2008年4月号
ケース
ケース
組織改革 菱食
ロジスティクス責任者の交代
菱食のロジスティクスが歴史的な変革期を
迎えている。
二〇〇六年一〇月、低温食品を 扱う子会社・アールワイフードサービスを吸収 合併し、新「菱食」という旗印をかかげて再 スタートを切った。
このタイミングで、同社 のロジスティクス戦略を四〇年近く主導して きた市瀬英二前専務は、グループの物流会社 キャリテックの社長へと転出した。
市瀬氏の後を受けてロジスティクスの責任 者に就任したのは、それまでアールワイの副 社長を務めていた原田努常務だ。
菱食の基幹 システム「TOMAS」と「NEW─TOM AS」の開発を主導してきたITのスペシャ リストである。
しかし、過去にロジスティク スに直接携わった経験はない。
原田氏は市瀬氏より三つ年下だが、二人は 旧知の間柄。
菱食は一九七九年に、三菱商事 系の食品卸四社(北洋商会、野田喜商事ほ か)が合併して誕生した。
それ以前から北洋 商会(本社・東京)は、若き日の市瀬氏を中 心としながら先進的な物流を実践していたこ とで知られていた。
一方、原田氏の出身母体 である野田喜商事(本社・大阪)は、同氏が 中心になって導入したコンピュータの活用で 有名だった。
発足した当時の菱食にとって「東の物流」 と「西のIT」は互いに切磋琢磨する関係に あった。
四社統合から三年後には基幹システ ム「TOMAS」の開発に着手し、ライバル に先駆けて在庫管理などをオンラインで処理 する体制を整えた。
八五年には米フレミング と提携。
当時の広田正副社長(現相談役)の 指示を受けて先発隊として渡米した原田氏は、 「物流はやはり向こうのほうが進んでいるな」 と実感して帰国したという。
その後の同社は、広田氏の指揮下で「R DC(Regional Distribution Center)構想」 と名付けた全国インフラを具現化していくこ とになる。
その核となる物流センターに導入 された高度な自動化機器は、これを柔軟に制 御するITがあって、初めて威力を発揮する。
その意味で原田氏と市瀬氏は、同構想のまさ に両輪だった。
二人が取締役に昇進したのも同じ九五年だ。
ただし、その後の歩みは対照的だ。
市瀬氏が 一貫してロジスティクス畑を歩みつづけたの に対し、原田氏は「NEW─TOMAS」の 全社導入にメドをつけた九八年に経理部長に 転身。
〇二年からは、菱食が子会社化した関 西の老舗食品卸、祭原で実質的なトップを務 めた。
ここで九カ月を過ごすと、今度はリョ 90年代に確立した“ロジスティクスの菱食”をい ったん壊して、再スタートを切った。
2006年10月 に実施した低温食品扱う子会社・アールワイフー ドサービスの吸収合併が、その転換点だった。
経営 陣も一新。
過去の成功体験を振り払い、新たなビジ ネスモデルの構築に挑んでいる。
戦略機能部門のトップを務 める原田努取締役常務執行 役員 47 APRIL 2008 ーショクフードサービスの取締役へ。
このときまでは菱食の取締役も兼務してい たのだが、それも〇三年三月に退任。
リョー ショクフードサービスの副社長へと完全に転 出した。
その後、同社がニチレイ系の低温食 品卸ユキワと合併してアールワイが誕生した ことから、管理部門のトップとして新会社の 副社長に就いた。
原田氏が再びロジスティク スやITなど機能面に携わるようになったの は、〇五年四月にアールワイで「戦略機能推 進本部長」になってからだ。
戦略機能推進本部というセクションは原田 氏が自ら考案した。
「管理本部長だったとき から、営業と一緒に会社の機能をレベルアッ プしてお得意先の要望に応え、二一世紀型の 営業に対応できる仕組みづくりを考えていた。
だから『戦略機能推進本部』を作り、卸とし て核になるITとロジスティクス、それから 経営企画室、品質保証部といった機能を全部、 私のほうで預かった」 ただし、物流の現場管理だけは別だった。
アールワイの物流センターも、すべて菱食の 「ロジスティクス本部」が運営していた。
アー ルワイはこれを間接的に管理していたにすぎ ない。
そんな経歴の原田氏を新たにロジステ ィクス部門の責任者に起用したのは、菱食が 従来のビジネスモデルを大きく転換しようと しているためだ。
成功体験を捨てる アールワイが菱食と合併したのは、原田氏 が戦略機能推進本部を設立した翌年のことだ った。
