2008年5月号
ケース
ケース
組織改革 横浜ゴム
MAY 2008 40
組織改革
横浜ゴム
新設のタイヤ物流本部がBPRに再挑戦
製配販のムダ取りを社長直轄で主導
三五年前から物流が生産量を決定
物流部門が生産計画をつくり、工場に指示
をだす──。
欧米流のロジスティクスではしご く当たり前のやり方だが、日本でこうした役 割分担を実践しているメーカーは少ない。
日 本企業の物流部門は、一般に生産や営業の傘 下に位置づけられて受動的に仕事をしている。
これに対して横浜ゴムは、一九七〇年代の初 頭から本社の物流部門が工場の生産量を決定 していたという。
同社のタイヤ物流を統括する大屋博タイヤ 物流本部長は、次のように振り返る。
「私が入 社した七二年の時点で、『物流企画』という 部署が工場で月々、何をどのくらい作るか決 めていた。
新車メーカーの生産計画や補修用 タイヤの販売実績から販売量を予測して、基 準在庫に基づいて運用する。
もちろん当時は 単独でしか考えていなかったが、生産から販 売会社への出荷までを一気通貫でみられるよ うになっていた」 このように早い時期から物流部門による全 体最適化の推進を意識していた横浜ゴムには、 同業他社が教えを請いにくることもあったと いう。
現在でも基本的な考え方は変わってい ない。
ただし、サプライチェーンの主導権が 徐々にメーカーから川下に移ってきたことや、 日本でも連結決算が当然になって系列販社の 持つ在庫まで含めて管理しなければいけなく なったことで、優位性は脅かされている。
同社は現在、主に三つの市場に向けてタイ ヤを供給している。
?自動車メーカーの生産 ライン向け、?市販市場向け、?輸出向け、 である。
新車メーカーの組み立てラインにジャ スト・イン・タイム(JIT)で納入すると きには、自動車各社の厳しい要求に応える必 要がある。
一方、補修用を扱う市販市場では、 系列販社の保有分まで含めた在庫水準の適正 化が求められるようになってきた。
国内市場が全体として伸び悩んでいる現在、 海外市場への展開も大きなテーマだ。
以前から 輸出のための物流管理は手掛けていたが、最 近は東南アジアでの現地生産に本腰を入れて いることで状況が変わってきた。
現状では海 外の生産拠点から出荷するためのオペレーシ ョンは現地に任せている。
だが経営トップは これも本社で管理することを望んでいる。
三つの市場向けそれぞれに物流管理上の特 性がある。
このうち新車メーカー向けでは、共 同化が進んでいる。
自動車メーカーから厳し いJIT納入の要請を受けているのは、どの タイヤメーカーも同じ。
ここではタイヤ業界の 共同物流プラットフォームともいうべき仕組 BPR(業務の再構築)を狙って2000年に新シス テムを稼働した。
これによって情報共有の体制は整 ったが、生産と販売を巻き込むことができず期待通 りの成果を得られなかった。
そこで昨年6月、社長 直轄の「タイヤ物流本部」を新設。
物流部門を生 産や販売と同格の組織にして、改めてサプライチェ ーンの効率化を進めようとしている。
タイヤ物流本部の大屋博本 部長 41 MAY 2008 みが機能している。
全国数十カ所にタイヤメ ーカー各社が相乗りする共同デポが設置され ていて、ここから自動車メーカーの生産ライ ンにJIT納品するという体制である。
デポの運営は物流事業者が手掛けている。
タイヤ各社は一本いくらといった契約を交わ して物流業務を委託する。
共同デポがあるこ とによって自動車メーカーもタイヤ各社の納 品を管理しやすいことから、「非常に効率的 なインフラだと思う」と大屋本部長。
横浜ゴ ムでは現在、約三〇カ所の共同デポを活用し ている。
自動車メーカーの生産ライン向けの物流拠 点で、横浜ゴムが単独で管理しているのは愛 知県内にあるトヨタ自動車向けの拠点一カ所 だけしかない。
運営は物流子会社の浜ゴム物 流に委託している。
以前からこのエリアだけ は、タイヤ各社が単独で物流拠点を構えてい るのだという。
自動車メーカー各社は通常、三日先ぐらい までの注文を出してくる。
これに対してタイ ヤメーカーは、発注リードタイムに応じた分の 在庫を各デポに持つ。
そして出荷した分だけ 在庫を補充する。
