されてしまうという 見方が今でも大勢を占めています。
「確かに世間の常識的な見方とは違うかも知れま せん。
有名な林周二先生の『流通革命』(一九六二) にもそう書かれていた。
しかし我々は、少なくと も食の世界は欧米のようにはならないと思っていた。
日本の食生活・食文化はいままで通り豊かであって 欲しいし、そうあり続けるだろうと昔から考えてい ました。
そのために当社は中堅の食品スーパーをメ ーンの顧客として位置付けたわけです」 ──菱食が中堅スーパーに舵を切った九〇年頃、米 国では既にウォルマートが大きなシェアをとっていま した。
その光景を見れば、菱食も有力な大手チェー ンストアと組もうと考えるのが普通なのでは。
「日本の大手チェーンストアも力がついてきたら、 中間流通を自分でやるようになるだろう。
我々は必 要とされないだろうと考えたからです。
また八〇年 代の米国では、フレミングとスーパーバリューという メガ・ホールセラーが元気でしたが、彼らは大メー カーと大チェーンストアの間に入って中間流通を担 っているわけではありませんでした。
今の我々と同 様にメーカーと中堅以下のチェーンストアや単独店の 中間流通を担っていた」 ──しかし、その後、二〇〇二年にフレミングは倒 産し、スーパーバリューはボランタリーチェーンに業 態を転換してしまいました。
「フレミングの倒産は、ご存じの通りKマートの経 営破綻が原因です。
Kマートは中堅ではなく年商四 兆円近い超大手でした。
相手が大きすぎれば、そう したリスクも出てくる」 ──結局、米国には卸売業のお手本がなくなってし 巨大化して力を付けたチェーンストアはもはや卸売業を 必要としない。
大手食品卸の菱食は1980 年代にはそう見 切りをつけていた。
そして中堅の食品スーパーをメーンの 顧客業態として位置付け、そこで必要とされるIT と物流 機能の整備を地道に進めてきた。
そのノウハウは世界で通 用すると自負している。
(聞き手・大矢昌浩) 菱食 広田 正 相談役 Interview 29 MARCH 2008 特集 まった。
「フレミングとスーパーバリューとは別に、テキサ ス州テンプルに本拠地を置くマクレーンという食品 卸があります。
そのオーナー一族とは昔から家族ぐ るみの付き合いで、お互いに日米を頻繁に行き来し する仲でした。
マクレーンは株の公開をしていない プライベートカンパニーだったのですが、それが九〇 年に突然ウォルマートに買収されてしまった」 「なぜ売ってしまったのか。
その理由をマクレーン に尋ねたところ、どうもマクレーン一族とウォルマー トの創業者のサム・ウォルトンとは昔からの知り合 いで仲が良かったらしい。
しかも買収金額が十一億 ドルというから驚きました。
当時のマクレーンの売 上規模は恐らく三〇億ドル程度だったはずです。
と ても十一億ドルの値段が付くような会社とは思えな かった。
しかしウォルマートはこのマクレーンの物流 力によってその後、スーパーセンターを本格的に展 開していくことができたんです」 ──それだけの物流力をマクレーンは持っていた。
「持っていましたね。
だからウチともよく話が合 った。
お互いに社員を派遣し合って切磋琢磨する間 柄でした」 ──その後、〇三年にウォルマートは再びマクレーン を約一五億ドルでウォーレン・バフェットのバークシ ャー・ハサウェイに売却しています。
「学ぶべきものをすべて吸収したということでし ょうね。
その辺りの米国人の見切りの早さはとても我々 日本人には真似できない。
そして、その後もマクレ ーンはウォルマートを最大の顧客として事業を続け ている。
今では米国屈指の食品卸として君臨してい ます。
ちなみにマクレーンのオーナーだったドライト ン・マクレーン Jr. は今では大富豪としてメジャーリ ーグのアストロズのオーナーに収まっています」 これから業務用食品卸が伸びる ──米国の動きは参考になりますか。
「日本の加工食品卸は、いくつかの理由でこれか ら難しい時代に入っていきます。
一番目は何より人 口減少です。
二番目はこれから小売業のプライベー トブランドのシェアが高くなってくる。
それによっ てナショナルブランドの競争が激烈になり、収益に はつながりにくい状況になる。
ただし米国と同様に 日本でも業務用食品卸の分野は大いに伸びると見て います。
そのために菱食は〇六年にアールワイフー ドサービスと合併したわけです」 ──菱食のビジネスモデルも転換期を迎えている? 「どんな企業も安住はできません。
次の時代に必 要とされる中間流通機能をどう構築するのか。
私の 時代には、それがITとロジスティクスだったので、 それを一生懸命やってきた。
ITとロジスティクス では世界に負けないレベルにできたと自負しています」 「しかし時代が変わればニーズも変わっていく。