当初、原田氏はニチレイ出身の中野勘 治アールワイ社長(現菱食副社長で三月二八 日に社長就任予定)とともに、同社単独での 将来像を模索していた最中にあった。
そこに 突然、菱食の経営トップから合併の話が持ち かけられた。
菱食には強い危機感があった。
“ロジスティ クスの菱食”が成し遂げた二〇期連続の増収 増益という輝かしい記録は〇六年十二月期に 途絶えた。
そして消費者の鮮度志向はますま す高まっている。
従来のドライ食品中心の事 業展開では、将来性に限界があるという危惧 を抱いていた。
菱食にとってアールワイとの経営統合は、チ ルド流通まで含む全温度帯をカバーする総合 食品卸への脱皮を意味していた。
同社の広田 相談役、後藤雅治現社長、中野次期社長の経 営トップ三人は、いずれもアールワイとの合 併によって誕生した新「菱食」を“二一世紀 型の中間流通”と呼んで、過去の菱食とハッ キリと区別している。
従来型の卸売業は、メーカーと小売りのニ ーズをマッチングさせ、そこで扱う商品の量 を増やすことで成長してきた。
そこでは何よ りもITとロジスティクスが有効だった。
それ に対して現在の菱食は、大手メーカーによる ナショナルブランド商品とも、有力小売業に よるプライベートブランド商品とも異なる、独 自のブランド商品を創出する動きを自分たち でコーディネイトしようとしている。
その舵取りを委ねられたのがメーカー出身 の中野次期社長であり、ロジスティクスの再 構築を任されたのが原田常務だった。
従来の 菱食にとっては、いずれも部外者ともいうべ き人材だ。
過去の成功体験から脱却しようと する強い意志の表れた人事と言えるだろう。
原田常務がロジスティクス改革に当たって まず取り組んだのは、意識改革だった。
菱食 のロジスティクス部隊は強大だ。
アールワイと 合併した〇六年一〇月の時点では、受注オペ レーター約三七〇人を含めると一〇〇〇人近 くがロジスティクス本部に所属していた。
会 社の成長を牽引してきたという自負があるだ 図1 菱食のロジスティクスをめぐる変遷 全国で「RDC-FDCネットワーク」を構築(2000 年完成) リョーショクフードサービス(菱食の低温部門)とニチレイ 系低温卸のユキワが合併してアールワイフードサービスが 誕生 菱食とアールワイフードサービスが合併して新生・菱食が 発足。
菱食本体で全温度帯を扱う体制へ ロジスティクスの責任者を市瀬氏から原田氏にバトンタッ チ。
物流関連の組織は「ロジスティクス統括」の下に2つ の本部(加食ロジスティクス本部・低温ロジスティクス本部) を置く体制に移行 「ロジスティクス統括」を「戦略機能部門(IT・ロジスティ クス)統括」に改組し、温度帯別の2 本部制だった組織を 融合。
管理部門に属していたシステム部門も「ITネットワ ーク本部」として傘下に追加した。
さらに「SCM 推進本部」 を新設し“2SS 活動”を本格化。
新生・菱食のロジステ ィクス改革の柱として推進し始める ロジスティクス統括の組織の一部を再び見直し。
さらにス リム化すると同時に、「広域CVSロジスティクス部」を新 設して小売り業態向け機能を拡充 「横須賀フルライン物流センター」を皮切りに常温食品の RDCネットワークのフルライン化(加食、菓子、酒)を本 格化 90 年代 03 年 10月 06 年 10月 07 年 4月 08 年 2月 04 年〜 APRIL 2008 48 けに、社内での立場も強かった。
「過去の当社にはロジスティクスで稼ぐとい う意識があった。
確かにそういう時代もあっ たし、それはそれで評価すべきことだ。
しか し時代は変わっている。
うぬぼれてはいけな い。
われわれは基本的にコストセンターであ り、いかにローコストを追求するかという姿 勢がなければ組織としての存在意義すら失っ てしまう」と原田常務は強調する。
社員の意識を変える狙いもあって、この一 年半でロジスティクスの組織を段階的に見直 してきた。
合併直後は「加食ロジスティクス 本部」と「低温ロジスティクス本部」を分け た二本部制とした。
合併前に菱食のロジステ ィクス本部が両社の物流管理を手掛けていた ときから、組織は温度帯別になっていた。
ま た加食部門の存在が大きすぎたこともあって、 とりあえず別組織のまま動き出した。
