2008年5月号
物流格差社会

誤出荷三回でバイトは更新しない強引な“アマゾン化”で荒れる現場

MAY 2008  72 帰ってページをめくっていくうちに、課長の竹 原さん就任直後に物流部に張り出された「アル バイトは誤出荷三回で更新しない」と書かれた 紙を思い出してぞっとした。
もしかして竹原さ んはサクセスの物流をアマゾン化しようとしてい るのかもしれない。
 アマゾン本は、ネット通販最大手のアマゾンの 物流センターにアルバイトとして潜り込んだジャ ーナリストが、現場の様子をまとめたルポであ る。
著者はアマゾンの物流センターで半年間ピ ッキング作業に従事する間、見事なまでのアル バイト活用術を目の当たりにする。
誰にでもで きるシステムと仕組みがアマゾンにはあった。
 アマゾンの物流センターは厳然とした階級社 会で、トップに荷主企業であるアマゾンの社員、 次に物流業務を請け負う日本通運の社員、その 下に日通が雇うアルバイトがいる。
一番下のア ルバイトは使い捨てに過ぎない。
時給は九〇〇 円で、二カ月ごとに契約更新を行う。
雇用保険 も健康保険もない。
物量によって仕事がなくな れば、労働時間の切り上げもなされる。
 ピッキングは一分間に三冊という厳しいノル マを課している。
成績が悪ければ二カ月ごとの 更新時に打ち切られる。
アルバイトたちは、ノ ルマとコンピューターによる成績管理で「働きア リ」のごとく仕事に駆り立てられる。
アルバイ トに人としての尊厳を認めないのか、日通の社 員はシフトの変更を申し出ただけで、中年アル バイトをみんなの前で平気で面罵するという。
 著者は、物流センターで働くアルバイトたちが 置かれている下流社会の現実を描きながら、ア マゾンの物流センター運営方法を痛烈に批判し ていた。
同社の運営方法は、優れたシステムさ えあればアルバイトなど誰でもいいと思ってい るようだった。
むしろ、アルバイトを機械のよ うに扱うことこそ、最も効率のいい出荷作業だ と理解できた。
新たな物流システムの導入決定  竹原さんがやって来てまもなく、ミニ基幹シ ステムに替わる新システムの導入が決まった。
そ れに伴って、倉庫も移転することになった。
誤出荷三回でバイトは更新しない 強引な“アマゾン化”で荒れる現場 第3 回 格  差   社  会 ●中村文丈● フリーターが見た ネット通販の裏側  著者がアルバイトをしていたPCサクセス物 流部は、初の物流システム「ミニ基幹システム」 導入直後の混乱を乗り越えた。
待望の新リーダ ーに竹原課長が就任するも、その期待はすぐに 裏切られる。
知識や経験によらず「誰でもでき る」という新システムの導入を機に、既存のア ルバイトを派遣に置き換える方針が明らかにな った。
サクセスのこの決断の裏には、アマゾン の物流現場を紹介した本の存在があった。
アマゾン流アルバイト管理術の実態  PCサクセス初の物流システム「ミニ基幹シス テム」導入直後に、物流部に手伝いに来た店舗 のスタッフが話した『アマゾン・ドット・コムの 光と影(横田増生・情報センター出版局、以下 アマゾン本)』という本のことが気になっていた。
 たまたま入った書店で、アマゾン本が平積み になっているのが目に入った。
帯には「救世主 なのか 悪魔なのか」と、おどろおどろしいキ ャッチコピーがついていた。
早速購入し、家に 物 流 73  MAY 2008  新システムはパッケージソフトで、業務用の物 流システムだった。
開発した会社はまだ小さか ったが、近年実績を上げているという話だった。
すでにこのシステムを導入している物流センタ ーがあり、竹原さんたちはそのセンターの見学 に行っていた。
 新システムを導入すれば、入出荷検品、ロケ ーション付け、ピッキングなど、ほとんどの作 業が無線端末を使ったバーコード管理に変わる。
ミニ基幹システムのように、目で見て型番をチ ェックする必要はない。
端末でバーコードをスキ ャンすればそれで済む。
 新システムの最大の特徴は、「フリーロケーシ ョン方式」と「ピッキングリスト」だった。
他 部署のリーダーは私に「今度のシステムは誰でも 作業できるようになっている」と、メリットを 説明した。
