2008年6月号
SOLE

原子力発電における保全業務革新RCMで安全性・経済性が大幅改善

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics JUNE 2008  74 原子力発電における保全業務革新 RCMで安全性・経済性が大幅改善  SOLE日本支部は、毎月「フ ォーラム」と「RAMS研究会」(注) を開催している。
RAMS研究会 では今年度、ロジスティクスと保全 業務革新を研究テーマとした。
特に 大規模で具体的な実システム事例を 選び、「原子力発電システムにおけ る保全業務の課題設定と解決の方 向付け」を課題に設定し、調査・ 研究を続けている。
今月は米国の原 子力発電所におけるRCM(信頼 性重視保全)の導入効果などにつ いて報告する。
ロジスティクスとは補給・保全  「原子力発電における保全業務」 の研究に当たり、いま一度、ロジス ティクスの歴史を振り返った。
 ロジスティクスの起源は軍におけ る調達・供給とメンテナンス(保全) の有効性・効率性を高める技術体系 で、ミリタリーロジスティクス(M L)と言われてきた。
航空機等の複 雑・高度なシステムは長期間にわた って運用されるため、そのライフサ イクルを支援するML技術が重要で ある。
このため、ライフサイクル・ コスティング(LCC)、ロジステ ィクス支援性解析(LSA)、統合 ロジスティクス支援(ILS)、O R( Operations Research)、C A LS(コンピューターを活用したロ ジスティクス支援)、WBS(Work Breakdown Structure)、構成管理 (CM)などが発展してきた。
 一方、コマーシャルロジスティ クス(CL)ではSCM、JIT、 カイゼン、TQM( Total Quality Management)、T P M( Total Productive Maintenance)などが発 達した。
 軍(ML)民(CL)間では技 術の相互利用が進み、ロジスティク ス活動の高度化が図られている。
軍 (ML)であれ民(CL)であれ、 ロジスティクス活動の目的は顧客満 足度と言われており、「アイテムの 機能・性能・品質」と「顧 客サービス」から成り立って いる。
プロダクト(モノ・サ ービス)を「8R」で準備 し(補給し)、常に良好に使 用できるように整備し(保 全し)使用後は回収撤去す る活動である(図1)。
特に、 複雑・高度システム製品で は、補給と整備の維持管理 が重要である。
LCCからRCMへ 技術発展  システム製品のライフサ イクルを支援するロジステ ィクス技術の発展を見てみ よう。
 前述の通り、複雑・高度なシス テムの維持管理にはロジスティクス 支援が不可欠である。
ロジスティ クス支援はシステム・ライフサイク ルにわたって支援する活動、つま り「補給」( distribution)と「整 備」( maintenance)から成り立っ ており、これらの活動をシステム として統合し、設計・運用・管理 しようとする概念・技術の体系であ る。
従って、ロジスティクス支援の 目的は対象システムの広義の即応性 ( availability)を維持・向上させる ことである。
 このため、ロジスティクス支援は 対象とするシステムの運用環境に合 わせて構築することになり、その 活動の企画・設計・運用はシステ ムの運用主体者が自らの責任におい て行う。
実際の運用・作業そのも のはアウトソーシングしてもよいが、 結果の責任を負わねばならない。
 ロジスティクス支援の中心をなす 保全は次のような技術の流れで発展 してきている。
?事後保全(Breakdown Maintena nce):故障したら直ちに復旧さ 図1 ロジスティクスの目的 Right Material(必要とするものを) Right Quality(適切な品質で) Right Place(必要とする場所に) Right Time(必要な時に) Right Quantity(必要とする量だけ) Right Method(適切な方法で) Right Cost(妥当なコストで) Right Impression(良好な印象のもとに) 補 給 整備 物流調達 製品開発と 設計 生産物流 支援 活動 メンテナンス 要因と教育と訓練 消耗品・交換部品 技術マニュアル 試験・支援機器 輸送・荷役 使用済み品回収 再生・再利用 存在使用撤去 出典:伝田晴久氏資料 75  JUNE 2008  米国の原子力発電所では、九〇 年代初頭にRCMを本格導入し、 原子力ルネッサンス(復活)を遂げ た。
プラントの安全性・経済性に 顕著な効果を発揮している。
