2008年10月号
特集
特集
共同物流入門 コラボレーションの最前線
OCTOBER 2008 32
Win─Winはきれいごとか?
取引先を巻き込んだSCMの取り組みにおいては、
「協働( Collaboration)」と、その成果物をお互いが
公平に享受する「WIN─WIN」の考え方が欠かせ
ないとされる。
一方、これらは理想論であって、き れいごとに過ぎないという指摘もある。
確かに、組 織体制や文化の違う会社同士が、どのように透明度 の高い協力関係を構築するのか。
さらには協働によ る成果をどう具体化し、配分するのかという問題は 大きな課題である。
だからこそ、成功したときには簡単に追いつけない 差別化要因となる。
既に欧米の消費財・流通業界で は「ECR(Efficient Consumer Response:効率的 な消費者対応)、「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment:協働による計画立 案・需要予測・補充)」、「カテゴリーマネジメント(商 品カテゴリーを戦略的ビジネス単位として管理してい くこと)」と呼ばれる企業間のビジネスプロセス改革を 通じて、協働やWIN─WINが実現されている。
そして米ウォルマートや英テスコなど、こうした取 り組みに積極的な企業は、厳しい経済環境下でも業 績を持続的に向上させている。
ウォルマートの昨年度 の売上高は約四〇兆円(三七四五億ドル)で、前年 度から八・六%増えた。
テスコの売上高も一〇・九% 増の約一〇兆円(四七三億ポンド)に上っている。
収益性も高い。
ウォルマートの純利益は約一兆四〇 〇〇億円(一二七億ドル)で利益率は三・四%。
テ スコは五六〇〇億円(二八億ポンド)で五・九%であ る。
これだけの事業規模になっても成長を続けながら、 しっかりと利益を確保している。
コスト削減とマーケ ティングの両面における協働がその基盤となっている。
もともとECRをはじめとするビジネスプロセス改 革の目的は「消費者(顧客)価値」という観点から 企業間で協働することで、お互いに無駄な活動を取り 除き、販売管理費を削減しようというものであった。
しかし、今やそのゴールは、需要を活性化させて売上 高と利益を高めることへと移っている。
協働の狙いが ロジスティクスの効率化を経て、需要の創造へとシフ トしているのである。
それに対して日本の消費財業界ではこれまで、一 企業の枠を超えたSCMの取り組みが、ごく例外的に しか行われてこなかった。
メーカー側、流通側の双方 が大手数社によって寡占化されている欧米市場とは 異なり、日本市場は小規模分散を特徴とする。
最大 手のイオングループでさえ、国内の小売市場における シェアは数%に過ぎない。
そのためにSCMの取り組 みに対する投資を回収するだけの取引規模を実現する のが難しいという問題が日本市場にはある。
しかし、それ以上に大きな障壁となっているのが、 伝統的な商慣行の問題だ。
コスト削減の成果配分を可 能にする取引制度を導入しようとしても、歴史的に 出来上がった取引慣行が変革の妨げとなり、結果と してSCMに向けた取り組みを限定的なものとしてし まうのである。
お互いが持っている情報を隠し、売り 手と買い手による交渉ゲームを行う。
そのために、オ ープンな情報共有によって店頭における協働のための スイートスポットを探すことができない。
結果として、 店頭での施策が持続的成長に結びつかずに、Lose ─Loseのゲームとなってしまう。
市場が拡大している時代には、この古いパラダイム も有効だった。
メーカーは店頭の棚や販促陳列のスペ ースを、より多く獲得することで業績を拡大すること ができた。
一方、小売業は、新規出店のスピードが成 コラボレーションの最前線 メーカーと小売業が向こう3年間の市場見通しと経営 目標まで共有する究極のコラボレーションが、欧米市場 で試みられている。
「JAG( Jointly Agreed Growth)」 と呼ばれる。
