2008年7月号
特集
特集
もう派遣には頼れない 落日の人材派遣ベンチャー
落日の人材派遣ベンチャー
フリーターを組織化して、ジャスト・イン・タイムで現場
に労働力を送り込む、日雇い派遣ベンチャーのビジネスモデ
ルにノーが突き付けられた。
これを受けて偽装請負問題か ら、いったんは派遣業にシフトした物流人材ビジネスが、再 び業務請負に急旋回しようとしている。
(大矢昌浩、柴山高宏) 派遣から請負にシフト 人材派遣市場は二〇〇六年度現在、約五兆四〇〇 〇億円の規模がある。
前年度比三四%増。
軽作業系 の派遣事業が解禁になった九九年以降の七年間で市 場規模は三・七倍に成長した。
とくに〇四年度以降 は毎年一兆円ペースで拡大している。
「この伸び方は 異常。
市場の成長だけでは説明がつかない」と野村 證券の大原一真企業調査部エマージング企業調査室 シニアアナリストはいう。
〇六年夏、朝日新聞は偽装請負問題で一大キャンペ ーンを張った。
キヤノンやトヨタ、松下など一流メー カーの工場に勤務する作業会社の社員を、メーカーの 社員が直接指導している現状を糾弾したものだ。
業 務請負契約は発注元が労働法の適用を受けない。
使 用者責任を逃れることができる。
そのため製造現場 では従来から業務請負を装った事実上の人材派遣が 広く浸透していた。
それが社会的に問題視されたことから、〇六年後 半にメーカー各社はいっせいに請負から派遣への切り 替えを進めた。
業務請負会社は派遣会社への業態転 換を余儀なくされた。
これによって〇四年に解禁さ れたばかりの製造派遣市場が一気に拡大した。
その 最大手が日研総業、二位が日総工産、三位がクリス タルを買収したグッドウィル・グループだ。
そして〇七年夏、今度は二重派遣問題が朝日新聞 の一面トップを飾った。
佐川グローバルロジスティク スがグッドウィルから派遣された労働者を別の企業に 送り込んでいたというものだ。
これと並行してNH Kの報道特番をきっかけに日雇い派遣のワーキングプ ア問題が注目を集めるようになり、派遣会社に対す る世間の批判が急速に高まった。
今年五月二八日、日本人材派遣協会は製造・物流 業など軽作業への日雇い派遣を原則禁止する自主ル ールを発表した。
法律上も今秋には原則禁止される 見通しだ。
軽作業系の派遣会社は再び業務請負に戻 ることになる。
ただし、偽装請負はもう許されない。
アデコ 無料のコンプライアンス講習会 アデコグループはスイスに本社を置く世界最大の人 材派遣会社だ。
〇七年度の売上高は二一一億ユーロ (約三兆三五三五億円)。
うち日本法人のアデコは二 二三二億円を売り上げでいる。
従来、日本では事務 系派遣が中心だったが〇五年にオンデマンドジョブサ ービス部を設立して、製造・物流業向けにも本格進 出した。
既に欧米市場では製造・物流系の売上高が 全体の五五%を占めている。
しかし日本では派遣業 種規制の影響でこれまではやりたくてもできなかっ た。
それが解禁されたことで、〇四年にプロジェクト として立ち上げ、翌年事業部化した。
事業は加速度的に成長している。
参入当初、〇七 年度の売上高目標を一〇〇億円としていたが、実際 にはそれを大きく上回り約四〇〇億円と、日本の売 上高の二〇%を占めるに至っている。
業種別の売上 高は公表していないが、同部の売上高の五〇%以上 が製造・物流業向けとなっている。
ただし、当初は物流企業からはあまり受注できな かった。
コンプライアンスを重視するアデコでは社会 保険の加入を義務付けるなど、スタッフの労務管理 を徹底している。
その分が派遣料金に上乗せされる ため、物流企業とコスト面での折り合いがつかなかっ た。
派遣期間もネックになった。
物流企業のニーズは 日雇い派遣が中心。
しかし、日雇い派遣はやらない 方針をとっている。
JULY 2008 22 第2 部 特集もう派遣には頼れない それでも、昨年から物流企業からの受注が徐々に 伸びだした。
オンデマンドジョブサービス部の三橋茂 雄首都圏ブロック長は「グッドウィル、フルキャスト の事業停止の影響もあるとは思うが、コストが高く なってもコンプライアンスを重視している派遣会社を 使ったほうがメリットになると物流会社も判断するよ うになったのだろう」という。
〇七年八月から、製造・物流業向けにコンプライア ンス講習会サービスも開始している。
営業支援本部ア ウトソーシング運営部品質管理課の藤牧法義課長は「 派遣法に長けている物流会社はほとんどない。