どうやら、「誰でもできる」という のがキーワードのようだった。
 この二つの機能はアマゾン本で紹介していた システムだった。
物流システムのことを理解し ていれば大騒ぎするようなことではないが、こ とさらに二つの機 能が話題になるの は、アマゾン本の 影響を受けている ように思えて仕方 なかった。
 フリーロケー ション方式は、検 品が終わったら、 仕入れ先や種類に関係なく空いている場所があ ればどこに商品を棚入れしても構わないという やり方だ。
商品とロケーションコードを端末でス キャンし、格納すればいい。
経験や知識は関係 ない。
 ピッキングリストは、商品名がロケーション の順に印刷されており、一定方向に歩きながら、 リストの上からピッキングすればすべて揃うよう になっていることが利点だ。
もう通路を迷った り、逆方向に戻ったりしなくて済む。
アマゾン 本では、「コンピューターが最短距離でピッキン グできるようにリストを打ち出している」と説 明している。
 個人の作業成績もわかるようになる。
アルバ イト一人ひとりのピッキング数、検品数などが 数字となって表れるため、スタッフの管理が容 易になる。
竹原さんは作業成績を基に、アマゾ ン同様にノルマを課し、達成できない者の契約 を打ち切ろうとしているようで怖くなった。
 新システムの導入決定と同時に、物流コンサ ルタントが入ることになった。
コンサル会社か ら何人も社員がやってきて、物流部の作業風景 や棚に置かれた商品の写真を撮り、システム担 当者から説明を受けていた。
 竹原さんは私たちに新システムについて何も 説明しなかった。
その代わり、新システムに対 する意見も求めなかった。
これが彼流の社員と アルバイトの区別の仕方のようだった。
新シス テムの情報は、他部署の社員に教えてもらうば かりだった。
アルバイトなんか誰だっていい  「アルバイトは誤出荷三回で更新しない」と書 かれた紙が張り出されてから、物流部の雰囲気 は暗くなった。
それまで居心地のよかった現場 の空気は淀んだ。
見るからに棚は乱れ、ミスが 多発するようになった。
 おそらく見かねた他部署の社員が、竹原さん に進言したのだと思う。
竹原さんは朝礼でアル バイトと話し合いの場を作ると言ってきた。
し かし、最後に「話をしたい人は言ってきてくだ さい。
私からは誘いません」と付け加えた。
 進んで竹原さんと話したいと思う者は、ほと んどいなかった。
もう皆いつ辞めるかを考えて いたからだ。
申し出たのは私と、後輩の永井君 だけだった。
永井君は主に倉庫移転に伴う通勤 時間の問題などについて話した。
永井君も現体 制に不満があったが、そういうことを口に出し て言うタイプではなく、穏便に物事を進めたい と考えていた。
しかし、私はぶつかっても、は っきりと話をするつもりだった。
 二階の梱包場所の裏にあった資材置き場にい すが置かれ、私は竹原さんと向き合った。
 「どうして私からは誘いません、などと言う のですか」  竹原さんは悪びれる風もなく、「アルバイトと 話をする気がないからだ」と返してきた。
「俺 の仕事はアルバイトの管理だ。
そのためにもア ルバイトとは常に一定の距離を保っておく必要 がある」。
格  差   社  会 物 流 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム の光と影──躍進するIT企業・ 階層化する労働現場』 横田増生著 情報センター出版局 (本体価格 一六〇〇円) MAY 2008  74 月ごとのアルバイト契約更新を参考にしたから だ。
管理という表現は一分三冊のノルマのこと が頭にあるに違いない。
 竹原さんは、「この間も倉庫に見学に行ってき たばかりだ。
今度サクセスで導入する新システム で運営している。
そこではもうどんなアルバイト だって作業できるんだ」という。
この話し合い の中で竹原さんは「システムさえあればアルバイ トなんか誰だっていいんだ」と、何度も繰り返 した。
私は唖然とし、同時に脱力感に襲われた。
みんな辞めていく  アマゾン本を読んだ時、書かれていることを 実行しようとする者が出てくる可能性を感じた。