自動車メーカー向けの物流 管理はほぼ定型化されており、物流機能はタ イヤメーカー間の競争要因にはなっていない。
輸出向けの物流管理もシンプルだ。
横浜ゴ ムは生産拠点の多くを中部地区から西日本に かけて構えている。
そのため輸出入には主に 名古屋港と四日市港を利用する。
それぞれの 港に物流拠点を構えているが、大半は定期航 路の多い名古屋港で処理している。
狙い通りに進まなかったBPR 物流部門にとって、最も手腕を問われるの は市販市場向けの物流管理だ。
ここでは物流 の巧拙が顧客に提供するサービスレベルや在 庫水準に直結する。
市場での競争力を左右す る要因となっているだけに共同デポのような 仕組みは存在せず、タイヤ各社がサプライチ ェーンの効率化を競い合っている。
横浜ゴムは現在、国内に系列販社を二三社 もっている。
販社の営業所は全国に約三五〇 カ所あり、それぞれに在庫を抱えている。
こ の販売網にタイムリーに製品を供給するため、 横浜ゴムは「地区配送センター」と呼ぶ物流 拠点を全国六カ所(苫小牧・仙台・上尾・四 日市・尾道・福岡)に構えている。
物流の効率を考えると、末端の営業所すべ てで在庫を持つというのは非効率に思えるか もしれない。
しかし、市販市場のユーザーは タイヤの銘柄に対してそれほど強いこだわり を持っていない。
在庫してある製品の中から 選ぶ傾向があるため、欠品がそのまま販売機 会の損失につながってしまう。
こうした商習慣と会計制度の変更が、タイ ヤメーカーによるサプライチェーン管理を難し いものにしている。
単独決算で経営を考えて いた時代であれば、いったん販社に売った製 品の在庫を気にする必要はほとんどなかった。
ところが現在、横浜ゴムの国内系列販社はす べて連結対象になっている。
販社の在庫水準 がそのまま連結決算に反映される。
そのため にトータルな在庫管理が重要なテーマになっ ている。
冒頭でも紹介したように、横浜ゴムは三〇 年以上前から先進的な物流管理をしていた。
その後も生産管理や販売計画などのサイクル を月次から週次に短縮させるなど進歩させる 図1 横浜ゴムのタイヤ物流の概要 レース場 その他 デポ (倉庫) 地区配送 センタータイヤ 販売会社 港湾倉庫 海外生産品 海外生産品 海外生産品 タイヤ販売店直送 タイヤ販売会社直送 国内タイヤ工場 自動車メーカー組み立てライン 直営店 得意先 得意先 得意先 自動車メーカー組み立てライン 自動車メーカー組み立てライン 海外タイヤ販売会社 海外タイヤ販売会社 海外タイヤ工場 自動車 メーカー 向け 輸出向け 市販市場向け (取り換え用) MAY 2008 42 努力を続けている。
しかし、事業環境が変化 していくなかで、かつての先進的な考え方は 「残念ながらどこかで途切れてしまった気がす る」と大屋本部長は認識している。
横浜ゴムが九〇年代半ばから取り組んだB PR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリ ング)プロジェクトは、こうした課題に真正 面から挑むものだった。
このとき同社は総額 およそ一〇〇億円を投じて「統合ロジスティ クス」など大規模な情報システムを整備した。
販社の営業拠点・配送センター・工場をすべ てオンラインで結び、販売情報や在庫情報な どを関係者が共有できる仕組みだ。
その上で、ITを使って月次ベースだった 計画サイクルを週次に短縮し、販社の注文か ら納品までのリードタイムを短縮する。
それに よってサプライチェーン上のトータル在庫を削 減しようという狙いだった。
しかし、期待通 りの成果を上げることはできなかった。
情報 システムの枠組みはでき、一応は週次サイク ルで仕事をするようになった。
ところが、そ れが本当の意味で定着しない。
本来であればITによる情報の共有は出発 点にすぎない。
ここに週次計画に対応できる 生産能力や、配送センターのオペレーション能 力などが伴ってはじめて、少ない在庫で顧客 ニーズを満たせるようになる。
だが当時の横 浜ゴムは、時代の雰囲気もあってITを“魔 法の杖”のごとく過大評価してしまった。
このため二〇〇〇年に「統合ロジスティク 上げした。
失速したBPRプロジェクトの轍 を踏まないために、より強い権限を持たせた わけだ。
タイヤ物流本部には現在、四六人の社員が 所属している。