派遣 の正しい活用法を知らずに、人を入れることだけに固 執した結果、賃金未払いや社会保険未加入、突然の 解雇通告といった違法行為が横行した」と指摘する。
講習会は無料。
有料のオプションとして、「帳票チ ェック」や「請負コンサルティング」といったサービス も用意している。
なかでも請負コンサルティングは、 昨年から今年にかけて製造業からの依頼が多い。
派 遣契約から請負契約への切り換えのため、アウトソ ーシング部のコンサルタントが現場に実際に行って内 部を視察する。
一週間程度かけ検証すれば、請負契 約が可能か否かの判断がつくという。
帳票チェックに対するニーズも多い。
顧客が契約し ている派遣会社の労働者派遣契約書などの帳票関連 のチェックを行う。
派遣労働者が働いた場所や業務を 記載する管理台帳と雇用契約書がリンクしないケース などがボロボロ出てくるという。
登記もせず、事務 所もなく、社長一人で携帯電話を使って派遣労働者 を手配している派遣会社で、契約書も、給与明細も ないケースまで実際にあった。
このような杜撰な契約は製造派遣よりも、物流業 に多くみられるという。
「物流会社に派遣法をきちん と理解してもらい、派遣業界全体の適正化につなげ たい。
物流向け派遣市場は、今後コンプライアンス 重視の流れになることはまちがいない。
コンプライア ンスなくして取引なし。
派遣労働者を守るのは派遣 会社の責務だ」と藤牧課長は強調する。
高木工業 顧客の労務管理を代行 製造派遣大手の高木工業は一九二九年に重量工事 の請負から出発した業界の老舗だ。
〇七年九月期の 売上高は約四三八億円。
うち八割が派遣、一割が業 務請負、一割弱が運送業という構成だ。
現在全国に 九〇〇〇人〜一万人の契約社員を抱えている。
その 中心年齢は三四〜三五歳と、フリーター層よりも高 い。
有期雇用だが契約期間は少なくとも二〜三カ月 以上。
働き方は常用に近い。
そのビジネスモデルは従来からほとんど変わってい ない。
しかし、社会的な位置づけは労働法の改正に 振り回されるかたちで二転三転している。
「もともと 当社は自分たちを業務請負会社だと考えてきた。
そ れが現在は派遣が大部分を占めるようになった。
?疑 わしきは派遣?として扱うよう指導を受けたからだ が、今度は元の業務請負に戻ることになる。
それで 落ち着くとも考えていない」と同社の前野恭徳執行 役員総務・企画部門管掌兼企画部長はいう。
日雇い派遣の禁止や「二〇〇九年問題」の影響を 世間や行政が本当に理解しているとは思えない。
顧 客自身、まだ大丈夫だと高をくくっているフシがある。
現場とは認識が違う。
このままいけば、〇九年には 製造ラインがストップする可能性を否定できない。
物 流も甚大な影響を受けることになる。
しかし、そこ まで行かないと世間は実態に気付かない。
求人難も深刻さを増している。
仕事はいくらでも 23 JULY 2008 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 (単位:億円) 95 年 96 年 97 年 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 ※1 グッドウィルは6月、フルキャストは9月決算 ※2 グッドウィルは08年6月期の単体業績予想を発表していない グッドウィルとフルキャスト(単体)の業績推移 JASDAC 上場 JASDAC 上場 東証二部 上場 東証一部 上場 グッドウィルグループが クリスタル買収 グッドウィル フルキャスト 8〜10月 業務停止命令 1〜5月業務停止命令 減収が予想される ある。
ところが、いくら募集広告を打っても人が集 まらない。
そこで採用戦略を転換した。
「これからは 口コミで増やしていく。
まずは既存スタッフの満足度 を高めて定着率を上げる。
その方たちの口コミで当 社の良い評判が拡がっていくようにしたい。
そのた め新たに報奨金制度を設けたりするなど、費用の使 い方を変えてきている」と前野執行役員。
二〇〇九年問題では、せっかく集めた人材が派遣 先の直接雇用に大量に切り替わってしまう可能性が高 い。
これに対しては、直用の期間工に移行したスタッ フの労務管理を代行することで対応する。
採用から 面接、給与計算、寮から勤務地までの送迎などの業 務を、他の派遣会社から切り替わった分まで含めて取 り込む。
