2008年6月号
現場改善

商物分離の明暗を分けるもの

JUNE 2008  82 社内分離   社外分離  このところ商物分離について相談を受ける 機会が増えている。
アプローチは業態によっ て異なる。
一般にメーカーにおける商物分離 は、小口得意先が“分離”を受け入れず、結 果として取引がなくなることまで覚悟して改 革に取り組む場合が多い。
一方、卸・小売り は、そもそも小口得意先こそが主要顧客であ ることから、受け入れ拒否はどうしても避け なければならないという思いが強い。
しかし、 いずれの相談も、商物分離を単なる物流改善 ではなく、業界における生き残り戦略として 位置付けている点で共通している。
 商物分離とは、読んで字のごとく“商流” すなわち営業と、“物流”同じく配送を分け ることである。
大きく二つのパターンがある。
一つは同じ社内において営業スタッフと配送 スタッフを分ける場合である。
“社内分離” と呼ぶことにする。
 この場合、商物分離の実施に伴って担当す る部門は変わってしまうが、同じ会社の人間 が納品することに違いはないため、得意先か らの理解は得やすい。
業務の細かな内容につ いても社内同士であるため融通が利く。
その 反面、役割分担が不明確になってしまい、コ スト削減などの点で大きな成果を出せないこ とが多い。
また社内分離では、新たな給与体 系の設定で、頭を悩まされることも少なくない。
 外部の物流会社に拠点運営や納品業務を委 託する“社外分離”であれば、そうした問題 を回避できる。
ただし、この場合には、荷主 は往々にして協力会社に対し多くを求め過ぎ る。
具体的には受注、集金、先入れ先出しの ための棚陳列などの付帯業務を押しつけよう とするのである。
 商物一体の時と同様に、委託先のドライバー が納品先における立会い検品、受領印、さら には棚陳列まで処理させるとなると、一得意 先当たりの滞在時間が二・五倍から三倍になっ てしまう。
それだけ配送効率は落ちる。
当然 それがコストに反映されることになる。
 それでは商物分離の成否、明暗を分ける最 も重要なポイントとは何だろうか。
「最適な委 託先の選定」と答える読者が多いかも知れない。
間違いである。
答えは、商物分離後の営業ス タイルの確立である。
商物分離に伴って営業 マンは物流業務の負担から開放される。
それ を営業活動の量的拡大と提案やマーケティン グ活動などの質的向上に結びつけなければな らない。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第65 回  営業マンが自分で出荷や納品まで処理する体制を改め、 営業活動と物流を分離する──商物分離に成功すれば、営 業マンの生産性の大幅な向上や売り上げの拡大を実現するこ とができる。
一方、改革の失敗はコスト増だけでなく営業力 の弱体化を招く。
その成否を左右する最大の要因とは何か。
商物分離の明暗を分けるもの VS 83  JUNE 2008  実は商物分離に伴う物流体制の構築自体は、 それほど難易度は高くない。
適切な手順を踏 めば何とか軌道に乗せられるものである。
し かし、それは改革の半分に過ぎない。
商物分 離によって配送効率が上がったとしても、同 時に売上増または利益増につながる営業改革 を実現できなければ片輪の車と同じである。
 営業活動の量的拡大・質的向上は容易では ない。
一般に商物一体型の営業マンの仕事は 物流業務が六割から七割を占めている。
つま り事実上は物流マンなのである。
彼らに提案 営業やマーケティング営業を教育し、実践さ せなければならない。
しかし、それを教える 上司がいない。
上司にとっても新しい取り組 みとなるのである。
スピードよりもプロセス重視  その成功事例から紹介しよう。
精密機器 を販売するA社。
約二〇〇〇アイテムを扱い、 年商二五億円を売り上げている。
これまで同 社は都心部にある本社で商品を保管し、納品 も営業マンが自ら行うという商物一体の体制 を敷いてきた。
しかし、スペースが手狭になっ たことや、近隣対策、そして営業マンの生産 性を向上させたいという狙いから商物分離を 実施した。
 まずは営業、購買、システム、経理、管理 など、各部署からメンバーを登用して組織横 断型のプロジェクトチームを結成した。
改革 を担当部署だけで進めることは避けた。
商物 分離の成功には社内の理解が何より必要だと 考えたからだ。
 このプロジェクトチームの活動を通じて、「何 のために商物分離を行うのか」、「新たに協力 物流会社が納品することになる得意先には、 そのことを補うのに十分な営業のフォローが 必要であること」、さらには「これからの営 業にはどのようなスキルが求められるのか」 などを全社的に議論し、共有化していった。
 新たに設置する物流拠点の立地選びにも時 間をかけた。
我々NLFと物流担当者だけで あれば、経験値から立地を決めてしまうとこ ろだが、この取り組みでは物流のことを知ら ないプロジェクトメンバーと一緒になって、ま ずは「得意先マップ」を作成した。
納品先と なる得意先の所在地と物量、そして各得意先 の納品受け入れ時間を地図上に記していった。
 また同社の得意先は大手メーカーから研究 所までと層が広く、なかには緊急対応による 営業マンの納品が他社との差別化要因となっ ている場合も少なくない。
それもあって安価 な郊外の倉庫ではなく、納品先に近い都心型 倉庫を敢えて選定するという方針を立て、拠 点候補地を二カ所に絞り込んだ。