?RCM  定期的な分解点検に過度に依存 すると、組み立て不良や異物の混入 等の保守不良、ヒューマンエラーに よる故障発生の可能性が高くなり、 かえって設備の信頼性低下の要因に なり得る。
このため、設備の状態 に応じた最適な分解点検頻度の設 定や運転中の状態監視などにより、 故障率低減に向けた最適な保全方 式を追求する手法である。
 我が国では定期点検期間を十三 カ月とし、二〜三カ月で点検補修を 行ってきたが、米国では定期点検 期間は二四カ月以上であり、一〜二 カ月で点検補修を終了させている。
?保全のベストミックス  保全は一般に、予防すべき故障 (予防保全)と発生後に対応すべき 故障(事後保全)に分けられる。
ま た、時間計画保全と状態監視保全 を個別の機器・部品の特性に応じて 使い分け、最適な保全方法の組み合 せを見出す。
このためにRCM解 析を有効に活用する。
せ、故障による損失を減らす。
?予防保全(Preventive Maintena nce):定期点検、定期整備によ り、故障する前に不具合を正す。
?状態監視(On Condition Monito ring):稼働中は監視のみ、故障 直前に整備し、稼働率向上を図 る。
?信頼性重視保全(Reliability Cen tered Maintenance、RCM): ながっている(図2)。
 対象とするシステムの即応性 ( Product Availability)を維持・ 向上させるには、保全技術の向上 とともに、補修部品の適正な調達 準備、現品管理、情報管理のレベ ルアップが必要である。
原子力発電の日米格差  日本全国の原子力発電所には五 五基の原子炉があり、 稼働・利用率は六〇〜 七〇%で推移している。
地震による休止などさ まざまな事情があるが、 改善の余地はあると考 えられている。
 米国の状況を見ると、 原子力発電所の設備利 用率は六〇年代には五 五〜六〇%であったが、 二〇〇〇年代は九〇% 近くまで向上している (図3)。
また、米国で は発電所当たりの重大 事故発生件数が激減し ている。
この米国の改 善状況を研究してきた ので、トピックスをい くつか紹介する。
?原子力ルネッサンス 信頼性データを活用し、設備・保 全の改良を図る。
 ロジスティクス技術の分野では、 ?〜?の保全技術の変遷とともに LCCが着目され、一九六〇年代、 LCCエンジニアの養成のためにS OLE(ロジスティクス学会)が発 足した。
七〇年代にILSが提唱 され、二〇〇〇年代のRCMにつ 図2 ロジスティクス技術の流れ 軍縮の流れ (ベトナム戦争) LCC契約義務化 統合管理(ILS)提唱 CALS の推進 SOLE 設立 RCM へ 1960 年代 LCC エンジニアの養成急務 ロジスティクス技術の 発展と普及を目指す 1970 年代 教育訓練プログラム 勉強会(チャプター) CPL 資格制度 出典:伝田晴久氏資料 出典:funDEAL Co.,Ltd. 稼働性(A)/ LCC 向上のために 信頼性(R)、保全性(M)、支援性(S) 向上かつLCC の低減が必要 支援要素の 統合管理 プロセスの可視化 (モデリング) モニタリング技術 データ交換のための標準化 データ交換のためのインフラ整備(光通信) インターネットの普及 2000年代 データ交換 電子化必要 マネジメント 技術の発展 1985〜2000 図3 日米の原子力発電所の設備利用率推移 100 90 80 70 60 50 ‘80 ‘85 ‘90 ‘95 ‘00 ‘05 ‘90 ‘95 ‘00 ‘05 90 85 80 75 70 65 60 55 50 兵器システム コストダウン LCC に着目 データ共有化 環境整備 (%) (%) 米国日本 JUNE 2008  76 ?KPI(保全活動管理指標)  重要度の高いシステム系統ごとに 「予防可能故障」と「非待機時間」 の目標値を設定し、この基準により 監視する規制方法である。
予防可 能故障は、適切な保全を行っていれ ば予防可能な故障の発生回数、非 待機時間は故障によるシステム系統 の停止時間である。
 従来の規制は保全活動の行為を 規制するやり方であるが、管理指 標による監視は効果が高ければ保全 活動が適切になされているとするも のである。
?PBL  (Performance Based Logistics)  保全革新の動きに追随して、九 〇年代後半、米国の原子力規制 は従来の規範的規制からパフォー マンス規制に変更された。
米国の 原子力発電業界は、新しいパフォ ーマンス規制に対応してSNPM ( Standard Nuclear Performance Model:原子力標準パフォーマンス モデル)を開発し、〇三年に発表し た。
SNPMでのパフォーマンス評 価は、ワークオーダー(作業指示) 実績がベースとなっている。