近い将来には「請負型派遣」のような、現 在の業務請負と派遣の中間的な業態も出てくると予測 している。
それを先取りしようという発想だ。
テイケイワークス 正社員への登用も 警備業を行うテイケイ(旧帝国警備保障)を親会 社とする人材派遣会社のテイケイワークスでは売上高 一三〇億円のうち、物流業向けが実に九割を占めて いる。
契約形態は派遣から請負への切り替えを進め ている。
昨年から開始して現在、全体の二割が請負 契約にシフトした。
「物流業者にも抵触日問題を危惧 するところが増えてきた。
請負契約に対する引き合 いは多い」と、小島利行営業開発チーム課長はいう。
派遣から請負契約に変更した現場には、同社の社 員を監督者として現場に常駐させる。
大きな現場には 複数の監督者を配置して作業指示を行う。
これによ って指揮命令系統があいまいになることを防ぐ。
物 流業者も請負契約に切り換えることで、現場スタッ フの管理に携わらなくて済むようになる。
「今までは JULY 2008 24 グッドウィル・グループ(GWG)は今年第3四 半期の連結売上高を四六五四億円と発表した。
〇 六年十一月にクリスタルを買収したため、連結で は大幅な増収となっているが、グッドウィル単体 の売上高は減少しているものと見られる。
単体売 上高の数字は公表されていないが、七四五億円程 度と推定している。
そんな中、今年五月にGWGがグッドウィルを 売却するといった報道がなされた。
同社は売却方 針を固めた事実はないと否定しているが、GWG がグッドウィルを手放すとすれば、財務上の問題 よりも、?日雇い派遣の原則禁止で事業が制限さ れること、?業務停止命令や職業安定法違反ほう 助の疑いでグッドウィルおよび従業員三名が書類 送検されるなどイメージが悪化し、建て直しが厳 しいといった理由が大きいと考えられる。
GWGは新中期経営計画で、製造・技術者向け 派遣に特化していく方針を打ち出した。
今年第3 四半期の技術系派遣の売上高は一六二九億円と推 定され、グループ全体の売上高の三五%を占める。
これはフジオーネ・テクノ・ソリューションズやク リスタルなど技術系派遣会社の買収が影響してい る。
一方、製造業派遣・請負は六九八億円と推 定される。
両事業を中心に建て直しを図るという。
日雇いから手を引く以上、それしかないだろう。
再建には財務面もカギになる。
M&Aを積極的 に行ってきた結果、有利子負債は二〇二六億円に 膨らみ財務状況は悪化していた。
しかし米ファン ドのサーベラスと米証券モルガン・スタンレー連合 が第三者割当増資と優先株発行を引き受けたこと で、約二〇〇億の資金調達が可能になった。
新中 期経営計画に進むための前提条件はクリアした。
フルキャスト も厳しい状況に 置かれている。
単体の売上高は 〇六年九月期の 四五一億円から、 昨期は四四四億 円と減少。
今期 は業績を下方修 正し、三三四億円を見込んでいる。
昨年八月の業務停止命令を受け、コンプライア ンス専門部署を設けた。
コンプライアンスを維持で きない仕事は引き受けないという方針を出したが、 客足は戻っていない。
今年一〜五月のグッドウィ ルの事業停止に伴い、恩恵を受けるかと思ったが それもなかった。
コンプライアンスにいったん傷が 付くと、顧客も使いたがらないのだろう。
派遣期間を長期化してスポット事業からの脱却 を進めてきたが、それでも同事業の売上高は全体 の四割以上。
今後は、GWG同様に技術者派遣を 行うテクノロジー事業に注力していくとみられる。
人材派遣市場規模は〇六年度で前期比三四% 増の五兆四一八九億円と、急速に拡大してきた。
これは〇六年に朝日新聞が偽装請負を糾弾したこ とで、各社一斉に請負から派遣契約に切り換えた ことも影響している。
今後は派遣から請負契約へ の切り替え増加が予想され、市場規模は縮小する とみられる。
請負契約化は、物流業より製造業で顕著だ。
し かし、請負契約のかたちにもっていくのは大手派 遣会社でも難しい。
物流など軽作業中心の中小派 遣会社は、窮地に立たされている。
(談) 「人材派遣市場の規模は縮小へ」 野村證券 大原一真 企業調査部エマージング企業調査室 シニアアナリスト 特集もう派遣には頼れない 物量の波動に対し物流業者が今日は何人、明日は何 人と、自分で調整していた。
派遣会社A社だけで人 が集まらなければ、B、C、D社と声をかけ探さな ければならない。
ここから解放されるのは、非常に 大きなメリットになるはず」と小島課長。