このうち四割の社員が「タイ ヤ販売物流部」で販社向けの業務を担当し、 ス」システムが稼働すると、BPRプロジェ クトは解消されてしまった。
プロジェクトメン バーは出身セクションなどに戻り、以降は既 存部門がシステムを使いながら改革を進めて いくことになった。
「タイヤ物流本部」の設置 この認識は甘かった。
プロジェクトの一員 でもあったタイヤ販売物流部の内田寿夫物流 企画Gリーダーは、「部門に移管するという のはなかなか難しかった。
総論では賛成でも、 個別のテーマになるとどうしても部門のベク トルが合わなくなってしまう。
じわじわと崩 れてしまい、五年ほどたってみてみたら、や はり効果は出ていなかった」と説明する。
その後、連結決算を重視するようになった ことや、期待通りに在庫が減らなかったこと で、改めて同じ問題がクローズアップされる ようになった。
このままではシステムの機能 も満足に発揮できない。
経営トップをはじめ とする関係者は、もう一度、販社の営業所へ の納品まで含めた生産リードタイムの短縮に 取り組まなければという気持ちを強めていっ た。
〇七年六月に「タイヤ物流本部」をトップ ダウンで新設した背景には、こうした経緯が あった。
この改組によって物流部門は社長直 轄になった。
生産と販売の双方から中立の立 場にあることは従来と同じだが、タイヤ生産 本部や営業本部と同格の組織に位置付けを格 補充 受注残 補充 回答 回答月次 回答 月次回答 依頼 月次オーダー 図2 「統合ロジスティクス」システムの概要 Supply Control Management System(物流本部/グローバルSCM 機能) 需給バランス監視(国内・海外) 基準在庫設定保有サイズ管理 Compass System (国内販社) 統合Logistics System (DC) G-Compass System (海外販社) OE System (直需) Wil System (海外営業) EXP 組入 システム OE Depot System (各OEデポ) B2B(EXP) System (海外販社) SEEDSシステム (MP/SP/TP) 作業計画システム (MP/SP/TP) 各工場 随時 回答 基準在庫基準在庫備蓄・計画 販売見込 補充 随時回答 補充 随時回答 実績 注文 統合 Logistics System (工場物流) 月次出荷依頼 随時回答 随時回答 補充オーダー 新生産計画システム 仮オーダー 生産計画 生産依頼システム 43 MAY 2008 三割は「タイヤ生産物流部」で工場に対する 生産指示を手掛けている。
さらに残りの三割 は「BPR推進室」に所属している。
かつて のようなプロジェクトベースではなく、恒常的 に取り組むための組織だ。
BPRのほかにも、最近の横浜ゴムが全社 を挙げて熱心に取り組んでいる活動がある。
同 社は〇六年四月に「MD推進室」というセク ションを新設した。
MDとは“ムダ取り”を 意味しており、文字通りあらゆるムダの排除 を専門で行う部署である。
横浜ゴムは現在の中期経営計画「GD一〇 〇」で、創業一〇〇周年となる二〇一七年に連 結売上高一兆円、営業利益一〇〇〇億円(利 益率一〇%)を達成するという目標を掲げて いる。
〇七年三月期の連結売上高が四九七四 億円、営業利益二一〇億円(同四・二%)だ ったことを考えると極めて野心的な内容だ。
営 業利益率を飛躍的に向上させるためには、徹 底した業務のスリム化が欠かせない。
当然、物流コストの削減も大きなターゲット になっている。
同社の連結ベースの「運賃及 び保管費」は二七二億円に上る。
仮に現在の 管理レベルのまま売上高が二倍になれば、物 流コストもほぼ比例して増えてしまう。
営業 利益率を向上させるためには、それは許され ない。
経営トップも物流分野でムダ取りを進 めれば、かなりの成果が望めると考えている。
最大のターゲットはサプライチェーン全般にわ たる在庫の圧縮だ。
「必要なものを、必要なときに、必要なだ け作る仕組みづくりをきちんとやれば、おの ずから在庫は圧縮できるはずだ。
BPRを強 く打ち出して、もう一度やってみようとして いるのも、少ない在庫で販売のニーズに対応 できる情報コントロールをやっていこうとい うことだ。
