ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年9号
管理会計
GMROI―商品ごとの貢献度を評価する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2005 66 在庫回転率をアイテムごとに見る 在庫はSKU(Stock Keeping Unit:保 管管理の最小単位)ごとに見なければ、それ が適切な量なのかは分からない。
在庫削減と いうと、ボリュームのある売れ筋商品の在庫 から手をつけてしまい、その結果、全体の在 庫量は減ったものの、あいかわらず倉庫の中 は不動在庫が多く占めているという例をよく 見かける。
在庫削減の真の狙いは不動在庫を 削減することであり、売れ筋を必要以上に絞 ることではない。
在庫のバロメーターとして一般に使われて いるのは在庫回転率である。
しかしながら、 個々のアイテムに対して一律の回転率を適用 するのは難しい。
生産が大ロットでしか作れ ないものもあるし、あまり量は出ないけれど 揃えておく必要のある商品もある。
回転率だ けの基準で判断するのは危ない。
見るべきはアイテムごとの企業への貢献度 である。
本来、貢献度は製品ごとの利益額か ら判断するのが理想的だ。
しかしながら、販 売管理費、一般管理費を製品ごとに出すのは 容易ではない。
それを行うには、ABC(活 動基準原価計算)を導入しなければならない が、すべての業種で実施できるものではない。
流通業の世界では、比較的容易にとれる 財務データを用いた製品別の貢献度を見る方 法がある。
それが「GMROI(Gross Margin Return On Inventory Investment: 在庫投資粗利益率)」や「交叉比率」といわ れるものである。
これを用いると、製品別、 カテゴリー別の利益の実態が見えてくる。
GMROIと交叉比率GMROIは米国の流通業で用いられてい る商品評価のための指標であり、GMROI Iとしていることもある。
一方の交叉比率は 日本の小売業で広く使われている、やはり商 品評価のための指標であり、交差主義比率、 交差比率ということもある。
GMROIと交叉比率は、いうなればRO A(総資産利益率)の製品別版である。
RO Aが売上高利益率と総資産回転率を掛け合 わせたものであるのに対し、GMROIと交 叉比率は粗利率と在庫回転率を掛け合わせ たものとなっている。
ROAがある期間にお ける資本に対する純利益額を表す指標である GMROI―商品ごとの貢献度を評価する 米国の流通業では経営判断のための指標として、GMROIが広く 用いられている。
これを用いることで、企業業績への貢献度をアイテム 別に測定することが容易になる。
在庫水準の適正化に加え、ベンダー や品揃えの選定に威力を発揮する。
第6回 梶田ひかる アビームコンサルティング製造事業部 マネージャー 67 SEPTEMBER 2005 のに対し、GMROIと交叉比率は、ある期 間における製品ごとの在庫投資に対する粗利 額を表す(図1、図2)。
GMROIと交叉比率は同じだという説 もあるが、厳密には若干違いがある。
前者が 在庫金額を原価で出すのに対し、後者は在 庫金額を売価で出す。
この背景には日米の小 売業の商慣行上の制約がある。
棚卸資産の 計上にも売価還元原価法(期末商品の売価 に原価率を乗じて取得原価を計算する方法) を用いている日本の小売業は、在庫金額を売 価でしか出せないのである。
このような違いは表記の仕方にも現れる。
GMROIは通貨単位で表す。
俗な言い方 をすれば、在庫に一円投資するといくら儲か るのか、ということである。
一方の交叉比率 はパーセントで表すことが多い。
粗利率は通 常パーセントで表し、それに在庫回転率を乗 じるため、結果となる交叉比率も%で表記と しているようである。
指標の主な使い道にも、この違いが影響し ている。
GMROIは主にバイヤー側の意思 決定や評価に用いられているが、交叉比率は ベンダー側の意思決定や評価に使われている。
回転率を高めて低価格化を実現 GMROIの良いところは、個々の商品 別に貢献度が測れることである。
それを集計 すれば、カテゴリー別、バイヤー別、部門別、 店舗別など、さまざまな単位での貢献度を数 値化できる。
このGMROIはアパレル業で進められた クイック・レスポンス(QR)によって普及 していったと言われている。
商品に見合った 価格を志向する消費者に対応するためには、 低価格化の原資を粗利率以外に見つけなけ ればならない。
従来の粗利率のみの判断では なく、在庫回転率も加味して、個々の商品を 評価する。
粗利率を下げても、在庫回転率が 上がれば、ある期間におけるその商品からあ がる粗利の絶対額を同じ、あるいはそれ以上 にすることができる( 図3)。
日本流通業のGMROI 在庫回転率を高めて低価格化に対応する、 それがSCMの一つのテーマである。
それで は、日本の流通業はどれくらいのGMROI となっているのであろうか。
平成十四年度商 業統計をもとに、卸売業、小売業の業種別 GMROIを試算してみよう( 図4)。
卸売業の表の最上段にある「各種商品」は、 売価一〇〇円あたりの仕入原価が約九〇円、 GMROI、つまり在庫投資一円あたりの年間粗利額が三・四七円となる。
粗利率の高い 「繊維品」、「衣服・身の回り品」はいずれも 回転率が低いため、GMROIはそれぞれ 二・七五円、二・二二円と、低い値となる。
小売業で最も粗利率の低い「自動車・自 転車」は、商品回転率が一二・七であるため GMROIは二・五五円である。
一方、粗 利率が最も高く五二・九%となっている「時 計・眼鏡・光学機器」は、商品回転率が低 いため、GMROIは自転車・自動車より も低い一・八円にしかならない。
図4では参考のために、粗利率から逆算し SEPTEMBER 2005 68 た交叉比率も併記している。
粗利率の高いも のほど、GMROIと交叉比率の違いは大き くなる。