しかし原田常務は当初から温度帯にこだわ らずに組織を一本化すべきだという考えを持 っていた。
このため半年後の〇七年四月には、 より抜本的な組織改革を実施した。
まず「職 能管掌」の下にあったIT部門を、ロジステ ィクスと同じ「営業管掌」の下に移管。
新た に「戦略機能部門(IT・ロジスティクス) 統括」として機能間の垣根を取り払った。
同時に、物流センターの運営などのオペレ ーション部門はすべて「SCM推進本部」の 中に入れた。
あえてSCMという言葉を前面 に押し出したのは、従来型の中間流通の活動 論でもある“チープ・ガバメント(小さな組 織)”の方針が貫かれている。
組織間で重複 するムダを排除して、全体をスリム化すると いう考え方である。
事実、現在の「戦略機能 部門」の所属者は計九一五人。
合併時に一〇 〇〇人近くいたロジスティクス担当者は二割 近く減り、九〇人余りいたIT担当者も一割 以上少なくなっている。
「2SS」活動で現場にテコ入れ もう一つの改革の柱は、現場レベルでの改 善活動の強化だ。
“2SS活動”と呼んでい る。
周知のように「2S(整理・整頓)」と 領域に止まることなく、川上から川下までサ プライチェーン全体での活動を期待している からだ。
温度帯別だったロジスティクスの組 織も、SCM推進本部の下で融合させた。
今年二月には、さらなる調整を施した。
S CMとITのそれぞれの本部内で独立してい た統括室を「戦略機能部門統括部」として 切り出し、組織面で重複していたムダをなく した。
その一方で「広域CVSロジスティク ス部」を新設し、コンビニエンスストアチェー ン向けの組織を地域別から全国一括へと改め、 業態向けの対応力を強化した。
一連の組織改革の底流には、原田常務の持 図2 最近1 年半で組織を大幅に見直した 戦略機能部門 (IT・ロジスティクス) 統括 戦略機能部門 (IT・ロジスティクス) 統括 加食営業統括 低温営業統括 管理本部 コーポレート スタッフ本部 SCM推進本部SCM推進本部ITネットワーク本部ITネットワーク本部 社長社長 社長 営業管掌 職能管掌営業管掌 営業管掌 ロジスティクス統括 加食 ロジスティクス 本部 低温 ロジスティクス 本部 新機能開発統括部 運用コントロール統括部 北海道低温ロジスティクス部 総務経理部 SCM統括部 SDC統括部 北海道ロジスティクス部 IT 統括室 統括室 総務経理部 IT 開発部 IT 開発部 IT 運用部 IT 運用部 東日本ITユーザーサポート部 西日本ITユーザーサポート部 東日本ITユーザーサポート部 西日本ITユーザーサポート部 SCM 統括室 SCM 開発部 SCM 運用部 DC運用部 輸配送コントロール部 北海道ロジスティクス部 東北ロジスティクス部 首都圏ロジスティクス部 首都圏低温ロジスティクス部 中部ロジスティクス部 関西ロジスティクス部 中四国ロジスティクス部 九州ロジスティクス部 SCM 開発部 北海道ロジスティクス部 東北ロジスティクス部 首都圏ロジスティクス部 首都圏低温ロジスティクス部 中部ロジスティクス部 関西ロジスティクス部 中四国ロジスティクス部 九州ロジスティクス部 職能管掌 戦略機能部門統括部? 総務経理部 SCM 運用部? 広域CVSロジスティクス部? ?統括室を戦略機能部門統括 部に改称し、SCM 統括室とIT 統括室を統合、?ITシステム企 画部を新設、?SCM 運用部 に、DC 運用部と輸配送コント ロール部を統合、?広域CVS ロジスティクス部を新設 変更点 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 機構改革 2006 年 10 月〜 2007 年 4 月〜 2008年 2 月〜 現在 ITシステム企画部? 49 APRIL 2008 はトヨタ流の現場改善の手法だ。
ここにソリ ューションの「S」を追加したものが菱食の 「2SS活動」である。
具体的には、図3に 示した手順で物流センター業務の改善を進め る。
すでに昨年は七〇〇に上る項目を対象に 改善策を施し、大きな成果を上げたという。
先般の組織改革でも、この2SS活動を全 社レベルで推進していくための体制を整えて いる。
菱食のロジスティクス部門には、以前 からスーパーバイザー(SV)と呼ばれる現 地駐在の改善担当者が九〇人程度いた。
