2008年6月号
keyperson

辻本博圭 近鉄エクスプレス 社長

JUNE 2008  4 うに申し入れておいたのですが、蹴 られるのが分かっているせいか、結 局ウチまで話は来なかった」 ──ライバルの日本通運やYASは、 それぞれ巨大な物流資本をバックにし ています。
それに対してKWEの親 会社は鉄道会社で、物流事業上のシ ナジー効果は期待できません。
KWE が大手物流資本の傘下に入るという 選択肢は有効に思えます。
 「繰り返しになりますが結局、我々 の商売は人ですからね。
規模や資本 の問題ではありません」 ──しかし、淘汰を生き残った欧米の インテグレーターは、いずれも国際輸 送ネットワークを自分の資産として抱 えて、数兆円規模の売り上げを誇っ ています。
太刀打ちできますか。
 「実は欧米のインテグレーターが世 界市場で本格展開を開始した時に、 我々は国土交通省に陳情に行っている んです。
先進国ではインテグレーター という新しいビジネスが伸びている。
我々日本でも一社、インテグレーター を作るべきではないかと。
しかし耳 を貸してはもらえなかった」 ──日本の航空輸送は今もガチガチ の規制産業ですからね。
 「当社自身が航空機を所有するとい うのでなくても、『ウェットリース(乗 員込みで航空機をリースして運航する 時既に遅し ──日本の国際航空貨物業界は、日 通航空、近鉄エクスプレス(KWE)、 郵船航空サービス(YAS)の大手フ ォワーダー三社が五割近くのシェアを 握る寡占市場で、各社のシェアにもあ まり変動がありません。
また市場規 模は基本的に右肩上がりで、収益性 は陸上運送や倉庫事業よりずっとい い。
それなのに、なぜ他の物流大手 が本格的に参入してこないのでしょう。
 「人がいないということでしょうね。
免許を取るのは簡単でも、国際物流 の商売のできる日本人は少ない。
そ のため国内物流の大手が国際市場に 進出しても、大したことはできない。
我々には痛くも痒くもない。
ただし、 日本の航空フォワーディング市場は外 資に対しても自由化されています。
既 に欧米やアジア系の有力企業がいくつ も参入してきている。
今後はそれが さらに加速すると見ています」 ──インテグレーターがメーンとする 国際エクスプレス便は日本市場ではニ ッチな商品です。
KWEのような日 系の航空フォワーダーと正面からぶつ かる場面は少ないのでは。
 「いや、水面下では、特に日本に進 出している外資系メーカーの仕事で は、激しく競合しています。
確かに 以前は、国際インテグレーターが対象 にしていたのは三〇キロ以下の小口貨 物だけでした。
しかし現在は五〇〇 キロぐらいの通常貨物まで扱うように なっています」 ──グローバルな物流業界では、この 一〇年でインテグレーターを中心とし た業界再編が一気に進みました。
 「欧州では郵便会社が台風の目にな りました。
オランダポストが民営化さ れて、郵便だけでは赤字になってしま うということからTNTを買収して テコ入れを図った。
それを目の当たり にしたドイツポストもDHLの買収に 動いた。
同じ時期に米国のUPSと フェデックスも有力フォワーダーやロ ジスティクス業者の買収を進めた。
そ の結果、今やグローバルで大手と呼べ るプレーヤーは数社にまで絞られまし た。
日本だけが無風の状態です」  「日本でも水面下では動きはありま したが、結局何も起こりませんでし た。
当社がいい例です。
親会社の近 畿日本鉄道には当社の株を売却して ほしいというオファーがいくつもあり ました。
しかし、親会社は応じなか った。
当社としても売却は望んでい なかった。
そのため親会社に対して、 話があったらこっちに回してくれるよ 辻本博圭 近鉄エクスプレス 社長 「日本流のサービスで自主独立を貫く」  欧米の国際インテグレーターに対抗できる和製インテグレー ターの設立は夢と消えた。
日本は時機を逸した。
しかし、勝 ちパターンは一つではない。
国際物流市場における最大の競争 条件は人材だ。
そこで差別化できる限り、事業規模の違いは 乗り越えられる。
     (聞き手・大矢昌浩、梶原幸絵) 5  JUNE 2008 こと)』という方法もある。
ジャンボ 機を一週間で七往復させる貨物量が 確保できれば、すぐに事業としてペ イできる。
しかし、それも認めても らえなかった」 ──この夏にはKWEと日通が、全 日本空輸(ANA)と組んで作った 国際エクスプレス事業の新会社「オー ルエクスプレス」が営業を開始します。
 「当社が単独で欧米のインテグレー ターに対抗しようとしても、今とな っては“時既に遅し”です。