混同されることの多いこれらの指標 であるが、在庫投資額の効率評価という観点 では、算出可能ならGMROIを用いたほう が望ましい。
この表からは、粗利率の低い業種は、商品 回転率を高めることにより、粗利率の高い商 品を扱う業種よりも高いGMROIを実現 していることが読み取れる。
業種ごとの採算 性を把握するには、販売管理費、一般管理 費も見る必要があるため、これがイコール儲 かる業種とはならない。
しかしながら価格競 争に打ち勝つ方法は、このGMROIが明 確に示してくれているのである。
GMROIの活用 日本の小売業では古くから交叉比率を用 いた管理を行っている。
卸売業でもこの交叉 比率を用いた商品管理を行っているケースが 見られる。
基本的な活用方法をいくつか紹介 しよう。
商品入れ替え時の候補選定 小売業で最もよく見られる活用方法は、商 品入れ替えの候補選定である( 図5)。
商品 ごとにGMROI(または交叉比率)を算出 する。
GMROIの低いものが、入れ替え時 の定番落ち候補となる。
ここで候補としているのは、それが即入れ 替えの条件とはならないからである。
たとえ 売れなくても置く必要のある商品はある。
コ ンビニであれば、災害に備えて置いておくろうそくなどはそれに当たる。
他にも、あまり 売れなくてもそれがあることにより他の商品 が売れるという効果をあげるものもある。
数 値はたしかに判断の指標にはなるが、それだ けで判断してはならない。
バイヤー評価 米国では、バイヤーごとにGMROIの目 標値を定め、それを評価に用いている。
この バイヤー評価には、交叉比率ではなくGMR OIを用いなければならない。
米国ではバイ ヤーはゴンドラやカテゴリー単位で定められ ているため、そのスペースから最も粗利を得 られるように商品構成を行うことが彼等の目 標となる。
バイヤーへは、値入や特売の決定などの権 限も与えられていることが多い。
バイヤーは 担当のゴンドラやカテゴリー内で、GMRO Iの高いもの、低いが置くことが必要なもの を独自で判断することができる。
ゴンドラや カテゴリーの商品特性を考慮し、実現可能な GMROIを目標としてそれで厳密に評価を 行うなら、バイヤーの裁量を増やしても何ら 問題は生じない。
値入への活用 GMROIは値入にも活用されている。
値 69 SEPTEMBER 2005 入への活用時はまず、目標となるGMROI を設定する。
次にその商品の回転率を出す。
目標GMROIと商品回転率から、目安と なる粗利率を計算する。
仕入値にその粗利率 を用い、目安となる売価を決定する( 図6)。
回転率の高い商品ほど低価格で値入ができる。
回転率の低いものは価格を高めることになる。
この活用事例は、本年四月二五日付けの 日経MJでソフマップの例として紹介されて いたので、ご覧になった読者もいらっしゃる であろう。
米国では比較的ポピュラーな使い 方である。
その他の活用分野 米国ではさらに、GMROIをベンダー評 価に用いようという動きがある。
CPFR (Collaborative Planning, Forecasting & Replenishment) では、どの取引先と連携を とるのかが重要となる。
それぞれの納入業者 の評価は、納入率やリードタイムだけではな く、それの扱う商品の利益にまで及んでいる。
店頭VMI(Vendor Managed Inventory) やカテゴリー・マネジメントのベンダーへの 移管という流れは、GMROIへの関心をま すます高めている。
ここで紹介した活用事例は小売業のものが 中心であるが、GMROIは小売業のためだ けの指標ではない。
卸売業では取扱商品の改 廃、商品部の担当者別評価という小売りと 同様の使い方の他、販売先評価、営業担当 者別評価などに活用できる。
特に販売先については、GMROIの目 標値を設定し、その範囲内での値引きの裁量 を営業担当者に与えるなどの使い方が可能で あろう。
卸売業では在庫金額を仕入 価格ベースで算出することが可能で あるため、GMROIは容易に導入 できる指標である。
メーカーにおいても扱うものや販 売形態によって活用できる分野はあ る。
例えば粗利率や在庫回転率が 著しく異なるものの評価には使える 可能性がある。
すぐにとれるデータ のみで計算でき、かつ商品単位にも 計算できるという利点は、他にもさ まざまな活用分野があると思われる。
使用の前提となる条件 ただし、GMROIには、それを 使用するための前提条件がある。
まず、粗利 額で利益を代替してみる指標であるから、販 売管理費・一般管理費などの費用がその粗 利額でカバーできることが必要になる。
総額 での利益が出ていること、それがGMROI 使用の第一の条件となる。
GMROIは欠品がある場合にも使用が 限定される。
欠品があれば在庫回転率が低く なるため、その商品のGMROIは悪化する。
欠品があったことを正確につかみ、各種判断 に活用する際にそれを考慮することが必要に なる。
また粗利率にはリベートやアローアンスの 考慮が必要になる。
特にその商品に紐付いて いるものについては、粗利率にそれを加味し なければ正確な判断はできない。
将来的な返 品が発生する可能性がある場合も、GMR OIの活用は制限される。
返品がある場合は、それが発生することを前提とした商品回転率 を用いなければ判断はできない。
これらの問題がある場合には、GMROI の使用は商品群やカテゴリーなど、ある程度 の塊の単位でしか使用できない。
「SKU単 位で計算できる」というせっかくのメリット が活かせない。
簡単でわかりやすいこと、誰でも共通の理 解を持てること、それが良い指標の条件であ る。
その点ではこのGMROIは使い勝手の 良い指標であるといえよう。
それ故に生じる 使用の前提条件は、それを正確に理解して、 活用分野を限定する、あるいは阻害要因を排 除するなどの工夫が必要になる。

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