ただ し、その活動は個々人に委ねられているとこ ろが大きかった。
「改善活動というのは個人の能力に依存す べきことではない。
現場の意見を吸い上げな がら本社でマニュアルなどを作り、これを組 織的に全社に浸透させていくべきだ」と原田 常務。
実際、これまでは各SVの実力によっ て、活動内容にバラツキが生じていた。
組織改革を進める中でこの問題にもメスを 入れた。
SCM運用部の中に専門セクション を設置。
同時に現場で指導に当たるSVを三 六人に厳選した。
そして各地のロジスティク ス部の中に「2SS・SVチーム」を配置し、 本社で定めた統一方針に基づいて彼らが各セ ンターを指導していく体制にした。
自動化によって現場作業の効率を高めてき た菱食だが、これからは大規模なインフラ投 資だけでは対応できないと考えている。
機械 化による高度化は従来通りに進めるが、その 一方でもっと泥臭いやり方で自分たちの足腰 を強くしようとしている。
流通構造の変化を見据えて こうした変化の背景には、〇四年五月に稼 動した「横須賀フルラインセンター」で豊田 自動織機と業務提携した影響や、イトーヨー カ堂から専用センターの運営を受託している 「川口SDC」での改善活動の経験がある(本 誌〇七年六月号参照)。
外部からの刺激という意味では、イオンか ら受けている影響もある。
現在の菱食のイオ ングループ向け取引金額は約二〇〇〇億円に 上っている。
連結売上高約一兆四〇〇〇億円 (〇七年十二月期)に占める比率は大きい。
そのイオンが米ウォルマート流の卸を介在し ない中間流通戦略を進めていることは、本誌 先月号でも詳報した通りだ。
イオンと菱食は 今でこそ互いの能力を認め合うパートナーだ が、将来にわたって協業関係が継続するとい う保証はどこにもない。
近年、菱食が進めて いる改革は、このような日本の流通構造の変 化を見据えたものだ。
菱食の視線の先にあるのは、もはや小売業 だけではない。
現在、同社は「量から質への 転換」をスローガンに、生活者のライフスタ イルの変化を敏感に察知した「ライフスタイ ル・マーケティング」によって、売り場提案 だけでなく、商品開発にまで業域を拡大しよ うとしている。
メーカー・卸・小売りという 従来の活動領域を超えた、サプライチェーン 競争の主導権争いに足を踏み出そうとしてい るわけだ。
もちろん、そこでもロジスティクスは重要 な機能の一つだ。
「ローコスト化に対するノウ ハウを常に追い求める姿勢さえあれば、菱食 のロジスティクスとITは他社の追従を許さ ないものになっていく」と原田常務は確信し ている。
だからこそ2SS活動による足腰の 強化を急いでいる。
(※役職は取材時点) (フリージャーナリスト・岡山宏之) 図3 「2SS 活動」の推進による物流品質向上とローコスト徹底の実現 ( 2SS=整理・整頓・ソリューション) ?整理・整頓を徹底した上での庫内各作業スペース配分の最適化 ?後続作業を意識した定位置管理の徹底 ?出荷ランクに応じた最適ロケーション管理の実現 ?行き届いた清掃で働きやすい職場環境を実現し、良質パート、ドライバーの長期確保 ?各DC で庫内コスト、物流品質数値の目標管理 ?受発注OP センターとDC 運用担当による協議→在庫量の適正化 ?発注単位、入庫頻度を見直し、メーカーと共同した物流コスト改善 ?得意先特性を考慮した最適ロケーション管理による生産性向上 ?曜日・時間波動を考慮した要員管理の徹底(人員のムダ・ムラの解消) ?全エリアにおいてデイリーDC収支管理が可能な体制の構築(DC経費削減の徹底) ?委託会社との協業による「役割・責任分担」の明確化と効率化、シンプル化 ?デイリーでの配送収支管理を行い、施策進捗追跡が可能な体制の構築 全センターを対象に「2SS 活動(A)」を、並行してエリア別に対象DCを定め「2SS 活動(B)」 を実施する DC の2S(整理・整頓)、および物流指標数値を基準とした2Sを実施し、問題点・課題を浮き彫 りにした上で「無駄取り」を徹底し、問題解決の下地を作る。
2SS 活動(A)をベースにDC 別課題を抽出。
営業部署、メーカー、得意先、委託先と連携して改善 を行い、コスト改善、ユーティリティスペースの創出、DC 統廃合などのソリューションを実現する 【DC 運用管理手法の改善】 2SS 活動(A) 2SS 活動(B)