これまで同社の派遣スタッフは、ほとんどが日雇 い契約だった。
請負契約に切り換えることで雇用が 長期間安定し、待遇改善にもつながる。
スキルも磨 ける。
今後は優秀なスタッフを正社員に積極的に登用 していく予定だ。
アイライン 製造現場のノウハウを物流に移植 アイラインの〇七年三月期の売上高は三八二億円 で、うち製造業派遣を行うファクトリー事業が七〇% を占める。
物流業の売上高は、年間五億程度。
メー カーの製造ラインから派生するかたちでの物流業務 受託が多い。
常に一定の物量があるため、物流系の 仕事でも長期派遣契約を結ぶことができる。
〇九年度の事業戦略で派遣から請負契約の切り替 えを進めている。
製造業を中心に、現在二〇%の請 負比率を四〇%に高めることを目指している。
物流 業でもコンプライアンス上可能ならば請負契約に変更 するが、ほとんど例がないという。
「物流業務は短期 的な波動があり、そこを吸収するためには大量のス タッフが必要になる。
複数の派遣会社のスタッフが混 在しているため、請負契約は難しい」と三谷候執行役 員宇都宮テクノセンターセンター長はいう。
「製造業派遣における〇九年問題は我々が生まれ変 わるための新たなハードルだと思っている。
今後はも のづくりの現場で培った効率的な考え方を、ピッキン グエリアの配置や作業フローの改善など、物流業務に も移植していきたい」と三谷執行役員は強調する。
25 JULY 2008 ヤマト運輸グループを中心に、物流企業や大手 家電メーカー、アパレルメーカーの倉庫などに人材 派遣を行っている。
売上高は〇八年三月期時点で 八〇億円。
人材派遣事業と安全教育事業を行って いる。
人材派遣事業の売上高が九〇%以上を占め、 さらに同事業の売上高の九〇%はグループ向けと なっている。
スタッフは今年三月末時点で約五三〇〇名在籍 しているが、そのうち七〇%はヤマトグループの 定年退職者とパート経験者だ。
平均年齢は五八歳 で、六〇代が七〇%以上を占める。
いわゆる“シ ルバー派遣”だ。
定年はなく、最高齢のスタッフ はなんと八〇歳。
生活のためというより健康維持 のために、午前中二時間だけ働いているという。
設立は〇二年一月。
目的は定年退職者の再雇用 のみならず、ヤマトOBの持つ技術やノウハウを 若い人たちに伝承していくことにある。
スタッフ はヤマトの現場を熟知しており、物流業務を経験 しているので即戦力になる。
フォークリフト、大 型免許、運行管理者、衛生管理者、自動車整備士 などの有資格者もいる。
ヤマトOBに対する引き 合いは、外部の顧客からも多い。
派遣期間は最低 二カ月で、長い人で一年の契約を結んでいる。
同社の福田岳志事業戦略室長は「営業で外回り をしている時に『日替わりで人を連れてくるな! 毎日教育するのは大変なんだぞ。
教育だけで毎 朝二時間かかり、おかげで午前中は仕事にならな い』と、いわれたことがある。
やはり日雇いで毎 日違う現場に回ってもらうよりも、勤務地を固定 して長期間勤務してもらった方が、派遣先、スタッ フ双方の利益になる」という。
仕事はヤマトの拠点内作業がメーンだが、トラッ クドライバー 派遣も行って いる。
その際、 労働時間が一 日八時間のフ ルタイムでは ハードなので、 四〜五時間程 度に短縮して いる。
本人の健康状態と高齢であることに配慮し ている。
現状では請負はニーズがないため行っていない。
顧客から問い合わせがあり、請負契約が可能と判 断すれば派遣契約から変更する可能性もあるとい う。
「大手人材派遣会社の相次ぐ事業停止や、派 遣社員絡みの事件で人材派遣業界全体にマイナス イメージがついてしまった。
しかし当社の派遣労 働者に対する需要や減ることもなければ、人が集 まらないといったことにも無縁だ」と福田室長。
安全教育事業では、運転適性診断や資格試験対 策講座を行っている。
運転適性診断は国土交通省 によりトラックドライバーに義務づけられており、 民間企業は唯一ヤマト運輸だけが実施してきた。
〇 四年にそれを受け継ぐかたちで開始した。
運行管 理者や衛生管理者の試験対策講座も開講している。
福田室長は「外販比率の具体的な数値目標は出 していないが、今後はグループ外にも展開してい きたい。
その際も単なる供給では面白くないので、 スキルを持ったOBを派遣することで、戦力とし て当社のスタッフを使ってもらいたい。
コンプライ アンス強化は当社にとってはむしろ追い風になる」 と期待している。
