ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年9号
ケース
組織改革 松下電器産業

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2008  46 組織改革 松下電器産業 本社にロジスティクス本部を設置 グローバル統合で在庫削減を加速 国内と国際の物流管理を統合  今年四月から松下電器産業でグローバルロ ジスティクス本部長を務める板崎康二役員は、 「グローバルロジスティクス本部ができたこと で、ロジスティクスが初めて松下の本社レベ ルのファンクションになった。
国内外の全拠 点が、何をやって、どういうKPIを改善し ていくかを計画し、われわれがとりまとめる。
これをPDCAサイクルで回していく体制が 整った」と、昨年七月に同本部が発足した意 義を説明する。
 従来の管理組織は、担当地域や機能ごとに バラバラに分かれていた。
国際物流を「海外 業務本部」が統括する一方で、国内物流につ いては「物流統括グループ」という一〇人に 満たないセクションが、物流子会社の松下ロ ジスティクスと一緒に担当していた。
他にも 社内にはグローバル調達部門や国際商事部門 などが林立し、自ら独自の物流管理をしてい る事業部門も少なくなかった。
 これらの管理を一元化するため、まず「海 外業務本部」と「物流統括グループ」を段階 的に集約してグローバルロジスティクス本部と した。
新設部門の責任者には、それまで「調 達本部」の本部長を務めていた山本亘苗役員 (現顧問)が就任。
調達とロジスティクスを同 じ役員の管轄下に置くことによって、サプラ イチェーンを一気通貫で効率化していく姿勢 を鮮明にした。
 狙いは在庫とコストの削減だ。
同社の連結 ベースの棚卸資産回転期間は一九九〇年代に はずっと一・六〜一・七カ月前後で推移して いた。
それが〇一年以降、中村邦夫社長(現 会長)が主導した?中村改革?によって急 速に圧縮され、一・二カ月分程度まで減った。
しかし、ここ数年は下げ止まった感がある。
 既に日本の大手電機メーカーの中では低い 在庫水準を達成している。
しかし、松下が目 指してきたレベルはこの程度でない。
中村改 革は「資産効率」と「キャッシュフロー」に徹 底的にこだわって改革に取り組んできた。
そ こで究極的なベンチマークの対象としたのは 同業のライバル企業ではなかった。
 九〇年代半ばから経営コンサルタントとし て松下の経営にかかわり、その後も中村改革 を支援しつづけたフランシス・マキナニーと いう人物が、〇七年に『松下ウェイ』(ダイヤ モンド社)という本を上梓している。
この本 には、一連の改革が、デルやウォルマートと いった現代のサプライチェーン強者と松下を比 較することからスタートした経緯が克明に記 昨年7月、本社にグローバルロジスティクス本部を 設置した。
松下が本社レベルで本格的なロジスティ クスの管理機能を持つのは事実上初めて。
地域別・ 機能別に分断されていたロジスティクスのグローバ ルな統合管理に乗り出した。
狙いは連結在庫の大幅 な削減だ。
松下電器産業でグローバルロ ジスティクス本部長と調達本 部長を兼務する板崎康二役員 47  SEPTEMBER 2008 されている。
 周知のように松下は、二一世紀に入ったと たんにドン底を見た。
ITバブルが崩壊した 影響から〇二年三月期に赤字転落することが 明らかになると、期中に大規模な雇用調整を 断行。
国内の主要グループ企業の従業員八万 人を対象に早期退職を募り、約一万三〇〇〇 人の人員削減を行った。
 このとき同社は、中村邦夫社長(現会長) の下で「破壊と創造」を旗印とする経営改革 に着手したばかりだった。
その出鼻をITバ ブル崩壊によってくじかれ、聖域とされてき た雇用にまで手をつけざるを得ない事態に追 い込まれた。
もっとも人員の過剰は、松下が 抱えていた問題の結果でしかない。
本当に対 処すべき原因は、サプライチェーンの陳腐化 にあった。
在庫にこだわりプロセス改革  かつての松下は「事業部制」による商品分 野ごとの縦割り管理と、業務内容や展開地域 による分業を徹底していた。
六〇年代に早く も海外生産を本格化すると、世界各地で発生 する調達・販売業務をこなす機能会社を相次 いで設立。
本社内にも国際商事部やグローバ ル調達部門などの機能部門を設置して、縦横 に極端に細分化されたサプライチェーンを構 築した。
 この事業インフラを使って、水道水のごと く安価で大量の製品を提供するという「水道 哲学」を実践したことが、過去には優位性に つながった。
しかし、八〇年代の半ば以降は、 こうした事業のあり方が時代の変化に対応し きれなくなり、利益率の低迷に悩まされるこ とになる。
そのことを誰よりも痛切に感じて いたのが中村氏だった。
 中村氏は事業部制の廃止をはじめとする大 胆な構造改革に着手する以前に、グループ最 大の事業部門であるAVC社のトップとして サプライチェーン改革を主導した経験を持って いる。