取引先を巻き込んだSCMの取り組みが、 ロジスティクスの効率化によるコスト削減を経て、売り 上げと利益の最大化にその目標を移している。
第6部 楢村文信 P&Gジャパン 営業統括本部 33 OCTOBER 2008 特集共同物流入門 長の鍵であった。
サプライチェーンの無駄をなくすこ とよりも、店舗展開を急ぐほうが先決であった。
しかし環境は様変わりした。
国内人口は減少に向 かい、市場規模の拡大はもはや期待できない。
店舗 数も既に飽和状態にある。
これまで通りのやり方で生 き残れるはずはない。
欧米でもECRの取り組みは、一九九〇年代初頭 に市場が成熟化し高成長が見込めなくなったことがき っかけだった。
当時の欧米企業は市場規模の伸びが 鈍化して売上拡大が難しくなる一方、需要が多様化・ 複雑化したことでマーケティングのためのコストが増 大し、利益を圧迫されていた。
そこで、まずマーケティングの「BPR(ビジネス・ プロセス・リエンジニアリング)」を行い、消費者に価 値をもたらさない活動を止めて、効率性を高めよう と考えた。
そのために業界団体を設立し、ECRの 標準モデルを開発。
それを各企業が独自の工夫を加え ながら社内に導入し、取引先へと展開をしていった。
この一連の取り組みで実用化されたのが、「AB C( Activity Based Costing:活動基準原価計算)」 や、トータルEDI、「VMI( Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)」あるいは「C RP(Continuous Replenishment Program:連続自 動補充)」などのロジスティクスの手法である。
効率化から需要の創造へ これによってオペレーションの協働が実現したこと で、協働の対象領域はサプライからデマンドへと広が っていた。
その最初の取り組みがカテゴリーマネジメ ントであった。
小売業とメーカーが協働で商品カテゴ リーを管理することで、サプライチェーン上のギャッ プをなくすのである。
具体的には、小売業のビジネス計画を、「カテゴリ ーキャプテン」と呼ばれるメーカーの担当者が協働し て作成する。
小売業の計画が、そのままメーカーの計 画になる。
つまり小売業とメーカーが情報だけでなく 目標まで共有するのである。
このビジネス計画には小 売業の商圏における消費者動向の理解から、ギャップ 分析によるビジネス機会の発見、そして店頭でのマー チャンダイジングの施策づくりまでが含まれる。
その取り組みは、メーカーの持つ市場データや小売 業の販売データ、さらには小売業が常連客に配布する 「ポイントカード(FSPカード)」などから得られる 顧客別の販売データなどを用いて、その商圏において どれだけのビジネス機会が存在するのかを、カテゴリ ーごとに分析することから始まる。
例えば、ある小売業はその商圏における食品市場 で一五%のシェアを持っている。
しかし炭酸飲料のカ テゴリーでは、十二%のシェアしかない。
この三%の ギャップはなぜ生まれているのか。
そこにビジネス伸 長の機会があるのではないかと目を付ける。
来店客分析によって、その小売業の炭酸飲料のシ ェアが振るわないのは、中心顧客の年齢層が五〇代 と高いためであることがわかった。
その年齢層には 炭酸飲料より健康飲料が好まれる。
実際、健康飲料 のカテゴリーでは、その商圏におけるシェアと同じ一 五%のシェアをとっている。
一方、メーカーの市場データによると、五〇代の消 費者層は毎月平均一〇本の健康飲料を飲んでいる。
し かし、その小売業の顧客は毎月五本しか買っていな い。
これをもう一本増やすことができれば、その小 売業の健康飲料の売り上げは二〇%とアップする。
つまり炭酸飲料のシェアを上げるようとするのでは なく、健康飲料をもう一本多く買ってもらう手段を ECR の協働の進化 効率化 ●トータルEDI ●ABC (活動基準原価計算) ●CRP (連続自動補充) ●データ同期化 需要の活性化需要創造 ●カテゴリーマネジメ ント ●ソリューションセン ター ●コラボレーティブ CRM(カスタマー・ リレーションシッ プ・マネジメント) ●JAG(ジョイント リー・アグリード・ グロース) ●新製品開発・導入 における協働 考える。
