2008年6月号
特集
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巨大物流企業の攻防 TNT──日本市場のニーズに柔軟に対応
JUNE 2008 32
TNT──日本市場のニーズに柔軟に対応
リソースを集中
──ロジスティクス市場からの撤退、そして昨年の
フォワーディング事業からの撤退は日本でも大きな
注目を集めました。
「当社はインテグレーター四社のなかでも、最も 個性のハッキリした会社だと思います。
エクスプレ スとメール事業に経営資源を集中させた結果とし て、欧州のエクスプレス市場ではトップに立ちまし た。
欧州ナンバーワンの座は今後も全力を挙げて守 り抜いていきます。
それ以外の重点市場はBRIC s。
そして、エマージング・マーケットとされる中 東欧、中近東で確実にナンバーワンになるという戦 略目標を掲げています」 「一方、米国市場では主要都市に拠点を設けてい るものの、全米を自社の航空機や集配車でカバーす るほどの大きな投資は行っていません。
日本も含め て既に市場の成熟した先進国では、現地企業と競 合して自社の国内ネットワークを拡げることは避け、 現地企業との戦略的提携を進めています。
そして、 ハイテク製品やサービスパーツなどの統合直送サービ スや二四時間対応の緊急輸送、また他社がやらない 危険品輸送サービス、特にクリニカル・エクスプレス などで差別化を図っています。
拡大主義に走ること なく、確実に利益の出せる事業に投資を集中してい ます」 ──それは株式市場の評価を強く意識した戦略でも ありますね。
「否定はしません。
実際、ロジスティクス部門を 売却した時に当社の株価は大きく跳ね上がりました。
ただし、誤解されると困るのですが、当社が撤退し たのは箱物を抱えた昔ながらの倉庫業的なサービス からであって、ロジスティクス・サービスそのもの から手を引いたわけではありません。
エクスプレス を絡めたかたちでのロジスティクス・サービス、つ まりネットワーク・ベース・ロジスティクスはむしろ 強化していきます」 ──インテグレーター同士の競争では、事業規模や ネットワークの差がネックになるのでは。
国内の宅 配便と同様に、国際エクスプレスも世界の隅々を網 羅することで初めてネットワークの経済性が活きて くるはずです。
「本当の意味でのグローバルなインテグレーターが、 他を圧倒する水準で現れた場合にはそうなるかもし .れません。
しかし、そんなプレーヤーは今のところ どこにも存在しません。
米国系インテグレーターの 欧州市場における存在感はまだ小さいですし、米国 市場における欧州系の立場も同様です」 ──それでも、インテグレーターは最終的には世界 を網羅する真のグローバルプレーヤーを目指している はずです。
「その通りだと思います。
しかし、それを実現す るためにはかなり巨額の先行投資、あるいは大規 模なM&Aが必要になってくるでしょうね。
もちろ ん当社が先行投資を全くしないというわけではあり ません。
実際、中国では国内に一一五〇カ所のデポ を持ち三〇〇〇台の車両を保有する華宇物流集団 (Hoau)を買収し、インドでは『Speedage』のブラ ンドで知られるARC India社、ブラジルではメルキ ュリオ(Mercurio)社を買収しています。
いずれも 現地ではトップクラスの大手陸運企業です」 ──インテグレーターとして最終的に目指すところ は同じでも、そこに至る道筋には違いがあるという ことでしょうか。
2006年、主力事業の一つとして総売上の3分の1を占め ていたロジスティクス部門を売却、07年にはフォワーディ ング事業も売却してエクスプレスと郵便事業への特化を打 ち出した。
他のインテグレーターともフォワーダーとも違 う独自のモデルで国際物流事業を展開する。
恵谷洋 TNTエクスプレス 取締役営業本部長 外資系物流企業の日本戦略 33 JUNE 2008 特 集巨大物流企業の攻防 「インテグレーターのビジネスモデルは、いまだ試 行錯誤の段階にあるとと思います。