九八年十一月からAVC社内で展開し ているSCMプロジェクトがそれだ。
一般に SCMというと、ITを駆使した在庫削減の 取り組みを意味することが多い。
しかし、こ のプロジェクトは単なるIT改革ではなかっ た。
むしろ重点は、業務プロセスの再構築に 置かれていた。
 この活動から生み出された「ISPセンタ ー」(インベントリー・セールス・プロダクト の略)という部署名が「I」、つまり在庫か ら始まっているのは偶然ではない。
AVC社 でグローバル・オペレーションとグローバルI 松下のロジスティクスをめぐる過去10年のトピック 国内8 カ所に松下ロジスティクス・マネジメント(LM)を設立 し2 次物流(販社〜販売店)を統合 社内分社のAVC 社(当時のAVC 社の責任者は中村邦夫 氏〈現会長〉)で、全社に先行するかたちでSCMを本格化 中村氏が松下電器本体の社長に就任。
いわゆる“ 中村改革” をスタートし、国内の「家電流通改革」などに着手 IT 革新本部(本部長は中村氏)が発足。
「IT 革新プロジェクト」 で全社的にSCM 導入を本格化 松下物流が全国の松下LM と合併。
松下ロジスティクスとして 再出発 全社コストバスターズ活動を開始 大坪文雄氏が社長に就任。
「モノづくり立社」をキーワードに 新中計「GP3」をスタートし、積み残されていたロジスティクス 改革を本格化 「グローバルSCM 推進室」を「情報企画グループ」に統合し、 IT 面でのSCM 推進機能を一元化 国内外の物流管理を担当する部門を統合して「グローバルロ ジスティクス本部」が発足。
本部長は調達本部長を兼務 コストバスターズ活動の板崎康二リーダーが「グローバルロジス ティクス本部」の責任者に就任 97年 10月 98年〜 00年 6月 7月 01年 10月 03年 7月 06年 6月 07年 4月 7月 08年 4月 連結売上高と棚卸資産回転期間の推移(棚卸資産額は期首期末平均を利用) 92/3 93/3 1.75 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 1.20 90,689 95,000 90,000 85,000 80,000 75,000 70,000 65,000 60,000 55,000 50,000 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1.0 棚卸資産回転期間(カ月) 連結売上高(億円) (月期) SEPTEMBER 2008  48 SPの二つのセクションを担当していた経験 もある板崎役員は、その意味を次のように説 明する。
 「こうしたセクションは通常であればプロダ クトとセールスが先にきてPSIと呼ばれる ことが多い。
松下の社内でもそう言っている ところもある。
それをわれわれがISPと呼 んだのは、まず商品の在庫をみて、次にそれ を販売する地域や販売先などを考え、そのう えで必要なものを生産するというアプローチ を重視したからだ。
つまり、生産ありきでは 以外に聖域なし」と宣言して次々に見直して いった。
改善で二二〇〇億円のコスト削減  松下の業績がV字回復した背景に、現場レ ベルの地道な活動があったことも見逃すわけ にはいかない。
その代表的な取り組みが、〇 三年七月に発足した「コストバスターズ活動」 だ。
現場寄りの視点でムダの排除を積み上げ ることによって、三年間で二二〇〇億円もの コスト削減を達成している。
 金額の大きさからもうかがえるように、こ の活動は極めて大規模かつ全社横断的に行わ れた。
事業部を再編して生まれていた一四の 事業ドメインから、それぞれ代表者が参加。
本 社内の約一五人の専任担当者がプロジェクト を牽引し、全体では約八〇〇人からなる組織 が改善活動に取り組んだ。
 ムダを排除する主な切り口は三つ。
?集中・ 集約による効率化、?基準・ルールの合理化、 ??家計簿感覚?での支出の見直し、である。
 実はこのコストバスターズ活動をプロジェク トリーダーとして主導してきたのが、現在は グローバルロジスティクス本部の本部長を務め る板崎役員だった。
「物流に関するコスト削 減だけでも数百億円あった。
この経験が、集 中・集約を進めるというグローバルロジスティ クス本部の一つのアイデアにもなっている」  実際、有価証券報告書に載っている松下の 連結ベースの「運送保管料」の対売上高比率 ない」  それまで松下の生産計画は工場主導で作ら れていた。
それがAVC社のSCMプロジェ クトでは、ISPセンターが策定するように 改められた。
市場の変化に迅速に対応してい くために月次だった生産計画を週次に短縮し、 セル生産方式も導入した。
まさに業務プロセ スの変革であり、ITありきのSCMの取り 組みとは一線を画すものだった。
 二〇〇〇年以降の中村改革は、この取り組 みがベースとなっている。
もちろんITを軽 視したという意味ではない。
それどころか中 村氏は社長就任から一カ月も経たないうちに 「IT改革本部」を新設し、自ら本部長に就 任している。