そこに期待度の高い成長の機会、一つのスイ ートスポットが存在するわけだ。
ただし、この結果に近視眼的に対応すると販売キャ ンペーンを単発的に打つだけで終わってしまう。
そう した施策を実施する以前に、小売業は現在の中心顧 客層が戦略的に重要であるかを判断しなければなら ない。
その結果、重要であると判断できた場合には、 その客層を取り込んでいくための売り場全体のデザイ ン、カテゴリーごとのスペース配分を検討する。
その後で初めてカテゴリーごとの売上計画を組み立 てることができる。
そこではメーカーがターゲット層 に対して今後どのような製品改良・新製品投入を行 っていくのか、マーチャンダイジングの支援プランは どうなるかといったことが重要な要素になる。
そうし た情報を共有しながら、年間の販売計画や様々な領 域のビジネス計画を、小売業とメーカーとの包括的な 協働によって作成していくわけである。
欧州では、このカテゴリーマネジメントを基盤とし て、消費者にとってより魅力的な新しい売場作りを 実現する「ソリューションセンター」と呼ばれるコン セプトや、ポイントカードなどを活用した「CRM (Customer Relationship Management:顧客関係性 管理)」などの手法が開発された。
そして小売業とメ ーカーによる協働を前提としたこれらの取り組みがモ デル化、テンプレート化され、瞬く間に普及していっ たのである。
さらに最近では、単年度の計画だけでなく、中長期 の市場見通しやビジネス計画まで小売業とメーカーが 協働して作成する「JAG(Jointly Agreed Growth)」 という取り組みが、業界団体のECRヨーロッパをベ ースに進められている。
向こう三年間の成長戦略を共 有し、それによってより多くのイノベーション(主に は新製品開発)を成功させることで需要創造を行お うとする試みである。
協働が確実な成長を可能にする なぜ欧米市場では、このように深いレベルの協働が 進んだのであろうか。
理由の一つは、協働というア プローチが、今日の経営者が直面する課題の解決策と して極めて有効であると考えられているためだ。
最近の証券レポートには「上ぶれリスク」という言 葉が出てくる。
売り上げが予想よりも高くなることが リスクとして認識されているのである。
新製品の投入 にも確実性が求められている。
新製品の失敗は、投 入した経営資源を無駄にする。
新製品の成功率を高 め、ヒットする製品に経営資源を集中することで、成 功を確実なものとしなければならない。
もちろん、短 期的な視点だけでなく、中長期的な観点からの投資 も考えなくてはならない。
将来の糧となるビジネスの 育成である。
今日の経営者に求められているのは持続的成長だ。
単に売り上げを拡大し、利益を生み出せば良いという ことではない。
経営資源に応じた売り上げと利益が 結果として求められると同時に、業績予想の精度ま で問われるようになっているのである。
それでは今日の市場環境の中で、どうすれば成長 の可能性を確実にものにすることができるのであろ うか──そこに協働を行う意味が存在する。
協働を 行うことによって、取引相手のビジネス計画を理解し、 自社の計画との整合性を高める。
そして計画実行を 確かなものとすることで、ビジネスの不確定要素を減 らすのである。
消費財業界にあっては小売業もメーカーも、売り上 げは結局のところ店頭で決まる。
メーカーの売り上げ OCTOBER 2008 34 カテゴリーマネジメントの協働プロセス 4つのステージ 小売業の 戦略 実 施 カテゴリー 計画立案 評 価 カテゴリーの定義 カテゴリーの役割 カテゴリーの評価 評価指標の規定 /目標設定 カテゴリーの戦略 戦 術 売場レイアウト 販売促進 価 格 品揃え 8ステップ 特集共同物流入門 は自社の製品がどれだけ店頭に並び、どういう売り方 ができるのかにかかっている。