?SNPM(図4)  SNPMは、原子力発電所が 日々の機能を果たしていく上での統 合プロセスモデルである。
発電所を 電気を生産する工場として扱い、原 子力による電気生産システムとして とらえてプロセスを定義し、KPI を含むマネジメントシステムとして 表現されている。
 米国はSNPMを通して、国の 規定〜電力の規定〜電力の手順書の 各レベルの異なる業務プロセスを統 合している。
各プロセス領域に対し てはKPIも開発されており、発 電所では他のプラントのビジネスプ ロセスとの比較が容易になった。
 KPIの中で原子力規制上義務 付けられている指標はごくわずかで あり、大半のKPIは電力プラント の保全管理上の必要性から設定し ている。
特に米国の電力会社は直 営・外注いかんを問わず保全結果の 責任を自ら負っており、保険会社と 契約している。
保険会社はKPI を保険料率の算定基準に活用して いると予想される。
 これに対して我が国では、電力会 社、プラントメーカー、工事会社 と保安員の関係を含めてSNPM 的なプロセス、KPI、結果責任 の関係が明確にされていない。
?ワークオーダー  ワークオーダーは、従来から米国  ただし、これには基本的に全て の機器、全ての保全作業の管理が 求められることから、作業管理負 荷は増大してしまう。
そこで負荷 軽減のため、SNPMで開発した 作業手順を標準化・ワークフロー 産業界で一般的に実施されてきた作 業方法である。
米国の原子力発電 所ではRCMとパフォーマンス規制 の導入に対応して、保全のパフォー マンス・モニターの基礎データとし てワークオーダーを活用している。
$$$$$ Electricity Production $$$$$ 図4 SNPMのプロセス MANAGEMENT PROCESSES CORE BUSINESS OPERATIONAL PROCESSES Leadership Operate Plant AP928 作業管理 AP913 設備信頼度 管理 Support Services Nuclear Fuel Loss Prevention Feedback Loops Training AP929 図書管理 AP908 予備品管理 Nuclear Asset Management Information Technology Information Management Numan Resources Strategy/Budget/ Plan/Implement Vision/Business Objectives Leadership Management Structure ENABLING PROCESSES Cost/ Budget Cost Performance KPI 評価 COMPETITIVE ENVIRONMENT AND STAKEHOLDERS 出典:funDEAL Co.,Ltd. 77  JUNE 2008 化し、市販保全管理ソフトを導入 してIT化を進めている。
?保全とロジスティクスの関連  原子力発電システムにおいては、 ワークオーダーのプランニングは保 全のロジスティクスである。
このワ ークオーダーの実績が、?の通り保 全のパフォーマンス・モニターの基 礎データとなり、SNPMのプロセ スで管理され、KPIにつながる ものである(図5)。
 以上報告した内容はRAMS研 究会での調査・研究の一端である。
今後、米国のRCMの流れを日本 においてどのように普及・展開する かを検討する。
そのために、 ?RCM技術の深耕 ?KPIの研究 ?SNPMの日本での適用可能性 研究 ?ワークオーダーシステムをいかに 適用するか などの研究を進めていく予定である。
作業指示 ●Planning  保全に必要なリソースの準備 ●Coordination  資材部門、運転部門等との間 の調整 ●Scheduling  リソースの割当、日程スケジュー ル作成 取り替えられた 部品 AS-found データ ワーク オーダー 出典:funDEAL Co.,Ltd. 図5 保全とロジスティクスの関連(プランニングは保全のロジスティクス) 保全リソースプランニング業務保全作業 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは6月23日(月)日本支部会員に よる「グローバル・ロジスティクスに関する事例研 究」を予定している。
このフォーラムは年間計画 に基づいて運営しているが、単月のみの参加も 可能。
1回の参加費は6,000円。
ご希望の方は 事務局( sole-j-offi ce@cpost.plala.or.jp)ま でお問い合わせください。

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