米国系インテグ レーターは米国内で作り上げた空輸ネットワークを 世界中に拡張することで飛躍できるという仮定のも とに様々なトライアルを行っています。
当社もヨー ロッパ域内では同様の展開をしていますが、それ以 上にヨーロッパおよび先ほどの戦略重要地域におけ る陸送ネットワーク整備に大きな投資を行っています」 「何が正解なのか、まだ誰にも分かりません。
と りわけアジアはこれからが正念場です。
アジアでは今、 フィリピンや香港、上海などを軸にしたハブ・アンド・ スポークの域内空輸ネットワークがインテグレーター の主流になっていますが、それも本当にベストかど うかは分かりません。
当社の場合はむしろ直行便を 多用しています。
その方がリードタイムが短いケー スも多いし、コストも安くなります」 日本市場でも独自の展開 ──日本市場には、どう斬り込んでいきますか。
「航空貨物に関して言えば日本はユニークなマー ケットです。
ドア・ツー・ドアの運賃比較をすれ ば、一〇〇キロ以下程度の軽量貨物だとインテグレ ーターの方がフォワーダーよりも安くなるケースが多 い。
そのため欧米では、軽量貨物はインテグレーター、 それ以上はフォワーダーという大まかな棲み分けが できています。
ところが、日本では軽量貨物輸送に もフォワーダーを起用する荷主が多いですね」 「それに対して我々は、エクスプレスをベースにし ながらも、フォワーダーがやるような顧客仕様にカ スタマイズした独自のサービスを提供していきます。
これは当社が他のインテグレーターとの間で差別化 を図れる点です」 ──なぜですか。
「本来、エクスプレスとフォワーディングではビジ ネスモデルが違うんです。
インテグレーターは航空機 を使った幹線輸送はもちろん、荷物のピックアップ から末端の配送まで文字通りドア・ツー・ドアを全 て自前のネットワークで処理します。
そのために荷 物のトラック・アンド・トレースや輸送品質を高い 精度で管理できる。
これは自前のインフラを持って いないフォワーダーには真似できません」 「一方、顧客別にカスタマイズしたサービスの提供 を得意とするフォワーダーに対して、インテグレータ ーはパッケージ化された標準的な商品を売ろうとい う意識が強く、本社が定めた仕様通りのサービスを 世界中で展開するというトップダウンが強烈ですか ら融通がききません」 「もちろん、当社でもサービスの標準化は行って いますが、TNTでは現地法人に与えられている裁 量権が大きく、サービスのカスタマイズが比較的容 易です。
また、組織も部門別の縦割りがきつくなく、 一つにまとまっています。
例えば私は日本法人の営業、 マーケティング、カスタマーサービスを担当していま すが、これは他社だと三〜四人のディレクターを置 くところでしょう」 ──それは日本法人の規模が小さいからでは。
ある いはロジスティクス部門とフォワーディング部門を切 り離した効果でしょうか。
「規模の問題ではありません。
この組織体制は当社 の多くの国で同じです。
それによって当社は縦割り 組織にありがちなセクショナリズムを廃し、顧客ニ ーズに柔軟に対応するワンストップサービスを徹底で きるようになりました。
これを日本市場攻略の武器 にしていきます」 1946 オーストラリアのシドニーで開業 1961 シドニー証券取引所に上場 1983 国際宅配便のスカイパックを買収 欧州の陸運大手アイペックを買収 1984 日本法人TNTエクスプレス設立 1996 オランダ郵政公社(KPN)が株式取得 1998 TPGとしてニューヨーク証券取引所に再上場 2005 TNTにブランドを統一 2006 ロジスティクス事業をファンドに売却 2007 フォワーディング事業を仏ジオディスに売却 TNTの沿革 調査&立ち上げ 早割立ち上げ 投資拡大 積投極的資拡維大持 収益確保成長収益価値創造価値創造 WACC (加重平均資本コスト)の改善 財政面 エクスプレス (EU内) エクスプレス (EU-アジアその他の地域) スペシャル サービス EMN (European Mail Network) 小包 アジア 太平洋 その他の地域 エクスプレス (EU内空白地域) 戦略面 メール (オランダ、その他) 図1 TNTの事業ポートフォリオ