そのため本来であれば 取引先の各小売業の売上見込みの積み上げが、メー カーの総売上見込みにならなければおかしい。
一方、各小売業の売り上げは、顧客がどれだけ来 店して、どの商品をどれだけ買ってくれるのかで決ま る。
それは販売機会に対してメーカーがどういった新 製品を投入してくるのか、どのような販促プランを提 供してくれるのかによって左右される。
つまりメーカ ーと小売業は相互依存の関係にある。
従って、バリューチェーンという視点から、メーカ ーと小売業の人材や経費などの経営資源のすべてを、 その起点である店頭販売の実現に紐づけることで最適 配分は実現するのである。
具体的には小売業のトータルの売上目標を構成する 数字を、店舗のカテゴリーレベルまでブレークダウンす ることで、小売業のバイヤーとメーカーの営業が力を 合わせて達成すべき目標が見えてくる。
さらに、その 目標を実現するアクションを紐解いていくことで、ど こで協働すべきかが明確になってくる。
この現場レベルのミクロな売り上げの積み上げが、 小売業とメーカーの共通目標となる。
そして上から与 えられた目標と、下から積み上げであがった数字が一 致したときに実行可能性の高い経営目標ができあが る。
このように取引先同士で目標の整合性を取るこ とで、需要創造のスイートスポットが見えてくる。
理 想論に過ぎないとの声もある協働やWin─Winが 具体性を持ってくるのである。
日本企業における協働の進め方 このような協働を実現するには、「バランスド・ス コアカード」などをはじめとする指標に基づく経営管 理が不可欠となる。
ポイントは売り上げや利益といっ た大きな目標とは別に、そこに至るための戦術的な目 標を持つことである。
協働が常に成功するとは限らな い。
結果が出なかったときに、どこに問題があったの かを確認するポイントがなければ、協働など止めてし まおうということになりかねない。
具体的にはバランスド・スコアカードの四つの視点、 「財務」「顧客」「プロセス(オペレーション)」「組織 の成長」のうち、結果を示す「財務」以外の三つの 視点を活かすのである。
「顧客」「プロセス(オペレー ション)」「組織の成長」のそれぞれに、目標とする 結果を実現する上で鍵となる管理指標が存在する。
顧客であれば、「来店頻度」、「購入頻度」、「ロイヤ ルティの高さ」などが指標になる。
プロセスは、業務 が機能しているか、例えば新製品を店頭に並べるま でに何日かかるか、キャンペーンの展開を何日以内に 全店で遂行できるか、といった指標を設ける。
これら の指標が取り組みの道標となる。
こうした戦術目標が明確に定められていないとい うことは、ゴールへの道筋に数多くのブラックボック スが存在するということである。
曖昧さを残し、日 本特殊論を振りかざして、とにかく一緒に頑張ると いった精神論に頼った協働は長続きしない。
結果が出 なければ、本来の売り手と買い手という力関係によっ て、立場の弱い方に責任転嫁されてしまう。
戦術レベルの目標を明確にすることで、持続的な取 り組みが可能になる。
戦術的な目標が達成できてい るのに結果が出ていないのであれば、戦術目標の是 非、もしくは見落としている戦術目標がないかを確 認することで改善策に結びつけることができる。
目 標が達成できなかった場合でも、やり方を変えて根気 強く一緒に頑張ることができるのである。
35 OCTOBER 2008 ならむら・ふみのぶ 1989年神戸大学卒業後P&G入社。
IT、営業、広報部門において、B2B e-ビ ジネス、SCM、カテゴリーマネジメント、 流通政策、業務変革に携わる。
また学習 院大学経済経営研究所において客員研究 員(2000年)として産業構造問題の研 究に取り組む一方、様々な業界団体の委 員会に参加するなど内外で幅広く活動。
PROFILE 相互依存にあるメーカーと小売の売上 客 数 買上率 買上額 棚スペースの獲得 チラシや山積み 店での取り扱い 小売業 部門売上 メーカー売上 × シェア= メーカー売上 市場のパイが伸びている時 代は、メーカーは小売にお ける自社の比率を高めれば 良かった。
