2008年11月号
SOLE

国防総省のアウトソーシングの内実

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics NOVEMBER 2008  78  三日間の会議のメーン・テーマは 「ロジスティクスの変革とグローバ ル・エコノミー」である。
昨年度は 「ロジスティクス:任務成功へのかな め石」をメーン・テーマとして、初 日は「国防ロジスティクス」、二日目 は「宇宙空間ロジスティクス」、三日 目は「人道主義と災害救難」と、各 日ごとにテーマが割り当てられてい た。
今年も企画段階では初日は「イ ンフラストラクチャ」、二日目は「プ ロセス&プロダクト」、三日目は「テ クノロジー」が設定されていたもの の、実際の内容をみるとさまざまな 課題が盛り込まれている(図1)。
 ネムファコス(C.P.Nemfakos)大 会実行委員長からは、開会挨拶で 「環境の変化に伴いSOLEも変革 期を迎えており、新たな基盤作りに 向けた試行錯誤を行っている」との 発言があった。
現在は軍・民といっ た区別はやめて、新たな枠組みを模 索している段階とのことである。
そ うした混沌状態が、今回のプログラ ムのわかりにくさに影響しているの ではないだろうか。
米オーランドの年次総会報告(前編) 国防総省のアウトソーシングの内実  SOLE日本支部では八月度の 月例フォーラムは休会とし、八月一 九日から二一日に米国フロリダ州オ ーランドで開催された総会「SOL E2008」へ代表を派遣した。
今 回のメーン・テーマは「ロジスティ クスの変革とグローバル・エコノミ ー」。
米国防総省( Department of Defense:DoD)を筆頭に、産・ 官・学の要人が出席した。
今号では 会議の前半の概要を紹介する。
(日本ロジスティクス研究所・上村 聖執行役員) 総会概況  総会は毎年八月にSOLE本部 のある米国で開催される。
今年の 開催地となったオーランドはフロリ ダ半島の中心部に位置し、ディズニ ー・ワールドやユニバーサル・スタ ジオ等のテーマパークが集まるリゾ ート地である。
前年に引き続き、総 会期間中はハリケーンの襲来により 天候が大荒れだったため、残念なが らフロリダの燦々と輝く太陽を拝む ことはできなかった。
 会場のカリブ・ロイヤル(Caribe Royale)ホテルは大きなプールを囲 んで複数の宿泊施設が配置されてお り、リゾート気分満点だ。
会議はコ ンベンション棟の大半を使用して行 われ、参加総数は例年通り三百人 程度。
国際会議としては規模は大き くはない半面、顔なじみも多く家庭 的な雰囲気に包まれての会議だった。
参加者のほとんどは米国内からであ り、日本支部から来た我々三人、中 国、香港、台湾、韓国、シンガポ ールからのアジア勢は、ここでは相 当のマイノリティである。
 協賛社にはロッキード・マーチン、 FSL(Full Spectrum Logistics)、 ゼネラル・ダイナミクス社など、主 に米軍、NASAに関係のある企業 が名を連ねている。
参加者の所属は 産・官・学と幅広いが、やはりDo Dからの参加者の存在感が大きい。
基調講演 プレナリー セッション パネル ディスカッションI パネル ディスカッションII 図1 全体会議のテーマ Track 1 1日目 「インフラストラクチャ」 2日目 「プロセス&プロダクト」 3日目 「テクノロジー」 Track 2 Track 3 Track 4 図2 1日目のペーパーセッション ロジスティクス変革 と弾力性のある経営 ロジスティクス変革 と知識のある顧客 DoD における適 応性のあるシス テム設計の考え 方 (官民・各軍)共 同最適戦略によ るシステム統合 の実現 プロジェクトマ ネジメントのた めの視覚的管理 ツールの紹介 日本における地 震災害対策とロ ジスティクス(日 本支部:宝崎) PBLをベースと した企業と政府 間の取引環境整 備 PKO等のオペ レーションへの 女性兵士の参画 のために 顧客価値とコス トによる設計・ 生産・支援の最 適バランス サプライチェー ンの危機管理に 関する新法への 対応について 軍におけるシス テム統合とERP の導入 バランス・スコ アカード導入効 果の測定につい て 3PL倉庫にお ける収益管理お よびスペース配 分について インフラ投資とロジ スティクス変革 ロジスティクス変革 のグローバルな側面 ロジスティクス変革 を加速するグローバ ル経済のトレンド インフラのハードウ エアとグローバル経 済 ロジスティクス変革 を遂行するためのた ゆまぬプロセス改善 ロジスティクス技術 の革新的発展 組織インフラとグ ローバル経済 ロジスティクス変革 に不可欠な人的資源 開発 世界経済を支えるロ ジスティクス 79  NOVEMBER 2008 ンの整備が企業の競争上の優位につ ながるという。