「当社はインテグレーター四社のなかでも、最も 個性のハッキリした会社だと思います。
エクスプレ スとメール事業に経営資源を集中させた結果とし て、欧州のエクスプレス市場ではトップに立ちまし た。
欧州ナンバーワンの座は今後も全力を挙げて守 り抜いていきます。
それ以外の重点市場はBRIC s。
そして、エマージング・マーケットとされる中 東欧、中近東で確実にナンバーワンになるという戦 略目標を掲げています」 「一方、米国市場では主要都市に拠点を設けてい るものの、全米を自社の航空機や集配車でカバーす るほどの大きな投資は行っていません。
日本も含め て既に市場の成熟した先進国では、現地企業と競 合して自社の国内ネットワークを拡げることは避け、 現地企業との戦略的提携を進めています。
そして、 ハイテク製品やサービスパーツなどの統合直送サービ スや二四時間対応の緊急輸送、また他社がやらない 危険品輸送サービス、特にクリニカル・エクスプレス などで差別化を図っています。
拡大主義に走ること なく、確実に利益の出せる事業に投資を集中してい ます」 ──それは株式市場の評価を強く意識した戦略でも ありますね。
「否定はしません。
実際、ロジスティクス部門を 売却した時に当社の株価は大きく跳ね上がりました。
ただし、誤解されると困るのですが、当社が撤退し たのは箱物を抱えた昔ながらの倉庫業的なサービス からであって、ロジスティクス・サービスそのもの から手を引いたわけではありません。
エクスプレス を絡めたかたちでのロジスティクス・サービス、つ まりネットワーク・ベース・ロジスティクスはむしろ 強化していきます」 ──インテグレーター同士の競争では、事業規模や ネットワークの差がネックになるのでは。
国内の宅 配便と同様に、国際エクスプレスも世界の隅々を網 羅することで初めてネットワークの経済性が活きて くるはずです。
「本当の意味でのグローバルなインテグレーターが、 他を圧倒する水準で現れた場合にはそうなるかもし .れません。
しかし、そんなプレーヤーは今のところ どこにも存在しません。
米国系インテグレーターの 欧州市場における存在感はまだ小さいですし、米国 市場における欧州系の立場も同様です」 ──それでも、インテグレーターは最終的には世界 を網羅する真のグローバルプレーヤーを目指している はずです。
「その通りだと思います。
しかし、それを実現す るためにはかなり巨額の先行投資、あるいは大規 模なM&Aが必要になってくるでしょうね。
もちろ ん当社が先行投資を全くしないというわけではあり ません。
実際、中国では国内に一一五〇カ所のデポ を持ち三〇〇〇台の車両を保有する華宇物流集団 (Hoau)を買収し、インドでは『Speedage』のブラ ンドで知られるARC India社、ブラジルではメルキ ュリオ(Mercurio)社を買収しています。
いずれも 現地ではトップクラスの大手陸運企業です」 ──インテグレーターとして最終的に目指すところ は同じでも、そこに至る道筋には違いがあるという ことでしょうか。
2006年、主力事業の一つとして総売上の3分の1を占め ていたロジスティクス部門を売却、07年にはフォワーディ ング事業も売却してエクスプレスと郵便事業への特化を打 ち出した。
他のインテグレーターともフォワーダーとも違 う独自のモデルで国際物流事業を展開する。
恵谷洋 TNTエクスプレス 取締役営業本部長 外資系物流企業の日本戦略 33 JUNE 2008 特 集巨大物流企業の攻防 「インテグレーターのビジネスモデルは、いまだ試 行錯誤の段階にあるとと思います。
米国系インテグ レーターは米国内で作り上げた空輸ネットワークを 世界中に拡張することで飛躍できるという仮定のも とに様々なトライアルを行っています。