市場のパイが伸びなくなる と、協働して小売業の売上 を伸ばさなければ、自社の 売上も増えない。
一方、これらは理想論であって、き れいごとに過ぎないという指摘もある。
確かに、組 織体制や文化の違う会社同士が、どのように透明度 の高い協力関係を構築するのか。
さらには協働によ る成果をどう具体化し、配分するのかという問題は 大きな課題である。
だからこそ、成功したときには簡単に追いつけない 差別化要因となる。
既に欧米の消費財・流通業界で は「ECR(Efficient Consumer Response:効率的 な消費者対応)、「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment:協働による計画立 案・需要予測・補充)」、「カテゴリーマネジメント(商 品カテゴリーを戦略的ビジネス単位として管理してい くこと)」と呼ばれる企業間のビジネスプロセス改革を 通じて、協働やWIN─WINが実現されている。
そして米ウォルマートや英テスコなど、こうした取 り組みに積極的な企業は、厳しい経済環境下でも業 績を持続的に向上させている。
ウォルマートの昨年度 の売上高は約四〇兆円(三七四五億ドル)で、前年 度から八・六%増えた。
テスコの売上高も一〇・九% 増の約一〇兆円(四七三億ポンド)に上っている。
収益性も高い。
ウォルマートの純利益は約一兆四〇 〇〇億円(一二七億ドル)で利益率は三・四%。
テ スコは五六〇〇億円(二八億ポンド)で五・九%であ る。
これだけの事業規模になっても成長を続けながら、 しっかりと利益を確保している。
コスト削減とマーケ ティングの両面における協働がその基盤となっている。
もともとECRをはじめとするビジネスプロセス改 革の目的は「消費者(顧客)価値」という観点から 企業間で協働することで、お互いに無駄な活動を取り 除き、販売管理費を削減しようというものであった。
しかし、今やそのゴールは、需要を活性化させて売上 高と利益を高めることへと移っている。
協働の狙いが ロジスティクスの効率化を経て、需要の創造へとシフ トしているのである。
それに対して日本の消費財業界ではこれまで、一 企業の枠を超えたSCMの取り組みが、ごく例外的に しか行われてこなかった。
メーカー側、流通側の双方 が大手数社によって寡占化されている欧米市場とは 異なり、日本市場は小規模分散を特徴とする。
最大 手のイオングループでさえ、国内の小売市場における シェアは数%に過ぎない。
そのためにSCMの取り組 みに対する投資を回収するだけの取引規模を実現する のが難しいという問題が日本市場にはある。
しかし、それ以上に大きな障壁となっているのが、 伝統的な商慣行の問題だ。
コスト削減の成果配分を可 能にする取引制度を導入しようとしても、歴史的に 出来上がった取引慣行が変革の妨げとなり、結果と してSCMに向けた取り組みを限定的なものとしてし まうのである。
お互いが持っている情報を隠し、売り 手と買い手による交渉ゲームを行う。
そのために、オ ープンな情報共有によって店頭における協働のための スイートスポットを探すことができない。
結果として、 店頭での施策が持続的成長に結びつかずに、Lose ─Loseのゲームとなってしまう。
市場が拡大している時代には、この古いパラダイム も有効だった。
メーカーは店頭の棚や販促陳列のスペ ースを、より多く獲得することで業績を拡大すること ができた。
一方、小売業は、新規出店のスピードが成 コラボレーションの最前線 メーカーと小売業が向こう3年間の市場見通しと経営 目標まで共有する究極のコラボレーションが、欧米市場 で試みられている。
「JAG( Jointly Agreed Growth)」 と呼ばれる。
取引先を巻き込んだSCMの取り組みが、 ロジスティクスの効率化によるコスト削減を経て、売り 上げと利益の最大化にその目標を移している。
第6部 楢村文信 P&Gジャパン 営業統括本部 33 OCTOBER 2008 特集共同物流入門 長の鍵であった。