セールスドライバーOBをシルバー派遣 ヤマト・スタッフ・サプライ 福田岳志事業戦略室長
これを受けて偽装請負問題か ら、いったんは派遣業にシフトした物流人材ビジネスが、再 び業務請負に急旋回しようとしている。
(大矢昌浩、柴山高宏) 派遣から請負にシフト 人材派遣市場は二〇〇六年度現在、約五兆四〇〇 〇億円の規模がある。
前年度比三四%増。
軽作業系 の派遣事業が解禁になった九九年以降の七年間で市 場規模は三・七倍に成長した。
とくに〇四年度以降 は毎年一兆円ペースで拡大している。
「この伸び方は 異常。
市場の成長だけでは説明がつかない」と野村 證券の大原一真企業調査部エマージング企業調査室 シニアアナリストはいう。
〇六年夏、朝日新聞は偽装請負問題で一大キャンペ ーンを張った。
キヤノンやトヨタ、松下など一流メー カーの工場に勤務する作業会社の社員を、メーカーの 社員が直接指導している現状を糾弾したものだ。
業 務請負契約は発注元が労働法の適用を受けない。
使 用者責任を逃れることができる。
そのため製造現場 では従来から業務請負を装った事実上の人材派遣が 広く浸透していた。
それが社会的に問題視されたことから、〇六年後 半にメーカー各社はいっせいに請負から派遣への切り 替えを進めた。
業務請負会社は派遣会社への業態転 換を余儀なくされた。
これによって〇四年に解禁さ れたばかりの製造派遣市場が一気に拡大した。
その 最大手が日研総業、二位が日総工産、三位がクリス タルを買収したグッドウィル・グループだ。
そして〇七年夏、今度は二重派遣問題が朝日新聞 の一面トップを飾った。
佐川グローバルロジスティク スがグッドウィルから派遣された労働者を別の企業に 送り込んでいたというものだ。
これと並行してNH Kの報道特番をきっかけに日雇い派遣のワーキングプ ア問題が注目を集めるようになり、派遣会社に対す る世間の批判が急速に高まった。
今年五月二八日、日本人材派遣協会は製造・物流 業など軽作業への日雇い派遣を原則禁止する自主ル ールを発表した。
法律上も今秋には原則禁止される 見通しだ。
軽作業系の派遣会社は再び業務請負に戻 ることになる。
ただし、偽装請負はもう許されない。
アデコ 無料のコンプライアンス講習会 アデコグループはスイスに本社を置く世界最大の人 材派遣会社だ。
〇七年度の売上高は二一一億ユーロ (約三兆三五三五億円)。
うち日本法人のアデコは二 二三二億円を売り上げでいる。
従来、日本では事務 系派遣が中心だったが〇五年にオンデマンドジョブサ ービス部を設立して、製造・物流業向けにも本格進 出した。
既に欧米市場では製造・物流系の売上高が 全体の五五%を占めている。
しかし日本では派遣業 種規制の影響でこれまではやりたくてもできなかっ た。
それが解禁されたことで、〇四年にプロジェクト として立ち上げ、翌年事業部化した。
事業は加速度的に成長している。
参入当初、〇七 年度の売上高目標を一〇〇億円としていたが、実際 にはそれを大きく上回り約四〇〇億円と、日本の売 上高の二〇%を占めるに至っている。
業種別の売上 高は公表していないが、同部の売上高の五〇%以上 が製造・物流業向けとなっている。
ただし、当初は物流企業からはあまり受注できな かった。
コンプライアンスを重視するアデコでは社会 保険の加入を義務付けるなど、スタッフの労務管理 を徹底している。
その分が派遣料金に上乗せされる ため、物流企業とコスト面での折り合いがつかなかっ た。
派遣期間もネックになった。
物流企業のニーズは 日雇い派遣が中心。
しかし、日雇い派遣はやらない 方針をとっている。
JULY 2008 22 第2 部 特集もう派遣には頼れない それでも、昨年から物流企業からの受注が徐々に 伸びだした。
オンデマンドジョブサービス部の三橋茂 雄首都圏ブロック長は「グッドウィル、フルキャスト の事業停止の影響もあるとは思うが、コストが高く なってもコンプライアンスを重視している派遣会社を 使ったほうがメリットになると物流会社も判断するよ うになったのだろう」という。
〇七年八月から、製造・物流業向けにコンプライア ンス講習会サービスも開始している。
営業支援本部ア ウトソーシング運営部品質管理課の藤牧法義課長は「 派遣法に長けている物流会社はほとんどない。
派遣 の正しい活用法を知らずに、人を入れることだけに固 執した結果、賃金未払いや社会保険未加入、突然の 解雇通告といった違法行為が横行した」と指摘する。