二〇〇六年一〇月、低温食品を 扱う子会社・アールワイフードサービスを吸収 合併し、新「菱食」という旗印をかかげて再 スタートを切った。
このタイミングで、同社 のロジスティクス戦略を四〇年近く主導して きた市瀬英二前専務は、グループの物流会社 キャリテックの社長へと転出した。
市瀬氏の後を受けてロジスティクスの責任 者に就任したのは、それまでアールワイの副 社長を務めていた原田努常務だ。
菱食の基幹 システム「TOMAS」と「NEW─TOM AS」の開発を主導してきたITのスペシャ リストである。
しかし、過去にロジスティク スに直接携わった経験はない。
原田氏は市瀬氏より三つ年下だが、二人は 旧知の間柄。
菱食は一九七九年に、三菱商事 系の食品卸四社(北洋商会、野田喜商事ほ か)が合併して誕生した。
それ以前から北洋 商会(本社・東京)は、若き日の市瀬氏を中 心としながら先進的な物流を実践していたこ とで知られていた。
一方、原田氏の出身母体 である野田喜商事(本社・大阪)は、同氏が 中心になって導入したコンピュータの活用で 有名だった。
発足した当時の菱食にとって「東の物流」 と「西のIT」は互いに切磋琢磨する関係に あった。
四社統合から三年後には基幹システ ム「TOMAS」の開発に着手し、ライバル に先駆けて在庫管理などをオンラインで処理 する体制を整えた。
八五年には米フレミング と提携。
当時の広田正副社長(現相談役)の 指示を受けて先発隊として渡米した原田氏は、 「物流はやはり向こうのほうが進んでいるな」 と実感して帰国したという。
その後の同社は、広田氏の指揮下で「R DC(Regional Distribution Center)構想」 と名付けた全国インフラを具現化していくこ とになる。
その核となる物流センターに導入 された高度な自動化機器は、これを柔軟に制 御するITがあって、初めて威力を発揮する。
その意味で原田氏と市瀬氏は、同構想のまさ に両輪だった。
二人が取締役に昇進したのも同じ九五年だ。
ただし、その後の歩みは対照的だ。
市瀬氏が 一貫してロジスティクス畑を歩みつづけたの に対し、原田氏は「NEW─TOMAS」の 全社導入にメドをつけた九八年に経理部長に 転身。
〇二年からは、菱食が子会社化した関 西の老舗食品卸、祭原で実質的なトップを務 めた。
ここで九カ月を過ごすと、今度はリョ 90年代に確立した“ロジスティクスの菱食”をい ったん壊して、再スタートを切った。
2006年10月 に実施した低温食品扱う子会社・アールワイフー ドサービスの吸収合併が、その転換点だった。
経営 陣も一新。
過去の成功体験を振り払い、新たなビジ ネスモデルの構築に挑んでいる。
戦略機能部門のトップを務 める原田努取締役常務執行 役員 47 APRIL 2008 ーショクフードサービスの取締役へ。
このときまでは菱食の取締役も兼務してい たのだが、それも〇三年三月に退任。
リョー ショクフードサービスの副社長へと完全に転 出した。
その後、同社がニチレイ系の低温食 品卸ユキワと合併してアールワイが誕生した ことから、管理部門のトップとして新会社の 副社長に就いた。
原田氏が再びロジスティク スやITなど機能面に携わるようになったの は、〇五年四月にアールワイで「戦略機能推 進本部長」になってからだ。
戦略機能推進本部というセクションは原田 氏が自ら考案した。
「管理本部長だったとき から、営業と一緒に会社の機能をレベルアッ プしてお得意先の要望に応え、二一世紀型の 営業に対応できる仕組みづくりを考えていた。
だから『戦略機能推進本部』を作り、卸とし て核になるITとロジスティクス、それから 経営企画室、品質保証部といった機能を全部、 私のほうで預かった」 ただし、物流の現場管理だけは別だった。
アールワイの物流センターも、すべて菱食の 「ロジスティクス本部」が運営していた。
アー ルワイはこれを間接的に管理していたにすぎ ない。
そんな経歴の原田氏を新たにロジステ ィクス部門の責任者に起用したのは、菱食が 従来のビジネスモデルを大きく転換しようと しているためだ。
成功体験を捨てる アールワイが菱食と合併したのは、原田氏 が戦略機能推進本部を設立した翌年のことだ った。