そして、その後の三年間で松下 はITの刷新に一四〇〇億円もの巨費を投じ た。
このうちSCMに関連する投資だけでも 三五〇億円に上った。
 しかし、多様で複雑な松下グループ全体の サプライチェーンは、ITの整備だけで効率 化できるほど単純ではない。
SCMシステム やISPセンターを有効に機能させるために は、まず縦横に細分化された事業構造を抜本 的に再構築する必要があった。
 そのために事業部制の廃止や、グループ会 社の再編、国内における家電流通網の改革な どを断行した。
いずれも従来の松下にとって は、創業者・松下幸之助の経営理念を具現化 したものとしてメスを入れることを躊躇して いたものだ。
それを中村氏が「創業者の理念 連結ベースの「運送保管料比率」は急減している 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 100,000 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 2.2 2.1 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 売上高運送保管料比率(%) 連結売上高(億円)・運送保管料(千万円) 2.09 1.76 72,994 15,239 90,689 15,942 売上高(億円) 売上高運送保管料比率 運送保管料(千万円) (月期) 49  SEPTEMBER 2008 は最近、急減している。
〇四年三月期の運送 保管料は売上高七兆四七九七億円に対し一四 一六億円で一・八九%だった。
それが〇八年 三月期には売上高九兆六八九億円に対して一 五九四億円と、一・七六%に下がった。
約一 二〇億円が削減された計算だ。
 コストバスターズ活動は、過去の松下が苦 手としていた全社横断的な広がりをもってい た。
同様にグローバルロジスティクス本部にも シームレスな活動が求められる。
コストバスタ ーズ活動で成果を挙げた板崎役員をロジステ ィクスの責任者に据えたのは、分かりやすい 人事だったといえる。
さらなる在庫削減への課題  中村改革の後を受けて〇六年六月に就任 した大坪文雄社長は現在、「モノづくり立社」 というキーワードを標榜している。
ここで言 う「モノづくり」とは「開発からマーケティ ング・サービスまでの一貫したプロセス」を 指す。
このプロセス全体を横断的に効率化し ていく機能として、いま松下の社内ではロジ スティクスに大きな期待が寄せられているの だという。
 具体的に求められている成果は、下げ止 まっている在庫をもう一段、削減することだ。
グローバルロジスティクス本部の初代本部長 を務めた山本氏は、「〇四年比で連結在庫を 半減させる」という長期目標を公言していた。
これまでの経緯や競合企業の在庫水準を考え れば、極めて高いレベルの目標だ。
 とりわけ課題が大きいのが製品在庫だ。
連 結棚卸資産の推移を「原材料」「仕掛品」「製 商品」と内容別に見てみると、「製商品」の 削減スピードが遅れ気味であることが分かる。
自分たちで意志決定をしやすい上流領域(原 材料・仕掛品)では活動の成果が如実に表れ ているのに対し、市場の動向と顧客の意向に 振り回されがちな下流領域(製品)では苦戦 している。
 さらなる在庫削減を進めるためには、グロ ーバルロジスティクス本部が本社レベルでロジ スティクスに関する全社の事業計画をとりま とめ、組織間の調整役を務めていくことが欠 かせない。
場合によっては、SCM活動で先 行し、今後はカバーする業務領域が重複して いきそうなIT部門との役割分担の見直しも 避けられないかもしれない。
 ロジスティクス部門が果たすべき役割には、 三つのポイントがあると板崎役員は考えてい る。
一つ目は?見える化?だ。
ロジスティク スに関連して誰が、どこに、いくら支払って いるのかを明らかにする。
二つ目がグローバ ルな集中・集約。
そして三つ目は環境対応を 含むコンプライアンスの強化だ。
 「いずれも、われわれロジスティクス部門が リーダーシップを発揮する必要がある」と板 崎役員。
今後の取り組みが注目される。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 全活動を「モノづくり立社」の実現に集中 すべての活動は「商品」として結実 「モノづくり」=商品を生み出すプロセス全体 開発 商品企画・ デザイン設計 調達 製造 品質 マーケティング・ サービス Panasonic 商品 National 商品 スタッフスタッフ 〈00年3月期の対売上比率を100とした推移〉 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 120 110 100 90 80 70 60 50 原材料・仕掛品に遅れをとる製品在庫の削減 製商品 原材料 仕掛品 (月期)

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