2008年5月号
海外Report

ボーダフォン

MAY 2008  52  携帯電話事業世界最大手のボーダフォンが、調達プロセスの大幅な見直しに着手したの は二〇〇三年のことだった。
新たにグローバル・サプライチェーン・マネジメント部門を本 社に設置し、それまで各国のグループ企業ごとに分散管理していた調達機能を統合、サプ ライヤー管理を強化した。
同社のシニア・マネージャーを務めるマイケル・プロイガー氏が、 その取り組みを語る。
          (取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議 最終回 ボーダフォン 調達の世界一元化でコスト削減へ KPIでサプライヤー管理強化 M&Aによる成長が裏目に  一九八五年に英国で生まれたボーダフォン は、欧州や米州で多数の企業買収(M&A) を重ね、成長を果たしてきた多国籍携帯電話 事業会社です。
その中でも自社のネットワー クを持つ欧州を中心とした一七カ国が事業の 中心となります(図1)。
売上高は三一一億 ポンド(六兆二二〇〇億円)で、顧客数は二 億五〇〇〇万人に上ります。
(いずれも二〇 〇七年三月末の数字)。
 現在も、M&Aによる成長は続いていま す。
最近では携帯電話市場の成長が著しいイ ンドとトルコで地場の電話会社を買収しまし た。
また米国で業界第二位のベライゾン・ワ イヤレス(ベライゾン・コミュニケーションズ とボーダフォンの合弁会社)の保有株式比率 を四五%に引き上げました。
 当社は成長戦略として次の五項目を掲げて います。
?欧州におけるコスト削減と成長の促進 ?新興市場における力強い成長の確保 ?顧客のコミュニケーションニーズへの最大 限の対応 ?利益を最大限にするための事業の再編 ?株主利益を高めるための投資戦略  しかしM&Aを重ねて急成長を遂げた企業 の常として、ボーダフォンは次第に、企業と しての成熟度が異なりビジネスプロセスも企 業文化も違う別々の企業体の?寄り合い所帯? 図1 ボーダフォンの主要17 カ国 アイルランド 英国 オランダ イタリア アルバニア マルタ ドイツ スペイン ポルトガル ギリシャ トルコ エジプト ルーマニア ハンガリー チェコ オーストラリア ニュージーランド 53  MAY 2008 のようになり、社内の組織が複雑化していき ました。
 その弊害は、調達部門に端的に現れました。
企業規模が大きくなれば、本来なら資材やサ ービスを調達する際にスケールメリットが発生 して、有利な条件を手に入れることができる はずです。
しかし、ボーダフォンの場合、自 社のネットワークを持った一七カ国のグループ 企業がそれぞれ独立した組織のように調達し ていたことから、スケールメリットを活かす ことができていませんでした。
 それぞれの国のグループ企業が、予算と権限 を持って調達していたために、ボーダフォン全 体としては、どんな製品やサービスを、どのサ プライヤーからどれだけ調達しているのか、そ の数字すら把握できていなかったのです。
 ERP(統合基幹業務システム)ソフトも 国によってばらばらで、各サプライヤーとの 取引についての正確な数字や、それを評価す るシステムもありませんでした。
主要サプラ イヤーに関しても、エリクソンは英国のグルー プ企業が、 シーメンスについてはドイツのグル ープ企業が、というように、場当たり的な対 応をしていました。
ボーダフォンがどんな製 品やサービスをいくらで調達しているかとい うデータを、 サプライヤーの方が正確に押さえ ているといった状態だったのです。
 しかも、各国のグループ企業には、自分た ちはほかのグループ企業よりも良い条件で調 達していると内心で思っているようなメンタ リティーがはびこっていました。
各グループ 企業がサプライヤーに対して独自に良い条件 を求めようとする姿勢が、ボーダフォン全体 からみるとマイナスの効果を生み出していた のです。
 ボーダフォンにグローバ ル・サプライチェーン・マネ ジメント(GSCM)部門 ができたのは〇三年のこと です。
現在では六五〇人が 働いています。
それまで各 国任せだった調達を本社機 能にまとめ、、サプライチェ ーンという切り口からコスト 削減とサプライヤー管理を行 うことが組織改革の狙いで した(図2)。
 当初は調達に関するすべ てのことをGSCMで一括管理することを想 定してスタートしました。
