2008年4月号
現場改善

小規模メーカーA社の物流インフラ構築

APRIL 2008  86 売上高物流費比率一六%  A社は婦人靴を製造・販売する年商約八億 のメーカーだ。
中国に現地法人化した自社生 産拠点を二カ所構え、日本国内向けに輸入販 売している。
売り上げの約八割は全国の靴卸 相手のB to Bだが、インターネットで一般消 費者に直接販売するB to Cも約二割ある。
 これまでA社の支払物流費は売上高の約一 六%という尋常ではないレベルにあった。
我々 日本ロジファクトリー(NLF)への依頼内 容も「現状の支払い物流費ではコスト倒れに なってしまう。
品質的にもユーザーからの信 用を得られない」というものであった。
 まずはA社のトップ、そして我々NLFと の交渉窓口となった担当部長の両名と、数時 間にわたる話し合いを行った。
そこから今回 の改善の目標を、卸向けのB to Bに関して はコスト削減、一般消費者のB to Cは出荷精 度向上のための“シクミづくり”に定めた。
 通常であれば我々は、コスト削減とシクミ づくりという二つのテーマを同時並行で進め ることはしない。
シクミづくりは時に新規投 資や物流コストの増加を避けられないことが ある。
コスト削減とは必ずしも両立しない。
 コストとシクミのどちらを優先させるのか。
それを確認できないまま改革に着手してクレー ムを発生させているコンサルタントや物流企 業を、これまで我々は数多く目にしてきた。
しかしA社の場合は、B to BとB to Cのチャ ネルがはっきりと分かれているため、それぞ れ別の目標を立てることも可能だと今回は判 断したのである。
 話を聞けばA社は我々に相談を持ち込む直 前に、自主改善を行ったばかりであった。
協 力物流会社の変更である。
中国・上海から 輸入した貨物を日本で処理する、具体的には 日本における港湾荷役、通関、保管、出荷 業務の委託先をT社からM社に変更していた。
いずれも大手物流会社だが、この変更でリー ドタイムの一日の短縮を実現できたという。
 確かに米国の同時テロ事件以降、物流企業 によって、通関手続き、申請、受理などの処 理スピードにはかなりの違いが出るようになっ てきている。
法令順守(コンプライアンス) 面での優良事業者に対する優先的な扱いが実 施されているせいで、大手物流企業同士であっ ても差が生じているのだ。
そこに目を付けた わけである。
 アパレル物流においてリードタイムは最も 重要な管理指標の一つだ。
もともとアパレル 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第63 回  システムやノウハウに欠ける中小荷主は往々にして大手 物流会社のブランドに頼りたがる。
その気持ちは分かる。
しかし、実際のコスト効率や作業品質はどうか。
大手に委 託して業務を孫請けに丸投げされるよりも、むしろ自分の 身の丈にあったパートナーを選んだほうが良い結果を生むこ とが多いのである。
小規模メーカーA社の物流インフラ構築 87  APRIL 2008 製品はアイテムごとの売れ行きが流行によっ て大きく左右されるため需要予測が難しい。
売れ残りによる値崩れや損失を避ける必要も あるため、いったん売れ筋が判明すると、一 気に増産をかけるという特徴がある。
 しかもタイミングを逸すれば販売機会を失っ てしまう。
勢い輸送手段には割高な航空輸送 を使うことになる。
A社においても、平常時 は海上輸送だが、繁忙時には航空輸送に集中 する傾向がある。
それだけに一日といえども リードタイムを短縮した意味は大きかった。
 A社自身、その点には満足しながらも、新 たなパートナーとなったM社のコスト効率と 作業品質には不満を持っていた。
とくに通関 後の陸上輸送コストの高さ、そしてB to C物 流における出荷精度には問題を感じていた。
 その原因を探るため、我々NLFは現地に 出向き、現場作業の視察を行い、またM社か らの請求書をチェックした。
原因が判明する までに多くの時間は必要なかった。
M社にお ける下請け物流会社の選定ミスと管理手数料 の高さ、そして中小荷主相手の片手間仕事か らくる作業ミスが、主な原因であった。
 他の大手物流会社と同様にM社では、通関、 港湾荷役、保管、出荷業務までを自前で処理 し、その後の輸配送は路線会社に委託してい た。
路線会社は配送エリア別に二社を使い分 けていたが、その分担が両社の会社の得意と するエリアとズレていた。
そのために両社で は配送の再委託を行う必要が生じ、配送料金 が高くなってしまっていたのである。
 中小荷主に対する片手間仕事も、大手物流 会社ではよくあることである。
大手物流会社 をパートナーにするには、荷主側に最低でも 三〇〇坪以上、場合によっては一〇〇〇坪以 上の倉庫スペースを利用するだけの規模が求 められると考えるべきなのだろう。
一〇〇坪 そこそこの荷主では、大手には軽く見られて しまう。
やっつけ仕事になりがちだ。
荷主専 任の担当者を置くこともできず、日常の連絡 も商品知識を理解していないアルバイトなど が対応することになってしまう。
 実際、A社のB to C物流で発生していた ミスの内容も送り状の貼り間違いという至っ て初歩的な内容であった。
現場でダブルチェッ クを行うだけで、基本的には免れたはずのミ スである。
協力会社に相手にされていない  この現場調査の結果を受けて我々は以下の 三つの提案を行った。
?航空貨物と海上貨物を分けて、改めて協力 会社を選定する ?B to Bの協力会社と、B to Cの協力会社 を分離する ?B to Cにおける出荷頻度の削減  一つ捕促すると、A社の中国の現地法人で 管理している上海側の港湾荷役会社と船社の 見直しは今回は見送ることにした。