講習会は無料。
有料のオプションとして、「帳票チ ェック」や「請負コンサルティング」といったサービス も用意している。
なかでも請負コンサルティングは、 昨年から今年にかけて製造業からの依頼が多い。
派 遣契約から請負契約への切り換えのため、アウトソ ーシング部のコンサルタントが現場に実際に行って内 部を視察する。
一週間程度かけ検証すれば、請負契 約が可能か否かの判断がつくという。
帳票チェックに対するニーズも多い。
顧客が契約し ている派遣会社の労働者派遣契約書などの帳票関連 のチェックを行う。
派遣労働者が働いた場所や業務を 記載する管理台帳と雇用契約書がリンクしないケース などがボロボロ出てくるという。
登記もせず、事務 所もなく、社長一人で携帯電話を使って派遣労働者 を手配している派遣会社で、契約書も、給与明細も ないケースまで実際にあった。
このような杜撰な契約は製造派遣よりも、物流業 に多くみられるという。
「物流会社に派遣法をきちん と理解してもらい、派遣業界全体の適正化につなげ たい。
物流向け派遣市場は、今後コンプライアンス 重視の流れになることはまちがいない。
コンプライア ンスなくして取引なし。
派遣労働者を守るのは派遣 会社の責務だ」と藤牧課長は強調する。
高木工業 顧客の労務管理を代行 製造派遣大手の高木工業は一九二九年に重量工事 の請負から出発した業界の老舗だ。
〇七年九月期の 売上高は約四三八億円。
うち八割が派遣、一割が業 務請負、一割弱が運送業という構成だ。
現在全国に 九〇〇〇人〜一万人の契約社員を抱えている。
その 中心年齢は三四〜三五歳と、フリーター層よりも高 い。
有期雇用だが契約期間は少なくとも二〜三カ月 以上。
働き方は常用に近い。
そのビジネスモデルは従来からほとんど変わってい ない。
しかし、社会的な位置づけは労働法の改正に 振り回されるかたちで二転三転している。
「もともと 当社は自分たちを業務請負会社だと考えてきた。
そ れが現在は派遣が大部分を占めるようになった。
?疑 わしきは派遣?として扱うよう指導を受けたからだ が、今度は元の業務請負に戻ることになる。
それで 落ち着くとも考えていない」と同社の前野恭徳執行 役員総務・企画部門管掌兼企画部長はいう。
日雇い派遣の禁止や「二〇〇九年問題」の影響を 世間や行政が本当に理解しているとは思えない。
顧 客自身、まだ大丈夫だと高をくくっているフシがある。
現場とは認識が違う。
このままいけば、〇九年には 製造ラインがストップする可能性を否定できない。
物 流も甚大な影響を受けることになる。
しかし、そこ まで行かないと世間は実態に気付かない。
求人難も深刻さを増している。
仕事はいくらでも 23 JULY 2008 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 (単位:億円) 95 年 96 年 97 年 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 ※1 グッドウィルは6月、フルキャストは9月決算 ※2 グッドウィルは08年6月期の単体業績予想を発表していない グッドウィルとフルキャスト(単体)の業績推移 JASDAC 上場 JASDAC 上場 東証二部 上場 東証一部 上場 グッドウィルグループが クリスタル買収 グッドウィル フルキャスト 8〜10月 業務停止命令 1〜5月業務停止命令 減収が予想される ある。
ところが、いくら募集広告を打っても人が集 まらない。
そこで採用戦略を転換した。
「これからは 口コミで増やしていく。
まずは既存スタッフの満足度 を高めて定着率を上げる。
その方たちの口コミで当 社の良い評判が拡がっていくようにしたい。
そのた め新たに報奨金制度を設けたりするなど、費用の使 い方を変えてきている」と前野執行役員。
二〇〇九年問題では、せっかく集めた人材が派遣 先の直接雇用に大量に切り替わってしまう可能性が高 い。
これに対しては、直用の期間工に移行したスタッ フの労務管理を代行することで対応する。
採用から 面接、給与計算、寮から勤務地までの送迎などの業 務を、他の派遣会社から切り替わった分まで含めて取 り込む。
近い将来には「請負型派遣」のような、現 在の業務請負と派遣の中間的な業態も出てくると予測 している。
それを先取りしようという発想だ。