現 在は家庭内で料理する時間がなくなったことから、 食の世界は“イージー・トゥー・クック”から“イ ージー・トゥー・イート”の時代に入ってきている。
そういう時代にベストサプライヤーとして選ばれる には、商品の提供の仕方をまた一工夫変えないとい けない」 ──日本の卸売業が海外に進出していくことはでき ないでしょうか。
「いま私が若かったら、間違いなく海外に出て行 きますね。
中国にしても、やがて我々の提供するき め細かい中間流通機能を必要とする時代に入ってく る。
面白い仕事ができると思います」 EOS SM 43.8% CVS 13.2% 卸売 11.3% 10.4% その他直販 GMS 9.4% ユーザー 5.8% ドラッグストア 4.1% メーカー他 2.0% 菱食の業態別売上高 (06 年12 月期) 地域ブロックごとに配置。
ピースピッキングを集中処理し、通い箱に詰めてFDC に送る。
RDC から供給された通い箱とケース商品を店舗別・棚別に仕分けて各店舗に 納品する。
RDC(Regional Distribution Center:流通加工広域対象型物流センター) FDC(Front Distribution Center:前線物流センター) 特定荷主の専用物流センター SDC(Specialized Distribution Center) 菱食の物流インフラ 販売店 店舗 リョーショク 情報 センター FDC SDC メーカー RDC 小分け商品 小分け出荷 対象商品 ケース出荷 対象商品 伝票レス 検品省力化 定時配送 高頻度納品率 カテゴリー別納品 商品の流れ情報の流れ
「生鮮品ですよ。
生鮮品は品質のよいものをたく さん調達しようとすると、それだけ高く買わなけれ ばならない。
工業製品がたくさん買ったら安くなる のとは全く逆です。
そのために生鮮品の商売に関し ては、規模が優位性につながらない」 ──しかし、欧米市場では生鮮品も「スーパーセン ター」のような大規模店が優勢です。
日本の市場は 特殊なのでしょうか。
「いくつか原因があると思います。
一つはやはり 日本の伝統的な食文化です。
日本人は食品の鮮度に 関してきわめて繊細かつ贅沢です。
これを満足させ るにはきめ細かな対応が必要になる。
しかも、高齢 化社会を迎えて、これまでのセルフサービスとは対 極にあるフレンドリーなサービス、店頭におけるサー ビス機能が、非常に大事なポイントになる時代に改 めて入ってきた。
マニュアル本位のチェーンオペレー ションだけではなかなかカバーしきれない領域です」 「そしてもうひとつ、日本には卸売業が存在する。
そのためロジスティクスにせよITにせよ、大手チ ェーンストアが自社開発による優位性を築こうとし ても、その格差を卸売業がカバーするので、中堅以 下の小売店のディスアドバンテージがそれほど大きく ならない。
実際、日本では大規模店と小規模店の値 段にそれほど大きな違いがない。
これが欧米ではと うてい太刀打ちできない格差になって、中小は結局、 成り立たなくなってしまった」 ──欧米と違って日本では中小のスーパーが生き残 るということに、菱食はいつ気付いたのでしょうか。
一般には、日本市場もいずれ欧米市場のように大手 チェーンストアによって寡占化されてしまうという 見方が今でも大勢を占めています。
「確かに世間の常識的な見方とは違うかも知れま せん。
有名な林周二先生の『流通革命』(一九六二) にもそう書かれていた。
しかし我々は、少なくと も食の世界は欧米のようにはならないと思っていた。
日本の食生活・食文化はいままで通り豊かであって 欲しいし、そうあり続けるだろうと昔から考えてい ました。
そのために当社は中堅の食品スーパーをメ ーンの顧客として位置付けたわけです」 ──菱食が中堅スーパーに舵を切った九〇年頃、米 国では既にウォルマートが大きなシェアをとっていま した。
その光景を見れば、菱食も有力な大手チェー ンストアと組もうと考えるのが普通なのでは。
「日本の大手チェーンストアも力がついてきたら、 中間流通を自分でやるようになるだろう。
我々は必 要とされないだろうと考えたからです。
また八〇年 代の米国では、フレミングとスーパーバリューという メガ・ホールセラーが元気でしたが、彼らは大メー カーと大チェーンストアの間に入って中間流通を担 っているわけではありませんでした。
今の我々と同 様にメーカーと中堅以下のチェーンストアや単独店の 中間流通を担っていた」 ──しかし、その後、二〇〇二年にフレミングは倒 産し、スーパーバリューはボランタリーチェーンに業 態を転換してしまいました。
「フレミングの倒産は、ご存じの通りKマートの経 営破綻が原因です。
Kマートは中堅ではなく年商四 兆円近い超大手でした。
相手が大きすぎれば、そう したリスクも出てくる」 ──結局、米国には卸売業のお手本がなくなってし 巨大化して力を付けたチェーンストアはもはや卸売業を 必要としない。