サプライチェーンの無駄をなくすこ とよりも、店舗展開を急ぐほうが先決であった。
しかし環境は様変わりした。
国内人口は減少に向 かい、市場規模の拡大はもはや期待できない。
店舗 数も既に飽和状態にある。
これまで通りのやり方で生 き残れるはずはない。
欧米でもECRの取り組みは、一九九〇年代初頭 に市場が成熟化し高成長が見込めなくなったことがき っかけだった。
当時の欧米企業は市場規模の伸びが 鈍化して売上拡大が難しくなる一方、需要が多様化・ 複雑化したことでマーケティングのためのコストが増 大し、利益を圧迫されていた。
そこで、まずマーケティングの「BPR(ビジネス・ プロセス・リエンジニアリング)」を行い、消費者に価 値をもたらさない活動を止めて、効率性を高めよう と考えた。
そのために業界団体を設立し、ECRの 標準モデルを開発。
それを各企業が独自の工夫を加え ながら社内に導入し、取引先へと展開をしていった。
この一連の取り組みで実用化されたのが、「AB C( Activity Based Costing:活動基準原価計算)」 や、トータルEDI、「VMI( Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)」あるいは「C RP(Continuous Replenishment Program:連続自 動補充)」などのロジスティクスの手法である。
効率化から需要の創造へ これによってオペレーションの協働が実現したこと で、協働の対象領域はサプライからデマンドへと広が っていた。
その最初の取り組みがカテゴリーマネジメ ントであった。
小売業とメーカーが協働で商品カテゴ リーを管理することで、サプライチェーン上のギャッ プをなくすのである。
具体的には、小売業のビジネス計画を、「カテゴリ ーキャプテン」と呼ばれるメーカーの担当者が協働し て作成する。
小売業の計画が、そのままメーカーの計 画になる。
つまり小売業とメーカーが情報だけでなく 目標まで共有するのである。
このビジネス計画には小 売業の商圏における消費者動向の理解から、ギャップ 分析によるビジネス機会の発見、そして店頭でのマー チャンダイジングの施策づくりまでが含まれる。
その取り組みは、メーカーの持つ市場データや小売 業の販売データ、さらには小売業が常連客に配布する 「ポイントカード(FSPカード)」などから得られる 顧客別の販売データなどを用いて、その商圏において どれだけのビジネス機会が存在するのかを、カテゴリ ーごとに分析することから始まる。
例えば、ある小売業はその商圏における食品市場 で一五%のシェアを持っている。
しかし炭酸飲料のカ テゴリーでは、十二%のシェアしかない。
この三%の ギャップはなぜ生まれているのか。
そこにビジネス伸 長の機会があるのではないかと目を付ける。
来店客分析によって、その小売業の炭酸飲料のシ ェアが振るわないのは、中心顧客の年齢層が五〇代 と高いためであることがわかった。
その年齢層には 炭酸飲料より健康飲料が好まれる。
実際、健康飲料 のカテゴリーでは、その商圏におけるシェアと同じ一 五%のシェアをとっている。
一方、メーカーの市場データによると、五〇代の消 費者層は毎月平均一〇本の健康飲料を飲んでいる。
し かし、その小売業の顧客は毎月五本しか買っていな い。
これをもう一本増やすことができれば、その小 売業の健康飲料の売り上げは二〇%とアップする。
つまり炭酸飲料のシェアを上げるようとするのでは なく、健康飲料をもう一本多く買ってもらう手段を ECR の協働の進化 効率化 ●トータルEDI ●ABC (活動基準原価計算) ●CRP (連続自動補充) ●データ同期化 需要の活性化需要創造 ●カテゴリーマネジメ ント ●ソリューションセン ター ●コラボレーティブ CRM(カスタマー・ リレーションシッ プ・マネジメント) ●JAG(ジョイント リー・アグリード・ グロース) ●新製品開発・導入 における協働 考える。