しかし、この試み はすぐに修正せざるを得ませんでした。
本社 一括で調達した方が良い製品やサービスがあ る一方で、各国に任せた方が良いものもある ことがわかったからです。
 例えば、基地局(ベース・ステーション: 移動体通信を行う機器が無線で接続するため の拠点を指す)を購入するときは、本社で一 括交渉した方がいいけれども、その据え付け となると各国に任せるしかありません。
物流 センターにおけるサービスの調達も、一括し て大手の3PL企業に外注するよりも、各国 が地場の3PL企業を選定した方がうまくい くことがわかりました。
調達を本社で管理  GSCM部門を立ち上げた翌〇四年、ボー ダフォン全社の調達データを集めるため「e 2open」という、米国に本社を置く企業 のSCMソフトを導入しました。
複数の企業 にまたがるサプライチェーン活動を解析するソ フトです。
 我々はサプライヤーやグループ企業から本社 に吸い上げたデータをこのソフトで分析し、ど んな製品やサービスの調達にいくら支払った のかを確認しました。
また〇三年から三年間 かけてERPソフトを統一して、人事考課や 財務、サプライチェーンなどのデータも一つに まとめました。
 GSCM部門の主導による社内改革が可能 図2 サプライヤーの取引形態の変化 サプライヤーに丸投げ カテゴリーA カテゴリーB カテゴリーC カテゴリーD スペイン イギリス ドイツ イタリア その他 サプライヤー1 サプライヤー4 サプライヤー5 サプライヤー2 サプライヤー3 スペイン イギリス ドイツ イタリア その他 サプライヤー1 サプライヤー4 サプライヤー5 サプライヤー2 GSCM サプライヤー3 サプライヤー1 サプライヤー2 サプライヤ3 サプライヤー4 カテゴリーごとの管理 サプライヤー1 サプライヤー2 サプライヤ3 サプライヤー4 カテゴリー:ラジオ&アクセス・コア・トランスミッション カテゴリー:パッシィブ・イクイップメント カテゴリー:コア&バックボーン・トランスミッション MAY 2008  54 になった背景には、アルン・サーリンCEO (最高経営責任者)の全面的なバックアップ がありました。
それまで各国の自由裁量でや ってきた分野に本社から口を出すのですから、 社内的な駆け引きが発生することも少なくは ありませんでしたが、トップがバックアップ してくれたことで、社内政治に費やす時間を 最小限に抑えることができました。
 全社の調達履歴の分析を通して、まず頻繁 に調達する約二〇〇種類に及ぶ製品やサービ スについての「カタログ」を作りました。
こ のカタログには、これまでの 調達価格、調達部数といった 基本的なデータから、その市 場においてボーダフォンは大 口顧客に当たるのか否か、最 大でどれくらいの割引が可能 なのか、主要サプライヤーは 何社あるのか、入札をすると きは何社に声をかけるのがい いのか、といった調達に欠か せないデータが記載されてい ます。
 このほかにも調達に関する 三つのモデルを作りました。
一 つは各国で調達するものに関 しては、その中からベストプ ラクティスを見つけ出し、全 社でその方法を採用するとい うモデルです。
例えば、物流 センター運営なら、どの業者 をいくらで使い、どんなサービスレベルを得 ることができたかの詳細を共有するのです。
 二つ目は「調達会議」です。
購買金額が大 きい製品やサービスについてはここでサプライ ヤーの選定を行います。
最後は、「プロジェク ト部隊」で、先に挙げた基地局のように、全 社で調達した後で各国のグループ企業が据え 付けの作業を行うような共同作業が発生する 調達案件については、両者の利害の調整を行 います。
 GSCM部門の活動は、三つに分けること ができます。
一つはカテゴリー管理です。
こ れは先に挙げた「カタログ」を使ってネット ワークとIT(情報技術)、サービスの三つの 分野についての調達を本社一括で行うことで、 サプライヤーを管理してコスト削減を図るもの です。
 もう一つは、オペレーション管理で、これ は各国のグループ企業の中にいるGSCMの 部員が、各国が担当する調達についてのコス ト削減を図ることです。
 三つ目は「エネイブラー(Enabler)」管理 で、カタログや地域別といった枠を超えてサ プライチェーンの効率化を図ろうというのが 狙いです(図3)。
エネイブラー管理の中心と しては、〇七年三月に立ち上げた中国調達セ ンターがあります。