もちろん生産の仕組みにまで入っ ていくつもりだ」(大屋本部長) 必要なのは製販の意識改革 販社の営業所と工場をつなぐ仕組みとして は、すでに「統合ロジスティクス」システム がある。
問題は工場の生産体制が週次に対応 しきれていない点だ。
販社にしてみれば、注 文してから納品されるまでのリードタイムが 長ければ、その分の在庫を持たざるを得ない。
販社の売り方にも問題がある。
在庫を持っ ていなければ機会損失につながることに配慮 するのは当然としても、何でもかんでも在庫 するというのはあまりにムダが多い。
主力製 品については営業所レベルで在庫するとして も、滅多に注文のないサイズについてはメー カーの物流拠点から直接、出荷するといった 選択肢もあり得るはずだ。
「在庫は少ない方がいいということは販社も 十分に意識している。
結局、生産を担当する メーカーと、販売を担当する販社の双方が歩 み寄らなければ連結ベースで在庫を減らすこ とはできない」と大屋本部長は強調する。
同 社の連結ベースのタイヤの在庫は平均すると 約二カ月分ある。
当面の目標として、これを 少なくとも三割は減らす方針だという。
生産と販売がともに意識を変えることを求 められている。
BPRの取り組みが、まさに そのための推進力になる。
「トップレベルの環 境貢献企業になる」ことを目標にいま横浜ゴ ムが全社を挙げて取り組んでいる“環境対応” も、変化を後押ししてくれるかもしれない。
同社は昨年二月、「YOKOHAMAグリ ーン物流ガイドライン」という文書を協力物 流事業者に配布し、輸送効率の向上や梱包資 材の低減に役立てている。
「当たり前のこと を書いてあるだけだが、それをお互いに確認 することが重要だ。
一生懸命に改善を進めれ ば、物流というのは必ず環境に貢献できる」 と大屋本部長。
今年は京都議定書の第一期の責任期間であ り、八月に開催される洞爺湖サミットでも環 境対応は主要な議題の一つになるはずだ。
こ うした時代の風をうまく求心力に転化できれ ば、工場や販社の意識を変える一助になるか もしれない。
それこそ一挙両得だ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) タイヤ販売物流部・物流企 画Gの内田寿夫リーダー
欧米流のロジスティクスではしご く当たり前のやり方だが、日本でこうした役 割分担を実践しているメーカーは少ない。
日 本企業の物流部門は、一般に生産や営業の傘 下に位置づけられて受動的に仕事をしている。
これに対して横浜ゴムは、一九七〇年代の初 頭から本社の物流部門が工場の生産量を決定 していたという。
同社のタイヤ物流を統括する大屋博タイヤ 物流本部長は、次のように振り返る。
「私が入 社した七二年の時点で、『物流企画』という 部署が工場で月々、何をどのくらい作るか決 めていた。
新車メーカーの生産計画や補修用 タイヤの販売実績から販売量を予測して、基 準在庫に基づいて運用する。
もちろん当時は 単独でしか考えていなかったが、生産から販 売会社への出荷までを一気通貫でみられるよ うになっていた」 このように早い時期から物流部門による全 体最適化の推進を意識していた横浜ゴムには、 同業他社が教えを請いにくることもあったと いう。
現在でも基本的な考え方は変わってい ない。
ただし、サプライチェーンの主導権が 徐々にメーカーから川下に移ってきたことや、 日本でも連結決算が当然になって系列販社の 持つ在庫まで含めて管理しなければいけなく なったことで、優位性は脅かされている。
同社は現在、主に三つの市場に向けてタイ ヤを供給している。
?自動車メーカーの生産 ライン向け、?市販市場向け、?輸出向け、 である。
新車メーカーの組み立てラインにジャ スト・イン・タイム(JIT)で納入すると きには、自動車各社の厳しい要求に応える必 要がある。
一方、補修用を扱う市販市場では、 系列販社の保有分まで含めた在庫水準の適正 化が求められるようになってきた。
国内市場が全体として伸び悩んでいる現在、 海外市場への展開も大きなテーマだ。
以前から 輸出のための物流管理は手掛けていたが、最 近は東南アジアでの現地生産に本腰を入れて いることで状況が変わってきた。
現状では海 外の生産拠点から出荷するためのオペレーシ ョンは現地に任せている。