そこに期待度の高い成長の機会、一つのスイ ートスポットが存在するわけだ。
ただし、この結果に近視眼的に対応すると販売キャ ンペーンを単発的に打つだけで終わってしまう。
そう した施策を実施する以前に、小売業は現在の中心顧 客層が戦略的に重要であるかを判断しなければなら ない。
その結果、重要であると判断できた場合には、 その客層を取り込んでいくための売り場全体のデザイ ン、カテゴリーごとのスペース配分を検討する。
その後で初めてカテゴリーごとの売上計画を組み立 てることができる。
そこではメーカーがターゲット層 に対して今後どのような製品改良・新製品投入を行 っていくのか、マーチャンダイジングの支援プランは どうなるかといったことが重要な要素になる。
そうし た情報を共有しながら、年間の販売計画や様々な領 域のビジネス計画を、小売業とメーカーとの包括的な 協働によって作成していくわけである。
欧州では、このカテゴリーマネジメントを基盤とし て、消費者にとってより魅力的な新しい売場作りを 実現する「ソリューションセンター」と呼ばれるコン セプトや、ポイントカードなどを活用した「CRM (Customer Relationship Management:顧客関係性 管理)」などの手法が開発された。
そして小売業とメ ーカーによる協働を前提としたこれらの取り組みがモ デル化、テンプレート化され、瞬く間に普及していっ たのである。
さらに最近では、単年度の計画だけでなく、中長期 の市場見通しやビジネス計画まで小売業とメーカーが 協働して作成する「JAG(Jointly Agreed Growth)」 という取り組みが、業界団体のECRヨーロッパをベ ースに進められている。
向こう三年間の成長戦略を共 有し、それによってより多くのイノベーション(主に は新製品開発)を成功させることで需要創造を行お うとする試みである。
協働が確実な成長を可能にする なぜ欧米市場では、このように深いレベルの協働が 進んだのであろうか。
理由の一つは、協働というア プローチが、今日の経営者が直面する課題の解決策と して極めて有効であると考えられているためだ。
最近の証券レポートには「上ぶれリスク」という言 葉が出てくる。
売り上げが予想よりも高くなることが リスクとして認識されているのである。
新製品の投入 にも確実性が求められている。
新製品の失敗は、投 入した経営資源を無駄にする。
新製品の成功率を高 め、ヒットする製品に経営資源を集中することで、成 功を確実なものとしなければならない。
もちろん、短 期的な視点だけでなく、中長期的な観点からの投資 も考えなくてはならない。
将来の糧となるビジネスの 育成である。
今日の経営者に求められているのは持続的成長だ。
単に売り上げを拡大し、利益を生み出せば良いという ことではない。
経営資源に応じた売り上げと利益が 結果として求められると同時に、業績予想の精度ま で問われるようになっているのである。
それでは今日の市場環境の中で、どうすれば成長 の可能性を確実にものにすることができるのであろ うか──そこに協働を行う意味が存在する。
協働を 行うことによって、取引相手のビジネス計画を理解し、 自社の計画との整合性を高める。
そして計画実行を 確かなものとすることで、ビジネスの不確定要素を減 らすのである。
消費財業界にあっては小売業もメーカーも、売り上 げは結局のところ店頭で決まる。
メーカーの売り上げ OCTOBER 2008 34 カテゴリーマネジメントの協働プロセス 4つのステージ 小売業の 戦略 実 施 カテゴリー 計画立案 評 価 カテゴリーの定義 カテゴリーの役割 カテゴリーの評価 評価指標の規定 /目標設定 カテゴリーの戦略 戦 術 売場レイアウト 販売促進 価 格 品揃え 8ステップ 特集共同物流入門 は自社の製品がどれだけ店頭に並び、どういう売り方 ができるのかにかかっている。
そのため本来であれば 取引先の各小売業の売上見込みの積み上げが、メー カーの総売上見込みにならなければおかしい。