今後三年間で中国からの 調達をそれまでの二倍に増やそうという狙い で作りました。
 GSCM部門には四つの目標が課せられて います。
?「カタログ」を利用することによるコスト の削減 ?サプライヤーのパフォーマンスの向上 ?企業規模にふさわしいスケールメリットが 享受できるような体制作り ?電子商取引を使うことによるサプライチェ ーンにかかるコストの削減  このうち電子商取引については、〇四年か らの三年間で五六億ユーロ(八九六〇億円) 分の製品やサービスをネット上のオークション から調達しました。
調達は二四カ国で行われ、 GSCM部門の三〇〇人がかかわり、総件数 は三四〇〇件となりました。
KPIでサプライヤー選別  ボーダフォンはまた、サプライヤーとの取引 から無駄を取り除き、迅速で透明度の高い関 係へと変えていくために、サプライヤーを取 捨選択しようとしました。
それまではサプラ イヤーの評価をする国もあればしない国もあ り、サプライヤーについての情報は担当者個 人のレベルにとどまっていました。
 まずはサプライヤーの評価基準として、六 本の柱からなるKPI(重要業績評価指標) を作りました。
六本の柱とは、コンプライア ンスを含む?社会的責任、?財務的安定、? 技術力、?商業力、?配送能力、?品質管 理能力──です。
こうした明快な基準作りは、 サプライヤー側にすぐに受け入れられました。
それまでは同じボーダフォンでも国によって違 図3 GSCM の3 つの活動 カテゴリー管理 ネットワークIT サービス オペレーション管理 欧州の 4つのハブ その他の 地域 エネイブラー管理 戦略&変化中国調達センター GSCM 55  MAY 2008 責めを負うことになるのですから。
 調達に関する組織や評価基準を整え、それ に関する手段を用意することは、調達部門を 一つにまとめ、やる気を引き出すのに役立つ と考えています。
それまで調達部門とは、ほ かの部門から「できるだけ安く早くこの製品 を仕入れてくれ」と乱暴に頼まれる部門でし かありませんでした。
それが今や、調達の際 に求められる項目やそれに対する評価が固ま ったことで、自分の仕事を客観的に判断でき るようになりました。
 GSCM部門は現在、毎月の役員会で過去 一カ月におけるサプライチェーン活動に関連し たコスト削減の数字と次の一カ月の予想数字 を報告することができるようにまでなりまし た。
これにより、我々ボーダフォンはサプライ チェーンに関して正確で素早い経営決定が下 せるようになったのです。
っていた仕入れの基準が一本化されてわかり やすくなったからです。
 このKPIを使って昨年は、主要サプライ ヤーの中から、テレコミュニケーションシステ ムとスマートカードのサプライヤーであるドイ ツのギーゼッケアンドデブリエントにベストサ プライヤー賞を、そしてテレコミュニケーショ ンを専門とする中国の華為技術社に優秀パフ ォーマンス賞を、サンマイクロシステムズ社に コンプライアンス賞を授賞しました。
 次に必要になったのは、それまで各国のグ ループ企業ごとに設定していたコスト削減目 標を、GSCM部門が主導権を握り、本社で 一括管理することでした。
GSCM部門が立 ち上がって以来、コスト削減やサプライヤー管 理において成果が上がらないと、グループ企 業とGSCM部門の間で、責任の所在をめぐ って意見の食い違いの起こることが少なくあ りませんでした。
 そこでまずは各グループ企業の財務責任者 から調達に関してのコスト削減目標やサプラ イヤーに望むパフォーマンス、どれくらいの 権限を手元に残しておきたいのかなどについ て聞き取りました。
こうすることで、本社か ら一方的に押し付けた数字というのではなく、 「ギブ・アンド・テイク」の土台を作ろうとし たのです。
 〇七年に入って、ようやく各グループ企業 の財務責任者と本社のGSCM部門が一緒に なって一年間のコスト削減などの数字をまと めることができました。
そこにたどり着くま でにGSCM部門の立ち上げから四年がかか りました。
それでも全社で目標を立てたこと で、目標を達成するために、各グループ企業 と本社が本気で協力せざるを得なくなりまし た。
もし目標を達成できなければ、お互いが 1ポンド= 200円、1ユーロ= 160円

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