だが経営トップは これも本社で管理することを望んでいる。
三つの市場向けそれぞれに物流管理上の特 性がある。
このうち新車メーカー向けでは、共 同化が進んでいる。
自動車メーカーから厳し いJIT納入の要請を受けているのは、どの タイヤメーカーも同じ。
ここではタイヤ業界の 共同物流プラットフォームともいうべき仕組 BPR(業務の再構築)を狙って2000年に新シス テムを稼働した。
これによって情報共有の体制は整 ったが、生産と販売を巻き込むことができず期待通 りの成果を得られなかった。
そこで昨年6月、社長 直轄の「タイヤ物流本部」を新設。
物流部門を生 産や販売と同格の組織にして、改めてサプライチェ ーンの効率化を進めようとしている。
タイヤ物流本部の大屋博本 部長 41 MAY 2008 みが機能している。
全国数十カ所にタイヤメ ーカー各社が相乗りする共同デポが設置され ていて、ここから自動車メーカーの生産ライ ンにJIT納品するという体制である。
デポの運営は物流事業者が手掛けている。
タイヤ各社は一本いくらといった契約を交わ して物流業務を委託する。
共同デポがあるこ とによって自動車メーカーもタイヤ各社の納 品を管理しやすいことから、「非常に効率的 なインフラだと思う」と大屋本部長。
横浜ゴ ムでは現在、約三〇カ所の共同デポを活用し ている。
自動車メーカーの生産ライン向けの物流拠 点で、横浜ゴムが単独で管理しているのは愛 知県内にあるトヨタ自動車向けの拠点一カ所 だけしかない。
運営は物流子会社の浜ゴム物 流に委託している。
以前からこのエリアだけ は、タイヤ各社が単独で物流拠点を構えてい るのだという。
自動車メーカー各社は通常、三日先ぐらい までの注文を出してくる。
これに対してタイ ヤメーカーは、発注リードタイムに応じた分の 在庫を各デポに持つ。
そして出荷した分だけ 在庫を補充する。
自動車メーカー向けの物流 管理はほぼ定型化されており、物流機能はタ イヤメーカー間の競争要因にはなっていない。
輸出向けの物流管理もシンプルだ。
横浜ゴ ムは生産拠点の多くを中部地区から西日本に かけて構えている。
そのため輸出入には主に 名古屋港と四日市港を利用する。
それぞれの 港に物流拠点を構えているが、大半は定期航 路の多い名古屋港で処理している。
狙い通りに進まなかったBPR 物流部門にとって、最も手腕を問われるの は市販市場向けの物流管理だ。
ここでは物流 の巧拙が顧客に提供するサービスレベルや在 庫水準に直結する。
市場での競争力を左右す る要因となっているだけに共同デポのような 仕組みは存在せず、タイヤ各社がサプライチ ェーンの効率化を競い合っている。
横浜ゴムは現在、国内に系列販社を二三社 もっている。
販社の営業所は全国に約三五〇 カ所あり、それぞれに在庫を抱えている。
こ の販売網にタイムリーに製品を供給するため、 横浜ゴムは「地区配送センター」と呼ぶ物流 拠点を全国六カ所(苫小牧・仙台・上尾・四 日市・尾道・福岡)に構えている。
物流の効率を考えると、末端の営業所すべ てで在庫を持つというのは非効率に思えるか もしれない。
しかし、市販市場のユーザーは タイヤの銘柄に対してそれほど強いこだわり を持っていない。
在庫してある製品の中から 選ぶ傾向があるため、欠品がそのまま販売機 会の損失につながってしまう。
こうした商習慣と会計制度の変更が、タイ ヤメーカーによるサプライチェーン管理を難し いものにしている。
単独決算で経営を考えて いた時代であれば、いったん販社に売った製 品の在庫を気にする必要はほとんどなかった。
ところが現在、横浜ゴムの国内系列販社はす べて連結対象になっている。
販社の在庫水準 がそのまま連結決算に反映される。
そのため にトータルな在庫管理が重要なテーマになっ ている。
冒頭でも紹介したように、横浜ゴムは三〇 年以上前から先進的な物流管理をしていた。
その後も生産管理や販売計画などのサイクル を月次から週次に短縮させるなど進歩させる 図1 横浜ゴムのタイヤ物流の概要 レース場 その他 デポ (倉庫) 地区配送 センタータイヤ 販売会社 港湾倉庫 海外生産品 海外生産品 海外生産品 タイヤ販売店直送 タイヤ販売会社直送 国内タイヤ工場 自動車メーカー組み立てライン 直営店 得意先 得意先 得意先 自動車メーカー組み立てライン 自動車メーカー組み立てライン 海外タイヤ販売会社 海外タイヤ販売会社 海外タイヤ工場 自動車 メーカー 向け 輸出向け 市販市場向け (取り換え用) MAY 2008 42 努力を続けている。