一方、各小売業の売り上げは、顧客がどれだけ来 店して、どの商品をどれだけ買ってくれるのかで決ま る。
それは販売機会に対してメーカーがどういった新 製品を投入してくるのか、どのような販促プランを提 供してくれるのかによって左右される。
つまりメーカ ーと小売業は相互依存の関係にある。
従って、バリューチェーンという視点から、メーカ ーと小売業の人材や経費などの経営資源のすべてを、 その起点である店頭販売の実現に紐づけることで最適 配分は実現するのである。
具体的には小売業のトータルの売上目標を構成する 数字を、店舗のカテゴリーレベルまでブレークダウンす ることで、小売業のバイヤーとメーカーの営業が力を 合わせて達成すべき目標が見えてくる。
さらに、その 目標を実現するアクションを紐解いていくことで、ど こで協働すべきかが明確になってくる。
この現場レベルのミクロな売り上げの積み上げが、 小売業とメーカーの共通目標となる。
そして上から与 えられた目標と、下から積み上げであがった数字が一 致したときに実行可能性の高い経営目標ができあが る。
このように取引先同士で目標の整合性を取るこ とで、需要創造のスイートスポットが見えてくる。
理 想論に過ぎないとの声もある協働やWin─Winが 具体性を持ってくるのである。
日本企業における協働の進め方 このような協働を実現するには、「バランスド・ス コアカード」などをはじめとする指標に基づく経営管 理が不可欠となる。
ポイントは売り上げや利益といっ た大きな目標とは別に、そこに至るための戦術的な目 標を持つことである。
協働が常に成功するとは限らな い。
結果が出なかったときに、どこに問題があったの かを確認するポイントがなければ、協働など止めてし まおうということになりかねない。
具体的にはバランスド・スコアカードの四つの視点、 「財務」「顧客」「プロセス(オペレーション)」「組織 の成長」のうち、結果を示す「財務」以外の三つの 視点を活かすのである。
「顧客」「プロセス(オペレー ション)」「組織の成長」のそれぞれに、目標とする 結果を実現する上で鍵となる管理指標が存在する。
顧客であれば、「来店頻度」、「購入頻度」、「ロイヤ ルティの高さ」などが指標になる。
プロセスは、業務 が機能しているか、例えば新製品を店頭に並べるま でに何日かかるか、キャンペーンの展開を何日以内に 全店で遂行できるか、といった指標を設ける。
これら の指標が取り組みの道標となる。
こうした戦術目標が明確に定められていないとい うことは、ゴールへの道筋に数多くのブラックボック スが存在するということである。
曖昧さを残し、日 本特殊論を振りかざして、とにかく一緒に頑張ると いった精神論に頼った協働は長続きしない。
結果が出 なければ、本来の売り手と買い手という力関係によっ て、立場の弱い方に責任転嫁されてしまう。
戦術レベルの目標を明確にすることで、持続的な取 り組みが可能になる。
戦術的な目標が達成できてい るのに結果が出ていないのであれば、戦術目標の是 非、もしくは見落としている戦術目標がないかを確 認することで改善策に結びつけることができる。
目 標が達成できなかった場合でも、やり方を変えて根気 強く一緒に頑張ることができるのである。
35 OCTOBER 2008 ならむら・ふみのぶ 1989年神戸大学卒業後P&G入社。
IT、営業、広報部門において、B2B e-ビ ジネス、SCM、カテゴリーマネジメント、 流通政策、業務変革に携わる。
また学習 院大学経済経営研究所において客員研究 員(2000年)として産業構造問題の研 究に取り組む一方、様々な業界団体の委 員会に参加するなど内外で幅広く活動。
PROFILE 相互依存にあるメーカーと小売の売上 客 数 買上率 買上額 棚スペースの獲得 チラシや山積み 店での取り扱い 小売業 部門売上 メーカー売上 × シェア= メーカー売上 市場のパイが伸びている時 代は、メーカーは小売にお ける自社の比率を高めれば 良かった。
市場のパイが伸びなくなる と、協働して小売業の売上 を伸ばさなければ、自社の 売上も増えない。