テイケイワークス 正社員への登用も 警備業を行うテイケイ(旧帝国警備保障)を親会 社とする人材派遣会社のテイケイワークスでは売上高 一三〇億円のうち、物流業向けが実に九割を占めて いる。
契約形態は派遣から請負への切り替えを進め ている。
昨年から開始して現在、全体の二割が請負 契約にシフトした。
「物流業者にも抵触日問題を危惧 するところが増えてきた。
請負契約に対する引き合 いは多い」と、小島利行営業開発チーム課長はいう。
派遣から請負契約に変更した現場には、同社の社 員を監督者として現場に常駐させる。
大きな現場には 複数の監督者を配置して作業指示を行う。
これによ って指揮命令系統があいまいになることを防ぐ。
物 流業者も請負契約に切り換えることで、現場スタッ フの管理に携わらなくて済むようになる。
「今までは JULY 2008 24 グッドウィル・グループ(GWG)は今年第3四 半期の連結売上高を四六五四億円と発表した。
〇 六年十一月にクリスタルを買収したため、連結で は大幅な増収となっているが、グッドウィル単体 の売上高は減少しているものと見られる。
単体売 上高の数字は公表されていないが、七四五億円程 度と推定している。
そんな中、今年五月にGWGがグッドウィルを 売却するといった報道がなされた。
同社は売却方 針を固めた事実はないと否定しているが、GWG がグッドウィルを手放すとすれば、財務上の問題 よりも、?日雇い派遣の原則禁止で事業が制限さ れること、?業務停止命令や職業安定法違反ほう 助の疑いでグッドウィルおよび従業員三名が書類 送検されるなどイメージが悪化し、建て直しが厳 しいといった理由が大きいと考えられる。
GWGは新中期経営計画で、製造・技術者向け 派遣に特化していく方針を打ち出した。
今年第3 四半期の技術系派遣の売上高は一六二九億円と推 定され、グループ全体の売上高の三五%を占める。
これはフジオーネ・テクノ・ソリューションズやク リスタルなど技術系派遣会社の買収が影響してい る。
一方、製造業派遣・請負は六九八億円と推 定される。
両事業を中心に建て直しを図るという。
日雇いから手を引く以上、それしかないだろう。
再建には財務面もカギになる。
M&Aを積極的 に行ってきた結果、有利子負債は二〇二六億円に 膨らみ財務状況は悪化していた。
しかし米ファン ドのサーベラスと米証券モルガン・スタンレー連合 が第三者割当増資と優先株発行を引き受けたこと で、約二〇〇億の資金調達が可能になった。
新中 期経営計画に進むための前提条件はクリアした。
フルキャスト も厳しい状況に 置かれている。
単体の売上高は 〇六年九月期の 四五一億円から、 昨期は四四四億 円と減少。
今期 は業績を下方修 正し、三三四億円を見込んでいる。
昨年八月の業務停止命令を受け、コンプライア ンス専門部署を設けた。
コンプライアンスを維持で きない仕事は引き受けないという方針を出したが、 客足は戻っていない。
今年一〜五月のグッドウィ ルの事業停止に伴い、恩恵を受けるかと思ったが それもなかった。
コンプライアンスにいったん傷が 付くと、顧客も使いたがらないのだろう。
派遣期間を長期化してスポット事業からの脱却 を進めてきたが、それでも同事業の売上高は全体 の四割以上。
今後は、GWG同様に技術者派遣を 行うテクノロジー事業に注力していくとみられる。
人材派遣市場規模は〇六年度で前期比三四% 増の五兆四一八九億円と、急速に拡大してきた。
これは〇六年に朝日新聞が偽装請負を糾弾したこ とで、各社一斉に請負から派遣契約に切り換えた ことも影響している。
今後は派遣から請負契約へ の切り替え増加が予想され、市場規模は縮小する とみられる。
請負契約化は、物流業より製造業で顕著だ。
し かし、請負契約のかたちにもっていくのは大手派 遣会社でも難しい。
物流など軽作業中心の中小派 遣会社は、窮地に立たされている。
(談) 「人材派遣市場の規模は縮小へ」 野村證券 大原一真 企業調査部エマージング企業調査室 シニアアナリスト 特集もう派遣には頼れない 物量の波動に対し物流業者が今日は何人、明日は何 人と、自分で調整していた。
派遣会社A社だけで人 が集まらなければ、B、C、D社と声をかけ探さな ければならない。
ここから解放されるのは、非常に 大きなメリットになるはず」と小島課長。
これまで同社の派遣スタッフは、ほとんどが日雇 い契約だった。
請負契約に切り換えることで雇用が 長期間安定し、待遇改善にもつながる。