アマゾンという会社の存在自体が、この本の内 容を無条件で信用させる力を持っていた。
粗利 が約二割で固定されている本の販売で、千五百 円以上の注文で送料無料を実現したという事実 は、何よりも説得力を持っていた。
 サクセスはネット通販でトップを走るアマゾン のことは常に意識していた。
物流に苦しむサク セスにとってアマゾン本は、全ての課題を解決 するバイブルのように映ったに違いない。
 竹原さんとの話し合いを終えた私は、どうし ようもないむなしさを感じた。
「誰でもできる」 と断じられたことが頭から離れなかった。
私た ちの存在を否定しているような気がした。
そし て新しい倉庫では、派遣会社からスタッフを大 量に雇って運営していく方針ということもわか った。
 倉庫移転と同時にほとんどのアルバイトが辞 めることになった。
残るのは、社員に昇格した アルバイトスタッフが一人と、梱包担当のスタッ フ二人だけだった。
私も移転後少しだけ残って、 辞めることにした。
 サクセスはこの時期、積極的にアルバイトの 社員登用を進めていた。
社員とアルバイトを区 別する一方、望めば社員になれるという、筋の 通った対応だった。
永井君は社員になることを 選択した。
そして物流部の雰囲気の悪さを改善 するために竹原さんの元に行き、アルバイトの 意見に耳を傾けるよう訴えた。
 しかし、竹原さんは「アルバイトなんて派遣 で十分。
辞めたいやつはとっとと辞めればいい」 と、私に言ったフレーズをまた繰り返した。
正義 感の強い永井君は竹原さんの言葉に驚き、社員 になることをすぐにとりやめた。
そして「人を モノ扱いするような人とは一緒に働けない」と 憤った。
永井君は倉庫が移転すると家から通え なくなることを理由に、辞めることとなった。
 私は竹原さんに、永井君に言ったことを確か めた。
竹原さんは涼しい顔をして、「ついテンシ ョンが上がってしまいきつい言い方になったが、 言ってることはその通りだ」と認めた。
その後、 竹原さんは朝礼で、「新システムは新しい人のた めのシステムです。
古い人は速やかに引き継ぎ を行ってください」といった。
 新システム導入に当たり、すべての商品にバー コードを貼付する必要があった。
そうでなけれ ば、せっかくの新システムも役に立たない。
竹  サクセスが社員とアルバイトを区別しようと していることは知っている。
しかし、面と向か って言われると、一瞬言葉に詰まった。
私は、 「そんなこと言っていたら、みんな辞めてしま いますよ」と進言した。
実際、私を含めて、次 の仕事を探しているスタッフが多かった。
しか し、竹原さんは「辞めたければ辞めればいいん だ。
アルバイトなんて代わりはいくらでもいる」 と、平然と言い放った。
「新システムさえ入れば、 こんな仕事誰だってできるんだ」。
 また言葉に詰まってしまった。
なぜ、私たち アルバイトをここまで馬鹿にできるのか。
しか し、竹原さんがアマゾン本を読んでいたなら、こ の態度にも説明がつく。
アマゾン本が出版され たのは二〇〇五年の四月だった。
新聞の書評に も取り上げられ、社会的反響を呼んでいた。
そ の頃サクセスではミニ基幹システムに対する否定 的な雰囲気が社内に醸成されていて、アマゾン 本に触発されやすい環境だった。
 私は「アマゾン本と同じことをやろうとして いるんですか」と、ストレートに訊いた。
竹原 さんは躊躇なく「そうだ」と言い切った。
 やはりそうだった。
私の嫌な予感は的中した。
竹原さんは物流部の新リーダーとして異動して きたというのに、ろくにスタッフとコミュニケー ションをとろうとしなかった。
それだけでなく、 スタッフのやる気をそぐような言動ばかりが目 立った。
これもアマゾン本の影響だった。
 誤出荷三回でアルバイトは更新しないと言い 出したのも、アマゾン本で紹介している、二カ 格  差   社  会 物 流 75  MAY 2008 原さんは私たちにバーコードシール貼付を命じ た。
通常業務をこなしながら、時間を見つけて は棚にある商品を引っ張り出して、一つ一つシ ールを貼っていった。
手間のかかる作業だった。
 「アルバイトの方はパソコンを触らないでくだ さい」。
ここでも竹原さんは、社員とアルバイト を区別した。