しかし、事業環境が変化 していくなかで、かつての先進的な考え方は 「残念ながらどこかで途切れてしまった気がす る」と大屋本部長は認識している。
横浜ゴムが九〇年代半ばから取り組んだB PR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリ ング)プロジェクトは、こうした課題に真正 面から挑むものだった。
このとき同社は総額 およそ一〇〇億円を投じて「統合ロジスティ クス」など大規模な情報システムを整備した。
販社の営業拠点・配送センター・工場をすべ てオンラインで結び、販売情報や在庫情報な どを関係者が共有できる仕組みだ。
その上で、ITを使って月次ベースだった 計画サイクルを週次に短縮し、販社の注文か ら納品までのリードタイムを短縮する。
それに よってサプライチェーン上のトータル在庫を削 減しようという狙いだった。
しかし、期待通 りの成果を上げることはできなかった。
情報 システムの枠組みはでき、一応は週次サイク ルで仕事をするようになった。
ところが、そ れが本当の意味で定着しない。
本来であればITによる情報の共有は出発 点にすぎない。
ここに週次計画に対応できる 生産能力や、配送センターのオペレーション能 力などが伴ってはじめて、少ない在庫で顧客 ニーズを満たせるようになる。
だが当時の横 浜ゴムは、時代の雰囲気もあってITを“魔 法の杖”のごとく過大評価してしまった。
このため二〇〇〇年に「統合ロジスティク 上げした。
失速したBPRプロジェクトの轍 を踏まないために、より強い権限を持たせた わけだ。
タイヤ物流本部には現在、四六人の社員が 所属している。
このうち四割の社員が「タイ ヤ販売物流部」で販社向けの業務を担当し、 ス」システムが稼働すると、BPRプロジェ クトは解消されてしまった。
プロジェクトメン バーは出身セクションなどに戻り、以降は既 存部門がシステムを使いながら改革を進めて いくことになった。
「タイヤ物流本部」の設置 この認識は甘かった。
プロジェクトの一員 でもあったタイヤ販売物流部の内田寿夫物流 企画Gリーダーは、「部門に移管するという のはなかなか難しかった。
総論では賛成でも、 個別のテーマになるとどうしても部門のベク トルが合わなくなってしまう。
じわじわと崩 れてしまい、五年ほどたってみてみたら、や はり効果は出ていなかった」と説明する。
その後、連結決算を重視するようになった ことや、期待通りに在庫が減らなかったこと で、改めて同じ問題がクローズアップされる ようになった。
このままではシステムの機能 も満足に発揮できない。
経営トップをはじめ とする関係者は、もう一度、販社の営業所へ の納品まで含めた生産リードタイムの短縮に 取り組まなければという気持ちを強めていっ た。
〇七年六月に「タイヤ物流本部」をトップ ダウンで新設した背景には、こうした経緯が あった。
この改組によって物流部門は社長直 轄になった。
生産と販売の双方から中立の立 場にあることは従来と同じだが、タイヤ生産 本部や営業本部と同格の組織に位置付けを格 補充 受注残 補充 回答 回答月次 回答 月次回答 依頼 月次オーダー 図2 「統合ロジスティクス」システムの概要 Supply Control Management System(物流本部/グローバルSCM 機能) 需給バランス監視(国内・海外) 基準在庫設定保有サイズ管理 Compass System (国内販社) 統合Logistics System (DC) G-Compass System (海外販社) OE System (直需) Wil System (海外営業) EXP 組入 システム OE Depot System (各OEデポ) B2B(EXP) System (海外販社) SEEDSシステム (MP/SP/TP) 作業計画システム (MP/SP/TP) 各工場 随時 回答 基準在庫基準在庫備蓄・計画 販売見込 補充 随時回答 補充 随時回答 実績 注文 統合 Logistics System (工場物流) 月次出荷依頼 随時回答 随時回答 補充オーダー 新生産計画システム 仮オーダー 生産計画 生産依頼システム 43 MAY 2008 三割は「タイヤ生産物流部」で工場に対する 生産指示を手掛けている。