平時はいうまでもな く、有事に対していかに対応するか までも、現在の市場で勝ち残ってい くためには要求されるのだ。
 教授ははじめに、企業に混乱を与 える例としてフィリップスやアイシ ン精機の工場火災、台湾や日本の地 震、9・11のテロなどを挙げ、企 業が適切に対応するための分類につ いて次の枠組みを提示した。
●発生可能性が高いか、低いか ●発生した場合の被害が甚大か、軽 微か  さらに、金融、戦略、ハザード、 オペレーションの四つに脆弱性を分 類することで、対応の優先順位をつ けることが重要だと説いていた。
 混乱発生の可能性を抑えるのは非 常に困難である。
残念ながら、早期 発見とセキュリティ対策の地道な推 進くらいしかない。
そこで、発生し てしまった災害による損害を、競合 他社に比べいかに素早く回復させる かがポイントとなる。
キーワードは 「冗長性(Redundancy)」と「柔軟 性(Flexibility)」だ。
冗長性につい ては、情報システムの構成、データ ベースのバックアップ、生産ライン の余力などが挙げられる。
システム  会議では前述した三つのテーマを 柱に、基調演説やプレナリーセッシ ョン(全体講演)、パネルディスカ ッション、ペーパーセッションなど が行われる。
午前中は基調演説とプ レナリーセッションに続き、最初の パネルディスカッション。
午後から は二つめのパネルディスカッション、 その後にペーパーセッションが行わ れた。
ペーパーセッションは同時並 行で四トラックが実施され、各々三 〜四つの発表から構成されるトラッ titive Advantage(ロジスティクス変 革と弾力性のある経営)」  今年のプログラムはMIT(マサ チューセッツ工科大学)のシェフィ (Yossi Sheffi)教授の講演からスタ ートした。
ロジスティクス教育の発 展に貢献した功労者であり、二〇〇 八年度の「SOLE Eccles Medal」 を受賞されている。
 シェフィ教授によると、ありとあ らゆる災害、事故などの混乱に対し、 弾力的に対応できるサプライチェー クのいずれかを、自分の興味に合わ せて聴くことになる。
ペーパーセッ ションでの発表は主として講演者の 興味に基づく研究、紹介であるから 内容は多彩である(図2) 。
 本稿では二日目の午前中までのプ ログラムの中から、いくつかを選ん で要点を紹介する。
第一日目 基調講演 「The Resilient Enterprise : Over coming Vulnerability for Compe トピックス日本から初の情報発信 2 日目の発表の様子  今回は日本支部初の試みとして、プレゼンテーションを行った。
例年は主に情報収集のために総会へ参加していたが、昨年、本部 から情報発信の要請を受けていた。
そこで、各日に設定されたサブ・ テーマに合わせ、以下の3 本のプレゼンテーションを実施した。
■1日目テーマ「インフラストラクチャ」 「日本における地震災害対策とロジスティクス」 宝崎隆祐 防衛大学校 教授 ■2日目テーマ「プロセス&プロダクト」 「日本のSPA企業におけるグローバル・ロジスティクスの考察」 上村 聖 日本ロジスティクス研究所 執行役員 ■3日目テーマ「テクノロジー」 「グローバル・リアルタイムモニタリングシステム」 瀬良光弘 SOLE日本支部 幹事  初日の開会挨拶では、ネムファコス委員長から、日本からの情 報発信についてお礼の言葉を頂いた。
また、いずれのプレゼンテー ションでも複数の質問を頂き、活発な質疑応答が行われるなど会 場の反応は上々であった。
英語でのプレゼン準備は大変だが、来 年以降も是非、こうした双方向でのコミュニケーションを続けてい きたいものである。
NOVEMBER 2008  80 ーシング業者との契約の不自然さを スクープした後、上院委員会で調査 を受けたことが発端となり、疑惑が 露見したようだ。