「バーコードは社員で出しますので、 バーコードが必要なときは社員に言ってくださ い」  「バーコード出すくらいでいちいち社員社員っ て変な話だよ。
社員がどこかに行ってていなか ったらどうするんだろうね」と吉田さんは言っ た。
吉田さんは辞めることが決まっており、達 観しているようだった。
竹原さんの対応に怒り を感じているというよりは、むしろ冷めた目で 様子を眺めていた。
 サクセスで扱っている商品にはコードのない 商品がかなりあった。
売れ筋のバルクのメモリー、 ハードディスク、CPU。
これらは一筋縄では いかない。
商品知識が求められる作業だ。
特に バルクのメモリーは特殊な仕様のものが多く、現 物を見て判断しなければならない。
「新しいアル バイトたち、研修に来ないのかな」と吉田さん は言った。
「こんなことで新システム、うまくい くのかね」。
アルバイトの引き留めに躍起  新システム導入が決定した頃は、「誰でもでき る」というキーワードをよく耳にしたが、導入 日が近づくにつれ、少しニュアンスが変わって きた。
新システム稼働と同時にスタッフが一気 に派遣に変わってしまうことに、会社は不安を 感じはじめたようだ。
 アマゾン本に具体的に書かれていた業務は、ピ ッキングとフリーロケーションの棚入れ作業だけ で、その他の仕事についてはほとんど言及して いない。
そして、誰でもできる作業として話題 に上っていたのはピッキングと棚入れだけだっ た。
だが、実際の作業はそれ以外のほうが多い。
会議で、「誰がバルクの商品にシールを貼るんだ」 という意見が出て、沈黙してしまったらしい。
 そんな中、吉田さんが取締役に呼ばれた。
ど うやら引き留めにあったようだ。
話し合いから 戻ってきた吉田さんは、取締役に「サクセス辞 めても就職ないぞ」と脅されたらしく怒ってい た。
引き留め方が間違っている。
吉田さんはか なり意固地になっていて「絶対就職先見つけて やる」と逆に意気込んでいた。
 吉田さんの後、私も呼ばれた。
ミーティング ブースに入ると、取締役は奥の席で待っていた。
私が席に着くと、開口一番「なぜ辞めるんだ」 と言ってきた。
吉田さん同様、思いとどまるよ う説得してきた。
 隠す理由もないと思って正直に話した。
物流 部の雰囲気が悪いこと、社員とアルバイトの区 別が行き過ぎて、アルバイトの話を聞こうとし ないことなどを伝えた。
新システムが失敗する 可能性が高いことも話した。
このプロジェクト があまりに現場と遊離したところで進んでいる 気がしていたからだ。
 取締役はいちいち相鎚を打ち、丁寧にメモを 取っていた。
その頃サクセスでは「メモを取ろ う」という運動が始まっていて、私の話したこ とを一語一語書き留めていた。
取締役は「竹原 に伝えて改善されれば続けるのか?」と訊いて きたが、私は竹原さんとうまくやっていく自信 はなかった。
しかし、取締役に話を聞いてもら ったことで、気分はかなり晴れた。
 吉田さんも永井君も、就職活動のため、時々 仕事を休むようになった。
幸いなことにちょう ど景気も上向いていて、二人ともすぐに次の仕 事が決まった。
 一方、竹原さんは残ることを決めていた梱包 のアルバイトを解雇した。
物流部では梱包専任 のスタッフがいた。
梱包スタッフは高齢の方が 多く、仕事がなくなることは切実な問題だった。
物流部アルバイト解雇の話が出た時、梱包スタ ッフは戦々恐々だった。
 重い空気の中、二人の梱包スタッフにクビが宣 告された。
一人はほかの社員のとりなしによっ て、他部署で続けて雇用されることになったが、 もう一人の女性はそのまま解雇された。
二人と も古株で、作業が遅く間違いが多いということ が解雇理由だった。
女性スタッフは「私は遅い からしょうがないのよ」と自分を責めていた。
 会議で「梱包なんて時給七百円でいいんじゃ ないか」と馬鹿にしたような話が出ているらし い。
梱包担当の若いスタッフはそんな空気に嫌 気がさして、皆辞めていった。
(登場人物は全て仮名)   格  差   社  会 物 流

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