当社もヨー ロッパ域内では同様の展開をしていますが、それ以 上にヨーロッパおよび先ほどの戦略重要地域におけ る陸送ネットワーク整備に大きな投資を行っています」 「何が正解なのか、まだ誰にも分かりません。
と りわけアジアはこれからが正念場です。
アジアでは今、 フィリピンや香港、上海などを軸にしたハブ・アンド・ スポークの域内空輸ネットワークがインテグレーター の主流になっていますが、それも本当にベストかど うかは分かりません。
当社の場合はむしろ直行便を 多用しています。
その方がリードタイムが短いケー スも多いし、コストも安くなります」 日本市場でも独自の展開 ──日本市場には、どう斬り込んでいきますか。
「航空貨物に関して言えば日本はユニークなマー ケットです。
ドア・ツー・ドアの運賃比較をすれ ば、一〇〇キロ以下程度の軽量貨物だとインテグレ ーターの方がフォワーダーよりも安くなるケースが多 い。
そのため欧米では、軽量貨物はインテグレーター、 それ以上はフォワーダーという大まかな棲み分けが できています。
ところが、日本では軽量貨物輸送に もフォワーダーを起用する荷主が多いですね」 「それに対して我々は、エクスプレスをベースにし ながらも、フォワーダーがやるような顧客仕様にカ スタマイズした独自のサービスを提供していきます。
これは当社が他のインテグレーターとの間で差別化 を図れる点です」 ──なぜですか。
「本来、エクスプレスとフォワーディングではビジ ネスモデルが違うんです。
インテグレーターは航空機 を使った幹線輸送はもちろん、荷物のピックアップ から末端の配送まで文字通りドア・ツー・ドアを全 て自前のネットワークで処理します。
そのために荷 物のトラック・アンド・トレースや輸送品質を高い 精度で管理できる。
これは自前のインフラを持って いないフォワーダーには真似できません」 「一方、顧客別にカスタマイズしたサービスの提供 を得意とするフォワーダーに対して、インテグレータ ーはパッケージ化された標準的な商品を売ろうとい う意識が強く、本社が定めた仕様通りのサービスを 世界中で展開するというトップダウンが強烈ですか ら融通がききません」 「もちろん、当社でもサービスの標準化は行って いますが、TNTでは現地法人に与えられている裁 量権が大きく、サービスのカスタマイズが比較的容 易です。
また、組織も部門別の縦割りがきつくなく、 一つにまとまっています。
例えば私は日本法人の営業、 マーケティング、カスタマーサービスを担当していま すが、これは他社だと三〜四人のディレクターを置 くところでしょう」 ──それは日本法人の規模が小さいからでは。
ある いはロジスティクス部門とフォワーディング部門を切 り離した効果でしょうか。
「規模の問題ではありません。
この組織体制は当社 の多くの国で同じです。
それによって当社は縦割り 組織にありがちなセクショナリズムを廃し、顧客ニ ーズに柔軟に対応するワンストップサービスを徹底で きるようになりました。
これを日本市場攻略の武器 にしていきます」 1946 オーストラリアのシドニーで開業 1961 シドニー証券取引所に上場 1983 国際宅配便のスカイパックを買収 欧州の陸運大手アイペックを買収 1984 日本法人TNTエクスプレス設立 1996 オランダ郵政公社(KPN)が株式取得 1998 TPGとしてニューヨーク証券取引所に再上場 2005 TNTにブランドを統一 2006 ロジスティクス事業をファンドに売却 2007 フォワーディング事業を仏ジオディスに売却 TNTの沿革 調査&立ち上げ 早割立ち上げ 投資拡大 積投極的資拡維大持 収益確保成長収益価値創造価値創造 WACC (加重平均資本コスト)の改善 財政面 エクスプレス (EU内) エクスプレス (EU-アジアその他の地域) スペシャル サービス EMN (European Mail Network) 小包 アジア 太平洋 その他の地域 エクスプレス (EU内空白地域) 戦略面 メール (オランダ、その他) 図1 TNTの事業ポートフォリオ