欧米の インテグレーターに四〜五年遅れで始 めていれば競争もできたのでしょう が、一〇年以上遅れてしまってはね。
今となっては、単発的な輸送需要の 増大に対応するためのチャーターやウ ェットリースで航空機を運航する可能 性はあっても、インテグレーターのよ うに当社が自前で航空機を所有する 気はありません」  「しかし、エクスプレスは点と点で はなく面でとらえなけば意味をなさな い。
当社自身も従来からサービスメニ ューとしてはエクスプレス便を持って いましたが、路線は限られています。
日通さんも我々と同じ認識をお持ちだ った。
そこで、二社が中心となって一 緒に“日の丸インテグレーター”を作 っていこうということになりました」 ──キャリアとしてANAを選んだ理 ど欲しいところでしょうが、エクスプ レス便などの部分的な仕事しかとれて いない。
海外の拠点でも同じです。
も ちろん言葉の問題もありますが、荷 主は契約書には現れない我々のフレキ シビリティ、本当に困ったときには泣 きを入れたら何とかしてくれる、上 手く収めてくれるという日本的なサー ビスを求めている。
それだけ我々は不 確定な要素を前提に商売をしている ということでもあります。
欧米の会 社ではそうはいきません」 ──3PL事業については? 他の 事業と比べて利益率は低いはずです。
 「ロジスティクスを押さえなければ国 際輸送も落としてしまいます。
確かに 以前はロジスティクスの売り上げが小 さかったこともあり、それほど利益は ありませんでした。
しかし、今では売 り上げも伸び、特に国際輸送を絡めた VMI(Vendor Managed Inventory) サービスなどは収益性も悪くありませ ん。
ITインフラも出来上がり、人材 も育ってきています」 由は?  「我々としては一年以内に話をまと めなければいけないと考えていまし た。
それで当初は日本航空に話を持 っていたのですが、なかなか結論が 出ない。
それに対してANAは決断 が速かった」 人材力で差別化 ──今回のオールエクスプレス以前に もKWEは佐川急便や商船三井(M OL)などと提携しています。
しかし、 このうち佐川急便とは二〇〇六年に 提携を解消している。
商船三井との 提携もその効果がハッキリしません。
 「佐川さんとの提携は、当社が国際、 先方が国内配送をやりましょうという 話でした。
提携以前から佐川さんに は外資系パソコンメーカーなどの国内 配送をずいぶん委託していましたの で、それなら一緒に組みましょうとい うことになった。
ところが当社にも国 内部門はあるし、先方にも海外部門 がある。
そこで利害がどうしてもぶ つかってしまい調整がつかなかった」  「MOLのほうは、当初から安定株 主を確保するという観点でとらえて いました。
そこに後からバイヤーズ・ コンソリデーション(小売業者などが 海外の複数の地域から商品を買い付け て、混載して輸送する物流形態)の 販売拡大などを狙った業務提携をプ ラスしたかたちです」 ──佐川やMOLの狙いは、むしろ KWEを買収することで自分が和製 インテグレーターになることにあった のでは?  「日本郵船が総合ロジスティクス企 業という狼煙を上げたのに対して、M OLは海上輸送に専念するという方 針を打ち出している。
ただし対抗する もの(物流サービス)は持っておこう という考えがあったのでしょう。
一方 で当社は安定株主を探していた。
両 者のタイミングがバッチリ合ったとい うことです」 ──今後もどこの傘下にも入らないつ もりですか。
 「当社が買収することはあっても、さ れることはありません。
確かに当社 の売上規模や株式時価総額は、イン テグレーターとは比べようもない。
し かし当社に優秀な人材がいる限り、負 けることはない。
彼ら(国際インテグ レーター)のビジネスは基本的に契約 ありきで、フレキシビリティには欠け る。
そのため日系の荷主はグローバル メーカーであっても日系の物流企業と 組みたいと考えている」  「実際、インテグレーターとしては、 家電や精密機器など、日系のグローバ ルメーカーの仕事は喉から手が出るほ つじもと・ひろかず 一九四一年、奈良生まれ。
六五年、同志社大 学法学部卒。
同年近畿日本ツーリスト入社。
七〇年、同社国際貨物部門の分離・独立に伴 い近鉄航空貨物(現・近鉄エクスプレス)に 入社。
九〇年取締役、九五年常務、九九年 専務、二〇〇〇年代表取締役専務。
〇一年、 代表取締役社長に就任。
現在に至る。

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