大手食品卸の菱食は1980 年代にはそう見 切りをつけていた。
そして中堅の食品スーパーをメーンの 顧客業態として位置付け、そこで必要とされるIT と物流 機能の整備を地道に進めてきた。
そのノウハウは世界で通 用すると自負している。
(聞き手・大矢昌浩) 菱食 広田 正 相談役 Interview 29 MARCH 2008 特集 まった。
「フレミングとスーパーバリューとは別に、テキサ ス州テンプルに本拠地を置くマクレーンという食品 卸があります。
そのオーナー一族とは昔から家族ぐ るみの付き合いで、お互いに日米を頻繁に行き来し する仲でした。
マクレーンは株の公開をしていない プライベートカンパニーだったのですが、それが九〇 年に突然ウォルマートに買収されてしまった」 「なぜ売ってしまったのか。
その理由をマクレーン に尋ねたところ、どうもマクレーン一族とウォルマー トの創業者のサム・ウォルトンとは昔からの知り合 いで仲が良かったらしい。
しかも買収金額が十一億 ドルというから驚きました。
当時のマクレーンの売 上規模は恐らく三〇億ドル程度だったはずです。
と ても十一億ドルの値段が付くような会社とは思えな かった。
しかしウォルマートはこのマクレーンの物流 力によってその後、スーパーセンターを本格的に展 開していくことができたんです」 ──それだけの物流力をマクレーンは持っていた。
「持っていましたね。
だからウチともよく話が合 った。
お互いに社員を派遣し合って切磋琢磨する間 柄でした」 ──その後、〇三年にウォルマートは再びマクレーン を約一五億ドルでウォーレン・バフェットのバークシ ャー・ハサウェイに売却しています。
「学ぶべきものをすべて吸収したということでし ょうね。
その辺りの米国人の見切りの早さはとても我々 日本人には真似できない。
そして、その後もマクレ ーンはウォルマートを最大の顧客として事業を続け ている。
今では米国屈指の食品卸として君臨してい ます。
ちなみにマクレーンのオーナーだったドライト ン・マクレーン Jr. は今では大富豪としてメジャーリ ーグのアストロズのオーナーに収まっています」 これから業務用食品卸が伸びる ──米国の動きは参考になりますか。
「日本の加工食品卸は、いくつかの理由でこれか ら難しい時代に入っていきます。
一番目は何より人 口減少です。
二番目はこれから小売業のプライベー トブランドのシェアが高くなってくる。
それによっ てナショナルブランドの競争が激烈になり、収益に はつながりにくい状況になる。
ただし米国と同様に 日本でも業務用食品卸の分野は大いに伸びると見て います。
そのために菱食は〇六年にアールワイフー ドサービスと合併したわけです」 ──菱食のビジネスモデルも転換期を迎えている? 「どんな企業も安住はできません。
次の時代に必 要とされる中間流通機能をどう構築するのか。
私の 時代には、それがITとロジスティクスだったので、 それを一生懸命やってきた。
ITとロジスティクス では世界に負けないレベルにできたと自負しています」 「しかし時代が変わればニーズも変わっていく。
現 在は家庭内で料理する時間がなくなったことから、 食の世界は“イージー・トゥー・クック”から“イ ージー・トゥー・イート”の時代に入ってきている。
そういう時代にベストサプライヤーとして選ばれる には、商品の提供の仕方をまた一工夫変えないとい けない」 ──日本の卸売業が海外に進出していくことはでき ないでしょうか。
「いま私が若かったら、間違いなく海外に出て行 きますね。
中国にしても、やがて我々の提供するき め細かい中間流通機能を必要とする時代に入ってく る。
面白い仕事ができると思います」 EOS SM 43.8% CVS 13.2% 卸売 11.3% 10.4% その他直販 GMS 9.4% ユーザー 5.8% ドラッグストア 4.1% メーカー他 2.0% 菱食の業態別売上高 (06 年12 月期) 地域ブロックごとに配置。
ピースピッキングを集中処理し、通い箱に詰めてFDC に送る。
RDC から供給された通い箱とケース商品を店舗別・棚別に仕分けて各店舗に 納品する。
RDC(Regional Distribution Center:流通加工広域対象型物流センター) FDC(Front Distribution Center:前線物流センター) 特定荷主の専用物流センター SDC(Specialized Distribution Center) 菱食の物流インフラ 販売店 店舗 リョーショク 情報 センター FDC SDC メーカー RDC 小分け商品 小分け出荷 対象商品 ケース出荷 対象商品 伝票レス 検品省力化 定時配送 高頻度納品率 カテゴリー別納品 商品の流れ情報の流れ