当初、原田氏はニチレイ出身の中野勘 治アールワイ社長(現菱食副社長で三月二八 日に社長就任予定)とともに、同社単独での 将来像を模索していた最中にあった。
そこに 突然、菱食の経営トップから合併の話が持ち かけられた。
菱食には強い危機感があった。
“ロジスティ クスの菱食”が成し遂げた二〇期連続の増収 増益という輝かしい記録は〇六年十二月期に 途絶えた。
そして消費者の鮮度志向はますま す高まっている。
従来のドライ食品中心の事 業展開では、将来性に限界があるという危惧 を抱いていた。
菱食にとってアールワイとの経営統合は、チ ルド流通まで含む全温度帯をカバーする総合 食品卸への脱皮を意味していた。
同社の広田 相談役、後藤雅治現社長、中野次期社長の経 営トップ三人は、いずれもアールワイとの合 併によって誕生した新「菱食」を“二一世紀 型の中間流通”と呼んで、過去の菱食とハッ キリと区別している。
従来型の卸売業は、メーカーと小売りのニ ーズをマッチングさせ、そこで扱う商品の量 を増やすことで成長してきた。
そこでは何よ りもITとロジスティクスが有効だった。
それ に対して現在の菱食は、大手メーカーによる ナショナルブランド商品とも、有力小売業に よるプライベートブランド商品とも異なる、独 自のブランド商品を創出する動きを自分たち でコーディネイトしようとしている。
その舵取りを委ねられたのがメーカー出身 の中野次期社長であり、ロジスティクスの再 構築を任されたのが原田常務だった。
従来の 菱食にとっては、いずれも部外者ともいうべ き人材だ。
過去の成功体験から脱却しようと する強い意志の表れた人事と言えるだろう。
原田常務がロジスティクス改革に当たって まず取り組んだのは、意識改革だった。
菱食 のロジスティクス部隊は強大だ。
アールワイと 合併した〇六年一〇月の時点では、受注オペ レーター約三七〇人を含めると一〇〇〇人近 くがロジスティクス本部に所属していた。
会 社の成長を牽引してきたという自負があるだ 図1 菱食のロジスティクスをめぐる変遷 全国で「RDC-FDCネットワーク」を構築(2000 年完成) リョーショクフードサービス(菱食の低温部門)とニチレイ 系低温卸のユキワが合併してアールワイフードサービスが 誕生 菱食とアールワイフードサービスが合併して新生・菱食が 発足。
菱食本体で全温度帯を扱う体制へ ロジスティクスの責任者を市瀬氏から原田氏にバトンタッ チ。
物流関連の組織は「ロジスティクス統括」の下に2つ の本部(加食ロジスティクス本部・低温ロジスティクス本部) を置く体制に移行 「ロジスティクス統括」を「戦略機能部門(IT・ロジスティ クス)統括」に改組し、温度帯別の2 本部制だった組織を 融合。
管理部門に属していたシステム部門も「ITネットワ ーク本部」として傘下に追加した。
さらに「SCM 推進本部」 を新設し“2SS 活動”を本格化。
新生・菱食のロジステ ィクス改革の柱として推進し始める ロジスティクス統括の組織の一部を再び見直し。
さらにス リム化すると同時に、「広域CVSロジスティクス部」を新 設して小売り業態向け機能を拡充 「横須賀フルライン物流センター」を皮切りに常温食品の RDCネットワークのフルライン化(加食、菓子、酒)を本 格化 90 年代 03 年 10月 06 年 10月 07 年 4月 08 年 2月 04 年〜 APRIL 2008 48 けに、社内での立場も強かった。
「過去の当社にはロジスティクスで稼ぐとい う意識があった。
確かにそういう時代もあっ たし、それはそれで評価すべきことだ。
しか し時代は変わっている。
うぬぼれてはいけな い。
われわれは基本的にコストセンターであ り、いかにローコストを追求するかという姿 勢がなければ組織としての存在意義すら失っ てしまう」と原田常務は強調する。
社員の意識を変える狙いもあって、この一 年半でロジスティクスの組織を段階的に見直 してきた。
合併直後は「加食ロジスティクス 本部」と「低温ロジスティクス本部」を分け た二本部制とした。
合併前に菱食のロジステ ィクス本部が両社の物流管理を手掛けていた ときから、組織は温度帯別になっていた。
ま た加食部門の存在が大きすぎたこともあって、 とりあえず別組織のまま動き出した。
しかし原田常務は当初から温度帯にこだわ らずに組織を一本化すべきだという考えを持 っていた。