そして両候 補地から主要な得意先までの移動時間をマッ ピングして最適な拠点を決めた。
商物分離チェックリスト 現在、受領印をもらう相手と商談を行う相手は別々である。
(分 かれている) 緊急注文、出荷はほとんどない 商品納品時に得意先側から発注をもらうことはほとんどない 競合先は営業と納品を分けている 納品先は物流会社の車両の出入りを許可している 納品先は物流会社のドライバー(ユニフォーム着用)の出入 りを許可している 受領印もしくはサイン、検品を納品時に即対応してくれる 得意先から注文や来訪などの依頼や情報が発せられた場合、 納品したドライバーから担当営業者に即時、連絡できるシク ミ、ルールがある 納品と営業を分けた場合、納品頻度と同等レベルの訪問を行 う体制がある(作れる) 提案営業、マーケティング営業や新規開拓を中心とした営業 体制にシフトできる 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 得意先名: 納品先名: 営業担当者:  項  目○ ・× JUNE 2008  84  この活動と並行して、商物分離の対象とす る得意先を選定するために「商物分離チェッ クリスト」(表)を作成した。
営業マンにそ れぞれ自分の担当する得意先一軒ごとにリス トを作成してもらい、配送を分けるか否かの 確認作業を行った。
このリストは、別に設け た“提案営業プロジェクト”に持ち帰り、社 長も交えて営業活動の見直しの資料としても 利用した。
 これら一連の取り組みによって、全体の約 八割の得意先が商物分離体制に移行した。
物 流センターの運営および配送は外部の協力物 流会社に委託することになった。
結果として 同社の営業担当者一人当たりの売り上げは年 間六五〇〇万円から七四〇〇万円にアップし た。
改革のスピードよりもプロセスを重視して、 社内の理解度を高めたことが成功の一因だった。
 次に失敗事例。
業務用食品卸B社は商圏 を営業所ごとに細かく区分した地域密着型の 営業スタイルで年商六〇億円を売り上げてい る。
同社では事業所別損益が赤字となってい るC営業所の建て直しが急務となっていた。
 C営業所は車両七台で営業マンが自分でハ ンドルを握って納品する商物一体体制をとっ ていた。
午前中から午後一時ぐらいまでが納 品時間。
午後は荷台の空いた車両に乗って注 文を取りに回る。
実質的な車両の稼働率は五 〇%ということになる。
ムダであろう。
 そこで商物分離に踏み切ることにした。
既 にB社の他の事業所で商物分離を実施し、損 益の改善に成功している。
C事業所でも大き な問題は出ないはずだという考えだった。
実際、 配送面では稼働当初に若干のトラブルが発生 したものの、取引を左右するような大事には 至らなかった。
 ところが営業面で大きな問題が起きてしまっ た。
「新規開拓は私にはできません」、「車に 乗る仕事が好きでB社に就職しました」、「仕 事の割りに給料が安い」などと言った不平不 満が営業マンたちから噴出したのだ。
商物分 離をきっかけに退職する営業マンまで出る始 末だった。
 C営業所では商物分離後の新たな営業活動 について、「新規開拓、提案営業の実施」と いうお題目を掲げたのみで具体的な進め方や 手法、ツール開発などの落とし込みが行われ ていなかった。
 C営業所のスタッフはそれまで営業マンと は名ばかりで実質的にはドライバーとして働 いていた。
急に営業をやれと命じられても、 どうすればいいのか分からない。
自分の将来 に大きな不安をもってしまったのも無理はな いだろう。
営業部門の混乱で収益悪化  C営業所の失敗の原因は管理者に他の営業 所でも成功しているから大丈夫という思い込 みがあったことに加え、収益性の改善を急ぐ 余りに、現場や営業担当者とのコミュニケー ションやプロセスの開示を怠ってしまったこ とにあると言える。
 結果として、C営業所の業績は、売り上げ は横ばいながら、物流の外注化による経費増 のため結局、赤字が膨らんでしまった。
改善 にはしばらく時間がかかるだろう。
 以前(二〇〇六年一月号)にこのコーナー で取り上げた印刷会社P社でも、営業とフィー ルド(納品)を分離してから、その効果が数 字に現れるまでに二年の月日がかかっている。
今では得意先数も増え、インストアシェア(各 得意先の発注業務に占める自社の割合)も拡 大してきたが、途中、営業担当者の出入りの 激しかった時期もあった。
それが落ち着いた ことで、初めて効果が目に見えて現れるよう になった。
 このような数々の事例から、私は商物分離 の成否はその会社の採用方針にも紐付けられ ているのではないかと考えるようになっている。
改革を成功させたA社の場合、営業担当者の 採用は業界未経験者のみに絞っている。
反対 にB社では経験者を優遇している。
そのこと が商物分離に伴う営業スタイルの変更に柔軟 に対応できるかどうかと深く関係しているよ うに思えるのである。
 いずれにせよ、商物分離は物流改革である と同時に、いやそれ以上に営業の改革である ことを再度指摘しておきたい。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、8 9年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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