さらに残りの三割 は「BPR推進室」に所属している。
かつて のようなプロジェクトベースではなく、恒常的 に取り組むための組織だ。
BPRのほかにも、最近の横浜ゴムが全社 を挙げて熱心に取り組んでいる活動がある。
同 社は〇六年四月に「MD推進室」というセク ションを新設した。
MDとは“ムダ取り”を 意味しており、文字通りあらゆるムダの排除 を専門で行う部署である。
横浜ゴムは現在の中期経営計画「GD一〇 〇」で、創業一〇〇周年となる二〇一七年に連 結売上高一兆円、営業利益一〇〇〇億円(利 益率一〇%)を達成するという目標を掲げて いる。
〇七年三月期の連結売上高が四九七四 億円、営業利益二一〇億円(同四・二%)だ ったことを考えると極めて野心的な内容だ。
営 業利益率を飛躍的に向上させるためには、徹 底した業務のスリム化が欠かせない。
当然、物流コストの削減も大きなターゲット になっている。
同社の連結ベースの「運賃及 び保管費」は二七二億円に上る。
仮に現在の 管理レベルのまま売上高が二倍になれば、物 流コストもほぼ比例して増えてしまう。
営業 利益率を向上させるためには、それは許され ない。
経営トップも物流分野でムダ取りを進 めれば、かなりの成果が望めると考えている。
最大のターゲットはサプライチェーン全般にわ たる在庫の圧縮だ。
「必要なものを、必要なときに、必要なだ け作る仕組みづくりをきちんとやれば、おの ずから在庫は圧縮できるはずだ。
BPRを強 く打ち出して、もう一度やってみようとして いるのも、少ない在庫で販売のニーズに対応 できる情報コントロールをやっていこうとい うことだ。
もちろん生産の仕組みにまで入っ ていくつもりだ」(大屋本部長) 必要なのは製販の意識改革 販社の営業所と工場をつなぐ仕組みとして は、すでに「統合ロジスティクス」システム がある。
問題は工場の生産体制が週次に対応 しきれていない点だ。
販社にしてみれば、注 文してから納品されるまでのリードタイムが 長ければ、その分の在庫を持たざるを得ない。
販社の売り方にも問題がある。
在庫を持っ ていなければ機会損失につながることに配慮 するのは当然としても、何でもかんでも在庫 するというのはあまりにムダが多い。
主力製 品については営業所レベルで在庫するとして も、滅多に注文のないサイズについてはメー カーの物流拠点から直接、出荷するといった 選択肢もあり得るはずだ。
「在庫は少ない方がいいということは販社も 十分に意識している。
結局、生産を担当する メーカーと、販売を担当する販社の双方が歩 み寄らなければ連結ベースで在庫を減らすこ とはできない」と大屋本部長は強調する。
同 社の連結ベースのタイヤの在庫は平均すると 約二カ月分ある。
当面の目標として、これを 少なくとも三割は減らす方針だという。
生産と販売がともに意識を変えることを求 められている。
BPRの取り組みが、まさに そのための推進力になる。
「トップレベルの環 境貢献企業になる」ことを目標にいま横浜ゴ ムが全社を挙げて取り組んでいる“環境対応” も、変化を後押ししてくれるかもしれない。
同社は昨年二月、「YOKOHAMAグリ ーン物流ガイドライン」という文書を協力物 流事業者に配布し、輸送効率の向上や梱包資 材の低減に役立てている。
「当たり前のこと を書いてあるだけだが、それをお互いに確認 することが重要だ。
一生懸命に改善を進めれ ば、物流というのは必ず環境に貢献できる」 と大屋本部長。
今年は京都議定書の第一期の責任期間であ り、八月に開催される洞爺湖サミットでも環 境対応は主要な議題の一つになるはずだ。
こ うした時代の風をうまく求心力に転化できれ ば、工場や販社の意識を変える一助になるか もしれない。
それこそ一挙両得だ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) タイヤ販売物流部・物流企 画Gの内田寿夫リーダー