前年に見 直しを行ったばかりであり、融通の利く最適 な協力会社だという現地法人の意見を尊重す ることにした。
過去に日系物流会社に同業務 の見積もりを依頼したところ、現状よりも高 い料金を提示されたという経緯もあった。
 ?航空貨物と海上貨物の協力会社を分離す るのは、それぞれの輸送モードに強いフォワー ダーを使い分けたほうが有利だという判断か らだ。
パートナーのM社は海上貨物の扱いで は大手でも、航空貨物は得意とは言えなかっ た。
キャリアとの価格交渉やスペース確保の 点で、航空貨物を強みとする会社と比べると やはり力の差があった。
 改めて航空貨物に強い会社をリストアップ して紹介し、三社が候補にあがった。
ちょう 荷主と物流会社の温度差 ●言葉が通じない/話をしてもムダである ●(物流)品質管理が確立していない ●改善提案力がない  (どうすれば物流コストが下がるのか知りたい) ●どんな物流会社が他にあるのかわからない ●物流会社のコスト構造がわからない ●会話の中の業界用語がわからない ●「早く」「確実」に届けてもそれが当たり前だと  思っている(喜んでもらえない) ●物流コストを下げる方法は支払運賃を下げるこ  としか知らない ●(荷主の)全体の荷物の動きがわからない 荷 主物流会社 APRIL 2008  88 どA社の繁忙期で航空輸送が集中して発生す る時期に当たっていたため、提案書と面接に よる審査だけではなく、実際にトライアルを 行って選考を進めることにした。
各社二回ず つのトライアルを行い、結果的にS社に決定 した。
 S社は陸運業を主体としているが、航空フォ ワーディングに強い商社系のL社とパートナー シップを組んでいた。
しかもS社の既存イン フラで、空港からの仕分けや配送を処理でき るため、この二つのコストが従来比で二二% ダウンしたのであった。
 ?B to Bの協力会社と、B to Cの協力会 社を分離することについては、A社自身その 必要性を従来から感じていた。
A社の担当部 長は「今の自分たちの売上規模、物量では組 む相手が大き過ぎる。
もっと小回りの効く中 堅以下の物流会社のほうがいいのかも知れな いと考えていた」という。
 A社だけでなく、物量が少ないために大手 物流会社から十分なサービスを受けられない でいる荷主は決して少なくない。
システムや 管理の水準が低い中小荷主ほど大手のブラン ドに頼ろうとする。
もちろん仕事は引き受け てはもらえる。
しかし実態としては相手にさ れていないことが多い。
 これは物流会社側にも問題がある。
中小企 業の物流を扱うノウハウが整備されていない のである。
その結果、荷主企業と物流会社の 温度差、すれ違いがいっそう拡大してしまっ ている。
残念ながら従来のA社とM社の関係 にもそうした傾向が見られた。
 そこで我々NLFのクライアント先で、一 〇坪〜五〇坪クラスの荷主企業をメーンにし ている小規模な物流会社に、A社のB to C 物流の対応を依頼することにした。
年商は約 三億円という規模ながら、小口保管とその出 荷業務を得意とする物流会社であり、作業品 質には信頼が置けた。
 過去に別の荷主の案件でも、この会社を紹 介したことがあるが、「委託を行ってから約 一年経つが、作業ミスはほとんどゼロと言っ てよいレベルで、納品先からの評判も良い」と、 その荷主から報告を受けていた。
過剰サービスを修正  ?B to Cにおける出荷頻度の削減は、多 少説明が必要であろう。
前述の通りA社のB to C物流とは、一般消費者向けのネット通販 である。
しかし大手ショッピングサイトに出 店しているわけではなく、自社ホームページ からの販売で、A社の社長は「我々はあくま でメーカーであり、生産に注力するのが基本。
ネット通販にはそれほど力を入れない」と断 言していた。
 それでもネット通販の売り上げは既に全体 の二割に達している。
今後ヒット商品が出れ ば物量はいっそう増える。
これらを総合的に 考慮し、プラス五〇坪の拡張余力のある倉庫 が必要だと我々は判断した。
ただし、それだ けではコストアップになってしまう。
いくら シクミ作り優先とはいっても避けたいところだ。
 しかしA社のB to C物流の注文件数は現状 では一日当たり二〇件、一週間当たり一〇〇 件強に過ぎない。
作業自体の効率化には限界 があった。
そこで出荷頻度の削減に目を付けた。
従来は毎日出荷を行っていた。
しかし商品特 性上、翌日納品の必要性が薄いことは明らか だった。
そこで協力物流会社とも相談のうえ、 木曜日と土曜日の週二回の出荷に切り替えた のだ。
これによって支払物流費の三五%もの コストダウンが実現した。
 さらに我々はA社に対して、将来は週に一 回の配送でも構わないはずだとアドバイスし ている。
物流コストが下がれば、A社の競争 力はより高まる。
その効果は出荷頻度削減の 影響よりもはるかに大きいという指摘だ。
こ の提案にA社の社長と部長は、大いに納得し てくれた様子だった。
 こうしてA社の新しい物流インフラとルー ル作りは、ひとまず完了した。
A社のような 中小荷主の物流管理では、協力物流会社の選 定が重要な要素となる。
物流会社側では、中 小荷主を魅力の薄い相手としか見ないため苦 労は大きい。
しかし、日本の九九%以上はA 社と同様あるいは、それ以下の規模の中小企 業である。
未曾有の規模を持つ中小荷主支援 型の物流市場が、いまだ手つかずの状態にあ るといえる。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、8 9年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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