このため半年後の〇七年四月には、 より抜本的な組織改革を実施した。
まず「職 能管掌」の下にあったIT部門を、ロジステ ィクスと同じ「営業管掌」の下に移管。
新た に「戦略機能部門(IT・ロジスティクス) 統括」として機能間の垣根を取り払った。
同時に、物流センターの運営などのオペレ ーション部門はすべて「SCM推進本部」の 中に入れた。
あえてSCMという言葉を前面 に押し出したのは、従来型の中間流通の活動 論でもある“チープ・ガバメント(小さな組 織)”の方針が貫かれている。
組織間で重複 するムダを排除して、全体をスリム化すると いう考え方である。
事実、現在の「戦略機能 部門」の所属者は計九一五人。
合併時に一〇 〇〇人近くいたロジスティクス担当者は二割 近く減り、九〇人余りいたIT担当者も一割 以上少なくなっている。
「2SS」活動で現場にテコ入れ もう一つの改革の柱は、現場レベルでの改 善活動の強化だ。
“2SS活動”と呼んでい る。
周知のように「2S(整理・整頓)」と 領域に止まることなく、川上から川下までサ プライチェーン全体での活動を期待している からだ。
温度帯別だったロジスティクスの組 織も、SCM推進本部の下で融合させた。
今年二月には、さらなる調整を施した。
S CMとITのそれぞれの本部内で独立してい た統括室を「戦略機能部門統括部」として 切り出し、組織面で重複していたムダをなく した。
その一方で「広域CVSロジスティク ス部」を新設し、コンビニエンスストアチェー ン向けの組織を地域別から全国一括へと改め、 業態向けの対応力を強化した。
一連の組織改革の底流には、原田常務の持 図2 最近1 年半で組織を大幅に見直した 戦略機能部門 (IT・ロジスティクス) 統括 戦略機能部門 (IT・ロジスティクス) 統括 加食営業統括 低温営業統括 管理本部 コーポレート スタッフ本部 SCM推進本部SCM推進本部ITネットワーク本部ITネットワーク本部 社長社長 社長 営業管掌 職能管掌営業管掌 営業管掌 ロジスティクス統括 加食 ロジスティクス 本部 低温 ロジスティクス 本部 新機能開発統括部 運用コントロール統括部 北海道低温ロジスティクス部 総務経理部 SCM統括部 SDC統括部 北海道ロジスティクス部 IT 統括室 統括室 総務経理部 IT 開発部 IT 開発部 IT 運用部 IT 運用部 東日本ITユーザーサポート部 西日本ITユーザーサポート部 東日本ITユーザーサポート部 西日本ITユーザーサポート部 SCM 統括室 SCM 開発部 SCM 運用部 DC運用部 輸配送コントロール部 北海道ロジスティクス部 東北ロジスティクス部 首都圏ロジスティクス部 首都圏低温ロジスティクス部 中部ロジスティクス部 関西ロジスティクス部 中四国ロジスティクス部 九州ロジスティクス部 SCM 開発部 北海道ロジスティクス部 東北ロジスティクス部 首都圏ロジスティクス部 首都圏低温ロジスティクス部 中部ロジスティクス部 関西ロジスティクス部 中四国ロジスティクス部 九州ロジスティクス部 職能管掌 戦略機能部門統括部? 総務経理部 SCM 運用部? 広域CVSロジスティクス部? ?統括室を戦略機能部門統括 部に改称し、SCM 統括室とIT 統括室を統合、?ITシステム企 画部を新設、?SCM 運用部 に、DC 運用部と輸配送コント ロール部を統合、?広域CVS ロジスティクス部を新設 変更点 ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ 機構改革 2006 年 10 月〜 2007 年 4 月〜 2008年 2 月〜 現在 ITシステム企画部? 49 APRIL 2008 はトヨタ流の現場改善の手法だ。
ここにソリ ューションの「S」を追加したものが菱食の 「2SS活動」である。
具体的には、図3に 示した手順で物流センター業務の改善を進め る。
すでに昨年は七〇〇に上る項目を対象に 改善策を施し、大きな成果を上げたという。
先般の組織改革でも、この2SS活動を全 社レベルで推進していくための体制を整えて いる。
菱食のロジスティクス部門には、以前 からスーパーバイザー(SV)と呼ばれる現 地駐在の改善担当者が九〇人程度いた。