 過去一〇年の間、軍と民間とのバ ランスはあまりうまくいっていない という。
その結果としての?Perfect Storm?の要因は次の通り。
●縮小している連邦の労働力と経験 者の引退 ●アウトソーシング化の流れの拡大 と、競争入札外での契約増大 ●増加した業務量 ●監視機関の不足  コストの増大だけでなく、安全面 三%はアポロ時代のもののため、せ っかくERPを導入しても、昔のデ ータベースに蓄積された知識を必ず しも活用できない、という問題ある ようだ。
予算が充分ではない中、あ と二年間スペースシャトルを完璧に 運航しなければならない、という難 しい状況のようである。
第二日目 基調講演 「Transformation and The Know ledge Customer(ロジスティクス変 革と知識のある顧客)」  米軍の元人事担当次官、ロスト カー博士(Dr.Bernard D. Rostker) が、軍のアウトソーシングに関する 問題点(官民の癒着)を赤裸々に 告白した。
かなり際どい内容だった。
会場の緊張した空気から、どこまで 話してしまうのか、関係者がヒヤヒ ヤしながら聞いていた様子が窺えた。
博士は現在の状況を?Perfect Storm (起こるべくして起こった嵐)?と表 現。
多くの国で類似の問題(汚職疑 惑)が発生しているようだが、米国 も例外でないようだった。
 一般のビジネスに置き換えて考え てみても、コストが上がったのに対 して業務の質が下がってしまっては、 何のためにアウトソーシングしてい るのかわからなくなってしまう。
ワ シントン・ポストが政府とアウトソ ラ投資とロジスティクス変革)」  司会をネムファコス委員長が務め、 官民のパネリストがディスカッション を行った。
民間からは、エアートラ ン社から、他社との部品の共同調達 の仕組みについて事例紹介があった。
また、航空機整備は政府の規則に則 って行われるため、政権が変われば 全く異なるロジスティクスの仕組みを 構築しなくてはならない、というリ スクも問題として提起された。
 官側からは米国緊急事態管理庁 ( Federal Emergency Management Agency of the United States:FE MA)からパネリストが参加した。
政治が変わればロジスティクスも変 わるのは、官にも当てはまる。
現在 は全国の各組織の異なったシステム をいかに上手く機能させるかが課題 となっており、そのためにはプロバ イダーではなく、コーディネーター にならなくてはならない、とのこと であった。
ハリケーン「カトリーナ」 以来、FEMAは厳しい批判を受け ている。
下部組織は各州の寄せ集め であり、日本同様、縦割り組織の難 しさに直面しているように思われる。
 NASAは二〇一〇年のシャトル プロジェクト終了時には組織が見直 されるため、あと二年を最小限の投 資で上手く乗り切ることが要求され ているという。
現在のインフラの八 の重複などはムダにみえるかもしれ ないが、混乱発生に対応するための ?戦略的なムダ?も必要である、と いうことだろう。
ジョンソン&ジョ ンソン、メリルリンチなどが上手く 対応した企業の例だ。
 柔軟性については、互換性、ス ピード、延期戦略がポイントとなる。
サウスウェスト航空のB737型機 一機種に限定した機材運用や、デル の受注生産モデル等の事例が有名で ある。
さらに、柔軟性のDNAを企 業文化として持つことが重要である。
トヨタ自動車、ザラ(Zara)は、特 にDistributed power(垂直統合と 分業による総合力)に優れている。
 最後に、シェフィ教授は企業が今 後目指すべき方向性を示した。
●サプライチェーンの各プロセスの 見直しに際し、安全面の評価を行 うこと ●競争力を高めるために柔軟性を追 求すること ●マーケットシェアを拡大するため の機会を逃さないこと  の三つである。
第一日目 プレナリーセッション 「Infrastructure Investment and Logistics Transformation(インフ 81  NOVEMBER 2008 での不安も表面化してきている。
D oDであれば働いている全ての人材 のデータベースがあるが、委託業者 ではこうしたデータは整備されてお らず、テロリストが紛れ込むリスク が危惧されている。