スキルも磨 ける。
今後は優秀なスタッフを正社員に積極的に登用 していく予定だ。
アイライン 製造現場のノウハウを物流に移植 アイラインの〇七年三月期の売上高は三八二億円 で、うち製造業派遣を行うファクトリー事業が七〇% を占める。
物流業の売上高は、年間五億程度。
メー カーの製造ラインから派生するかたちでの物流業務 受託が多い。
常に一定の物量があるため、物流系の 仕事でも長期派遣契約を結ぶことができる。
〇九年度の事業戦略で派遣から請負契約の切り替 えを進めている。
製造業を中心に、現在二〇%の請 負比率を四〇%に高めることを目指している。
物流 業でもコンプライアンス上可能ならば請負契約に変更 するが、ほとんど例がないという。
「物流業務は短期 的な波動があり、そこを吸収するためには大量のス タッフが必要になる。
複数の派遣会社のスタッフが混 在しているため、請負契約は難しい」と三谷候執行役 員宇都宮テクノセンターセンター長はいう。
「製造業派遣における〇九年問題は我々が生まれ変 わるための新たなハードルだと思っている。
今後はも のづくりの現場で培った効率的な考え方を、ピッキン グエリアの配置や作業フローの改善など、物流業務に も移植していきたい」と三谷執行役員は強調する。
25 JULY 2008 ヤマト運輸グループを中心に、物流企業や大手 家電メーカー、アパレルメーカーの倉庫などに人材 派遣を行っている。
売上高は〇八年三月期時点で 八〇億円。
人材派遣事業と安全教育事業を行って いる。
人材派遣事業の売上高が九〇%以上を占め、 さらに同事業の売上高の九〇%はグループ向けと なっている。
スタッフは今年三月末時点で約五三〇〇名在籍 しているが、そのうち七〇%はヤマトグループの 定年退職者とパート経験者だ。
平均年齢は五八歳 で、六〇代が七〇%以上を占める。
いわゆる“シ ルバー派遣”だ。
定年はなく、最高齢のスタッフ はなんと八〇歳。
生活のためというより健康維持 のために、午前中二時間だけ働いているという。
設立は〇二年一月。
目的は定年退職者の再雇用 のみならず、ヤマトOBの持つ技術やノウハウを 若い人たちに伝承していくことにある。
スタッフ はヤマトの現場を熟知しており、物流業務を経験 しているので即戦力になる。
フォークリフト、大 型免許、運行管理者、衛生管理者、自動車整備士 などの有資格者もいる。
ヤマトOBに対する引き 合いは、外部の顧客からも多い。
派遣期間は最低 二カ月で、長い人で一年の契約を結んでいる。
同社の福田岳志事業戦略室長は「営業で外回り をしている時に『日替わりで人を連れてくるな! 毎日教育するのは大変なんだぞ。
教育だけで毎 朝二時間かかり、おかげで午前中は仕事にならな い』と、いわれたことがある。
やはり日雇いで毎 日違う現場に回ってもらうよりも、勤務地を固定 して長期間勤務してもらった方が、派遣先、スタッ フ双方の利益になる」という。
仕事はヤマトの拠点内作業がメーンだが、トラッ クドライバー 派遣も行って いる。
その際、 労働時間が一 日八時間のフ ルタイムでは ハードなので、 四〜五時間程 度に短縮して いる。
本人の健康状態と高齢であることに配慮し ている。
現状では請負はニーズがないため行っていない。
顧客から問い合わせがあり、請負契約が可能と判 断すれば派遣契約から変更する可能性もあるとい う。
「大手人材派遣会社の相次ぐ事業停止や、派 遣社員絡みの事件で人材派遣業界全体にマイナス イメージがついてしまった。
しかし当社の派遣労 働者に対する需要や減ることもなければ、人が集 まらないといったことにも無縁だ」と福田室長。
安全教育事業では、運転適性診断や資格試験対 策講座を行っている。
運転適性診断は国土交通省 によりトラックドライバーに義務づけられており、 民間企業は唯一ヤマト運輸だけが実施してきた。
〇 四年にそれを受け継ぐかたちで開始した。
運行管 理者や衛生管理者の試験対策講座も開講している。
福田室長は「外販比率の具体的な数値目標は出 していないが、今後はグループ外にも展開してい きたい。
その際も単なる供給では面白くないので、 スキルを持ったOBを派遣することで、戦力とし て当社のスタッフを使ってもらいたい。
コンプライ アンス強化は当社にとってはむしろ追い風になる」 と期待している。
セールスドライバーOBをシルバー派遣 ヤマト・スタッフ・サプライ 福田岳志事業戦略室長