ただ し、その活動は個々人に委ねられているとこ ろが大きかった。
「改善活動というのは個人の能力に依存す べきことではない。
現場の意見を吸い上げな がら本社でマニュアルなどを作り、これを組 織的に全社に浸透させていくべきだ」と原田 常務。
実際、これまでは各SVの実力によっ て、活動内容にバラツキが生じていた。
組織改革を進める中でこの問題にもメスを 入れた。
SCM運用部の中に専門セクション を設置。
同時に現場で指導に当たるSVを三 六人に厳選した。
そして各地のロジスティク ス部の中に「2SS・SVチーム」を配置し、 本社で定めた統一方針に基づいて彼らが各セ ンターを指導していく体制にした。
自動化によって現場作業の効率を高めてき た菱食だが、これからは大規模なインフラ投 資だけでは対応できないと考えている。
機械 化による高度化は従来通りに進めるが、その 一方でもっと泥臭いやり方で自分たちの足腰 を強くしようとしている。
流通構造の変化を見据えて こうした変化の背景には、〇四年五月に稼 動した「横須賀フルラインセンター」で豊田 自動織機と業務提携した影響や、イトーヨー カ堂から専用センターの運営を受託している 「川口SDC」での改善活動の経験がある(本 誌〇七年六月号参照)。
外部からの刺激という意味では、イオンか ら受けている影響もある。
現在の菱食のイオ ングループ向け取引金額は約二〇〇〇億円に 上っている。
連結売上高約一兆四〇〇〇億円 (〇七年十二月期)に占める比率は大きい。
そのイオンが米ウォルマート流の卸を介在し ない中間流通戦略を進めていることは、本誌 先月号でも詳報した通りだ。
イオンと菱食は 今でこそ互いの能力を認め合うパートナーだ が、将来にわたって協業関係が継続するとい う保証はどこにもない。
近年、菱食が進めて いる改革は、このような日本の流通構造の変 化を見据えたものだ。
菱食の視線の先にあるのは、もはや小売業 だけではない。
現在、同社は「量から質への 転換」をスローガンに、生活者のライフスタ イルの変化を敏感に察知した「ライフスタイ ル・マーケティング」によって、売り場提案 だけでなく、商品開発にまで業域を拡大しよ うとしている。
メーカー・卸・小売りという 従来の活動領域を超えた、サプライチェーン 競争の主導権争いに足を踏み出そうとしてい るわけだ。
もちろん、そこでもロジスティクスは重要 な機能の一つだ。
「ローコスト化に対するノウ ハウを常に追い求める姿勢さえあれば、菱食 のロジスティクスとITは他社の追従を許さ ないものになっていく」と原田常務は確信し ている。
だからこそ2SS活動による足腰の 強化を急いでいる。
(※役職は取材時点) (フリージャーナリスト・岡山宏之) 図3 「2SS 活動」の推進による物流品質向上とローコスト徹底の実現 ( 2SS=整理・整頓・ソリューション) ?整理・整頓を徹底した上での庫内各作業スペース配分の最適化 ?後続作業を意識した定位置管理の徹底 ?出荷ランクに応じた最適ロケーション管理の実現 ?行き届いた清掃で働きやすい職場環境を実現し、良質パート、ドライバーの長期確保 ?各DC で庫内コスト、物流品質数値の目標管理 ?受発注OP センターとDC 運用担当による協議→在庫量の適正化 ?発注単位、入庫頻度を見直し、メーカーと共同した物流コスト改善 ?得意先特性を考慮した最適ロケーション管理による生産性向上 ?曜日・時間波動を考慮した要員管理の徹底(人員のムダ・ムラの解消) ?全エリアにおいてデイリーDC収支管理が可能な体制の構築(DC経費削減の徹底) ?委託会社との協業による「役割・責任分担」の明確化と効率化、シンプル化 ?デイリーでの配送収支管理を行い、施策進捗追跡が可能な体制の構築 全センターを対象に「2SS 活動(A)」を、並行してエリア別に対象DCを定め「2SS 活動(B)」 を実施する DC の2S(整理・整頓)、および物流指標数値を基準とした2Sを実施し、問題点・課題を浮き彫 りにした上で「無駄取り」を徹底し、問題解決の下地を作る。
2SS 活動(A)をベースにDC 別課題を抽出。
営業部署、メーカー、得意先、委託先と連携して改善 を行い、コスト改善、ユーティリティスペースの創出、DC 統廃合などのソリューションを実現する 【DC 運用管理手法の改善】 2SS 活動(A) 2SS 活動(B)
