2008年7月号
判断学

外国投資ファンドの日本株買い

奥村宏 経済評論家 第74回外国投資ファンドの日本株買い JULY 2008  76      TCIのJパワー株取得  イギリス系の投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベ ストメント・ファンド(TCI)がJパワー(旧電源開発) の株式を九・九%取得し、それをさらに二〇%にまで買い増 すと表明したところから、時ならぬ「外資紛争」が日本で起 こり、大きな波紋を呼んでいる。
 日本の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」では、国の 安全や公の秩序の維持のために電気、ガス、通信、放送など の規制対象業種の会社について、外国人が発行株式の一〇% 以上の株式を取得しようとする場合には、政府に対して事前 に届け出をする必要があるとしている。
 そして政府は必要と認める場合、関税・外国為替審議会の 意見を聴取したうえで、投資の変更または中止を勧告、命令 することができる、ということになっている。
 そこでTCIはJパワーの株式を二〇%まで買い増すこと を日本政府に申請したが、それが却下されたところから紛争 が起こったのである。
 TCIはJパワーの六月の株主総会で、年間八〇円の増配 と、さらに株式相互持合いの廃止などを求めて委任状争奪戦 を行うとしており、さらにJパワーと株式の相互持合いをし ているみずほフィナンシャルグループや鹿島の株式を取得し ている。
 Jパワーの大株主の状況からみて、六月の株主総会でTC Iの株主提案が通るとは考えられない。
しかしマスコミでそ れが報道されることによって日本政府の外資排除の姿勢を攻 撃しようとしている。
 これに応じて日本のマスコミでも、政府のこのような態度 が外資の日本株買いの意欲を抑え、それが日本の株安の原因 になっていると報道している。
証券会社系のシンクタンクな どがそのお先棒をかついでいるのだが、それがTCIなど外 資系ファンドの狙いであることはいうまでもない。
       株式の売買は自由が原則  旧電源開発は一九五二年に設立された国策会社である。
電 力会社だけでは自力で電源開発できないので、政府がそれを 補うために国策会社を作り、その電力を電力会社に供給する というものであった。
 ところが国有企業の民営化(正しくは私有化)の流れに乗 って政府は一九九七年にこれを民営化するという方針を打ち 出し、二〇〇四年には完全民営化され、名前もJパワーとな って株式を東京証券取引所に上場した。
 国有企業の私有化(プライバタイゼーション)は一九八〇 年代にイギリスのサッチャー政権が始めて以来、いわゆる新 自由主義の旗印の下に世界的に流行するようになり、日本で も中曽根内閣によって国鉄や電電公社の民営化が行われ、そ れがやがて道路公団の民営化にまで拡がっている。
 国有企業を私有化=民営化するということは、国有企業を 株式会社にし、その株式を一般に公開するということである。
 株式会社は株主全員が有限責任であると同時に、その株式 は誰が買っても自由だし、売るのも自由だというのが原則で ある。
そしてそのために証券取引所があり、そこに上場する 株式は売買自由であり、譲渡制限のついた株式は上場できな いというのが原則になっている。
 だからJパワーもいったん株式を上場した以上、外国人だ からといってその株を買ってはいけないというのは、株式会 社の原則に反することである。
 もしそれが嫌ならばJパワーは株式会社にすべきでないし、 仮に株式会社にしたとしてもその株式を証券取引所に上場す べきではない。
 株式を公開しておきながら、特定の人、この場合は外国の 機関投資家が株を買ってはいけないというのは外資排除だと いわれても仕方がない。
それならば始めから株式を公開すべ きではなかったのである。
 小泉内閣以来の外資歓迎政策が見直しを迫られている。
いわゆる“はげたかフ ァンド” が外国人の取得に制限が設けられている株まで買い占めようとしているた めだ。
だが株式を上場する以上、その売買は自由であるのが原則なのである。
77  JULY 2008         小泉内閣の産物  戦後の日本は一方で資本自由化を行いながら、他方で外資 を排除してきた。
日本政府としては資本自由化を行ったのだ が、それに対して会社の方は株式の相互持合いを行って、株 式が買い占められないようにしてきた。
その結果、日本の大 企業は外国資本に乗っ取られることなく、安泰であった。
 ところが一九九〇年代になってバブルが崩壊するとともに ?持合い崩れ?が起こり、株式相互持合いが崩れてきた。
そ うなれば外国資本による日本企業の乗っ取りが起こってくる のは当然である。
 ところがちょうどそういう時に成立した小泉内閣は、外国 資本の対日投資を歓迎するという方針を打ち出した。
そして 二〇〇三年一月の施政方針演説で「外国資本による対日投資 残高を二〇〇八年までに倍増する」という方針を表明した。
 それは小泉内閣の「貯蓄から投資へ」という政策とからん でいるのだが、そうすることによって株価を高くしようとい うわけだ。
 小泉、竹中路線はこうして外資歓迎、というよりも外資の 利益優先の政策であったが、これは日本の証券会社の利益に もつながる。
このような政府の方針に乗ってアメリカやイギ リス系の投資ファンドが日本にやってきて、次つぎと株式を 買い占めているのである。
 ところが、これがとんでもないことになった。
それがJパ ワー問題であるが、その前にも日清食品やサッポロホールデ ィングス、江崎グリコなどの株式を買い占めたスティールパ ートナーズをはじめさまざまな投資ファンドが日本にやって きている。
 そこで福田内閣ではこれまでの小泉内閣の外資歓迎政策を 変えようとしており、それが今回のTCIのJパワー株取得 制限となったのである。
それは小泉内閣がもたらした結果で あり、その?付け?がいま福田内閣に回ってきているのだ。
       ファンドの狙いは何か?  ではいったいTCIは何を目的にしてJパワーの株式を 取得したのであろうか。
日本の外為法が電気、ガス、通信、 放送などの業種の株式について一〇%という取得制限をして おり、それ以上取得する場合には政府の許可が必要だという ことを知らないでJパワーの株式を買ったのだろうか。
 もしそうだとしたらTCIは全く無知だったということに なるが、そんなことは現実的にはありえない。
制限があるこ とを知りつつ株を買ったのだと考えるしかない。
では何のた めに株を買ったのか?  TCIのような投資ファンドは、投資信託や年金基金のよ うな機関投資家ではない。
それは特定の金持ちや機関投資家 の資金を集め、それを元にして借入金をすることで、いわゆ るテコの原理をはたらかせて株式を買い、値上がりしたとこ ろで売り逃げることを目的にしている。
 これがいわゆるヘッジファンドであり、それがさらに拡が ってプライベート・エクイティ・ファンドといわれるような ものが次つぎと生まれている。
TCIもそのひとつであるが、 それは長期的投資が目的ではなく、短期の値上がり益を目的 にしている。
 そればかりか、なかには上場会社の株式を買い占めて、会 社を乗っ取り、それをバラバラに解体して売り飛ばして儲け るというのもある。
 アメリカでは一九八〇年代からこのようなファンドが次つ ぎと生まれて?はげたかファンド?と呼ばれており、日本に もこのような?はげたかファンド?が上陸してきている。
 いうなればこれらの投資ファンドは株式会社を解体するこ とで利益をあげようとしているのだが、TCIもこのような ファンドのひとつと考えられる。
 そうだとすれば、このような外資を排除しようとする動き が起こってくるのも当然だ。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社はどこへ行く』 (NTT 出版)。

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