 そこで今年成立予定の新法では、 行き過ぎたアウトソーシング化を見 直し、政府にコアとなる一部の機能 を戻すことがうたわれるという。
ロ ストカー博士は「そのためには、政 府内に業者、業務を評価可能な知識 を持つ人材を育成することが不可欠」 と結んだ。
第二日目 プレナリーセッション 「Global Aspects of Logistics Transformation(ロジスティクス変 革のグローバルな側面)」  司会をロッキード・マーチンのク ラッツ( Louis A. Kratz) 副社長 が務め、台湾のチャン少将( Major General Tzyh-Chyang Chang)とロ ッキード・マーチンの英国担当、ボ ウマン博士(Dr. Douglas Bowman) がディスカッションを行った。
クラ ッツ副社長は議論の口火を切るに当 たって、グローバルのロジスティク ス変革のキーワードとして、次の五 つを挙げた。
●入手可能性︵Affordability︶ ●資産管理/可視化︵ Asset Ma nagement /Visibility︶ ●SCM ●迅速で有効な有事支援︵Rapid E ffective Contingency Support︶ ●人材開発︵ Workforce Develop ment︶  台湾は〇三年から、米軍のILS ( Integrated Logistics Support / System)をベースとして軍のインフ ラ整備を進めており、運用する人材 の育成を含めた統合的な推進プログ ラムとなっている。
装備の調達にお いては、グローバルな観点から最適 な発注先を選定している。
 英国ではWFM( Whole Fleet Management)と呼ばれる管理手法 を開発。
コストと効率を管理し、運 用を支援しようとしている。
この手 法の導入により、軍用車のメンテナ ンスコストを年間一六億ポンド削減 可能な見込みという。
 このプレナリーセッションはロス トカー博士の基調講演の直後だった ため、全体的に、受託業者側とし ても軍の目的達成のために努力して いることを必死にアピールしている、 という印象だった。
それでも現在の アウトソーシングの実効性について の疑問は払拭されなかったように思 われた。
 (次号後編につづく) 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは11月13日( 木) 「Bio-RFID指紋認証機能搭載アクティブ RFID =リモート指紋キー」(講師:中井 利光サットンイースト代表取締役)を予定 している。
このフォーラムは年間計画に基 づいて運営しているが、単月のみの参加 も可能。
1回の参加費は6,000円。
ご希 望の方は事務局( sole-j-offi ce@cpost. plala.or.jp)までお問い合わせください。
 物流現場改善を専門とするコンサルティング会社、 日本ロジファクトリーが具体的な事例を披露。
手法の説 明だけでなく、クライアントとのやりとりやコンサルタント の心の動きまで、改善プロジェクトの経過をリアルに描 写。
 本誌2003年1月号から連載の「事例で学ぶ現場改 善」を加筆修正。
「経営のテコ入れは物流改善から」 青木正一 著 (明日香出版社) ¥1,890(税込) 2005年3月発行  白トラの一人親方からスタートして、一代で会社を 一部上場企業にまで成長させたオーナー創業者の 一代記。
笑えます!泣けます!   本誌2003年4月号〜2004年11月号に掲載した 「やらまいか̶̶ハマキョウレックスの運送屋繁盛 記」を加筆修正。
「やらまいか!」 大須賀正孝 著(ダイヤモンド社) ¥1,575(税込) 2005年5月発行 「物流コストを半減せよ!̶Mission」  湯浅和夫 著 (かんき出版) ¥1,575(税込)  2005年2月発行  物流コンサルティング業界のカリスマが小説形式 のノウハウ本に挑戦。
「大先生」と「美人弟子」「体力 弟子」の3人組が、常識破りの物流理論で、クライア ントの課題を次々に解決。
 本誌2002年4月号から連載の「物流コンサル道 場」を単行本化。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから